特許第5878840号(P5878840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5878840
(24)【登録日】2016年2月5日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】緩衝装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/34 20060101AFI20160223BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20160223BHJP
【FI】
   F16F9/34
   F16F9/32 P
   F16F9/32 N
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-173691(P2012-173691)
(22)【出願日】2012年8月6日
(65)【公開番号】特開2014-31852(P2014-31852A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 崇志
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−078004(JP,A)
【文献】 特開2008−240764(JP,A)
【文献】 特開2011−202800(JP,A)
【文献】 特開2011−220490(JP,A)
【文献】 特開2010−60082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/34
F16F 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、上記シリンダ内に摺動自在に挿入され上記シリンダ内を伸側室と圧側室に区画するピストンと、上記シリンダ内に移動自在に挿通されるとともに上記ピストンに連結されるピストンロッドと、上記伸側室と上記圧側室とを連通する減衰通路と、圧力室と、上記圧力室内に移動自在に挿入されて上記圧力室を伸側流路を介して上記伸側室に連通される伸側圧力室と圧側流路を介して上記圧側室に連通される圧側圧力室とに区画するフリーピストンと、上記フリーピストンの上記圧力室に対する変位を抑制する附勢力を発生するばね要素とを備えた緩衝装置において、
上記圧力室は、上記ピストンロッドに設けられてフランジ部と上記フランジ部から垂下されて上記フリーピストンが摺動自在に挿入される筒部とを有するハウジングと、上記ピストンが装着されるとともに上記ハウジングの開口部を閉塞するピストンホルダとで形成されて伸側室側に配置され、
上記ピストンロッドの外周であって上記ハウジングの上記フランジ部に積層されて上記シリンダに対する上記ピストンロッドの退出を規制する伸切ストッパを設けた
ことを特徴とする緩衝装置。
【請求項2】
上記フリーピストンは有底筒状とされて開口部を上方へ向けて上記ハウジング内に挿入される
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項3】
上記ピストンホルダは、外周に上記ピストンが装着される軸部を備え、上記圧側流路が上記軸部を貫通してハウジング内に通じる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝装置。
【請求項4】
上記伸側流路は、上記フリーピストンが上記ハウジングに対する変位によって流路面積が変化するオリフィス流路を備える
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の緩衝装置。
【請求項5】
上記オリフィス流路は、上記ハウジングの側方から開口して上記ハウジング内に通じる透孔を備え、上記フリーピストンの外周に上記ハウジングの内周に摺接して上記フリーピストンと上記ハウジングとの間をシールするシールリングを設け、
上記シールリングの装着位置は、上記フリーピストンを上記ハウジング内へ挿入する際に上記透孔を跨がない位置に設けられる
ことを特徴とする請求項に記載の緩衝装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の緩衝装置にあっては、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダ内を上室と下室に区画するピストンと、ピストンに設けられた上室と下室を連通する第一流路と、ピストンロッドの先端から側部に開通して上室と下室を連通する第二流路と、第二流路の途中に接続される圧力室を備えてピストンロッドの先端に取付けられたハウジングと、圧力室内に摺動自在に挿入され圧力室を一方室と他方室とに区画するフリーピストンと、フリーピストンを附勢するコイルばねとを備えて構成されている。すなわち、圧力室内の一方室は第二流路を介して下室内に連通されるとともに、圧力室内の他方室は同じく第二流路を介して上室に連通されるようになっている。
