(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のフィルムの最外層を構成する「環状ポリオレフィン樹脂」とは、例えば、環状オレフィンの開環重合によって得られるシクロオレフィンポリマー(COP)、あるいは、αオレフィンと環状オレフィンとを共重合したシクロオレフィンコポリマー(COC)を挙げることができる。なお、COCの方が、コスト、および、種々のTgの製品が揃っている点で、好ましい。COPとしては、例えば、ゼオノア1060R(日本ゼオン社製、Tg100℃)等を用いることができる。COCとしては、例えば、アペル(三井化学社製、Tg80℃)等を用いることができる。
【0009】
本発明のフィルムの環状ポリオレフィン樹脂層に使用する環状ポリオレフィン樹脂は、ガラス転移温度の下限が通常60℃であり、好ましくは65℃、さらに好ましくは70℃であり、上限は通常140℃、好ましくは135℃、さらに好ましくは130℃である。ガラス転移温度を60℃以上とすることで、フィルムの保管時に気温が高い場合においてフィルムが軟化せず、紙管に巻いたフィルムがフィルム軟化により巻き絞まるのを防止できる。また、ガラス転移温度を140℃以下とすることにで、フィルム製膜時に押出温度を高く設定する必要がないため、共押出する他樹脂に不必要に熱を加えることがなく、熱劣化によるブツ、ゲル等を抑制することができる。
【0010】
本発明のフィルムの環状ポリオレフィン樹脂層の厚みが総厚みに対して、下限値は5%、好ましくは8%、さらに好ましくは10%であり、上限値は、50%、好ましくは40%、さらに好ましくは35%である。また本発明の複合フィルムにおける環状ポリオレフィン樹脂層の厚みは、30μm未満であり、好ましくは25μm未満、さらに好ましくは20μm未満である。
【0011】
本発明のフィルムの総厚みに対する、環状ポリオレフィン樹脂層の厚みを5%以上とすることにより、粘着ラベルの剥離性を良好にでき、フィルムに硬さ(腰)を付与することができるため、パック品のフランジ部のカールが抑制できる。また、50%以下でかつ30μm未満とすることにより、フィルムが硬くなりすぎず、耐屈曲性を付与することができ、また高価な環状ポリオレフィン樹脂層を不必要に厚くすることがなくなるのでフィルムの価格を抑制することができる。
【0012】
環状ポリオレフィン樹脂層は、環状ポリオレフィン樹脂層を構成する樹脂全体の質量を基準(100質量%)として、5〜50質量%の低密度ポリエチレン(LDPE)または直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を含有させることができる。LDPEまたはLLDPEのトータルの含有量を5%以上とすることで、製膜時のブツ・ゲル・フィッシュアイの発生を抑制することができ、また、フィルムに柔軟性を付与することができる。また、含有量を50%以下とすることにより、フィルムの硬さ(腰)を保持することができるので、パック品のカールを良好に維持できる。
【0013】
本発明のフィルムは、耐ピンホール性と深絞り成形性とを付与する目的で、中間にある層のいずれかに、少なくとも1層のPA層を配設する。PA層で用いられるPAは、特に限定されないが、耐ピンホール性の観点からはナイロン系樹脂(Ny)を用いることが好ましい。Nyとしては、例えば、6ナイロン、66ナイロン、69ナイロン、6−66ナイロン、12ナイロン、11ナイロン、610ナイロン、612ナイロン、6I−6Tナイロン、MXD6ナイロン等の縮合単位の重合体またはこれら2種以上との共重合体、さらにはこれらの混合物を挙げることができる。中でも6ナイロンや6−66ナイロンを用いることが好ましい。
【0014】
PA層の厚みは通常2μm以上、好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上であり、かつ通常25μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下であることが望ましい。PA層の厚みの下限値を2μmとすることにより、良好な耐ピンホール性が得られ、また上限値を25μmとすることにより深絞り包装機での良好なカット性が得られる。
【0015】
