特許第5877804号(P5877804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5877804建装部材の磁性層及び建装部材の磁性層の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5877804
(24)【登録日】2016年2月5日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】建装部材の磁性層及び建装部材の磁性層の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/08 20060101AFI20160223BHJP
   C09D 5/23 20060101ALI20160223BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20160223BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20160223BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20160223BHJP
【FI】
   E04F13/08 H
   C09D5/23
   C09D7/12
   C09D201/00
   E04F13/08 F
   E04F13/08 A
   B32B27/18 H
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-16476(P2013-16476)
(22)【出願日】2013年1月31日
(65)【公開番号】特開2013-209874(P2013-209874A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年2月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-41470(P2012-41470)
(32)【優先日】2012年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110893
【氏名又は名称】ニチレイマグネット株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前橋 清
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雅治
【審査官】 津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−079996(JP,A)
【文献】 特公平06−076729(JP,B2)
【文献】 特開平01−207367(JP,A)
【文献】 特開2006−272822(JP,A)
【文献】 特開2007−131490(JP,A)
【文献】 特開平05−335775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/08
B32B 27/18
C09D 5/23
C09D 7/12
C09D 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁や柱、戸、ボード或はパーテーション等の建装部材の表面に施す磁性を有する磁性層であって、該建装部材の表面に対して、塗料バインダーに鉄粉を主成分とする磁性粉を混合した磁性主層用磁性塗料によって形成された磁性主層と、塗料バインダーにソフトフェライト粉、磁鉄鉱粉、ハードフェライト粉の群から選ばれる1種又は複数の磁性粉を混合した表磁性バリアー層用磁性塗料によって形成された表磁性バリアー層と積層されていることを特徴とする建装部材の磁性層。
【請求項2】
