特許第5878873号(P5878873)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5878873
(24)【登録日】2016年2月5日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】建設機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/04 20060101AFI20160223BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20160223BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20160223BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20160223BHJP
【FI】
   F02D29/04 H
   F02D29/00 B
   F02D29/02 331A
   E02F9/20 Q
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-538700(P2012-538700)
(86)(22)【出願日】2011年10月12日
(86)【国際出願番号】JP2011073439
(87)【国際公開番号】WO2012050136
(87)【国際公開日】20120419
【審査請求日】2013年11月20日
(31)【優先権主張番号】特願2010-230874(P2010-230874)
(32)【優先日】2010年10月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077816
【弁理士】
【氏名又は名称】春日 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100156524
【弁理士】
【氏名又は名称】猪野木 雄一
(72)【発明者】
【氏名】楢▲崎▼ 昭広
(72)【発明者】
【氏名】柄澤 英男
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛志
【審査官】 戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−068169(JP,A)
【文献】 特開平01−155044(JP,A)
【文献】 特開平01−200041(JP,A)
【文献】 特開平02−125946(JP,A)
【文献】 特開2002−256932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/04
E02F 9/20
F02D 29/00
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、このエンジンによって駆動される油圧ポンプと、この油圧ポンプから吐出される圧油によって駆動される油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御する弁と、操作量に応じた操作信号を出力して前記弁を制御する操作装置と、前記エンジンの環境に係る状態量を検出する検出手段と、前記エンジンの目標回転数として設定される入力回転数を入力する回転数入力手段とを備える建設機械の制御装置において、
(1)前記操作装置から前記操作信号が出力されているときには、前記回転数入力手段から出力される前記入力回転数を前記目標回転数とし、(2)所定の時間経過後も前記操作装置から前記操作信号が出力されないときには、前記回転数入力手段から出力される前記入力回転数と、前記エンジンの始動時のローアイドル回転数以上かつエンジン最大回転数未満の範囲で設定されるアイドル回転数とを比較し、値の小さい方を前記目標回転数とする目標回転数設定部と、
この目標回転数設定部で設定された前記目標回転数に基づいて前記エンジンの回転数を制御する回転数制御部とを備え、
前記目標回転数設定部は、前記操作信号が出力されない状態から出力される状態に変化することで前記油圧アクチュエータの負荷が急に作用してもエンジンストールを生じないトルクを発生できるエンジン回転数のうち最低の値に設定した基本アイドル回転数に前記検出手段の検出値に応じて予め設定されたテーブルに基づき算出される正の値である補正ゲインを加えた値を、前記アイドル回転数として設定するアイドル回転数設定部を有することを特徴とする建設機械の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械の制御装置において、
