(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態によるSiC単結晶の製造方法は、溶液成長法によりSiC単結晶を製造する製造方法である。製造方法は、準備工程と、生成工程と、成長工程とを備える。準備工程では、Si−C溶液の原料が収容される坩堝と、坩堝の側壁の周囲に配置される高周波コイルとを含む製造装置を準備する。生成工程では、坩堝内の原料を高周波コイルで加熱して溶融し、Si−C溶液を生成する。成長工程では、Si−C溶液にSiC種結晶を接触させ、SiC種結晶上でSiC単結晶を成長させる。成長工程は、維持工程を含む。維持工程では、坩堝及び高周波コイルの少なくとも一方を他方に対して高さ方向に相対移動させ、Si−C溶液の液面と高周波コイルの高さ中心との高さ方向における離隔距離の変動幅を所定の範囲内に維持する。
【0010】
SiC単結晶の成長時間を長くすることにより、SiC単結晶の厚みを厚くすることができる。SiC単結晶の成長時間を長くすると、Si−C溶液の液面が低下する。これは、SiC単結晶の成長が進行することによる。その他の理由としては、例えば、Si−C溶液の蒸発等がある。
【0011】
高周波コイルは、高さ方向に延びる。このような高周波コイルでは、加熱するときの温度が高さ方向で異なる。
【0012】
Si−C溶液の液面が低下すると、高周波コイルによるSi−C溶液の加熱条件が変化する。そのため、Si−C溶液におけるSiC種結晶近傍の温度が変化する。SiC種結晶近傍の温度が変化すると、当該領域の過飽和度(SiCの過飽和度をいう。以下同じ)が変化する。そのため、安定したSiC単結晶の成長が阻害される。その結果、SiC単結晶の質が低下する。
【0013】
上記製造方法においては、SiC単結晶を成長させるときに、上記離隔距離の変動幅を所定の範囲内に維持する。そのため、高周波コイルによるSi−C溶液の加熱条件が変化し難くなる。その結果、SiC種結晶近傍の温度、延いては、SiC種結晶近傍の過飽和度が変化し難くなる。つまり、上記製造方法によれば、安定したSiC単結晶の成長が実現される。その結果、SiC単結晶の質が向上する。
【0014】
好ましくは、成長工程は、維持工程よりも前において、SiC単結晶の成長界面とSi−C溶液の液面との間にメニスカスを形成する工程をさらに含む。
【0015】
この場合、SiC単結晶の成長界面とSi−C溶液の液面との間にメニスカスが形成される。そのため、SiC単結晶の拡大角を調整できる。
【0016】
なお、SiC単結晶の成長界面には、SiC種結晶の結晶成長面上に成長するSiC単結晶の成長界面だけでなく、SiC単結晶がSiC種結晶の結晶成長面上に成長していないときのSiC種結晶の結晶成長面も含まれる。
【0017】
好ましくは、製造装置は、SiC単結晶が取り付けられるシードシャフトを含む。成長工程は、シードシャフト及び坩堝の少なくとも一方を他方に対して高さ方向に相対移動させることにより、メニスカスの高さの変動幅を所定の範囲内に維持する工程をさらに含む。
【0018】
SiC単結晶の成長時間を長くすると、Si−C溶液の液面が低下する。これは、SiC単結晶の成長が進行することによる。その他の理由としては、例えば、Si−C溶液の蒸発等がある。そのため、Si−C溶液の液面が低下する速度は、SiC単結晶の成長界面が結晶成長に伴って下方に移動する速度よりも大きくなることが多い。それ故、SiC単結晶が成長するにつれて、メニスカスの高さが大きくなることが多い。メニスカスの高さが大きくなると、SiC種結晶近傍の過飽和度が大きくなるのが一般的である。過飽和度が過剰に大きくなると、インクルージョンが形成され易くなり、SiC単結晶の質が低下する。
【0019】
上記態様においては、SiC単結晶を成長させるときに、メニスカスの高さの変動幅を所定の範囲内に維持する。そのため、メニスカス高さの変動に起因する、SiC種結晶近傍の過飽和度の変化を抑制できる。その結果、メニスカスを形成して長時間結晶成長を行う場合であっても、安定したSiC単結晶の成長が実現される。
【0020】
上記製造方法において、維持工程では、成長工程におけるSi−C溶液の液面高さの変動量に基づいて、坩堝及び高周波コイルの少なくとも一方を他方に対して高さ方向に相対移動させてもよい。
【0021】