請求項1に記載の建装部材の磁性層において、建装部材の表面と磁性主層との間に、塗料バインダーにソフトフェライト粉、磁鉄鉱粉、ハードフェライト粉の群から選ばれる1種又は複数の混合物からなる磁性粉を混合した裏磁性バリアー層用磁性塗料によって形成された裏磁性バリアー層介在していることを特徴とする建装部材の磁性層。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の建装部材の磁性層の製造方法であって、磁性主層の上面を研磨した後に該研磨面に表磁性バリアー層を積層することを特徴とする建装部材の磁性層の製造方法
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の建装部材の磁性層の製造方法又は請求項3に記載の建装部材の磁性層の製造方法であって、前記表磁性バリアー層は、乾燥させたソフトフェライト粉、磁鉄鉱粉、ハードフェライト粉の群から選ばれる1種又は複数の磁性粉を、予め脱気・減圧した容器内で初めて塗料バインダーと接触させ、その後圧力を大気圧に戻す工程を経た表磁性バリアー層用磁性塗料を、塗装後乾燥させて積層することを特徴とする建装部材の磁性層の製造方法
【請求項5】
請求項2に記載の建装部材の磁性層の製造方法であって、前記裏磁性バリアー層は、乾燥させた、ソフトフェライト粉、磁鉄鉱粉、ハードフェライト粉の群から選ばれる1種又は複数の磁性粉を、予め脱気・減圧した容器内で初めて塗料バインダーと接触させ、その後圧力を大気圧に戻す工程を経た裏磁性バリアー層用磁性塗料を、塗装後乾燥させて積層することを特徴とする建装部材の磁性層の製造方法
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の建装部材の磁性層の製造方法又は請求項3〜請求項5のいずれかに記載の建装部材の磁性層の製造方法であって、前記磁性主層は、乾燥させた鉄粉を主成分とする磁性粉を、予め脱気・減圧した容器内で初めて塗料バインダーと接触させ、その後圧力を大気圧に戻す工程を経た磁性主層用磁性塗料を、塗装後乾燥させて積層することを特徴とする建装部材の磁性層の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の壁や柱、戸、ボード、及びパーテーション等の建装部材の表面に、永久磁石が磁気吸着可能な磁性層を塗装によって形成するものであって、詳しくは、磁気吸着力(磁着力)を確保しつつ錆の発生を抑えた建装部材の磁性層に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄粉を混ぜ込んだ塗料を壁面や板に数回塗布して、磁石が吸着する面を形成し(特許文献1)、或は鉄粉を混ぜ込む樹脂を接着剤とした提案(特許文献2)等が古くから数多くあった。
しかし、単に鉄粉等の磁性粉を混ぜ込むだけであり、同一塗料を数回塗布するのみで、その後も今日に至るまで技術的な進歩は無かった。
【0003】
特許文献3は、平均粒径が10〜60μm(ミクロン)の還元鉄粉を塗料に混入して塗膜を形成し、被磁着面を形成するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭42−009236号公報
【特許文献2】実開昭63−144684号公報
【特許文献3】特開2011−79996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらこれらの先行技術に拠る各塗装面は、大気中で水分と接触して錆が発生してしまう。室外は論外だが、室内においても、結露や汚れを濡れ雑巾で拭くことや子供が水を掛けてしまうことなどが多く、遅かれ早かれ、錆が発生してしまう。
錆の発生は、表面に近い鉄粉が先ず錆び始め、内部へと広がる。
【0006】
他方、使用される鉄粉は、コストや磁着力向上の目的で比較的粒子径が大きいものが使用される。平均粒子径が100ミクロンを越えるとその粗さが塗装面の粗さとなって次第に見栄えが悪くなると共に、150〜160ミクロンに達すると、粗い表面は磁性体が疎になるので永久磁石に拠る磁着力が低下してしまう。
そこで、見栄えを良くし磁着力を高める目的で、鉄粉の平均粒子径が100ミクロン程度であっても、粗い磁性塗装表面を研磨して平坦としその上に非磁性の仕上げ塗装を行うことがある。
