(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、画像に基づく溶接状態の検査では、画像処理を行うために比較的長い処理時間を要する場合があり、スパークプラグの製造効率が低下するおそれがある。また、画像を撮影するためのカメラや画像処理を行うためのシステムに多額の設備投資が必要になる。そのため、電極への貴金属チップのレーザ溶接による溶接状態をより簡易な手法で判断する技術が望まれている。また、その他にも、レーザ溶接に伴うスパッタの発生や、窪み(抉れ)の発生、貴金属チップの溶け込み異常等を精度よく検出可能な技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
本発明の第1の形態は、
中心電極および接地電極を備え、前記中心電極および前記接地電極の少なくともいずれか一方に貴金属チップが溶接されるスパークプラグの製造方法であって、
前記貴金属チップが接合される電極と前記貴金属チップとの境界部の一部にレーザを照射し、前記レーザが照射された被照射部を相対的に移動させて、前記電極と前記貴金属チップとを溶接する溶接工程と、
前記溶接工程の開始前から前記溶接工程を経て前記溶接工程の終了後までの間の、第1のタイミングにおける前記貴金属チップの位置と、第2のタイミングにおける前記貴金属チップの位置との相違に基づいて前記貴金属チップの溶接状態を判断する判断工程と、
を備え、
前記判断工程における前記第1のタイミングおよび前記第2のタイミングのうちいずれか一方は、前記溶接工程中のタイミングであることを特徴とする。また、本発明は以下の形態として実現することもできる。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、スパークプラグの製造方法が提供される。この製造方法は、中心電極および接地電極を備え、前記中心電極および前記接地電極の少なくともいずれか一方に貴金属チップが溶接されるスパークプラグの製造方法であって;前記貴金属チップが接合される電極と前記貴金属チップとの境界部の一部にレーザを照射し、前記レーザが照射された被照射部を相対的に移動させて、前記貴金属チップが接合される電極と前記貴金属チップとを溶接する溶接工程と;前記溶接工程の開始前から前記溶接工程を経て前記溶接工程の終了後までの間の、第1のタイミングにおける前記貴金属チップの位置と、第2のタイミングにおける前記貴金属チップの位置との相違に基づいて前記貴金属チップの溶接状態を判断する判断工程と;を備える。この形態の製造方法によれば、溶接工程の開始前から溶接工程を経て溶接工程の終了後までの間の、第1のタイミングにおける貴金属チップの位置と、第2のタイミングにおける貴金属チップの位置との相違に基づいて溶接状態の判断を行うので、電極への貴金属チップのレーザ溶接による溶接状態を簡易に判断することができる。
【0007】
(2)上記形態の製造方法において、前記判断工程では、前記第1のタイミングおよび前記第2のタイミングにおいてそれぞれ前記貴金属チップの位置を測定し、前記測定された2つの位置の変化量に基づいて前記貴金属チップの溶接状態を判断してもよい。この形態の製造方法によれば、貴金属チップの位置の変化量を求めることで、溶接状態を簡易に判断することができる。
【0008】
(3)上記形態の製造方法において、前記判断工程では、前記変化量と予め定められた判定値とを比較して前記貴金属チップの溶接状態を判断してもよい。この形態の製造方法によれば、予め定められた判定値と変化量とを比較することで、極めて簡易に溶接状態を判断することができる。
【0009】
(4)上記形態の製造方法において、前記判定値は、下限が0.001mmであり、上限が1.0mmであることとしてもよい。この形態の製造方法によれば、レーザ溶接に伴うスパッタの発生や窪みの発生、貴金属チップの溶け込み異常が生じていないスパークプラグを製造することができる。
【0010】
(5)上記形態の製造方法は、搬送装置によって前記貴金属チップを前記電極上に搬送して載置する載置工程を備えてもよく、前記判断工程における前記第1のタイミングおよび前記第2のタイミングは、前記載置工程後に、前記搬送装置が前記電極上から退避した後のタイミングとしてもよい。この形態の製造方法によれば、貴金属チップを搬送する搬送装置が退避してから貴金属チップの位置を測定するので、貴金属チップの位置を精度よく測定することができる。
