(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光学作用部材は、前記障害物に対して任意に取り付け取り外し自在に固定されることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の位置・姿勢推定可能な移動体システム。
自律移動ロボットが移動する動作領域内に配置された棚や壁などの障害物に対する自らの現在位置及び姿勢を推定し、障害物を回避して目的地まで自律移動する自律移動ロボットシステムであって、
前記自律移動ロボットは、
駆動手段を備えた移動機構部と、該移動機構部を制御する移動機構制御部と、所定の高さで且つ所定角度の範囲で前記障害物に向けてレーザ光を照射し、当該障害物の端面からの反射光を受光する距離センサ部と、当該障害物の端面輪郭線上の反射地点までの角度ごとの距離を計測する距離センサ制御部と、該距離センサ制御部によって計測した角度ごとの距離データの集合から、現在の自律移動ロボットの位置を原点とした周囲の障害物の端面輪郭線の配置形状を幾何形状データとして演算する幾何形状データ作成部とを備えており、
さらに、自律移動ロボットが移動する動作領域の前記障害物の配置の地図情報を障害物の端面輪郭線データとして蓄積している地図データ蓄積部と、自律移動ロボットが移動する移動経路の経路グラフデータを蓄積している経路グラフデータ蓄積部と、
前記地図データ蓄積部に蓄積されている障害物の端面輪郭線データと前記幾何形状データ作成部によって得られた幾何形状データとを比較照合して自律移動ロボットの位置・姿勢を推定する位置・姿勢推定部と、前記位置・姿勢推定部によって推定された現在位置及び姿勢と、前記経路グラフデータに基づいて自律移動ロボットの次の移動目標位置を設定する経路計画部とを備え、
前記障害物のレーザ光照射面の一部に、照射レーザの反射光を偏向または吸収して反射光が前記距離センサ部に戻らないようにする光学作用部材を設け、
前記移動機構制御部は、
前記経路計画部によって設定した移動目標位置に向かって自律移動ロボットを移動させるように前記移動機構部を制御し、
前記幾何形状データ作成部は、
前記自律移動ロボットの位置・姿勢の推定の際に、前記光学作用部材の配置位置を含んだ幾何形状データを生成する
ことを特徴とする位置・姿勢推定可能な自律移動ロボットシステム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の自律移動システムの実施の形態について詳細に説明する。なお、以降の実施例において、移動体としては自律移動ロボットを具体的な実施例として説明するが、これにより、本発明が自律移動体或いは自律移動ロボットにのみ適用されることを意味するものではない。
【0015】
図1は、例えば、予め設定した工場内などの移動経路を移動する自律移動ロボットの機能構成の概略を示すブロック図である。10は自律移動ロボットである。自律移動ロボット10は、その移動動作の制御を行うコントローラ部11と、レーザ光を周囲に照射して障害物や壁からの反射光により反射点までの角度ごとの距離(θ,l)を計測することができる距離センサ部12と、自律移動ロボット10の駆動手段(特に図示なし)を備えた移動機構部13から構成される。コントローラ部11は、自律移動ロボット10が移動する動作領域内に配置された障害物や壁の地図情報を予め格納する地図データ蓄積部15と、地図データ蓄積部15に格納された地図情報に応じた自律移動ロボット10の移動経路を格納する経路グラフデータ蓄積部17と、本発明の特徴である光学作用部材の位置データを格納した光学作用部材位置データ蓄積部20とを備える。この光学作用部材の構造と機能の詳細は後述するが、障害物や壁等に配置して、実際に配置された障害物や壁の地図情報データに比較して新たな地図情報データを生成するものである。ここで、距離センサ部12は、自律移動ロボット10の所定の高さに設けられており、少なくとも前方から左右90度、合計180度の範囲にレーザを照射する。
【0016】
コントローラ部11は、距離センサ制御部13と、幾何形状データ作成部25と、位置・姿勢推定部14と、経路計画部16と、移動機構制御部18とからなり、データとしては、地図データ
M、幾何形状データ
F及び経路グラフデータ
