(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記脂肪酸アミド化合物が、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド及びエチレンビスパルミチン酸からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1又は2記載の表面保護フィルム。
前記吸熱ピークの吸熱量が、前記脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物1mgに対して0.5mJ以上である、請求項1〜4の何れか1項に記載の表面保護フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<本明細書中の記号の定義>
本明細書において数値範囲を表すために用いられる記号「〜」は、特に記載の無い限り、当該数値範囲がその両端の数値を含むことを意図して用いられる。
【0017】
本明細書において、用語「芳香族アルケニル化合物単位含有率」等において用いられる重合体の繰り返し単位の「含有率」とは、繰り返し単位を繰り返し単位の起源であるモノマーの重量に換算して求めた含有率、すなわち、上記重合体を形成するための全モノマーの重量に対する上記繰り返し単位の起源であるモノマーの重量の比率(重量%)、すなわち重合体の芳香族アルケニル化合物含量[alkenyl aromatic compound content]を意味する。ここで、「上記重合体を形成するための全モノマーの重量」は、上記重合体の重量に近似する。また、同様に、本明細書において、重合体ブロックの繰り返し単位の「含有率」とは、繰り返し単位の起源であるモノマーの重量に換算して求めた含有率、すなわち、上記重合体ブロックを形成するための全モノマーの重量に対する、上記繰り返し単位の起源であるモノマーの重量の比率(重量%)を意味する。ここで、「上記重合体ブロックを形成するための全モノマーの重量」は、上記重合体ブロックの重量に近似する。
【0018】
本明細書において、「ビニル結合の含有率」は、赤外吸収スペクトル法を用い、モレロ法により算出した1,2−ビニル結合および3,4−ビニル結合の総含有率を意味する。
【0019】
本明細書において、「脂肪酸アミド化合物」とは、純粋な(例えば純度99%以上の)脂肪酸アミド単体を意味する。また、「脂肪酸アミド組成物」とは、脂肪酸アミド化合物と、脂肪酸アミド化合物の原材料であるジアミン、および脂肪酸等の不純物等とを含有する組成物を意味する。
【0020】
[粘着剤組成物]
本発明の粘着剤組成物は、下記重合体(i)、下記重合体(ii)、および所定の少なくとも1種の脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物を含有する。
【0021】
<重合体(i)、および重合体(ii)>
本明細書中、「重合体(i)」は、下記重合体ブロックAおよび下記重合体ブロックBを含み、一般式[A−B]n(式中、Aは重合体ブロックAを、Bは重合体ブロックBを、nは1〜3の整数を表す。)で表される構造を有する共重合体(I)またはその水素添加物である。
本明細書中、「重合体(ii)」は、下記重合体ブロックAおよび下記重合体ブロックBを含み、一般式A−B−A(式中の記号は上記と同意義を表す。)もしくは一般式[A−B]x−Y(式中、xは2以上の整数を表し、Yはカップリング剤残基を、その他の記号は上記と同意義を表す。)
で表される構造を有する共重合体(II)またはその水素添加物である。
なお、本明細書中、上記重合体(i)と上記重合体(ii)とからなる組成物を、単に「共重合体組成物」と称する場合がある。
本発明の粘着剤組成物において、上記重合体(i)および上記重合体(ii)の全体の芳香族アルケニル化合物単位含有率は、30〜50重量%であり、
上記重合体(i)と上記重合体(ii)に含まれる重合体ブロックAの総量と重合体ブロックBの総量との重量比が5:95〜25:75の範囲内である。
本明細書中、「重合体ブロックA」は、芳香族アルケニル化合物単位が連続し、芳香族アルケニル化合物単位を主体とする重合体ブロックである。
本明細書中、「重合体ブロックB」は、共役ジエン単位と芳香族アルケニル化合物単位がランダムに含まれる芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックであって、芳香族アルケニル化合物単位含有率(St(b))が10〜35重量%である重合体ブロックである。
【0022】
<重合体ブロックA>
上述のように、「重合体ブロックA」は、芳香族アルケニル化合物単位が連続し、芳香族アルケニル化合物単位を主体とする重合体ブロックである。
【0023】
「芳香族アルケニル化合物単位」とは、芳香族アルケニル化合物に由来する繰り返し単位である。「芳香族アルケニル化合物」としては、例えば、スチレン、tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N−ジェチル−p−アミノエチルスチレンおよびビニルピリジン等を挙げることができる。中でも、原料が工業的に入手し易いという理由から、「芳香族アルケニル化合物単位」はスチレン単位であることが好ましい。
【0024】