【0011】
(6)上記形態の製造方法において、前記溶接工程では、前記変化量に応じて前記レーザ溶接の照射エネルギを調整してもよい。この形態の製造方法によれば、貴金属チップの溶接状態が不良なワークが連続して製造されてしまうことを抑制することができる。この結果、スパークプラグの不良発生率を低減することが可能になる。
【0012】
(7)上記形態の製造方法において、前記判断工程における前記貴金属チップの位置の測定は、接触式変位センサによって行うこととしてもよい。この形態の製造方法によれば、画像を撮影するためのカメラや画像処理を行うためのシステムに投資を行う必要がないので、スパークプラグの製造コストを低減することが可能になる。また、画像処理等を行う必要がないので、短い時間で溶接状態を判断することが可能となる。この結果、スパークプラグの製造効率を向上させることができる。
【0013】
(8)上記形態の製造方法は、前記判断工程において溶接不良と判断された不合格品を製造対象から除外する工程を備えていてもよい。この形態の製造方法によれば、スパークプラグの製造効率を向上させることができる。
【0014】
(9)上記形態の製造方法において、前記溶接工程では、パルス発振レーザによって前記レーザ溶接を行うこととしてもよい。この形態の製造方法によれば、レーザ溶接中においても、貴金属チップの位置の変化量を容易に測定することができるので、溶接状態を精度よく判断することが可能になる。
【0015】
(10)上記形態の製造方法において、前記溶接工程中に前記判断工程において溶接不良と判断された場合に、溶接不良と判断された貴金属チップの溶接を中止することとしてもよい。この形態の製造方法によれば、溶接を即座に中止してワークを不合格品として扱うことができるので、スパークプラグの製造効率を向上させることができる。
【0016】
本発明は、スパークプラグの製造方法以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、その製造方法で製造されたスパークプラグや、スパークプラグの検査方法、その検査方法を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.第1実施形態:
図1は、スパークプラグ100の部分断面図である。スパークプラグ100は、
図1に示すように、軸線Oに沿った細長形状を有している。
図1において、一点破線で示す軸線O−Oの右側は、外観正面図を示し、軸線O−Oの左側は、スパークプラグ100の中心軸を通る断面でスパークプラグ100を切断した断面図を示している。以下の説明では、軸線Oに平行であって
図1の上方側を先端側と呼び、
図1の下方側を後端側と呼ぶ。
【0019】
スパークプラグ100は、絶縁碍子10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50とを備える。絶縁碍子10の先端から突出する棒状の中心電極20は、絶縁碍子10の内部を通じて、絶縁碍子10の後端に設けられた端子金具40に電気的に接続されている。中心電極20の外周は、絶縁碍子10によって保持され、絶縁碍子10の外周は、端子金具40から離れた位置で主体金具50によって保持されている。主体金具50に電気的に接続された接地電極30は、火花を発生させる隙間である火花ギャップを中心電極20の先端との間に形成する。
【0020】
絶縁碍子10は、アルミナを始めとするセラミックス材料を焼成して形成された絶縁体である。絶縁碍子10は、中心電極20および端子金具40を収容する軸孔12が中心に形成された筒状の部材である。絶縁碍子10の軸方向中央には外径を大きくした中央胴部19が形成されている。中央胴部19よりも端子金具40側には、端子金具40と主体金具50との間を絶縁する後端側胴部18が形成されている。中央胴部19よりも中心電極20側には、後端側胴部18よりも外径が小さい先端側胴部17が形成され、先端側胴部17の更に先には、先端側胴部17よりも小さい外径であって中心電極20側へ向かうほど外径が小さくなる脚長部13が形成されている。
