(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5877754
(24)【登録日】2016年2月5日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】圧延機の板厚制御方法及び圧延機の板厚制御装置
(51)【国際特許分類】
B21B 37/18 20060101AFI20160223BHJP
【FI】
B21B37/18 120A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-99861(P2012-99861)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-226575(P2013-226575A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2014年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100061745
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康之
(72)【発明者】
【氏名】君島 一也
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−019507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00−38/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延機で圧延される圧延材の板厚をビスラAGC制御により制御する方法であって、
前記ビスラAGC制御における
適正ロックオン荷重を、ゲージメータ式に基づいて算出し、
前記ゲージメータ式に基づいて算出した
適正ロックオン荷重と圧延荷重の実績値とが一致した際に、
前記圧延荷重の実績値を
前記ビスラAGC制御でのロックオン荷重
として設定し、
設定されたロックオン荷重からの圧延荷重の偏差量とミル剛性とを基に、前記圧延機のロールギャップを制御する
ものであって、
前記適正ロックオン荷重を、次式により算出することを特徴とする圧延機の板厚制御方法。
【数1】
【請求項2】
圧延機で圧延される圧延材の板厚をビスラAGC制御により制御する方法であって、
前記ビスラAGC制御における
適正ロックオン荷重を、ゲージメータ式に基づいて算出し、
前記ゲージメータ式に基づいて算出した
適正ロックオン荷重と圧延荷重の実績値とが一致した際に、
前記圧延荷重の実績値を
前記ビスラAGC制御でのロックオン荷重
として設定し、
設定されたロックオン荷重からの圧延荷重の偏差量とミル剛性とを基に、前記圧延機のロールギャップを制御する
ものであって、
前記圧延材の先端部の板厚制御を行うに際しては、前記適正ロックオン荷重を次式により算出することを特徴とする圧延機の板厚制御方法。
【数2】
【請求項3】
圧延機で圧延される圧延材の板厚をビスラAGC制御により制御する板厚制御装置であって、
当該圧延制御装置は、圧延スタンドにおける圧延荷重の偏差量とミル剛性とを基に、各圧延スタンドのロールギャップを制御するビスラAGC制御手段と、
前記圧延荷重の偏差量を算出するために、各圧延スタンドにおけるロックオン荷重を設定するロックオン手段と、を備えており、
前記ロックオン手段は、前記ビスラAGC制御
における適正ロックオン荷重を、ゲージメータ式に基づいて算出し、
前記ゲージメータ式に基づいて算出した
適正ロックオン荷重と圧延荷重の実績値とが一致した際に、
前記圧延荷重の実績値を
前記ビスラAGC制御でのロックオン荷重
として設定するように構成されてい
て、
前記ロックオン手段は、前記適正ロックオン荷重を次式により算出するように構成されていることを特徴とする圧延機の板厚制御装置。
【数3】
【請求項4】
圧延機で圧延される圧延材の板厚をビスラAGC制御により制御する板厚制御装置であって、
当該圧延制御装置は、圧延スタンドにおける圧延荷重の偏差量とミル剛性とを基に、各圧延スタンドのロールギャップを制御するビスラAGC制御手段と、
前記圧延荷重の偏差量を算出するために、各圧延スタンドにおけるロックオン荷重を設定するロックオン手段と、を備えており、
前記ロックオン手段は、前記ビスラAGC制御
における適正ロックオン荷重を、ゲージメータ式に基づいて算出し、
前記ゲージメータ式に基づいて算出した
適正ロックオン荷重と圧延荷重の実績値とが一致した際に、
前記圧延荷重の実績値を
