特許第5878896号(P5878896)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5878896
(24)【登録日】2016年2月5日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】粒子を分離または濃縮するシステム
(51)【国際特許分類】
   B03B 5/28 20060101AFI20160223BHJP
【FI】
   B03B5/28 A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-161325(P2013-161325)
(22)【出願日】2013年8月2日
(62)【分割の表示】特願2008-67350(P2008-67350)の分割
【原出願日】2008年3月17日
(65)【公開番号】特開2013-237050(P2013-237050A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2013年9月2日
(31)【優先権主張番号】11/725,358
(32)【優先日】2007年3月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502096543
【氏名又は名称】パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メン エイチ リーン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンジー セオ
【審査官】 関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−029162(JP,A)
【文献】 特開2005−279609(JP,A)
【文献】 特開2006−043566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体内に浮遊する粒子を分離または濃縮するシステムであって、
入口と、チャンバと、出口とを有する第一の装置であって、前記入口で前記流体を受け、遠心力によって前記チャンバ内の前記流体の渦流の外側へと押し出された第一のサイズ範囲の粒子を捕捉し、前記流体と流体力学的圧力駆動力によって動かされた残余の粒子を前記チャンバから前記第一の装置の出口を通じて放出するように構成されている、第一の装置を備え、
前記第一の装置のチャンバは、前記第一のサイズ範囲の粒子を捕捉するために前記渦流の外側部分に配置され、選択的に開状態または閉状態にされる少なくとも一つの回収キャビティを有し、
前記システムはさらに、
カスケード状の構成で逐次的に粒子を分離するように前記第一の装置の出口に連結された入口と、チャンバと、出口とを有する第二の装置であって、前記入口で前記流体を受け、遠心力によって前記チャンバ内の前記流体の渦流の外側へと押し出された第二のサイズ範囲の粒子を捕捉し、前記流体と流体力学的圧力駆動力によって動かされた残余の粒子を前記チャンバから前記第二の装置の出口を通じて放出するように構成されている、第二の装置と、
少なくとも前記第一の装置および前記第二の装置のそれぞれにおいて、前記渦流を発生させ維持するのに十分なレベルで前記流体の連続的フローの流速を維持するよう動作される単一のポンプと、
を備えた、
システム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、前記第二の装置のチャンバは、前記第二のサイズ範囲の粒子を捕捉するために、前記渦流の外側部分に配置され、選択的に開状態または閉状態にされる少なくとも一つの回収キャビティを有する、システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシステムであって、前記第一と第二の装置は、前記流体の流速、各入口のチャネル幅、前記流体の粘性および各チャンバの曲率半径のうちの少なくとも1つのみを調節して動作が調整される、システム。
【請求項4】
流体中に浮遊する粒子を分離または濃縮するシステムであって、
前記流体を受けるためのシステム入口と、
サイズの異なる粒子を逐次的に分離するようにカスケード状に配された複数の装置と、
を備え、
各前記装置は、前記流体を受けるための入口と、遠心力によってチャンバ内の前記流体の渦流の外側へと押し出された選択されたサイズ範囲の粒子を捕捉するためのチャンバと、前記流体と流体力学的圧力駆動力によって動かされた残余の粒子を前記チャンバから放出するための出口と、を有し、
