(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記ばね要素は、上記フリーピストンと上記ナット部との間に介装される伸側コイルばねと、上記フリーピストンと上記ハウジング本体との間に介装される圧側コイルばねとを備えて構成され、上記伸側クッションが上記伸側コイルばねによって上記フリーピストンの伸側圧力室側面と上記ナット部の底部の一方に固定され、上記圧側クッションが上記圧側コイルばねによって上記フリーピストンの圧側圧力室側面と上記ハウジング本体の底部の一方に固定されることを特徴とする請求項1に記載の緩衝装置。
上記ハウジングに上記圧側圧力室と上記圧側室とを連通するオリフィス孔を設け、上記フリーピストンの底部の上記圧側圧力室側に上記オリフィス孔に対向する凸部を備え、上記フリーピストンが上記圧側圧力室を圧縮する方向へ変位すると上記凸部が上記オリフィス孔に接近することを特徴とする請求項4または5に記載の緩衝装置。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の緩衝装置にあっては、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダ内を上室と下室に区画するピストンと、ピストンに設けられた上室と下室を連通する第一流路と、ピストンロッドの先端から側部に開通して上室と下室を連通する第二流路と、第二流路の途中に接続される圧力室を備えてピストンロッドの先端に取付けられたハウジングと、圧力室内に摺動自在に挿入され圧力室を一方室と他方室とに区画するフリーピストンと、フリーピストンを附勢するコイルばねとを備えて構成されている。すなわち、圧力室内の一方室は第二流路を介して下室内に連通されるとともに、圧力室内の他方室は同じく第二流路を介して上室に連通されるようになっている。
【0003】
このように構成された緩衝装置は、圧力室がフリーピストンによって一方室と他方室とに区画されており、第二流路を介しては上室と下室とが直接的に連通されてはいないが、フリーピストンが移動すると一方室と他方室の容積比が変化し、フリーピストンの移動量に応じて圧力室内の液体が上室と下室へ出入りするため、見掛け上、上室と下室とが第二流路を介して連通されているが如くに振舞う。
【0004】
ここで、緩衝装置の伸縮時における上室と下室との差圧をPとし、上室から流出する液体の流量をQとし、上記差圧Pと第一流路を通過する液体の流量Q1との関係である係数をC1とし、圧力室の他方室内の圧力をP1とし、差圧Pと圧力P1との差と上室から圧力室の他方室内に流入する液体の流量Q2との関係である係数をC2とし、圧力室の一方室内の圧力をP2とし、この圧力P2と一方室から下室内に流出する液体の流量Q2との関係である係数をC3とし、フリーピストンの受圧面積である断面積をAとし、フリーピストンの圧力室に対する変位をXとし、コイルばねのばね定数をKとして、流量Qに対する差圧Pの伝達関数を求めると、式(1)が得られる。なお、式(1)中、sはラプラス演算子を示している。
【数1】
さらに、上記式(1)で示された伝達関数中のラプラス演算子sにjωを代入して、周波数伝達関数G(jω)の絶対値を求めると、以下の式(2)が得られる。
【数2】
上記各式から理解できるように、この緩衝装置における流量Qに対する差圧Pの伝達関数の周波数特性は、Fa=K/{2・π・A
2・(C1+C2+C3)}とFb=K/{2・π・A
2・(C2+C3)}の2つの折れ点周波数を持ち、また、F<Faの領域においては、伝達ゲインは略C1となり、Fa≦F≦Fbの領域においてはC1からC1・(C2+C3)/(C1+C2+C3)まで漸減するように変化して、F>Fbの領域においては一定となる。すなわち、流量Qに対する差圧Pの伝達関数の周波数特性は、低周波数域では伝達ゲインが大きくなり、高周波数域では伝達ゲインが小さくなる。
【0005】
