(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
負荷機器により環境が形成されている空間に存在する利用者に対応付けられ利用者の代理としてコンピュータを用いて実現されるエージェントが決定した前記負荷機器の動作状態に従って前記負荷機器を制御する機器制御装置であって、
前記エージェントは、
前記負荷機器から取得した前記負荷機器の動作状態について利用者の属性を用いて利用者にとっての価値を示す期待効用値を算出する効用値算出部と、
前記空間に複数の利用者が存在する場合に利用者ごとに求められる期待効用値を評価することにより前記負荷機器の動作状態が利用者にとって許容可能か否かを評価するとともに、許容できない利用者が存在する場合に前記負荷機器に指示する動作状態を一意に決定する協調処理部とを備え、
前記協調処理部は、
期待効用値を、判断閾値と比較することにより、利用者にとって望ましい第1の場合と、利用者にとって望ましくない第2の場合と、どちらでもない第3の場合との少なくとも3段階に分類する評価部と、
前記評価部の評価結果が第2の場合のときに、期待効用値の評価結果が第3の場合になるように前記負荷機器の動作状態を立案する立案部と、
前記立案部が立案した前記負荷機器の動作状態を他の利用者の代理であるエージェントに提案する提案部と、
前記提案部から提案された前記負荷機器の動作状態について前記評価部で評価した結果が第2の場合のときに提案を拒否する応答を提案元に返す応答部と、
前記応答部から提案を拒否する応答を受け取った場合に自身をマネージャとし提案を拒否したエージェントをコントラクタとして、マネージャとコントラクタとの期待効用値の評価結果がともに第1の場合または第3の場合になるように交渉する交渉部とを備える
ことを特徴とする機器制御装置。
マネージャとコントラクタとの期待効用値の評価結果がともに第1の場合または第3の場合になった後に、コントラクタであったエージェントは、前記譲歩回数が0でない場合に、前記負荷機器について期待効用値が向上する動作状態を他のエージェントに提案し、提案した動作状態について他のエージェントで求められる期待効用値の評価結果が第1の場合または第3の場合であれば、前記協調処理部が前記譲歩回数を1回分減らす
ことを特徴とする請求項2記載の機器制御装置。
負荷機器により環境が形成されている空間に存在する利用者に対応付けられ利用者の代理としてコンピュータを用いて実現されるエージェントが決定した前記負荷機器の動作状態に従って前記負荷機器を制御するにあたり、
コンピュータを、
前記負荷機器から取得した前記負荷機器の動作状態について利用者の属性を用いて利用者にとっての価値を示す期待効用値を算出する効用値算出部と、
前記空間に複数の利用者が存在する場合に利用者ごとに求められる期待効用値を評価することにより前記負荷機器の動作状態が利用者にとって許容可能か否かを評価するとともに、許容できない利用者が存在する場合に前記負荷機器に指示する動作状態を一意に決定する協調処理部とを備え、
前記協調処理部は、
期待効用値を、判断閾値と比較することにより、利用者にとって望ましい第1の場合と、利用者にとって望ましくない第2の場合と、どちらでもない第3の場合との少なくとも3段階に分類する評価部と、
前記評価部の評価結果が第2の場合のときに、期待効用値の評価結果が第3の場合になるように前記負荷機器の動作状態を立案する立案部と、
前記立案部が立案した前記負荷機器の動作状態を他の利用者の代理であるエージェントに提案する提案部と、
前記提案部から提案された前記負荷機器の動作状態について前記評価部で評価した結果が第2の場合のときに提案を拒否する応答を提案元に返す応答部と、
前記応答部から提案を拒否する応答を受け取った場合に自身をマネージャとし提案を拒否したエージェントをコントラクタとして、マネージャとコントラクタとの期待効用値の評価結果がともに第1の場合または第3の場合になるように交渉する交渉部と
を備えるエージェントとして機能させる
ことを特徴とするプログラム。
負荷機器により環境が形成されている空間に存在する利用者に対応付けられ利用者の代理としてコンピュータを用いて実現されるエージェントが決定した前記負荷機器の動作状態に従って前記負荷機器を制御するにあたり、複数の利用者をそれぞれ代理するエージェントが搭載される機器制御サーバであって、
前記エージェントは、
前記負荷機器から取得した前記負荷機器の動作状態について利用者の属性を用いて利用者にとっての価値を示す期待効用値を算出する効用値算出部と、
前記空間に複数の利用者が存在する場合に利用者ごとに求められる期待効用値を評価することにより前記負荷機器の動作状態が利用者にとって許容可能か否かを評価するとともに、許容できない利用者が存在する場合に前記負荷機器に指示する動作状態を一意に決定する協調処理部とを備え、
前記協調処理部は、
期待効用値を、判断閾値と比較することにより、利用者にとって望ましい第1の場合と、利用者にとって望ましくない第2の場合と、どちらでもない第3の場合との少なくとも3段階に分類する評価部と、
前記評価部の評価結果が第2の場合のときに、期待効用値の評価結果が第3の場合になるように前記負荷機器の動作状態を立案する立案部と、
前記立案部が立案した前記負荷機器の動作状態を他の利用者の代理であるエージェントに提案する提案部と、
前記提案部から提案された前記負荷機器の動作状態について前記評価部で評価した結果が第2の場合のときに提案を拒否する応答を提案元に返す応答部と、
前記応答部から提案を拒否する応答を受け取った場合に自身をマネージャとし提案を拒否したエージェントをコントラクタとして、マネージャとコントラクタとの期待効用値の評価結果がともに第1の場合または第3の場合になるように交渉する交渉部とを備える
ことを特徴とする機器制御サーバ。
負荷機器により環境が形成されている部屋に存在する利用者に対応付けられ利用者の代理としてコンピュータを用いて実現されるエージェントが決定した前記負荷機器の動作状態に従って前記負荷機器を制御する機器制御システムであって、
前記部屋に対する利用者の出入を検知する出入センサを備え、
前記エージェントは、
前記出入センサから前記エージェントが代理する利用者の入退室が通知される出入監視部と、
前記負荷機器から取得した前記負荷機器の動作状態について利用者の属性を用いて利用者にとっての価値を示す期待効用値を算出する効用値算出部と、
前記空間に複数の利用者が存在する場合に利用者ごとに求められる期待効用値を評価することにより前記負荷機器の動作状態が利用者にとって許容可能か否かを評価するとともに、許容できない利用者が存在する場合に前記負荷機器に指示する動作状態を一意に決定する協調処理部とを備え、
前記協調処理部は、
期待効用値を、判断閾値と比較することにより、利用者にとって望ましい第1の場合と、利用者にとって望ましくない第2の場合と、どちらでもない第3の場合との少なくとも3段階に分類する評価部と、
前記出入監視部に利用者の入室が通知されたときに前記評価部による評価結果を求め、前記評価部の評価結果が第2の場合のときに、期待効用値の評価結果が第3の場合になるように前記負荷機器の動作状態を立案する立案部と、
前記立案部が立案した前記負荷機器の動作状態を他の利用者の代理であるエージェントに提案する提案部と、
前記提案部から提案された前記負荷機器の動作状態について前記評価部で評価した結果が第2の場合のときに提案を拒否する応答を提案元に返す応答部と、
前記応答部から提案を拒否する応答を受け取った場合に自身をマネージャとし提案を拒否したエージェントをコントラクタとして、マネージャとコントラクタとの期待効用値の評価結果がともに第1の場合または第3の場合になるように交渉する交渉部とを備える
ことを特徴とする機器制御システム。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(概要)
以下の実施形態は、住宅における一つの部屋に配置された負荷機器を制御する場合について説明するが、オフィスのように利用者を特定できる空間であれば、以下に説明する技術を採用することが可能である。また、商業施設などであっても、負荷機器を制御する権限を特定の利用者に与えるようにすれば、以下に説明する技術を適用することが可能である。
【0020】
また、以下に説明する実施形態は、省エネルギーと利用者の快適性とを機軸にして、負荷機器の制御を行う技術について説明する。すなわち、以下の実施形態は、住宅において負荷機器の動作を制御してエネルギー管理を行うから、家庭用のエネルギー管理システム(HEMS=Home Energy Management System)の分野で利用可能な技術と言える。ここで、負荷機器は、赤外線や電波を伝送媒体に用いるリモコン装置を用いて動作の指示がなされるか、有線または無線の通信路を備える宅内網を通して通信により動作の指示がなされるように構成されている必要がある。
【0021】