【0003】
このように構成された緩衝装置は、圧力室がフリーピストンによって一方室と他方室とに区画されており、第二流路を介しては上室と下室とが直接的に連通されてはいないが、フリーピストンが移動すると一方室と他方室の容積比が変化し、フリーピストンの移動量に応じて圧力室内の液体が上室と下室へ出入りするため、見掛け上、上室と下室とが第二流路を介して連通されているが如くに振舞う。
【0004】
ここで、緩衝装置の伸縮時における上室と下室との差圧をPとし、上室から流出する液体の流量をQとし、上記差圧Pと第一流路を通過する液体の流量Q1との関係である係数をC1とし、圧力室の他方室内の圧力をP1とし、差圧Pと圧力P1との差と上室から圧力室の他方室内に流入する液体の流量Q2との関係である係数をC2とし、圧力室の一方室内の圧力をP2とし、この圧力P2と一方室から下室内に流出する液体の流量Q2との関係である係数をC3とし、フリーピストンの受圧面積である断面積をAとし、フリーピストンの圧力室に対する変位をXとし、コイルばねのばね定数をKとして、流量Qに対する差圧Pの伝達関数を求めると、式(1)が得られる。なお、式(1)中、sはラプラス演算子を示している。
【数1】
さらに、上記式(1)で示された伝達関数中のラプラス演算子sにjωを代入して、周波数伝達関数G(jω)の絶対値を求めると、以下の式(2)が得られる。
【数2】
上記各式から理解できるように、この緩衝装置における流量Qに対する差圧Pの伝達関数の周波数特性は、Fa=K/{2・π・A・(C1+C2+C3)}とFb=K/{2・π・A・(C2+C3)}の2つの折れ点周波数を持ち、また、F<Faの領域においては、伝達ゲインは略C1となり、Fa≦F≦Fbの領域においてはC1からC1・(C2+C3)/(C1+C2+C3)まで漸減するように変化して、F>Fbの領域においては一定となる。すなわち、流量Qに対する差圧Pの伝達関数の周波数特性は、低周波数域では伝達ゲインが大きくなり、高周波数域では伝達ゲインが小さくなる。
【0005】
したがって、この緩衝装置では、低周波数の振動の入力に対しては大きな減衰力を発生し、他方、高周波数の振動の入力に対しては小さな減衰力を発生することができるので、車両が旋回中等の入力振動周波数が低い場面においては高い減衰力を確実に発生可能であるとともに、車両が凹凸路面を走行するような入力振動周波数が高い場面においては低い減衰力を確実に発生させて、車両における乗り心地を向上させることができる(たとえば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−215459号公報
【特許文献2】特開2008−215460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記緩衝装置では、フリーピストンを収容するハウジングをピストンやリーフバルブなどをピストンロッドの先端に固定するピストンナットとして利用してピストンロッドの先端に螺着しているので、ピストンからハウジングまでの全長が長くなる。
【0008】
そのため、このような緩衝装置の場合、ハウジングを持たない緩衝器に比較してハウジングを設置する分、ストローク長が短くなってしまい、ストローク長を確保しようとすると緩衝装置の全長が長くなり車両への搭載性が悪化し、車両への搭載性を確保しようとするとストローク長が足りなくなって、ストローク長と車両への搭載性の両立が難しい。
【0009】
そこで、本発明は上記した不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、ストローク長との確保と車両への搭載性を両立することが可能な緩衝装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、シリンダと、上記シリンダ内に摺動自在に挿入され上記シリンダ内を伸側室と圧側室に区画するピストンと、上記シリンダ内に移動自在に挿通されるとともに上記ピストンに連結されるピストンロッドと、上記伸側室と上記圧側室とを連通する減衰通路と、圧力室と、上記圧力室内に移動自在に挿入されて上記圧力室を伸側流路を介して上記伸側室に連通される伸側圧力室と圧側流路を介して上記圧側室に連通される圧側圧力室とに区画するフリーピストンと、上記フリーピストンの上記圧力室に対する変位を抑制する附勢力を発生するばね要素とを備えた緩衝装置において、上記圧力室は、上記ピストンロッドに設けられてフランジ部と上記フランジ部から垂下されて上記フリーピストンが摺動自在に挿入される筒部とを有するハウジングと、上記ピストンが装着されるとともに上記ハウジングの開口部を閉塞するピストンホルダとで形成されて伸側室側に配置され、上記ピストンロッドの外周であって上記ハウジングの上記フランジ部に積層されて上記シリンダに対する上記ピストンロッドの退出を規制する伸切ストッパを設けたことを特徴とする。