したがって、この緩衝装置では、低周波数の振動の入力に対しては大きな減衰力を発生し、他方、高周波数の振動の入力に対しては小さな減衰力を発生することができるので、車両が旋回中等の入力振動周波数が低い場面においては高い減衰力を確実に発生可能であるとともに、車両が凹凸路面を走行するような入力振動周波数が高い場面においては低い減衰力を確実に発生させて、車両における乗り心地を向上させることができる(たとえば、特許文献1,2参照)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に基づいて本発明を説明する。本発明の緩衝装置Dは、
図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を伸側室R1および圧側室R2に区画する隔壁部材たるピストン2と、上記した伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路3a,3bと、圧力室R3を形成するハウジング15と、上記ハウジング15内に摺動自在に挿入されて圧力室R3を伸側流路5を介して伸側室R1に連通される伸側圧力室7と圧側流路6を介して圧側室R2に連通される圧側圧力室8とに区画するフリーピストン9と、フリーピストン9の圧力室R3に対する変位を抑制する附勢力を発生するばね要素である伸側コイルばね10と圧側コイルばね11と、フリーピストン9をハウジング15との衝突を防止するクッションCとを備えて構成され、車両における車体と車軸との間に介装されて減衰力を発生し車体の振動を抑制するものである。
【0015】
また、緩衝装置Dは、シリンダ1内に移動自在に挿通されたピストンロッド4を備えており、ピストンロッド4の一端はピストン2に連結されるとともに、他端である上端は、図示はしないが、シリンダ1の上端を封止する環状のヘッド部材によって摺動自在に軸支されている。なお、シリンダ1の下端は、図外のボトム部材によって封止されている。
【0016】
そして、伸側室R1および圧側室R2さらには圧力室R3内には作動油等の液体が充満される。また、この緩衝装置Dの場合、片ロッド型の緩衝装置であるので、ピストンロッド4がシリンダ1内に出入りする体積を補償するため、図示はしないが、シリンダ1内の下方にシリンダ1の内周に摺接して圧側室R2と気体室とを区画する摺動隔壁が設けられるか、シリンダ1外にリザーバが設けられる。リザーバをシリンダ1外に設ける場合、シリンダ1の外周を覆う外筒を設けてシリンダ1と外筒との間にリザーバを形成するほか、シリンダ1とは別個にタンクを設けて当該タンクでリザーバを形成するようにしてもよい。なお、緩衝装置Dの収縮作動時に圧側室R2の圧力を高めるために圧側室R2とリザーバとの間を仕切る仕切部材と、仕切部材に設けられて圧側室R2からリザーバへ向かう液体の流れに抵抗を与えるベースバルブとを設けるようにしてもよい。なお、上記した作動室たる伸側室R1、圧側室R2および圧力室R3内に充填される液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体を使用することもできる。
【0017】
以下、各部について詳細に説明すると、ピストンロッド4は、
図1に示すように、その下端側に小径部4aが形成されるとともに、小径部4aの先端側には螺子部4cが形成されている。
【0018】
そして、ピストンロッド4には、小径部4aの先端から開口しピストンロッド4の側部に抜けるロッド内通路4bが形成されており、このロッド内通路4bは伸側流路5の一部を形成している。なお、図示したところでは、この伸側流路5の途中には、抵抗となる弁を設けていないが、絞り等の弁を設けるようにしてもよい。
【0019】
ピストン2は、環状に形成されるとともに、その内周側にピストンロッド4の小径部4aが挿入されている。また、このピストン2には、伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路3a,3bが設けられ、通路3aの
図1中上端は減衰力発生要素である圧側リーフバルブV1にて閉塞され、他方の通路3bの
図1中下端も減衰力発生要素である伸側リーフバルブV2によって閉塞されている。
【0020】