また、負荷機器の例として空調機器を用いる。空調機器は、室内の特定の場所にのみ冷気や暖気を送風する機能はなく、室内全体の温度を均一に調節すると仮定して説明する。すなわち、空調装置の設定温度は吹出温度であって、空調装置から室内に提供される単位時間当たりの熱量は、設定温度と風量とにより決定されることになる。言い換えると、設定温度が変更されてから室温が安定する状態(以下では、「定常状態」という)までの時間は、設定温度の変更前後の温度差と風量とにより決まることになる。また、外気温の影響は考慮しないものとする。また、設定温度の変更から定常状態になるまでの状態を、以下では「過渡状態」と呼ぶ。
【0022】
負荷機器の制御内容を決定するためのデータは、利用者が申告するデータとともに、利用者の日常生活における行動から抽出されるデータを含んでいる。したがって、負荷機器の制御内容を決定するためのデータは、負荷機器の制御内容の履歴や宅内に設けた各種のセンサの出力の履歴などを解析することによって抽出される。この技術は、後述するインフルエンスダイヤグラムに含まれる事前確率および条件付き確率の値を決定するために必要ではあるが、以下に説明する技術の本旨ではないので詳述しない。
【0023】
以下に説明する機器制御装置は、制御対象である負荷機器が配置された部屋を利用する個々の利用者の代理として、負荷機器の動作に関する個々の利用者の希望を調整し、最終的に負荷機器の動作を決定する機能を有している。この機能は、個々の利用者を代理する機能であるから、以下では「エージェント」と呼ぶ。エージェントは、利用者と一対一に対応付けられていなければならず、また、必要に応じて他の利用者のエージェントと交渉し、負荷機器の動作を決定する機能を有していなければならない。
【0024】
さらに、エージェントは利用者の代理であるから、利用者について着目する属性が設定される。たとえば、利用者の属性は、寒暑に対する受容性や省エネルギーに対する価値観などであり、また、年齢や性別などを含んでいてもよい。
【0025】
寒暑に対する受容性は、低い目の気温を好む(いわゆる「暑がり」)か、高い目の気温を好むか(いわゆる「寒がり」)か、受容性が大(暑がりでも寒がりでもない)か、受容性が小(暑がりかつ寒がり)かなどの分類が可能である。また、省エネルギーに対する価値観は、快適性を追求する(一般に消費エネルギーが増加する)か、省エネルギーを優先する(一般に快適性は減少する)か、快適性と省エネルギーとをともに中程度とするかなどの分類が可能である。なお、以下の実施形態では、利用者の属性として寒暑に対する受容性が用いられる。
【0026】
上述のような情報がエージェントに設定されることによって、エージェントは個々の利用者の属性に応じて、利用者にとっての価値(後述する「期待効用値」)を推定し、期待効用値が可及的に大きくなるように、負荷機器の動作を決定する。すなわち、エージェントは利用者の属性が設定されることによって、利用者の特性を有した利用者の代理として機能する。
【0027】
エージェントが決定した負荷機器の動作は、リモコン装置あるいは宅内網を通して負荷機器に指示される。また、機器制御装置は、負荷機器の現状の動作状態を取得してエージェントに伝達する機能も備える。機器制御装置は、リモコン信号などを用いて負荷機器とは非接触で負荷機器の動作状態を取得する。機器制御装置は、電波を伝送媒体にして負荷機器の動作状態を取得するための構成を備えていてもよい。以下に説明する実施形態では、負荷機器が空調機器である場合を例としているから、負荷機器の現状の動作状態は、設定温度および設定風量を用いる。
【0028】
機器制御装置は、負荷機器を制御するインターフェイス部を備えたコンピュータでプログラムを実行することにより実現される。すなわち、プログラムを実行するためのプロセッサおよびメモリを備えたコンピュータ相当の機能を有する装置であれば、エージェントの機能が実現される。また、機器制御装置のインターフェイス部は、エージェントと負荷機器との間に介在して、エージェントからの指示を負荷機器に与える。このインターフェイス部は、負荷機器から現状の動作状態を取得するためにも用いられる。
【0029】
エージェントは、個々の利用者に対応付けられる必要があるから、以下の実施形態は、機器制御装置として機能する端末装置(スマートホン、タブレット端末、ウェアラブルコンピュータなど)を、利用者が個々に携帯している場合を想定して説明する。すなわち、利用者が個々に携帯する端末装置は、コンピュータとしての機能を備え、それぞれの端末装置が以下に説明する機能を実現するプログラムを実行する。エージェントの間では無線通信路を通して相互に通信可能であり、エージェントの間で通信することにより、後述する交渉の処理が行われる。
【0030】
図2に、個々の利用者50が、それぞれスマートホンを端末装置1として携行している場合を例として示す。負荷機器としては、空調機器21と照明機器22,23と扇風機24とを図示している。図示する例では、端末装置1であるスマートホンで個々にプログラムが実行されることにより、個々の端末装置1にエージェントの機能が付加されている。また、個々の端末装置1に設けられている赤外線通信用のインターフェイス部が、空調装置21、照明機器22,23、扇風機24に指示するインターフェイス部として用いられる。以下では、空調装置21、照明機器22,23、扇風機24を区別せずに負荷機器20として説明する。ただし、以下の説明では、負荷機器20として空調装置21を想定している。
【0031】
ただし、個々の利用者とエージェントとを対応付けることができる場合は、複数の利用者にそれぞれ対応付けられる複数のエージェントを1台の装置に集約して備えていてもよい。この場合、複数のエージェントが1台の装置に設けられているから、エージェントが交渉の処理を行う際に、通信を行わずにデータを相互に交換することが可能である。
【0032】
エージェントは、利用者が部屋に存在するか否かを知る必要がある。そのため、機器制御装置は、部屋に対する利用者の出入を検知する出入センサでの検知結果をエージェントに通知する。出入センサは、部屋の出入口に配置されて利用者を認証する装置、あるいは、上述のような部屋に配置したカメラで撮像した画像から顔認証を行う装置などにより実現される。また、簡易に用いるのであれば、上述のようにリモコン装置に認証装置を設けておき、リモコン装置を操作した利用者を部屋に存在する利用者とみなしてもよい。この場合、部屋に存在する一部の利用者に対応するエージェントしか利用されない可能性があるが、負荷機器の動作が変更されることを希望する利用者はリモコン装置を操作するから、負荷機器の動作を決定するのに必要なエージェントは起動されることになる。
【0033】
加えて、エージェントは、すでに利用者が存在して定常状態になっている部屋に、新規に別の利用者が入室した場合に、利用者が新規に参加したことに伴う室内環境の攪乱に対応する機能も有している。すなわち、エージェントは、新規の利用者が定常状態である部屋に入室した場合に、入室から所定の整定時間が経過するまでは過渡状態とみなし、新規の利用者が入室した後の経過時間に応じて、過渡状態に対応するように負荷機器の動作を決定する。そのため、エージェントは、利用者が入室した時点からの経過時間を計時する機能も備える。
【0034】
(エージェント)
以下では、エージェントについてさらに詳しく説明する。エージェントは、基本的には、複数の利用者が部屋に存在する場合に機能する。すなわち、複数のエージェントが協調して動作するマルチエージェントシステムであって、エージェントが協調するためのルールとして、「契約ネット」と称するモデルを基本にしたルールを用いる。契約ネットについての詳細は、R.G.Smith: The Contract Net Protocol: High-Level Communication and Control in a Distributed Problem Solver, IEEE Transactions on Computers, Vol. C−29, No. 12, pp. 1104-1113,(1980)に記載されている。
【0035】
図1に示すように、エージェント10は、負荷機器20の現状の動作状態(設定温度および設定風量)が与えられる状態入力部11と、利用者の属性が設定される属性設定部12とを備えている。また、部屋への新規の入室を加味して負荷機器20の動作を決定する場合には、エージェント10に、部屋に対する利用者の出入を検知する出入検知センサ30から入退室が通知される出入監視部13と、入室からの経過時間を計時する計時部14とが設けられる。
【0036】
エージェント10は、状態入力部11に設定温度および設定風量が入力されると、属性設定部12に設定された属性を用い、後述する効用値算出部15において利用者にとっての価値を表す期待効用値を算出する。期待効用値は、負荷機器20の現状の動作状態および負荷機器20の動作状態が変更された場合を考慮して、利用者にとっての価値を定量化した値である。
【0037】
効用値算出部15は、利用者の価値を反映させた期待効用値を算出できれば、期待効用値を算出する方法にとくに制限はない。ただし、本実施形態は、期待効用値を求めるために必要な条件の関係を、
図3のようなインフルエンスダイヤグラムのノードの関係で表すことにより、条件付き確率を用いて期待効用値を算出している。
【0038】