【0011】
上述したように本発明の緩衝装置にあっては、ピストンとピストンロッドを軸支するヘッド部材の最低限必要な嵌合長さの範囲内にハウジングとピストンホルダを収めることで、緩衝装置のストローク長の影響を与えることなく、圧力室を設けることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の緩衝装置によれば、ストローク長との確保と車両への搭載性を両立することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施の形態における緩衝装置の縦断面図である。
図2】一実施の形態における緩衝装置の振動周波数に対する減衰特性を示した図である。
図3】一実施の形態の一変形例における緩衝装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に基づいて本発明を説明する。本発明の緩衝装置Dは、図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2に区画するピストン2と、シリンダ1内に移動自在に挿通されるとともにピストン2に連結されるピストンロッド4と、伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路3a,3bと、圧力室R3と、圧力室R3内に移動自在に挿入されて圧力室R3を伸側流路5を介して伸側室R1に連通される伸側圧力室7と圧側流路6を介して圧側室R2に連通される圧側圧力室8とに区画するフリーピストン9と、フリーピストン9の圧力室R3に対する変位を抑制する附勢力を発生するばね要素10とを備えて構成され、車両における車体と車軸との間に介装されて減衰力を発生し車体の振動を抑制するものである。なお、伸側室R1とは、車体と車軸が離間して緩衝装置Dが伸長作動する際に圧縮される室のことであり、圧側室R2とは、車体と車軸が接近して緩衝装置Dが収縮作動する際に圧縮される室のことである。
【0015】
また、この緩衝装置Dにあっては、シリンダ1の上端には環状のヘッド部材11が装着され、シリンダ1の下端はキャップ12によって閉塞されている。そして、ピストンロッド4の上端は、ヘッド部材11によって摺動自在に軸支されてシリンダ1外へ突出され、緩衝装置Dは、所謂、片ロッド型の緩衝装置とされている。そして、伸側室R1および圧側室R2さらには圧力室R3内には作動油等の液体が充満され、また、緩衝装置Dは、伸側室R1にのみピストンロッド4が挿通される片ロッド型であるので、ピストンロッド4がシリンダ1内に出入りする体積を補償するため、シリンダ1内の下方にシリンダ1の内周に摺接して圧側室R2の下方に気体室Gを区画する摺動隔壁13が設けられており、単筒型の緩衝装置に設定されている。なお、ピストンロッド4がシリンダ1に進退する体積の補償については、シリンダ1内に気体室Gを設けるほか、シリンダ1外にリザーバが設けるようにしてもよく、リザーバをシリンダ1外に設ける場合、シリンダ1の外周を覆う外筒を設けてシリンダ1と外筒との間にリザーバを形成する複筒型緩衝装置とするほか、シリンダ1とは別個にタンクを設けて当該タンクでリザーバを形成するようにしてもよい。なお、緩衝装置Dの収縮作動時に圧側室R2の圧力を高めるために圧側室R2とリザーバとの間を仕切る仕切部材と、仕切部材に設けられて圧側室R2からリザーバへ向かう液体の流れに抵抗を与えるベースバルブとを設けるようにしてもよい。なお、上記した作動室たる伸側室R1、圧側室R2および圧力室R3内に充填される液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体を使用することもできる。また、緩衝装置Dが片ロッド型ではなく、両ロッド型に設定されてもよい。
【0016】
以下、各部について詳細に説明する。ピストン2は、シリンダ1内に移動自在に挿通されたピストンロッド4の図1中下端に圧力室R3を形成するハウジング14およびピストンホルダ15を介して連結され、シリンダ1の内周に摺接して、シリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2とに区画している。