この圧側リーフバルブV1および伸側リーフバルブV2は、共に環状に形成され、内周側にはピストンロッド4の小径部4aが挿入され、圧側リーフバルブV1および伸側リーフバルブV2の撓み量を規制する環状のバルブストッパ41,42とともにピストン2に積層されている。
【0021】
そして、圧側リーフバルブV1は、緩衝装置Dの収縮時に圧側室R2と伸側室R1の差圧によって撓んで開弁し通路3aを開放して圧側室R2から伸側室R1へ移動する液体の流れに抵抗を与えるとともに、緩衝装置Dの伸長時には通路3aを閉塞するようになっており、他方の伸側リーフバルブV2は、圧側リーフバルブV1とは反対に緩衝装置Dの伸長時に通路3bを開放し、収縮時には通路3bを閉塞する。すなわち、圧側リーフバルブV1は、緩衝装置Dの収縮時における圧側減衰力を発生する減衰力発生要素であり、他方の伸側リーフバルブV2は、緩衝装置Dの伸長時における伸側減衰力を発生する減衰力発生要素である。また、圧側リーフバルブV1および伸側リーフバルブV2で通路3a,3bを閉じた状態にあっても、図示はしない周知のオリフィスによって伸側室R1と圧側室R2とが連通されるようになっており、オリフィスは、たとえば、圧側リーフバルブV1および伸側リーフバルブV2の外周に切欠を設けたり、圧側リーフバルブV1および伸側リーフバルブV2が着座する弁座に凹部を設けるなどして形成される。
【0022】
このように、通路を一方通行とする場合には、緩衝装置Dのように、通路3a,3bを設けてそれぞれを緩衝装置Dの伸長時あるいは収縮時のみ液体が通過するように構成してもよく、また、通路が双方向流れを許容する場合には一つのみを設けるようにしてもよい。さらに、減衰力発生要素は、オリフィスとリーフバルブを並列した構成以外にも、たとえば、チョークとリーフバルブを並列させる構成やその他の構成を採用することもできるのは当然である。
【0023】
そして、ピストンロッド4の螺子部4cには、上記伸側リーフバルブV2の下方から圧力室R3を形成するハウジング15が螺着され、このハウジング15によって、上記したピストン2、圧側リーフバルブV1、伸側リーフバルブV2およびバルブストッパ41,42がピストンロッド4に固定されている。このように、ハウジング15は、内部に圧力室R3を形成するだけでなく、ピストン2をピストンロッド4に固定する役割をも果たしている。
【0024】
つづいて、ハウジング15について説明する。ハウジング15は、ピストンロッド4の螺子部4cに螺合される有底筒状であって外周に鍔30cを備えたナット部30と、有底筒状のハウジング本体32とを備えて構成され、ハウジング本体32の
図1中上端開口部が上記鍔30cの外周へ向けて加締められて鍔30cの外周に装着され、ハウジング本体32とナット部30とを一体化し、このナット部30およびハウジング本体32で圧側室R2内に圧力室R3を画成している。なお、ナット部30とハウジング本体32との一体化に際し、上記かしめ加工以外にも溶接等の他の方法を採用することも可能である。
【0025】
そして、上記のように形成される圧力室R3内には、フリーピストン9が摺動自在に挿入されて、圧力室R3は、
図1中上方側の伸側圧力室7と下方側の圧側圧力室8とに区画されている。
【0026】
また、ナット部30は、有底筒状であって、底部30aと底部30aの外周に設けた筒部30bと、当該筒部30bの端部外周にフランジ状に設けた鍔30cとを備え、筒部30bの内周には螺子部30dが形成されるとともに、筒部30bには側方から開口して内部へ通じる開口30eが設けられている。そして、このナット部30における筒部30bをピストンロッド4の螺子部4cに螺着することで、上記したピストン2とこれに積層される各部材を上述のようにピストンロッド4に固定することができるとともに、ハウジング15をピストンロッド4の小径部4aに固定することが可能なようになっている。また、ナット部30における底部30aとピストンロッド4の小径部4aの
図1中下端との間には空隙が形成されるようになっていて、ピストンロッド4に設けたロッド内通路4bと開口30eとが連通するようになっている。したがって、伸側圧力室7は、開口30eおよびロッド内通路4bを介して伸側室R1に連通され、当該開口30eおよびロッド内通路4bとで伸側流路5を形成していて、開口30eは伸側流路5の一部を形成している。