図3に示す例では、負荷機器20が消費するエネルギーの対価(電気代)と利用者の温冷感(快適性)とを利用者の価値として表す期待効用値を求めている。ここでは、負荷機器20は電気機器であって、消費するエネルギー量が電力量である場合を想定している。一般的傾向としては、消費する電力量が少ないほど環境負荷の低減に貢献していると言え、快適性を向上させようとすれば消費する電力量が増加すると言える。言い換えると、電気代の安さと快適性の増加とはトレードオフの関係にある。
【0039】
この例では、利用者にとっての価値をおおまかに分類すると、電気代の安さ(経済的あるいは環境負荷を理由として)に偏重している場合と、快適性の高さに偏重している場合と、電気代の安さと快適性とが均衡している場合とが考えられる。要するに、利用者の価値観によって、電気代が安いことに高い価値を与える場合と、快適性が高いことに高い価値を与える場合と、電気代と快適性とのバランスがとれていることに高い価値を与える場合とがある。すなわち、利用者の価値観は、たとえば、「省エネ重視」「快適性重視」「中庸」などに分類される。このような価値観は、利用者の属性として属性設定部12にあらかじめ設定される。
【0040】
図を用いて具体的に説明する。インフルエンスダイアグラムは、
図3に示すように、楕円形のシンボルで表される機会ノードN1〜N8と、四角形のシンボルで表される決定ノードN9と、菱形のシンボルで表される価値ノードN10との3種類のノードが用いられる。これらのノードN1〜N10は矢印で示されるリンクで結合された有向グラフを形成する。機会ノードN1〜N8と価値ノードN10とには図に実線で示された条件付リンクの先端が結合され、決定ノードN9には図に破線で示された報知リンクの先端が結合される。
【0041】
条件付リンクは、矢印の先端に結合された子ノードの事象生起が、矢印の基端に結合された親ノードに依存する関係を示している。条件付きリンクを介して結合される2つのノードのうちの子ノードには条件付き確率値が与えられ、親ノードには事前確率値が与えられる。報知リンクは、矢印の基端に結合された親ノードの値を条件として、矢印の先端に結合された子ノードの状態が決定される関係を表している。すなわち、報知リンクを介して結合される親ノードと子ノードとは、IF(条件部)−THEN(結論部)のルールで表される関係になる。
【0042】
図3では、エージェントが意思決定に用いる入力パラメータを左端に並べて記載している。すなわち、エージェントは、属性設定部12に設定された属性、状態入力部11に入力された情報などに、
図3に示すインフルエンスダイヤグラムを適用して期待効用値を算出する。図示例では、出入監視部13に利用者の入室が通知されてからの経過時間も期待効用値を算出するための入力パラメータに用いている。また、
図3において、左端に示した機会ノードを除く他のノードおよびリンクは、入力パラメータを用いてエージェントの内部で行う推論過程および期待効用値の計算過程を表している。
【0043】
図示例では左端の入力パラメータのうち「利用者の属性」(ノードN2)が、利用者の温冷感である場合、このノードN2の変域は、たとえば、「暑がり」「普通」「寒がり」の3段階とする。このノードN2の値は、あらかじめ属性設定部12に設定される。「空調機器の設定温度」(ノードN3)および「空調機器の設定風量」(ノードN4)は、それぞれ空調機器から取得される。ノードN3の変域は、たとえば21〜29℃であって1度刻みの値が用いられ、ノードN4の変域は、たとえば「強」「中」「弱」の3段階とする。ここに、ノードN3,N4に与えられる値は、期待効用値を算出する時点の値(現在値)である。
【0044】
図に示すインフルエンスダイヤグラムは、4種類の入力パラメータを用いて利用者の快適性を示す指数であるPMV(Predicted Mean Vote)を求める2つのノードN5,N6を備える。ノードN5は期待効用値を算出する時点のPMVを求め、ノードN6は設定温度と設定風量との組合せを変更した後に一定時間が経過した時点でのPMVを求める。設定温度と設定風量との組合せの変更内容はノードN9からノードN6に通知される。PMVの値域は、{−3,−2,−1,0,+1,+2,+3}の7段階になる。また、ノードN9の値域は、ノードN3,N4の値域の組合せになるから、たとえば、{(21,強),(21,中),(21,弱),…,(29,弱)}になる。
【0045】
ところで、PMVの演算には、温度や風速のほか、湿度、輻射温度、着衣量、活動量がパラメータとして必要である。ここではPMVを用いて温冷感の目安を得ることが目的であるから、簡易に演算を行うために、温度および風速は空調機器の設定温度および設定風量で代用し、他のパラメータは固定値を用いる。たとえば、湿度は50%、輻射温度は設定温度+0.5℃、着衣量は0.5clo、活動量は1.0metsとする。
【0046】
ノードN7は、ノードN5で求めた現在のPMVと、ノードN6で求めた一定時間が経過した後のPMVとを用いることにより、利用者にとっての一定時間後の温冷感を予測する。ノードN7の値域は、たとえば、{良くなる,良いまま,悪いまま,悪くなる,N/A}の5段階とする。N/Aは予測できないことを意味する。このように、ノードN7は利用者にとっての一定時間後の快適性の変化を予測し、確率的な予測値を出力する。
【0047】
なお、入室からの経過時間を入力パラメータとするノードN1を設けているのは、外出していた利用者が入室した場合に対応するためである。外気温と室温とに差がある場合、利用者は入室後に時間が経過するに従って室温に慣れると考えられる。そのため、入室から室温に慣れるまでの状態を過渡状態として、過渡状態におけるPMVの変化が表せるように、入室からの経過時間を入力パラメータに用いている。概して言えば、入室直後にはPMVは高く、時間の経過に伴ってPMVが低下する。もっとも、利用者の属性によっては、時間の経過に伴ってPMVが最小になった後にPMVが増加する場合もある。したがって、過渡状態の期間には時間経過に伴って変化する補正値をPMVに加算する。
【0048】
いずれにしても、過渡状態では入室した利用者のPMVが変化するが、室内の条件(本実施形態では設定温度および設定風量)に変化がなく、PMVがほとんど変化しなくなれば定常状態に移行したとみなす。すなわち、定常状態になると利用者の快適性に変化はないとみなしている。過渡状態が継続する時間は最長で80分程度であって、入室から最大で80分程度が経過すれば定常状態とみなしてPMVの補正は行わない。
【0049】
ここに、上述した利用者が入室する前から部屋に居た人については、すでに定常状態であるとみなし、上述した利用者が入室してからの時間経過に伴うPMVの修正を行うことはない。
【0050】
ところで、ノードN7は利用者にとっての快適性に関する確率的な予測値を求めるノードであるが、ノードN8は電気代に関する確率的な予測値を求めるノードである。電気代は、利用者の属性とは直接的な関係はなく、空調機器の設定温度および設定風量は電気代を決める入力パラメータになる。また、外気温なども電気代に影響を与えるパラメータであるが、ここでは説明を簡単にするために、設定温度および設定風量のみを考慮して電気代を求める場合を想定する。言い換えると、設定温度と設定風量との組合せを変更することは電気代に影響する。そのため、ノードN8は、ノードN6と同様に、設定温度と設定風量との組み合わせの変更内容がノードN9から通知される。
【0051】
すなわち、ノードN8はノードN3,N4を入力パラメータとし、ノードN9から与えられるパラメータも併せて用いる。空調機器の設定温度と設定風量との組合せを変更してから一定時間後の電気代が「増加」するか「減少」するか「現状維持」かを確率的な予測値として算出する。
【0052】
価値ノードN10は、ノードN7で求めた利用者の快適性に関する確率的な予測値と、ノードN9で求めた電気代に関する確率的な予測値とを用い、ノードN9で提示される(温度,風量)のすべての組合せに対する期待効用値を計算する。この計算のためには、あらかじめノードN10の価値ノードに対し、ノードN7の属性値、すなわち{良くなる,良いまま,悪いまま,悪くなる,N/A}と、ノードN8の属性値、すなわち{高くつく,変わらない,安く済む}のすべての組合せ、{(良くなる,高くつく),(良くなる,変わらない),…}に対する効用値を、「快適性重視」、「中庸」、「省エネ重視」の3通りに対して設定しておく。いま、対象の利用者が「価値重視」のとき、対応する効用値に基づき、先のノードN7で求まっている温冷感の確率的な予測値と、ノードN8で求まっている電気代の変化に関する確率的な予測値とを使って期待値計算を実行し、期待効用値を求める。なお、エージェントは、「快適性重視」、「中庸」、「省エネ重視」それぞれの効用値を価値ノードに予め設定した3種類のインフルエンスダイアグラム(構造は
図3と同じ)を持っておけば、利用者から自らの価値観、すなわち「快適性重視」、「中庸」、「省エネ重視」を知らされたとき、対応するインフルエンスダイアグラムをロードし、参照することで上記の計算実行が可能になる。
【0053】
本実施形態は、個々の利用者に対応したエージェント10に、上述のような価値観による判断の機能を付与することによって、負荷機器20の動作状態について価値観による評価を行い、評価結果が異なる場合に協議することが可能になる。
【0054】
(協議)