【0017】
ピストンロッド4の上端は、シリンダ1の図中上端部に取り付けられたヘッド部材11内に挿入されて外方へ突出されている。なお、ピストンロッド4とシリンダ1との間はヘッド部材11に積層された環状のシール部材50でシールされており、シリンダ1内が液密状態とされている。図示したところでは、緩衝装置Dがいわゆる片ロッド型に設定されているため、緩衝装置Dの伸縮に伴ってシリンダ1内に出入りするピストンロッド4の体積は、上記したように気体室G内の気体の体積が膨張あるいは収縮し摺動隔壁13が図1中上下方向に移動することによって補償されるようになっている。
【0018】
ピストンロッド4は、ピストンロッド本体16と、ピストンロッド本体16の図1中下端に設けた筒状であって大径のハウジング14とを備えて構成されており、ハウジング14の図1中下端の開口部には、ピストン2を保持するピストンホルダ15が嵌合されている。このピストンホルダ15は、ハウジング14の下端開口端を内側へ向けて加締めることでハウジング14の開口端に固定されている。なお、ハウジング14は、この実施の形態の場合、ピストンロッド4の先端に形成されていて、ピストンロッド4とで一部品を構成しているが、ピストンロッド4とは別部品として構成してピストンロッド4に取り付けて一体化するようにしてもよい。
【0019】
ハウジング14は、この実施の形態の場合、ピストンロッド本体16の下端に設けたフランジ部14aと、フランジ部14aから垂下される筒部14bと、筒部14bの上方側の内径を小径とすることで設けた段部14cと、筒部14bの外周から筒部14bの内周であって段部14cよりも上方側に開口して伸側室R1と圧力室R3とを連通する通孔14dと、筒部14bの外周から筒部14bの内周であって段部14cよりも下方側に開口して伸側室R1と圧力室R3とを連通する透孔14eとを備えて構成されている。ハウジング14のフランジ部14aの上端であるハウジング14の肩には、ピストンロッド本体16の外周に装着される弾性体でなる環状の伸切ストッパ22が積層されている。
【0020】
また、ピストンホルダ15は、円盤部15aと、円盤部15aの下端に垂下される軸部15bと、円盤部15aの外周から立ち上がって上記ハウジング14の筒部14bの図1中下端に嵌合する筒状のソケット15cと、軸部15bの先端から圧力室R3へ開口する圧側流路6とを備えて構成されている。そして、このピストンホルダ15は、円盤部15aをハウジング14の筒部14bの下端内周に嵌合され、筒部14bの下端を内周側へ加締めることでハウジング14に固定される。このように、ハウジング14にピストンホルダ15を固定すると、ハウジング14内が伸側室R1から区画されて圧力室R3が形成される。
【0021】
そして、このように構成される圧力室R3は、ハウジング14内に摺動自在に挿入されるフリーピストン9によって伸側圧力室7および圧側圧力室8に区画される。フリーピストン9は、有底筒状とされており、底部9aを図1中下方へ向けて筒部9bの外周をハウジング14における筒部14bの内周に摺接させてハウジング14内に挿入されている。フリーピストン9は、上記のようにハウジング14内に摺動自在に挿入されると圧力室R3内を伸側圧力室7と圧側圧力室8とに区画する。なお、フリーピストン9の底部9aを図1中下方へ向けてハウジング14内に収容することで、伸側圧力室7内で気泡が生じたり、緩衝装置Dの組立の際に伸側圧力室7内に気泡が取り残されたりしても、フリーピストン9内に気泡が溜まって外部へ気泡を排出することができなくなってしまうことが防止されている。このようにフリーピストン9内に気泡が溜まることが無いので、後述する緩衝装置Dの減衰力の特性が安定することになる。底部9aを下方へ向けてハウジング14内にフリーピストン9を収容することで上記の利点を享受することができるが、底部9aを図1中上方側へ向けてフリーピストン9をハウジング14内に収容することもできる。
【0022】
また、フリーピストン9は、この実施の形態の場合、筒部9bの外周に設けた環状溝9cと、フリーピストン9の筒部9bの内周から環状溝9cへ通じる孔9dと、筒部9bの環状溝9cよりも図1中下方側に設けた環状のシール装着溝9eとを備えており、シール装着溝9eには、ハウジング14の筒部14bの内周に摺接してフリーピストン9とハウジング14との間をシールするシールリング17が装着される。
【0023】
