(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。同一又は対応する構成要素には、同一の参照符号が使用される。
【0012】
図1は、第1の実施形態に係るガスレーザ発振器10の構成例を示している。ガスレーザ発振器10は、例えば板金などのワークを切断するレーザ加工装置(図示せず)において使用される。ガスレーザ発振器10は、ガス容器12と、ガス圧センサ14と、電源16と、制御装置30と、を備えている。
【0013】
ガス容器12は、レーザを発振する媒体として作用するレーザガスを収容する。レーザガスは、例えば二酸化炭素、窒素、ヘリウムなどを所定の組成比で含む混合ガスである。ガス容器12には、例えば−100kPa〜−70kPa(ゲージ圧)のレーザガスが収容されている。
【0014】
ガス容器12には、レーザガスを収容するボンベなどの形態を有する交換可能なガス供給源18が供給制御弁22を介して接続されている。また、ガス容器12には、負圧を発生してガス容器12からレーザガスを排出する真空ポンプ20が排出制御弁24を介して接続されている。
【0015】
供給制御弁22は、開度を調節することによってガス供給源18からガス容器12に供給されるレーザガスの量を制御する。排出制御弁24は、開度を調節することによってガス容器12から排出されるレーザガスの量を制御する。供給制御弁22及び排出制御弁24の開度は、制御装置30によってそれぞれ制御される。供給制御弁22及び排出制御弁24は、例えば入力される電流又は電圧に応じて開度を調整可能な公知の電磁制御弁である。レーザガスの供給量及び排出量を高精度で制御できるように、供給制御弁22及び排出制御弁24の開度は概ね連続的に調整可能であることが好ましい。
【0016】
ガス容器12内のレーザガスは、所定の電力が付与されたときに安定的に放電できるように予め定められる圧力(以下、「基準ガス圧」と称することがある。)を維持するように制御される。ガス容器12内のレーザガスの圧力は、ガス容器12に供給されるレーザガスの量、及びガス容器12から排出されるレーザガスの量をそれぞれ調整することによって制御される。例えば、ガス容器12内への供給量がガス容器12からの排出量を上回ると、レーザガスの圧力は増大する。逆に、ガス容器12からの排出量がガス容器12内への供給量を上回ると、レーザガスの圧力は低下する。
【0017】
図5は、レーザガスの供給量及び排出量並びにレーザガスの圧力の関係性を示すグラフである。グラフの横軸はレーザガスの供給量を表しており、グラフの縦軸はレーザガスの排出量を表している。グラフ中の直線L1は、レーザガスの圧力が一定に維持される条件を表している。すなわち、レーザガスの供給量と排出量が等しいときにレーザガスの圧力は一定に維持される。
【0018】
直線L1の右側の領域R1においては、レーザガスの供給量が排出量を上回っている。したがって、領域R1の範囲ではガス容器12内の圧力は増大する。他方、直線L1の左側の領域R2においては、レーザガスの供給量が排出量を下回っており、ガス容器12内の圧力は低下する。
【0019】
図5の「A1」及び「B1」は、レーザガスの消費量の目標値(以下、「目標消費量」と称することがある。)に対応する供給量及び排出量をそれぞれ表している。なお、「レーザガスの消費量」は、ガスレーザ発振器10において単位時間当りに消費されるレーザガスの消費量である。例えば、ガス容器12内のレーザガスの圧力が一定に維持される場合、レーザガスの消費量は、単位時間当りにガス容器12に供給されるレーザガスの量、及びガス容器12から排出されるレーザガスの量にそれぞれ等しい。本明細書では、レーザガスの排出量をレーザガスの消費量とみなして説明する。
【0020】
再び
図1を参照すると、ガス圧センサ14は、ガス容器12内のレーザガスの圧力を検出する。ガス圧センサ14の検出値は制御装置30に入力され、ガス容器12内のレーザガスの圧力を制御するのに利用される。
【0021】
