特許第5878056号(P5878056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立マクセル株式会社の特許一覧

特許5878056ハードコート基材及びそれを用いた透明導電性フィルム
<>
  • 特許5878056-ハードコート基材及びそれを用いた透明導電性フィルム 図000006
  • 特許5878056-ハードコート基材及びそれを用いた透明導電性フィルム 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5878056
(24)【登録日】2016年2月5日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】ハードコート基材及びそれを用いた透明導電性フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/02 20060101AFI20160223BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20160223BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20160223BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20160223BHJP
【FI】
   B32B7/02 103
   B32B9/00 A
   H01B5/14 A
   H01B5/14 B
   C23C14/34 N
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-72314(P2012-72314)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-202844(P2013-202844A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】日立マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】光本 欣正
【審査官】 岸 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−031769(JP,A)
【文献】 特開2012−025066(JP,A)
【文献】 特開2011−084075(JP,A)
【文献】 特許第4364938(JP,B2)
【文献】 国際公開第2010/140275(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/036527(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C23C14/00−14/58
H01B 5/00− 5/16
G02B 1/10− 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電層と、ハードコート基材とを含む透明導電性フィルムであって、
前記透明導電層は、パターニングされており、
前記ハードコート基材は、透明基材と、易接着層と、屈折率調整層と、低屈折率層とをこの順で含み、
前記低屈折率層の波長550nmにおける屈折率が、1.35〜1.45であり、
前記低屈折率層の厚さが、5〜30nmであり、
前記屈折率調整層の波長550nmにおける屈折率が、1.60〜1.90であり、
前記屈折率調整層の厚さが、0.3〜5μmであり、
前記易接着層の波長550nmにおける屈折率が、1.56〜1.70であり、
前記透明導電層は、前記低屈折率層の上に配置され、
前記透明導電層の波長550nmにおける屈折率が、1.8〜2.3であり、
前記透明導電層の厚さが、10〜30nmであることを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記透明導電層からなるパターン部の反射色度と、前記透明導電層が除去された非パターン部の反射色度との色差(△E)が、5以下である請求項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記屈折率調整層は、金属酸化物と紫外線硬化型樹脂とからなり、前記金属酸化物は、酸化ジルコニウム又は酸化チタンである請求項1又は2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