また、このフリーピストン9に、フリーピストン9の圧力室R3に対する変位量に応じてその変位を抑制する附勢力を作用させるばね要素10が設けられており、このばね要素10は、伸側圧力室7内であってフランジ部14aとフリーピストン9の底部9aの図1中上端との間に介装された伸側コイルばね18と、圧側圧力室8内であってピストンホルダ15の円盤部15aとフリーピストン9の底部9aとの間に介装された圧側コイルばね19とで構成されている。したがって、フリーピストン9は、これら伸側コイルばね18および圧側コイルばね19でなるばね要素10によって上下側から挟持されて、圧力室R3内の所定の中立位置に位置決められた上で弾性支持されている。なお、中立位置は、圧力室R3の軸方向の中央を指すものではなく、フリーピストン9がばね要素10によって位置決められる位置のことである。なお、ばね要素10としては、フリーピストン9を弾性支持できればよいので、コイルばね以外のものを採用してもよく、たとえば、皿ばね等の弾性体を用いてフリーピストン9を弾性支持するようにしてもよい。また、一端がフリーピストン9に連結される単一の弾性体を用いてばね要素10としてもよい。
【0024】
そして、フリーピストン9が上記中立位置にあるときには、必ず環状溝9cがハウジング14の筒部14bに設けた透孔14eに対向するようになっており、環状溝9cが孔9dを介して伸側圧力室7に連通されているので、フリーピストン9が中立位置にあると、伸側室R1と伸側圧力室7とが、通孔14dの他、透孔14e、環状溝9cおよび孔9dを介して連通される。そして、フリーピストン9がストロークエンドまで変位すると、すなわち、フリーピストン9の筒部9bの図1中上端がハウジング14の内周に設けられた段部14cに当接するか、フリーピストン9の底部9aの図1中下端がピストンホルダ15のソケット15cの上端に当接するまで変位すると、透孔14eがフリーピストン9の外周で完全にラップされて閉塞されるようになっている。すなわち、伸側流路5は、通孔14d、透孔14e、環状溝9cおよび孔9dで構成されており、この伸側流路5の一部を構成する透孔14eはフリーピストン9のハウジング14に対する変位で流路面積が変化するオリフィス流路を形成している。なお、通孔14dは、この実施の形態の場合、これを通過する液体の流れに抵抗を与えることができるような流路面積に設定されており、固定オリフィスとして機能するようになっている。
【0025】
つまり、この緩衝装置Dの場合、フリーピストン9の中立位置からの変位量が所定の変位量となるときに、オリフィス流路である透孔14eの開口端全てが環状溝9cに対向する状況からフリーピストン9の外周に対向し始める状況に移行して徐々に透孔14eの流路面積が減少し始め、伸側流路5における流路抵抗が徐々に増加する。そして、この実施の形態では、フリーピストン9の変位量の増加に伴って徐々に透孔14eの流路面積が減少し、フリーピストン9がストロークエンドに達すると、透孔14eが完全にフリーピストン9の外周で閉塞されて、伸側流路5における流路抵抗が最大となり伸側圧力室7が通孔14dのみによって伸側室R1に連通されるようになっている。なお、フリーピストン9の筒部9bの内外を連通する透孔を設けるとともに、ハウジング14の内周に環状溝と当該環状溝を伸側室R1へ連通する孔を設けて、フリーピストン9がストロークエンドまで変位するとフリーピストン9に設けた透孔がハウジング14の筒部14bによって閉塞されるようにしておき、この透孔をオリフィス流路としてもよい。
【0026】
また、上記のように構成されたフリーピストン9をハウジング14内に挿入する場合、フリーピストン9を筒部9b側からハウジング14に挿入するが、シールリング17は、ハウジング14に設けた透孔14eを跨ぐことが無く、フリーピストン9がハウジング14内でストロークしてもシールリング17に透孔14eが干渉することが無いようになっている。すなわち、シールリング17のフリーピストン9における装着位置は、フリーピストン9をハウジング14内へ挿入する際に透孔14eを跨がない位置に設けられるので、シールリング17が透孔14eに干渉して傷んでしまうことがなく、良好なシール性を発揮することができるようになっている。これに対し、ピストンホルダ15に設けた圧側流路6には、図示したところでは、抵抗となる絞りや弁を設けていないが、絞り等の弁を設けるようにしてもよい。
【0027】
また、この実施の形態の場合、フリーピストン9が伸側圧力室7を最圧縮する際に、ハウジング14の段部14cによって移動が規制されるようになっているので、通孔14dがフリーピストン9によって閉塞されないようになっており、伸側流路5が遮断されることが無いようにしてあるが、段部14cを設けずにフリーピストン9が図1中上方側のストロークエンドにまで達すると通孔14dがフリーピストン9で閉塞されるようにして、完全に伸側流路5を遮断することで伸側圧力室7を閉鎖して液圧ロックを効かせてフリーピストン9とハウジング14との衝突を防止し、衝突音を生じさせないようにすることもできる。