前記ビスラAGC制御でのロックオン荷重
として設定するように構成されてい
て、
前記ロックオン手段は、前記圧延材の先端部の板厚制御を行うに際しては、前記適正ロックオン荷重を次式により算出するように構成されていることを特徴とする圧延機の板厚制御装置。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機で圧延材を圧延する際に用いられる板厚制御方法及び板厚制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧延時に圧延材の板厚を制御する方法として、圧延スタンド出側の板厚偏差を計測して、得られた板厚偏差の実績値に基づいてロールギャップを変化させるモニタAGC制御がある。このモニタAGC制御では、圧延開始直後や圧延速度が大きく変化する状況下での制御が困難になる場合があることが知られている。
斯かる状況に対応可能な技術としては、ビスラAGC制御が知られている。ビスラAGC制御は、例えば、圧延材の板厚が所定値となった時点の圧延荷重をロックオン荷重として記憶し、このロックオン荷重と現在の圧延荷重から得られた荷重偏差を基に板厚偏差を算出し、算出された板厚偏差に基づいて、ロールギャップを変化させる板厚制御技術である。ビスラAGC制御は、ロックオンタイミング時の板厚をキープするといった制御特性を有している。
【0003】
このようなビスラAGC制御は、圧延材の板厚制御に広く利用される技術であり、例えば、特許文献1、特許文献2には、ビスラビスラAGC制御を用いた板厚制御技術が開示されている。
特許文献1は、ゲージメータ板厚式による絶対値制御機能と、ミル延び式によるBISRA制御機能を兼備した自動板厚制御であり、前記絶対値制御がメインループとして働き、前記BISRA制御がマイナーループとして働くようにして、板材を圧延するに際し、前記絶対値制御が働く毎に、前記BISRA制御のロックオン値を修正する自動板厚制御方法を開示する。
【0004】
また、特許文献2は、1又は複数の圧延スタンドを備えた冷間圧延機で圧延される圧延材の板厚を制御する板厚制御装置であって、当該圧延制御装置は、各圧延スタンドにおける圧延荷重の変化量とミル剛性と所定の比例ゲインとを基に、各圧延スタンドのロールギャップを制御するAGC制御部と、前記圧延スタンドの圧延速度に応じて前記比例ゲインを決定するゲイン決定手段と、前記圧延荷重の変化量を算出するために、各圧延スタンドにおけるロックオン荷重を設定するロックオン手段と、を備えており、前記ロックオン手段は、圧延速度が所定速度より低速である又は圧延速度がゼロである場合は、定常圧延速度における圧延荷重をロックオン荷重に設定し、圧延速度が所定速度より高速である場合は、圧延荷重の実績値をロックオン荷重に設定するように構成されている冷間圧延機の板厚制御装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−179317号公報
【特許文献2】特開2011−88172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、特許文献2に開示されたビスラAGC制御を用いることで、ある程度の板厚制御を行えることは実績として確立されつつある。
とはいえ、例えば、鋼材などの冷間圧延時に、確実な板厚制御を行えない状況が発生することが現場の実績から判ってきている。例えば、
図2は、圧延材を圧延した際における先端部の圧延状況を示したものである。図中の破線は、オンゲージの上下限値(公差範囲)を示している。
図2の実線Aに示すように、圧延材の先端部に関して、圧延開始直後に板厚偏差は許容範囲(公差範囲)内に入るものの、すぐ許容範囲以下となり、最終的に許容範囲内に収まるのは圧延距離が例えばX辺りからである。つまり、圧延先端部のXはオフゲージとなり、製品として出荷できないこととなる。
【0007】
このようなオフゲージの原因の一つとして、「板厚偏差が公差範囲外に存在するタイミ
ングでのロックオン」などに代表される「不適切なロックオン荷重の設定」が考えられ、この不適正なロックオン荷重の基でビスラAGC制御を行っていることが挙げられる。
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、適切なロックオン荷重を設定すると共に、設定された適切なロックオン荷重を基にビスラAGC制御を行うことで、確実な板厚制御を行うことができる板厚制御方法及び板厚制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係る冷間圧延機の板厚制御方法は、圧延機で圧延される圧延材の板厚をビスラAGC制御により制御する方法であって、前記ビスラAGC制御における