上記製造方法において、維持工程では、経過時間に応じたSi−C溶液の液面高さの変動量に基づいて、坩堝及び高周波コイルの少なくとも一方を他方に対して高さ方向に相対移動させてもよい。
【0022】
この場合、成長工程においてSiC単結晶を成長させるときと同じ成長条件でサンプルSiC単結晶を成長させる工程と、サンプルSiC単結晶を成長させるときに用いられるサンプルSi−C溶液の液面高さの変動量に基づいて、経過時間に応じたSi−C溶液の液面高さの変動量を求める工程とをさらに備えてもよい。
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。図中同一又は相当部分には、同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0024】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施の形態によるSiC単結晶の製造方法は、溶液成長法による。本製造方法は、準備工程と、生成工程と、成長工程とを備える。準備工程では、製造装置を準備する。生成工程では、Si−C溶液を生成する。成長工程では、SiC種結晶をSi−C溶液に接触させ、SiC単結晶を成長させる。以下、各工程の詳細を説明する。
【0025】
[準備工程]
準備工程では、溶液成長法に用いられる製造装置を準備する。
図1は、本発明の第1の実施形態によるSiC単結晶の製造方法に用いられる製造装置10の模式図である。なお、
図1に示す製造装置10は、溶液成長法に用いられる製造装置の一例である。したがって、溶液成長法に用いられる製造装置は、
図1に示す製造装置10に限定されない。
【0026】
製造装置10は、チャンバ12と、坩堝14と、断熱部材16と、加熱装置としての高周波コイル18と、回転装置20と、昇降装置22とを備える。
【0027】
チャンバ12は、坩堝14を収容する。SiC単結晶を製造するとき、チャンバ12は冷却される。
【0028】
坩堝14は、Si−C溶液15の原料を収容する。好ましくは、坩堝14は、炭素を含有する。この場合、坩堝14は、Si−C溶液15への炭素供給源になる。
【0029】
断熱部材16は、断熱材からなり、坩堝14を取り囲む。
【0030】
高周波コイル18は、コイル線が巻き回されたものであって、高さ方向に延びる空芯コイルである。高周波コイル18の内側に、断熱部材16及び坩堝14が配置される。つまり、高周波コイル18は、坩堝14の側壁141の周囲に配置される。高周波コイル18の高さは、坩堝14に収容されるSi−C溶液15の液面高さ以上あればよく、好ましくは、坩堝14の高さ以上あればよい。
【0031】
高周波コイル18は、坩堝14を誘導加熱し、Si−C溶液15を生成する。高周波コイル18は、さらに、Si−C溶液15を結晶成長温度に維持する。結晶成長温度は、SiC単結晶を成長させるときのSi−C溶液15の温度である。結晶成長温度は、例えば、1600〜2000℃であり、好ましくは、1900〜2000℃である。
【0032】
回転装置20は、回転軸24と、駆動源26とを備える。
【0033】
回転軸24は、チャンバ12の高さ方向(
図1の上下方向)に延びる。回転軸24の上端は、断熱部材16内に位置する。回転軸24の上端には、坩堝14が配置される。回転軸24の下端は、チャンバ12の外側に位置する。
【0034】
駆動源26は、チャンバ12の下方に配置される。駆動源26は、回転軸24に連結される。駆動源26は、回転軸24の中心軸線周りに、回転軸24を回転させる。
【0035】
昇降装置22は、シードシャフト28と、駆動源30とを備える。
【0036】
シードシャフト28は、チャンバ12の高さ方向に延びる。シードシャフト28の上端は、チャンバ12の外側に位置する。シードシャフト28の下端面には、SiC種結晶32が取り付けられる。
【0037】
駆動源30は、チャンバ12の上方に配置される。駆動源30は、シードシャフト28に連結される。駆動源30は、シードシャフト28を昇降する。駆動源30は、シードシャフト28の中心軸線周りに、シードシャフト28を回転させる。
【0038】
