(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レーザー光に対して透過性のある樹脂部材とレーザー光に対して吸収性のある樹脂部材とをレーザー溶着で接合する際の溶着状態を判定するレーザー溶着状態判定方法において、
レーザー溶着中に溶着位置における発熱溶融によって発生する温度又は発熱量をセンサーを用いて検出する工程と、
レーザー溶着期間を構成する複数の小期間のそれぞれにおける前記温度又は発熱量の平均値を算出する工程と、
特定の2つの前記小期間における前記平均値の差が所定の範囲内であるか否かを判定する工程と、を備える、レーザー溶着状態判定方法。
レーザー光に対して透過性のある樹脂部材とレーザー光に対して吸収性のある樹脂部材とをレーザー溶着で接合する際の溶着状態を判定するレーザー溶着状態判定装置において、
レーザー溶着中に溶着位置における発熱溶融によって発生する温度又は発熱量をセンサーを用いて検出する検出部と、
レーザー溶着期間を構成する複数の小期間のそれぞれにおける前記温度又は発熱量の平均値を算出する算出部と、
特定の2つの前記小期間における前記平均値の差が所定の範囲内であるか否かを判定する判定部と、を備える、レーザー溶着状態判定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザー溶着中の溶着位置の温度は、レーザー照射装置の出力の経時変化や溶着される樹脂部材の品質ばらつき、環境温度の変化等に起因して変動し得る。そのため、上記のような固定閾値を用いた溶着状態の判定方法では、そのような温度の変動要因の影響を受けて、実際には良好のものが不良と判定されたり実際には不良のものが良好と判定されたりする場合があり、判定精度の点で向上の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
本発明の第1の形態は、レーザー光に対して透過性のある樹脂部材とレーザー光に対して吸収性のある樹脂部材とをレーザー溶着で接合する際の溶着状態を判定するレーザー溶着状態判定方法である。このレーザー溶着状態判定方法は、レーザー溶着中に溶着位置における発熱溶融によって発生する温度又は発熱量をセンサーを用いて検出する工程と、レーザー溶着期間を構成する複数の小期間のそれぞれにおける前記温度又は発熱量の平均値を算出する工程と、特定の2つの前記小期間における前記平均値の差が所定の範囲内であるか否かを判定する工程と、を備える。
溶着軌跡の一部において溶着される樹脂部材間に間隙が存在している場合には、溶着位置の温度が間隙に対応する部分で大きく上昇するところ、この方法では、レーザー溶着期間を構成する複数の小期間の内の特定の2つの小期間における温度又は発熱量の平均値の差が所定の範囲内であるか否かを判定するため、間隙の存在に起因する溶着状態の不良が存在するか否かの判定を行うことができる。ここで、レーザー照射装置の出力の経時変化や溶着される樹脂部材の品質ばらつき、環境温度の変化等に起因してレーザー溶着中の溶着位置の温度が変動しても、その変動の程度はレーザー溶着期間において同程度であると考えられるため、そのような温度変動は上記温度又は発熱量の平均値の差にはほとんど影響しない。そのため、この判定方法では、上述した要因によってレーザー溶着中の溶着位置の温度が変動し得るとしても、精度良く溶着状態を判定することができる。
【0007】
[適用例1]レーザー光に対して透過性のある樹脂部材とレーザー光に対して吸収性のある樹脂部材とをレーザー溶着で接合する際の溶着状態を判定するレーザー溶着状態判定方法において、
レーザー溶着中に溶着位置における温度に相関のある指標値をセンサーを用いて検出する工程と、
レーザー溶着期間を構成する複数の小期間のそれぞれにおける前記指標値の平均値を算出する工程と、
特定の2つの前記小期間における前記平均値の差が所定の範囲内であるか否かを判定する工程と、を備える、レーザー溶着状態判定方法。
【0008】