中間にある層のいずれかには、酸素バリアー性を付与する目的で、EVOH層を配設する。EVOH層で用いられるEVOHのエチレン含有率は特に限定されるものではないが、製膜安定性の観点から32〜47モル%であることが好ましく、38〜44モル%であることがさらに好ましい。また、EVOHのケン化度は90%以上、さらには95モル%以上のものが望ましい。EVOHのエチレン含有率およびケン化度を上記範囲に保つことにより、本発明のフィルムの共押出性、フィルムの強度を良好なものとすることができる。
【0016】
EVOH層の厚みは、通常3μm以上、好ましくは5μm以上、さらに好ましくは8μm以上であり、かつ通常20μm以下、好ましくは18μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。EVOH層の厚みの下限値を3μmとすることにより十分な酸素バリアー性が得られ、また上限値を20μmとすることによりフィルムの共押出性を悪化することもなく、かつ良好なフィルム強度を保持できる。
【0017】
また、中間にある層のいずれかに、柔軟性を付与する目的でエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)層やポリエチレン(PE)層を配設することもできる。EVAのエチレン含有率は特に限定されるものではないが、製膜安定性の観点から1.5〜20モル%であることが好ましく、3〜15モル%であることがさらに好ましい。
【0018】
中間にある層のいずれかにのPE層を配設する場合、PE層で使用されるPEは特に限定はない。例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)またはそれらをブレンドしたものを使用することができる。
【0019】
本発明のフィルムのEP層を構成する樹脂は、凝集破壊性を有する樹脂であれば特に限定されない。そのような樹脂として、例えば、LLDPEとポリブテンのブレンド、EVAとPPのブレンド、PPとLDPEのブレンド、PPとアイオノマーのブレンド、PPとEAAのブレンド、PPとEMMAのブレンド等が挙げられる。中でもLLDPEとポリブテンのブレンドや、PPとLDPEのブレンドを好適に用いることができる。
【0020】
EP層の厚みは、製膜性および剥離外観性の観点から通常2μm以上、好ましくは3μm以上、さらに好ましくは4μm以上であり、かつ通常15μm以下、好ましくは12μm以下、さらに好ましくは10μm以下とする。EP層の厚みを2μm以上とすることにより、安定した製膜性が得られ、またEP層の厚みを15μm以下にすることにより剥離時に毛羽立ちや膜残りが発生し難くすることができ、良好な剥離外観が得られる。
【0021】
EP層のイージーピール強度は、剥離したときに剥離面で凝集破壊が起こり、かつ剥離面が毛羽立たない程度の強度であればよく、例えば、25℃で0.8N/15mm幅以上、好ましくは1.0N/15mm幅以上、さらに1.2N/15mm幅以上であり、5.0N/15mm幅以下、好ましくは4.5N/15mm幅以下、さらに好ましくは4.0N/15mm幅以下であるい。
【0022】
<接着樹脂層>
本発明のフィルムは、最外層(環状ポリオレフィン樹脂層)から最内層(EP層)との間に少なくとも1層の接着樹脂層を配設することができる。また、層間接着強度をより高める観点からは中間層のEVOH層とPE層の間、またはPA層とPE層との間、PE層の間、環状ポリオレフィン樹脂層とEVOH層との間、環状ポリオレフィン樹脂層とPA層との間に配設させることが好ましい。
【0023】
接着樹脂層で使用される接着樹脂は、環状ポリオレフィン層、EP層、および中間層を構成する各種の樹脂層(EVOH層、PA層、PE層)を必要な強度で接着できれば特に限定されない。好ましくは不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィン系樹脂である。不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸等が挙げられる。また接着樹脂として、前記不飽和カルボン酸のエステルや無水物も用いることができ、さらに誘導体としてアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、酢酸ビニル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸ナトリウム等を用いることができる。
【0024】