複数の利用者が部屋に存在する場合に、個々の利用者に対応するエージェント10の効用値算出部15が算出した期待効用値は互いに競合する可能性があり、競合していると負荷機器20に指示する動作状態を一意に決定することができない。異なるエージェント10が算出した期待効用値の競合は、いずれかのエージェント10が負荷機器20の動作を変更しようとしたときに生じる可能性がある。
【0055】
負荷機器20の動作が変更されると期待効用値が低下するエージェント10が存在する場合、当該エージェント10は、負荷機器20の動作を変更しようとしたエージェント10に対して協議を要求する。協議を要求するエージェント10が生じたときには、負荷機器20の動作を決定するために、以下に説明する交渉の処理が行われ、個々の利用者に対応するエージェント10の間で合意が得られるように協調する処理が行われる。
【0056】
ここに、協議を要求するエージェント10と、要求された協議に対応するエージェント10とは異なる処理を行う。すなわち、個々の利用者に対応付けられたエージェント10は、協議を要求する処理と、要求された協議に対応する処理とが可能になっており、必要に応じていずれかの処理が起動される。以下では、前者の協議要求処理が起動されたエージェント10を「コントラクタ」と呼び、後者の協議対応処理が起動されたエージェント10を「マネージャ」と呼ぶ。
【0057】
マネージャ(エージェント10)は、他のエージェント10に対して負荷機器20の動作の変更を提案する。また、マネージャから提案された負荷機器20の動作を受容しないエージェント10は、マネージャからの提案に対して協議を要求するからマネージャからコントラクタ(エージェント10)に指定される。マネージャおよびコントラクタが行う処理については後述する。
【0058】
いずれかのエージェント10がマネージャになり、他のエージェント10がコントラクタになると、同じ負荷機器20を使用している利用者に対応したすべてのエージェント10は、それぞれ負荷機器20の動作状態を一定時間ごとに定期的に取得する。エージェント10が負荷機器20から動作状態を取得する時間間隔は、たとえば5分とする。
【0059】
すなわち、エージェント10は、競合する期待効用値を算出したエージェント10との間で交渉し、負荷機器20に指示する動作状態を一意に決定する協調処理部16を備えている。協調処理部16は、以下に説明する4つの処理を行うことにより負荷機器20の動作を決定する。すなわち、協調処理部16は、
図4に示すように、(1)期待効用値の評価処理(S11)、(2)負荷機器20の動作変更に関する立案処理(S12)、(3)他エージェントとの交渉処理(S13)、(4)他エージェントに対する対応処理(S14)を行う。以下、各処理について具体的に説明する。
図4には、エージェント10の動作として、ステップS13で交渉処理を行うことによって、エージェント10の間で合意が得られた場合に(S15:yes)、合意が得られた動作を負荷機器20に指示する処理(S16)も記載している。なお、ステップS15において合意が得られない場合(S15:no)、負荷機器20の現状の動作を維持し、次の機会まで待つことになる(S17)。
【0060】
協調処理部16は、たとえば、定常状態である環境にエージェント10に対応する利用者が存在し、この環境に新たな利用者が入場した場合に起動される。すなわち、既存のエージェント10が協調している環境に、新たなエージェント10が参加した場合に起動される。また、新たなエージェント10が参加した場合だけではなく、すでに定常状態である環境に複数のエージェント10が存在する場合であっても、負荷機器20の動作状態を見直すために、適宜の時間間隔で協調処理部16が起動される。
【0061】
(1)評価処理
評価処理は、状態入力部11から受け取った設定温度および設定風量を用いてエージェント10の効用値算出部15が算出した負荷機器20の現状の動作の期待効用値を評価する処理である。期待効用値を評価する処理は、協調処理部16に設けた評価部161が行う。すなわち、期待効用値は利用者の価値観を表しているから、評価部161は、期待効用値を、たとえば、「望ましい」と「望ましくない」と「どちらとも言えない」の3段階に分類する評価を行う。具体的には、評価部161には、期待効用値に対する2段階の判断閾値が設定されており、期待効用値を判断閾値と比較することにより、上述した3段階の分類を行う。
【0062】
以下では、期待効用値の分類結果が、「望ましい」場合を[G]、「どちらとも言えない」場合を[Y]、「望ましくない」場合を[R]とする。言い換えると、評価部161の出力が[G]または[Y]であれば、現状の負荷機器20の動作による期待効用値は、利用者にとって許容できる(「がまん」できる)ということである。また、評価部161の出力が[R]であれば、現状の負荷機器20の動作による期待効果値は、利用者にとって許容できない(「がまん」できない)ということになる。
【0063】
(2)立案処理
立案処理は、評価部161による期待効用値の評価結果が[R]である場合に、許容できる負荷機器20の動作状態を立案する処理である。負荷機器20の動作状態を立案する処理は、協調処理部16に設けた立案部162が行う。立案部162は、現状の負荷機器20の動作状態よりも期待効用値が高まる動作状態を立案する。
【0064】
効用値算出部15が算出する期待効用値は、負荷機器20の動作状態に対する利用者の価値を反映しているから、期待効用値が低い場合に、立案部162は、利用者にとっての価値を高めるように、負荷機器20の動作について変更可能な動作状態を立案する。立案する動作状態は、評価部161の出力が[Y]または[G]となるように選択される。立案部162は、選択可能な動作状態が複数存在する場合、期待効用値が最小である(つまり、[R]にもっとも近い[Y]になる)動作状態を選択する。また、負荷機器20の動作を変更可能な範囲は、たとえば、設定温度に関しては±2℃に制限し、設定風量に関しては負荷機器20の動作の許容範囲において制限を設けないようにする。
【0065】
(3)交渉処理
立案部162が負荷機器20の動作状態を立案したエージェント10は、当該動作状態を他のエージェント10に打診する。以下の説明において、エージェント10の状態を区別するために、エージェントを表す符号「10」の末尾に1〜2の符号を付加する。すなわち、各エージェント10には状態に応じて101,102の符号を付す。以下では、立案したエージェントでない他のエージェントには101を付す。
【0066】
エージェント10の協調処理部16は、立案部162が立案した負荷機器20の動作状態を他のエージェント101に示す提案部163を備える。したがって、提案部163は、他のエージェント101に対して負荷機器20の動作状態の変更を提案する。
【0067】
後述するように、他のエージェント101は、エージェント10から提案された負荷機器20の動作状態の諾否を決定し、提案された動作を許容できない場合に、交渉のための応答を行う対応処理を行う。一方、立案部162が動作状態を立案したエージェント10の提案部163は、負荷機器20の動作状態の変更を提案した後に、他のエージェント101から提案した動作状態に対する諾否を受け取る。
【0068】
提案部163は、他のすべてのエージェント101が提案を許容している場合は、負荷機器20の動作を提案した内容に変更するように、機器制御装置に設けたインターフェイスである動作指示部17を通して負荷機器20に動作の変更を指示する。
【0069】
一方、提案部163は、他のエージェント101のうちのいずれかが提案を拒否している場合は、協調処理部16に設けた交渉部164に提案を拒否しているエージェント102を通知する。交渉部164は、提案部163から提案を拒否しているエージェント102が通知されると、それが1つでも複数でもそれらを交渉相手とする。
【0070】
交渉部164が交渉相手を定めたときに、交渉部164は、提案側のエージェント10(ここでは、自己)を上述したマネージャとし、交渉相手になるエージェント102をコントラクタとして指定する。提案を拒否したエージェント102が複数存在する場合、それらを皆コントラクタとして指定し、交渉する。すなわち、マネージャとコントラクタとは、競合が解消して合意が得られるように一対一、あるいは場合によっては一対多で交渉を行う。合意に達した場合には、
図4のステップS16に示したように、合意に達した動作を負荷機器20に指示する。また、合意が得られない場合もあるから、合意が得られない場合には、
図4のステップS17に示したように、負荷機器20の現状の動作を維持して、次の機会、すなわち次の期待効用の評価処理時点(つまりは次の負荷機器の設定更新時点)まで待つ。
【0071】
(4)対応処理
評価処理において、評価部161の出力が[G]または[Y]であったエージェント10は、マネージャにはならないから、立案部162、提案部163、交渉部164の機能は用いず、他のエージェント10からの提案を待つ。このエージェント10は他のエージェント10からの提案を受け取った場合、協調処理部16に設けられた応答部165が起動され、応答部165は、効用値算出部15に対して提案の内容による期待効用値を算出させる。この期待効用値に対する評価部161での評価結果が[G]または[Y]であれば、応答部165は、提案内容を送信元であるエージェント10に対して許諾の応答を行う。一方、この期待効用値に対する評価部161での評価結果が[R]であれば、応答部165は、提案内容の送信元であるエージェント10に対して拒否の応答を行う。
