【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、次の(1)〜(4)の耐火物、及び(5)〜(7)の耐火物構造体を提供する。
【0012】
(1) 500℃の非酸化雰囲気中での熱処理後の化学成分として、フリーの炭素を2.0質量%以上7.0質量%以下含有し、かつ前記フリーの炭素として耐火物組織を結合する結合炭素を含有する耐火物において、
500℃の非酸化雰囲気中での熱処理後の測定において、見掛け気孔率が4%以上12%以下であり、かつ径が10μm以上100μm以下の開気孔の合計体積が、径が200μm以下の開気孔の合計体積を100とする割合で20体積%以上50体積%以下であることを特徴とする耐火物。
(2) 前記結合炭素の含有量が、1.0質量%以上3.0質量%以下である(1)に記載の耐火物。
(3) 前記結合炭素を除く残部が、粒子径0.2mm以上0.5mm以下の耐火性材料が20体積%以上50体積%以下、粒子径0.2mm未満の耐火性材料が20体積%以上40体積%体積%以下、及び粒子径0.5mm超5mm以下の耐火性材料で構成されている(1)又は(2)に記載の耐火物。
(4) 500℃の非酸化雰囲気中での熱処理後の化学成分として、更に金属アルミニウムを4質量%以下(ゼロを含まない)含有する(1)から(3)のいずれかに記載の耐火物。
(5) (1)から(4)のいずれかに記載の耐火物を一部又は全体に配置した耐火物構造体。
(6) 内部に溶鋼と接触する空間を備えた殻状又は筒状である(5)に記載の耐火物構造体。
(7) 鋳造用ノズルである(6)に記載の耐火物構造体。
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0014】
溶鋼温度より低い温度の耐火物に溶鋼が接触する条件で使用されるとき、溶鋼と接触する際に受ける熱衝撃によって生じる初期破壊は、熱衝撃の程度すなわち溶鋼温度と耐火物との温度差が大きくなるほど発生しやすく、また破壊の進展、拡大も大きくなる。言い換えると、溶鋼に接触する際の耐火物温度が低いほど、初期破壊、破壊の進展、拡大も大きくなる。
【0015】
このような破壊は、耐火物の熱衝撃を受ける面付近に最初に生じ、これが起点になることもあるが、その対極の低温側が起点になることもある。破壊の起点の位置は耐火物構造体の構造や使用条件等の複数の要因によって変わるが、本発明者の知見によれば、特に内部に溶鋼が通過するための空間(内孔)を備えている鋳造用ノズル等の筒状の耐火物構造体では、溶鋼と接触する面と対極にある、筒の外部(最外周)に最初に破壊が生じ、これが起点となって破壊が進展又は拡大することが多い。なお、本明細書でいう「破壊」とは、亀裂、損壊を含む、耐火物組織の連続性を断絶して耐火物構造体の具備すべき機能を阻害する程度の変化の一切をいう。
【0016】
溶鋼に接触する耐火物の多くは、その耐火物組織が炭素によって結合され、又は更にフリーの炭素を主成分とする炭素基質材料を含有する。その理由は、これら炭素結合又は炭素結合に炭素基質材料を含む耐火物は、一般に、酸化物結合又は炭素を含有しない耐火物よりも耐熱衝撃性及び耐食性に優れるからであり、また、鋳造用ノズル等の繰り返し使用する操業条件に対しても優位であるからである。
【0017】
この点から本発明の耐火物は、前述の溶鋼に接触する用途における一般的な耐火物、具体的にはフリーの炭素を2.0質量%以上7.0質量%以下含有し、かつ前記フリーの炭素として耐火物組織を結合する結合炭素を含有することを前提条件とし、好ましくは前記結合炭素に加えて炭素基質材料由来のフリーの炭素を含有する。
【0018】
なお、本明細書でいう「フリーの炭素」とは、炭素以外の元素との化合物を除く炭素をいい、「炭素基質材料」とは、粒子状、繊維状等の独立した形状を有する材料をいい、例えば黒鉛、カーボンブラック等のいわゆる骨材としての材料をいう。
【0019】
また、本発明において前述のフリーの炭素等の化学成分、並びに後述する見掛け気孔率及び開気孔の合計体積の特定は、500℃の非酸化雰囲気中での熱処理後に行う。樹脂等の結合材に含まれる有機溶媒や吸着水分が除去できると共に、含有される金属成分等が耐火物組織又は雰囲気ガスと大凡反応しない熱処理条件であり、重量及び化学組成(耐火物組織)が安定するからである。また、前述の結合炭素は典型的には樹脂等の結合材由来のフリーの炭素であるが、その結合炭素の含有量は、JIS−K6910に準じた方法により、使用した樹脂(結合材)を500℃の非酸化雰囲気中で熱処理して定量することができるほか、耐火物を500℃の非酸化雰囲気中で熱処理した後に炭素成分を定量し、原料として加えた炭素質骨材原料分との差分として定量することができる。