前記チャンバは、前記選択されたサイズ範囲の粒子を捕捉するために前記渦流の外側部分に配置され、選択的に開状態または閉状態にされる少なくとも一つの回収キャビティを有し、
前記システムはさらに、前記複数の装置のそれぞれにおいて前記渦流を発生させ維持するのに十分なレベルで前記流体の連続的フローの流速を維持するよう動作される単一のポンプを備える、
システム。
【請求項5】
請求項4に記載のシステムであって、前記複数の装置は、前記流体の流速、各入口のチャネル幅、前記流体の粘性および各チャンバの曲率半径のうちの少なくとも1つのを調節して動作が調整される、システム。
【請求項6】
請求項4または5に記載のシステムであって、効率と選択性を高めるために、前記複数の装置は、閉ループを形成するよう配される、システム。
【請求項7】
入口と、粒子を回収するために渦流の外側部分に配置された回収キャビティを有するチャンバと、出口とを有する装置を複数備えたシステムにおいて流体中の粒子を分離または濃縮する方法であって、
複数の各前記装置はカスケード状に配され、
前記チャンバの入口で前記流体を受け、
単一のポンプを用いて各前記装置の前記チャンバ内に前記流体の渦流を発生させて維持し、それにより、
遠心力によって渦流の外側へと選択されたサイズ範囲の粒子を押し出し、この選択されたサイズ範囲の粒子を、選択的に開状態または閉状態にされる前記回収キャビティ内に回収し、
残余の粒子を、流体力学的圧力駆動力によって前記チャンバの外に押し出す、
方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、複数の前記装置は、前記流体の流速、各入口のチャネル幅、前記流体の粘性および各チャンバの曲率半径のうちの少なくとも1つのを調節して動作が調整される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体内に浮遊する粒子を分離または濃縮するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の装置は、小形化されておらず、また内側に多孔性の垂直壁を含んでいる。また、これらの従来のシステムは重力を用いて沈降させており、故に、粒子の分離に利用できる沈降時間は、構造体内部に蹴る粒子の滞留時間より短いものに限られている。これは、最小の粒子サイズを70−150μmに制限してる。粒子の分離と濃縮は、マクロスケールおよび小型化されたラボ・オン・チップ(lab−on−chip)双方の用途の生物学的および化学的プロセスにおいて特に重要な要求事項である。今日採用されている方法には機械的ふるい分けや沈降作用があるが、これらは通常、大きな粒子の分離に使用される。流体力学クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィおよび電気泳動等の技術によって、より小さな粒子を分離することができる。
【0003】
また、効率的な分離を行うために、半径方向または横方向の圧力勾配の現象を有利に利用しているものがある。
【0004】
大規模な浄水や採鉱/鉱物回収には、大容量、高スループット、高速処理能力が必要となる。現在の浄水方法では砂床や、所望の水質によっては膜フィルタを必要とする。鉱物処理システムに使用される螺旋濃縮器の設計では、螺旋状の樋によって重い鉱物が中央付近に沈降し、遠心力によって軽い粒子が外側へと追いやられ、遠くに運ばれる。トレイの断面は傾斜し、螺旋軸付近でより深くなる。
【0005】
別の重要な用途は生物兵器防衛で、この分野においては供給水における生物学的脅威を測定し、検出することが課題である。米国国防総省(DoD)は、生物兵器となりうる指定物質について求められる検出限界(LOD)の基準を定めている。特に、炭疽菌胞子に関するTri−Service Standardは100 cfus/Lであり、この基準はロジスティクス、時間、濃縮係数の面で難題をもたらす。あらゆる損失を無視すると、代表的な検出器の105 cfus/mLという感度では、濃縮係数106で少なくとも1000Lの水をスクリーニングしなければならない。大量の水をスクリーニングするための最も一般的な方法は、低分画分子量(MWCO)膜(一般に30KDa)でのタンジェンシャルフロー濾過(TFF)である。このような既製システムの販売元にはPall Filtration, Millipore, US Filterがある。この方法およびこれらの供給会社にとっての最大の問題は、膜から捕捉される病原菌の回収が低い収率で、面倒であることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4011068号明細書