Rを設けている。距離センサ制御部13は、距離センサ部12によって照射地点(レーザ発光部)から反射地点までの角度ごとの距離を当該反射地点の座標データ(θ,l)として取り込む。幾何形状データ作成部25は、距離センサ部13によって検出した各反射地点の座標データ(θ,l)の集合から、その位置・姿勢での自律移動ロボットを原点とした周囲の障害物または壁等の配置状態の輪郭線の形状(レーザ照射光の反射地点の連続により構成される。以降、幾何形状という)を幾何形状データ
F(x,y)として演算し、一時記憶しておく。なお、反射地点の座標データ(θ,l)から幾何形状データ
F(x,y)への変換の詳細は後述する。位置・姿勢推定部14は、一時記憶された幾何形状データ
Fと地図データ蓄積部15内の地図
データMとを照合して、自律移動ロボット10の地図上の位置・姿勢を推定する。自律移動ロボット10の地図上の位置・姿勢を推定されると、経路計画部16は、経路グラフデータ蓄積部17内に格納された移動経路
たる経路グラフデータRから自律移動ロボット10の次の目標地点を選択して決定する。決定された移動経路に従って移動機構部19を制御し、自律移動ロボット10を次の目標地点に誘導する。
【0017】
図2は、
図1に示す自律移動ロボット10の機能を実現するためのハードウェア及びソフトウェア構成を示している。自律移動ロボット10のコントローラ部11には、プロセッサ21とメモリ22及び記憶装置23を備えている。記憶装置23にはオペレーティングシステム(OS)23a、コントローラ初期化プログラム23b、レーザ距離センサ制御プログラム23c、位置・姿勢推定プログラム23d、経路計画プログラム23e、移動機構制御プログラム23fを備え、更に地図
データMを蓄積する地図データ蓄積部15及び移動経路を蓄積する経路グラフデータ蓄積部17を備えている。これらのプログラム及びデータを記憶蓄積する媒体は一つで構成しても複数で構成しても良い。コントローラ部11は、各プログラム23a〜fを記憶装置23から読み出し、メモリ22に展開し、プロセッサ11によって各プログラム23a〜fを実行する。各プログラムは、必要に応じてディスプレイ24にてユーザに目的地の設定等の入力を促し、キーボード又はマウス等の入力機器27からの入力データ、距離センサ部12から得られた種々のデータ、該距離センサ部12により取得したデータに基づいて演算された幾何形状データ、地図データ蓄積部15に蓄積された地図
データM、地図
データM上に対応付けられた光学作用部材の位置情報、経路グラフデータ蓄積部17に蓄積された
経路グラフデータR等に基づき、移動機構部19の制御を行う。なお、光学作用部材の位置情報は入力機器27により入力される。
【0018】
図3は、自律移動ロボット10の距離センサ部12によって前方180°の範囲に照射したレーザ光によって進行方向周辺の動作領域の幾何形状データ
F(図中ハッチングF部分)を取得する例を示している。図中の30は、自律移動ロボット10の移動可能な動作領域であり、32は、自律移動ロボット10の移動経路となり得ない壁や戸棚や工作機械等の障害物を示す。31は、障害物32の端面輪郭線(全ての障害物32の端面輪郭線に符号を付してはいない)であり、地図情報を構成する障害物の幾何形状データを構成する。距離センサ部12は、自律移動ロボット10の正面から左右90度の範囲に、指向性の良いレーザ光を照射する。レーザ光は壁などの障害物32の端面輪郭線31によって反射され、その反射光を同じ距離センサ部12によって受光し、反射地点までの角度ごとの距離(θ,l)を取得する。図中のFは、位置・姿勢がP1の自律移動ロボット10からレーザ光を照射して反射してきたエリアを示しており、これがP1の位置・姿勢での幾何形状データとなる。この幾何形状データFにおける破線34の部分は、障害物32によるレーザ光の反射地点を示している。一方、幾何形状データFにおける枠付き破線35の部分は、レーザ光を吸収したり、異方向に反射したりして距離センサ部12に向かう反射光を抑制する部材が配置された位置を示しているものであり、本発明においては、その部材を光学作用部材と称する。
【0019】
そこで、先に、光学作用部材の構成について説明する。
図4は、
図3の光学作用部材35の詳細な構成を示す斜視図である。
図4(a)及び(b)に示す35aは、障害物32上に貼着等で取り付けられる光学作用部材35の形状の一例であり、平板状に形成され、その表面には低反射性の被膜36が形成されている。ここでの低反射性の被膜は黒色のフェルト、ウレタン等が用いたが、その材質等は適宜選択すればよい。光学作用部材35aは、障害物32のレーザが照射される高さに所定の長さ寸法をもって取り付けられる。この取り付け位置は、床面から距離センサ部12の高さに応じた距離を離して適宜手段によって固定される。それにより、