前記検出手段は、大気圧を検出する圧力検出手段であり、
前記アイドル回転数設定部は、前記圧力検出手段で検出された大気圧の低下に合わせて大きくなるように前記補正ゲインを算出することを特徴とする建設機械の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の建設機械の制御装置において、
前記検出手段は、前記エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温度検出手段であり、
前記アイドル回転数設定部は、前記冷却水温度検出手段で検出された冷却水温度の低下に合わせて大きくなるように前記補正ゲインを算出することを特徴とする建設機械の制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の建設機械の制御装置において、
前記検出手段は、前記エンジンの燃料温度を検出する燃料温度検出手段であり、
前記アイドル回転数設定部は、前記燃料温度検出手段で検出される燃料温度が、第1設定値以下の場合には当該燃料温度の低下に合わせて大きくなるように前記補正ゲインを算出し、前記第1設定値より大きく設定された第2設定値以上の場合には当該燃料温度の増加に合わせて大きくなるように前記補正ゲインを算出することを特徴とする建設機械の制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の建設機械の制御装置において、
前記目標回転数設定部による前記目標回転数の設定を、前記(1)及び(2)に基づいて前記目標回転数を設定する第1モードと、常に前記入力回転数を前記目標回転数として設定する第2モードとの間で選択的に切り換える手段をさらに備えることを特徴とする建設機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は操作装置が中立位置にあるときにエンジン回転数をアイドル回転数まで低減する建設機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械では、エンジン(ディーゼルエンジン)の回転数を、回転数入力装置(例えばエンジンコントロールダイヤル)により指示しており、当該回転数入力装置をオペレータが操作することでエンジンの目標回転数が設定される。このような建設機械には、油圧アクチュエータ(被駆動体)の動作を指示する操作装置(操作レバー)の全てが中立位置に保持された時点から所定の時間が経過したとき、回転数入力装置が指示する回転数よりも低い値(アイドル回転数)にエンジン回転数を設定する制御(オートアイドル制御)を行うことで、燃料消費量(以下、燃費と称することがある)や騒音の低減等を図っているものがある。
【0003】
オートアイドル制御を行う建設機械に関する技術としては、例えば、エンジン回転数及び油圧ポンプの容量(傾転角)を増加させる際における両者の応答性の違いに起因する黒煙の発生や燃費低下等の防止を目的としたものがある(特許文献1参照)。この技術は、オートアイドル時にエンジン回転数とともに油圧ポンプの容量を小さくして、その後、オートアイドル状態から通常状態に復帰する際には、エンジン回転数を復帰させた後に所定の時間を空けてから油圧ポンプの容量を復帰させることで、当該目的の解決を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−68169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、建設機械のエンジンの出力はエンジンの置かれた環境に応じて変化する。例えば、建設機械を使用する場所が高地である場合には、大気圧の低下によりエンジン出力は低下する。オートアイドル状態から復帰する際に油圧アクチュエータを動作させる等して急にエンジンに負荷を加えると、燃料の供給が間に合わずエンジン回転数が低下する現象(ラグダウン)が生じることがあるが、上記のように大気圧の低下によりエンジン出力が低下すると、このラグダウンによるエンジン回転数の低下が平地の場合よりも大きくなったり、場合によってはエンストが発生したりすることも懸念される。このようなエンジン出力の変化は、上記の大気圧の変化の他にも、エンジン冷却水温度や燃料温度が変化した場合にも発生する。
【0006】