【0020】
本発明者らは、前述のような結合炭素を含む耐火物の耐熱衝撃性を向上させるために研究を重ねた結果、その耐火物中の気孔の存在形態が耐熱衝撃性に大きく影響することを見いだした。すなわち本発明の耐火物において耐熱衝撃性は、耐火物組織内の気孔が熱衝撃(熱応力)を吸収することによって高められる。具体的には本発明の耐火物は、500℃の非酸化雰囲気中での熱処理後の測定において、見掛け気孔率が4%以上12%以下であり、かつ径が10μm以上100μm以下の開気孔の合計体積が、径が200μm以下の開気孔の合計体積を100とする割合で20体積%以上50体積%以下であることを特徴とする。
【0021】
耐火物の見掛け気孔率はJIS−R2205の測定方法により測定することができる。前述のとおり本発明において気孔の存在は耐熱衝撃性改善のための前提となるものであり、本発明ではその存在量を見掛け気孔率として4%以上12%以下と特定している。見掛け気孔率が4%未満では、気孔の存在量(体積)が相対的に小さすぎて、特に熱衝撃が大きい場合にその熱衝撃を十分に吸収することができない。また、見掛け気孔率が4%未満の場合は耐熱衝撃性に劣ることに加え、見掛け気孔率を4%未満にするためには特異な粒度構成、特別な成形等を要することから、製造上も現実的ではない。見掛け気孔率が12%を超えると、耐火物の強度低下が著しく、溶鋼又はスラグに対する耐食性や耐摩耗性の低下が顕著になり、多くの用途、特に鋳造用ノズルとしての耐火物構造体としての求められる耐用性を充足することができなくなる。
【0022】
開気孔の合計体積は、水銀ポロシメータにより測定することができ、例えばマイクロメリティックス社製オートポアIII9420による。この測定方法により得た気孔の累積体積の総量は、径が200μm以下の開気孔の合計体積と等しいものとみなすことができる。これは、この測定方法により測定可能な開気孔の最大の大きさが200μmであることによる。なお、開気孔は見掛け気孔率で示される気孔と同意であるが、耐火物内部には密封気孔も存在する。しかし、耐火物は均一な組織として製造するのであって、耐火物の密封気孔の形態を直接又は間接に測定することなく、この開気孔に関する測定を行うことで、密封状態にある耐火物内部の気孔もこの開気孔の形態と同じであるとみなすことができる。
【0023】
本発明者らは、さまざまな開気孔の大きさとその体積割合を検討した結果、径が10μm以上100μm以下の開気孔の合計体積の割合が、耐熱衝撃性に顕著な影響を及ぼすこと、及びこの割合は、径が200μm以下の開気孔の合計体積を100とする割合で20体積%以上50体積%以下とすることで耐熱衝撃性を顕著に高めることができることをみいだした。すなわち、径が10μm以上100μm以下の開気孔の合計体積の割合が、径が200μm以下の開気孔の合計体積を100とする割合で20体積%未満の場合、気孔径が細孔径化し高弾性率化する、応力緩和能が小さくなる等により耐熱衝撃性を顕著に高めることはできない。50体積%を超えると、見掛け気孔率が12%を超える危険が高まると共に、相対的に粗大な気孔が多くなり充填性も低下して、強度が大幅に低下しやすくなり、また、品質のバラツキも大きくなりやすく、安定した品質の耐火物を得にくくなると共に、溶鋼又はスラグに対する耐食性や耐摩耗性が低下する傾向となる。
【0024】
これらの耐火物の開気孔体積は、前述の水銀ポロシメータなどを用いて細孔径分布を測定することにより測定することができるほか、200μm以下の気孔径の分布を測定することができて、径が10μm以上100μm以下の開気孔の合計体積の割合を相対的に知ることができる装置や方法であれば測定することができ、特定の装置や方法に限定する必要はない。
【0025】
耐火物組織と気孔径分布を、代表例を用いて
図1〜4に示す。
図1及び
図3はそれぞれ従来一般的な耐火物(比較例)の耐火物組織及び気孔径分布を示し、
図2及び
図4はそれぞれ本発明の耐火物(実施例)の耐火物組織及び気孔径分布を示す。
図1及び
図2の耐火物組織において気孔は黒色の領域として表れている。
【0026】
従来一般的な耐火物(比較例)の気孔径分布は、
図3に示すように大きい径から小さい径になるに従って累積体積が漸次なだらかに増加する。すなわち、径の大きい方から小さい方への分布がほぼ均一に近い。また、前述の傾向に加え、約10μm以下程度の体積割合が相対的に多い。これに対し本発明の耐火物(実施例)の気孔径分布は、