溶着軌跡の一部において溶着される樹脂部材間に間隙が存在している場合には、溶着位置の温度が間隙に対応する部分で大きく上昇するところ、この方法では、レーザー溶着期間を構成する複数の小期間の内の特定の2つの小期間における温度相関指標値の平均値の差が所定の範囲内であるか否かを判定するため、間隙の存在に起因する溶着状態の不良が存在するか否かの判定を行うことができる。ここで、レーザー照射装置の出力の経時変化や溶着される樹脂部材の品質ばらつき、環境温度の変化等に起因してレーザー溶着中の溶着位置の温度が変動しても、その変動の程度はレーザー溶着期間において同程度であると考えられるため、そのような温度変動は上記温度相関指標値の平均値の差にはほとんど影響しない。そのため、この判定方法では、上述した要因によってレーザー溶着中の溶着位置の温度が変動し得るとしても、精度良く溶着状態を判定することができる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載のレーザー溶着状態判定方法であって、
前記複数の小期間は、前記レーザー溶着期間の内の有効期間を均等に分割した各期間であり、
前記特定の2つの小期間は、前記平均値が最大の前記小期間と前記平均値が最小の前記小期間である、レーザー溶着状態判定方法。
【0010】
この方法では、レーザー溶着期間の内の有効期間を均等に分割して設定された各小期間における指標値の平均値を用いて判定を行うため、溶着軌跡の略全体にわたって精度良く溶着状態の判定を行うことができる。
【0011】
[適用例3]適用例2に記載のレーザー溶着状態判定方法であって、
前記有効期間は、前記レーザー溶着期間から、最初の所定の期間と最後の所定の期間との少なくとも一方を除いた期間である、レーザー溶着状態判定方法。
【0012】
この方法では、レーザー出力が定格に達するまでの過渡期間や、レーザー出力が遮断されるまでの過渡期間、溶着軌跡のオーバーラップ部分といった温度相関指標値が安定していないと考えられる期間を除いて判定を行うため、判定精度を一層向上させることができる。
【0013】
[適用例4]適用例1に記載のレーザー溶着状態判定方法であって、
前記複数の小期間は、前記レーザー溶着の溶着軌跡上の各部分に対応する各期間であり、
前記特定の2つの小期間は、前記溶着軌跡における互いに形状が類似する2つの部分に対応する前記小期間である、レーザー溶着状態判定方法。
【0014】
この方法では、溶着軌跡における互いに形状が類似する2つの部分について、間隙の存在に起因する溶着状態の不良が存在するか否かの判定を精度良く行うことができる。
【0015】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれかに記載のレーザー溶着状態判定方法であって、さらに、
前記算出する工程の前に、前記検出された指標値に対して、異常データのマスキング処理と、ノイズ除去処理と、の少なくとも一方を実行する工程を備える、レーザー溶着状態判定方法。
【0016】
この方法では、検出された温度相関指標値における異常データやノイズの影響を除外することができ、判定精度を一層向上させることができる。
【0017】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、レーザー溶着状態の判定方法、レーザー溶着状態判定装置、レーザー溶着状態判定システム等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1実施例:
A−1.レーザー溶着システムの構成:
A−2.溶着状態判定処理:
B.第2実施例:
C.変形例:
【0020】
A.第1実施例:
A−1.レーザー溶着システムの構成:
図1は、本発明の第1実施例におけるレーザー溶着システム10の構成を示す説明図である。レーザー溶着システム10は、樹脂部材同士をレーザー溶着によって接合すると共に、溶着状態を判定するシステムである。
【0021】
レーザー溶着システム10は、レーザー溶着を行うためのレーザー照射装置12を備えている。
図2は、レーザー溶着の概要を示す説明図である。レーザー溶着の際には、レーザー光LAに対して透過性のある透過性樹脂部材22とレーザー光LAに対して吸収性のある吸収性樹脂部材24とが重ね合わされ、図示しない押さえ治具によって重ね方向に沿って加圧される。この状態で、レーザー照射装置12(
図1)を溶着軌跡WLと略同一の軌跡を辿る溶着予定軌跡(図示せず)に沿って各樹脂部材22,24に対して相対移動させつつ、透過性樹脂部材22側からレーザー光LAの照射を行う。これにより、透過性樹脂部材22を透過したレーザー光LAによって吸収性樹脂部材24が照射され、吸収性樹脂部材24におけるレーザー光LAに照射された部分、すなわち、吸収性樹脂部材24における透過性樹脂部材22との境界部分が発熱・溶融する。また、吸収性樹脂部材24からの伝熱によって透過性樹脂部材22における吸収性樹脂部材24との境界部分も発熱・溶融する。透過性樹脂部材22および吸収性樹脂部材24の溶融部分によって吸収性樹脂部材24と透過性樹脂部材22との境界部分を中心に溶着部26(