【特許文献2】米国特許第4140632号明細書
【特許文献3】米国特許第4146468号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
流体内に浮遊する粒子を分離または濃縮するシステムにおいて、連続フローにより高スループットを実現する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願で開示する実施形態の1つの側面において、システムは、入とチャンバと出口とを有する第一の装置と、カスケード状の構成で逐次的に粒子を分離するように第一の装置の出口に連結された入とチャンバと出口とを有する第二の装置を有する。第一の装置は、入口で流体を受け、遠心力によってチャンバ内の流体の渦流の外側へと押し出された第一のサイズ範囲の粒子を捕捉し、流体と流体力学的圧力駆動力によって動かされた残余の粒子をチャンバから第一の装置の出口を通じて放出するように構成されている。同様に第二の装置は、入口で流体を受け、遠心力によってチャンバ内の流体の渦流の外側へと押し出された第二のサイズ範囲の粒子を捕捉し、流体と流体力学的圧力駆動力によって動かされた残余の粒子をチャンバから第二の装置の出口を通じて放出するように構成されている。さらに、第一の装置のチャンバは、第一のサイズ範囲の粒子を捕捉するために渦流の外側部分に配置され、選択的に開状態または閉状態にされる少なくとも一つの回収キャビティを有する。さらに、システムは、少なくとも第一の装置および第二の装置のそれぞれにおいて、渦流を発生させ維持するのに十分なレベルで流体の連続的フローの流速を維持するよう動作されるポンプを備える。
【0010】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、第二の装置のチャンバは、第二のサイズ範囲の粒子を捕捉するために、渦流の外側部分に配置され、選択的に開状態または閉状態にされる少なくとも一つの回収キャビティを有する。
【0012】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、第一の装置のチャンバには回収ウェルに続く第二の出口が備えられている。
【0013】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、第二の装置のチャンバには回収ウェルに続く第二の出口が備えられている。
【0014】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、第一のサイズ範囲の粒子は、第二のサイズ範囲の粒子より大きい。
【0015】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、第一と第二の装置は、流体の流速、各入口のチャネル幅、流体の粘性、個々のチャンバの曲率半径のうちの少なくとも1つに応じて動作するように調整されている。
【0016】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、システムはミクロスケールで粒子を処理するよう構成されている。
【0017】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、システムはマクロスケールで粒子を処理するよう構成されている。
【0018】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、システムは流体を受けるためのシステム入口と、各種のサイズの粒子を逐次的に分離するようカスケード状に配された複数の装置とを備え、各装置は流体を受けるための入口と、遠心力によってチャンバ内の流体の渦流の外側へと押し出された選択されたサイズ範囲の粒子を捕捉するためのチャンバと、流体と流体力学的圧力駆動力によって動かされた残余の粒子をチャンバから放出するための出口を備える。さらに、チャンバは、前記選択されたサイズ範囲の粒子を捕捉するために、前記渦流の外側部分に配置され、選択的に開状態または閉状態にされる少なくとも一つの回収キャビティを有する。システムはさらに、前記複数の装置のそれぞれにおいて前記渦流を発生させ維持するのに十分なレベルで前記流体の連続的フローの流速を維持するよう動作されるポンプを備える。