本発明の目的は、環境の変化に応じてエンジン出力が低下した場合でも、オートアイドル状態から復帰する際における操作フィーリングを良好に保持できる建設機械の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、上記目的を達成するために、エンジンと、このエンジンによって駆動される油圧ポンプと、この油圧ポンプから吐出される圧油によって駆動される油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御する弁と、操作量に応じた操作信号を出力して前記弁を制御する操作装置と、前記エンジンの環境に係る状態量を検出する検出手段と、前記エンジンの目標回転数として設定される入力回転数を入力する回転数入力手段とを備える建設機械の制御装置において、(前記操作装置から前記操作信号が出力されているときには、前記回転数入力手段から出力される前記入力回転数を前記目標回転数とし、()所定の時間経過後も前記操作装置から前記操作信号が出力されないときには、前記回転数入力手段から出力される前記入力回転数と、前記エンジンの始動時のローアイドル回転数以上かつエンジン最大回転数未満の範囲で設定されるアイドル回転数とを比較し、値の小さい方を前記目標回転数とする目標回転数設定部と、この目標回転数設定部で設定された前記目標回転数に基づいて前記エンジンの回転数を制御する回転数制御部とを備え、前記目標回転数設定部は、前記操作信号が出力されない状態から出力される状態に変化することで前記油圧アクチュエータの負荷が急に作用してもエンジンストールを生じないトルクを発生できるエンジン回転数のうち最低の値に設定した基本アイドル回転数に前記検出手段の検出値に応じて予め設定されたテーブルに基づき算出される正の値である補正ゲインを加えた値を、前記アイドル回転数として設定するアイドル回転数設定部を有するものとする。
【0008】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記検出手段は、大気圧を検出する圧力検出手段であり、
前記アイドル回転数設定部は、前記圧力検出手段で検出された大気圧の低下に合わせて大きくなるように前記補正ゲインを算出するものとする。
【0009】
(3)上記(1)又は(2)において、好ましくは、前記検出手段は、前記エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温度検出手段であり、前記アイドル回転数設定部は、前記冷却水温度検出手段で検出された冷却水温度の低下に合わせて大きくなるように前記補正ゲインを算出するものとする。
【0010】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、好ましくは、前記検出手段は、前記エンジンの燃料温度を検出する燃料温度検出手段であり、前記アイドル回転数設定部は、前記燃料温度検出手段で検出される燃料温度が、第1設定値以下の場合には当該燃料温度の低下に合わせて大きくなるように前記補正ゲインを算出し、前記第1設定値より大きく設定された第2設定値以上の場合には当該燃料温度の増加に合わせて大きくなるように前記補正ゲインを算出するものとする。
【0011】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、好ましくは、前記目標回転数設定部による前記目標回転数の設定を、前記(1)及び(2)に基づいて前記目標回転数を設定する第1モードと、常に前記入力回転数を前記目標回転数として設定する第2モードとの間で選択的に切り換える手段をさらに備えるものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環境の変化に応じてエンジン出力が低下してもラグダウンを軽減することができるので、オートアイドル状態から復帰する際における操作フィーリングを良好に保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る建設機械の概略構成図。
図2】本発明の実施の形態に係る制御装置40の概略構成図。
図3】本発明の実施の形態におけるオートアイドル制御部45が行うスイッチ制御処理のフローチャート。
図4】本発明の実施の形態における目標回転数設定部29が行う目標回転数設定処理のフローチャート。
図5】本発明の実施の形態における入力回転数設定部41で算出される目標回転数とダイヤル角θの関係の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0015】