図1)が形成され、これにより両者が接合される。なお、
図2に示す例では、溶着軌跡WLは略矩形であり、溶着軌跡WLの最初と最後の一部はオーバーラップしている。また、
図2に示す例では、溶着軌跡WLの一部において、透過性樹脂部材22と吸収性樹脂部材24との間に間隙GAが存在している。
【0022】
吸収性樹脂部材24としては、熱可塑性を有し、レーザー光LAを透過させずに吸収し得る樹脂を用いることができる。例えば、吸収性樹脂部材24として、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリオキシメチレン(POM)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、アクリル(PMME)等の樹脂材に、カーボンブラック、染料、顔料等の所定の着色材を混入したものを使用することができる。また、透過性樹脂部材22としては、熱可塑性を有し、レーザー光LAに対して所定の透過率を有する樹脂を用いることができる。例えば、透過性樹脂部材22として、上に例示した樹脂材を使用することができる。この場合に、レーザー光LAに対する所定の透過率を確保できれば、樹脂材に着色材が混入されていてもよい。また、透過性樹脂部材22および吸収性樹脂部材24には、ガラス繊維やカーボン繊維などの補強繊維が添加されていてもよい。また、透過性樹脂部材22および吸収性樹脂部材24の組み合わせとしては、互いに相溶性のあるもの同士の組み合わせであることが好ましい。
【0023】
また、レーザー光LAとしては、透過性樹脂部材22の吸収スペクトルや板厚(透過長)等の関係で、透過性樹脂部材22での透過率が所定値以上となるような波長を有する種類のレーザー光LAが適宜選択される。例えば、YAGレーザー、半導体レーザー、ガラス−ネオジムレーザー、ルビーレーザー、ヘリウム−ネオンレーザー、クリプトンレーザー、アルゴンレーザー、水素レーザー、窒素レーザーを用いることができる。
【0024】
レーザー溶着システム10(
図1)は、赤外線センサー14と、センサーアンプ16と、判定装置18とを備える。赤外線センサー14は、レーザー照射装置12と一緒に各樹脂部材22,24に対して相対移動し、レーザー溶着中における溶着位置の温度を検出する。なお、レーザー溶着中における溶着位置の温度とは、吸収性樹脂部材24にレーザー光LAが入力された瞬間から所定時間経過後における、透過性樹脂部材22と吸収性樹脂部材24との溶着位置(お互いが対向する位置)における温度を意味する。なお、上記所定時間は、レーザー照射装置12と赤外線センサー14との位置関係と、レーザー照射装置12および赤外線センサー14の移動速度により定まる。この所定時間は、わずかな時間であることが好ましい。赤外線センサー14で検出された温度を表す信号は、センサーアンプ16における増幅を経て、判定装置18に入力される。判定装置18は、CPUおよびメモリを備えるコンピューターを用いて構成されており、入力された温度データを用いて、以下に説明する溶着状態判定処理を行う。なお、赤外線センサー14およびセンサーアンプ16は、本発明における検出部に相当し、判定装置18は、本発明における算出部および判定部に相当する。
【0025】
A−2.溶着状態判定処理:
図3は、本実施例における溶着状態判定処理の流れを示すフローチャートである。溶着状態判定処理は、レーザー溶着された透過性樹脂部材22と吸収性樹脂部材24との間の溶着状態の良否を判定する処理であり、より具体的には、
図2に示す例のように溶着軌跡WLの一部において透過性樹脂部材22と吸収性樹脂部材24との間に間隙GAが存在していることに起因する溶着状態の不良を検出する処理である。レーザー溶着の際に透過性樹脂部材22と吸収性樹脂部材24との間に間隙GAがあると、レーザー光LAによって発熱した吸収性樹脂部材24から透過性樹脂部材22に熱が十分に伝わらないために透過性樹脂部材22が十分に発熱・溶融せず、溶着強度の低下や溶着位置における隙間の発生といった溶着状態の不良が発生する場合がある。このような溶着状態の不良は、溶着後の製品において、不良部分を介して異物(水やガス)が侵入し、内部の設置物(例えば電子回路)の動作に悪影響を及ぼしたり金属部分の腐食につながったりすると共に、被溶着部材が脱落するおそれもあり、好ましくない。溶着状態判定処理は、このような溶着状態の不良の有無を判定するために実行される。