前記透明基材の、前記屈折率調整層が形成されている側とは反対側に、アンチブロッキング性を有する機能付与層が更に配置されている請求項のいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターニングされた透明導電性フィルムのパターン部と非パターン部とのパターニング痕を不可視にし、かつ干渉ムラが少なく、タッチパネル用途において見栄えの良い透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルには検出方法の違いにより、抵抗膜方式、静電容量方式、光学式、超音波方式等がある。中でも近年、スマートフォンやタブレット型パーソナルコンピュータ等においてマルチタッチが可能な静電容量方式のタッチパネルの市場が増大している。静電容量方式、特に投影型のタッチパネルは、パターニングされた透明導電性フィルムが対になって構成されており、タッチした部分の静電容量の変化を検知して位置情報を検出する方式である。静電容量方式に使用される透明導電性フィルムは透明導電層を有するパターン部と非パターン部とが存在することとなり、そのため、パターン部と非パターン部とで膜構成が異なることから、目視にてパターニング痕が認められ、タッチパネルのような表示素子として見た場合に見栄えがよくないという問題点があった。
【0003】
上記問題に対し、特許文献1では、透明導電層に少なくとも2種のアンダーコート層を配置し、それらのアンダーコート層の屈折率及び厚さをそれぞれ特定の値に設定することで、表示素子としての見栄えを改良した透明導電性フィルムが提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、透明導電層にハードコート層及び特定の屈折率、厚さに設定した中間層を設けることで、同様に表示素子として見栄えの良い透明導電性フィルムが提案されている。
【0005】
また、特許文献3では、透明導電膜を構成するハードコートの屈折率を調整することで、パターニングされた透明導電膜であってもパターン形状を目立たなくする透明導電性フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4667471号公報
【特許文献2】特開2012−25066号公報
【特許文献3】特開2010−208169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では透明基材フィルムから第1層目のアンダーコート層の屈折率が1.5〜1.7とあり、その屈折率の範囲では透明導電層のパターニング処理を行った際にパターン部と非パターン部の色差(△E)の改善が不十分である。また、特許文献1の請求項1には、透明なフィルム基材から最も離れたアンダーコート層も透明導電層と同様にパターン化されている、と記載されている。これはパターニング工程が少なくとも2工程必要となり、工程の複雑化やコストアップが懸念されるだけでなく、アンダーコート層がパターニングされずに残っていると、パターン部と非パターン部での色差が十分に改善されないことを示唆している。更に、アンダーコート層を含めた透明導電層のトータルの光学的厚みが208〜554nmとあり、透明導電処理層の反対面にハードコート等の機能付与層を形成した場合、両面の厚みバランスが不均一となりやすく、透明導電性フィルムをアニール処理するとフィルムのカールが発生してしまいフィルム加工時の問題が懸念される。
【0008】
一方、特許文献2では、透明基材フィルム上にハードコート層、中間層及び錫ドープ酸化インジウム層(ITO層)を積層することで見栄えが改良されるとあるが、ハードコート層、中間層、及び裏面のハードコート層を含めると少なくとも3層のコーティング工程が必要となり、コスト面を考えると問題となり得る。また、ITO層をはじめとする透明導電層の形成時には、ITO層の下に密着性の向上及び視認性の向上のために酸化ケイ素等の低屈折率層が形成されることが多いが、上記構成を想定した場合、十分にパターン部と非パターン部との色差が改善されるとは言い難い。
【0009】
また、特許文献3では、透明導電膜、アンダーコート層、ハードコート層、透明基板の順に積層された透明導電膜及びアンダーコート層の表面を覆う被覆層を備えた透明面状体において、ハードコート層の屈折率を最適化することで透明導電膜のパターン形状を目立たなくするとある。具体的にはハードコート層の屈折率を1.60以上1.80以下にすることでパターン形状の視認性の改善を図っているが、一般的に基板上の屈折率を高屈折率化すると、基板との屈折率差が大きくなり、塗膜−基板間での光干渉による干渉ムラが目立ちやすくなる。そのため、特許文献3の実施例に明記されているような一般的な屈折率の易接着層を有する透明基板を用いた場合に、上記透明面状体を表示素子の部材として使用すると外観不良をもたらすことが懸念される。
【0010】