電源16は、ガス容器12内のレーザガスを励起する励起エネルギとしての電力を放電用電極に供給し、ガス容器12内で放電を生じさせる。ガス容器12内のレーザガスは放電によって励起され、光を発生する。発生された光は、図示されない共振器によって増幅され、レーザとしてガスレーザ発振器10から出力される。電源16は公知の構成を有している。例えば、電源16は、制御装置30からの制御信号に応じてDC電流を出力する電源ユニットと、入力側及び負荷側のインピーダンスを整合させるとともに、電源ユニットから出力されるDC電流に応じて電圧を放電用電極に印加するマッチングユニットと、を備えている。
【0022】
制御装置30は、CPUと、ROMと、RAMと、入力デバイス及び表示デバイスなどの外部機器とデータ及び信号の送受信を可能にするインターフェイスと、を備えたデジタルコンピュータである。
図2は、制御装置30の機能ブロック図である。図示されるように、制御装置30は、ガス圧検出部31と、記憶部32と、ガス圧制御部33と、ガス消費量設定部34と、ガス消費量制御部35と、を備えている。
【0023】
ガス圧検出部31は、ガス圧センサ14によってガス容器12内のレーザガスの圧力を検出する。ガス圧検出部31によって検出されたレーザガスの圧力は、ガス圧制御部33に入力される。
【0024】
記憶部32は、レーザガスの圧力の制御目標値である基準ガス圧を記憶する。また、記憶部32は、ガス容器12内のレーザガスの圧力、排出制御弁24の開度、及び排出制御弁24を通過して排出されるレーザガスの排出量の関係性を示すデータ(以下、「関係性データ」と称することがある。)を記憶する。
【0025】
図6Aは、供給制御弁22に付与される電圧と、レーザガスの供給量との関係性を示すグラフである。
図6Bは、排出制御弁24に付与される電圧と、レーザガスの排出量との関係性を示すグラフである。前述したように、供給制御弁22及び排出制御弁24の開度は、入力電圧又は入力電流に応じて調整される。
図6A及び
図6Bには、入力電圧と、レーザガスの供給量及び排出量との関係性がそれぞれ示されているものの、入力電流と、レーザガスの供給量及び排出量との間にも同様の関係性が成立する。
【0026】
図6A及び
図6Bに示されるように、入力電圧がオフセット電圧V0,V0’をいったん上回ると、入力電圧V1,V2の増大に伴ってレーザガスの供給量及び排出量は増大する。オフセット電圧V0,V0’は、供給制御弁22及び排出制御弁24の各々の個体差に応じて変動しうる値である。本実施形態に係るガスレーザ発振器10においては、レーザガスの圧力と、排出制御弁24に付与される入力電圧V2と、レーザガスの排出量と、の関係は、試験を通じて予め決定されている。なお、
図6Aの入力電圧「VA」及び
図6Bの入力電圧「VB」は、目標消費量に対応する入力電圧をそれぞれ示している。
【0027】
図7は、ガス容器12内のレーザガスの圧力、排出制御弁24の開度、及びレーザガスの排出量の関係性を示している。グラフ中の「40%」、「60%」、「80%」、「100%」は、それぞれ排出制御弁24の開度を示している。このように、レーザガスの排出量は、レーザガスの圧力及び排出制御弁24の開度に応じて決定され、それらの関係性が記憶部32に記憶される。
【0028】
再び
図2を参照して、ガス圧制御部33は、ガス圧検出部31によって取得されるガス容器12内のレーザガスの圧力が、記憶部32に記憶される基準ガス圧に近づくように(基準ガス圧から所定範囲内に収まるように)、供給制御弁22及び排出制御弁24に印加される電圧又は電流を制御する。例えば、検出されたレーザガスの圧力が基準ガス圧よりも低い場合、ガス容器12内のレーザガスの圧力が増大するように、供給制御弁22の開度を増大させるか、又は排出制御弁24の開度を低下させるか、或いはそれら両方を同時に実行する。
【0029】
ガス消費量設定部34は、レーザガスの目標消費量を設定する。本実施形態において、目標消費量は一定の値として設定される。目標消費量は、例えばレーザガスの劣化による影響を概ね排除できるように設定される。「レーザガスの劣化」とは、例えば、ガス容器12内のレーザガスが変質した状態を意味する。「レーザガスの劣化」は、例えばガス容器12内で生じる放電によってレーザガスを構成する物質の分子(例えば窒素分子又は二酸化炭素分子)が電離する結果として起こりうる。多数のレーザガスの構成分子が電離すると、レーザガスが励起エネルギを蓄積できなくなり、レーザ出力が低下する。したがって、ガスレーザ発振器10においては、目標消費量(例えば、1時間当り8リットル〜12リットル)のレーザガスがガス容器12から排出され、変質したレーザガスが置換されるようになっている。