【0027】
ハウジング本体32は、
図1中下端の外径が小径とされる筒部32aと、底部32bとを備えて有底筒状とされ、筒部32aの小径部32cには側方から開口して内部へ通じる開口32dが設けられている。この開口32dは、ハウジング本体32内に摺動自在に挿入されるフリーピストン9にて区画した圧側圧力室8に面しており、圧側圧力室8を圧側室R2へ連通する圧側流路6として機能するとともに圧側圧力室8と圧側室R2とを行き来する液体の流れに抵抗を与えるオリフィスとしても機能している。なお、筒部32aの小径部32cにおける外周の断面形状が真円以外の形状、たとえば、一部を切欠いた形状や、六角形等の形状とされており、当該小径部32cに工具を係合させてハウジング15をピストンロッド4の先端に螺着することができるようになっている。
【0028】
フリーピストン9は、有底筒状に形成されて、筒部9aと、筒部9aの一端を閉塞する底部9bとを備えて構成され、筒部9aの外周をハウジング本体32の筒部32aの内周に摺接させて圧力室R3内に挿入されており、圧力室R3を伸側室R1に連通される伸側圧力室7と圧側室R2に連通される圧側圧力室8とに区画している。このようにフリーピストン9が有底筒状とすることで筒部9aにおける軸方向長さを確保でき、ハウジング15に対する摺動性を損なうことなくフリーピストン9の軽量化を図ることができるとともに、ばね要素としての伸側コイルばね10および圧側コイルばね11のばね長とストローク長の確保が容易となり、ハウジング15の全長の長大化を抑制することができる。
【0029】
また、このフリーピストン9に、フリーピストン9のハウジング15に対する変位を抑制する附勢力を作用させるためのばね要素として、伸側圧力室7内であってナット部30の鍔30cとフリーピストン9の底部9bとの間に伸側コイルばね10を介装するとともに、圧側圧力室8内であってハウジング本体32の底部32bとフリーピストン9の底部9bとの間に、圧側コイルばね11を介装してあり、フリーピストン9は、これら伸側コイルばね10および圧側コイルばね11でなるばね要素によって上下側から挟持されて、圧力室R3内の所定の中立位置に位置決められた上で弾性支持されている。なお、中立位置は、圧力室R3の軸方向の中央を指すものではなく、フリーピストン9がばね要素によって位置決められる位置のことである。
【0030】
また、伸側コイルばね10とフリーピストン9の底部9bにおける伸側圧力室側面との間には、伸側クッション20が介装され、圧側コイルばね11とハウジング本体32の底部32bにおける圧側圧力室側面との間には、圧側クッション21が介装されており、これら伸側クッション20および圧側クッション21とでクッションCを構成している。
【0031】
伸側クッション20は、フリーピストン9の底部9bに積層される環状のプレート20aと、プレート20aの内周に固定されるゴム等の弾性体で形成した凸状のクッション体20bとで構成されており、上記プレート20aが伸側コイルばね10とフリーピストン9とで挟持されてフリーピストン9の底部9bにおける伸側圧力室側面に固定されている。なお、伸側クッション20は、フリーピストン9の筒部9a内に挿入されると径方向へガタが無く収容されるようになっている。
【0032】
そして、フリーピストン9が
図1中上方側へ移動してストロークエンド近傍まで変位すると、クッション体20bがナット部30の底部30aと衝合し、それ以上のフリーピストン9のストロークエンド側への変位によって圧縮されると圧縮度合いに応じて反力を発し、フリーピストン9の移動速度を徐々に減速させフリーピストン9の筒部9aの端部がハウジング15のナット部30の鍔30cへ勢い良く衝突することを防止して打音の発生を阻止する。なお、伸側クッション20は、ナット部30の底部30a側へ固定してもよく、伸側コイルばね10を利用して伸側クッション20を固定することができるので、別途の固定手段を必要としない点で有利である。