そこで、本発明では、上記従来技術の問題点を解決し、透明導電層のパターニング形状が目立たず、表示素子とした場合にも非常に見栄えの良い透明導電性フィルムを低コストで提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のハードコート基材は、透明基材と、易接着層と、屈折率調整層とをこの順で含むハードコート基材であって、前記屈折率調整層の波長550nmにおける屈折率が、1.60〜1.90であり、前記屈折率調整層の厚さが、0.3〜5μmであり、前記易接着層の波長550nmにおける屈折率が、1.56〜1.70であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の透明導電性フィルムは、透明導電層と、ハードコート基材とを含む透明導電性フィルムであって、前記透明導電層は、パターニングされており、前記ハードコート基材は、透明基材と、易接着層と、屈折率調整層と、低屈折率層とをこの順で含み、前記低屈折率層の波長550nmにおける屈折率が、1.35〜1.45であり、前記低屈折率層の厚さが、5〜30nmであり、前記屈折率調整層の波長550nmにおける屈折率が、1.60〜1.90であり、前記屈折率調整層の厚さが、0.3〜5μmであり、前記易接着層の波長550nmにおける屈折率が、1.56〜1.70であり、前記透明導電層は、前記低屈折率層の上に配置され、前記透明導電層の波長550nmにおける屈折率が、1.8〜2.3であり、前記透明導電層の厚さが、10〜30nmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、透明導電層のパターニング形状が目立たず、表示素子とした場合にも非常に見栄えの良い透明導電性フィルムを低コストで提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の透明導電性フィルムの一例を示す模式断面図である。
図2】本発明の透明導電性フィルムの他の例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のハードコート基材は、透明基材と、易接着層と、屈折率調整層とをこの順で備え、上記屈折率調整層の波長550nmにおける屈折率が1.60〜1.90であり、上記屈折率調整層の厚さが0.3〜5μmであり、上記易接着層の波長550nmにおける屈折率が1.56〜1.70であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の透明導電性フィルムは、透明導電層と、ハードコート基材とを備え、上記ハードコート基材は、透明基材と、易接着層と、屈折率調整層とをこの順で備え、上記屈折率調整層の波長550nmにおける屈折率が1.60〜1.90であり、上記屈折率調整層の厚さが0.3〜5μmであり、上記易接着層の波長550nmにおける屈折率が1.56〜1.70であり、上記透明導電層は、上記屈折率調整層の上に配置され、上記透明導電層の波長550nmにおける屈折率が1.8〜2.3であり、上記透明導電層の厚さが10〜30nmであることを特徴とする。
【0017】
上記ハードコート基材を用いた上記透明導電性フィルムは、透明導電層のパターニング形状が目立たず、表示素子とした場合にも非常に見栄えの良いものとなる。
【0018】
以下、図面に基づき本発明を詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の第1の形態の透明導電性フィルムの一例を示す模式断面図である。図1において、本発明の透明導電性フィルム10は、透明基材11、易接着層12、屈折率調整層13、低屈折率層14及び透明導電層15がこの順に積層されて構成されている。また、透明導電層15は、パターニングされ、透明導電層15からなるパターン部15aと、透明導電層15が除去された非パターン部15bとから構成されている。図1では、透明基材11、易接着層12及び屈折率調整層13が本発明のハードコート基材に該当する。
【0020】
また、図2は、本発明の第2の形態の透明導電性フィルムの他の例を示す模式断面図である。図2において、本発明の透明導電性フィルム20は、透明基材21、易接着層22、屈折率調整層23、低屈折率層24及び透明導電層25がこの順に積層されて構成され、更に透明基材21の屈折率調整層23が形成されている側とは反対側に機能付与層26が配置されている。また、透明導電層25は、パターニングされ、透明導電層25からなるパターン部25aと、透明導電層25が除去された非パターン部25bとから構成されている。図2では、透明基材21、易接着層22及び屈折率調整層23が本発明のハードコート基材に該当する。図1図2の相違点は、機能付与層26の有無のみであり、その他の構成は同一である。
【0021】
<透明基材>