図4(b)に示すように、距離センサ部12から光学作用部材35aに向けて照射されたレーザ光Bの多くは吸収され、例えば
図5(b)に示すように、距離センサ部12に反射する反射光が抑制される。この構造によれば、平板状であるため、障害物32から突出することなく取り付けることができ、自律移動ロボット10の移動の障害となることもない。
【0020】
図4(c)及び(d)に示す35bは、光学作用部材35の形状の別の例であり、断面を略三角形状に形成し、光学作用部材35aと同様に低反射性の被膜36が形成されたものである。平板状である光学作用部材35aと比べて、光学作用部材35bは障害物32に垂直方向にやや突出しているものの、
図4(d)に示すように距離センサ部12から照射されたレーザ光を吸収し、さらに吸収しきれなかったとしても、レーザ光を上下に分散することができる。これによって
図5(c)に示すように、光学作用部材35aと比較してレーザ光の反射を更に抑制することができる。
【0021】
図6は、
図4(c)(d)に示す光学作用部材と外観は似ているが構造が異なり、反射点となる部分に鏡面処理を施した光学作用部材を示している。
図6(a)及び(b)は反射光を上方に屈曲させる構成を備えた光学作用部材35cである。
図6(a)及び(b)に示すように、光学作用部材35cの断面を直角三角形にし、その斜辺部に鏡面処理38を施す。この構成によって、レーザ光を上方に屈曲させることができ、レーザ光の反射光が距離センサ部12に向かうことを抑制することができる。
図6(c)及び(d)は、光学作用部材35を直角三角形もしくは二等辺三角形状に形成して鏡面処理38を施した光学作用部材35dの底辺を壁面等の障害物32に設置し、頂角部分をレーザ光の照射方向へと向けるよう取り付けた状態を示す。
図6(a)及び(b)に示す光学作用部材35dが上方に向けてレーザ光を反射するのに対し、
図6(c)及び(d)の構成は、光学作用部材35dの頂角を境にレーザ光を上下に分散させて反射させる。この構成によれば、レーザ光を反射させるために迫り出した光学作用部材35dの高さを、
図6(a)及び(b)に示す光学作用部材35cの形状よりも低くすることができ、自律移動ロボット10の移動の障害減少が望める。なお、光学作用部材35の鉛直方向の幅は、レーザ距離センサからのスポット光の広がり方と、想定されるロボット・光学作用部材間の距離をもとに決めることができる。
【0022】
以上のような光学作用部材35を用いた自律移動ロボット10の位置・姿勢推定可能な自律移動システムによれば、従来のランドマークとしてのマーカーのように高い精度で取り付ける必要もなく、光学作用部材35を距離センサ部12の高さに応じて取り付ければよく、自由にランダムに配置することができ、取り付けに係るコストを抑制することができる。また、光学作用部材35は、地図データ
M上の障害物32の幾何形状データを変更するものではあるが、幾何形状データFと地図データ
Mとの照合の際にマーカーの座標の設定登録やマーカーの識別方法などのプログラムを必要とせず、従前の自律移動ロボット10の各種プログラム、特に位置・姿勢推定プログラム23dによって実現させることが可能であり、位置・姿勢の推測が容易な自律移動ロボット10を安価に製造することができる。
【0023】
次に、本発明の光学作用部材を配置した自律移動ロボット10による位置・姿勢の推定を行う前段階として、光学作用部材の配置位置を地図データ
Mに対応付けて生成する必要があるので、光学作用部材の配置位置データの生成について説明する。
【0024】
図5は、自律移動ロボット10の距離センサ部12からのレーザ光が障害物32、あるいは障害物に設置した光学作用部材に照射された状態を示しており、(a)は通常の障害物或いは壁面32に照射した状態、(b)は平板状の光学作用部材に照射した状態、(c)は三角柱状の光学作用部材に照射した状態をそれぞれ示ている。これにより、
図5(a)の場合は、距離センサ部12からの反射光が帰ってきているが、
図5(b)及び(c)の場合は、反射光が帰ってきていない。つまり、
図5(b)及び(c)の場合は、障害物32が検知されない状態と同じ状態を作り上げたことになる。これが、光学作用部材35の主要な機能である。
【0025】
ここで、