【0026】
最初に、判定装置18が、赤外線センサー14およびセンサーアンプ16から、レーザー溶着中に検出された溶着位置の温度を表す温度データを読み込む(ステップS110)。
図4は、温度データが表す温度曲線CTの一例を示す説明図である。
図4に示すように、本実施例では、赤外線センサー14により、レーザー溶着開始時t0から終了時teに至るまで、溶着位置の温度Tが連続的に検出(測定)される。
【0027】
なお、
図4では、
図2に示す例のように溶着軌跡WLの一部において透過性樹脂部材22と吸収性樹脂部材24との間に間隙GAが存在している場合の温度曲線CTの一例を実線で示している。この温度曲線CTでは、タイミングt3からt4までの期間付近で温度Tが他の期間より突出して高くなっているが、この温度上昇は、間隙GAの存在に起因している。
図4には、また、間隙GAが存在しない場合の温度曲線CTxの一例を二点鎖線で示している(ただし、温度曲線CTとの共通部分は図示を省略している)。この温度曲線CTxでは、温度Tが他の期間より突出して高くなっている期間は存在しない。
【0028】
判定装置18は、温度データの内、温度が不安定な期間のデータを破棄する(ステップS120)。具体的には、判定装置18は、レーザー溶着期間(
図4のt0からteまでの期間)の温度データの内、最初の所定の期間(
図4のt0からt1までの期間)のデータと最後の所定の期間(
図4のt7からteまでの期間)のデータとを破棄する。この最初の所定の期間はレーザー照射装置12からのレーザー出力が定格に達するまでの過渡期間に該当し、また最後の所定の期間は溶着軌跡WLのオーバーラップやレーザー照射終了によりレーザー出力が遮断されるまでの過渡期間に該当し、
図4に例示するようにいずれも温度Tが安定していない期間である。本実施例では、判定精度の一層の向上のため、これらの期間のデータを破棄するものとしている。なお、本実施例において、レーザー溶着期間の内、上記最初の所定の期間および最後の所定の期間を除いた期間(
図4のt1からt7までの期間)を、有効期間とも呼ぶ。
【0029】
次に、判定装置18は、判定精度の一層の向上のため、温度データに対して異常データのマスキング処理とローパスフィルタを用いたノイズ除去処理とを実行する(ステップS130およびS140)。これらの処理は順不同に実行可能である。なお、これらの処理は公知の方法により実行可能であるため、ここでは詳細な記載を省略する。
【0030】
次に、判定装置18は、レーザー溶着期間の内の有効期間(
図4のt1からt7までの期間)を均等に分割して複数の小期間を設定し、各小期間における温度の平均値を算出する(ステップS150)。
図4の例では、レーザー溶着期間の有効期間が、6つの小期間(t1からt2までの期間、t2からt3までの期間、t3からt4までの期間、t4からt5までの期間、t5からt6までの期間、t6からt7までの期間)に分割されており、各小期間における温度の平均値を一点鎖線で示している。
【0031】
次に判定装置18は、各小期間の温度の平均値Taの内、最大値Ta(max)と最小値Ta(min)との差ΔTa(=Ta(max)−Ta(min))が、所定の閾値ΔTth以下であるか否かを判定する(ステップS160)。判定装置18は、差ΔTaが閾値ΔTth以下である場合には、溶着状態は良好であると判定し(ステップS170)、差ΔTaが閾値ΔTthより大きい場合には、溶着状態は不良であると判定する(ステップS180)。
【0032】
図4において実線で例示するように、溶着軌跡WLの一部において透過性樹脂部材22と吸収性樹脂部材24との間に間隙GAが存在している場合には、温度曲線CTは間隙GAに対応する部分において大きく上昇する。そのため、間隙GAが存在する場合には、各小期間の温度の平均値Taの最大値Ta(max)と最小値Ta(min)との差ΔTaは比較的大きくなる。一方、
図4において二点鎖線で例示するように、そのような間隙GAが存在しない場合には、温度曲線CTxは部分的に極端に上昇することはない。そのため、間隙GAが存在しない場合には、差ΔTaは比較的小さくなる。そのため、各小期間の温度の平均値Taの最大値Ta(max)と最小値Ta(min)との差ΔTaが閾値ΔTth以下であるか否かを判定することによって、間隙GAの存在に起因する溶着状態の不良が存在するか否かの判定を行うことができる。