【0033】
圧側クッション21は、ハウジング本体32の底部32bに積層される環状のプレート21aと、プレート21aの内周に設けた保持筒21bと、保持筒21bのフリーピストン側端の内周に固定されるとともに保持筒21bから先端がフリーピストン側へ向けて突出するゴム等の弾性体で形成した凸状のクッション体21cとで構成されており、上記プレート21aが圧側コイルばね11とハウジング本体32とで挟持されてハウジング本体32の底部32bに固定されている。そして、フリーピストン9が
図1中下方側へ移動してストロークエンド近傍まで変位すると、クッション体21cがフリーピストン9の底部9bと衝合し、それ以上のフリーピストン9のストロークエンド側への変位によって圧縮されると圧縮度合いに応じて反力を発し、フリーピストン9の移動速度を徐々に減速させフリーピストン9の底部9bの
図1中下端外周がハウジング15におけるハウジング本体32の筒部32aに設けた段部32eへ勢い良く衝突することを防止して打音の発生を阻止する。なお、圧側クッション21は、フリーピストン9の底部9b側へ固定してもよく、圧側コイルばね11を利用して圧側クッション21を固定することができるので、別途の固定手段を必要としない点で有利である。
【0034】
上記したようにばね要素をクッションCの固定に利用しないのであれば、ばね要素にコイルばねを利用せずともよく、フリーピストン9を弾性支持できればよいので、コイルばね以外のものを採用してもよく、たとえば、皿ばね等の弾性体をばね要素として用いてフリーピストン9を弾性支持するようにしてもよい。また、一端がフリーピストン9に連結される単一のばね要素を用いる場合には、ナット部30或いはハウジング本体32に他端を固定するようにしてもよい。
【0035】
また、この場合、伸側クッション20がフリーピストン9の底部9b或いはナット部30の底部30aのいずれか一方に固定されていて、これらの他方と衝合しても、開口30eがナット部30の筒部30bに設けられているので伸側流路5が塞がれることが無く、また、圧側クッション21がフリーピストン9の底部9b或いはハウジング本体32の底部32bのいずれか一方に固定されていて、これらの他方と衝合しても、開口32dがハウジング本体21の筒部32bに設けられているので圧側流路6が塞がれることが無いので、伸側クッション20および圧側クッション21が開口30e,32dに干渉して傷んでしまうことが無く、フリーピストン9の円滑な変位を阻害することもない。
【0036】
伸側コイルばね10は、フリーピストン9の筒部9a内に収容されており、伸側コイルばね10が調芯されてフリーピストン9に対する位置ずれが防止され、これによって安定的にフリーピストン9に附勢力を作用させることが可能となっている。また、圧側クッション21のプレート21aの外周形状をハウジング本体32の小径部32cの内周形状に符合する形状としておくことで、圧側コイルばね11を圧側クッション21の保持筒21bの外周に遊嵌することで、圧側コイルばね11のおおよその調芯が可能となり、これによって圧側コイルばね11のフリーピストン9に対する位置ずれが防止され、安定的にフリーピストン9に附勢力を作用させることが可能となる。
【0037】
以上のように構成された緩衝装置Dの動作について説明する。まず、緩衝装置Dへの入力周波数が低い場合について説明すると、同じ入力速度であるという条件下で考えると入力周波数が低い場合、フリーピストン9の振幅が大きくなると、フリーピストン9が変位するので伸側コイルばね10と圧側コイルばね11の合力によってフリーピストン9を中立位置へ戻そうとする附勢力が働き、この伸側コイルばね10と圧側コイルばね11の附勢力に見合って伸側圧力室7と圧側圧力室8のうち容積が拡大する室と容積が減少する室の圧力に差が生じ、上記拡大側の室の方が減少側の室より圧力が高くなる。
【0038】
すると、伸側圧力室7と伸側室R1との差圧、および、圧側圧力室8と圧側室R2との差圧が小さくなって、伸側流路5および圧側流路6を通過する流量は減少する。この伸側流路5および圧側流路6を通過する流量の減少にともなって、通路3a,3bの流量が増えることになり、緩衝装置Dの発生減衰力は大きくなる。