準備工程では、さらに、SiC種結晶32を準備する。SiC種結晶32は、SiC単結晶からなる。好ましくはSiC種結晶32の結晶構造は、製造しようとするSiC単結晶の結晶構造と同じである。例えば、4H多形のSiC単結晶を製造する場合、4H多形のSiC種結晶32を用いる。4H多形のSiC種結晶32を用いる場合、結晶成長面は、(0001)面または(000−1)面であるか、又は、(0001)面または(000−1)面から8°以下の角度で傾斜した面であることが好ましい。この場合、SiC単結晶が安定して成長する。
【0039】
製造装置10と、SiC種結晶32とを準備したら、SiC種結晶32をシードシャフト28の下端面に取り付ける。
【0040】
次に、チャンバ12内の回転軸24上に、坩堝14を配置する。このとき、坩堝14は、Si−C溶液15の原料を収容している。原料は、例えば、Siのみ、又は、Siと他の金属元素との混合物である。金属元素は、例えば、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、バナジウム(V)、鉄(Fe)等である。原料の形態としては、例えば、複数の塊や粉末等がある。
【0041】
[生成工程]
次に、Si−C溶液15を生成する。先ず、チャンバ12内に不活性ガスを充填する。そして、高周波コイル18により、坩堝14内のSi−C溶液15の原料を融点以上に加熱する。坩堝14が黒鉛からなる場合、坩堝14を加熱すると、坩堝14から炭素が融液に溶け込み、Si−C溶液15が生成される。坩堝14の炭素がSi−C溶液15に溶け込むと、Si−C溶液15内の炭素濃度は飽和濃度に近づく。
【0042】
[成長工程]
次に、駆動源30により、シードシャフト28を降下し、SiC種結晶32をSi−C溶液15に接触させる。SiC種結晶32をSi−C溶液15に接触させたら、高周波コイル18により、Si−C溶液15を結晶成長温度に保持する。さらに、Si−C溶液15におけるSiC種結晶32の近傍を過冷却して、SiCを過飽和状態にする。
【0043】
SiC種結晶32の近傍を過冷却する方法は、特に限定されない。例えば、高周波コイル18を制御して、SiC種結晶32の近傍領域の温度を他の領域の温度よりも低くする。また、SiC種結晶32の近傍を冷媒により冷却してもよい。具体的には、シードシャフト28の内部に冷媒を循環させる。冷媒は、例えば、ヘリウム(He)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスである。シードシャフト28内に冷媒を循環させれば、SiC種結晶32が冷却される。SiC種結晶32が冷えれば、SiC種結晶32の近傍領域も冷える。
【0044】
SiC種結晶32の近傍領域のSiCを過飽和状態にしたまま、SiC種結晶32とSi−C溶液15(坩堝14)とを回転する。シードシャフト28を回転することにより、SiC種結晶32が回転する。回転軸24を回転することにより、坩堝14が回転する。SiC種結晶32の回転方向は、坩堝14の回転方向と逆方向でも良いし、同じ方向でも良い。また、回転速度は一定であっても良いし、変動しても良い。このとき、Si−C溶液15に接触されたSiC種結晶32の結晶成長面34にSiC単結晶が生成し、成長する。なお、シードシャフト28は、回転しなくても良い。
【0045】
成長時間を長くすることにより、結晶成長面34上に形成されるSiC単結晶の厚みを厚くすることができる。成長時間を長くすると、Si−C溶液15の液面が低下する。その理由は、SiC種結晶34の結晶成長面34上において、SiC単結晶の成長が進行するからである。その他の理由としては、例えば、Si−C溶液15が蒸発することや、坩堝14からSi−C溶液15中に炭素が溶け出すことで坩堝14の減肉が起こり、坩堝14の容積が増加すること等がある。
【0046】
Si−C溶液15の液面が低下すると、高周波コイル18によるSi−C溶液15の加熱条件が変化する。以下、この点について説明する。
【0047】
高周波コイル18は、高さ方向に延びる空芯コイルである。高周波コイル18による加熱温度は、高さ方向で中心のほうが端よりも高くなる。つまり、高周波コイル18による加熱温度は、高周波コイル18の高さ方向で異なる。原料を誘導加熱してSi−C溶液15を生成するとき、例えば、高周波コイル18による加熱温度をSi−C溶液15の液面で最も高くなるようにする。SiC単結晶の成長が進行すると、上述のように、Si−C溶液15の液面が低下する。このとき、高周波コイル18によるSi−C溶液15の液面の加熱温度は、初期の加熱温度とは異なる。したがって、Si−C溶液15の液面が低下すると、高周波コイル18によるSi−C溶液15の加熱条件が変化する。