【0007】
上記の非磁性塗装の厚さを大きくとれば錆の発生を遅らせることが出来るものの磁着力が大きく低下してしまう。他方で磁着力を確保するために塗装の厚さを小さくすると、その結果水分や大気の浸透が早く錆の発生が早まってしまうという不具合があった。
【0008】
塗装工程上は、建装部材表面に下塗りを行う事がある。該表面を保護しつつ塗料が部材表面に十分に密着且つ接着させるためであるが、該下塗り材の樹脂組成は、本塗装の樹脂とは異なるか又は同じ場合がある。
従来、該下塗り材は磁性材を含まない塗料を採用していた。従い、下塗り材の厚み相当部は磁性材を含まないので、全体の塗装厚さで比較すると磁着力が劣ることになる。
鉄粉を含む下塗り材を採用すれば磁着力は確保し易くなるが、建装部材表面に近い層に鉄粉が多く存在するので、該部材を通して水分や大気が供給されて鉄粉の錆が進行してしまうので好ましく無い。
【0009】
そこで本発明は、鉄粉を塗料に混ぜて得られる高い磁着力の低下を極力防ぎつつ、鉄粉が錆びる不具合を防止する建装部材の磁性層及び建装部材の磁性層の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本課題を解決するために本発明に係る建装部材の磁性層は、壁や柱、戸、ボード或はパーテーション等の建装部材の表面に施す磁性を有する磁性層であって、該建装部材の表面に対して、塗料バインダーに鉄粉を主成分とする磁性粉を混合した磁性主層用磁性塗料によって形成された磁性主層と、塗料バインダーにソフトフェライト粉、磁鉄鉱粉、ハードフェライト粉の群から選ばれる1種又は複数の磁性粉を混合した表磁性バリアー層用磁性塗料によって形成された表磁性バリアー層と積層されていることを特徴としている
【0011】
上記建装部材の磁性層において、建装部材の表面と磁性主層との間に、塗料バインダーにソフトフェライト粉、磁鉄鉱粉、ハードフェライト粉の群から選ばれる1種又は複数の混合物からなる磁性粉を混合した裏磁性バリアー層用磁性塗料によって形成された裏磁性バリアー層介在していても良い。
【0012】
本発明に係る建装部材の磁性層の製造方法は、前記本発明に係る建装部材の磁性層の製造方法であって、磁性主層の上面を研磨した後に該研磨面に表磁性バリアー層を積層することを特徴としている
【0013】
前記表磁性バリアー層は、乾燥させたソフトフェライト粉、磁鉄鉱粉、ハードフェライト粉の群から選ばれる1種又は複数の磁性粉を、予め脱気・減圧した容器内で初めて塗料バインダーと接触させ、その後圧力を大気圧に戻す工程を経た表磁性バリアー層用磁性塗料を、塗装後乾燥させて積層しても良い。
【0014】
前記裏磁性バリアー層は、乾燥させた、ソフトフェライト粉、磁鉄鉱粉、ハードフェライト粉の群から選ばれる1種又は複数の磁性粉を、予め脱気・減圧した容器内で初めて塗料バインダーと接触させ、その後圧力を大気圧に戻す工程を経た裏磁性バリアー層用磁性塗料を、塗装後乾燥させて積層することが好ましい
【0015】
前記磁性主層は、乾燥させた鉄粉を主成分とする磁性粉を、予め脱気・減圧した容器内で初めて塗料バインダーと接触させ、その後圧力を大気圧に戻す工程を経た磁性主層用磁性塗料を、塗装後乾燥させて積層することが好ましい。

【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鉄粉を塗料に混ぜて得られる高い磁着力の低下を極力防ぎつつ必要な磁着力を確保すると共に、鉄粉が錆びる不具合を防止する磁性層を、任意の建装部材の表面に形成することが出来る。
【0017】
すなわち本発明は、磁性層の大部分を高い磁着力を持つ鉄粉を主成分とする磁性主層とする一方で、該磁性主層を覆う形で表磁性バリアー層を配置した。さらに磁性主層の裏面には、裏磁性バリアー層を設けることが出来る。該2つのバリアー層は化学的に酸化が進行しない磁性粉を成分とした。これによって磁性主層の持つ高い磁着力を活かすと共に、水分や酸素が磁性主層へ浸透することを防ぐバリアーとしての役割を果たして、磁性主層中の鉄粉の錆を防いだ。