【0021】
主体金具50は、絶縁碍子10の後端側胴部18の一部から脚長部13に亘る部位を包囲して保持する円筒状の金具である。本実施形態では、主体金具50は、低炭素鋼により形成され、全体にニッケルめっきや亜鉛めっき等のめっき処理が施されている。主体金具50は、工具係合部51と、取付ネジ部52と、シール部54とを備える。工具係合部51は、スパークプラグ100をエンジンヘッドに取り付けるための工具が嵌合する。取付ネジ部52は、エンジンヘッドの取付ネジ孔に螺合するネジ山を有する。シール部54は、取付ネジ部52の根元に鍔状に形成され、シール部54とエンジンヘッドとの間には、板体を折り曲げて形成した環状のガスケット5が嵌挿される。主体金具50の先端面57は、中空の円状であり、その中央には、絶縁碍子10の脚長部13と中心電極20とが突出する。
【0022】
主体金具50の工具係合部51より後端側には薄肉の加締部53が設けられている。また、シール部54と工具係合部51との間には、加締部53と同様に薄肉の圧縮変形部58が設けられている。工具係合部51から加締部53にかけての主体金具50の内周面と絶縁碍子10の後端側胴部18の外周面との間には、円環状のリング部材6,7が介在されており、さらに両リング部材6,7間にタルク(滑石)9の粉末が充填されている。スパークプラグ100の製造時には、加締部53を内側に折り曲げるようにして先端側に押圧することにより圧縮変形部58が圧縮変形し、この圧縮変形部58の圧縮変形により、リング部材6,7およびタルク9を介し、絶縁碍子10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。この押圧により、タルク9が軸線O方向に圧縮されて主体金具50内の気密性が高められる。
【0023】
主体金具50の内周においては、取付ネジ部52の位置に形成された金具内段部56に、環状の板パッキン8を介し、絶縁碍子10の脚長部13の基端に位置する碍子段部15が押圧されている。この板パッキン8は、主体金具50と絶縁碍子10との間の気密性を保持する部材であり、燃焼ガスの流出が防止される。
【0024】
中心電極20は、電極母材21の内部に、電極母材21よりも熱伝導性に優れる芯材22が埋設された棒状の部材である。電極母材21は、ニッケルを主成分とするニッケル合金から成り、芯材22は、銅または銅を主成分とする合金から成る。中心電極20の後端部近傍には、外周側に張り出した形状の鍔部23が形成されている。鍔部23は、軸孔12に形成された軸孔内段部14に後端側から当接して、中心電極20を絶縁碍子10内で位置決めする。中心電極20の後端部は、セラミック抵抗3およびシール体4を介して端子金具40に電気的に接続される。中心電極20の先端には略円柱状の貴金属チップ24が溶接されている。貴金属チップ24は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)あるいはこれらの合金によって形成されている。貴金属チップ24の直径は、1.5mm以下とすることができる。
【0025】
接地電極30は、耐腐食性の高い金属から構成され、一例として、ニッケル合金が用いられる。この接地電極30の基端は、主体金具50の先端面57に溶接されている。接地電極30の先端側は、軸線Oと交差する方向に屈曲されており、接地電極30の先端部が、中心電極20の先端面と軸線O上で対向している。接地電極30の、中心電極20の先端と対向する部分には、貴金属チップ38が溶接されている。この貴金属チップ38は、接地電極30に直接的にレーザ溶接されていてもよいし、接地電極30と貴金属チップ38との間に介在する中間チップを介して接地電極30に溶接されていてもよい。中間チップを用いる場合には、例えば、貴金属チップ38が中間チップに予めレーザ溶接され、その中間チップが接地電極30に抵抗溶接またはレーザ溶接される。この場合、中間チップを接地電極の一部として捉えることが可能である。中間チップは、例えば、接地電極と同様の材料により形成される。
【0026】
