(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5878866
(24)【登録日】2016年2月5日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】一酸化窒素治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/655 20060101AFI20160223BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20160223BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20160223BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20160223BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20160223BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20160223BHJP
A61K 9/68 20060101ALI20160223BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20160223BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20160223BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20160223BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20160223BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20160223BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20160223BHJP
【FI】
A61K31/655
A61K45/00
A61K47/02
A61K47/22
A61K9/06
A61K9/20
A61K9/68
A61K9/70
A61K9/72
A61P17/02
A61P29/00
A61P11/00
A61P43/00 111
【請求項の数】19
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-517624(P2012-517624)
(86)(22)【出願日】2010年6月21日
(65)【公表番号】特表2012-530780(P2012-530780A)
(43)【公表日】2012年12月6日
(86)【国際出願番号】US2010039320
(87)【国際公開番号】WO2010151505
(87)【国際公開日】20101229
【審査請求日】2013年6月20日
(31)【優先権主張番号】61/219,200
(32)【優先日】2009年6月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509262655
【氏名又は名称】ゲノ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ダビド エイチ.フイネ
【審査官】
伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−545714(JP,A)
【文献】
特表2008−521509(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/116497(WO,A1)
【文献】
特表2010−522050(JP,A)
【文献】
ZHANG, H. et al,Nitric oxide-releasing fumed silica particles: synthesis, characterization, and biomedical application,J. Am. Chem. Soc.,2003年,Vol.125, No.17,p.5015-5024
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/655
A61K 45/00
A61K 9/06
A61K 9/20
A61K 9/68
A61K 9/70
A61K 9/72