【0018】
また、磁性主層の表面を研磨して平滑にした後、その表面を錆無い磁性粉を主成分とする表磁性バリアー層で被覆するので、磁性層表面を滑らかにして見栄えを良くするとともに磁着力を確保・向上させ、且つ錆の発生を抑えることが出来た。
【0019】
さらに本発明は、鉄粉などの磁性粉と塗料バインダーと初めて接触させるに際して、予め該磁性粉を乾燥させておき、脱気・減圧下で該塗料バインダーと初めて接触させた後常圧に戻す処理を行った結果、磁性粉表面の水分や酸素の除去に留まらず、微粉が凝集して出来た微細空間や鉄粉内の空隙を塗料バインダーで濡らす事が出来たので、磁性粉の分散が促進されるだけで無く、錆の発生を更に防止する事が出来た。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施態様の一つの例を表わす磁性層の断面図を示す。
図2】本発明の他の実施態様の例を表わす磁性層の断面図を示す。
図3】従来の磁性層の断面図を示す。
図4】脱気・減圧下で磁性粉に塗料バインダーを接触させる方法を表わす略図を示す。
図5】還元鉄粉の電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、鉄粉を主成分とする磁性塗料を用いて形成した磁性主層と、その磁性主層の表裏に配置する表・裏磁性バリアー層に拠る層状構造からなる磁性層に関するものであって、磁着力を確保しつつ鉄粉が錆びる事を防止する事を目的としており、以下実施態様でもって詳しく説明する。
【0022】
図1の符号3、或は図2の符号3で示される部分が、鉄粉を主成分とする磁性塗料で形成された磁性主層であり、磁石が吸着する磁性を主に担う層である。
なお磁性主層の磁性粉は、鉄粉に加えてソフトフェライト粉や磁鉄鉱粉或はハードフェライト粉を含んでも磁着性は確保されるが、鉄粉の比率が高い程磁着力が高まる。鉄粉の比率は100%が最も好適であり、80重量%以上が好ましい。
なお本発明では、鉄粉、ソフトフェライト粉、磁鉄鉱粉、ハードフェライト粉の総称を磁性粉と言う。
【0023】
表磁性バリアー層4は磁性主層3の表面に形成され、裏磁性バリアー層5は磁性主層の裏面と建装部材の表面との間に形成されている。
表磁性バリアー層及び裏磁性バリアー層は、本発明の磁性層が完成後、水分や酸素、或は他の化学成分が塗料膜中に進入・移動する事を妨げるバリアー機能を有している。該表磁性バリアー層及び裏磁性バリアー層は水分や酸素が磁性主層の鉄粉に作用して該鉄粉を錆びさせるまでの時間事を大幅に遅らせる機能を有している。
【0024】
表磁性バリアー層は鉄粉を含まず磁鉄鉱粉やフェライト磁性粉が磁性成分なので、鉄粉を採用した場合に比較して磁着力が少し及ばないものの、しかし強い磁性を有している。
故に表磁性バリアー層は、磁石が近づくと磁気回路を形成して磁性主層の鉄粉の磁気特性を表磁性バリアー層表面に導く役割を果たすので、磁性主層が持つ強い磁着力が大きく損なわれるが無い。すなわち、該表磁性バリアー層から磁性粉を除去して単なる表バリアー層とした場合に比して、より強い磁着力を確保することが出来る。
【0025】
裏磁性バリアー層は鉄粉を含まず磁鉄鉱粉やフェライト磁性粉が磁性成分なので、鉄粉を採用した場合に比較して磁着力が少し及ばないものの、しかし強い磁性を有している。
裏磁性バリアー層は、磁性主層の厚さが増した効果が得られる。つまり裏磁性バリアー層が無い場合に較べ、磁着力を高める効果がある。
【0026】
本発明の目的の1つが、鉄粉のみを採用した場合に近い磁着力を確保することなので、表磁性バリアー層はバリアー層としての機能を確保する為に必要な最小限の厚さで良い。裏磁性バリアー層もまた、必要以上に厚くしても磁着力向上の効果は大きくはない。
【0027】
本発明の磁性層の典型的な用途は、薄くて軽いパンフレットやメモなどを磁石との間に挟んで掲示する事に使用するので、磁着力は0.15N(ニュートン)/cm(センチメートル平方)あれば十分である。