【0019】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、システムはさらにシステム出口を備える。
【0020】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、システム出口は、システム内の最後の装置にとっての出口として機能する。
【0021】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、システム入口とシステム出口が連結されている。
【0022】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、カスケード状に配された複数の装置は、粒子のサイズに応じて降順に粒子を逐次的に処理する。
【0023】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、装置は、流体の流速、個々の入口でのチャネル幅、流体の粘性、個々のチャンバの曲率半径のうちの少なくとも1つに応じて動作するように調整される。
【0024】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、システムはミクロスケールで粒子を処理するように構成されている。
【0025】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、システムはマクロスケールで粒子を処理するように構成されている。
【0026】
本願で開示する実施形態のさらに別の側面において、効率と選択性を高めるために、システムはカスケード状に配置され、閉ループで、あるいは複数の通路を使って動作される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態の原理に関する図である。
図2A】本発明の1つの実施形態を示す図である。
図2B】本発明の1つの実施形態を示す図である。
図3】本発明の1つの実施形態の特徴を示す図である。
図4】本発明の別の実施形態を示す図である。
図5】本発明のまた別の実施形態を示す図である
図6】本発明のさらに別の実施形態を示す図である。
図7図6に示す実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本願で開示する実施形態は、流体媒質中に浮遊する、生物学的作用物質(biological agent)をはじめとする粒子の分離と濃縮を扱う装置の分類に関する。現在この目的で使用されている、遠心分離、沈降分離、濾過等の方法は一般に、連続処理ではなく、バッチ処理を利用している。これらの処理は普通、これを支援する設備に比較的大きな投資を必要とする。本願で開示する実施例は、単純な渦形状を用いる連続処理と、付属的な流体の流速を採用した大きな動的サイズ範囲の粒子分離および/または濃縮を実現する。このような連続的で簡潔な濃縮工程は膜を必要とせず、非常に拡張性が高く、流体中の粒子のスクリーニングを高スループット、高分解能で行うように設計できる。
【0029】
本願で開示する実施例のマクロスケールでの応用例には、浄水と鉱物処理がある。また、本願で提案する渦形状は、小型ラボチップ全分析またはプロテオミクスのためのたんぱく質精製等のミクロスケール応用例にも特に適している。たとえば、従来のゲル電気泳動システムと比較すると、この装置では一括処理での天然たんぱく分離が桁違いに高速化される。
【0030】
本願で開示する実施形態では、生物学的作用物質を含む浮遊粒子を渦構造内で流動させ、この浮遊粒子に対して遠心力を作用させることにより粒子の分離および濃縮が可能になる。この遠心力は大きな粒子を押し出し、渦流の外側部分に沿って回収されるようにする。反対に、渦構造の中では、半径方向の流体力学的圧力低下も増幅され、小さな粒子を渦流の内側部分に向かわせるよう作用する。圧力により生じるこの力は、急峻な分画および粒子サイズ間のより高い分解能が得られるような大きさに到達しうる。したがって、分離された粒子の流れは、高い濃度と純度でもって回収できる。
【0031】
本願で開示する実施形態は、大容量、高スループット、高速浄水およびその他の大規模鉱物処理によって発生する問題を解決する。粒子は、流量に応じたチャネル形状の効果によって流体から分離できる。本願で開示する実施形態の別の利点は、広範囲の流体量からの連続的な粒子分離が実現できることである。これは、遠心分離やクロマトグラフィといった、リアルタイムの粒子回収が一般的に不可能な従来の技術と比較して、改良点である。