上記透明基材としては、その種類は特に限定はされないが、通常は透明性を有する樹脂フィルムが用いられる。また、上記樹脂フィルムに用いられる樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、トリアセテートセルロース系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が挙げられるが、コスト面や屈折率調整の観点からポリエステル系樹脂、中でもポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)が好ましい。上記透明基材の厚さも特に限定されないが、透光性と強度のバランス等を考慮すると、10〜250μmが好ましく、更に好ましくは20〜188μmである。
【0022】
<易接着層>
上記透明基材の表面には、その上に塗工する塗膜に対する密着性を付与するために、易接着層が形成されている。上記易接着層の波長550nmにおける屈折率は1.56〜1.70の範囲に設定する必要があり、より好ましくは1.60〜1.68である。本発明の透明導電性フィルムは、透明導電層のパターンを不可視化するために、高屈折率の屈折率調整層を透明基材に塗工する必要があるが、透明基材の易接着層の屈折率が1.56より低いと塗工される屈折率調整層との屈折率差が大きくなり、干渉ムラが目立ちやすくなり、上記屈折率が1.70を超えると透明基材との屈折率差が大きくなり好ましくない。
【0023】
上記易接着層としては、予め透明基材の製膜時に加工されたものであってもよいし、別途例えばウエットコーティング等の方法により易接着層を塗工して形成したものであってもよい。透明基材の上に別途上記易接着層を形成する場合、その易接着層に用いられる材料としては、通常例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂等が用いられる。また、上記易接着層の高屈折率化を目的に、易接着層に酸化チタン等の高屈折率の材料を配合させてもよく、易接着層に水性のポリエステル樹脂と水溶性の無機キレート化合物を配合させてもよく、更に屈折率の高いフルオレン骨格を持つポリエステル樹脂を透明基材に塗工して易接着層を形成してもよい。
【0024】
上記易接着層の厚さは、特に限定されず、通常50〜150nm程度である。
【0025】
<屈折率調整層>
上記易接着層の上には、屈折率調整層が形成されている。上記屈折率調整層の550nmにおける屈折率は、1.60〜1.90の範囲に設定する必要があり、より好ましくは1.65〜1.80である。上記範囲に上記屈折率調整層の屈折率を設定することにより、本発明の透明導電性フィルムにおいて、透明導電層のパターニングによるパターン部の有無による色差を低減することができる。上記屈折率が1.60を下回ると、パターン部・非パターン部の色差を低減しきれず、また、1.90よりも高いと透明基材及び易接着層との屈折率差が大きくなり、屈折率調整層の干渉ムラが目立ち、透明導電性フィルムとした時に外観上問題となる。
【0026】
また、上記屈折率調整層の厚さは、0.3〜5μmに設定する必要があり、より好ましくは0.5〜3μmである。上記厚さが0.3μmより薄いと、ハードコート層としての機能が十分に発現しないだけでなく、透明導電層の結晶化・安定化を目的として150℃、30分程度の条件でアニール処理をすることがあるが、その際に透明基材からの低分子量成分の溶出を上記屈折率調整層がブロックできず、本発明の透明導電性フィルムの光学的な劣化(特にヘイズ増大等)をもたらすことがある。また、上記厚さが5μmよりも厚いと、透光性の低下やヘイズの増大を招いたり、作業性やコスト面で不都合が生じるため好ましくない。
【0027】
上記屈折率調整層は、高屈折率が求められるため、高屈折率フィラーである酸化チタンや酸化ジルコニウム等の金属酸化物を含有することが好ましい。また、上記金属酸化物と紫外線硬化型樹脂とを組み合わせた塗布液を上記易接着層の上に塗布した後、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等により紫外線を照射し、塗膜を硬化させることで屈折率調整層を形成することが好ましい。即ち、製造工程の効率化のため、上記屈折率調整層はウエットコーティング法により形成されることが好ましい。上記ウェットコーティングの方法としては特に限定されないが、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、リバースコート、グラビアコート、マイクログラビアコート等の公知の方法により塗工される。
【0028】