【0028】
つづいて、ピストン2は、環状に形成されるとともに、ピストンホルダ15に設けた軸部15bの外周に装着されている。また、このピストン2には、伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路3a,3bが設けられ、減衰通路3aの図1中上端はピストン2の図1中上方に積層される減衰力発生要素である積層リーフバルブV1にて閉塞され、他方の減衰通路3bの図1中下端もピストン2の図1中下方に積層される減衰力発生要素である積層リーフバルブV2によって閉塞されている。
【0029】
この積層リーフバルブV1,V2は、共に環状に形成され、内周側には上記した軸部15bが挿入され、積層リーフバルブV1の撓み量を規制する環状のバルブストッパ20とともにピストン2に積層されている。
【0030】
そして、積層リーフバルブV1は、緩衝装置Dの収縮作動時に圧側室R2と伸側室R1の差圧によって撓んで開弁し減衰通路3aを開放して圧側室R2から伸側室R1へ移動する液体の流れに抵抗を与えるとともに、緩衝装置Dの伸長作動時には減衰通路3aを閉塞するようになっており、他方の積層リーフバルブV2は、積層リーフバルブV1とは反対に緩衝装置Dの伸長作動時に減衰通路3bを開放し、収縮作動時には減衰通路3bを閉塞する。すなわち、積層リーフバルブV1は、緩衝装置Dの収縮作動時における圧側減衰力を発生する減衰力発生要素であり、他方の積層リーフバルブV2は、緩衝装置Dの伸長作動時における伸側減衰力を発生する減衰力発生要素である。また、積層リーフバルブV1,V2で減衰通路3a,3bを閉じた状態にあっても、図示はしない周知のオリフィスによって伸側室R1と圧側室R2とが連通されるようになっており、オリフィスは、たとえば、積層リーフバルブV1,V2の外周に切欠を設けたり、積層リーフバルブV1,V2が着座する弁座に凹部を設けたりするなどして形成される。なお、減衰力発生要素としては、上記した積層リーフバルブV1,V2の他にも、たとえば、チョークとリーフバルブを並列させる構成やその他の構成を採用することもできるのは当然である。
【0031】
そして、ピストンホルダ15の軸部15bには、バルブストッパ20、積層リーフバルブV1、ピストン2および積層リーフバルブV2が順に組み付けられ、この積層リーフバルブV2の下方からピストンナット21が螺着される。このピストンナット21によって、ピストン2、積層リーフバルブV1,V2およびバルブストッパ20がピストンホルダ15に固定される。
【0032】
緩衝装置Dは、以上のように構成されるが、続いて緩衝装置Dの作動について説明する。まず、フリーピストン9における中立位置からの変位量がオリフィス流路である透孔14eを閉塞し始めない範囲内にある場合の緩衝装置Dにおける動作について説明すると、この場合、フリーピストン9は、伸側流路5の抵抗を変化させることなく変位することが可能である。そして、緩衝装置Dへ入力される振動周波数が低い場合と高い場合で、ピストン速度が同じであるという条件下で考えると、まず、入力周波数が低い場合、入力される振動の振幅が大きくなり、フリーピストン9の振幅も、透孔14eを閉塞し始めない範囲内で大きくなる。
【0033】
フリーピストン9の振幅が上記の範囲で大きくなると、フリーピストン9が伸側コイルばね18および圧側コイルばね19でなるばね要素10から受ける附勢力が大きくなり、緩衝装置Dが伸長する場合、圧側圧力室8内の圧力は、伸側圧力室7内の圧力よりもばね要素10の附勢力分だけ小さくなり、逆に、緩衝装置Dが収縮する場合には、伸側圧力室内の圧力は、圧側圧力室内の圧力よりもばね要素10の附勢力分だけ小さくなる。
【0034】
このように、緩衝装置Dが低周波振動を呈すると伸側圧力室7と圧側圧力室8にばね要素10の附勢力に見合った差圧が生じるので、伸側室R1と伸側圧力室7の差圧および圧側室R2と圧側圧力室8の差圧が小さくなり、伸側流路5、圧側流路6、伸側圧力室7および圧側圧力室8でなる見掛け上の流路を通過する流量は小さい。この見掛け上の流路を通過する流量が小さい分、減衰通路3a,3bの流量は大きくなるので、緩衝装置Dが発生する減衰力が大きいまま維持される。
【0035】