一方、磁気吸着させる磁石を例えば厚さ1.0mm、着磁ピッチ2.5mm、表面磁束密度が約35〜40mT(ミリテスラー)の一般的なマグネットシートを採用すると、磁性主層の厚さは0.3mm程度以上でもって磁着力0.15N/cmを達成出来ることが判った。
他方で表磁性バリアー層の厚さは、含まれる磁性粉の粒度や必要なバリアー性でもって規定される。塗布の均一性やピンホールなどを考慮して、通常0.05〜0.1mm程度が採用される。
【0028】
上述した実験事実を本発明に適用すると、磁性主層の厚さと表磁性バリアー層の厚さとの比が、(0.3以上):(0.05〜0.10)となるので、磁性主層の厚さが表磁性バリアー層の3倍以上が好ましい。
本発明の磁性層が更に強い磁着力を必要とする場合は、該磁性主層の厚さを厚くすれば良い。
【0029】
本発明で使用する磁性塗料は、磁性粉と塗料バインダーとを大気圧下で単純に混合する従来の方法の他に、以下の方法で得る事がより好ましい。
即ち、磁性粉と塗料バインダーとを混合するに当たって、予め乾燥した磁性粉と塗料バインダーとを予め脱気・減圧された容器内で初めて接触させ、磁性粉を塗料バインダーで濡れさせて、その後圧力を大気圧に戻す手順を経た磁性塗料を採用する。沈降防止剤などを添加する場合は、予め塗料バインダーと混合しておくと良い。
【0030】
上述した脱気・減圧工程は、磁性粉表面やその内部の空隙の水分や大気、或は塗料バインダーに含まれる水分や大気を除去する。更に、微細な磁性粉が凝集した内部に微細気泡が残留して磁性粉と塗料バインダーとの濡れが不十分となり、磁性粉の分散を悪くする不具合を無くす効果がある。また、磁性粉と塗料バインダーとのなじみを良くして塗装・乾燥後の磁性粉表面での空隙の発生を防止するので、塗装後のピンホールの発生を無くしてバリアー効果を高めると共に塗装部分の機械特性の低下を防ぐ効果があり、好適である。
塗料バインダーと磁性粉とを混合後に混練する事は、該脱気・減圧工程の有無に関わらず混和を促進して好適である。
【0031】
磁性粉を予めシランカップリング材などで表面処理すれば、磁性粉と塗料バインダーとのなじみを良くする効果がある。一般に、無機物と有機物とを混合する場合には従来から採用されている技術であり、本発明においても好適である。
【0032】
本発明で採用する磁性粉は、鉄粉、磁鉄鉱粉、Mn−Znフェライトなどのソフトフェライトであり、さらに、保磁力が2千〜3千エルステッド程度のストロンチュームフェライト粉やバリウムフェライト粉などのハードフェライト粉を含む。
ハードフェライト粉は、ストロンチュームフェライトやバリウムフェライトの粉体であり、保磁力がやや高いので軟磁性粉には分類されないものの、ハードフェライト磁石若しくはそれ以上の表面磁束密度を有する永久磁石が近づくと磁化して磁気回路を構成するので本発明では採用される。ハードフェライト粉は、化学的に安定であり錆無いので好適である。
【0033】
鉄粉は、他の磁性粉と比較して磁石への磁着力が最も強い。
磁鉄鉱(四酸化三鉄=マグネタイト)は、砂鉄として天然に産出する。砂鉄は主成分が磁鉄鉱であり、磁着性が強く、錆びないという特徴がある。
マンガンジンク(Mn−Zn)フェライト粉やニッケルジンク(Ni−Zn)フェライト粉は軟磁性であり錆びない。
【0034】
鉄粉の種類は、インゴットの粉砕粉、アトマイズ粉(水−アトマイズ、及びガス−アトマイズ)、及び還元鉄粉があり、いずれも粉砕や分級工程を追加する場合がある。
砂鉄粉は、砂鉄として採取されたあと粉砕され、選別・分級されて粒度を調整する。
ソフトフェライト粉は、例えばトランスなどの他の用途に使用済を回収した安価な焼結体を粉砕・分級して望みの粒度を得る事が出来るが、他方で、焼結用原料としての数〜数+ミクロン径の仮焼粉体を入手可能である。
ハードフェライト粉は、ボンドマグネット用の粉体として市販されている粉体を入手する事が出来る。また、他の用途に使用済みを回収した安価な焼結体を消磁後粉砕・分級して望みの粒度を得る事が出来る。
【0035】