図1は本発明の実施の形態に係る建設機械の概略構成図である。この図に示す建設機械は、いわゆる電子制御型のエンジン(ディーゼルエンジン)2と、エンジン2の出力軸に機械的に連結されエンジン2によって駆動される可変容量型の油圧ポンプ4と、エンジン2によって駆動される補助油圧ポンプ17と、油圧ポンプ4から吐出される圧油によって駆動される油圧アクチュエータ6と、油圧ポンプ4から油圧アクチュエータ6に吐出される圧油の流れ(方向及び流量)を制御するパイロット式の方向切換弁8と、補助油圧ポンプ17からの圧油を利用して操作量に応じた操作信号(油圧信号)を出力し、方向切換弁8の切換方向を制御する操作レバー(操作装置)9と、エンジン2の置かれた環境に係る状態量を検出する圧力センサ27、温度センサ28及び温度センサ30(検出手段)と、エンジン2の回転数を入力するエンジンコントロールダイヤル(回転数入力手段)13と、エンジン2を制御する制御装置40を備えている。
【0016】
エンジンコントロールダイヤル13(以下、ECダイヤルと称することがある)は、オペレータによってエンジン2の目標回転数が入力される回転数入力装置である。ECダイヤル13は、油圧ショベルのキャブ内に設置され、ダイヤルの角度(ダイヤル角)θを調節することでエンジン2の目標回転数を入力できる。以下において、ECダイヤル13で入力される回転数を入力回転数と称することがある。なお、この他の回転数入力装置としてはスロットルレバー等がある。
【0017】
制御装置40には、圧力センサ27と、温度センサ28と、温度センサ30と、ECダイヤル13と、操作圧センサ26と、オートアイドル許可スイッチ39が接続されており、制御装置40には、これらから出力される信号が入力されている。
【0018】
圧力センサ27は大気圧を検出する大気圧検出手段で、温度センサ28はエンジン2の冷却水温を検出する冷却水温度検出手段で、温度センサ30はエンジン2の燃料温度を検出する燃料温度検出手段である。操作圧センサ26は、操作レバー9から方向切換弁8に出力される操作信号(油圧信号)を検出するものである。なお、本実施の形態における操作圧センサ26はシャトル弁10を通過した圧油の圧力を操作信号として検出している。これは、操作レバー9の操作(傾倒方向及び傾倒量)に応じて方向切換弁8に印加される圧油のうち圧力が最大のものがシャトル弁10を介してセンサ26に入力されており、そのシャトル弁10を通過した圧油と同じ圧力のものが方向切換弁8に対して操作信号として作用するからである。
【0019】
オートアイドル許可スイッチ39は、制御装置40にオートアイドル制御を行うことを許可するか否かを切り換えるための装置(切換手段)である。ここで、「オートアイドル制御」とは、所定の時間経過後も(すなわち、所定の時間に亘って)操作レバー9からの操作信号が方向切換弁8に出力されず、操作レバー9の全てが中立位置に保持されていると判断されたときに、ECダイヤル13から入力される回転数より低い回転数(アイドル回転数)にエンジン2の目標回転数を強制的に設定する制御のことをいう。オートアイドル許可スイッチ39は、油圧ショベルであればキャブ内に設置することが好ましい。
【0020】
スイッチ39をONに切り換えて、所定の時間経過後も操作レバー9から操作信号が出力されないと判断された場合には、オートアイドル制御が自動的に実行される。一方、スイッチ39をOFFに切り換えると、当該所定の時間経過後も操作レバー9から操作信号が出力されないと判断された場合でも、オートアイドル制御は実行されない。
【0021】
なお、図1には、油圧アクチュエータ6のシンボルとして油圧モータが記載されているが、これは例示に過ぎず、他のアクチュエータ(油圧シリンダ等)が利用可能であることは言うまでもない。
【0022】
図2は本発明の実施の形態に係る制御装置40の概略構成図である。この図に示す制御装置40は、オートアイドル制御部45と、目標回転数設定部29と、回転数制御部23を備えている。また、制御装置40は、処理内容や処理結果を記憶するためのROMやRAM等の記憶装置(図示せず)と、その記憶装置に記憶された処理内容を実行するCPU等の処理装置(図示せず)を備えている。
【0023】