上記紫外線硬化型樹脂の材料としては、通常、ラジカル重合可能な二重結合を有する化合物を含む材料が用いられる。例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等の不飽和の重合性官能基を有するモノマー、プレポリマー、ポリマーを用いることができる。これらは単独でも二種類以上を組み合わせても用いることができ、中でも(メタ)アクリロイル基を有するモノマー、プレポリマーを用いることが好ましい。また、上記紫外線硬化型樹脂としては、生産性及び硬度の両立の観点より、ラジカル重合可能な不飽和基(二重結合)を2つ以上有する多官能樹脂を用いることが好ましい。
【0029】
<低屈折率層>
上記屈折率調整層と上記透明導電層との間には、低屈折率層が配置されていることが好ましい。上記低屈折率層を配置することにより、光学的な屈折率調整層として機能させることができるだけでなく、その上に積層される透明導電層との密着性の改善効果も得ることができる。上記低屈折率層において、その波長550nmにおける屈折率を1.35〜1.45とし、その厚さを5〜30nmとすれば、上記効果が期待できる。
【0030】
上記低屈折率層を構成する材料としては、例えば、酸化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ナトリウム等を使用できる。また、上記低屈折率層は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法等により形成することができ、中でもスパッタリング法による製膜が製膜速度が速いなどの生産性の観点から好ましい。
【0031】
<透明導電層>
上記低屈折率層の上には、上記透明導電層が形成されている。上記低屈折率層を配置しない場合には、上記屈折率調整層の上に直接上記透明導電層が形成される。上記透明導電層を構成する材料としては、透明性に優れ、導電性が高ければ特に限定されないが、例えば、酸化錫、インジウムドープ酸化錫(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等の金属酸化物等を使用できるが、特に透明性及び導電性が高いITOが好ましい。上記透明導電層は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法等により形成することができ、中でもスパッタリング法による製膜が製膜速度が速いなどの生産性の観点から好ましい。
【0032】
また、上記透明導電層については、前述のように、透明導電層の結晶化・安定化を目的として150℃で30分程度の条件でアニール処理をすることができる。
【0033】
上記透明導電層の屈折率は、上記透明導電層を構成する材料によって決定され、上記透明導電層の波長550nmにおける屈折率は1.8〜2.3の範囲となり、設定した屈折率調整層の屈折率からパターン部、非パターン部の色差抑制効果を発現するためには、上記透明導電層の波長550nmにおける屈折率は1.9〜2.2に設定することが好ましい。
【0034】
また、上記透明導電層の厚さは、10〜30nmが好ましく、より好ましくは12〜25nmである。上記厚さが10nmより薄いと、所望の抵抗率が得られず電極としての特性が不十分となり、30nmより厚いと透光性が低下し、光学特性が不十分となる傾向がある。
【0035】
上記透明導電層は、図1及び図2に示すように、その目的に応じて、所望のパターンにパターニングして用いることができる。そのパターニングの方法としては、例えば、透明導電層にフォトレジストをパターン状に塗布し、エッチングを行うフォトリソグラフィー法等が用いられる。図1及び図2では、透明導電層のパターニング後の状態としては、低屈折率層が残存する状態となっているが、パターニングの際に低屈折率層を除去してもよい。
【0036】
上記透明導電層からなるパターン部の反射色度と、上記透明導電層が除去された非パターン部の反射色度との色差(△E)は、5以下であることが好ましく、より好ましくは3以下である。△Eが5より大きくなると明らかにパターン部と非パターン部とが認識でき、本発明の透明導電性フィルムを表示素子に組み込んだ場合見栄えを損なうおそれがある。
【0037】
ここで、色差(△E)は、L***色度図に基づき下記式により算出される。
△E=(△L*2+△a*2+△b*21/2
【0038】
<機能付与層>
上記透明基材の、上記屈折率調整層が形成されている側とは反対側には、図2に示すように機能付与層を更に配置してもよい。上記機能付与層としては、例えば、ハードコート層、AN(アンチニュートンリング)層、AFP(防指紋)層、反射防止層等がある。
【0039】
また、本発明の透明導電性フィルムを作製する際に、工程簡略化のため保護ラミネートフィルムを使用しない場合、フィルムがブロッキング(貼り付き)することなく巻き取れることが好ましい。そのため、機能付与層はアンチブロッキング性を有することが好ましい。
【0040】