【0030】
ガス消費量制御部35は、レーザガスの排出量を目標消費量に近づけるように、供給制御弁22及び排出制御弁24の開度を制御する。レーザガスの排出量は、記憶部32に記憶される関係性データに基づいて、ガス容器12内のレーザガスの圧力と、排出制御弁24の開度と、から決定される。
【0031】
このように、本実施形態に係るガスレーザ発振器10によれば、ガス圧制御部33及びガス消費量制御部35の両方によって、供給制御弁22及び排出制御弁24の開度がそれぞれ制御される。
図8は、供給制御弁22及び排出制御弁24の制御方法の例を示す表である。本実施形態によれば、次に詳細に述べるように、レーザガスの圧力を基準ガス圧に近づけるよう制御しながら、かつレーザガスの排出量を目標消費量に近づけるように制御する。
【0032】
(a)ガス容器12内のレーザガスの圧力が基準ガス圧よりも高い場合
この場合、排出制御弁24に対する入力電圧V2を増大させて、レーザガスの排出量を増大させる。さらに、レーザガスの排出量が目標消費量よりも多い場合、供給制御弁22に対する入力電圧V1を減少させる。
【0033】
(b)ガス容器12内のレーザガスの圧力が基準ガス圧よりも低い場合
この場合、供給制御弁22に対する入力電圧V1を増大させて、レーザガスの供給量を増大させる。さらに、レーザガスの排出量が目標消費量よりも多い場合、排出制御弁24に対する入力電圧V2を減少させる。
【0034】
(c)ガス容器12内のレーザガスの圧力が基準ガス圧に等しく、かつレーザガスの排出量が目標消費量よりも多い場合
この場合、供給制御弁22に対する入力電圧V1及び排出制御弁24に対する入力電圧V2をそれぞれ減少させる。
【0035】
(d)ガス容器12内のレーザガスの圧力が基準ガス圧に等しく、かつレーザガスの排出量が目標消費量よりも少ない場合
この場合、供給制御弁22に対する入力電圧V1及び排出制御弁24に対する入力電圧V2をそれぞれ増大させる。
【0036】
なお、「レーザガスの圧力が基準ガス圧に等しい」とは、ガス圧検出部31によって検出されるレーザガスの圧力が基準ガス圧から所定範囲内である場合を含む。
【0037】
本実施形態に係るガスレーザ発振器10によれば、次のような効果が得られる。
(1)レーザガスの供給量及び排出量をそれぞれ制御するために、供給制御弁22及び排出制御弁24が設けている。それにより、ガス容器12内のレーザガスの圧力が基準ガス圧とは異なる場合に、レーザガスの圧力を迅速に基準ガス圧に近づけられる。例えば、レーザガスの圧力が基準ガス圧よりも高い場合、供給制御弁22の開度を低下させるとともに、排出制御弁24の開度を増大させることができる。すなわち、レーザガスの供給量及び排出量の両方を調整できるので、レーザガスの圧力を調整できる。
【0038】
(2)排出制御弁24の開度、レーザガスの圧力、及びレーザガスの排出量(すなわち、レーザガスの消費量)の関係性が予め記憶部32に記憶されている。したがって、レーザガスの供給量及び排出量を検出するセンサを使用しなくても、レーザガスの消費量を取得できるようになり、安価なガスレーザ発振器を提供できる。
【0039】
(3)関係性データに従って、レーザガスの圧力及び排出制御弁24の開度から、レーザガスの排出量を取得できるので、レーザガスの圧力を制御するのと同時にレーザガスの消費量を制御できる。
【0040】
第1の実施形態において、ガス消費量設定部34は、目標消費量を一定値として設定する。しかしながら、別の実施形態において、ガス消費量設定部34は、ガスレーザ発振器10の稼動状態に応じて目標消費量を設定するように構成されてもよい。例えばガスレーザ発振器10がスタンバイ状態であるときなど、稼働率が低い場合、レーザガスの変質は生じにくい。したがって、レーザガスの劣化がガスレーザ発振器10の性能に対して与える影響は限定的であり、ガス容器12から排出されるレーザガスの量は少なくてもよい。
【0041】
例えば、ガスレーザ発振器10の稼働率が100%のとき、ガス消費量設定部34は、レーザガスの目標消費量を1時間当り8リットル〜12リットルの範囲に設定する。また、ガスレーザ発振器10の稼働率が0%のとき、ガス消費量設定部34は、レーザガスの目標消費量を1時間当り3リットル〜7リットルの範囲に設定する。