【0039】
逆に、高周波入力時には、入力振幅が小さいため、伸側室R1から圧側室R2へ、或いは、圧側室R2から伸側室R1へ移動する1周期の流量は小さく、フリーピストン9の動く変位も小さくなる。すると、フリーピストン9が受ける伸側コイルばね10と圧側コイルばね11の附勢力も小さくなる。その分、伸側圧力室7の圧力と圧側圧力室8の圧力との差は小さくなり、伸側圧力室7と伸側室R1との差圧および圧側圧力室8と圧側室R2との差圧は大きく維持されるため、伸側流路5および圧側流路6を通過する流量が低周波時よりも大きくなり、その分、通路3a,3bの流量が減少し、緩衝装置Dが発生する減衰力も減少することになる。
【0040】
このように、緩衝装置Dは、低周波数域の振動に対しては大きな減衰力を発生し、高周波数域の振動に対しては減衰力を小さくすることができ、入力振動周波数に依存して車両に適した減衰力を発生することができる。
【0041】
また、フリーピストン9がストロークエンド近傍まで変位すると、伸側クッション20或いは圧側クッション21が上述したようにフリーピストン9或いはハウジング15に衝合して、フリーピストン9のそれ以上のストロークエンド側への移動速度を徐々に減速しつつ変位を抑制してフリーピストン9とハウジング15とが勢いよく衝突することを防止することができ、また、伸側クッション20或いは圧側クッション21がフリーピストン9或いはハウジング15に衝合してからはフリーピストン9のストロークエンド側への移動速度を徐々に減少させるように機能するから、徐々に伸側流路5および圧側流路6を介しての液体の移動が抑制されることになる。そのため、緩衝装置Dの振動周波数が比較的高い場合、緩衝装置Dが伸側クッション20或いは圧側クッション21がフリーピストン9或いはハウジング15に衝合するまでは比較的低い減衰力を発生しているが、伸側クッション20或いは圧側クッション21がフリーピストン9或いはハウジング15に衝合すると緩衝装置Dの発生減衰力は徐々に減衰力が高まって、フリーピストン9の変位が伸側クッション20或いは圧側クッション21によって完全に停止させられると、最大の減衰係数で減衰力を発生する。よって、伸側クッション20或いは圧側クッション21がフリーピストン9或いはハウジング15に衝合するまでフリーピストン9が変位するような大振幅の振動の入力に対して、緩衝装置Dは徐々に発生減衰力を大きくするので、低い減衰力から急激に高い減衰力に変化することが無くなって、低減衰力から高減衰力への減衰力変化がなだらかとなる。したがって、この緩衝装置Dにあっては、振幅が大きい振動が入力されても、発生減衰力がなだらかに変化することになって、搭乗者に減衰力の変化によるショックを知覚させずに済む。特に、振動周波数が高周波である場合において、低い減衰力を発生しているので、発生減衰力の急激な変化を効果的に緩和することができる。
【0042】
以上より、本発明の緩衝装置Dによれば、フリーピストン9とハウジング15との衝突をクッションCによって抑制することで両者の打音の発生を抑制できるとともに、減衰力の急変を防止することができ、車両における乗り心地を向上することが可能である。
【0043】
さらに、打音の発生を抑制することができるので、この緩衝装置Dにあっては、車両搭乗者に当該打音を知覚させずに済み、搭乗者に不安感や違和感を抱かせることもない。なお、伸側クッション20および圧側クッション21におけるクッション体20b,21cは、ゴム等の弾性体とされているが、上記のようにフリーピストン9とハウジング15とが勢いよく衝突することを防止することできればクッション体20b,21cに金属ばねを用いることも可能である。
【0044】
なお、
図2に示したように、クッションC1は、フリーピストン13の底部13bを貫通するゴム部材であるクッションゴム22によって構成してもよい。詳しくは、フリーピストン13は、有底筒状に形成されて、筒部13aと、筒部13aの一端に設けた環状の底部13bと、底部13bの内周から圧側圧力室8側へ突出する保持筒13cとを備えて構成されており、この保持筒13c内に棒状のクッションゴム22が挿入されている。クッションゴム22は、