図3により、光学作用部材の配置位置データの生成について説明する。
図3においては、光学作用部材35(枠付き破線で表示)が障害物32の端面輪郭線上に2箇所配置されている。
図3において、自律移動ロボット10は動作領域内で障害物に衝突しないように形成させている経路40上を自らの位置・姿勢を推測しながら自立的に移動する。経路40は、レールやテープ等により物理的に配置されているものを排除するものではないが、本発明においては自律移動ロボット10のコントロール部11内の経路グラフデータ
Rとして格納されているものである。本システムの管理者は、予め、光学作用部材35を障害物32の端面輪郭線上の適宜箇所に適当数取り付ける。この光学作用部材35を取り付ける際には、高さはレーザが照射される高さに合わせる必要があるが、その位置と個数は適宜決定すればよい。このように、所定の光学作用部材35を障害物32の端面輪郭線上の適宜取り付けた後、システム管理者は、自律移動ロボット10の距離センサ部12を動作させながら、経路40に沿って移動させる。自律移動ロボット10の移動に伴い、距離センサ部12からは継続的に角度ごとの距離データ(θ,l)として得られる。
【0026】
図7は、
図3のP1の位置・姿勢にある自律移動ロボット10の距離センサ部12により得られた距離データに基づいて演算された幾何形状データFのみを抜き出して図示したものである。つまり、自律移動ロボット10の距離センサ部12は、P1の位置・姿勢においてレーザ光を照射し、その反射光を受光し、レーザ光の照射範囲(自律移動ロボット10正面から左右90度、即ち180度の範囲)において、距離センサ部12からの角度(例えば自律移動ロボット10の真正面を基準(0度:矢印)としてのθ)ごとに、照射地点と反射地点を結んだ線分の距離(図中一点鎖線でlの距離)を検知して距離データ(
θ,l)の集合を得る。このようにして得た距離データ(
θ,l)の集合は、自律移動ロボット10の位置・姿勢P1を原点とした極座標データとして扱うことができる。このような角度ごとの距離データ(
θ,l)の集合においても十分に幾何形状データとして扱えないものではないが、最終的には地図データと比較照合を取るために、極座標データとしての角度ごとの距離データ(
θ,l)の集合を地図データ
Mと同じ直交座標(x,y)に変換して扱うのが好ましい。それは、自律移動ロボット10の位置・姿勢P1を原点とした直交座標系(X,Y)で表される。このような位置・姿勢P1を原点とした自律移動ロボット10の周囲180度の範囲で反射地点の位置データ(x,y)の集合を、本発明においては幾何形状データFと称呼する。
【0027】
図7の幾何形状データFは、幾何形状データを目視可能に表現したものであるが、実際は上述の通り反射地点の位置データ(x,y)の集合である。
図4の幾何形状データFの破線
にて示す反射地点34は、反射光の返って来た反射地点の位置データをどっと単位で示しているものであり、反射光が返って来たということは、そこに障害物32の端面輪郭部分31が存在することを意味している。幾何形状データFの
反射地点34以外の部分は反射光の返って来ていない部分である。その内、枠で囲んだ破線の部分35は、自律移動ロボット10としては、この時点では、反射光が検知されていない部分としか認識されていない。そこで、この枠で囲んだ破線の部分35は、光学作用部材の設けられている部分であるとして、システム管理者が入力機器27より、その属性を入力する。これにより、この枠で囲んだ破線の部分35は、地図データに対応して、光学作用部材の設けられている部分、つまり光学作用部材の位置データ20として記憶がなされる。
【0028】
次に、本発明の光学作用部材を配置した動作領域内を移動する自律移動ロボット10による位置・姿勢推定の具体的な手順を説明する。
【0029】
図7の幾何形状データFは、光学作用部材の位置データ20の生成の場合と同じ図により説明をする。今、
図3においてP1の位置・姿勢にある自律移動ロボット10の距離センサ部12により幾何形状データFが得られたとする。そして、その幾何形状データFのみを抜き出して図示したものが
図7である。ここで、自律移動ロボット10の距離センサ部12により得られるデータは、P1の位置・姿勢を原点として、P1からレーザ光を照射してその反射光を受光し、レーザ光の照射範囲(自律移動ロボット10正面から左右90度、即ち180度の範囲)において、角度(例えば自律移動ロボット10の真正面を基準(0度:矢印)として)ごとの、距離センサ部12から反射地点を結んだ線分の距離(図中一点鎖線のl)を検知して距離データ(