例えば、ハードコート層のような平滑な塗膜を透明基材の両面に塗工した場合、フィルムの巻き取り時にブロッキング(貼り付き)を発生して巻き取ることが困難となる場合がある。このため、通常は片側の塗工面に保護ラミネートフィルムのようなものを貼り合せて巻き取りを可能としている。しかし、保護ラミネートフィルムを貼り合せた場合、透明導電性フィルムの製造加工に一工程余分に加わることになり、コスト増大の懸念になる。そのため、上記機能付与層にアンチブロッキング性と呼ばれる塗膜表面に微小な凹凸形状を有する機能を付与することで、塗膜間の貼り付きを抑えることができ、巻き取り時に保護ラミネートフィルムのようなものを介さずともブロッキングなく巻取りが可能となる。
【0041】
上記機能付与層にアンチブロッキング性を付与する方法については特に限定されないが、特定のサイズのフィラーを含有した塗料を塗工し、乾燥・硬化時に機能付与層の表面にフィラーをブリードアウトさせ、微小な凹凸構造を形成させてアンチブロッキング性を付与させる方法がある。また、物性が異なり相溶性に乏しい樹脂成分を複数配合し、乾燥時に相分離を発生させ、樹脂成分が塗膜表面に析出し、上記機能付与層に凹凸を形成することでアンチブロッキング性を付与させる方法等もある。
【0042】
上記機能付与層は、前述した透明導電層のアニール処理の際の透明基材からの低分子量成分の溶出を抑制する機能も有する。また、上記機能付与層には、アニール処理の際の透明導電性フィルムのカール抑制の効果も期待できる。そのため、透明導電層側の屈折率調整層の厚さをa、反対側の機能付与層の厚さをbとした場合、厚さ構成としては2a>b>0.5aの範囲が好ましい。上記範囲外の厚さ設定になると、両塗膜の熱による収縮のバランスが大きく崩れフィルムのカールが懸念される。
【0043】
上記機能付与層は、製造工程の効率化のため、前述のウェットコーティング法による形成することが好ましい。
【実施例】
【0044】
<屈折率調整塗料の作製>
下記のようにして、屈折率調整塗料1〜4を作製した。
【0045】
(屈折率調整塗料1)
平均粒径5nmの酸化ジルコニウムの分散液“SZR−K”(堺化学社製、固形分濃度:30質量%)を100質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート“KAYARAD DPHA”(日本化薬社製の紫外線硬化型樹脂)を10質量部、及び光重合開始剤“イルガキュア184”(BASF社製)を0.3質量部、をディスパーにて配合し、屈折率調整塗料1を作製した。作製した屈折率調整塗料1の硬化物の550nmにおける屈折率を測定したところ1.71であった。
【0046】
(屈折率調整塗料2)
“KAYARAD DPHA”の使用量を7.5質量部、“イルガキュア184”の使用量を0.2質量部に変更した以外は、屈折率調整塗料1と同様にして屈折率調整塗料2を作製した。作製した屈折率調整塗料2の硬化物の550nmにおける屈折率を測定したところ1.75であった。
【0047】
(屈折率調整塗料3)
超微粒子酸化チタン“TTO−V−3”(石原産業社製)を30質量部、分散剤として“SOLSPERSE36000”(日本ルーブリゾール社製)を5質量部、プロピレングルコールモノメチルエーテルを65質量部、をポリ容器に量りとり、直径0.1mmのジルコニアビーズを添加して酸化チタンの平均粒径が30nmになるようペイントシェーカ―(東洋精機社製)で分散を行い、最後にジルコニアビーズを濾過により除去して、酸化チタンスラリーを作製した。
【0048】
作製した上記酸化チタンスラリーを100質量部、“KAYARAD DPHA”を7質量部、“イルガキュア184”を0.3質量部、をディスパーにて配合し、屈折率調整塗料3を作製した。作製した屈折率調整塗料3の硬化物の550nmにおける屈折率を測定したところ1.92であった。
【0049】
(屈折率調整塗料4)
“KAYARAD DPHA”を30質量部、“イルガキュア184”を0.9質量部、メチルエチルケトン(MEK)を70質量部、をディスパーにて配合し、屈折率調整塗料4を作製した。作製した屈折率調整塗料4の硬化物の550nmにおける屈折率を測定したところ1.53であった。
【0050】
次に、上記屈折率調整塗料1〜4を用いて、下記のようにして透明導電性フィルムを作製した。
【0051】
(実施例1)
両面に易接着処理を施した透明基材である東レ社製のPETフィルム“ルミラーQT−D0”(厚さ:125μm)の一方の低屈折率易接着層面(易接着層の屈折率:1.58)にアンチブロッキングハードコート剤“Z−739”(アイカ工業社製)を乾燥後の厚さが2μmとなるようマイクログラビアコーターにて塗工し、高圧水銀灯にて紫外線を300mJ/cm2の光量で照射し硬化させ、機能付与層としてアンチブロッキングハードコート層を形成し、アンチブロッキングハードコート処理フィルムを作製した。
【0052】
