【実施例】
【0029】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0030】
実施例1(Tl2O3触媒の調製)
純度99.9重量%のTl
2O
3粉末((株)高純度化学研究所製品、平均粒径0.3μm)を用いた。このTl
2O
3粉末をPt坩堝中にて、200〜600℃の各温度で2時間熱処理を行った。
【0031】
実施例2((Tl2O3)35(SiO2)75ガラスの調製)
出発原料として、実施例1で用いたものと同様のTl
2O
3粉末と試薬級のSiO
2粉末((株)和光純薬製)とを用い、バッチ総量を10gとして前記原料を秤量・混合した。蓋付きアルミナ坩堝(ニッカトー(株)製、SSA−S)を用い、電気炉中にて大気雰囲気下1250℃で1時間溶融を行い、得られた融液を鉄板上に流し出し、プレス成形を行うことで試料を作製した。溶融中に一部のTlは蒸発する。得られたガラスの組成分析結果(Tl、Si、Oを分析)したところ、実際の組成はTl(I)
0.297Tl(III)
0.008Si
0.293O
0.895と計算された。その後、ジルコニア乳鉢を用いて粉砕して、平均粒径約10μmの粉末とした。
【0032】
実施例3(LaTlO3セラミックスの調製)
出発原料として、La
2O
3粉末(信越化学(株)製、99.9重量%品)と実施例1で用いたものと同じTl
2O
3粉末を用い、ボールミル中にて湿式混練し、100℃にて乾燥し、アルミナ坩堝(ニッカトー(株)製、SSA−S)を用い、電気炉中にて大気雰囲気下700℃で2時間熱処理を行うことにより、平均粒径1μmのLaTlO
3セラミックス粉末を得た。
【0033】
試験例1
(1)炭素燃焼特性等の測定
実施例で得られた試料を用いて炭素燃焼特性等を調べた。測定項目及び測定方法は、次に示す通りである。
【0034】
(1−1)炭素燃焼特性は、各試料に2〜5重量%の炭素(C、東海カーボン製)を添加し、炭素が燃焼する温度を示差走査熱量分析(DSC)((株)リガク製、DSC8230)にて測定した。測定条件としては、供試量10mg、200mL/分のAir気流中にて室温〜600℃の温度範囲(昇温速度10℃/分)とした。その結果を
図1に示す。
【0035】
(1−2)2重量%のCを添加した未熱処理の試料については、示差熱天秤(TG−DTA)による測定も行った。この測定では、装置として「TG8120」((株)リガク社製)を用いた。Tl
2O
3の高温X線回折(XRD)測定は、装置として「UltimaIV」((株)リガク製)を用い、CuKα線を用いて2θ=20°〜70°、室温〜600℃で行った。また、各熱処理Tl
2O
3試料の比表面積は、装置として「NOVA3200」(Quantachrome社製)を用い、N
2ガス吸着によるBETの3点法で測定した。Tl
2O
3の酸素放出特性の評価を以下のように行った。Tl
2O
3の格子内酸素の挙動を明らかにするため、重酸素(
18O
2)によりTl
2O
3格子内の酸素に予め印を付け、昇温時における格子内酸素の放出挙動をモニターした。まず、Tl
2O
3粉末を
18O
2中に800℃で1時間熱処理を行い、格子内の酸素(
16O
2)を
18O
2に置換した。次に、質量分析計(日本真空(株)製)を用い、Tl
2O
3の昇温に伴う格子内酸素の放出挙動を質量数34でモニターした。測定雰囲気はAr80%−O
220%とし、昇温速度は15℃/分とした。
【0036】
(2)測定結果
(2−1)熱分析(C燃焼特性)
図1に、Tl
2O
3に5重量%の炭素(C)を混合した後にDSC測定を実施した結果を示す。
図1によれば、280℃付近で爆発的なC燃焼に伴う非常にシャープなDSC発熱ピークが観測された。なお、Cのみの場合(点線)は660℃付近でC燃焼によるDSC発熱ピークが観測された。これらの結果から、Tl
2O
3にはC燃焼温度を380℃程度下げる能力があることがわかる。また、この爆発的なC燃焼時の映像を
図2に示す。この条件下での熱分析測定を行った場合、熱分析装置にダメージを与えるおそれがあるため、C添加量を2重量%とし、TG−DTA測定を行った。
図3(a)には、Tl
2O
3に2重量%のCを混合した後にTG−DTA測定を行った結果を示す。350℃付近で混合したCの燃焼に伴う重量減少と発熱がDTA結果に観測される。また、TG結果から、C燃焼に伴う重量減少が200℃付近から始まり、2重量%の重量減少が400℃付近で終了したことが確認される。580℃付近からの重量減少はTl
2O
3の蒸発に伴うものと推測される。
図3(b)には、CのみのTG−DTA測定結果を示すが、DSC測定結果と同様に660℃付近にC燃焼に伴うDTA発熱ピークが観測された、さらにC燃焼に伴う重量減少が500℃付近から始まり、100重量%の重量減少が660℃付近で終了した。
【0037】
(2−2)高温X線回折
図4には、Tl
2O
3の30℃と600℃でのX線回折結果を示す。どちらもTl
2O
3構造(立方晶系(Ia3)、ICDD No.33−1404)を維持していることがわかる。また、