θ,l)を得る。このようにして、自律移動ロボット10の周囲180度の範囲で角度ごとの反射地点までの線分の距離の集合データを得、本発明においては幾何形状データFと称呼する。
【0030】
次いで、この自律移動ロボット10の周囲180度の範囲で角度ごとの反射地点までの線分の距離の集合データに基づき、自律移動ロボット10の原点位置・姿勢P1として特定の位置と姿勢を選択する。これは一般的には全ての動作領域内から一つの位置・姿勢を選択するものではなく、移動してきた履歴データを参考にしながら目標地点での自律移動ロボット10の位置・姿勢を選択するのが効率的である。このように、位置・姿勢P1における自律移動ロボット10の周囲180度の範囲で角度ごとの反射地点までの線分の距離の集合データにおいて、自律移動ロボット10の位置・姿勢P1の原点位置・姿勢を特定のデータを選択すれば、その原点からの角度と距離の分かった反射地点の位置データ(x,y)は演算により求めることができる。これが、
図7において示されている幾何形状データFであり、幾何形状データを目視可能に表現したものであるが、実際は上述の通り反射地点の位置データ(x,y)の集合である。ここで、幾何形状データFの
反射地点34は、反射光の返って来た障害物32等の端面の輪郭線部分31であり、他の部分は反射光の返って来ていない部分である。その内、幾何形状データFの枠で囲んだ破線部分35は、本発明の主要な特徴である光学作用部材の取り付けられている部分であるが、この部分からは反射光が検知されていない。しかしながら、それだけで直ちにターン生成部材の配置されている部分であるとの認識がされるものではない。この時点では、反射光が戻ってきていない(反射光が得られていない)としても、距離センサの計測レンジを超えていることと光学作用部材が取り付けられていることとの区別はできていない。
【0031】
続いて、自律移動ロボット10は、上述の幾何形状データFと地図データ蓄積部15に予め格納されている地図
データMとのマッチング処理を行う。マッチング処理は、
図8に示すように、地図データ蓄積部15に格納されている地図情報M(障害物等の端面輪郭線の位置データ(x,y)の集合)と、測定により得られた位置・姿勢における自律移動ロボット10が得た幾何形状データF(自律移動ロボット10の位置・姿勢を特定して検知した反射地点の位置データ(x,y)の集合)とを、自律移動ロボット10の位置・姿勢がP2ではないかと仮定した上で比較することにより行う。つまり、地図データ蓄積部15に格納されている壁や棚などの障害物データ32の端面輪郭線の集合位置データからなる地図
データMと、幾何形状データFの反射光が返って来た反射地点(破線部分34)の集合位置データが重なるか否かを比較して行う。そのマッチング処理を、模式的に
図8の引き出し部分で表している。
図8の引き出し図は、ビット単位でデータの比較照合を行っている状態を表したものであり、31は、地図情報の障害物32の端面輪郭線31を表し、35は、光学作用部材が取り付けられた部分(反射光が帰って来ていない部分)を表している。この光学作用部材は、システム管理者により設置されたものであるので、予め地図データ
Mと関連づけて光学作用部材の位置情報を記憶しておくことが可能である。それにより、この格納された光学作用部材の位置情報と合致した反射光が帰って来ていない部分は光学作用部材が取り付けられた部分として合致したと認識することができる。34は、幾何形状データFの反射光が返って来た部分
反射地点を示しており、地図データ
M上の障害物等の端面輪郭線との一致度が比較される。
図5の引き出し図には、地図情報としての障害物32の端面輪郭線31の位置データと、幾何形状データF上の反射光が返って来た部分
である反射地点34の位置データとは一致しておらず、この幾何形状データ
F上の反射地点34が示す自律移動ロボット10の位置・姿勢P2は、現実の位置・姿勢ではないと推定される。このマッチング処理を所定の手順に沿って自律移動ロボット10の位置を選択しつつ行い、正しい位置・姿勢を探索する。このマッチング処理における比較の結果、100%の一致が理想ではあるが、ノイズ等を考えれば完全一致ということは稀である。それで、予め所定の閾値を設定し、その閾値よりも一致度の高い幾何形状データを真の位置・姿勢の候補として選択する。
【0032】