A61K 47/02
A61K 47/22
A61P 11/00
A61P 17/02
A61P 29/00
A61P 43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化窒素放出剤、及び酸化防止剤でフラッシュされたシリカを含む、一酸化窒素治療のための医薬組成物であって、治療量の一酸化窒素が、該組成物から放出されて対象に送達されるように用いられることを特徴とする、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記シリカゲルが、毒性化合物が前記対象に侵入するのを防止するためのものである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記酸化防止剤が、アスコルビン酸、αトコフェロール又はγトコフェロールである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
軟膏剤である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
粘着ストリップに組み込まれる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記粘着ストリップが、軟膏剤用量の正確な測定のために、その一表面上に目盛り尺を有する、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
ガム又はロゼンジの形態である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項8】
ガス送達デバイスに組み込まれる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記送達デバイスが、吸入器又は鼻用カートリッジである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記粘着ストリップが、ホイルの裏地を更に含む、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記ホイルの裏地が、一酸化窒素が外部環境に放出されるのを防止するためのものである、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記治療量の一酸化窒素が、少なくとも1ppmである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記治療量の一酸化窒素が、少なくとも100ppmである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記治療量の一酸化窒素が、少なくとも200ppmである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記治療量の一酸化窒素が、少なくとも300ppmである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記一酸化窒素放出剤が、ポリマー及び少なくとも1の一酸化窒素放出N2O2-官能基を有するポリマー組成物である、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
前記一酸化窒素放出剤が、下記からなる群から選択される、請求項1記載の組成物;
【化1】
(式中、Xは有機部位又は無機部位である。)。
【請求項18】
一酸化窒素放出組成物の製造方法であって、
固体マトリクス中の治療量の一酸化窒素放出剤を送達デバイスに組み込むことを含み、
該固体マトリクスが、シリカゲルと熱可塑性樹脂とを混合すること、得られた混合物を焼結すること、該固体マトリクスを酸化防止剤溶液でフラッシュすること、及び該固体マトリクスを乾燥させることによって形成される、前記製造方法。
【請求項19】
前記送達デバイスが、吸入器、粘着ストリップ、軟膏剤、ガム又はロゼンジである、請求項18記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権の主張)
本願は、先の米国特許仮出願番号第61/219,200号(2009年6月22日出願)の利益を主張し、これは参照によりその全体が組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
(技術分野)
本記載は、治療法に関する。
【0003】