図2は、スパークプラグ100の製造方法のフローチャートである。本実施形態の製造方法では、まず、主体金具50と、絶縁碍子10と、予め貴金属チップ24が溶接された中心電極20と、予め貴金属チップ38が溶接された接地電極30とが準備される(ステップS100)。続いて、主体金具50に接地電極30が接合され(ステップS110)、所定の工具を用いて接地電極30の先端が曲げ加工される(ステップS120)。接地電極30の先端に曲げ加工が行われると、主体金具50に中心電極20と絶縁碍子10とが挿入される組み付け工程が実施される(ステップS130)。この組み付け工程によって、主体金具50の内側に絶縁碍子(絶縁体)10と中心電極20とが組み付けられた組立体が構成される。なお、組み付け工程としては、中心電極20を絶縁碍子10に組み付けたものを主体金具50に組み付ける方法と、絶縁碍子10を主体金具50に組み付けた後に、中心電極20を組み付ける方法とがあるが、これらのいずれを採用してもよい。組み付け工程の後には、所定の工具を用いて、主体金具50の加締加工が実施される(ステップS140)。この加締加工により、絶縁碍子10が主体金具50に固定される。そして、最後に、主体金具50の取付ネジ部52にガスケット5が装着されて(ステップS150)、スパークプラグ100が完成する。なお、
図2に示した製造方法は一例であり、これとは異なる種々の方法でスパークプラグを製造可能である。例えば、ステップS100〜S150の工程の順序は、任意に変更可能である。
【0027】
図3は、中心電極20に対して貴金属チップ24をレーザ溶接する工程を示すフローチャートである。
図4は、レーザ溶接を行う設備の概略構成を示す図である。このレーザ溶接工程では、まず、
図4に示されているように、貴金属チップ24が、搬送チャック200によって把持されて中心電極20の先端面上に載置される(
図3のステップS200)。
【0028】
貴金属チップ24が中心電極20の先端面上に載置されると、押さえ治具210によって貴金属チップ24をその上端面25から押さえ、その後、搬送チャック200を中心電極20上から退避(移動)させる(ステップS210)。
【0029】
図4には、押さえ治具210により貴金属チップ24が押さえられた様子を示している。押さえ治具210は、鋭利な先端を有する棒部材211を備えている。押さえ治具210は、棒部材211の鋭利な先端により、貴金属チップ24の上端面25の中心を軸線O方向に沿って中心電極20に向かって押さえる。なお、押さえ治具210の形態はこれに限らず、さまざまな形態とすることが可能である。
【0030】
押さえ治具210には、接触式の変位センサ220が接続されている。変位センサ220は、貴金属チップ24の上端面25の中心の、軸線O方向に沿った高さを測定することができる。この高さは、貴金属チップ24の上端面25が垂直に変位した場合に変化し、また、貴金属チップ24の上端面25が傾斜した場合にも変化し得る。変位センサ220は、制御装置230に接続されている。制御装置230は、CPUやメモリを備えたコンピュータとして構成されており、変位センサ220によって測定された高さを取得して、その高さの変化量に基づき貴金属チップ24の溶接状態を判断する。また、制御装置230は、貴金属チップ24と中心電極20との溶接を行うレーザ溶接機240の制御も行う。レーザ溶接機240は、貴金属チップ24と中心電極20の境界部27の一部にパルス発振されたレーザを照射し、レーザが照射された被照射部26を相対的に回転(移動)させることで、中心電極20と貴金属チップ24とを全周に亘って溶接する。このレーザ溶接は、中心電極20および貴金属チップ24を固定した上でレーザ溶接機240を回転させて行ってもよいし、レーザ溶接機240を固定した上で中心電極20および貴金属チップ24を回転させて行ってもよい。
【0031】
押さえ治具210によって貴金属チップ24の上端面25を押さえると、制御装置230は、変位センサ220を用いて、レーザ溶接前のタイミングにおける貴金属チップ24の上端面25の高さを測定する(ステップS220)。
【0032】