適正ロックオン荷重を、ゲージメータ式に基づいて算出し、
前記ゲージメータ式に基づいて算出した
適正ロックオン荷重と圧延荷重の実績値とが一致した際に、
前記圧延荷重の実績値を
前記ビスラAGC制御でのロックオン荷重
として設定し、設定されたロックオン荷重からの圧延荷重の偏差量とミル剛性とを基に、前記圧延機のロールギャップを制御する
ものであって、前記適正ロックオン荷重を、次式により算出することを特徴とする。
【0010】
【数1】
【0011】
本発明に係る冷間圧延機の板厚制御方法の他の方法は、圧延機で圧延される圧延材の板厚をビスラAGC制御により制御する方法であって、前記ビスラAGC制御における適正ロックオン荷重を、ゲージメータ式に基づいて算出し、前記ゲージメータ式に基づいて算出した適正ロックオン荷重と圧延荷重の実績値とが一致した際に、前記圧延荷重の実績値を前記ビスラAGC制御でのロックオン荷重として設定し、設定されたロックオン荷重からの圧延荷重の偏差量とミル剛性とを基に、前記圧延機のロールギャップを制御するものであって、前記圧延材の先端部の板厚制御を行うに際しては、前記適正ロックオン荷重を次式により算出する
ことを特徴とする。
【0012】
【数2】
【0013】
また、本発明に係る圧延機の板厚制御装置は、圧延機で圧延される圧延材の板厚をビスラAGC制御により制御する板厚制御装置であって、当該圧延制御装置は、圧延スタンドにおける圧延荷重の偏差量とミル剛性とを基に、各圧延スタンドのロールギャップを制御するビスラAGC制御手段と、前記圧延荷重の偏差量を算出するために、各圧延スタンドにおけるロックオン荷重を設定するロックオン手段と、を備えており、前記ロックオン手段は、前記ビスラAGC制御
における適正ロックオン荷重を、ゲージメータ式に基づいて算出し、
前記ゲージメータ式に基づいて算出した
適正ロックオン荷重と圧延荷重の実績値とが一致した際に、
前記圧延荷重の実績値を
前記ビスラAGC制御でのロックオン荷重
として設定するように構成されてい
て、前記ロックオン手段は、前記適正ロックオン荷重を次式により算出するように構成されていることを特徴とする。
【0015】
【数3】
【0016】
本発明に係る冷間圧延機の板厚制御装置の他の装置は、圧延機で圧延される圧延材の板厚をビスラAGC制御により制御する板厚制御装置であって、当該圧延制御装置は、圧延スタンドにおける圧延荷重の偏差量とミル剛性とを基に、各圧延スタンドのロールギャップを制御するビスラAGC制御手段と、前記圧延荷重の偏差量を算出するために、各圧延スタンドにおけるロックオン荷重を設定するロックオン手段と、を備えており、前記ロックオン手段は、前記ビスラAGC制御における適正ロックオン荷重を、ゲージメータ式に基づいて算出し、前記ゲージメータ式に基づいて算出した適正ロックオン荷重と圧延荷重の実績値とが一致した際に、前記圧延荷重の実績値を前記ビスラAGC制御でのロックオン荷重として設定するように構成されていて、前記ロックオン手段は、前記圧延材の先端部の板厚制御を行うに際しては、前記適正ロックオン荷重を次式により算出するように構成されている
ことを特徴とする。
【0017】
【数4】
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る板厚制御方法及び板厚制御装置によれば、適切なロックオン荷重を設定すると共に、設定された適切なロックオン荷重を基にビスラAGC制御を行うことで、圧延材の確実な板厚制御を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】
従来技術における圧延距離と板厚偏差の関係を示した図である。
【
図3】本発明に係る板厚制御方法を説明するためのフローチャートである。
【
図4】本発明に係る板厚制御方法を用いて圧延を行った実施例を示す図である。
【
図5】圧延距離と板厚偏差との関係にロックオン荷重を設定した点を併記した図であ
る。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る板厚制御方法及び板厚制御装置を、鋼、ステンレス、チタンなどの薄板の冷間リバース圧延を例示して、図を参照しつつ説明する。
図1は、リバース圧延機1を模式的に示したものである。
リバース圧延機1(単に圧延機1と表記することもある)は多段圧延機であり、本実施形態の場合は、上下一対のワークロール2と、一対の中間ロール3及び一対のバックアップロール4とを備えている。リバース圧延機1の入側及び出側には巻回リール5が設けられている。