【0032】
本願で開示する実施形態の現象は、装置またはチャネルの湾曲部分にある粒子に作用するいくつかの力の相互作用に基づいており、この相互作用の結果として、粒子の制御可能な横方向への運動が起こされる。この現象は、粒子の操作を外部場に依存しない。このため、連続粒子分別機能は、装置の形状に応じて可能となる。小型であることと外部場が不要であることから、ラボ・オン・チップを用いた用途にとって非常に優れた方法といえる。
【0033】
これを説明するために、図1を参照すると、渦流チャンバ10の略図が示されている。もちろん、チャンバ10は、少なくとも1つの形態において、内部で流体の渦流(通常、約0.1m/sまたはそれ以上)を保持することができる後述のような装置によって画定されることがわかるであろう。渦流チャンバ10は、入口12と出口14を有する。図の例において、入口の幅は0.5mmで、出口の半径は0.2mmである。中央の丸いチャンバの半径は1mmである。もちろん、これらは例にすぎない。図のように、流体は入口から入り、(流体の速度が十分であれば)チャンバ内でチャンバの曲線に沿って時計回り方向に渦を巻き(渦流を作り)、出口14から出る。
【0034】
本願で開示する実施形態の大きな利点は、その拡張性である。したがって、本願で開示する実施形態の原理は、ミクロスケール(たとえば、サブミクロンサイズの粒子)でもマクロスケールでも応用できる。本願で開示する実施形態によれば、粒子分離の原理は、十分な速度の流体の渦流において発生し、互いに相対する力に基づいている。つまり、ある最低速度において、遠心力および圧力駆動力が渦流の中で発生され、渦状に流れる粒子に作用する。この点で、渦流チャンバ10は、大きな粒子を渦の外側に押し出す遠心力と、小さな粒子を渦の中央の出口14に向かって引き寄せる圧力駆動力に応じて、大きな粒子または小さな粒子を分離するよう調整できる。装置の調整に関して、これはさまざまな方法を使って実現できることがわかるであろう。たとえば、装置は、流体の流速、個々の入口のチャネル幅、流体の粘性または個々のチャンバの曲率半径に応じて動作するよう調整できる。したがって、これらおよびその他の要素を調節し、異なるサイズの粒子を分離するように装置を調整できる。たとえば、入口の寸法とチャンバの半径を使って流速を調節できる。流速はまた、システム内のポンプによっても調整できる。異なる粘性の異なる流体もまた、異なる速度で流れる。
【0035】
上記の力は、所与の条件下で以下のように表せることが理解できるであろう。
例としての条件
チャンバの半径(R)=0.0005m
流速(v)=0.2m/s
流体の濃度(ρ)=1050kg/m3
チャンバの圧力(P)=70Pa
遠心力
Fc=Mv2/R=4/3πr3pv2/R=107πr3p(m/s2)=105πr3(kg/m22
圧力駆動力
Fp=Pπr2=70πr2(Pa)=70πr2(kg/ms2
したがって、粒子の半径(r)=1.5×10-6mであると、
Fc=3.4π×10-13(kgm/s2),
Fp=1.6π×10-10(kgm/s2
【0036】
これは、少なくともこの例において、遠心力Fcと圧力駆動力Fpとの間に3桁の差があることを示している。したがって、実際に遭遇する、また使用する条件に応じて数値は異なるものの、これらの力は粒子の分離または濃縮に有利に利用できる。
【0037】
渦の特性に関する別の観察結果として、これらに限定されないが、以下のものがある。第一に、システム内で渦流を保持する最小限の流体速度を実現することが有利である。ある形態において、この流体速度はこの寸法のチャンバについて0.1m/sである。
【0038】
第二に、渦流チャンバの外側部分と内側部分の間の圧力低下は、チャンバの半径の寸法が大きくなると増大する。たとえば、チャンバのサイズが2mmの場合、圧力低下は約72Paである。チャンバのサイズが5mmの場合、圧力低下は約108Paである。チャンバのサイズが10mmの場合、圧力低下は約275Paである。しかしながら、分離を行うために、キャビティ半径全体を通じて圧力勾配を保持するべきである。この点に関して、十分な圧力勾配がないという点が、特定の従来の渦流装置が本願で開示する実施形態に適していない理由である。
【0039】