上記のようなマッチングをあらゆる位置・姿勢(位置をずらし、角度を変える)において行い、
図9に示すように地図データ
Mの障害物32の端面輪郭線データと幾何形状データFの反射
地点34のデータの各々の画素の重なる点の数を得て、その重なる数を最大となるようにする位置・姿勢において、自律移動ロボット10は自装置の現在の位置・姿勢がPであると推定することができる。言い換えるならば、例えば、障害物データ32と幾何形状データFの反射
地点34との「重なり具合」を位置・姿勢の探索の判定基準とするものである。一般的には、距離センサ部から得られる距離データ、角度、及び、反射地点座標には、所謂ノイズ、雑音成分が含まれるものであり、位置・姿勢の探索で、対応するデータ同士の画素の完全一致による判定は、必ずしも最適とは言えない。従って、これらのことを考慮して、「重なり具合」若しくは「一致度(一致する度合い)」を位置・姿勢の探索での判定の基準(閾値)とすることが望ましい。これらを踏まえると、障害物データ32と幾何形状データ
Fの反射地点34との一致度が高い方の位置を、自律移動体10の自装置の現在位置であると推定できるものである。以上のような方法にて、距離センサ部12が照射するレーザ光によって得られる幾何形状データ
Fの反射地点34と、地図データ
M上の障害物データ32をマッチングさせることで、自律移動ロボット10は自身が地図上のどこにいるのかを推定することが可能となる。なお、
図8、
図9の実施例では、地図データと幾何形状データは、画素単位のデータとして扱われる画像データとして表現、例示している。
【0033】
図7乃至
図9に示す幾何形状データFと地図データ
Mとのマッチングによる現在位置・姿勢推定動作のフローについて、
図10に基づいて詳述する。自律移動ロボット10の自立移動時の現在位置・姿勢の推定処理に際し、コントローラ初期化プログラム23bは、OS23a、レーザ距離センサ制御プログラム23c、位置・姿勢推定プログラム23d、経路計画プログラム23e及び移動機構制御プログラム23fの起動をおこないシステムの初期化を行う(701)。
【0034】
初期化が終了したら位置・姿勢推定プログラム23dを起動し、目的地の設定をユーザに促す(702)。目的地の設定を行わないのであれば(702No)、位置・姿勢推定プログラム23dを終了する。目的地の設定を行う場合(702Yes)は、設定画面を表示するなどし、ユーザに目的地の設定させる(703)。目的地の設定を終了したら、地図データ蓄積部15から自律移動ロボット10が稼動する場所の地図データ
Mを取得する(704)。次に、取得した地図データ
Mと共に、設定した目的地に応じて、経路グラフデータ蓄積部17から自律移動ロボット10の移動経路たる経路グラフデータ
Rを取得する(705)。続いて、距離センサ部12によって、レーザ距離センサ制御プログラム23cが、レーザ光の反射位置までの角度ごとの距離データ(θ,l)を取得する(706)。
【0035】
次に、得られた角度ごとの距離データを位置・姿勢推定プログラム23dによって幾何形状データに演算加工し(707)、この幾何形状データFと地図データ
Mを上述の
図7乃至
図9のようにマッチング処理し、最も合致する割合の高い位置・姿勢を自律移動ロボット10の現在位置・姿勢として推定する(708)。現在位置が目的地であるか否かを判断し(709)、現在位置が目的地である場合(709Yes)は、ステップ702に戻り、現在位置が最終的な目的地とは異なる場合(709No)は、経路グラフデータ16に基づいて、経路上に存在する次の目標地点を選定し、当該地点までの局所的経路計画を作成し(710)、移動機構を制御して自律移動ロボット10を局所的経路計画に従って自律移動させる(710)。局所的経路計画に沿った自律移動の終了を受けて、再度ステップ706から処理を続行する。自律移動ロボット10はこのようにして、目的地入力後に位置推定と移動を繰り返し、最終的な目的地に到達することを実現する。ここで、局所的経路計画とは、推定によって得られた現在の位置・姿勢から目標の経路に沿って移動するために、経路上のどの位置を目標位置とするか、また、その目標位置に向かうために車輪をどのくらいの速さで回転させるか、あるいはステアリングをどう切るかを算出することを局所的経路計画と称している。つまり、一定距離進む、現在地推定、現在地確定、一定距離進むを繰り返すという一連の動作全体を指しているものではなく、現在位置推定した後、経路に沿って移動するための車輪の回転速度等の算出、車輪の回転制御の実施(これにより一定距離進む)等がここでの一連の動作の流れになる。