【0033】
図5は、比較例における溶着状態の判定方法を示す説明図である。比較例における溶着状態の判定方法は、温度曲線CT全体が所定の閾値Tth以下であるか否かを判定することにより、溶着状態の良否を判定する方法である。ここで、レーザー溶着中の溶着位置の温度は、レーザー照射装置12の出力の経時変化や樹脂部材22,24の品質ばらつき、環境温度の変化等に起因して変動し得る。そのため、溶着位置の温度検出結果は、例えば
図5の温度曲線CT(1)のようになったり、温度曲線CT(2)のようになったりする可能性がある。ここで、閾値Tthを
図5のTth(1)のように大きめに設定すると、透過性樹脂部材22と吸収性樹脂部材24との間に間隙GAが存在しているときに、温度検出結果が温度曲線CT(1)のようであった場合には、温度曲線CT(1)が閾値Tth(1)を超える部分があるために溶着状態は不良であると判定されるが、温度曲線CT(2)のようであった場合には、温度曲線CT(2)が閾値Tth(1)を超える部分がないために溶着状態は良好であると誤判定されてしまう。反対に、閾値Tthを
図5のTth(2)のように小さめに設定すると、間隙GAが存在しないときに、温度検出結果が温度曲線CTx(2)(CT(2)との重複部分を含む)のようであった場合には、温度曲線CTx(2)が閾値Tth(2)を超える部分がないために溶着状態は良好であると判定されるが、温度曲線CTx(1)(CT(1)との重複部分を含む)のようであった場合には、温度曲線CTx(1)が閾値Tth(2)を超える部分があるために溶着状態は不良であると誤判定されてしまう。このように、温度曲線CT全体が所定の閾値Tth以下であるか否かを判定することにより溶着状態の良否を判定する比較例の方法では、判定精度の点で向上の余地がある。
【0034】
これに対し、本実施例の判定方法では、レーザー溶着期間の有効期間を均等に分割して設定された各小期間の検出温度の平均値Taの最大値Ta(max)と最小値Ta(min)との差ΔTaが閾値ΔTth以下であるか否かを判定することによって溶着状態の良否を判定する。上述した要因によってレーザー溶着中の溶着位置の温度が変動しても、その変動の程度はレーザー溶着期間の有効期間において同程度であると考えられるため、そのような温度変動は、差ΔTaにはほとんど影響しない。従って、本実施例の判定方法では、上述した要因によってレーザー溶着中の溶着位置の温度が変動し得るとしても、精度良く溶着状態を判定することができる。これにより、例えば、レーザー溶着後に溶着部が被溶着部材によって覆われて目視できない場合でも、特別な設備を追加することなく、非破壊で溶着状態を精度良く判定することができ、不良品が出荷されたり、反対に良品が不良と判定されて歩留まりが低下したりすることを防止できる。
【0035】
なお、本実施例の判定方法では、レーザー溶着期間の有効期間を均等に分割して設定された各小期間の検出温度の平均値Taを用いて判定を行うため、溶着軌跡WLの略全体にわたって精度良く溶着状態の判定を行うことができる。従って、本実施例の判定方法は、被溶着部材同士の位置関係が一意に決まらない場合(例えば円筒形部材や正方形平面を有する部材である場合)や、レーザー照射の開始位置と被溶着部材の位置との関係が一意に決まらない場合にも好適である。
【0036】
B.第2実施例:
図6は、第2実施例における溶着状態判定処理の流れを示すフローチャートである。第2実施例における溶着状態判定処理において、温度データの読み込み(ステップS110)からノイズ除去処理(ステップS140)までの処理内容は
図3に示した第1実施例と同様であるため、ここでは説明を省略する。以下、第1実施例とは異なるそれ以降の処理内容について説明する。
【0037】
判定装置18は、レーザー溶着期間において複数の小期間を設定する(ステップS152)。具体的には、判定装置18は、レーザー溶着の溶着軌跡WL上の各部分に対応する各小期間を設定する。
図7は、第2実施例における小期間の設定方法の一例を示す説明図である。