図4に示すように従来一般的な耐火物と比較して、径が10μm以上100μm以下の領域の分布が突出して多いことがわかる。
【0027】
次に本発明の作用ないし効果を、常温における応力−歪みの関係から、代表例を用いて
図5に示す。
図5において横軸(X軸)は歪み(変位)(μm)、縦軸(Y軸)は応力(N)を表す。なお、比較例と実施例両方にある、いわゆる降伏点前の各々の曲線は、降伏点前で応力を除去した場合の挙動を示している。
【0028】
従来一般的な耐火物(比較例)の挙動は以下のとおりである。
(1)弾性率(最大応力点までの曲線の傾き)が大きい。
(2)最大応力点(ピーク値)が高い。
(3)最大応力点から破断点までの変位の絶対値が小さい。
すなわち、従来一般的な耐火物(比較例)は、いわゆる急な立ち上がりと急な降下を示している。
【0029】
これに対し本発明の耐火物(実施例)は、前記従来一般的な耐火物と比較して以下の挙動を示している。
(1)弾性率(最大応力点までの曲線の傾き)が小さい。
(2)最大応力点(ピーク値)が低い。
(3)最大応力点から破断点までの変位の絶対値が大きくなだらか。
すなわち、本発明の耐火物(実施例)は、全体になだらかで低位な応力を示している。
【0030】
このように本発明の耐火物(実施例)は、前記(1)から(3)の点で従来一般的な耐火物(比較例)と相違する。このうち前記(1)の相違は本発明において初期の破壊に対する抵抗性(破壊抵抗性)が増大していること、前記(3)の相違は本発明において破壊の進展・拡大に対する抵抗性(いわゆる靭性)が増大していることを示している。また、前記(2)に関しては、破壊抵抗性を強度/(弾性率×熱膨張率)とする場合にはこの値が大きい方が破壊抵抗性は高くなるが、靭性とも関係する内部組織の変形による応力緩和効果の観点では、この値が小さい方が破壊の進展・拡大に対する抵抗性(いわゆる靭性)の増大に寄与していると考えられる。このように本発明の耐火物では、前述した応力−歪み特性の改善により、耐熱衝撃性が顕著に増大すると考えられる。なお、このような応力−歪みの特性は、測定装置、個別の試料、測定条件等によって絶対値等は異なるが、本発明者らは、複数の測定装置により相対的に同様な傾向を示すことを確認している。
【0031】
以上のとおり、本発明の耐火物は、フリーの炭素を含有する特定の耐火物において前述のように見掛け気孔率及び開気孔の合計体積割合を特定することを特徴要件とし、言い換えると、この特徴要件さえ充足すれば顕著な耐熱衝撃性向上効果を得ることができる。このことは、耐火物の他の構成要素としての基材の成分、鉱物組成、粒度構成等は限定されず、前記特徴要件が充足されていれば、本発明の効果を得ることができることを意味する。すなわち、例えばアルミナ質、アルミナ−シリカ質、マグネシア質、カルシア質、ジルコニア質等の成分、コランダム質、シリマナイト質、ムライト質、スピネル質、ペリクレース質、ライム質等の鉱物組成等、さまざまな成分や鉱物組成等の材料には固有の熱膨張特性等があるものの、それら成分や鉱物組成に固有の特性は同じ材質では同一と考えることができ、またこれら他の要素は前述の本発明の見掛け気孔率及び開気孔の合計体積割合の特徴要件には無関係の特性であるので、同じ材質間相互において本発明の見掛け気孔率及び開気孔の合計体積割合の特徴要件を備える場合には、耐熱衝撃性の顕著な向上効果が得られる。
【0032】
また、本発明の耐火物は、フリーの炭素として結合炭素を含有する耐火物でありさえすれば、酸化を防止する条件下で、いわゆる不焼成(約300℃以下程度の熱処理)、いわゆる低温焼成(約500℃以上約1000℃以下程度の熱処理)、一般的な焼成(約1000℃以上の熱処理)等の製造時の熱処理温度に依存せず、同様な耐熱衝撃性の向上効果を得ることができる。なお、本発明においては、耐火物の化学成分、見掛け気孔率及び開気孔の合計体積を正確に特定するため、これらの特性は前述のとおり500℃の非酸化雰囲気中での熱処理後に測定するが、これはあくまで前記各特性の測定条件であって、本発明の耐火物が500℃の非酸化雰囲気中での熱処理を経たものに限定されるものではなく、耐火物の製造時の熱処理温度の違いに拘わらず、本発明の効果を得ることができる。このことは、耐火物を複数回使用する、すなわち溶鋼に接触すること、溶鋼と接触しないことの熱サイクルを複数回受ける、いわゆる多数回使用の場合にも同様に、耐熱衝撃性の顕著な向上効果を維持することができることを意味する。