オートアイドル制御部45は、オートアイドル制御の開始及び停止を制御する部分である。本実施の形態におけるオートアイドル制御部45は、目標回転数設定部29が、アイドル回転数設定部42で設定されるアイドル回転数をエンジン2の目標回転数として利用することを許可するか否かを切り換えることで、オートアイドル制御の開始及び停止を制御している。さらに具体的には、本実施の形態におけるオートアイドル制御部45は、最小値選択部37と第2加算器36の間に設置されたオートアイドル開始スイッチ11のON/OFF状態を切り替えることで、オートアイドル制御の開始及び停止を制御している。また、本実施の形態におけるオートアイドル制御部45には、オートアイドル許可スイッチ39から出力されるスイッチ信号S39と、操作圧センサ26から出力される操作圧センサ値Ppと、ECダイヤル13から出力されるダイヤル角θが入力されている。
【0024】
図3は本発明の実施の形態におけるオートアイドル制御部45が行うスイッチ制御処理のフローチャートである。この図に示すように、オートアイドル制御部45は、まず、スイッチ信号S39に基づいてオートアイドル許可スイッチ39がONの状態に切り換えられているか否かを判定する。オートアイドル許可スイッチ39がONの状態であると判定された場合には、S202に進む。
【0025】
S202では、オートアイドル制御部45は、操作レバー9が中立位置に保持された状態(油圧アクチュエータ6を動作させていない状態)にあり、当該状態が設定時間S1以上継続しているか否かを判定する。本実施の形態では、操作圧センサ26の操作圧センサ値Ppが設定値Po以下の状態が設定時間S1以上継続しているか否かで当該条件を判定している。なお、ここで設定時間S1だけ待機する理由は、オペレータが中立位置を挟んで逆方向に操作レバー9を動かす場合等、ごく短い瞬間だけ操作量がゼロとなる場合があり、オートアイドル制御が誤って実行されることを防止するためである。また、S202の処理において基準となる設定値Poは、操作レバー9から出力される圧油によって方向切換弁8が移動し始める圧力よりも小さく設定することが好ましい。
【0026】
S202で操作レバー9が設定時間S1以上継続して中立位置に保持されていることが確認できたら、オートアイドル制御部45は、ECダイヤル13が操作されていない状態が、設定時間S2以上継続しているか否かを判定する(S203)。本実施の形態では、ECダイヤル13から出力されるダイヤル角θの値が設定時間S2以上保持されているか否かで当該条件を判定している。
【0027】
S203でECダイヤル13が操作されていない状態が設定時間S2以上継続していることが確認できたら、オートアイドル制御部45は、所定の時間Seだけ遅らせて、オートアイドル開始スイッチ11をONの状態に切り換える(S204)。これにより、アイドル回転数設定部42で算出されたアイドル回転数が最小値選択部37に出力されることになるので、目標回転数設定部29がエンジン2の目標回転数としてアイドル回転数を利用することが許可される。S204が終了したら、S201に戻り、S201以降の処理を繰り返す。
【0028】
一方、S201でオートアイドル許可スイッチ39がOFFに切り換えられている場合、S202で操作レバー9が設定時間S1以上継続して中立位置に無い場合、又は、S203でECダイヤル13のダイヤル角θの値が設定時間S2以上保持されていない場合には、オートアイドル開始スイッチ11を直ちにOFFの状態に切り換える(S205)。これにより、アイドル回転数設定部42で算出されたアイドル回転数は最小値選択部37に出力されなくなるので、目標回転数設定部29がエンジン2の目標回転数としてアイドル回転数を利用することが禁止される。S205が終了したら、S201に戻り、S201以降の処理を繰り返す。
【0029】
なお、本実施の形態では、オートアイドル許可スイッチ39を設置することで、オペレータの意図に応じたオートアイドル制御の実行を図ったが、オートアイドル許可スイッチ39を省略して、常にオートアイドル制御が実行されるように建設機械を構成しても良い。さらに、本実施の形態では、オートアイドル制御が実行される条件として、ECダイヤル13が無操作である時間が設定時間S2以上であることを含めたが、当該条件は省略しても良い。すなわち、操作レバー9の状態のみに基づいてオートアイドル制御を実行しても良い。
【0030】
図2に戻り、目標回転数設定部29は、エンジン2の目標回転数を設定する部分であり、入力回転数設定部41と、アイドル回転数設定部42と、最小値選択部37を備えている。
【0031】
入力回転数設定部41は、ECダイヤル13のダイヤル角θに基づいて通常状態で利用される目標回転数(入力回転数)を算出するための部分である。入力回転数設定部41にはECダイヤル13からダイヤル角θが入力されている。入力回転数設定部41で算出される入力回転数は、図2中のテーブルが示すようにダイヤル角θに比例しており、ダイヤル角θの増加に合わせて増加するように算出される。ここで算出された入力回転数は最小値選択部37に出力される。