【0072】
応答部165は、提案内容の送信元であるエージェント10に拒否の応答を行う際に、期待効用値の低下、すなわち[R]となることを通知する。提案内容の送信元であるエージェント10は、提案を拒否する応答を受け取るとマネージャになるから、上述のように、拒否の応答を返した他のエージェント102をコントラクタに指定する。
【0073】
コントラクタに指定された他のエージェント102は、協調処理部16に設けられた調整部166が起動される。調整部166は、マネージャのエージェント10における交渉部164との交渉を行い、マネージャとコントラクタとの両方において、期待効用値の評価が[Y]または[G]になるように、負荷機器20の動作を調整する。
【0074】
調整部166は、以下に説明する協調戦略に基づいてマネージャとの競合を解消するように負荷機器20の動作を調整する。すなわち、評価部161は、期待効用値を判断閾値と比較することによって、評価結果を[R]と判断しているから、期待効用値と判断閾値との一方を変更すれば評価結果を変更することが可能である。ただし、期待効用値を変更しようとすれば、効用値算出部15が行う処理の変更が必要であり、コントラクタとして指定されたときにのみ効用値算出部15が行う処理を変更することは避けるほうが好ましい。したがって、調整部166は、マネージャとの競合を解消するために、評価部161の判断閾値を変更する戦略を採用している。
【0075】
つまり、調整部166は、評価部161において期待効用値と比較して[R]と[Y]とに分ける判断閾値を緩和する方向([Y]と判断されやすくなる方向)に変更する。判断閾値を変化させる幅は、あらかじめ定められる。調整部166が判断閾値を変化させた後に、評価部161は同じ期待効用値を変更後の判断閾値と比較する。調整部166は、評価結果が[R]でなければ、競合が解消されたと判断し、マネージャが提案した負荷機器20の動作を許諾する旨の応答を、マネージャのエージェント10に返す。ただしこのとき、「次の期待効用評価時点まで」との条件付きで許諾を返答する。すなわち、調整部166は、[Y]と判断されやすくなる方向に下げた判断閾値を、次の期待効用評価時点では元の値に戻す。
【0076】
一方、判断閾値を一度変更しただけでは、評価部161の評価結果が変更されない場合、調整部166は判断閾値を再変更し、再変更後の判断閾値を用いて評価結果を求める。この段階で評価部161の評価結果が[R]でなければ、マネージャが提案した負荷機器20の動作を許容する旨の応答を、やはり上述したように、「次の期待効用評価時点まで」との条件付きで行う。なお、変更する判断閾値の幅にもよるが、判断閾値の変更は2〜3回程度を限度とする。
【0077】
ところで、上述した動作では、コントラクタに指定されたエージェント102は、マネージャであるエージェント10が提案した負荷機器20の動作から導出される期待効用値に対する判断閾値を変更している。そのため、コントラクタは、マネージャの提案に対する競合を回避するために譲歩している。しかしながら、コントラクタが一方的に譲歩していると、コントラクタに指定されたエージェント102に対応する利用者は、「がまん」を強いられる期間が長くなることによって、不公平感を持つ可能性がある。
【0078】
すなわち、コントラクタがマネージャに譲歩して判断閾値を変更したことにより負荷機器20の動作が変更された場合、コントラクタになったエージェント102の期待効用値は低下している。そこで、コントラクタになったエージェント102は、マネージャになったエージェント10の評価結果が[Y]または[G]になり、室内に存在するすべてのエージェント10の評価結果が[Y]または[G]である時に、協調処理部16は、以下に説明する復権処理を行う。復権処理は、室内に存在するどのエージェント10も評価部161の評価結果が[R]ではないときに起動可能になる。
【0079】
エージェント10にとって復権処理が起動可能である条件は、過去にコントラクタとなって判断閾値を変更したことである。そのため、エージェント10の協調処理部16は、判断閾値を変更した回数を譲歩回数として保持している。判定閾値を変更した回数である譲歩回数は累積値として保存され、復権処理が1回成功するたびに、協調処理部16は譲歩回数を1回減らす。
【0080】
室内に存在する複数のエージェント10が復権処理を起動する上述の条件を満たしているときには、判断閾値を変更した回数(つまり、譲歩回数)を評価し、譲歩回数がもっとも多いエージェント10が復権処理を行う。これは、譲歩回数が多いほど、変更前の初期の判断閾値との差が大きく、利用者の「がまん」の程度が大きくなっていると考えられるからである。
【0081】
エージェント10は、復権処理の際には、期待効用値を規定値だけ向上させる。すなわち、復権処理において、エージェント10の立案部162は、期待効用値を1段階(規定値)向上させるように、負荷機器20の動作を立案する。立案部162が立案した負荷機器20の動作は、マネージャであったエージェント10を含む他のエージェント101に提案部163から提案され、提案部163は他のエージェント101から提案に対する諾否を受け取る。
【0082】
提案部163は、他のすべてのエージェント101が提案を許容した場合は、動作指示部17を通して当該動作を負荷機器20に指示する。すなわち、復権処理を行ったエージェント10は、他のすべてのエージェント101に提案が受け入れられた場合に、復権処理で立案した負荷機器20の動作を実行させる。一方、提案部163は、他のエージェント101のうちのいずれかに提案が拒否された場合には復権処理を終了する。すなわち、復権処理を行ったエージェント10による提案は取り下げられる。
【0083】
上述のようにして復権処理を行ったエージェント10は、復権処理が成功した場合は、譲歩回数を1回分減少させる。復権処理が成功した場合とは、立案した負荷機器20の動作を指示し、他のすべてのエージェント101に提案が受け入れられたことを意味する。
【0084】
復権処理が成功した場合の動作の一例を示す。たとえば、譲歩回数が5回(累積値)であったとすると、復権処理を行った場合は、復権処理の成否にかかわらず判断閾値の累積値を4回に変更する。
【0085】
上述の処理を行った場合、マネージャとコントラクタとの間で競合が解消されない場合もあるが、競合が解消されなければ、マネージャが提案した動作を無効として扱い、負荷機器20の現状の動作を維持する。
【0086】
(動作例)
以下では、上述したエージェント10の動作を具体的な事例を用いて説明する。以下では、負荷機器20が空調機器であって冷房を行っている部屋に2人の利用者が存在し、別の1人の利用者が外出から戻って部屋に入室した場面で説明する。また、部屋に存在しいた利用者を「在室者」と呼び、部屋に入室した利用者を「入室者」と呼ぶ。さらに、入室者の属性を「暑がり」かつ「快適性重視」とし、一方の在室者の属性を「普通」かつ「中庸」とし、他方の在室者の属性を「寒がり」かつ「省エネ重視」とする。以下では、負荷機器20の動作状態である設定温度および設定風量は、(設定温度,設定風量)という形式で記載する。
【0087】
利用者は3人であるから、利用者ごとにエージェント10が起動され、3個のエージェント10によって負荷機器20の動作が定められる。入室者が入室した時点で、負荷機器20の動作状態は(28℃,中)であると仮定し、さらに、在室者は定常状態であると仮定する。在室者に対応するエージェント10は、定常状態であるから負荷機器20の動作について変化の有無を監視しているが、負荷機器20の動作に変化がなければ、負荷機器20の制御は行わない。一方、入室者のエージェント10は、出入センサ30によって入室が通知されることにより起動され、その時点での動作状態(28℃,中)を負荷機器20から取得する。
【0088】
入室者の属性は「暑がり」かつ「快適性重視」であるから、入室者のエージェント10は、負荷機器20が同じ動作状態を継続した場合の一定時間T後における利用者にとっての期待効用値の分類結果を求める。ここでは、入室者のエージェント10が、入室時の室内環境を[R]と判断したとする。もちろん、入室時の室内環境が同じであっても、入室者の属性が他の場合(たとえば、「普通」かつ「中庸」、「寒がり」かつ「省エネ重視」など)である場合には、エージェント10は、[G]あるいは[Y]と判断する可能性もある。
【0089】
入室者のエージェント10は評価部161の評価結果が[R]であることによってマネージャになり、負荷機器20の動作状態を変更しようとする。変更する動作状態は、評価部161の評価結果を[G]にする動作状態ではなく、評価結果を[Y]にする動作状態を定める。この動作状態は、入室者のエージェント10が上述したインフルエンスダイヤグラムを用いて抽出する。この処理により、たとえば、(26℃,強)という動作状態が抽出される。すなわち、立案部162において他のエージェント101(在室者のエージェント10)に提案する動作状態を立案する。さらに、入室者のエージェント10は、立案部162が立案した動作状態を提案部163を通して在室者のエージェント10に提案する。以下では、在室者のエージェントと入室者のエージェントとを区別するために、在室者のエージェントに符号「10A」を付し、入室者のエージェントに符号「10B」を付す。