図2中上端22aと
図2中下端22bを保持筒13cから外方へ突出させており、胴部22cが保持筒13cによって保持されている。なお、クッションゴム22の保持筒13cへの固定の方法は、接着、融着や圧入等
といった種々の固定方法を採用することができる。
【0045】
クッションゴム22の上端22aは、半球状とされていて伸側圧力室7へ突出してナット部30の底部30aに対向して伸側クッションを構成し、クッションゴム22の下端22bは、半球状とされていて圧側圧力室8へ突出してハウジング本体32の底部32bに対向して圧側クッションを構成している。
【0046】
このようにクッションC1が構成されても、フリーピストン13が
図2中上方側のストロークエンド近傍まで変位すると、伸側クッションとしてのクッションゴム22の上端22aがハウジング15であるナット部30の底部30aに衝合してフリーピストン13の変位を抑制し、フリーピストン13が
図2中下方側のストロークエンド近傍まで変位すると、圧側クッションとしてのクッションゴム22の下端22bがハウジング15であるハウジング本体32の底部32bに衝合してフリーピストン13の変位を抑制する。
【0047】
したがって、このクッションC1を備えた緩衝装置にあっても、緩衝装置Dと同様に、フリーピストン13とハウジング15との衝突をクッションC1によって抑制することで両者の打音の発生を抑制できるとともに、減衰力の急変を防止することができ、車両における乗り心地を向上することが可能である。
【0048】
さらに、打音の発生を抑制することができるので、この緩衝装置にあっても、車両搭乗者に当該打音を知覚させずに済み、搭乗者に不安感や違和感を抱かせることもない。また、フリーピストン13を貫通して伸側クッションと圧側クッションを構成するのはゴム部材であり、フリーピストン13を貫通していても伸側圧力室7と圧側圧力室8とを連通してしまうことが無いので、シールの配慮の必要が無く、
図1の緩衝装置Dに比し、部品点数が少なく組立工数がかからず、クッションC1の設置コストも低コストである。
【0049】
また、
図3に示すように、ハウジング17と構造を変更してクッションC2を設けるようにしてもよい。このハウジング17は、ピストンロッド4の螺子部4cに螺合される筒状であって外周に鍔33bを備えたナット部33と、有底筒状のハウジング本体34とを備えて構成され、ハウジング本体34の
図3中上端開口部が上記鍔33bの外周へ向けて加締められて鍔33bの外周に装着することでハウジング本体34とナット部33とを一体化している。
【0050】
ナット部33は、筒状であって、内周に螺子部33cを備えた筒部33aと、当該筒部33aの端部外周にフランジ状に設けた鍔33bとを備えて構成されている。そして、このナット部33は、筒部33aをピストンロッド4の螺子部4cに螺着することで、上記したピストン2とこれに積層される各部材を上述のようにピストンロッド4に固定することができるとともに、ハウジング17をピストンロッド4の小径部4aに固定することが可能なようになっている。また、この場合、クッションC2を構成する第一弾性体23がナット部33の筒部33aの
図3中下端を閉塞する心配のない位置に設けられているので、
図1および
図2に示したナット部30とは異なり、筒部33aの下端は底部によって閉塞されておらず、この実施の形態においてナット部33は伸側流路5の形成に関与していない。
【0051】
ハウジング本体34は、筒部34aと、筒部34aの下端を閉塞する底部34bとを備えて有底筒状とされ、筒部34aには
図3中上方から大径部34c、大径部34cより小径の中間部34d、中間部34dよりも小径な小径部34eが順に形成されており、筒部34aの内周には、大径部34cと中間部34dとの境に第一段部34fが設けられ、また、中間部34dと小径部34eとの境に第二段部34gが設けられている。さらに、ハウジング本体34の底部34bには、オリフィス孔34hが設けられている。