【0048】
高周波コイル18によるSi−C溶液15の加熱条件が変化すると、SiC種結晶32の近傍領域の温度が変化する。SiC種結晶32の近傍領域の温度が変化すると、当該領域におけるSiCの過飽和度が変化する。この過飽和度が適正な範囲を外れると、安定したSiC単結晶の成長が阻害される。その結果、SiC単結晶の質が低下する。
【0049】
本製造方法では、SiC単結晶を成長させるときに、Si−C溶液15の液面と高周波コイル18の高さ中心C1との高さ方向における離隔距離の変動幅D1を所定の範囲内に維持する。そのため、高周波コイル18によるSi−C溶液15の加熱条件が変化し難くなる。その結果、SiC種結晶32の近傍領域の温度、延いては、当該領域におけるSiCの過飽和度が変化し難くなる。つまり、上記製造方法によれば、安定したSiC単結晶の成長が実現される。その結果、SiC単結晶の質が向上する。
【0050】
結晶成長時の液面151と高さ中心C1との高さ方向における離隔距離H1は、結晶成長開始初期の液面152と高さ中心C1との高さ方向における離隔距離H2より小さくなってもよいし、大きくなってもよい。成長時の離隔距離H1が初期の離隔距離H2よりも小さくなる場合、変動幅D1は、好ましくは1.0mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下であり、さらに好ましくは0.2mm以下である。成長時の離隔距離H1が初期の離隔距離H2よりも大きくなる場合、変動幅D1は、好ましくは1.0mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下であり、さらに好ましくは0.2mm以下である。
【0051】
理解を容易にするため、
図1では、高さ中心C1は結晶成長開始初期の液面152よりも高い位置にある。結晶成長開始初期において、高さ中心C1は液面152と同じ高さにあってもよい。
【0052】
変動幅D1を上記範囲内にするには、坩堝14及び高周波コイル18の少なくとも一方を他方に対して相対移動させる。具体的な方法としては、(1)高周波コイル18を坩堝14に対して高さ方向に相対移動させる方法や、(2)坩堝14を高周波コイル18に対して高さ方向に相対移動させる方法や、(3)高周波コイル18を坩堝14に対して高さ方向に相対移動させ、且つ、坩堝14を高周波コイル18に対して高さ方向に相対移動させる方法がある。
【0053】
変動幅D1を上記範囲内にするには、例えば、Si−C溶液15の液面の位置(高さ方向の位置をいう。以下同じ)を求めればよい。
【0054】
Si−C溶液15の液面の位置を求めるために、例えば、経過時間に応じたSi−C溶液15の液面高さの変動量を設定する工程(設定工程)をさらに備えてもよい。この工程は、上述の成長工程よりも前に実施される。
【0055】
具体的には、先ず、上述の成長工程においてSiC単結晶を成長させるときと同じ成長条件でサンプルSiC単結晶を成長させる。
【0056】
続いて、サンプルSiC単結晶の成長に用いられるサンプルSi−C溶液の液面の位置を求める。具体的には、サンプル成長開始時の液面の位置と、サンプル成長終了後の液面の位置とを求める。
【0057】
サンプル成長開始時の液面の位置を求めるには、例えば、次のような方法がある。先ず、サンプルSi−C溶液を生成する。続いて、サンプルSiC単結晶を成長させずに、生成したサンプルSi−C溶液を凝固させる。そして、凝固させたサンプルSi−C溶液の表面の位置を、サンプル成長開始時の液面の位置に設定する。
【0058】
サンプル成長開始時の液面の位置を求める方法は、上記方法に限定されない。例えば、次のような方法がある。先ず、サンプルSiC単結晶を成長させる。続いて、サンプルSi−C溶液を凝固させる。そして、坩堝の内周面に現れるサンプルSi−C溶液の痕跡を参照して、サンプル成長開始時の液面の位置を設定する。
【0059】
サンプル成長終了後の液面の位置を求めるには、例えば、次のような方法がある。先ず、サンプルSi−C溶液を生成する。続いて、サンプルSi−C溶液を凝固させる。そして、凝固させたサンプルSi−C溶液の表面の位置を、サンプル成長終了後の液面の位置に設定する。