【0090】
入室者のエージェント10Bから提案を受けた在室者のエージェント10Aは、評価部161において提案の内容を評価する。評価部161の評価結果が[G]または[Y]であって[R]でない場合、在室者のエージェント10Aの応答部165は、入室者のエージェント10Aに許諾の応答を行う。たとえば、属性が「普通」かつ「中庸」である在室者のエージェント10Aは、現状の負荷機器20の動作状態(28℃,中)を、入室者のエージェント10Bから提案された動作状態(26℃,強)に変更しても許容範囲であると判断する。この場合、在室者のエージェント10Aは、入室者のエージェント10Bに対して提案を受け入れる旨の応答を行う。
【0091】
一方、入室者のエージェント10Bから提案を受けた在室者のエージェント10Aにおける評価部161での評価結果が[R]である場合、在室者のエージェント10Aの応答部165は、入室者のエージェント10Bに拒否の応答を行う。たとえば、属性が「寒がり」かつ「省エネ重視」である在室者のエージェント10Aは、現状の負荷機器20の動作状態(28℃,中)を、入室者のエージェント10Bから提案された動作状態(26℃,強)に変更すると、許容範囲を逸脱すると判断する。この場合、在室者のエージェント10Aは、入室者のエージェント10Bに対して提案を拒否する旨の応答を行う。
【0092】
このように提案を拒否したエージェント10Aは、マネージャである入室者のエージェント10Bからコントラクタに指定される。コントラクタになったエージェント10Aは、マネージャのエージェント10Bと競合することを認識する。このコントラクタのエージェント10Aは、調整部166を起動して、マネージャのエージェント10Bとの競合を解消するために、評価部161において期待効用値と比較するために用いる判断閾値を変更する。判断閾値の変更後には、評価部161において期待効用値を再度評価する。仮に、判断閾値を変更したことにより、評価部161の評価結果が[R]から[Y]に変化したとすると、入室者のエージェント10Bに対して、応答部165を通して、「次の期待効用評価時点まで」との条件付きで提案を許諾する応答を行う。
【0093】
上述した動作により、入室者のエージェント10Bは、在室者のすべてのエージェント10から許諾を受けることになるから、提案した動作状態を動作指示部17を通して負荷機器20に指示する。
【0094】
負荷機器20の動作状態を変更してから一定時間Tが経過した時点で、負荷機器20の動作状態は(26℃,強)であるが、入室者のエージェント10Bの評価部161は、この動作状態が継続することに対する評価結果を再び[R]と判断したとする。このような事象は、負荷機器20の動作状態を変更しても熱慣性などによって室内環境が応答していない場合に生じる可能性がある。ただし、入室者のエージェント10Bに与えられる温度の情報は、負荷機器20の設定温度のみであり、入室者のエージェント10Bでは熱慣性の影響を検出できないから、入室からの時間経過をPMVに反映させる補正値に熱慣性の影響を折り込む。入室者のエージェント10Bは、評価部161の評価結果が[R]であることによって、再びマネージャになる。
【0095】
入室者のエージェント10Bの提案部163は、評価部161の評価結果が[Y]になる動作状態を再び抽出し、在室者のエージェント10Aに送信する。提案する動作状態は、たとえば(25℃,中)になる。在室者の属性が「普通」かつ「中庸」であるエージェント10Aは、提案された動作状態に対する期待効用値が下がっても評価部161での評価結果が[R]でなければ、マネージャのエージェント10Bからの提案に対して許諾の応答を行う。
【0096】
一方、在室者の属性が「寒がり」かつ「省エネ重視」であるエージェント10Aは、提案された動作状態に対する期待効用値に対する評価部161での評価結果が[R]になると考えられる。つまり、提案を拒否するからコントラクタに指定され、結果的に評価部161で用いる判断閾値を変更することにより、評価部161の評価結果を[G]または[Y]にしてマネージャに協調するために、提案された動作状態を、「次の期待効用評価時点まで」との条件付きで許諾する応答を行うことになる。
【0097】
したがって、マネージャである入室者のエージェント10Bは、他のすべてのエージェント10Aから提案に対する許諾を受けることになり、負荷機器20に対して提案した動作状態(25℃,中)を動作指示部17を通して負荷機器20に指示することが可能になる。
【0098】
その後、さらに一定時間Tが経過すると(つまり、入室から2Tが経過すると)、負荷機器20の動作状態は(25℃,中)になっている。この時点でも入室者のエージェント10Bによる評価結果が[R]である場合、入室者のエージェント10Bは、たとえば(24℃,弱)を新たな動作状態として立案し、在室者のエージェント10Aに提案する。在室者のエージェント10Aは、提案に対して上述した動作を繰り返し、最終的には入室者のエージェント10Bが提案した動作状態を負荷機器20に指示する。
【0099】
仮に、その後の一定時間Tが経過した時点(つまり、入室から3Tが経過した時点)において、入室者のエージェント10Bによる動作状態の評価結果が[Y]になっているとすれば、以後の提案は行われない。このとき、在室者のエージェント10Aのうち「普通」かつ「中庸」のエージェント10Aの評価結果が[G]、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aの評価結果が[Y]であれば、すべてのエージェント10A,10Bにおいて評価結果が[R]ではなくなる。すなわち、負荷機器20の動作状態に関して合意したことになる。
【0100】
この時点で、どのエージェント10A,10Bについても、期待効用値の評価結果は[R]ではなくなるから、在室者のエージェント10Aは、復権処理を起動することが可能になる。以下では、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aにおいて復権処理が起動される場合を想定する。
【0101】
入室から3Tの経過時点で、負荷機器20の動作状態は(24℃,弱)になっている。「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、復権処理が起動されると、自己における期待効用値を1段階引き上げる負荷機器20の動作状態として(25℃,中)を提案する。ここで、「暑がり」かつ「快適性重視」のエージェント10Bが、この提案に対して[R]という評価結果を返すとすれば、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは復権処理に失敗し、負荷機器20の動作状態は(24℃,弱)に維持されることになる。
【0102】
入室から4Tの経過時点で、負荷機器20の動作状態は(24℃,弱)に維持されている。この時点において、どのエージェント10A,10Bでも、負荷機器20の動作に対する期待効用値の評価結果が[R]でなければ、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、復権処理を再び起動する。すなわち、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、負荷機器20の動作状態として(25℃,中)を提案する。ここで、「暑がり」かつ「快適性重視」のエージェント10Bにおける期待効用値の評価結果が入室からの時間経過によって[G]になり、「普通」かつ「中庸」のエージェント10Aにおける期待効用値の評価結果も[G]であったとする。この場合、すべてのエージェント10A,10Bにおいて、評価結果が[R]ではなくなるから、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、負荷機器20に対して動作状態(25℃,中)を指示する。
【0103】
入室から5Tが経過した時点では、負荷機器20の動作状態は(25℃,中)になっている。この時点で、どのエージェント10A,10Bも、負荷機器20の動作に対する期待効用値の評価結果が[R]でないと仮定する。「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、「暑がり」かつ「快適性重視」のエージェント10Bが入室したことによって、判断閾値を2回変更している。また、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、「暑がり」かつ「快適性重視」のエージェント10Bの入室から3Tの経過時点と4Tの経過時点とに復権処理を行っており、譲歩回数は1回になっているが、依然として譲歩回数がもっとも多い。
【0104】