(背景)
一酸化窒素ガスの対象への吸入又は局所的曝露は、創傷の治癒の促進、更なる回復のための創傷床の調製、感染及び炎症の低減、並びに肺障害の治療において有益であり得る。しかしながら、典型的な一酸化窒素(NO)療法は、対象にとって毒性となり得る組成物を含み、投与が困難となる場合がある。
【発明の概要】
【0004】
(概要)
概して、対象に一酸化窒素治療を送達する方法は、一酸化窒素放出剤(nitric-oxide releasing agent)及びシリカを含む組成物を対象に投与すること、及び該組成物から治療量の一酸化窒素を放出させることを含む。特定の状況において、シリカゲルは、毒性化合物が対象に侵入するのを防ぐ。他の状況において、該組成物は、酸化防止剤を更に含む。該酸化防止剤は、アスコルビン酸、αトコフェロール又はγトコフェロールであり得る。
【0005】
特定の状況において、該組成物は、軟膏剤の形態であり得る。他の状況において、該組成物は、粘着ストリップに組み込まれている。該粘着ストリップは任意に、一酸化窒素が外部環境に放出されるのを防止するためのホイルの裏地を含むことができる。幾つかの状況において、該粘着ストリップは、軟膏剤用量の正確な測定のために、その一表面上に目盛り尺を有することができる。
【0006】
特定の状況において、組成物は、ガム又はロゼンジの形態であり得る。他の状況において、該組成物は、吸入器又は鼻用カートリッジ(nasal cartridge)などのガス送達デバイスに組み込まれ得る。
【0007】
幾つかの状況において、治療量の一酸化窒素は、少なくとも1ppm、少なくとも100ppm、少なくとも200、又は少なくとも300ppmである。
【0008】
対象に一酸化窒素治療を送達するための組成物は、シリカ及び一酸化窒素放出剤を含むことができる。該放出剤は、ポリマー及び少なくとも1の一酸化窒素放出N
2O
2-官能基を有するポリマー組成物であり得る。該放出剤はまた、下記からなる群から選択することができる。
【化1】
【0009】
対象への一酸化窒素治療を製造する方法は、シリカ組成物中の治療量の一酸化窒素放出剤を送達デバイスに組み込むことを含み得る。該送達デバイスは、吸入器、粘着ストリップ、軟膏剤、ガム又はロゼンジであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】組成物、一酸化窒素放出剤及びシリカを含む、ガム又はロゼンジを示す。
【0011】
【
図1A】NO
2からNOを生成する変換カートリッジ104の一実施態様を示す。
【0012】
【
図2】一酸化窒素放出剤及びシリカを含む、吸入器又は鼻栓を示す。
【
図3】一酸化窒素放出剤及びシリカを含む、吸入器又は鼻栓を示す。
【0013】
【
図4】一酸化窒素放出剤及びシリカを含む組成物を含む、粘着ストリップを示す。
【0014】
【
図5】一酸化窒素放出剤及びシリカを含む組成物を含む、粘着ストリップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(詳細な説明)
種々の実施態様は、一酸化窒素(NO)治療のための方法、組成物及びデバイスに関連する。一般に、一酸化窒素(NO)は、局所的に適用され、吸入され、又は別の方法で個体の肺に送達される。治療用量のNOを与えることで、微生物感染の低減、炎症の低減、コラーゲン形成の制御、及び肺障害の治療を含む様々な利益を提供することができる。加えて、治療用量のNOは、高所病の症状を治療するための酸素治療の必要性、又はより低い高度への早急の下降を補完する、又は最小化するのに使用することができる。治療用量のNOを、対象に毒性を誘発することなく使用することができる。例えば、1ppmより高い、100ppmより高い、又は200ppmより高い濃度を使用することができる。
【0016】
図1は、ガム又はロゼンジなどのシェルAを示し、該シェルは治療量の組成物Bを含んでおり、ここで該組成物は、一酸化窒素放出剤及びシリカである。該組成物は、示されるようにシェル中に含まれるか、あるいは、シェルそれ自身に組み込まれ得る。
【0017】
図1Aは、NO