図7に示す例では、溶着軌跡WLの一部分AR1に対応する小期間と、溶着軌跡WLの他の一部分AR2に対応する小期間とが設定される。ここで、部分AR1と部分AR2とは、略矩形の溶着軌跡WLにおける2つの長辺の部分であるため、互いに形状が類似する2つの部分であるといえる。なお、互いに形状が類似する2つの部分に対応する小期間であれば、AR1,2に対応する小期間以外に他の小期間が設定されるとしてもよい。
【0038】
判定装置18は、特定の小期間として、溶着軌跡WLにおける互いに形状が類似する2つの部分AR1,2に対応する2つの小期間における温度の平均値Ta(AR1),Ta(AR2)を算出する(ステップS152)。
【0039】
次に判定装置18は、2つの平均値Ta(AR1),Ta(AR2)の差の絶対値ΔTa(=|Ta(AR1)−Ta(AR2)|)が、所定の閾値ΔTth以下であるか否かを判定する(ステップS162)。判定装置18は、差の絶対値ΔTaが閾値ΔTth以下である場合には、溶着状態は良好であると判定し(ステップS170)、差の絶対値ΔTaが閾値ΔTthより大きい場合には、溶着状態は不良であると判定する(ステップS180)。
【0040】
溶着軌跡WL上の部分AR1または部分AR2において透過性樹脂部材22と吸収性樹脂部材24との間に間隙GAが存在している場合には、間隙GAが存在している方の部分の検出温度が大きく上昇するため、2つの部分AR1,2に対応する2つの小期間における温度の平均値Ta(AR1),Ta(AR2)の差の絶対値ΔTaは比較的大きくなる。そのため、差の絶対値ΔTaが閾値ΔTth以下であるか否かを判定することによって、間隙GAの存在に起因する溶着状態の不良が存在するか否かの判定を行うことができる。ここで、
図7に示すように、2つの部分AR1,2は溶着軌跡WLにおける互いに形状が類似する部分であるため、上述したレーザー照射装置12の出力の経時変化や樹脂部材22,24の品質ばらつき、環境温度の変化等の要因によってレーザー溶着中の溶着位置の温度が変動しても、その変動の程度は2つの部分AR1,2で同程度であると考えられる。そのため、そのような温度変動は、差の絶対値ΔTaにほとんど影響しない。従って、第2実施例の判定方法では、上述した要因によってレーザー溶着中の溶着位置の温度が変動し得るとしても、精度良く溶着状態を判定することができる。
【0041】
なお、上記説明では、形状が類似する1組の部分AR1,2についての溶着状態を判定するものとしているが、形状が類似する他の組の部分についての溶着状態の判定も同様に実行することができる。すなわち、第2実施例の溶着状態判定処理では、溶着軌跡WLにおける互いに形状が類似する1組または複数組の部分について、溶着状態の判定を行うことができる。
【0042】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0043】
上記実施例におけるレーザー溶着システム10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施例では、溶着位置の温度検出のために赤外線センサー14を用いるとしているが、赤外線センサー14以外の他の温度センサーを用いるとしてもよい。また、センサーアンプ16は適宜、省略可能である。
【0044】
また、上記実施例では、レーザー溶着中に溶着位置の温度をセンサーを用いて検出するとしているが、溶着位置の温度に相関する他の指標値(例えば発熱量)を当該指標値を検出可能なセンサーを用いて検出するとしてもよい。
【0045】
また、上記実施例では、温度データの内、温度が不安定な期間(レーザー溶着期間における最初の所定の期間および最後の所定の期間)のデータを破棄するものとしているが、この期間の一方または両方のデータは必ずしも破棄する必要はない。なお、最初の所定の期間の温度データの破棄を行わない場合には、
図4のt0からt7までの期間が有効期間となり、最後の所定の期間の温度データの破棄を行わない場合には、
図4のt1からteまでの期間が有効期間となり、最初の所定の期間および最後の所定の期間の温度データの破棄を行わない場合には、レーザー溶着期間(
図4のt0からteまでの期間)自体が有効期間となる。また、上記実施例では、温度データに対して異常データのマスキング処理とローパスフィルタを用いたノイズ除去処理とを実行するものとしているが、これらの処理の一方を実行しないとしてもよい。
【0046】
また、上記実施例では、溶着軌跡WLが略矩形であるとしているが、本発明は、溶着軌跡WLが略矩形以外(例えば円形や直線形状)である場合にも適用可能である。