表磁性バリアー層及び裏磁性バリアー層用の磁性粉の粒度は小さい方が好ましい。磁性粉の粒径が小さいと、磁性塗料の磁性粉の沈降や分離が発生しづらく好ましいのみならず、塗装表面が滑らかとなって好都合である。またノズル詰まりが改善されるので、スプレー塗装の実施が可能となる。
スプレー塗装は、0.05〜0.1mmの薄い層を比較的均一に塗装することが出来るので、本発明の表磁性バリアー層及び裏磁性バリアー層の塗装には好適である。
ハードフェライト粉は、ボンドマグネット用としてその粒径をミクロンオーダーでコントロールされていて好適である。
【0036】
従前から鉄粉を磁性成分とする磁性層表面を研磨によって滑らかにして、その上に非磁性表装塗装が実施されている。
本発明の実施態様では、上記非磁性表装塗装に替えて、錆びることの無い磁性粉を含有させた表磁性バリアー層で覆うので、錆を防止するとともに磁着力の大幅な低下を防ぐ事が出来る。
他方で本発明は、磁性主層表面の研磨の有無に関わらず、該磁性主層の上の表磁性バリアー層の更にその上に薄い非磁性表装塗装を実施することを妨げない。
但し、該非磁性表装塗装の厚さが増せば、磁着力を急激に低下させてしまう。
【0037】
本発明で採用される鉄粉の平均粒子径は、20〜200ミクロンが好ましい。20ミクロン未満の鉄粉は通常、粉砕や分級が繰り返され価格が高くなる。
200ミクロン以上の大きな平均粒子径を採用すると、鉄粉の粗さが塗装表面の粗さとなって見栄えが著しく悪くなるとともに、粗い表面は磁性成分が疎になって磁着力の低下を無視出来なくなるので好ましく無い。更に表面の粗さが大きいので、研磨が困難になってしまう。また、塗料樹脂バインダー中に混合した状態ではたとえ沈降防止剤を添加しても該鉄粉の沈降が顕著になって塗装作業性が悪化するので好ましく無い。
【0038】
鉄粉の平均粒子径が上記範囲内であれば、塗装表面をより平滑に仕上げたい場合や磁着力を高める目的で、表面を平滑に研磨することが可能である。本発明においてはその研磨された表面を、磁性粉を含有した表磁性バリアー層で覆うことになるので、従来の単なる非磁性材料のコーティングやラミネートとは異なり、下述するように磁着力の低下を最小限に抑えることができる。
【0039】
表磁性バリアー層や裏磁性バリアー層に用いられるソフトフェライト粉、磁鉄鉱粉、或はハードフェライト粉の平均粒子径は、該層の厚さが薄いので、数ミクロンからせいぜい50〜60ミクロンが好ましい。
【0040】
磁性粉等と塗料バインダーとを大気圧下で混合後に、改めて減圧・脱気する方法が従来から知られている。しかし該方法では、図5に示した還元鉄粉に見られる様な鉄粉表面やその奥部の微細な空隙の気泡の除去が困難であり、効果が限定されていた。
本発明では、塗料バインダーが存在しない状況で磁性粉等を脱気・減圧した後、塗料バインダーで濡らし、その後圧力を大気圧に戻すので、磁性材の奥深くの微細空隙や、凝集塊の内部を塗料バインダーで満たす事が出来たと考えられる。
【0041】
磁性層中の磁性材料の体積比率が大きい程磁着力が高い。したがって本発明において塗料バインダーに使用する組成は、採用した磁性粉を除く他の顔料や充填剤、着色剤等の使用を必要最低限に控え、塗膜形成の為と、塗装膜としての必要特性を確保するための組成とすることが好ましい。
他方で、体積比率がむやみに高いと、磁性塗料の安定性や塗装作業性が問題になるのみならず、鉄粉表面を覆う樹脂成分が少なくなり、結果として塗装・乾燥後の塗膜に錆が発生し易く、また塗装表面が粗くなってしまうので好ましく無い。
【0042】
いずれにせよ、塗料の樹脂成分の種類や分子量、或は溶媒の種類などで、磁性粉を分散させた磁性塗料の特徴は大きく異なる。そこで、必要に応じて沈降防止剤、分散剤、増粘剤などを最小限添加することが好ましい態様である。例えば、日本エアロジル社の親水性或は疎水性シリカや、ビックケミージャパン社のBYK−425などが有り、適宜選定することが出来る。