上記アンチブロッキングハードコート処理フィルムの、アンチブロッキングハードコート層を形成した面とは反対側の高屈折率易接着層面(易接着層の屈折率:1.65)の上に屈折率調整塗料1を乾燥後の厚さが2μmとなるよう塗工し、高圧水銀灯にて紫外線を300mJ/cm2の光量で照射し硬化させて屈折率調整層を形成し、屈折率調整ハードコートフィルムAを作製した。
【0053】
(実施例2)
屈折率調整塗料1に代えて、屈折率調整塗料2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、屈折率調整ハードコートフィルムBを作製した。
【0054】
(実施例3)
実施例1にて作製した屈折率調整ハードコートフィルムAの屈折率調整層の上にマグネトロンスパッタリング法にて酸化ケイ素を積層して、低屈折率層(屈折率:1.40、厚さ:10nm)を形成した。その後、上記低屈折率層の上にマグネトロンスパッタリング法にてインジウムドープ酸化錫(ITO)を積層して、透明導電層(屈折率:2.0、厚さ:15nm)を形成した後、その透明導電層に対してフォトリソグラフィー法にてパターニング処理を行い、パターン部と非パターン部を有する透明導電性フィルムAを作製した。
【0055】
(実施例4)
屈折率調整ハードコートフィルムAに代えて、屈折率調整ハードコートフィルムBを用いたこと以外は、実施例3と同様にして透明導電性フィルムBを作製した。
【0056】
(実施例5)
両面に易接着処理を施した透明基材として帝人デュポンフィルム社製のPETフィルム“KEB−03W”(厚さ:125μm、両面の易接着層の屈折率:1.60)を用いたこと以外は、実施例1及び3と同様にして透明導電性フィルムCを作製した。
【0057】
(実施例6)
透明導電層の厚さを20nmとしたこと以外は、実施例3と同様にして透明導電性フィルムDを作製した。
【0058】
(比較例1)
屈折率調整塗料1に代えて、屈折率調整塗料3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして屈折率調整ハードコートフィルムCを作製した。
【0059】
(比較例2)
両面に易接着処理を施した透明基材として東レ社製のPETフィルム“ルミラーU34”(厚さ:125μm、両面の易接着層の屈折率:1.51)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして屈折率調整ハードコートフィルムDを作製した。
【0060】
(比較例3)
屈折率調整ハードコートフィルムAに代えて、屈折率調整ハードコートフィルムCを用いたこと以外は、実施例3と同様にして透明導電性フィルムEを作製した。
【0061】
(比較例4)
屈折率調整塗料1に代えて、屈折率調整塗料4を用い、両面に易接着処理を施した透明基材として東レ社製のPETフィルム“U48”(厚さ:125μm、両面の易接着層の屈折率:1.58)を用いたこと以外は、実施例1及び3と同様にして透明導電性フィルムFを作製した。
【0062】
(比較例5)
屈折率調整ハードコートフィルムAに代えて、屈折率調整ハードコートフィルムDを用いたこと以外は、実施例3と同様にして透明導電性フィルムGを作製した。
【0063】
(比較例6)
屈折率調整層の厚さを0.1μmとしたこと以外は、実施例1及び3と同様にして透明導電性フィルムHを作製した。
【0064】
(比較例7)
アンチブロッキングハードコート剤“Z−739”に代えて、屈折率調整塗料4を用いて機能付与層を形成し、実施例1及び3と同様にして透明導電性フィルムを作製しようとしたが、屈折率調整層の塗工の巻き取りの際にフィルムの貼り付きが発生し、その後のフィルムの製造ができなかった。
【0065】
上記実施例1〜6及び比較例1〜6の各フィルムの各層の屈折率は下記のように測定した。
【0066】
<屈折率の測定>
屈折率調整層の屈折率については、各屈折率調整塗料を100μmのPETフィルム(東洋紡社製の“コスモシャインA4100”)の易接着未処理面にバーコーターを用いて乾燥後の膜厚が500nmになるよう塗工、乾燥させた後、紫外線を高圧水銀灯にて300mJ/cm2の光量にて照射して塗膜を硬化させた。次に、塗膜を形成した側とは反対のフィルム面の全面に黒テープを貼り付け、反射分光膜厚計(大塚電子社製の“FE−3000”)を用いて塗膜面側の絶対反射率を測定し、反射スペクトルから屈折率を測定した。
【0067】
また、透明基材の易接着層の屈折率については、易接着層が形成された側とは反対側のフィルム面の全面に黒テープを貼付け、上記と同様にして上記反射分光膜厚計を用いて測定した。透明基材の両面に易接着層が形成されている場合も一方のフィルム面に黒テープを貼り付けて上記と同様にして易接着層の屈折率を測定した。
【0068】