レーザ溶接前に貴金属チップ24の上端面25の高さを測定すると、制御装置230は、レーザ溶接機240を制御して、貴金属チップ24のレーザ溶接を開始させる(ステップS230)。レーザ溶接を開始させると、制御装置230は、レーザ溶接中のタイミングにおける貴金属チップ24の上端面25の高さを変位センサ220を用いて測定する(ステップS240)。制御装置230は、この測定を、パルス発振されたレーザの1回の照射につき1回行う。そのため、例えば、10回のレーザ照射によって貴金属チップ24と中心電極20とが溶接される場合には、貴金属チップ24の上端面25の高さが、レーザ溶接中に10回測定されることになる。なお、この測定は、複数回のレーザ照射(例えば、3回)につき1回行うこととしてもよい。
【0033】
レーザ溶接が終了すると、制御装置230は、レーザ溶接が終了したタイミングにおいて、貴金属チップ24の上端面25の高さを変位センサ220を用いて測定する(ステップS250)。つまり、本実施形態では、レーザ溶接の開始前からレーザ溶接中およびレーザ溶接の終了後に亘って、貴金属チップ24の上端面25の高さを複数のタイミングにおいて測定する。
【0034】
レーザ溶接後に貴金属チップ24の上端面25の高さを測定すると、制御装置230は、ステップS220からステップS250までの間に測定した貴金属チップ24の上端面25の高さに基づき、貴金属チップ24の溶接状態を判断する(ステップS260)。具体的には、ステップS220からステップS250までの間に測定した貴金属チップ24の上端面25の高さの変化量を各回の測定毎に求め、求められた各変化量のうち、予め定められた基準範囲(判定値)を外れる変化量が1つでも存在すれば、貴金属チップ24の溶接状態が不合格(NG)であると判断する。
図5には、変化量の一例として、溶接前の貴金属チップ24の上端面25の高さと、レーザ照射が1回行われた後の貴金属チップ24の上端面25の高さの変化量Dを示している。本実施形態では、変化量と対比する基準範囲は、0.001mm以上1.0mm以下であることとした。つまり、上記ステップS260では、貴金属チップ24の上端面25の高さの変化量がこの基準範囲内に収まれば合格(OK)と判断され、変化量が0.001mm未満、あるいは、1.0mmを越える(以下、「1.0mm超」ともいう)場合に、不合格(NG)と判断される。
【0035】
以下に示す表1は、前述した基準範囲の検証実験の結果を示す表である。この検証実験では、1000本の中心電極20のサンプルに対してそれぞれ貴金属チップ24をレーザ溶接し、それらのサンプルの貴金属チップ24の上端面の高さの変化量(レーザ溶接前とレーザ溶接後の変化量)を、
(a)0.001mm未満、
(b)0.001mm以上1.0mm以下、
(c)1.0mm超、
に区分した上で、それぞれの区分において不合格品が発生したか否かを確認した。
図6には、この検証実験で用いた各サンプルの貴金属チップの上端面の高さの変化量を示している。
【0037】
表1において、「有」とは、その区分において不合格品が1本以上存在することを示し、「無」とは、その区分において不合格品がゼロであったことを示している。合否の評価は、レーザ溶接の結果、貴金属チップの溶け込み量が多すぎるか、少なすぎるか、スパッタが発生したか、窪み(抉れ)が発生したかを、目視や各種測定装置で確認することによって行った。
図7には、スパッタが発生した例、
図8には、窪みが生じた例、
図9には、貴金属チップの溶け込み量が多すぎる例を、それぞれ示している。スパッタが発生して貴金属チップ24や中心電極20の体積が減少した場合や、窪みが発生した場合、あるいは、貴金属チップ24の溶け込み量が多すぎる場合には、貴金属チップ24の上端面の高さは大きく変化することになる。これに対して、貴金属チップ24の溶け込み量が少なすぎる場合には、貴金属チップ24の上端面の高さはほとんど変化しないことになる。
【0038】
表1や
図6に示されているように、この検証実験によれば、変化量が0.001mm未満である区分(a)では、溶け込み量が少なすぎるサンプルが確認された。また、変化量が1.0mmを超える区分(c)では、溶け込み量が多すぎるサンプルや、スパッタが発生したサンプル、窪みが発生したサンプルが確認された。これらの区分に対して、変化量が0.001mm以上1.0mm以下である区分(b)では、溶け込み異常や、スパッタの発生、窪みの発生が生じたサンプルはいずれも確認されなかった。よって、本実施形態では、溶接状態を合格とする貴金属チップの上端面の高さの変化量の基準範囲を、0.001mm以上1.0mm以下とした。