そこで、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、再び復権処理を行い、負荷機器20の動作状態として(26℃,強)を提案する。この時点でも、「普通」かつ「中庸」のエージェント10Aと、「暑がり」かつ「快適性重視」のエージェント10Bとの両方において、期待効用値の評価結果が[G]になったとする。この場合、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、負荷機器20に対して動作状態(26℃,強)を指示する。
【0105】
入室から6Tが経過した時点では、負荷機器20の動作状態は(26℃,強)になっている。この時点で、どのエージェント10A,10Bも、負荷機器20の動作に対する期待効用値の評価結果が[R]でないと仮定する。また、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、復権処理に2回成功しており、譲歩回数が0回になっているから、復権処理は起動されない。したがって、負荷機器20の動作状態は、(26℃,強)に維持される。
【0106】
以後、各エージェント10A,10Bは一定時間ごとに入力パラメータを取得し、取得毎の入力パラメータを用いて負荷機器20の動作状態を見直すことになる。
【0107】
上述した動作を、
図5にまとめて示す。
図5は、エージェント10Bが入室してから6Tが経過するまでの期間について、エージェント10A,10Bの間の通信内容、マネージャおよびコントラクタの関係、負荷機器20の動作状態、期待効用値に対する評価結果を表している。
【0108】
エージェント10Bの入室時には、負荷機器20の動作状態は(28℃,中)であり、在室者のエージェント10Aの評価結果はともに[G]である。また、入室者のエージェント10Bは、入室時における期待効用値の評価結果が[R]であるから、マネージャになる(P11)。そこで、入室者のエージェント10Bは、負荷機器20の動作状態として(26℃,強)を、他のエージェント10Aに提案する(P12)。
【0109】
入室者のエージェント10Bから提案を受けた在室者のエージェント10Aは、変更後の期待効用値を算出し、期待効用値と判断閾値とを比較する。「普通」かつ「中庸」であるエージェント10Aは、提案された負荷機器20の動作状態(26℃,強)に対する期待効用値の評価結果を[G]とする(P13)。また、「寒がり」かつ「省エネ重視」であるエージェント10Aは、提案された負荷機器20の動作状態(26℃,強)に対する期待効用値の評価結果を[R]とする(P14)。すなわち、「普通」かつ「中庸」であるエージェント10Aは、マネージャに対して[G]を返送し(P15)、「寒がり」かつ「省エネ重視」であるエージェント10Aは、マネージャに対して[R]を返送する(P16)。
【0110】
マネージャは、[R]を返送した「寒がり」かつ「省エネ重視」であるエージェント10Aをコントラクタに指定する(P17)。コントラクタに指定されたエージェント10Aは、期待効用値と比較するために用いる判断閾値を変更し(P18)、譲歩回数を1回として保存する。ここでは、コントラクタが判断閾値を変更することにより、コントラクタの期待効用値に対する評価結果が[Y]になる場合を想定しているから、コントラクタからマネージャに対して[Y]を返送する(P19)。
【0111】
上述のようにしてコントラクタでの評価結果が[Y]になれば、マネージャを除くすべてのエージェント10Aの評価結果が[R]ではなくなるから、マネージャは、提案した動作状態を負荷機器20に指示する(P20)。つまり、負荷機器20の動作状態は(26℃,強)になる。
【0112】
その後、エージェント10Bの入室からの経過時間がTになると、エージェント10Bは、期待効用値を再び評価し、[R]という評価結果になるから、再びマネージャになる(P21)。マネージャは、負荷機器20の動作状態として(25℃,中)を、他のエージェント10Aに提案する(P22)。
【0113】
この提案に対して、「普通」かつ「中庸」であるエージェント10Aは、期待効用値の評価結果を[G]とする(P23)。また、「寒がり」かつ「省エネ重視」であるエージェント10Aは、期待効用値の評価結果を[R]とする(P24)。すなわち、「普通」かつ「中庸」であるエージェント10Aは、マネージャに対して[G]を返送するが(P25)、「寒がり」かつ「省エネ重視」であるエージェント10Aは、マネージャに対して[R]を返送する(P26)。
【0114】
マネージャは、[R]を返送した「寒がり」かつ「省エネ重視」であるエージェント10Aをコントラクタに指定する(P27)。コントラクタに指定されたエージェント10Aは、期待効用値と比較するために用いる判断閾値を変更し(P28)、譲歩回数を2回として保存する。ここでは、コントラクタが判断閾値を変更することにより、コントラクタの期待効用値に対する評価結果が[Y]になる場合を想定しているから、コントラクタからマネージャに対して[Y]を返送する(P29)。
【0115】
上述のようにしてコントラクタでの評価結果が[Y]になれば、マネージャを除くすべてのエージェント10Aの評価結果が[R]ではなくなるから、マネージャは、提案した動作状態を負荷機器20に指示する(P30)。つまり、負荷機器20の動作状態は(25℃,中)になる。
【0116】
図示例では、入室からの経過時間が2Tになった時点においても、入室者のエージェント10Bによる評価結果が[R]であるから、入室者のエージェント10Bはマネージャになる(P31)。マネージャは、上述した動作と同様に、負荷機器20の動作状態として(24℃,弱)を立案し、在室者のエージェント10Aに提案する(P32)。
【0117】
ここでは、マネージャの提案に対して、「普通」かつ「中庸」であるエージェント10Aは、期待効用値の評価結果を[G]とし(P33)、「寒がり」かつ「省エネ重視」であるエージェント10Aは、期待効用値の評価結果を[Y]とする(P34)。つまり、「普通」かつ「中庸」であるエージェント10Aは、マネージャに対して[G]を返送し(P35)、「寒がり」かつ「省エネ重視」であるエージェント10Aは、マネージャに対して[Y]を返送する(P36)。
【0118】
このように、エージェント10Aがマネージャの提案を拒絶する[R]の評価結果を返さない場合は、コントラクタの指定は行われず、マネージャが提案した動作状態が負荷機器20に指示される(P37)。
【0119】
以上の動作を行うことにより、エージェント10A,10Bごとの期待効用値は、それぞれの許容できる範囲に落ち着くことになる。入室から3Tの経過時点において、負荷機器の動作状態は(24℃,弱)であり、入室者のエージェント10Bは期待効用値の評価結果が[Y]になっており、入室者のエージェント10Bは、以後はマネージャにならない。また、「普通」かつ「中庸」のエージェント10Aの評価結果は[G]、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aの評価結果は[Y]になっているから、在室者のエージェント10Aもマネージャにならない。
【0120】
ここで、コントラクタであった「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aの譲歩回数は2であるから、
図6に示すように、復権処理が起動される(P38)。すなわち、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、期待効用値を高める負荷機器20の動作状態として(25℃,中)を、他のエージェント10A,10Bに提案する(P39)。この提案に対して、「普通」かつ「中庸」のエージェント10Aは評価結果が[G]になり(P40)、「暑がり」かつ「快適性重視」のエージェント10Bは評価結果が[R]になる(P41)。そのため、「普通」かつ「中庸」のエージェント10Aは評価結果は[G]を返し(P42)、「暑がり」かつ「快適性重視」のエージェント10Bは[R]を返す(P43)。つまり、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは復権処理に失敗し、負荷機器20の動作状態は(24℃,弱)に維持される。
【0121】
その後、エージェント10Aの入室から4Tの経過時点で、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、再び復権処理を起動し(P44)、負荷機器20の動作状態として、(25℃,中)を再び提案する(P45)。この提案に対して、「普通」かつ「中庸」のエージェント10Aの評価結果は[G]になり(P46)、「暑がり」かつ「快適性重視」のエージェント10Bの評価結果も[G]になる(P47)。すなわち、「普通」かつ「中庸」のエージェント10Aから[G]の応答が得られ(P48)、また、「暑がり」かつ「快適性重視」のエージェント10Bからも[G]の応答が得られる(P49)。
【0122】
したがって、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、負荷機器20に対して動作状態(25℃,中)を指示する(P50)。また、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、譲歩回数を1回減らし、残りが1回になる。