2からNOを生成する変換カートリッジ104の一実施態様を示す。変換カートリッジ104はまた、NO生成カートリッジ、GENOカートリッジ又はGENOシリンダとも呼ばれ得る。変換カートリッジ104は、入口105及び出口110を含む。一実施態様において、粒子フィルタ115が、入口105及び出口110の両方に設置され、カートリッジ104の残り部分は、水中の酸化防止剤の飽和溶液に浸漬して表面活性材料を被覆した表面活性材料120で満たされている。別の実施態様において、粒子フィルタ115は、2つの環状フィルタ間に置かれた表面活性材料120を有する2つの同心環状フィルタの形態であり得る。この実施態様において、ガスは、該環の内側から外側へ、又はその逆で流れる。別の実施態様において、表面活性材料120及びフィルタ材料115は、焼結管のような一固体材料に入れられる。
図1Aの実施例において、酸化防止剤はアスコルビン酸である。
【0018】
図2及び3は、一酸化窒素放出剤及びシリカを含む吸入器又は鼻栓を示す。組成物は、該吸入器又は鼻栓に含まれるか、あるいは、吸入器又は鼻栓それ自身に組み込まれ得る。
【0019】
図4は、一酸化窒素放出剤及びシリカを含む組成物を含む粘着ストリップ10を示す。該組成物は、粘着ストリップの表面11上のポケット12に埋め込まれた軟膏剤又は軟膏であり得る。該粘着ストリップは、投与される軟膏剤の量を選択、又は表示するのに使用できる目盛り16及び17を含むことができる。
【0020】
図5は、軟膏剤又は軟膏などの組成物が、粘着ストリップのポケット12に埋め込まれた粘着ストリップを示し、該粘着ストリップは、投与される軟膏剤18の量を選択、又は表示するのに使用できる目盛り16及び17を有する。該粘着ストリップは、NO又はNO
2が外部環境に放出されるのを防止するホイルの裏地12Aを含むことができる。
【0021】
NOは、例えば、米国特許出願番号11/206,305(参照により本明細書中に組み込まれる。)に記載される種々の方法及び放出組成物から作り出すことができる。
図1Aを参照すると、NO
2をNOに変換するための一般的な方法において、NO
2を有する気流は、入口105を介して受領され、かつ該気流は、水性酸化防止剤で被覆された表面活性材料120を通過して出口110に流体連結される。該表面活性材料が湿潤しており、かつ変換に酸化防止剤が使い果たされない限り、該一般的方法は、周囲温度でのNO
2からNOへの変換に有効である。
【0022】
入口105は、例えば、NO
2タンクとも呼ばれ得るNO
2の加圧ボトルからNO
2を有する気流を受領することができる。また入口105は、窒素(N
2)、空気又は酸素(O
2)中のNO
2を有する気流を受領することができる。入口105はまた、液体N
2O
4を含む透過管235を通過して気流を流体連結する空気ポンプからのNO
2を有する気流を受領することができる。変換は広い濃度範囲に渡って生じる。実験は、約0.2ppmのNO
2から約100ppmのNO
2まで、及び更に1000ppmを超えるNO
2までの空気中濃度で実施された。
【0023】
一実施例において、およそ5インチ(12.7cm)の長さであり、0.8インチ(2.03cm)の直径を有するカートリッジに、最初にアスコルビン酸の飽和水溶液に浸漬されたシリカゲルが充填される。カートリッジの他のサイズもまた、可能である。該湿潤シリカゲルは、Aldrich Chemical社のA.C.S.試薬等級99.1%純度と指定されたアスコルビン酸(すなわちビタミンC)及びS8 32-1、グレード40のサイズ35〜70のメッシュと指定されたFischer Scientific International社のシリカゲルを使用して調製した。粒径、及び粒子内の孔径が同様であるならば、他の同様のサイズのシリカゲルもまた有効である。
【0024】
水中35重量%までアスコルビン酸を混合し、攪拌し、及び該水/アスコルビン酸混合物をシリカゲルを通して濾過することによって調製したアスコルビン酸の飽和溶液を用いて、シリカゲルを湿潤させ、続いて脱水した。NO
2からNOへの変換は、アスコルビン酸で被覆されたシリカゲルが湿潤しているときに良好に進行することが見出された。NO
2からNOへの変換は、アスコルビン酸の水性溶液単独ではあまり進行しない。
【0025】
湿潤シリカゲル/アスコルビン酸を充填したカートリッジは、毎分150mlの流量で、12日間に渡り停止せずに、空気中1000ppmのNO
2をNOに定量的に変換することが可能であった。毎分わずか数mlから毎分5,000mlの流量までの範囲の幅広い流量及びNO
2濃度の試験に成功した。環状カートリッジを用いて、毎分60,000mlまでの流量を使用した。また反応は、ビタミンEの異形(例えば、αトコフェロール及びγトコフェロール)など、他の一般的な酸化防止剤を使用しても進行する。
【0026】