【0060】
続いて、サンプル成長開始時の液面の位置と、サンプル成長修了後の液面の位置との差を求める。このようにして求めた液面位置の差をサンプル成長時間で除する。これにより、単位時間当たりのサンプルSi−C溶液の液面高さの変動量が得られる。これを単位時間当たりのSi−C溶液15の液面高さの変動量に設定する。
【0061】
このようにして設定された、単位時間当たりのSi−C溶液15の液面高さの変動量に対して、結晶成長を開始してからの時間(経過時間)を乗算する。これにより、経過時間に応じたSi−C溶液15の液面高さの変動量が求まる。
【0062】
また、上述のようにして求めた、サンプルSiC単結晶の成長を開始するときのサンプルSi−C溶液の液面の位置を、SiC単結晶40の成長を開始するときのSi−C溶液15の液面の位置に設定する。
【0063】
このようにして設定された、SiC単結晶の成長を開始するときのSi−C溶液15の液面の位置から、上述のようにして求めた、経過時間に応じたSi−C溶液15の液面高さの変動量を減算する。これにより、SiC単結晶を成長させているときのSi−C溶液15の液面の位置が求まる。
【0064】
なお、Si−C溶液15の液面の位置を求める方法は、上述の方法に限定されない。例えば、Si−C溶液15の液面の位置はシミュレーションで求めてもよい。また、SiC単結晶の成長条件を変える場合には、既に取得したデータから推定してもよい。
【0065】
経過時間に応じたSi−C溶液15の液面高さの変動量を求めるために、単位時間当たりのサンプルSi−C溶液の液面高さの変動量を求めなくてもよい。例えば、サンプル成長の開始時及びある経過時間におけるサンプルSi−C溶液の液面の位置から推測して、経過時間に応じたSi−C溶液15の液面高さの変動量を求めてもよい。
【0066】
また、Si−C溶液15の液面の位置を実際に測定してもよい。この場合、Si−C溶液15の液面の位置を測定する方法としては、例えば、非接触で光学的に検出する方法や、Si−C溶液15の液面に治具を接触させて、電気的に検出する方法がある。非接触で光学的に検出する方法は、例えば、三角測量の原理に基づく。Si−C溶液15の液面を直接の反射体とし、Si−C溶液15の液面の位置を求める。電気的に検出する方法は、例えば、チャンバ12とは電気的に絶縁された導電性材料からなる治具(例えば、黒鉛製の棒)を降下させて、Si−C溶液15の液面に接触させる。このとき、治具に電圧を印加しておけば、治具がSi−C溶液15の液面と接触したときに通電する。例えば、治具が一対ある場合には、一対の治具の間で通電する。或いは、一つの治具とシードシャフト28との間で通電させてもよい。通電が発生したときの治具の位置に基づいて、Si−C溶液15の液面の位置を検出する。Si−C溶液15の液面の位置を検出したら、治具を上昇させて、Si−C溶液15の液面から離す。所定時間経過したら、治具を再び降下させて、Si−C溶液15の液面の位置を検出する。このときに用いる治具は、先の検出に用いた治具とは異なる治具であることが好ましい。先の検出に用いた治具では、治具に付着して凝固したSi−C溶液15により、正確な液面位置の検出ができないおそれがあるからである。
【0067】
上述のようにして求めた、成長時のSi−C溶液15の液面の位置と、初期のSi−C溶液15の液面の位置との差を、変動幅D1に設定する。この変動幅D1が、所定の範囲内(具体的には、上述の範囲内)となるように、坩堝14及び高周波コイル18の少なくとも一方を他方に対して相対移動させる。これにより、成長時間が長くなる場合であっても、安定したSiC単結晶の成長を実現できる。
【0068】
なお、本発明の実施の形態による製造方法は、変動幅D1を所定の範囲内にすればよいのであって、上述の製造方法に限定されない。
【0069】
[第2の実施形態]
続いて、本発明の第2の実施形態によるSiC単結晶の製造方法について、説明する。本製造方法は、第1の実施形態による製造方法と比べて、成長工程が異なる。
【0070】
本製造方法では、成長工程において、SiC種結晶32をSi−C溶液15に接触させた後、シードシャフト28を上昇させる。これにより、
図2に示すように、SiC種結晶32の結晶成長面34とSi−C溶液15の液面15Aとの間にメニスカス36を形成する(形成工程)。メニスカス36の高さH3は、結晶成長面34と液面15Aとの差で規定される。