市販の接着樹脂としては、例えば、三井化学(株)製、商品名アドマーが挙げられ、これらを好適に使用することができる。中でもPP層、PE層、EVOH層および非晶性ポリエステル層を接着させる場合には、特殊ポリオレフィンベースのものが有用であり、さらにEVOH層、PP層およびPE層を接着させる場合には、LLDPEタイプまたはPPタイプのものを好適に使用することができる。
【0025】
本発明のフィルムは、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、成形加工性、生産性等の諸性質を改良・調整する目的で、シリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤などの添加剤を適宜添加できる。
【0026】
本発明のフィルムは、JIS K−6768におけるぬれ性が、通常37mN/m以下、好ましくは36mN/m以下、さらに好ましくは35mN/m以下。ぬれ性が37mN/m以下であれば、粘着ラベルの剥離性が良好になる。
【0027】
本発明のフィルムにおいて、上記ぬれ性は、最外層に環状ポリオレフィンを使用することにより37mN/m以下にすることができる。
【0028】
本発明のフィルムの層構成は、最外層として環状ポリオレフィン樹脂層、最内層としてEP層、中間層にPA層およびEVOH層を配すれば、その他の層の層構成は特に制限されない。例えば、環状ポリオレフィン樹脂層(A)、PA層(B)、EVOH層(C)、PE層(D)、EP層(E)、および接着樹脂層(F)で表した場合、以下の層構成を形成することができる。
【0029】
(1)A/F/B/C/F/E
(2)A/F/C/B/F/E
(3)A/F/B/C/B/F/E
(4)A/F/B/C/F/D/E
(5)A/F/C/B/F/D/E
(6)A/F/B/C/B/F/D/E
(7)A/F/B/C/F/A/E
(8)A/F/C/B/F/A/E
(9)A/F/B/C/B/F/A/E
(10)A/F/B/C/F/D/A/E
(11)A/F/C/B/F/D/A/E
(12)A/F/B/C/B/F/D/A/E
【0030】
上記のうち、好ましい層構成は(1)、(2)、(3)、(4)または(5)であり、さらに好ましくは(3)または(4)である。
【0031】
本発明のフィルムは、環状ポリオレフィン樹脂層と、EP層と、その中間に形成される中間層(PA層、EVOH層、EVA層、PE層、接着層等)とを同時または逐次的に積層して作製することができる。すなわち、本発明のフィルムは、Tダイ法、チューブラ法など既存の方法により、ダイを備えた押出機を用いて共押出しすることによって環状ポリオレフィン樹脂層、EP層および中間層を同時に積層する方法である。また、本発明のフィルムは、各層を構成する樹脂を別々にシート化した後にプレス法やロールニップ法などを用いて積層して逐次的に作製することもできる。
【0032】
本発明のフィルムは、成形することにより深絞り包装体に用いることができる。特に本発明のフィルムを深絞り包装体の底材として用いる場合、良好な深絞り包装体を得ることができる。本発明の深絞り包装体の蓋材は、本発明の複合フィルムのイージーピール性が得られれば特に制限はない。例えば、延伸ポリプロピレン樹脂層と透明蒸着ポリエチレンテレフタレート系樹脂と直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)層をラミネートした蓋材や延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂と共押出フィルム(EVOH,Nyを含み,LLDPEをシール層としたフィルム)をラミネートした蓋材を挙げることができる。
【0033】
本発明のフィルムを深絞り包装体用底材として用いる場合、例えば、本発明のフィルムを深絞り成形型で所望の形状および大きさに成形した後(フィルム供給工程およびフィルム成形工程)、その中にスライスハム等の内容物を充填し(内容物充填工程)、さらにその上から蓋材フィルムでシールして(蓋材フィルム供給工程およびシール工程)、真空包装し(真空包装工程)、冷却し(冷却工程)、カットすることにより(切断工程)、深絞り包装体を作製することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
比較例5:
全層共押出による下記層構成のフィルムを得て、
比較例5とした。
COC1(20μm)/接着樹脂(5μm)/Ny1(5μm)/EVOH1(10μm)/接着樹脂(5μm)/EVA(20μm)/EP1(5μm)
COC1:三井化学社製アペル(Tg=80℃)