【0039】
以上のようにして溶接状態の合否を判断すると、制御装置230は、中心電極20を搬送するための搬送装置を用いて、合格と判断された中心電極20を、合格品を収める合格品箱301(
図4)に搬送する(ステップS270)。一方、不合格と判断された中心電極20については、不合格品を収める不合格品箱302に搬送する(ステップS280)。以上で説明した一連の手順により、中心電極20に貴金属チップ24を接合するレーザ溶接工程は終了する。
【0040】
以上で説明した本実施形態のスパークプラグ100の製造方法によれば、貴金属チップ24と中心電極20のレーザ溶接時において、貴金属チップ24の位置の変化量を変位センサ220を用いて測定するという簡易な手法により、溶接状態の判断を行うことができる。そのため、撮影画像に基づいて溶接状態の判断を行う手法よりも、短い時間で溶接状態を判断することができる。この結果、スパークプラグ100の製造効率を向上させることができる。また、本実施形態のように、変位センサ220を用いれば、画像を撮影するためのカメラや画像処理を行うためのシステムに投資を行う必要がない。そのため、スパークプラグ100の製造コストを低減することが可能になる。
【0041】
また、本実施形態では、溶接状態を判断する基準となる基準範囲を、予め実験によって求め、0.001mm以上1.0mm以下という範囲とした。この基準範囲に基づいて溶接状態を判断すれば、レーザ溶接に伴うスパッタや窪み(抉れ)、貴金属チップ24の溶け込み異常のないワークを合格品と判断することが可能になる。
【0042】
また、本実施形態では、搬送チャック200によって貴金属チップ24を中心電極20上に載置し、押さえ治具210によってその貴金属チップ24を押さえて搬送チャック200が退避した後に、貴金属チップ24の位置を測定する。そのため、貴金属チップ24の位置を精度よく測定することができる。
【0043】
また、本実施形態では、溶接状態がNGと判断されたワークが、自動的に不合格品箱302に搬送されて製造の対象から除外される。そのため、スパークプラグ100の製造効率を向上させることができる。
【0044】
更に、本実施形態では、パルス発振レーザによって貴金属チップ24のレーザ溶接を行うので、レーザ溶接中においても、貴金属チップ24の位置の変化量を容易に測定することができる。この結果、溶接不良を精度よく検出することが可能になる。
【0045】
B.第2実施形態:
図10は、第2実施形態においてレーザ溶接を行う設備の概略構成を示す図である。第2実施形態では、貴金属チップ24の位置の変化量に基づいてレーザ溶接機240によるレーザの照射エネルギを調整する。本実施形態では、制御装置230の内部メモリに、照射エネルギを調整するための制御マップ231が記憶されている。
【0046】
図11は、制御マップ231の一例を示すグラフである。このグラフに示すように、制御装置230には、貴金属チップ24の位置の変化量が大きいほど照射エネルギも大きい制御マップが記憶されている。そのため、制御装置230は、現在、レーザ溶接を行っているワークの貴金属チップ24の位置の変化量が大きければ、この制御マップを参照してその変化量が小さくなるように(基準範囲に収まるように)することで、次回のワークのレーザ溶接における照射エネルギを、現在のワークに対する照射エネルギよりも小さな照射エネルギとする制御を行う。このような制御を行うことで、連続して不合格品が製造されてしまうことを防止することが可能となり、この結果、スパークプラグ100の不良発生率を低減することが可能になる。このように第2実施形態では、制御装置230は、制御マップ231用いて照射エネルギを制御することとしたが、制御マップ231に換えて、関数等を用いて照射エネルギを制御してもよい。
【0047】