【0036】
図7乃至
図9に示すような地図であれば、その幾何的特徴が比較的複雑であり、レーザ光の反射によって得られる
反射地点34も結果として幾何学的特徴のある複雑な形状となり、
図10に示す手順によって地図データ
M上の障害物データ32とのマッチング処理によって自律移動ロボット10の位置・姿勢を一意的に推定し、目的地に到達することは比較的容易である。しかしながら、場所によっては幾何的特徴が少なく、レーザ光の反射によって得られる幾何形状データ
である反射地点34が複数の場所によって実質的に同一となるようなケースも珍しくない。このような場合には、本発明の光学作用部材35が大いに威力を発揮する。光学作用部材35により、レーザ光の反射による戻りを抑制或いは吸収することで、光学作用部材35の存在が幾何的特徴を生み出すことになり、幾何的特徴の少ない場所(本発明においては「線路環境」とも称している)であっても、自律移動ロボット10の位置・姿勢を一意的に特定することができる。光学作用部材35とは、幾何形状データ34を得るために、壁や棚等の障害物32上に取り付けられる部材のことである。
【0037】
自律移動ロボット10が幾何的特徴に乏しい、例えば、一直線上の廊下のような場所(線路環境)を移動する場合における、光学作用部材35の機能について、
図11に基づいて説明する。
図11(a)は窓もない直線状の通路を自律移動ロボット10が移動する状況を示している。この状況において、距離センサ部12からレーザ光を真正面から左右90度の範囲で照射した場合には、同図に示すように、左右の壁に途切れることなく連続してレーザ光が反射され、照射限度一杯まで反射地点34が生じることになる。この場合、
図9(b)に示すように、地点Cの位置・姿勢での自律移動ロボット10の距離センサ部12からのレーザ光の幾何形状データ34cと、地点Dの位置・姿勢での自律移動ロボット10の距離センサ部12からのレーザ光の幾何形状データ34dは同一となり(図では少しずらして描いている)、地図データMの障害物データ32と幾何形状データ34c又は34dを比較しても相違がなく、自律移動ロボット10は、自らの位置・姿勢を推定することができなくなる。別の例として、
図12のような螺旋形状の壁面からなる線路環境も考慮する必要がある。また、
図13の規則的に配置された一定形状の棚等の障害物の配置も考慮する必要がある。このような幾何形状に特徴がない場合には、地点Gと地点H(
図12)又は地点Eと地点F(
図13)において、自律移動ロボット10が得る幾何形状データ34gと34h(勿論、その途中の幾何形状データも同一のものとなる)及び34eと34fは各々が同一形状となる。従って、自律移動ロボット10は、地図データMの障害物データ32と各々のケースでの幾何形状データを比較しても、自装置の位置・姿勢が何れか判別することができない。
【0038】
このような線路環境における幾何形状データの同一化を防ぐためには、
図9(c)に示すように、光学作用部材35を壁面に取り付ければよい。光学作用部材35の取り付けの位置や長さは同一の幾何形状データが何れの場所においても生じないようにランダムに配置することが好ましい。これによって、
図9(d)に示すように、幾何的特徴のない線路環境の移動経路であっても、距離センサ部12がレーザ光を照射して生じる幾何形状データに、ランダムに光の反射がない部分35を形成することができ、特徴のある幾何形状データを生成することが可能となる。
【0039】
ここで、上記線路環境におけるマッチング処理における別の処理について、
図14に基づいて説明する。
図14(a)は、厚みのある衝立である障害物32が設置された環境において、障害物32の壁を検知しながら移動中の自律移動ロボット10を示しており、
図8(b)は、
図8(a)の検知の結果の幾何形状データに基づいて、地図データ上の障害物32の端面輪郭線32と幾何形状データ34のマッチング処理の際の一例を示している。
図8(a)の衝立は、図における上部と下部のそれぞれが自律移動ロボット10の稼動範囲であり、衝立である障害物32は、
図8(b)に示すように厚みのある2本の端面輪郭線31にて表現される。このような環境において、特段の考慮なく上述の手順にてマッチングすると、自律移動ロボット10は、例えば、位置αにいるのか位置βにいるのか判別が出来なくなるケースが発生する。その際には、幾何形状データ34とレーザ光照射地点たる距離センサ部12を結んだ線分12aが障害物32の端面輪郭線データ31と交差するか否かを判別する。例えば、