【0042】
また、ガス消費量設定部34は、電源16からの励起エネルギの供給と遮断が頻繁に切替えられる場合に、目標消費量を低く設定するように構成されてもよい。励起エネルギの供給時及び遮断時には、レーザガスの温度が瞬間的に変化し、結果的にレーザガスの圧力が変化するので、レーザガスの圧力制御を実行するために要求されるレーザガス消費量が一時的に増大する。しかしながら、本実施形態に従って目標消費量を低く設定することによって、ガスレーザ発振器10の稼働状態が安定するまでの間、レーザガスの無駄な消費を抑制できる。
【0043】
このように、レーザガスの目標消費量をガスレーザ発振器10の稼働状況に応じて変更することによって、レーザガスが無駄に消費されるのを防止でき、ガスレーザ発振器10の運用コストを削減できる。
【0044】
図3は、第2の実施形態に係るガスレーザ発振器10の構成を示す図である。本実施形態によれば、レーザガスの状態に応じてレーザガスの消費量を制御する。本実施形態のガスレーザ発振器10は、前述した実施形態の構成に加えて、励起エネルギをレーザガスに付与する際に電源16によって印加される電圧を検出する電圧センサ26をさらに備えている。また、
図2と
図4を参照すると分かるように、制御装置30は、比較部36をさらに備えている。
【0045】
ガスレーザ発振器10が長時間、例えば1日以上停止していてレーザガスの交換が実行されない状態が続くと、不純物がレーザガスに混入する。ここで、「不純物」とは、例えば水分が混入した、又はヘリウムの組成比が低下したレーザガスのことを意味する。特に小さい分子量を有するヘリウム、水などは、シール部材(Oリング、樹脂製の配管要素)を通過してガス容器12の外部に漏出したり、ガス容器12内に混入する場合がある。このような不純物の混入は、ガスレーザ発振器10が稼働中においては無視できる量である。しかしながら、長時間停止した後のガスレーザ発振器10を再起動させるときに、レーザガスに含まれる不純物によって励起エネルギの供給作用が影響を被る。具体的には、励起エネルギを付与するのに必要な電源16の電圧又は電流が基準値よりも増加し、放電が安定しなくなる。
【0046】
そこで、本実施形態においては、基準電圧と、電源16から実際に印加される電圧とを比較することによって、レーザガスに含まれる不純物の影響を評価し、それに応じてレーザガスの目標消費量を変更する。
【0047】
本実施形態において、記憶部32は、励起エネルギを付与する際の基準となる基準電圧を記憶している。比較部36は、記憶部32に記憶される基準電圧と、電圧センサ26によって検出される電圧とを比較する。ガス消費量設定部34は、比較部36の比較結果に応じて、レーザガスの目標消費量を設定する。具体的には、ガス消費量設定部34は、検出電圧が基準電圧よりも大きい場合、レーザガスに不純物が含まれていると判定して、レーザガスの目標消費量を増大させる。それにより、不純物を含むレーザガスの排出が促進されるようになる。
【0048】
本実施形態によれば、基準電圧と検出電圧とを比較する比較部36によって、ガス容器12内のレーザガスに不純物が混入していることを自動的に検出する。そして、検出結果に基づいて目標消費量を設定し、不純物を含むレーザガスをガス容器12から排出する。したがって、長時間停止した後であってもガスレーザ発振器10を安定的に起動できる。なお、基準電圧と検出電圧を比較してレーザガスの目標消費量を調整する実施形態について説明したものの、電圧の代わりに電流をモニタして、基準電流と検出電流との比較結果に基づいてレーザガスの目標消費量を調整するようにしてもよい。
【0049】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、当業者であれば、他の実施形態によっても本発明の意図する作用効果を実現できることを認識するであろう。特に、本発明の範囲を逸脱することなく、前述した実施形態の構成要素を削除又は置換することができるし、或いは公知の手段をさらに付加することができる。また、本明細書において明示的又は暗示的に開示される複数の実施形態の特徴を任意に組合せることによっても本発明を実施できることは当業者に自明である。