【0021】
入側の巻回リール5は、リバース圧延機1に圧延材Wを供給する巻出リール6であり、圧延機1出側の巻回リール5は、圧延後の圧延材Wを巻き取る巻取リール7となっている。なお、圧延機1はリバース式であるため、次圧延では、巻取リール7が巻出リール6となり、巻出リール6が巻取リール7となる。
リバース圧延機1には、圧延荷重を計測する荷重計測器8が設けられると共に、リバース圧延機1の入側及び出側には、圧延材Wの板厚を遠隔で計測可能な板厚計9が配備されている。
【0022】
さらに、リバース圧延機1には、ワークロール2におけるギャップ量を可変とし圧延材Wの板厚を制御する板厚制御部10が設けられている。板厚制御部10はリバース圧延機1を制御するプロセスコンピュータからなる。
この板厚制御部10は、圧延材Wの板厚を制御するために、ビスラAGC制御(BISRA−AGC)を行う。ビスラAGC制御は、例えば、圧延材Wの板厚が所定値となった時点の圧延荷重をロックオン荷重として記憶し、このロックオン荷重と現在の圧延荷重か
ら得られた荷重偏差を基に板厚偏差を算出し、算出された板厚偏差に基づいて、ロールギャップを変化させる板厚制御技術である。
【0023】
本実施形態の板厚制御部10にて行われる制御は、ロックオン荷重の設定方法に特徴的な構成を有するものである。以降、板厚制御部10内で行われる本発明の板厚制御について、詳細に説明する。
図3は、本発明に係る板厚制御方法を説明するためのフローチャートである。本フローチャートには、圧延材Wの最終圧延パスに対して、本発明の板厚制御技術が適用される場合が示されている。
【0024】
図3に示されるように、まず、S1において、最終圧延パスとなる圧延材Wに対して、ビスラAGC制御を適用する。すなわち、最終圧延パスにおいて、圧延材Wの先端部が巻取リール7へと巻き取られつつ徐々に板速度を増し、ある所定速度以上になった時点で、ロックオン荷重を設定すると共に、圧延材Wに対してビスラAGC制御を適用する。このS1の処理は、板厚制御部10の中に設けられたビスラAGC制御手段11にて実行される。
【0025】
その後、S2にて、リバース圧延機1に設けられた板厚計9で、圧延材Wの出側板厚を測定する。
S3では、圧延材Wのトラッキングを行うことで、ワークロール2直下での板厚を求める。すなわち、板厚計9はワークロール2の直下から数m下流側に配備されているため、計測された板厚はワークロール2直下の値ではない。そこで、板厚計9での計測結果をトラッキングすることでワークロール2直下での板厚を求める。具体的には、制御周期毎に板厚計9にて計測された板厚tおよび圧延材Wの板速度を用いて積算される圧延距離Lを格納しておく。既知であるワークロール2直下〜板厚計9直下の距離L
0と積算圧延距離Lを比較し、L
0とLが一致した際の板厚tを格納データから読み出すことにより、ワークロール2直下に存在した際の板厚tを同定する。
【0026】
S3で算出された「ワークロール2直下に存在したトラッキング点の板厚t」を基に、S4において、適正ロックオン荷重を求める。
S4では、式(1)を用いて、適正ロックオン荷重を算出する。
【0028】
目標板厚h
nとしては、板厚偏差(公差範囲)の中央となる板厚値を採用することが好ましい。
ところで、圧延材Wの先端部に関しては、操業の安定性などの観点より、ビスラAGC制御が確実に行われるまでは、ロールギャップの変更を行わないことが多い。その場合、S
n−S
m=0であり、式(1)は、式(1)’となる。
【0030】
本実施形態のS4では、式(1)’を用いて、適正ロックオン荷重を算出する。
なお、式(1)は、下記のように導出されたものである。
【0032】
上記した導出過程から明らかなように、式(1)(式(1)’)で算出される計算ロックオン荷重P
nは、ゲージメータ式の考えを基に予測されたロックオン荷重と考えることができる。
S5では、算出されたロックオン荷重P
nと圧延荷重の実績値P
mとが一致した時点で、P
nをロックオン荷重とし、以降、ビスラAGC制御を行うようにする。なお、ここでいう一致した時点とは、略一致した時点を含むものであり、「|P
n−P
m|<所定値」の意味である。
【0033】
式(1)から明らかなように、算出されたロックオン荷重P
nと圧延荷重の実績値P
mとが一致するということは、計測板厚h
mと目標板厚h
nとが一致する乃至は略一致することを意味しており、この観点から考えれば、計算ロックオン荷重P
nは、計測板厚h
mと目標板厚h
nとが一致した際の圧延荷重と考えることができる。