【0071】
本製造方法によれば、結晶成長面34と液面15Aとの間にメニスカス36が形成される。そのため、SiC単結晶の拡大角を調整できる。
【0072】
[第2の実施形態の応用例]
結晶成長時には、Si−C溶液15の液面が低下する。その理由は、SiC種結晶34の結晶成長面34上において、SiC単結晶の成長が進行するからである。その他の理由としては、例えば、Si−C溶液15が蒸発することや、坩堝14からSi−C溶液15中に炭素が溶け出すことで坩堝14の減肉が起こり、坩堝14の容積が増加すること等がある。そのため、Si−C溶液15の液面が低下する速度は、SiC単結晶の成長界面が結晶成長に伴って下方に移動する速度よりも大きくなることが多い。それ故、結晶成長時には、SiC単結晶の成長界面とSi−C溶液15の液面との間に形成されるメニスカスの高さが大きくなることが多い。
【0073】
図3を参照しながら、SiC単結晶の成長に伴うメニスカスの高さの変動について説明する。結晶成長を開始してから所定時間経過すると、厚さTを有するSiC単結晶40が結晶成長面34上に形成される。また、SiC単結晶40が成長するに従って、Si−C溶液15の液面151が結晶成長を開始したときの液面15Aよりも低くなる。SiC単結晶40の成長が進行しているときのメニスカス36の高さH4は、SiC単結晶40の成長界面40AとSi−C溶液15の液面151との差で規定される。
【0074】
上述のように、液面151が低下する速度は、成長界面40Aが下方に移動する速度よりも大きくなることが多い。そのため、結晶成長時のメニスカス36の高さH4は、結晶成長開始初期のメニスカス36の高さH3(
図2参照)よりも大きくなることが多い。
【0075】
メニスカス36の高さH4が初期の高さH3よりも大きくなると、Si−C溶液15におけるSiC種結晶32近傍の過飽和度が大きくなる。過飽和度が大きくなると、インクルージョンが形成され易くなり、SiC単結晶40の質が低下する。
【0076】
本製造方法では、メニスカス36の高さの変動幅(成長時の高さH4と、初期の高さH3との差)を所定の範囲内に維持しながら、SiC単結晶40を成長させる。そのため、メニスカス高さの変動に起因する、SiC種結晶32の近傍領域の過飽和度の変化を抑制できる。その結果、メニスカスを形成して長時間結晶成長を行う場合であっても、安定したSiC単結晶40の成長が実現される。
【0077】
成長時のメニスカス36の高さH4は、初期の高さH3より小さくなってもよいし、大きくなってもよい。成長時のメニスカス36の高さH4が初期の高さH3よりも小さくなる場合、メニスカス36の高さの変動幅(成長時の高さH4と、初期の高さH3との差)は、好ましくは1.0mm以下で且つH3未満であり、より好ましくは0.5mm以下で且つH3未満である。成長時のメニスカス36の高さH4が初期の高さH3よりも大きくなる場合、メニスカス36の高さの変動幅(成長時の高さH4と、初期の高さH3との差)は、好ましくは1.0mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下である。
【0078】
成長時のメニスカス36の高さの変動幅を上記範囲内にするには、シードシャフト28及び坩堝14の少なくとも一方を他方に対して相対移動させる。具体的な方法としては、(1)シードシャフト28を坩堝14に対して接近/離隔させる方法や、(2)坩堝14をシードシャフト28に対して接近/離隔させる方法や、(3)シードシャフト28を坩堝14に対して接近/離隔させ、且つ、坩堝14をシードシャフト28に対して接近/離隔させる方法がある。
【0079】
成長時のメニスカス36の高さH2は、成長界面40Aと液面151との差である。したがって、成長時のメニスカス36の高さH4を求めるには、成長界面40Aの位置と、液面151の位置(高さ方向の位置をいう。以下同じ)とを求めればよい。
【0080】
成長界面40Aの位置を求めるために、例えば、結晶成長を開始してからの時間(経過時間)に応じたSiC単結晶40の成長厚みを設定する工程(設定工程または成長厚み設定工程)をさらに備えてもよい。この工程は、上述の成長工程よりも前に実施される。
【0081】