「重合体ブロックA」は、芳香族アルケニル化合物単位を主たる繰り返し単位として構成されている。具体的には、その芳香族アルケニル化合物単位含有率は、80重量%以上である。芳香族アルケニル化合物単位含有率を80重量%以上と高くすることにより、粘着剤組成物の熱可塑性を向上させることができ、粘着剤組成物のリサイクルがより容易になるという利点がある。20重量%未満の範囲で含まれていてもよい芳香族アルケニル化合物単位以外の繰り返し単位としては、芳香族アルケニル化合物と共重合可能な化合物に由来する繰り返し単位、例えば、共役ジエン化合物や(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する繰り返し単位を挙げることができる。中でも、1,3−ブタジエン、イソプレンが、芳香族アルケニル化合物との共重合性が高いという理由から好ましい。
【0025】
<重合体ブロックB>
「重合体ブロックB」は、共役ジエン単位と芳香族アルケニル化合物単位がランダムに含まれる芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックであって、芳香族アルケニル化合物単位含有率(St(b))が10〜35重量%である重合体ブロックである。
【0026】
「重合体ブロックB」を構成する「共役ジエン化合物単位」とは、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位である。「共役ジエン化合物」としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−オクタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−シクロヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、ミルセンおよびクロロプレン等を挙げることができる。中でも、重合反応性が高く、原料が工業的に入手し易いという理由から、「共役ジエン化合物単位」は1,3−ブタジエン単位およびイソプレン単位の群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位であることが好ましい。
【0027】
「重合体ブロックB」は、共役ジエン化合物単位を主たる繰り返し単位として構成されている。共役ジエン化合物単位含有率が65〜90重量%の範囲内であることが好ましい。
【0028】
また、「重合体ブロックB」は、芳香族アルケニル化合物単位含有率(St(b))が10〜35重量%の範囲内であることが好ましく、13〜33重量%の範囲内であることがより好ましく、16〜30重量%の範囲内であることが更に好ましい。芳香族アルケニル化合物単位含有率が10重量%未満では、展開性が重く、ハンドリング性が悪くなることがある。一方、35重量%を超えると、粘着剤組成物の柔軟性が劣り、表面保護フィルムに重要な、十分な粘着力を確保できないことがある。
なお、「重合体ブロックB」は、本発明の効果を妨げない範囲において、共役ジエン化合物単位、および芳香族アルケニル化合物単位以外の繰り返し単位も含んでいてもよい。
【0029】
また、「重合体ブロックB」は、ビニル結合含有率が50〜90%の範囲内であることが好ましく、60〜80%の範囲内であることがより好ましい。また、ビニル結合含有率を50%以上とすることにより、タックと粘着力のバランスに優れた粘着剤組成物を構成することができるという利点がある。
【0030】
<共重合体(I)>
「共重合体(I)」は、下記重合体ブロックAおよび下記重合体ブロックBを含み、一般式[A−B]n(式中、Aは重合体ブロックAを、Bは重合体ブロックBを、nは1〜3の整数を表す。)で表される構造を有する共重合体である。
【0031】
「n」が1〜3の整数を表すことから、明らかなように、「式[A−B]nで表される構造」としては、例えば、A−B、A−B−A−B、およびA−B−A−B−A−Bで表される構造が挙げられる。これらのブロック共重合体においては、AおよびBは、それぞれ繰り返しにおいて同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0032】
[A−B]nで示される構造において、重合体ブロックBの効果を確実に発揮させる観点から、末端の重合体ブロックBは共重合体全体の2重量%以上を占めていることが好ましい。なお、一部の共重合体(I)の末端が−Aの構造を有していても、末端の重合体ブロックAの含有率が共重合体(I)全体の2重量%未満である場合には、末端が重合体ブロックBであるのと同様の効果を発揮させることができる。すなわち、上記構造は実質的に末端が重合体ブロックBであるとみなすことができる。
【0033】
nは1〜3の整数であることが必要である。nをこの範囲内とすることにより、工業的な生産性が良好となる。なお、粘着力および材料強度を向上させるという観点から、nが1〜2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。すなわち、「一般式[A−B]nで示される構造を有する共重合体」としては、一般式A−Bで示される構造を有するブロック共重合体が特に好ましい。
【0034】
共重合体(I)またはその水素添加物(重合体(i))は、芳香族アルケニル化合物単位含有率が30〜50重量の範囲内であることが好ましく、33〜45重量%であることがより好ましい。芳香族アルケニル化合物単位含有率をこの範囲内とすることにより、適度な保持力と、被着体表面の凹凸への適度な追随性を兼ね備え、かつ巻回体の展開性に優れた粘着剤組成物を構成することが可能となる。