【0032】
入力回転数設定部41で算出される目標回転数の具体例について図を用いて説明する。図5は入力回転数設定部41で算出される目標回転数とダイヤル角θの関係の一例を示す図である。この図に示すように、目標回転数は、ダイヤル角θが最小のときに最小値に設定され、ダイヤル角θが最大のときに最大値に設定される。さらにこの図に示した例では、目標回転数の最小値はエンジン始動時(ローアイドル)の回転数(ローアイドル回転数)に設定されており、目標回転数の最大値はエンジン最大回転数に設定されている。
【0033】
アイドル回転数設定部42は、オートアイドル制御の実行時におけるエンジン回転数(アイドル回転数)を設定する部分であり、基本アイドル回転数記憶部38と、補正ゲイン演算部43と、第1加算器35と、第2加算器36を備えている。アイドル回転数設定部42で算出されるアイドル回転数は、エンジン2の環境に係る状態量(大気圧、冷却水温度、燃料温度)の変化によるエンジン2の出力低下が抑制されるように、各センサ27,28,30の検出値に応じて補正ゲイン演算部43で算出される補正ゲインによって補正されている。なお、図2に示した構成より明らかであるが、アイドル回転数設定部42によって設定されるアイドル回転数は、入力回転数設定部41で設定される目標回転数とは別に設定される回転数である。
【0034】
基本アイドル回転数記憶部38は、アイドル回転数を設定する際に基準となる回転数(基本アイドル回転数)が記憶されている部分である。このとき、燃料消費量を抑制する観点からは、例えば、平地において予め設定された所定の温度条件で操作レバー9が操作され、ECダイヤル13で設定された目標回転数にエンジン回転数が復帰する際に、操作レバー9の操作によって動作する油圧アクチュエータ6の負荷が急に作用してもエンジンストールを生じないトルクを発生できるエンジン回転数のうち最低のものを基本アイドル回転数と設定することが好ましい。基本アイドル回転数記憶部38は、記憶されている基本アイドル回転数を第2加算器36に出力する。
【0035】
なお、基本アイドル回転数は、上記の点を考慮した上で、エンジンの出力トルク等の性能に基づいて設定することが好ましい。この種の設定方法としては、例えば、低速回転数域の出力トルクが相対的に低いエンジンでは基本アイドル回転数を相対的に高めに設定し、低速回転数域の出力トルクが相対的に高いエンジンでは基本アイドル回転数を相対的に低めに設定するものがある。
【0036】
補正ゲイン演算部43は、基本アイドル回転数に加える補正ゲインを演算するための部分である。補正ゲイン演算部43は、第1演算部32と、第2演算部33と、第3演算部34を備えている。
【0037】
第1演算部32は、圧力センサ27から出力される大気圧センサ値Paに基づいて補正ゲインを演算する部分である。第1演算部32は、図2中のテーブルが示すように、圧力センサ27で検出された大気圧センサ値Paの低下に合わせてアイドル回転数が高くなるように補正ゲインを算出する。すなわち、一般的に大気圧が低いほどエンジン出力が低下する傾向があるので、第1演算部32は、大気圧が低いほどアイドル回転数が高くなるように補正ゲインを算出している。第1演算部32で算出された補正ゲインは第1加算器35に出力される。
【0038】
第2演算部33は、温度センサ28から出力される冷却水温度センサ値Tcに基づいて補正ゲインを演算する部分である。第2演算部33は、図2中のテーブルが示すように、温度センサ28で検出された冷却水温度センサ値Tcの低下に合わせてアイドル回転数が高くなるように補正ゲインを算出する。すなわち、一般的に冷却水温度が低いほどエンジン出力が低下する傾向があるので、第2演算部33は、冷却水温度が低いほどアイドル回転数が高くなるように補正ゲインを算出している。第2演算部33で算出された補正ゲインは第1加算器35に出力される。
【0039】