なお、例えば、特開2001−126845号公報には、レーザ溶接前に、電極に対して貴金属チップを仮組みするための抵抗溶接を行うことが記載されている。そして、この先行文献に記載の技術では、仮組みを行うための抵抗溶接時に、電極に対する貴金属チップの埋込量が所望の埋込量となるように、抵抗溶接の通電量を制御している。これは、抵抗溶接では貴金属チップの端面全体を電極に溶接することになるので、貴金属チップの電極に対する埋込量を制御することが必要になるからである。これに対して、本願の技術は、抵抗溶接を行うことなく、直接的に、レーザ溶接で貴金属チップを電極に溶接するものであり、貴金属チップと電極とがそれらの境界部全面で溶融することはない。そのため、抵抗溶接時の通電量の制御について記載された先行文献から、レーザ溶接に特有の本願の課題が生じることはなく、レーザ溶接に特有の本願の課題を解決するために、抵抗溶接に関する先行文献の技術とレーザ溶接の技術とを組み合わせて本願の技術に想到しようとする動機付けは生じ得ない。
【0048】
C.変形例:
・変形例1:
上記実施形態では、貴金属チップ24の上端面25の高さを測定して貴金属チップ24の位置の変化量を求めるものとしたが、変化量が算出可能であれば、測定の対象は上端面25でなくてもかまわない。例えば、軸線O方向における貴金属チップ24の中心位置などを測定してもよい。
【0049】
・変形例2:
上記実施形態では、接触式の変位センサ220を用いて貴金属チップ24の位置の変化量を測定しているが、貴金属チップ24の位置の変化が測定可能であれば、他の手法によって測定を行うこととしてもよい。例えば、光学式の変位センサや画像解析によって変化量を測定してもよい。
【0050】
・変形例3:
上記実施形態では、パルス発振されたレーザによってレーザ溶接を行うこととしたが、連続発振されたレーザによってレーザ溶接を行うこととしてもよい。この場合、少なくともレーザ溶接前のタイミングとレーザ溶接後のタイミングとに測定した貴金属チップ24の上端面25の高さの変化量に基づき、溶接状態の判断を行う。
【0051】
・変形例4:
上記実施形態では、中心電極20に貴金属チップ24をレーザ溶接する例を説明したが、接地電極30や接地電極30の一部を構成する中間チップに貴金属チップ38をレーザ溶接する際にも、同様の手法で溶接状態を判断することが可能である。
【0052】
・変形例5:
上記実施形態では、溶接状態を判断するための基準範囲を0.001mm以上1.0mm以下とした。しかし、この基準範囲は、貴金属チップ24の直径や中心電極20の仕様に応じて他の範囲とすることが可能である。
【0053】
・変形例6:
上記実施形態では、レーザ溶接前からレーザ溶接中、レーザ溶接後に亘る期間のうちの異なるタイミングで測定された貴金属チップの位置の変化量に基づいて溶接状態を判断している。これに対して、レーザ溶接前からレーザ溶接中、レーザ溶接後に亘る期間のうちの異なるタイミングにおいて、それぞれ、予め定められた位置から貴金属チップの位置までの距離を測定し、その距離の相違に基づいて溶接状態を判断してもよい。
【0054】
・変形例7:
上記実施形態では、レーザ溶接終了後に、溶接状態の判断を行っている。これに対して、溶接状態の判断は、レーザ溶接中にも行うこととしてもよい。つまり、レーザを照射する毎に貴金属チップ24の上端面25の変化量を算出し、その変化量に基づいて、レーザ照射毎に溶接状態の判断を行う。このようにすれば、レーザ溶接中にNGと判断された場合に、即座に、その溶接を中止して不合格品として扱うことができるので、スパークプラグの製造効率を向上させることができる。
【0055】
・変形例8:
上記実施形態では、レーザ溶接中にも複数回、貴金属チップの位置を測定している。これに対して、例えば、レーザ溶接前とレーザ溶接後の2回のタイミングで測定を行って変化量を求めてもよいし、レーザ溶接前のタイミングとレーザ溶接中の任意のタイミングの2回のタイミングで測定を行って変化量を求めてもよい。また、レーザ溶接中の任意のタイミングとレーザ溶接後のタイミングの2回のタイミングで測定を行って変化量を求めてもよい。いずれのタイミングで求められた変化量についても、上述した基準範囲を適用可能である。
【0056】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。