また、透明導電層及び低屈折率層の屈折率については、上記PETフィルムにマグネトロンスパッタリング法にて厚さが20nmになるよう各層を形成した後、上記と同様の方法にて各層の屈折率を測定した。
【0069】
次に、上記実施例1〜6及び比較例1〜6で形成した各フィルムの評価を下記のとおり行った。
【0070】
<反射色度の測定>
作製した各透明導電性フィルムの透明導電層を形成した面とは反対面に黒テープを貼り付け、マルチチャンネル型分光光度計(大塚電子社製の“MCPD−3700”)を用いて、透明導電層のパターン部と非パターン部の反射スペクトルを測定し、色演算モード(光源:D65、視野:2度)にて反射色のL***をそれぞれ解析し、前述した下記式により透明導電層のパターン部と非パターン部との色差△Eを計算した。
△E=(△L*2+△a*2+△b*21/2
【0071】
<フィルムの外観>
作製した各フィルムを、3波長蛍光灯(光量:3000LUX)を備えた検反台に載置して目視にて外観を観察し、ハードコートフィルム単体での干渉ムラ及び透明導電層に及ぼす屈折率調整層の干渉ムラの影響について下記基準で下記のように評価した。
【0072】
干渉ムラによる色ムラが非常に薄い場合:良好
干渉ムラによる色ムラがやや判別できる場合:不十分
干渉ムラによる色ムラがはっきりと判別できる場合:不可
【0073】
<加熱後のカール性>
作製した各フィルムを100mm×100mmのサイズに切り出し、切り出したものを150℃に加温した恒温槽に30分放置した後に取り出し、取り出してから2時間後のフィルムカールの高さを4隅でそれぞれ測定し、最も数値の高い点をカールの大きさとした。また、実施例3〜6及び比較例3〜6の透明導電性フィルムの場合、透明導電層側を上にした時に凸状にカールした場合はカールの大きさをマイナス(−)表記とした。
【0074】
<フィルム加工性>
各フィルムの作製時において、屈折率調整塗料をマイクログラビアコーターにて塗工した際、及び作製したフィルムを巻き取りした際の加工性について評価した。具体的には、下記基準により、下記のように評価した。
【0075】
不具合なく、塗工・巻き取りが可能であった場合:良好
一部、塗工・巻き取り時に問題があった場合:不十分
塗工・巻取りが不可能であった場合:不可
【0076】
以上の評価結果を表1〜表4に示す。また、表1〜表4では、各フィルムの構成も合わせて示した。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
表1から、実施例1及び2では、易接着層の屈折率及び屈折率調整層の屈折率を最適化することで外観的にも干渉ムラの少ない屈折率調整ハードコートフィルムが得られたことが分かる。
【0082】
また、表2から、実施例3〜6では、透明導電層のパターン部と非パターン部との反射色差が抑えられたことが分かる。その結果、実施例3〜6の透明導電性フィルムではパターニング痕の不可視化が確認できた。また、実施例3〜6では、外観については易接着層と屈折率調整層の屈折率を最適化することにより干渉ムラも抑制することができたことが分かる。更に、実施例3〜6では、加熱後のカールも抑制され、フィルム加工性も問題のない透明導電性フィルムが得られたことが分かる。
【0083】
一方、表3から、比較例1及び2では、易接着層の屈折率及び屈折率調整層の屈折率が最適でなく、外観を確認したところ、干渉ムラによる色ムラがはっきりと判別でき、干渉ムラが悪化したことが分かる。
【0084】
比較例3では、屈折率調整層の屈折率が高すぎるため、透明基材及び易接着層との屈折率差が大きくなり、透明導電層を積層した場合でも干渉ムラによる色ムラがはっきりと判別された。
【0085】
比較例4では、屈折率調整層の屈折率が低すぎるため、パターン部と非パターン部との反射色差が5を超え、パターニング痕が十分に認識された。
【0086】
比較例5では、易接着層の屈折率が低すぎるため屈折率調整層との屈折率差が大きくなり、透明導電層を積層した場合でも干渉ムラによる色ムラがはっきりと判別された。
【0087】
比較例6では、屈折率調整層の厚さが薄すぎるため、反対側の機能付与層との厚さバランスが崩れ加熱処理後にフィルムが大きくカールした。また、ハードコート性も不十分であり、フィルム走行時に若干キズが入り、フィルム加工性も不十分であった。
【0088】
比較例7では、機能付与層にアンチブロッキング性のない材料を用いたため、前述のとおりフィルムの製造ができなかったため、比較例7については表4には示していない。
【符号の説明】
【0089】
10、20 透明導電性フィルム
11、21 透明基材
12、22 易接着層
13、23 屈折率調整層
14、24 低屈折率層
15、25 透明導電層
15a、25a パターン部
15b、25b 非パターン部
26 機能付与層
図1
図2