酸化防止剤/表面活性材料GENOカートリッジは、様々な治療に使用することができる。そのような一実施例において、GENOカートリッジは、加圧ボトル供給源からNOを送達するNO吸入治療用のNO
2スクラバとして使用することができる。該GENOカートリッジは、NO
2を除去するだけでなく、NO
2をNOガスに戻し、次いで患者によって吸入される。このカートリッジはまた、レキュペレータとも呼ばれる。このGENOカートリッジを使用して、有害レベルのNO
2が患者によって不注意に吸入されないように支援することができる。加えて、該GENOカートリッジは、患者が全NO用量を、NOガスであって、毒性形態のNO
2ではないとして受領していることを保証する。
【0027】
一実施態様によると、医薬組成物は、限定はされないが、シリカゲルなどの表面活性材料と、高温で焼結されて多孔質固体マトリクスを形成する1以上の適当な熱可塑性樹脂との混合物である。該ポリマーを挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は微細粉末に粉砕され、鋳型に込められ、高温で焼結されて多孔質固体マトリクスを形成し得る任意の熱可塑性樹脂があるが、これらに限定されない。熱可塑性樹脂は硬化すると、細孔内に組み込まれた表面活性材料を有する堅固な多孔質構造を与える。加えて、該ポリマーは、任意の形態に成形されるか、又は型取りすることができる。
【0028】
一実施態様によると、該多孔質固体マトリクスは、少なくとも20%のシリカゲルを含む。別の実施態様によると、該多孔質固体マトリクスは、およそ20%〜およそ60%のシリカゲルを含む。更に別の実施態様によると、該多孔質固体マトリクスは、50%のシリカゲルを含む。当業者には認識されるように、多孔質固体マトリクスの機械的及び構造的強度が維持される限り、任意のシリカゲル対熱可塑性樹脂の比率が企図される。一実施態様において、シリカゲル及びポリマーの密度は、均一な混合物、ひいては均一な多孔質固体マトリクスを達成するために概して類似のものである。
【0029】
一方法によると、固体マトリクスは、シリカゲルと熱可塑性樹脂とを混合することによって形成される。次いで、該混合物は、高温で焼結されて多孔質固体マトリクスを形成し、冷却される。多孔質固体マトリクスが形成された後、該多孔質固体マトリクスは、酸化防止剤溶液でフラッシュされる。一実施態様において、該酸化防止剤溶液は、水中およそ20%のアスコルビン酸である。あるいは、アスコルビン酸は、他の酸化防止剤、例えば、限定はされないが、αトコフェロール又はγトコフェロールで置き換えてもよい。他の実施態様において、該酸化防止剤溶液は、様々な酸化防止剤濃度を有し得る。溶存ガス(例えば、酸素及び空気)は、固体ポリマー/シリカゲルマトリクス周辺での微小な気泡の形成を防止するために、該酸化防止剤溶液から取り除かれる。気泡は表面化学を変化させ、シリカゲル内部でNO
2が酸化防止剤液と相互作用するのを阻み得る。
【0030】
固体マトリクスをフラッシュすることで、乾燥工程の間に過剰な酸化防止剤溶液が沈降するのを抑制するために、シリカゲルに拘束されない過剰な酸化防止剤溶液を洗い流すことができる。一実施態様によると、多孔質固体マトリクスは、含水量がおよそ30%に減少するまで真空乾燥される。別の実施態様において、該固体マトリクスは、およそ1%〜およそ99%の範囲の含水量をもつように乾燥され得る。該乾燥プロセスの間に、酸素が確実に取り除かれるように注意する必要がある。乾燥した固体マトリクスは本体を成し、密封プロセスの前及びその間に不活性ガスでフラッシュされる。アスコルビン酸(又は他の酸化防止剤)が長期保管の間にデヒドロアスコルビン酸及び他の酸化生成物に徐々に酸化されるのを防止するために、製造プロセス及び保管中、酸素は排除される。別の実施態様において、カートリッジは、検出可能な水が存在しなくなるまで乾燥され、次いで、該カートリッジは、密封され、防湿容器に乾燥包装される。乾燥カートリッジは、使用前に該カートリッジを水に曝露することによって活性カートリッジに再構築される。
【0031】
NOを放出できる組成物は、例えば、米国特許第7,425,218号;第6,397,660号;第6,200,558号;第5,632,981号;第5,525,357号;及び第5,405,919号(これらは、引用により本明細書中に組み込まれる。)に教示されている。
【0032】