接着樹脂:三井化学製アドマー(LLDPEベース)
Ny1:ディーエスエムジャパンエンジニアリングプラスチック製ノバミッド66Ny比率15%の6−66共重合Ny
EVOH1:クラレ製エバール38molタイプ
EVA:日本ポリエチレン製ノバテックEVA
EP1:LLDPE(60%)とポリブテン(40%)のブレンド
LLDPE:日本ポリエチレン製ノバテックLL
ポリブテン:三井化学製タフマー
【0036】
比較例6:
全層共押出による下記層構成のフィルムを得て、
比較例6とした。
COC2(15μm)/接着樹脂(5μm)/EVOH2(8μm)/Ny2(5μm)/接着樹脂(5μm)/LLDPE(15μm)/EP2(7μm)
COC2:三井化学社製アペル(Tg=95℃)
Ny2:ディーエスエムジャパンエンジニアリングプラスチック製ノバミッド6Ny
EVOH2:クラレ製エバール44molタイプ
EP2:LDPE(60%)とランダムコポリマーPP(40%)のブレンド
LDPE:日本ポリエチレン製ノバテックLD
ランダムコポリマーPP:日本ポリプロ製ノバテックPP
【0037】
実施例
1:
全層共押出による下記層構成のフィルムを得て、実施例
1とした。
COC3(15μm)/接着樹脂(5μm)/Ny2(5μm)/EVOH1(10μm)/Ny2(5μm)/接着樹脂(5μm)/EVA(20μm)/EP2(5μm) COC
3:三井化学社製アペル(Tg=95℃)(80%)と日本ポリエチレン製ノバテックLL(20%)のブレンド
【0038】
比較例7:
全層共押出による下記層構成のフィルムを得て、
比較例7とした。
COC4(10μm)/接着樹脂(4μm)/Ny1(4μm)/EVOH1(4μm)/接着樹脂(4μm)/PP4(10μm)/EP2(4μm)
COC
4:三井化学社製アペル(Tg=115℃)
【0039】
比較例1:
全層共押出による下記層構成のフィルムを得て、実施例5とした。
PETG(20μm)/接着樹脂(5μm)/EVOH1(10μm)/Ny1(5μm)/接着樹脂(5μm)/EVA(20μm)/EP2(5μm)
【0040】
比較例2:
全層共押出による下記層構成のフィルムを得て、比較例2とした。
COC1(3μm)/接着樹脂(5μm)/Ny1(5μm)/EVOH1(10μm)/接着樹脂(5μm)/LLDPE(37μm)/EP1(5μm)
【0041】
比較例3:
全層共押出による下記層構成のフィルムを得て、比較例3とした。
COC5(15μm)/接着樹脂(5μm)/Ny2(5μm)/EVOH1(10μm)/Ny2(5μm)/接着樹脂(5μm)/EVA(20μm)/EP2(5μm)
COC5:三井化学社製アペル(Tg=95℃)(30%)と日本ポリエチレン製ノバテックLL(70%)のブレンド
【0042】
比較例4:
全層共押出による下記層構成のフィルムを得て、比較例4とした。
LLDPE(15μm)/接着樹脂(5μm)/Ny2(5μm)/EVOH1(10μm)/Ny2(5μm)/接着樹脂(5μm)/EVA(20μm)/EP2(5μm)
【0043】
[パックサンプルの作製]
深絞り包装機(大森機械工業社製FV6300)によって、直径95mmのスライスハム(40g)を真空包装した。 パック品の大きさは縦100mm、横80mmである。使用した蓋材の構成は下記のとおりである。なお、「//」はドライラミネート法による接着を表す。
OPP(20μm)//透明蒸着PET(12μm)//LLDPE(30μm)
OPP:OPU−1(トーセロ社製二軸延伸品)
透明蒸着PET:VM−PET(東洋メタライジング製蒸着PET)
LLDPE:L−6102(東洋紡)
【0044】
[評価方法]
<ヒートシール部カール>
パックサンプル作成後、5分以内に、ヒートシール部がフラットのものを○,5mm以上カールしているものを×とした。
【0045】
<ぬれ性測定方法>
JIS K−6768にて測定した。ぬれ性が、37mN/m以下のものを○、37mN/mを超えるものを×とした。
【0046】
【表1】
【0047】
表1より、実施例1
と比較例5〜7は、包装体のヒートシール部のカールがほとんどなく、ぬれ性の値も37mN/m以下でラベル接着性が悪いため、連パックのラベルが剥がし易かった。
これに対し、比較例1はぬれ性の値が37mN/mを超えており、連パックのラベルが剥がしにくく、ラベルが破れた。また比較例2
、比較例4はCOCが薄いまたはないため、ヒートシール部のカールが悪く見栄えが悪かった。