【0052】
そして、このハウジング本体34とナット部33とで形成されるハウジング17内には、有底筒状のフリーピストン14が摺動自在に挿入されていて、このフリーピストン14によってハウジング17内が伸側圧力室7と圧側圧力室8とに区画されている。
【0053】
フリーピストン14は、有底筒状であって、筒部14aと、筒部14aの
図3中下端を閉塞する底部14bと、底部14bの圧側圧力室側に設けられてハウジング本体34に設けたオリフィス孔34hに対向する凸部14cとを備えて構成されている。このように構成されたフリーピストン14は、筒部14aの外周をハウジング本体34の筒部34aにおける中間部34dの内周に摺接させており、第一段部34fは伸側圧力室7に面し、第二段部34gは圧側圧力室8に面するようになっている。
【0054】
そして、クッションC2は、環状の弾性体であってナット部33の鍔33bとハウジング本体34の第一段部34fとの間に介装される第一弾性体23と、同じく環状の弾性体であって中間部34dに嵌合されて第二段部34gの
図3中上端に積層される第二弾性体24とで構成されている。
【0055】
この第一弾性体23および第二弾性体24は、この実施の形態では、ともに環状のゴムで構成されるゴムリングとされている。第一弾性体23は、フリーピストン14が
図3中上方側へストロークしてフリーピストン14の筒部14aの
図3中上端に衝合すると、フリーピストン14のそれ以上のストロークエンド側である上方への移動を抑制するとともに、フリーピストン14の
図3中上昇によって圧縮が進むと圧縮量に応じた反発力を発揮してフリーピストン14の速度を徐々に減じて、フリーピストン14とハウジング17の衝突を防止する。第二弾性体24は、フリーピストン14が
図3中下方側へストロークしてフリーピストン14の底部14bの
図3中下端外周に衝合すると、フリーピストン14のそれ以上のストロークエンド側である下方への移動を抑制するとともに、フリーピストン14の
図3中下降によって圧縮が進むと圧縮量に応じた反発力を発揮してフリーピストン14の速度を徐々に減じて、フリーピストン14とハウジング17の衝突を防止する。
【0056】
したがって、このクッションC2を備えた緩衝装置にあっても、緩衝装置Dと同様に、フリーピストン14とハウジング17との衝突をクッションC2によって抑制することで両者の打音の発生を抑制できるとともに、減衰力の急変を防止することができ、車両における乗り心地を向上することが可能である。
【0057】
また、この実施の形態の場合、フリーピストン14が圧側圧力室8を圧縮する
図3中下方へストロークする場合、フリーピストン14の底部14bの下方に設けた凸部14cがオリフィス孔34hに接近して、徐々にオリフィス孔34hを塞いでいくので、フリーピストン14が
図3中下方側へのストロークエンドに近づけば近づくほど、第二弾性体24によるフリーピストン14の下方への移動抑制に加えて、フリーピストン14によって圧縮される圧側圧力室8から圧側室R2へ液体が逃げにくくなってフリーピストン14の移動速度が減じられるから、フリーピストン14とハウジング17との打音の発生を確実に阻止することができる。
【0058】
さらに、打音の発生を抑制することができるので、この緩衝装置にあっても、車両搭乗者に当該打音を知覚させずに済み、搭乗者に不安感や違和感を抱かせることもない。なお、第一弾性体23および第二弾性体24は、角リングやOリングといったゴム等の樹脂や合成樹脂を環状にして形成されるほか、
図4に示すように、ウェーブワッシャ25,26としてもよいし、伸側クッションと圧側クッションのいずれか一方をウェーブワッシャとし、伸側クッションと圧側クッションの他方をゴム等の樹脂や合成樹脂を環状にしたものとしてもよい。
【0059】
なお、上記した実施の形態では、ハウジング15,17は、シリンダ1内に設けられているが、シリンダ1外へ設けることも可能である。
【0060】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。