図5には、Tl
2O
3の結晶構造図を示す。Tl原子は2つの異なるサイトを占有し、O原子が1つのサイトを占有している。
図4に示すX線回折結果からは、Tl
2O
3とは異なるもう1つタリウム酸化物Tl(I)
2O(六方晶系、ICDD No.43−1049)の生成は認められなかった。
Tl
2O
3原料粉末について、室温から600℃までと、600℃から室温までの高温X線回折測定を行った。この高温X線回折結果から、各測定温度ではTl
2Oの生成は認められず、Tl
2O
3単一相であった。その測定結果から格子定数(a)変化を計算して、
図6にまとめた。格子定数(a)は、測定温度を上げるに従って大きくなり、測定温度を下げるに従い小さくなっていった。測定温度と格子定数(a)との関係をみると、300℃前後付近でその傾きの変化が認められる。300℃付近では、熱分析結果からTl
2O
3よるC燃焼が促進される温度付近であり、測定温度と格子定数(a)との関係の傾きの変化はTl
2O
3から一部のOの脱離に起因するものでないかと考えられる。
【0038】
(2−3)熱処理温度と形態、表面積及びC燃焼特性との関係
Tl
2O
3と200〜600℃で熱処理したTl
2O
3の走査型電子顕微鏡写真と比表面積を
図7に示す。比表面積測定時には200℃での前処理が必要なため、Tl
2O
3原料粉末の比表面積は示していない。500℃までは徐々にTl
2O
3粒子どうしの焼結反応が進み、600℃で大きな形態変化が認められた。
図8には、200〜600℃で熱処理したTl
2O
3に2重量%の炭素(C)を混合した後のDSC測定結果を示す。
図6で認められた形態と比表面積変化に関係なく、C燃焼に伴うDSC発熱ピークは350℃付近に観測された。このことから、Tl
2O
3のC燃焼特性(酸化触媒特性)はTl
2O
3の形態と比表面積に影響を受けないことがわかる。
【0039】
(2−4)Tl
2O
3の格子内酸素の放出挙動
Tl
2O
3の格子内酸素の放出挙動を明らかにするために、重酸素(
18O
2)によりTl
2O
3の格子内の酸素に予め印を付け、昇温時における格子内酸素の放出挙動をモニターした。昇温とともに大気中に存在する酸素と表面近傍に存在するTl
2O
3の格子内酸素との酸素原子の交換が繰り返し頻繁に起こると考えられる。
図9には、Tl
2O
3の格子内酸素の放出挙動を、縦軸に酸素分圧(酸素分子量:34)、横軸に温度で示した。また、同様に重酸素により予め印を付けたTl
2O
3粉末とCを重量比20対1で混合した後、同様に昇温を行い、C
18O(一酸化炭素)放出挙動をモニターした。C
18O分圧と温度の関係を
図9に併せて示す。Tl
2O
3は、270℃という低温から格子内酸素を放出していることが確認できた。同時に230℃付近から格子内酸素と炭素が結合したC
18Oの生成も、重酸素により予め印を付けたTl
2O
3粉末とCの混合テストから確認された。これは、予めTl
2O
3と混合してあったCが、Tl
2O
3格子内から放出された格子内酸素(活性酸素)のアタックを受け反応し、C
18Oが生成したと判断した。最終的に、Cは二酸化炭素まで酸化されることも確認した。Tl
2O
3は、230℃という低温から格子内の酸素を遊離すること、また格子内から放出された酸素(活性酸素)は230℃という低温からCを直接酸化することが明らかになった。
【0040】
(2−5)タリウム(III)化合物のC燃焼特性(酸化触媒特性)
(Tl
2O
3)
35(SiO
2)
75ガラス粉末及びLaTlO
3セラミックス粉末にCを重量比20対1で混合した後、DSC測定を行った結果を
図10及び
図11にそれぞれ示す。(Tl
2O
3)
35(SiO
2)
75ガラス粉末では360℃付近、LaTlO
3セラミックス粉末では420℃付近にそれぞれC燃焼に伴うDSC発熱ピークが認められ、このようなタリウム(III)化合物においても、Tl
2O
3粉末と同様に高いC燃焼特性(酸化触媒特性)を有する明らかになった。
【0041】
試験例2
Tl
2O
3粉末を担持したアルミナ製セラミックフォームを用いてPM連続浄化特性の評価を行った。PM混合ガスがTl
2O
3粉末を担持したセラミックフォームの細孔内を通り抜けるようにフォームを設置し、セラミックフォームは350℃に維持し、PM混合ガスを40時間供給後、セラミックフォーム上に堆積したPMの状態を観察した。前記のPM混合ガスの組成は、体積比でO
2:7%、NO:50ppm、N
2バランスであり、PM成分としてカーボン棒をアーク放電させて発生した煤を用いた。供給条件としては、前記PM混合ガスをセラミックフォーム(触媒)の体積1mL当たり100L/時間で通過させた。Tl
2O
3粉末担持を施していないセラミックフォーム上には、40時間の試験で100mg程度のPMが堆積しているのに対し、Tl
2O
3粉末を担持したセラミックフォーム上にはPMは認められなかった。これは、セラミックフォーム上に捕獲されたPMがTl
2O
3の触媒効果により酸化が促進し、350℃で連続浄化されたことによるものと考えられる。