NOは、米国特許出願第61/090,617号(これは、引用により本明細書中に組み込まれる。)に教示されるものなどの特定のデバイスから放出することができる。例えば、NOを空気で送達するための軽量可搬なデバイスは、患者の生活の質の改善をもたらす可能性がある。該デバイスは、小型のバッテリー駆動ポンプによって、又は患者の吸入(喫煙と同様の方式で使用される吸入器を使用して)によって駆動され得る。加えて、NOを提供する治療(例えば、N
2O
4をNOに変換する)は、酸素治療よりも費用効率がよい。
【0033】
現在、吸入用NOガスを送達するための認可されたデバイス及び方法は、複雑でかつ重い装置を必要とする。NOガスは窒素とともに、かつ微量の酸素も含まずに、重いガスボトルに貯蔵される。該NOガスは、専用のインジェクタ及び複雑なベンチレータで空気又は酸素と混合され、該混合プロセスは、高感度なマイクロプロセッサ及び電子機器を有する装置で監視される。二酸化窒素(NO
2)は毒性が高いため、混合プロセスの間にNOがNO
2に酸化されないことを確実にするために、こうした装置の全てが要求される。しかしながら、こうした装置は、そのサイズ、コスト、複雑性及び安全性の問題が、この装置の操作を医療施設において高度に訓練された専門家に制限させるため、非医療施設環境(例えば、戦闘活動又は辺境の荒野)での使用をもたらさない。
【0034】
対照的に、本明細書中に開示される送達デバイスは、重いガスボトル、高機能な電子機器又は監視用装置を必要としない、自己完結型の可搬システムである。加えて、該送達デバイスは使用が容易であり、いかなる専門的な訓練も必要としない。更に、該送達デバイスは、個人にNO治療を自己投与させることができる。また該送達デバイスは、軽量、小型及び可搬である。一実施態様によると、該NO送達デバイスは、1回限りの使用又は短期間治療用に、葉巻又は従来の吸入器の大きさである。あるいは、該NO送達デバイスは、より大きなデバイスであるが、長期間NOを送達することができる可搬デバイスである。
【0035】
一酸化窒素放出N
2O
2-官能基を生体高分子に組み込むことによって、有用な薬理学的物質を提供することができる。したがって、該N
2O
2-官能基は、該用語が本明細書中に規定されるように、「ポリマーに結合」される。用語NONOアートは本明細書中において、一酸化窒素放出N
2O
2-基を簡略化して指す場合に使用される。NONOアートの生体高分子への取り込みが、対象の生物学的部位に特異的に適用され得る生体高分子結合NONOアート組成物を提供することが見出された。生体高分子結合NONOアートの部位特異的適用は、一酸化窒素放出NONOアートの作用の選択性を向上させる。生体高分子に結合したN
2O
2-官能基が自発的に局在化する場合、それらの一酸化窒素放出の効果は、それらが接触している組織に集中するであろう。該生体高分子が可溶性である場合、作用の選択性は、例えば、標的組織への抗体特異性の結合又は誘導体化によって更に整えられ得る。重要な受容体のリガンドの認識配列を模倣する小ペプチドへのN
2O
2基の結合は、核酸における標的配列との部位特異的相互作用が可能なオリゴヌクレオチドへの結合と同様に、一酸化窒素放出の局在化、集中化した効果を提供する。ホルモン類並びに運動性、走化性及び血管外遊出性の因子又は物質を含む他のタンパク質、ペプチド、ポリペプチド、核酸及び多糖類を同様に利用することができる。
【0036】
例証として、ピペラジンモノNONOアート誘導体を、腫瘍細胞走化性に重要なIKVAV認識配列を含むポリペプチドに共有結合することができる。抗走化性物質であるNOを再生する能力、及び腫瘍細胞が結合する傾向のある血管系及びリンパ系における腫瘍細胞及び/又は部位に対するIKVAV配列の親和性の両方の保持によって、転移は低減されるか、又は防止さえされ得る。
【0037】
本発明の生体高分子結合NONOアート組成物における一酸化窒素放出の長い寿命は、該組成物の物理的構造及び静電効果の両方に起因するものと考えられる。したがって、該生体高分子が不溶性固体である場合、粒子表面近くのN
2O
2-基は急速な放出に利用されるが、より深部に組み込まれたN
2O
2基は立体的に遮断され、一酸化窒素が媒体に進行するのにより多くの時間及び/又はエネルギーを要求すると考えられる。予想外のことであるが、N
2O
2-官能基近辺の正電荷を増加させると、一酸化窒素生成の半減期も増加する傾向があることが見出された。この速度遅延のメカニズムは、単純に反発的な静電相互作用に起因し得る。すなわち、N
2O
2-基近辺のH
+正電荷の数の増加は、正電荷のH
+イオンのN
2O
2-官能基への攻撃を阻害し、そのH
+触媒分解の速度を遅延させる。例えば、一酸化窒素との反応において一酸化窒素放出N