具体的には、先ず、上述の成長工程においてSiC単結晶40を成長させるときと同じ成長条件でサンプルSiC単結晶を成長させる。続いて、サンプルSiC単結晶の成長厚みをサンプル成長時間で除することにより、単位時間当たりのサンプルSiC単結晶の成長厚みを求める。このようにして得られた単位時間当たりのサンプルSiC単結晶の成長厚みを、単位時間当たりのSiC単結晶40の成長厚みに設定する。
【0082】
このようにして設定された単位時間当たりのSiC単結晶40の成長厚みと、経過時間とを乗算することにより、経過時間に応じたSiC単結晶40の成長厚みTが求まる。つまり、成長界面40Aの位置が求まる。
【0083】
成長界面40Aの位置を求めるために、SiC単結晶40の単位時間当たりの成長厚みを求める必要はない。例えば、ある経過時間におけるSiC単結晶40の成長厚みから他の経過時間におけるSiC単結晶40の成長厚みを推定してもよい。この場合、推定された成長厚みから成長界面40Aの位置が求まる。SiC単結晶40の単位時間当たりの成長厚みや、経過時間に応じたSiC単結晶40の成長厚みは、シミュレーションで求めてもよい。SiC単結晶40の成長条件を変える場合には、既に取得したデータから推定してもよい。
【0084】
液面151の位置を求めるために、例えば、経過時間に応じた液面高さの変動量を設定する工程(設定工程)をさらに備えてもよい。この工程は、上述の成長工程よりも前に実施される。この工程は、例えば、第1の実施形態で説明した、経過時間に応じたSi−C溶液15の液面高さの変動量を設定する工程と同じであってもよい。
【0085】
上述のようにして求めた成長界面40Aの位置と液面151の位置との差を、成長時のメニスカス36の高さH2に設定する。そして、成長時の高さH2と初期の高さH1との差を、成長時におけるメニスカス36の高さの変動幅に設定する。この変動幅が、所定の範囲内(具体的には、上述の範囲内)となるように、シードシャフト28及び坩堝14の少なくとも一方を他方に対して相対移動させる。これにより、メニスカス36を形成して長時間結晶成長する場合であっても、安定したSiC単結晶40の成長を実現できる。
【実施例】
【0086】
SiC単結晶を成長させるときのSi−C溶液の液面と高周波コイルの高さ中心との高さ方向における離隔距離の変動幅を変更して、5種類のSiC単結晶(実施例1、実施例2、実施例3、実施例4及び比較例)を製造した。そして、製造したSiC単結晶の質を評価した。
【0087】
[実施例1の製造条件]
Si−C溶液の原料の組成は、原子比で、Si:Cr=0.6:0.4であった。Si−C溶液におけるSiC種結晶近傍の温度(結晶成長温度)は、1940℃であった。SiC種結晶近傍の温度勾配は、15℃/cmであった。SiC種結晶は、4H多形のSiC種結晶であった。SiC種結晶の結晶成長面は、(000−1)面であった。SiC種結晶をSi−C溶液に接触させた後、SiC種結晶を0.5mm引き上げて、SiC種結晶の結晶成長面とSi−C溶液の液面との間にメニスカスを形成した。つまり、結晶成長を開始するときのメニスカス高さは、0.5mmであった。結晶成長を開始してから5時間経過した後、シードシャフトの位置を変更せずに、高周波コイルを降下させた。高周波コイルの降下速度は、0.2mm/hrであった。高周波コイルの降下速度は、Si−C溶液の液面と高周波コイルの高さ中心との高さ方向における離隔距離の変動幅が0.2mmとなるように設定した。具体的には、同じ製造条件でサンプルSiC単結晶を製造したときのサンプルSi−C溶液の液面低下量に基づいて設定した。成長時間は、25時間であった。つまり、高周波コイルを降下させていた時間は20時間であった。
【0088】
[実施例2の製造条件]
実施例2の製造条件は、実施例1の製造条件と比べて、高周波コイルを降下させなかった。その代りに、坩堝を上昇させた。坩堝の上昇速度は、0.2mm/hrであった。坩堝の上昇速度は、Si−C溶液の液面と高周波コイルの高さ中心との高さ方向における離隔距離の変動幅が0.0mmとなるように設定した。具体的には、同じ製造条件でサンプルSiC単結晶を製造したときのサンプルSi−C溶液の液面低下量に基づいて設定した。
【0089】
[実施例3の製造条件]