S3〜S5の処理は、板厚制御部10の中に設けられたロックオン手段12にて実行される。
【0034】
その後、S5にて設定したロックオン荷重P
nを用いて、S2にて制御を開始したビスラAGC制御を圧延材Wの最終パスに対して行うようにする。
このように、ビスラAGC制御にて使用するロックオン荷重P
nを、ゲージメータ式に基づいて算出し、算出したロックオン荷重P
nと圧延荷重の実績値P
mとが一致した際に、圧延荷重の実績値P
nをロックオン荷重に設定し、設定されたロックオン荷重P
nからの圧延荷重のズレ量とリバース圧延機1のミル剛性Mとを基に、ロールギャップSを制御することで、確実な板厚制御を行うことができ、圧延材Wのオフゲージを可及的に無くすることができるようになる。この時、ロックオン荷重値は、制御周期毎に逐次算出してもよいし、ある瞬時値で決定されてもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の板厚制御技術を用いて、鋼材の圧延を行った際の結果について述べる。
圧延条件としては、圧延材W:軟鋼材、圧延荷重:1000ton、ロックオン荷重:本発明=1000ton、従来技術=950ton、圧延速度=100m/min、オンゲージの範囲:±製品厚×3%、である。
図4は、従来のビスラAGC制御(板厚計9における板厚が所定の値となった際の圧延荷重をロックオン荷重とする)と、本発明の板厚制御とによる圧延結果が示されている。
【0036】
図4から明らかなように、従来のビスラAGC制御によれば、オフゲージ長がY(コイル数17本の平均)であったのに対し、本発明の板厚制御によれば、オフゲージ長が約Y/3(コイル数12本の平均)であり、オフゲージとなる圧延材Wの長さを従来の3割程度まで減少させることができた。
図5には、上記の結果が得られた圧延材Wのうち、ある圧延材Wに着目し、圧延距離と板厚偏差の変化、ロール周速の変化を示したものである。図中の破線は、オンゲージの上下限値(公差範囲)を示している。特記すべき点は、ロックオン荷重が決定された時間(圧延距離)である。従来手法では、圧延距離がZの辺りで、ようやくロックオン荷重が決定されており、このロックオンの位置は、板厚偏差が公差範囲をマイナス側に外れた所となっていている。そのため、不適切なロックオン荷重の設定により、マイナス外れのまま板厚を保持し、公差外れ状態の圧延材Wの長さ(オフゲージ)を長くする結果となっている。
【0037】
一方、本手法では、圧延距離がZ/7の辺りで、素早くロックオン荷重が決定され、このロックオンの位置は、板厚偏差が公差範囲内に存在する。そのため、圧延材Wの先端部の大部分において適切な板厚制御が行われ、オフゲージ長を可能な範囲で減少させることができている。
以上のことより明らかなように、ビスラAGC制御にて使用するロックオン荷重を、ゲージメータ式に基づいて算出し、算出したロックオン荷重と圧延荷重の実績値とが一致した際に、圧延荷重の実績値をロックオン荷重に設定し、設定されたロックオン荷重からの圧延荷重の変位量(偏差量)とミル剛性とを基に、圧延スタンドのロールギャップを制御することで、確実な板厚制御を行うことができ、圧延材Wのオフゲージを可及的に無くすることができるようになる。例えば、従来法で、
図2の実線Aに示すように、圧延材Wの先端部に関して、板厚偏差は許容範囲内に一旦は入るものの、すぐ許容範囲以下となり、最終的に許容範囲内に収まるような「板厚のアンダーカーブでの推移」を適正化でき、板厚カーブのアンダー部分を確実に公差範囲内に収めつつ圧延を実施可能となる。
【0038】
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0039】
例えば、本発明の実施の形態では、6段のリバース圧延機を例示して説明を行ったが、圧延機1の段数は何段であってもよい。本発明の板厚制御技術の適用はリバース圧延機に限定されるものではない。薄板圧延を行う圧延機全般に適用可能である。1又は複数の圧延スタンドを備えた冷間圧延機にも適用可能である。
また、本発明の実施の形態では、リバース圧延の最終パスに対して、本板厚制御技術を適用した例を説明しているが、最終圧延パスに限定されない。どの段階の圧延(どの圧延パス)であっても適用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 リバース圧延機
2 ワークロール
3 中間ロール
4 バックアップロール
5 巻回リール
6 巻出リール
7 巻取リール
8 荷重計測器
9 板厚計
10 板厚制御部
11 ビスラAGC制御手段
12 ロックオン手段
W 圧延材