2O
2-官能基を形成することができるアミノ基をポリマー支持体に結合させることによって、部分的に変換された構造体を一酸化窒素による小消耗処理(less-than-exhaustive treatment)で生成することができ、これは水に曝された後に、一酸化窒素放出N
2O
2-官能基からの一酸化窒素喪失を開始させることができるH
+イオンの接近を静電気的に阻害するN
2O
2-基を取り囲んでいる大量の正電荷のアンモニア中心を含有する。
【0038】
生体高分子に結合された一酸化窒素放出N
2O
2-官能基は、水性環境との接触時の自然発生的な水性環境において一酸化窒素を放出することができる。すなわち、それらは、例えば、三硝酸グリセリン及びニトロプルシドナトリウムを要求するような還元反応又は電子移動による活性化を必要としない。本発明との関連で有用な一酸化窒素/求核剤複合体の幾つかは、特定の方法による活性化を必要とするが、これはただ必要に応じて、対象の特定細胞の近辺において一酸化窒素放出X[N(O)NO]基を自由にさせるためである。例として、アニオン性[N(O)NO]
-官能基への保護基の共有結合は、分子が該保護基を代謝的に除去することができる器官に達するまで、一酸化窒素放出を遅らせる手段を提供する。対象の腫瘍、生物学的障害、細胞又は組織に特異的な酵素によって選択的に切断される保護基を選択することによって、例えば、一酸化窒素/求核剤複合体の作用を標的化して、所望の効果を最大化することができる。本発明の生体高分子結合NONOアート組成物は水溶液中で一酸化窒素を放出することができるが、好ましくは、そのような化合物は生理的条件下で一酸化窒素を放出する。
【0039】
例えば、リジン基と、まずリジンのアミノ態窒素と共有結合し、次いで後続の工程において、該分子の別の場所にグループ化しているフリーのチオールを含むO
-官能化したNONOアートのイオウ原子と共有結合することが可能な誘導体化剤とを反応させることによって、腫瘍特異的抗体、又はタンパク質の機能には不要な1以上のリジン側鎖アミノ基を有する他のタンパク質に、NONOアート官能性を結合することができる。そのようなタンパク質が、全身投与後に所望の標的組織に到達すると、酸素に結合した置換基の酵素的又は加水分解的な除去により、アニオン性NONOアート機能を解放して、その部位でNO放出を集中させる。
【0040】
本発明の生体高分子結合NONOアートを形成するのに使用される、好ましい一酸化窒素放出N
2O
2-官能基は下記式によって規定される。
【化2】
式中、Xは、有機又は無機部位であり、かつX'は、有機又は無機置換基、医薬として許容し得る金属中心、医薬として許容し得るカチオンなどである。該N
2O
2-基は、X及びX'結合基のいずれか又は両方を介して生体高分子に結合される。一酸化窒素放出N
2O
2-基は好ましくは、一酸化窒素/求核剤付加物である。例えば、一酸化窒素と求核剤の複合体は、最も好ましくは、アニオン性部位X[N(O)NO]
-(式中、Xは、任意の適当な求核剤残基である。)を含む一酸化窒素/求核剤複合体である。求核剤残基は、好ましくは、第一級アミン(例えば、(CH
3)
2CHNH[N(O)NO]NaなどのX=(CH
3)
2CHNH)、第二級アミン(例えば、(CH
3CH
2)
2N[N(O)NO]NaなどのX=(CH
3CH
2)
2N)、ポリアミン(例えば、双性イオンH
2N(CH
2)
3NH
2+(CH
2)
4N[N(O)NO]
-(CH
2)
3NH
2などのX=スペルミン、双性イオンCH
3CH
2N[N(O)NO]
-CH
2CH
2NH
3+などのX=2-(エチルアミノ)エチルアミン、又は双性イオンCH
3CH
2CH
2N[N(O)NO]
-CH
2CH
2CH
2NH
3+などのX=3-(n-プロピルアミノ)プロピルアミン)又はオキシド(すなわち、NaO[N(O)NO]NaなどのX=O
-)のもの、又はそれらの誘導体である。そのような一酸化窒素/求核剤複合体は、予測可能な速度である生物学的に使用可能な形態で一酸化窒素を送達することができる。
【0041】
上記の様々な実施態様は、例示としてのみ提供され、請求項に係る発明を限定すると解釈されるものではない。本明細書中で示され、記載された例示的実施態様及び適用に従うことなしに、かつ請求項に係る発明の精神及びその範囲を逸脱することなしに、以下の特許請求の範囲に記載される請求項に係る発明になされ得る様々な改変及び変更が、当業者には容易に認識されるであろう。