実施例3の製造条件は、実施例1の製造条件と比べて、高周波コイルの降下速度が異なった。また、高周波コイルを降下に併せて、坩堝を上昇させた。高周波コイルの降下速度は、0.1mm/hrであった。坩堝の上昇速度は、0.1mm/hrであった。高周波コイルの降下速度及び坩堝の上昇速度は、Si−C溶液の液面と高周波コイルの高さ中心との高さ方向における離隔距離の変動幅が0.2mmとなるように設定した。具体的には、同じ製造条件でサンプルSiC単結晶を製造したときのサンプルSi−C溶液の液面低下量に基づいて設定した。
【0090】
[実施例4の製造条件]
実施例4の製造条件は、実施例1の製造条件と比べて、シードシャフトを降下させた。シードシャフトの降下は、高周波コイルの降下に併せて行った。シードシャフトの降下速度は、0.025mm/hrであった。シードシャフトの降下速度は、メニスカス高さの変動幅が0.3mmとなるように設定した。具体的には、同じ製造条件でサンプルSiC単結晶を製造したときの、サンプルSiC単結晶の成長厚み、及び、サンプルSi−C溶液の液面低下量に基づいて設定した。
【0091】
[比較例の製造条件]
比較例の製造条件は、実施例1の製造条件と比べて、高周波コイルを降下させなかった。つまり、高周波コイル、坩堝及びシードシャフトは、何れも、同じ位置にあった。
【0092】
[評価方法]
SiC単結晶を切断し、良好に成長したSiC単結晶の成長厚みを測定した。具体的には、研磨した切断面を光学顕微鏡で観察し、SiC多結晶を除き、さらに、溶媒の取り込み(インクルージョン)のないことが確認されたSiC単結晶の成長厚みを測定した。多結晶及びインクルージョンの確認は、倍率100倍で行った。SiC単結晶の成長厚みに基づいて、SiC単結晶の質を評価した。その結果を、表1に示す。
【0093】
表1では、SiC単結晶の質の評価が、「×」、「○」及び「◎」で示されている。「×」は、SiC単結晶の成長厚みが2.5mm未満の場合を示す。「○」は、成長厚みが2.5mm以上で且つ3.5mm未満の場合を示す。「◎」は、成長厚みが3.5mm以上の場合を示す。
【0094】
Si−C溶液の液面と高周波コイルの高さ中心との高さ方向における離隔距離の変動幅、及び、メニスカス高さの変動幅を求めた。その結果を、表1に示す。なお、これらの変動幅を求める際に用いたSi−C溶液の液面の低下量は、坩堝の内周面に形成されたSi−C溶液の痕跡に基づいて測定した。
【0095】
Si−C溶液の液面と高周波コイルの高さ中心との高さ方向における離隔距離の変動幅については、以下のようにして求めた。実施例1,4については、高周波コイルの降下量とSi−C溶液の液面低下量との差を上記変動幅とした。実施例2については、坩堝の上昇量とSi−C溶液の液面低下量との差を上記変動幅とした。実施例3については、高周波コイルの坩堝に対する相対移動距離と、Si−C溶液の液面低下量との差を上記変動幅とした。比較例については、Si−C溶液の液面低下量を上記変動幅とした。
【0096】
メニスカス高さの変動幅については、以下のようにして求めた。実施例1及び比較例については、Si−C溶液の液面低下量からSiC単結晶の成長厚みを減算した結果を、メニスカス高さの変動幅とした。実施例2については、Si−C溶液の液面低下量からSiC単結晶の成長厚み及び坩堝の上昇量を減算した結果を、メニスカス高さの変動幅とした。実施例3については、Si−C溶液の液面低下量からSiC単結晶の成長厚み及びシードシャフトの降下量を減算した結果を、メニスカス高さの変動幅とした。
【0097】
【表1】
【0098】
実施例1〜4は、比較例と比べて、製造されたSiC単結晶の表面が平坦であった。比較例は、製造されたSiC単結晶の表面にSiC多結晶が成長した。実施例1〜4は、比較例と比べて、製造されたSiC単結晶の厚みが厚かった。実施例4は、実施例1〜3よりも、製造されたSiC単結晶の厚みが大きかった。本発明の製造方法によれば、SiC単結晶の質が向上するのを確認できた。
【0099】
以上、本発明の実施形態について、詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、上述の実施形態によって、何等、限定されない。
【0100】
例えば、SiC単結晶を成長させているときに、Si−C溶液の原料を追加してもよい。この場合、Si−C溶液の液面は上昇する。本発明は、Si−C溶液の液面が上昇する場合にも適用できる。