逆に、緩衝装置Dへの入力周波数が高い場合、入力される振動の振幅が小さくなり、フリーピストン9の振幅はより小さくなる。フリーピストン9の振幅が小さくなると、フリーピストン9がばね要素10から受ける附勢力が小さくなり、緩衝装置Dが伸長行程にあっても収縮行程にあっても、伸側圧力室7内の圧力と圧側圧力室8内の圧力とが略等しくなる。すると、伸側室R1と伸側圧力室7の差圧および圧側室R2と圧側圧力室8の差圧は大きくなるので、伸側流路5および圧側流路6を通過する流量も多くなる。
【0036】
緩衝装置Dへ入力される振動の周波数が低い場合には、見掛け上の流路を通過する流量は小さく、入力周波数が高い場合には、見掛け上の流路を通過する流量は大きくなり、入力速度が同じであれば、伸側室R1から圧側室R2或いは圧側室R2から伸側室R1へ流れる流量は、入力周波数によらず等しくならなければならないため、減衰通路3a,3bの積層リーフバルブV1,V2を通過する流量は、入力周波数が低い場合には多くなって減衰力が高く、反対に、入力周波数が高い場合には少なくなって減衰力は低くなる。したがって、緩衝装置Dの減衰特性は、図2に示すように、推移することになる。
【0037】
そのため、この緩衝装置Dにあっては、減衰力の変化を入力振動周波数に依存させることができ、ばね上共振周波数の振動の入力に対しては高い減衰力を発生することで車両の姿勢を安定させて、車両旋回時に搭乗者に不安を感じさせることを防止できるとともに、ばね下共振周波数の振動が入力されると必ず低い減衰力を発生させて車軸側の振動の車体側への伝達を絶縁して、車両における乗り心地を良好なものとすることができる。
【0038】
つづいて、フリーピストン9の中立位置からの変位量が伸側流路5の流路抵抗を増加させる範囲内となる場合の緩衝装置Dにおける動作について説明する。この場合、緩衝装置Dが伸長しても収縮しても、フリーピストン9が中立位置からの変位量の増加に伴って透孔14eの閉塞量を増加させるため、徐々に伸側流路5の流路面積が小さくなり、フリーピストン9が上下のいずれかストロークエンドに到達すると完全に透孔14eが閉塞され、伸側流路5の流路面積が固定オリフィスとして機能する通孔14dの流路面積にまで制限されて最小となる。
【0039】
つまり、フリーピストン9が透孔14eを閉塞し始めた後は変位量に応じて伸側流路5の流路抵抗を徐々に大きくし、フリーピストン9がストロークエンドに到達すると流路抵抗が最大となる。
【0040】
ここで、フリーピストン9がストロークエンドまで変位するのは、伸側圧力室7もしくは圧側圧力室8への液体の流出入量が多い場合であり、具体的には、緩衝装置Dの伸縮の振幅が大きい場合である。
【0041】
緩衝装置Dに入力される振動周波数が比較的高い場合、緩衝装置Dは、フリーピストン9が透孔14eを閉塞し始める位置へ変位するまでは、比較的低い減衰力を発生しているが、フリーピストン9が透孔14eを閉塞し始める位置を越えて変位するようになると、徐々に伸側流路5の流路抵抗が徐々に大きくなっていくので、フリーピストン9のそれ以上のストロークエンド側への移動速度が減少されて、見掛け上の流路を介しての液体の移動量も減少し、その分減衰通路3a,3bを通過する液体量が増加することになり、緩衝装置Dの発生減衰力は徐々に大きくなっていく。
【0042】
そして、フリーピストン9がストロークエンドに達すると、それ以上、見掛け上の流路を介しての液体の移動はなくなり、緩衝装置Dの伸縮方向を転ずるまでは液体は減衰通路3a,3bのみを通過することになり、緩衝装置Dは、最大の減衰係数で減衰力を発生することになる。
【0043】
すなわち、フリーピストン9がストロークエンドまで変位してしまうような高周波数で大振幅の振動が緩衝装置Dに対し入力されても、フリーピストン9の中立位置からの変位量が任意の変位量を超えるとフリーピストン9がストロークエンドに達するまでに緩衝装置Dは徐々に発生減衰力を大きくするので、低い減衰力から急激に高い減衰力に変化することが無くなる。つまり、フリーピストン9がストロークエンドに達して圧力室R3内を介して伸側室R1と圧側室R2の液体の交流ができなくなるときに急激に減衰力の大きさが変化してしまうことがなくなり、低減衰力から高減衰力への減衰力変化がなだらかとなる。さらに、フリーピストン9が圧力室R3における両端側のストロークエンドまで到る際に、徐々に発生減衰力を大きくするので、減衰力の急激な変化を抑制する機能は、緩衝装置Dの伸圧の両行程で発揮される。
【0044】
したがって、この緩衝装置Dにあっては、高周波数で振幅が大きい振動が入力されても、発生減衰力がなだらかに変化することになって、搭乗者に減衰力の変化によるショックを知覚させずにすみ、車両における乗り心地を向上することができ、特に、急激な減衰力変化によって車体が振動しボンネットが共振して異音が発生してしまう事態も防止でき、この点でも車両における乗り心地を向上することができる。