尚、塗料バインダー中の溶媒と固形成分との比率、及びそれぞれの密度、並びに塗料バインダーと磁性粉との比率やそれらの密度を勘案すれば、重量比率と体積比とを対応付けることが出来る。
【0043】
次に、本発明について、実施例並びに比較例を用いて説明する。
なお、本発明の磁気吸着力は以下の方法で測定した。30mm*30mmの正方形のマグネットシートサンプル(1.0mm厚、ピッチ2.5mm、多極着磁、表面磁束密度が35〜40mT)を準備し、50mm*50mmの大きさの磁性層に磁気吸着させ、それぞれを平面に対して垂直方向に引き離す為に必要な力を測定した。
【0044】
また、錆発生日の試験は、磁性層を水平に保ち、その表面に水道水を十分に吸収させたキッチンペーパー(50mm*50mm)を載せて、乾燥しないように水分を補給しながら毎日磁性層表面を観察して、赤錆の発生が肉眼で確認出来た最初の日を記録した。
上記評価方法は新鮮な水に連続して接触させる過酷な促進試験であり、本評価方法で錆発生日が10日以内であれば錆び易く、それを超えると錆難いと判断した。
【0045】
【表1】
【実施例1】
【0046】
還元鉄粉DR(DOWA IP CREATION社製、平均粒子径は98ミクロン)100グラムを、塗料バインダー(ガーデニングカラー・クリアー、アトムサポート株式会社が販売)と沈降防止剤との混合物45グラムに混ぜ込み、磁性主層1を作成するための磁性主層用磁性塗料を得た。尚、此処で言う平均粒子径とは、多段分級法でもって累積重量50%が通過する篩の目開きに相当する大きさとする。
還元鉄粉の電子顕微鏡写真を図5に示した。撮影倍率は200倍、図の10目盛り(黒い線の全長)が500ミクロンメートルに相当する。
【0047】
同様に、砂鉄粉(粉砕した砂鉄を280メッシュの篩に通した通過粉で、粒子径が53ミクロン以下)100グラムを、上述した塗料バインダーと沈降防止剤との混合物75グラムに練り込み、表磁性バリアー層4を作成するための表磁性バリアー層用磁性塗料を得た。
【0048】
次に、磁性主層用磁性塗料をロールでもって図1の木板の建装部材2の表面に塗り、乾燥後塗るという作業を繰り返し計3回塗った結果、厚さが0.4mmの磁性主層3を得た。鉄粉の体積比率は54%であった。
更に、該磁性主層3の上に表磁性バリアー層用磁性塗料を、乾燥後の厚さが0.1mmに塗り、表磁性バリアー層4を形成させた。磁性粉の体積比率は57%であった。
【0049】
該磁性層1に拠る磁着力は、比較例1を100とした場合の5%減に留まった。
また、錆発生日は、比較例1が2日目であったのに対して、それより2週間以上遅れて20日に初めて錆と思われる変色を視認した。
【実施例2】
【0050】
実施例1で作成した表磁性バリアー層用磁性塗料と同様にして、以下の方法で本実施例のための表磁性バリアー層用磁性塗料と裏磁性バリアー層用磁性塗料とを兼ねた磁性塗料を準備した。即ち、該砂鉄粉に替えて、レーザー回折式粒度分析計による平均粒子径が1.8ミクロンのストロンチュームフェライト粒子100グラムを該塗料バインダー76.5グラムに練り込み、更に該混合物を塗料の混和装置である3本ロールに2回通して、表磁性バリアー層用及び裏磁性バリアー層用の磁性塗料を得た。
【0051】
次いで図2における木板の建装部材2の表面に、裏磁性バリアー層用磁性塗料のスプレー塗装を行った。乾燥後の裏磁性バリアー層5の厚さは0.06mmであった。磁性粉の体積比率は54%であった。
続いて、該裏磁性バリアー層5の上に、実施例1で用いたものと同様の磁性主層用磁性塗料を、実施例1と同様にして乾燥後の厚さが0.37mmの磁性主層3を形成した。
引き続いて該磁性主層の上に、上記表磁性バリアー層用の磁性塗料でもって、乾燥後の厚さが0.08mm厚の表磁性バリアー層4を得た。
【0052】
磁着力は比較例1に比べて4%の低下に留まり、錆発生日は19日だった。
【実施例3】
【0053】
実施例1において、磁性主層3の表面を当初150番、続いて400番の細かい目のサンドペーパーで研磨した上に、実施例1と同様にして表磁性バリアー層4を形成した。
磁着力は98と比較例1に近づき、錆発生日は17日だった。