図8(b)及び(c)に示すように位置βにおいては、幾何形状データ34とレーザ光照射地点たる距離センサ部12を結んだ線分12aが障害物32の端面輪郭線データ31交差するのに対し、位置αにおいては交差しない。この場合、自律移動ロボット10は自装置の位置はβにはないと判別する。このような例外処理によって、自律移動ロボット10の自装置の位置推定をより正確に行うことができる。
【0040】
図15は、光学作用部材35を適用した際のゴースト処理の手法を示しており、以上の実施例と同一の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。自律移動ロボット10の移動経路となる環境に光学作用部材35として鏡面を適用した場合には、時として、棚や床、天井、また歩行者や自律移動ロボット10自身によってレーザ光が反射し、距離センサ部12はゴーストと呼ばれる実体の伴わない物体を認識することが考えられる。
【0041】
ここで、ゴーストは、ロボットがスキャンした際に、「鏡による」光学作用部材35で反射されたレーザがロボットそのものや天井・床面に照射されることで、実際の環境とは異なる幾何形状データの一部を指す。このゴーストは2種類あり、1つは地図データに、1つは幾何形状データに含まれる。地図データは予め、環境をスキャンして得た幾何形状データをマッチングしていくことで作られるが、このときに1フレームあたりの幾何形状データに含まれるゴーストがそのまま地図データに書き込まれていくと結果的に地図データにゴーストが残ることとなる。幾何形状データにおいては、幾何形状データのうち、光学作用部材35にレーザが当たった部分のデータのみがゴーストとなる。なお、ゴーストは厳密には図示したように線路環境に平行な線としては表れないが、近似的に平行な線とみなせる。
【0042】
このようなゴーストが発生するケースにおいても、自律移動ロボット10の現在位置推定を正確に行う手順について説明する。50は、ゴーストによって自律移動ロボット10が得た幾何形状データを示している。
図15(a)は、実際の移動環境を示している。この状態において得られた幾何形状データ34を地図データ
Mとマッチングし、上述の手順にて現在位置を推定する。ゴースト50は実際の地図データ
Mとマッチングした際、
図10に示すフローチャートに基づき、障害物データ32と合致するところは存在しないが、最も合致する箇所を現在位置として推定する。この状態を
図15(b)に示す。自律移動ロボット10はこの時点においてもゴースト50が実体を伴わない幾何形状データであることは判別できていない。地図データ
Mに、障害物データ32とは別に光学作用部材35の位置情報を設定することで、このゴースト50を判別することが可能となる。
【0043】
幾何形状データとしてゴースト50aが得られ、
図15(b)に示すようにマッチングがなされた場合、幾何形状データ34とゴースト50を区別して認識するための手順を説明する。
【0044】
ゴースト50は、以上のような手順にて特定される。
1. レーザを照射し、距離データから幾何形状データを取得する。幾何形状データのうち、どれが正しく障害物から反射されたものであり、どれがゴーストかは、この時点の位置・姿勢推定部の推定処理においては判別できていない。
2.マッチング処理を行い、合致する度合いの高い位置・姿勢を現在位置・姿勢候補として選択し、現在位置・姿勢を推定する。
3.その際、光学作用部材35の位置は記憶されており、幾何形状データ34とレーザ光照射地点たる距離センサ部12を結んだ線分12aが光学作用部材35と交差するか否かを判別する。
図15(c)に示すように、線分12aが光学作用部材35と交差する場合は、その先にあるものを「ゴースト」として認定する。
【0045】
以上、本発明を具体的な実施例として自律移動ロボットとして説明したが、発明はこれに限定されるものではない。また、制御回路においても、カスタム製品ではなく、製造後に購入者や設計者が構成を設定できる集積回路であるFPGA(Field-Programmable Gate Array)等によって設計しても良い。さらには、
図1及び
図2で示した機能構成又は格納データの一部或いは全部がリモートに配置され無線・有線或いはネットワークを経由で制御される構成を採用しても良い。