第三に、チャンバ内の粒子の動径方向速度は、チャンバの半径方向の寸法が大きくなると増大する。たとえば、チャンバのサイズが2mmであると、ピーク動径方向速度は約0.31m/sである。チャンバのサイズが5mmであると、ピーク動径方向速度は約0.38m/sである。チャンバのサイズが10mmであると、ピーク動径方向速度は約0.61m/sである。
【0040】
本願で開示する実施形態は、さまざまな方法、構成、環境で実施できると理解すべきである。1つの例として、このような装置のミクロスケールバージョンは、微細機械加工等の各種の手法を用いて、ポリカーボネートまたはプレキシグラス型等の色々な材料から製造できる。1つの形態で、使用される材料はシステム内の高い圧力に耐えられるように、容易に変形しない。装置は、ラボ・オン・チップ型環境において、他のコンポーネントと一体化できることが好都合である。サブミクロン(1ミクロン未満)の粒子を含むさまざまなサイズ範囲の粒子を分離または濃縮できる。
【0041】
次に、図2Aを参照すると、複数の渦流装置をカスケード状に配して、システム内でサイズの異なる粒子を次々に連続して分離することができる。もちろん、たとえば、このようなシステムを平行動作するよう構成してより大量の流体を扱えるようにできることが分かるであろう。また、用途により、1つの装置だけを使用してもよい。
【0042】
図のように、システム20は第一の渦流装置22と、第二の渦流装置24と、第三の渦流装置26と、第四の渦流装置28とを備える。各装置はチャンバ(それぞれ62,64,66,68)を備え、この中で流体の渦流が保持される。これらのチャンバの各々は入口(それぞれ32,34,36,38)と出口(それぞれ42,44,46,48)を有する。最初の装置(たとえば装置22)の入口は、本願で開示する実施形態によれば、システムの入口と考えてもよく、最後の装置(たとえば装置28)の出口はシステムの出口と考えてもよい。また、図では、分離後に渦の外側に流れる粒子を回収する回収キャビティ(それぞれ52,54,56,58)も示されている。もちろん、回収/分離のために渦の外側部分に移動しない粒子は、出口から後続の、つまり次の渦流チャンバへと放出され、さらに分離される。各チャンバは、前述のように、次々と粒子を分離するように調整できることがわかるであろう。さらに、図には、いろいろな場所に設置可能であるがこの形態では入口に設置されているポンプ30が示されている。ポンプ30は、システム内での流体の流れを起こし、十分な速さの流れを保持し、装置内で渦流を保持して粒子を分離することが理解されるであろう。適当であればどのようなポンプでもよい。たとえば、実装形態に応じて、再循環(recirculation)、シングルパス/単段ポンプ、あるいは多段ポンプが使用できる。また、複数のポンプを使用してもよい。本願で紹介するすべての実施形態におけるポンプは、システムに適した流体供給源(図示せず)に接続してもよく、また流体をシステムに供給するのは、他の適当な技術であってもよいことを理解すべきである。ポンプを使用した場合、渦現象を起こすのに重力は不要である。図2Bはシステム20の側面図である(ポンプ30はない)。
【0043】
回収キャビティに関して、図3(a)、図3(b)を参照すると、回収キャビティ(たとえば、回収キャビティ52等)が回転して回収キャビティを開閉するスリットまたは開口部(開口部55等)を有するスリーブ(スリーブ53等)を備えていることがわかる。これにより、本願で開示する渦流チャンバシステムの実装の設計と動作に柔軟性を持たせることができる。分離された粒子は、マイクロピペット方式でキャビティから回収できる。
【0044】
次に、図4を参照すると、さらに別の実施形態が示されている。この実施形態は図2A,2Bのものと同様であるが、回収キャビティが渦流チャンバの中または上にない。この点において、装置には単純に、回収ウェル(図示せず)に接続された回収ウェル用出口(それぞれ、72,74,76,78)が備えられている。回収ウェルはシステム全体に共通の回収ウェルでも、各渦流チャンバのための別々の回収ウェルでもよい。もちろん、適当な回収ウェルであればどれでも使用できる。ポンプ30も示されている。
【0045】
次に、図5を参照すると、さらにまた別の実施形態が示されている。この実施形態において、回収チャンバを有する4つの装置22,24,26,28がカスケード状に配置され、フィードバックライン100が最後の渦流装置28の出口48から最初の渦流装置22の入口32へと設けられている。ポンプ30もまた示されている。もちろん、これによって閉ループシステムが実現し、これを使って所与の体積の粒子を連続的に分離できる。ポンプは、閉システムのどこにでも取り付けることができ、さまざまな周知の方法で操作できる。複数の経路により、分離効率と選択性が高まる。図2A,2Bと図4に示されているシステムは、開ループシステムであることがわかるであろう。