第3演算部34は、温度センサ30から出力される燃料温度センサ値Tfに基づいて補正ゲインを演算する部分である。第3演算部34は、図2中のテーブルが示すように、燃料温度センサ値Tfが第1設定値Tf1以下の場合には燃料温度の低下に合わせてアイドル回転数が高くなるように補正ゲインを算出する(すなわち、算出される補正ゲインは燃料温度の低下に合わせて大きくなる)。また、燃料温度センサ値Tfが、第1設定値Tf1より大きく設定された第2設定値Tf2(すなわち、Tf1<Tf2)以上の場合には燃料温度の増加に合わせてアイドル回転数が高くなるように補正ゲインを算出する(すなわち、算出される補正ゲインは燃料温度の増加に合わせて大きくなる)。一般的に、低温域(本実施の形態ではTf1以下)では燃料温度の低下に合わせてエンジン出力も低下する傾向があり、高温域(本実施の形態ではTf2以上)では燃料温度の上昇に合わせてエンジン出力が低下する傾向がある。そこで、第3演算部34は、このような燃料温度とエンジン出力の関係に基づいてエンジン出力の低下が抑制できるように補正ゲインを算出している。第3演算部34で算出された補正ゲインは第1加算器35に出力される。
【0040】
第1加算器35は、第1演算部32、第2演算部33及び第3演算部34から出力された補正ゲインを加算する部分である(以下、各補正ゲインを合計したものを合計補正ゲインと称することがある)。なお、合計補正ゲインを算出する際には、各演算部33,34,35から出力される各補正ゲインに適宜重み付けをして合計補正ゲインを算出しても良い。第1加算器35で算出された合計補正ゲインは第2加算器36に出力される。
【0041】
第2加算器36は、基本アイドル回転数記憶部38から出力される基本アイドル回転数に第1加算器35から出力される合計補正ゲインを加算してアイドル回転数を算出する部分である。第2加算器36が算出したアイドル回転数は、オートアイドル開始スイッチ11がONに切り換えられているときに限って、最小値選択部37に出力される。
【0042】
なお、本実施の形態におけるアイドル回転数設定部42で設定されるアイドル回転数の可変範囲の下限は、入力回転数設定部41で設定される目標回転数の最小値とする。すなわち、図5に示した例では、アイドル回転数の下限値は、ローアイドル回転数に一致する。このようにアイドル回転数の可変範囲の下限値を設定すると、エンジン始動時のローアイドル回転数までアイドル回転数を低減することができる。
【0043】
最小値選択部37は、入力回転数設定部41から出力される入力回転数とアイドル回転数設定部42(第2加算器36)から出力されるアイドル回転数とを比較することで、値の小さい方をエンジン2の実際の目標回転数と設定し、さらに、当該設定した目標回転数を実現するための回転数指令値を回転数制御部23に出力する部分である。すなわち、本実施の形態においてオートアイドルが機能するのは、ECダイヤル13のダイヤル角θに基づいて入力回転数設定部41で決定される目標回転数が、アイドル回転数設定部42で設定されるアイドル回転数よりも大きく設定されている場合に限られる。なお、入力回転数設定部41でローアイドル回転数が設定されている場合(図5でダイヤル角θが最小の場合)に、アイドル回転数設定部42でもローアイドル回転数が設定された場合には、ローアイドル回転数を回転数制御部23に出力するものとする。
【0044】
回転数制御部23は、目標回転数設定部29で設定された目標回転数に基づいてエンジン2の回転数を制御する部分であり、本実施の形態ではエンジン2に設置されている(図1参照)。回転数制御部23には目標回転数設定部29から回転数指令値が出力されており、回転数制御部23は当該回転数指令値に基づいてエンジン2の回転数を制御している。
【0045】
図4は本発明の実施の形態における目標回転数設定部29が行う目標回転数設定処理のフローチャートである。この図に示すように、目標回転数設定部29は、まず、入力回転数設定部41において、ECダイヤル13から出力されるダイヤル角θを入力し(S301)、その入力したダイヤル角θの値に基づいて入力回転数を設定する(S302)。
【0046】
S303において、オートアイドル開始スイッチ11がOFFに切り換えられている場合には、最小値選択部37には入力回転数が出力されているのみなので、目標回転数設定部29は、当該入力回転数を目標回転数に設定し(S308)、回転数指令値を回転数制御部23に出力する(S309)。これによりエンジン2は通常状態で制御される(すなわち、ECダイヤル13で入力された回転数(入力回転数)で回転される)。S309が終了したら、S301に戻って以降の処理を繰り返す。
【0047】