【0045】
緩衝装置Dは、上述のように動作する。ところで、緩衝装置Dは、ピストンロッド4をヘッド部材11で軸支するとともに、ピストンロッド4の先端に連結されるピストン2がシリンダ1に摺接することで、横方向からの力(横力)を受けた際に、ヘッド部材11とピストン2とでこの横力を受ける構造となっているため、ヘッド部材11とピストン2との嵌合長さをある程度確保する必要性から、伸切ストッパ22がヘッド部材11に当接してそれ以上の緩衝装置Dの伸長を規制することでピストン2とヘッド部材11の最低限必要な嵌合長さを確保するよう伸切位置を規制しており、伸切ストッパ22とピストン2までの間の長さは緩衝装置Dのストローク長に寄与しない。
【0046】
ここで、この緩衝装置Dにあっては、圧力室R3がピストンロッド4に設けられてフリーピストン9が摺動自在に挿入される筒状のハウジング14と、ピストン2が装着されるとともにハウジング14の開口部を閉塞するピストンホルダ15とで形成されて伸側室R1側に配置されており、ハウジング14とピストンホルダ15をピストン2とヘッド部材11の最低限必要な嵌合長さの範囲内に収めることで、緩衝装置Dのストローク長の影響を与えることなく、圧力室R3を設けることができる。よって、本発明の緩衝装置Dにあっては、圧力室R3を緩衝装置Dのストローク長を犠牲にすることが無く設けることができ、また、緩衝装置Dの全長も長くなることが無い。したがって、本発明の緩衝装置Dによれば、ストローク長との確保と車両への搭載性を両立することが可能となる。
【0047】
また、伸切ストッパ22とピストン2との間に、圧力室R3を形成するハウジング14が収まるようにすれば、緩衝装置Dのストローク長を全く犠牲にすることなく、圧力室R3をシリンダ1内に形成することができ、緩衝装置Dの全長にも影響を全く与えることが無い。
【0048】
さらに、伸切ストッパ22がハウジング14の肩に積層されるようにすることで、伸切ストッパ22をピストンロッド4の外周に固定するためのフランジを設けずに済み、部品点数とコストの削減と緩衝装置Dを軽量化することができる。
【0049】
ピストンホルダ15が外周にピストン2が装着される軸部15bを備え、圧側流路6が軸部15bに設けられているので、圧側流路6を無理なく設けることができる。
【0050】
なお、上記したところでは、ピストンロッド4がピストンロッド本体16の先端にハウジング14を一体に形成しているが、図3に示すように、ピストンロッド23の下端外周に螺子部23aを設けて、この螺子部23aに筒状のハウジング24を螺着することでピストンロッド23にハウジング24を設けるようにしてもよい。なお、ピストンロッド23とハウジング24の固定方法としては螺子締結以外の方法を採用してもよく、たとえば、溶接することによってこれらを一体化するようにしてもよい。このことは、ハウジング14,24とピストンホルダ15の一体化に際しても同様であり、図1および図3に示したところでは、ハウジング14,24の下端開口端を加締めることでピストンホルダ15を一体化するようにしているが、これに限らず、たとえば、溶接や螺子締結によって一体化を図ることも可能である。また、伸側流路5は、図3に示したところでは、ピストンロッド23の先端から側方へ抜けるロッド内通路23bによって形成されており、ピストンホルダ15に設けた圧側流路6の途中に絞り6aを設置するようにしている。このように、圧側流路6に絞り6aを設けて伸側流路5に絞りを設けないようにすることで、伸側圧力室7からの気泡の抜けがよくなるメリットがあるが、伸側流路5に絞りを設けるようにしてもよく、この図3に示したところでは、フリーピストン9のハウジング24に対する変位によって流路面積を可変にするオリフィス流路を設けているが、オリフィス流路の設置は任意であるので、設けないようにしてもよい。
【0051】
また、ハウジング14,24およびピストンホルダ15の形状および構造は、適宜設計変更が可能であり、上記に説明し図示した形状および構造に限定されるものではない。
【0052】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0053】
1 シリンダ
2 ピストン
3a,3b 減衰通路
4 ピストンロッド
5 伸側流路
6 圧側流路
7 伸側圧力室
8 圧側圧力室
9 フリーピストン
10 ばね要素
14 ハウジング
14e オリフィス流路としての透孔
15 ピストンホルダ
15b 軸部
17 シールリング
22 伸切ストッパ
D 緩衝装置
R1 伸側室
R2 圧側室
R3 圧力室
図1
図2
図3