【0046】
同様に、図6を参照すると、別の閉ループ型システム21が示されている。このシステムにおいて、フィードバックライン100の代わりに、4つの新たな装置102,104,106,108が設置され、2Dアレイを形成している。特に、装置108の出口92は、装置22の入口32に連結されている。ここでも、ポンプ30は閉システムのどこにでも取り付けられ、各種の有利な方法で操作できる。1つの形態において、だんだん小さいサイズの粒子が1つのチャンバを出て、次に続くチャンバに入る。したがって、第一の装置22の中に回収される粒子の半径は、相互にカスケード状に配された他の各々の装置により回収または分離される粒子より大きい。反対に、各チャンバ内の粒子の速度は、分離された粒子のサイズが小さくなると大きくなることが理解されるであろう。この実施形態は、高分解能の分離を行うために構成され、各チャンバが大きさと質量に基づいて混合物を単調な方法で分割するように機能する大型2Dアレイを表している。
【0047】
図7は、図6のシステム21の斜視図である。図のように、システム21は、より分子量が小さい粒子が個々の連続する装置によって分離されるように構成されている。
【0048】
各種の実施形態を本願で提案した。これらの実施形態の動作に関連して、少なくとも1つの形態において、システム内の流体の流れはポンプによって起こされることが明らかである。流速は、カスケード状に配置された装置の各々(実際にカスケード状に配置されている場合)(あるいは1つの装置だけが使用されている場合は1つの装置)の中で渦流を発生させ、保持するのに十分なレベルに保持される。渦現象の結果、粒子は、各装置において、工程と装置に与えられた特性にしたがって分離される。前述のように、異なるサイズ範囲の粒子は、異なる装置で分離される。したがって、流体は1つの装置から次の装置に流れる。各装置または段階において、異なるサイズ範囲の粒子が流体から取り除かれ、残った粒子が次の装置または段階へと受け渡される。システムは、各段階でだんだん小さな粒子を取り除くように調整できる。さらに、閉システムにおいては、粒子が再循環される。
【0049】
本願で開示する実施形態を運用した場合、少なくとも次の有利な利点を有するシステムが得られる。
他の外部から作用する場を利用することなく、選択可能な粒子サイズ(サブマイクロメートル以上)の分画とサンプル体積(マイクロミリリットル以上)で、連続した流れ、高スループットの分離と濃縮が可能。
所望の粒子サイズ範囲のための動作を調整するのに、流速、チャネル幅、粘性、曲率半径だけを使用すればよい。
メンブラン(膜)が不要なシステムが実現され、バックフラッシュのほか、面倒で収率の低い回収を必要とする従来のメンブラン方式を避けることが可能。
断面の異なる流れを利用できるモジュール式プラスチックデザインは低コストで、使い捨てに向く。
あるサイズ範囲のすべての粒子を、除去し、キャビティ内に回収し、または捕捉用出口から流すことが可能。
マクロスケールからミクロスケール(LOC)動作に本来的に拡張可能。
同一チップ上のルーティングおよび感知機能と統合可能。
タンジェンシャルフロー濾過(TFF)システムへのフロントエンドと統合し、TFFの性能を増大させることが可能。
より細かい区別のために連続的に段階上に配置し、あるいはより高いスループットのために平行に配置することが可能。
【0050】
上記およびその他のさまざまな特徴と機能あるいはその変形は、多くの他の異なるシステムまたは用途と組み合わされることが好ましいことがわかるであろう。また、当業者により、現在は予測または予想できない変更、改造、改変または改良が今後行われるかもしれず、これらも特許請求の範囲により包含されるものとする。
【符号の説明】
【0051】
10,62,64,66,68 渦流チャンバ、12,32,34,36,38 入口、14,42,44,46,48,92 出口、20,21 システム、22,24,26,28,102,104,106,108 渦流装置、30 ポンプ、52,54,56,58 回収キャビティ、53 スリーブ、55 開口部、72,74,76,78 回収ウェル用出口、100 フィードバックライン。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7