一方、S303において、オートアイドル開始スイッチ11がONに切り換えられている場合には、アイドル回転数設定部42は、補正ゲイン演算部43の各演算部32,33,34において各センサ27,28,30のセンサ値を入力し(S304)、第1加算器35で合計補正ゲインを算出する(S305)。そして、アイドル回転数設定部42は、基本アイドル回転数記憶部38に記憶されている基本アイドル回転数を第2加算器36に入力し(S306)、その基本アイドル回転数にS305で算出した合計補正ゲインを加えてアイドル回転数を算出する(S307)。アイドル回転数設定部42で算出されたアイドル回転数は、S302で算出された入力回転数と最小値選択部37において比較され、両者のうち小さい方が目標回転数として設定され(S308)、回転数制御部23に出力される(S309)。通常、S308では、目標回転数としてアイドル回転数が設定されるので、これによりエンジン2はオートアイドル状態に制御される。S309が終了したら、S301に戻って以降の処理を繰り返す。
【0048】
上記のように構成される建設機械によれば、制御装置40によってオートアイドル開始スイッチ11がONの状態に切り換えられると、その時刻から所定時間Seが経過した後にオートアイドル制御が開始され、エンジン2の回転数がECダイヤル13で指定したもの(入力回転数)からアイドル回転数設定部42で設定されたもの(アイドル回転数)に低下する。一般的に、エンジン出力は環境(大気圧、冷却水温度、燃料温度等の環境因子)に応じて変化するが、上記のように構成した建設機械では、環境の変化によるエンジン出力の低下が抑制されるようにアイドル回転数を補正している。すなわち、圧力センサ27、温度センサ28及び温度センサ30のセンサ値に基づいて補正ゲインをそれぞれ算出し、当該補正ゲインで補正したアイドル回転数を利用することで、環境が変化してもエンジン出力を保持することができる。したがって、本実施の形態によれば、環境の変化に応じてエンジン出力が低下してもラグダウンを軽減することができるので、オートアイドル状態から復帰する際における操作フィーリングを良好に保持できる。
【0049】
また、本実施の形態では、上記のように環境の変化に合わせてアイドル回転数が変化する。そのため、例えば建設機械が高地にある場合には、大気圧、冷却温度及び燃料温度等の環境因子に応じてオートアイドル回転数を上げる方向に基本アイドル回転数を補正するので、高地での気圧低下や温度低下によるエンジン出力低下を予め考慮して基本アイドル回転数を常時高めに設定しておく必要がない。したがって、基本アイドル回転数を、環境の変化を考慮して常時高めに設定する場合よりも低くすることができるので、建設機械の燃費を向上することができる。
【0050】
なお、オートアイドル状態から復帰する際のラグダウンを抑制する方法としては、上述の特許文献1に記載のように油圧ポンプの吸収トルク(容量)を低減することも考えられる。しかし、このようにオートアイドル状態からの復帰時にエンジン回転数を復帰させた後に油圧ポンプの容量を小さい値から大きくすると、オートアイドル状態からの復帰直後は油圧アクチュエータに供給される圧油の流量が少なくなってしまう。そのため、オートアイドル状態からの復帰直後に油圧アクチュエータを駆動した場合、当該油圧アクチュエータの動作がオペレータが意図するよりも遅くなることが懸念される。これに対して、本実施の形態では、環境の変化に合わせて油圧ポンプ4の容量を変更していなので、オートアイドルからの復帰時に油圧アクチュエータの動作が遅くなることは無い。したがって、この観点からも、オートアイドル状態から復帰する際の操作フィーリングを良好に保持できる。
【0051】
また、上記の実施の形態では、アイドル回転数設定部42において、基本アイドル回転数に正の補正ゲインを加算してアイドル回転数を算出する場合について説明したが、基本アイドル回転数に負の補正ゲインを加算して(すなわち、基本アイドル回転数から補正ゲインを減算して)アイドル回転数を算出しても良い。例えば、この場合には、上記の実施の形態の場合よりも基本アイドル回転数を高めに設定しておき、補正ゲイン演算部43で環境因子の変化に合わせて正及び負又は負のみの補正ゲインが算出されるようにアイドル回転数設定部42を構成すれば良い。
【符号の説明】
【0052】
2…エンジン、4…油圧ポンプ、6…油圧アクチュエータ、8…方向切換弁、9…操作レバー、11…オートアイドル開始スイッチ、13…エンジンコントロールダイヤル、23…回転数制御部、26…操作圧センサ、27…圧力センサ(大気圧センサ)、28…温度センサ(冷却水温センサ)、29…目標回転数設定部、30…温度センサ(燃料温度センサ)、39…オートアイドル許可スイッチ、40…制御装置、42…アイドル回転数設定部、45…オートアイドル制御部
図1
図2
図3
図4
図5