【0123】
さらに、入室から5Tが経過した時点では、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、判断閾値を変更した実績が1回残っているから、復権処理を再び行い(P51)、負荷機器20の動作状態として(26℃,強)を提案する(P52)。この提案に対して、「普通」かつ「中庸」のエージェント10Aと、「暑がり」かつ「快適性重視」のエージェント10Bとは、両方とも評価結果が[G]になり(P53,P54)、ともに[G]の応答を返す(P55,P56)。そのため、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、負荷機器20に対して動作状態(26℃,強)を指示する(P57)。この段階において、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、譲歩回数を1回減らし、譲歩回数の残りは0回になる。
【0124】
入室から6Tが経過した時点では、負荷機器20の動作状態は(26℃,強)になっているが、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aは、譲歩回数が0回になっている。したがって、負荷機器20の動作状態は、(26℃,強)に維持される。以後は、負荷機器20の動作を変更する事象が生じなければ、それぞれのエージェント10A,10Bで期待効用値を算出し、判断閾値と比較する処理が繰り返される。
【0125】
上述した例では、入室者が入室する前の負荷機器20の動作状態が(28℃,中)であって、入室者の入室時から時間Tが経過するごとに、動作状態が(26℃,強)→(25℃,中)→(24℃,弱)→(25℃,中)→(26℃,強)と変化した場合について説明した。この例について、各エージェント10A,10Bで算出される期待効用値を
図7に示す。
図7によれば、同図中の特性(1)で示すマネージャのエージェント10Bは、入室時の期待効用値が20程度であり、その後、時間Tの経過ごとに期待効用値が増加している。一方、特性(2)で示すコントラクタのエージェント10Aは、入室者が入室する前の期待効用値が60程度であり、入室者の入室後には、期待効用値が低下している。特性(3)で示す残りのエージェント10Aは、入室者が入室する前の期待効用値が50程度であり、入室者の入室後には期待効用値が一旦上昇し、その後には期待効用値が低下している。
【0126】
このように、上述した動作では、各エージェント10A,10Bが対応処理を行うことにより、負荷機器20の各利用者に対応したエージェント10A,10Bの期待効用値の差分が減少する。つまり、各利用者に対応しているエージェント10A,10Bの間で譲歩することにより、負荷機器20の動作状態を、どの利用者にとっても不満が生じない程度に調整することが可能になる。
【0127】
ところで、人間である入室者が自身を満足させることのみを目的として、負荷機器20の動作状態を急に変化させると、在室者が反発して動作状態を元に戻そうとするから、動作状態の適正な調整が困難になる場合がある。これに対して、マネージャであるエージェント10は、
図7に示しているように、期待効用値が徐々に変化するように負荷機器20の動作状態を変化させているから、他のエージェント10も徐々に譲歩し、最終的に適正な動作状態に調整されることになる。
【0128】
図示例では、「暑がり」かつ「快適性重視」のエージェント10Bが入室してから3Tが経過した時点では、入室時点の期待効用値に対して、入室者のエージェント10Bの期待効用値が上昇し、在室者のエージェント10Aの期待効用値が低下している。つまり、すべてのエージェント10A,10Bの期待効用値が歩み寄り、期待効用値の差が小さくなるように調整されていることがわかる。
【0129】
その後、入室から4T〜6Tの間には、「寒がり」かつ「省エネ重視」のエージェント10Aが復権処理を行うと、このエージェント10Aの期待効用値は次第に上昇する。また、図示例では、「普通」かつ「中庸」のエージェント10Aにとっての期待効用値は大きく変化していないが、「暑がり」かつ「快適性重視」のエージェント10Bの期待効用値は、時間経過に伴って上昇している。「暑がり」かつ「快適性重視」のエージェント10Bの期待効用値が上昇するのは、入室からの時間経過に伴って室温に慣れ、ノードN1(
図3参照)の出力値が変化するからである。
【0130】
なお参考までに、1人の入室者および2人の在室者が上述した属性を有している場合であって、各エージェント10A,10Bの間で交渉を行わない場合について、期待効用値の変化例を
図8に示す。つまり、入室者の属性は「暑がり」かつ「快適性重視」であり、一方の在室者の属性は「普通」かつ「中庸」であり、他方の在室者の属性は「寒がり」かつ「省エネ重視」である。また、負荷機器20の動作状態は(28℃,中)とする。
図7に示した例と同様に、
図8において、特性(1)は「暑がり」かつ「快適性重視」の入室者、特性(2)は「寒がり」かつ「省エネ重視」の在室者、特性(3)は「普通」かつ「中庸」の在室者に対応する。
【0131】
各エージェント10A,10Bの間で交渉を行わない場合、つまり、各エージェント10A,10Bが連携せずに独立して動作する場合、負荷機器20の動作状態は変化せず、(28℃,中)に維持される。そのため、当然ながら、各エージェント10A,10Bの環境に対する期待効用値の隔たりは解消されることはない。
【0132】
なお、上述した動作では、在室者のエージェント10のうちの一方における評価結果が[G]であり、他方の評価結果が[R]である場合について説明したが、両方とも[R]になる場合には、両者が以下の処理を行う。すなわち、マネージャであるエージェント10は、提案した動作状態に対して他の2つのエージェント10の両方をコントラクタとして指定すればよい。コントラクタとして指定された両エージェント10は、上述の処理により評価部161の判断閾値を変更して譲歩する。
【0133】
ところで、機器制御装置として、スマートホンやウェアラブルコンピュータのように、利用者が常時携行しており、かつ加速度センサのような種々のセンサを内蔵している端末装置を用いる場合、利用者ごとの行動や活動を自動的に収集することが可能である。このように、利用者の行動や活動の履歴を収集し、かつ利用者が機器に指示した設定温度や設定風量などの履歴を関連付けて収集すれば、利用者の属性(温冷感など)を把握する精度が高められる。すなわち、エージェントは、利用者の属性を正確に把握することにより、利用者にとっての価値を高めるように判断することが可能になる。たとえば、エージェントが他のエージェントと協調して条件を変更する場合に、利用者にとっての譲歩の難易度を考慮することにより、利用者にとって譲歩しがたい条件に変更することを極力避けることが可能になる。
【0134】
上述した実施形態は、空調機器を制御する場合を例にして機器制御装置について説明したが、機器制御装置が制御対象とする機器を空調機器に限定する趣旨ではなく、照明機器のような他の機器を制御対象としてもよい。たとえば、機器が調光だけではなく調色も可能である照明機器であるとすれば、利用者に応じた照度および光色による照明環境が求められるから、上述したように利用者の代理として照明環境を決めるエージェントを用いることは有用である。
【0135】
なお、上述した構成例では、エージェントの機能のみを説明したが、エージェントを備えた機器制御装置は、種々の形態に形成することが可能であって、たとえば人形のような外観の装置を構成することが可能である。あるいはまた、機器制御装置がスマートホンのようにディスプレイを備えている場合には、画面上に利用者のアバターを表示することも可能である。この場合、他の利用者のエージェントと協議する状態を、画面上に複数のアバターを表示することによって表現してもよい。
【0136】
上述した構成では、利用者が個々に携行する端末装置にそれぞれエージェントを設ける場合を想定して説明したが、複数のエージェントを1台の装置に集約して設けてもよい。たとえば、
図9に示すように、複数の負荷機器20を通信によって制御する機器制御サーバ40に複数のエージェント10を搭載することが可能である。また、負荷機器20に複数のエージェント10を搭載してもよい。
【0137】
この構成の場合、個々の利用者とエージェント10とを対応付けるには、RFIDのように利用者を特定できる識別用媒体を個々の利用者に携行させ、識別用媒体で識別される利用者にエージェント10を対応付けることが可能である。また、室内を撮像するカメラを設け、カメラで撮像した室内の画像から顔認証によって利用者を特定する技術を採用してエージェント10と対応付けてもよい。あるいはまた、機器制御装置としてリモコン装置を用いる場合、リモコン装置を操作した利用者を特定できるようにしてもよい。リモコン装置を操作した利用者を特定するには、リモコン装置の操作部を用いてあらかじめ登録した識別用番号を入力する構成や、リモコン装置に指紋認証のように個人を識別する認証装置を設ける構成などが採用可能である。