【実施例4】
【0054】
実施例1で用いた磁性主層用磁性塗料、及び表磁性バリアー層用磁性塗料を作成するに当り、それぞれ図4に示した脱気・減圧装置内で処理した。
【0055】
具体的には、透明な真空容器7の中に、乾燥した所定量の磁性粉8を収納した容器9を設置し、その上方に漏斗10を配置した。
漏斗10には塗料バインダー及び沈降防止剤の混合物11(以下混合物11と略す)が所定量満たされてバルブ12で真空容器内とつながっている。真空ポンプ13で容器7の内部を少なくとも水銀柱数百パスカルまで減圧して数分後、真空ポンプ13を作動させながらバルブ12をゆっくりと開いて、該混合物11を容器9内へ垂らし、磁性粉8を濡らした。このとき、該混合物11は発泡し、かつその泡が破裂しながら滴下した。
【0056】
該混合物11を全量注いだ後、バルブ12を閉め、ポンプバルブ14を閉めてから給気バルブ15をゆっくり開けて、容器3の内部を大気圧にもどした。
該処理中に該混合物11中の溶媒(水)が真空容器内で蒸発したが、冷却トラップ(図示せず)するとともに、容器7を大気圧に戻した後トラップした量に相当する溶媒を容器9に加えて撹拌した。次いで3本ロール(図示せず)に2回通して混和・均一化を促進した。
【0057】
以下実施例1と同様にして、磁性主層3及び表磁性バリアー層4を得た。
磁着力は98となり、錆発生日は飛躍的に伸びた。
【0058】
(比較例1)
図3に示した様に、表磁性バリアー層を設けないこと以外は実施例1と全く同様に、実施例1で用いた磁性主層用磁性塗料を建装部材2の上に塗布し磁性塗料層6を形成した。
【0059】
磁着力の実測値は、0.185ニュートン/平方センチであった。この値を基準の100とした。好ましい磁着力は0.15(ニュートン/平方センチ)以上なので、本発明において相対値は81.1以上が好ましく、これ以上の磁着力が有れば良好であると判断した。
錆発生日は著しく短くて、2日だった。
実施例及び比較例の磁着力の相対値と錆発生日を表1に示す。
【0060】
(比較例2)
実施例1と同様にして磁性主層3を作製した。
続いて、実施例1の表磁性バリアー層用磁性塗料に替えて、平均粒子径が50ミクロンの無機ガラス粉末(密度は2.5グラム/センチ立方)48グラムを、実施例1で用いた塗料バインダーと沈降防止剤の混合物74.5グラムに混ぜ込んだ非磁性塗料を準備し、該磁性主層の上に塗装後乾燥させて、厚さ0.09ミリの非磁性被覆層を形成した。
【0061】
該非磁性塗料層のガラス成分以外の塗料バインダーの固形成分は45体積%で、実施例1及び実施例2の表磁性バリアー層における塗料バインダーの固形成分の体積比率とほぼ同等であった。
錆の発生は29日だったが、被覆層が磁性粉を含まないために、磁着力は著しく低く72であった。
【0062】
表1で明らかな様に、本発明に拠れば、必要な磁着力を十分確保しつつ鉄粉の錆を防ぐ事が出来た。
【0063】
なお、本発明における磁性層1の形成方法は、ロール塗りやスプレーによる塗装方法にて説明してきたが、これに限ることなく適宜の方法を選択して実施することができる。
例えば、刷毛塗り塗装や、印刷法を採用することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の磁性層は、柱や戸、ボードなどの塗装可能な任意の面に磁性塗料を塗布して得られて且つ錆に強い磁性層であって、マグネットシートなどの面状磁石や、マグネットホルダーやマグネットフックなどの磁石を磁着させる事が出来る。
建装部材やパネルの表面に適用して、掲示や表示、あるいは掛止のための磁性面、または幼児の知育教育の為の磁性壁面などとして利用される。
【符号の説明】
【0065】
1 磁性層
2 建装部材
3 磁性主層
4 表磁性バリアー層
5 裏磁性バリアー層
6 磁性塗料層
7 真空容器
8 磁性粉
9 容器
10 漏斗
11 塗料バインダー及び沈降防止剤の混合物
12 バルブ
13 真空ポンプ
14 真空ポンプバルブ
15 通気バルブ
図1
図2
図3
図4
図5