【0035】
重合体(i)の分子量については特に制限はないが、重量平均分子量が3万〜50万であることが好ましく、8万〜30万であることが更に好ましく、10万〜20万であることが特に好ましい。重量平均分子量を3万〜50万の範囲とすることで、重合体(i)、ひいては重合体(i)と共重合体(II)またはその水素添加物(重合体(ii))とからなる共重合体組成物の工業的な生産を容易なものとすることができる。重量平均分子量が3万未満であると、ポリマーを脱溶媒、乾燥させる工程において製造設備等にポリマーが付着してしまい、重合体(i)の工業的生産が困難となる場合がある。一方、重量平均分子量が50万超であると、溶剤への溶解性や熱溶融性が悪くなり、粘着体への加工が困難になる場合がある。
【0036】
共重合体(I)の水素添加物は、優れた耐熱性および耐候性が得られることから、共役ジエンモノマーに由来する二重結合が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、水素添加により不飽和結合が飽和結合に水素添加された水素添加物であることが好ましい。
なお、本明細書中、水素添加の比率(水素添加率)は、四塩化炭素を溶媒として用い、270MHz、
lH−NMRスペクトルから算出した水素添加率を意味する。
重合体(i)は、単独(1種)であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0037】
<共重合体(II)>
「共重合体(II)」は、下記重合体ブロックAおよび下記重合体ブロックBを含み、一般式A−B−A(式中の記号は上記と同意義を表す。)もしくは一般式[A−B]x−Y(式中、xは2以上の整数を表し、Yはカップリング剤残基を、その他の記号は上記と同意義を表す。)で表される構造を有する共重合体である。
【0038】
上記一般式から明らかなように、共重合体(II)は、その全ての分子末端に重合体ブロックAを有する。
末端の重合体ブロックAは共重合体(II)全体の2重量%以上を占めていることが好ましい。重合体ブロックAの効果を確実に発揮させるためである。なお、一部の共重合体(II)の末端が−Bの構造を有していても、末端の重合体ブロックBの含有率が共重合体(II)全体の2重量%未満である場合には、末端が重合体ブロックAであるのと同様の効果を発揮させることができる。すなわち、上記構造は実質的に末端が重合体ブロックAであるとみなすことができる。
一般式[A−B]x−Y(式中、xは2以上の整数を表し、Yはカップリング剤残基を、その他の記号は上記と同意義を表す。)で表される構造を有する共重合体は、言い換えれば、共重合体(I)がYによってカップリングした構造を有する。従って、[A−B]x−Yの場合、同じ反応釜で、(I)、(II)の混合物を合成することが出来るため、工業的な観点から、[A−B]x−Yの方が好ましい。xが3以上である場合、当該共重合体は、いわゆる星形重合体である。xは、当該共重合体製造時における副反応を抑制し、当該共重合体の物性を制御する観点からは、好ましくは2〜4である。
【0039】
また、共重合体(II)またはその水素添加物(重合体(ii))も重合体(i)と同様の理由から、芳香族アルケニル化合物単位含有率が30〜50重量の範囲内であることが好ましく、33〜45重量%であることがより好ましい。
【0040】
重合体(ii)は、優れた耐熱性および耐候性が得られることから、共役ジエンモノマーに由来する二重結合が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、水素添加により不飽和結合が飽和結合に水素添加された水素添加物であることが好ましい。
【0041】
重合体(ii)の分子量については特に制限はないが、重量平均分子量が5万〜50万であることが好ましく、5万〜30万であることがより好ましい。重量平均分子量を5万〜50万の範囲とすることで、重合体(ii)、ひいては重合体(i)と重合体(ii)とからなる共重合体組成物の工業的な生産を容易なものとすることができる。重量平均分子量が5万未満であると、ポリマーを脱溶媒、乾燥させる工程において製造設備等にポリマーが付着してしまい、共重合体(II)またはその水素添加物の工業的生産が困難となる場合がある。一方、重量平均分子量が50万超であると、溶剤への溶解性や熱溶融性が悪くなり、粘着体への加工が困難になる場合がある。
重合体(ii)は、単独(1種)であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0042】
本発明の粘着剤組成物において、重合体(i)と重合体(ii)との重量比は、好ましくは、90:10〜10:90の範囲内である。重合体(i)と重合体(ii)との総量100重量部中、重合体(i)を10重量部以上含ませることにより、被着体の表面から粘着剤層が浮き上がり、フィルムが剥離してしまう不具合(浮き)を有効に防止することができるという好ましい効果を発揮させることができる。一方、重合体(i)と重合体(ii)との総量100重量部中、重合体(ii)を10重量部以上含ませることにより、被着体の表面からフィルムを剥離させる際に、被着体の表面に粘着剤が残存して被着体の表面を汚染してしまう不具合(糊残り)を有効に防止することができるという好ましい効果を発揮させることができる。
粘着剤層の浮きや糊残りをより確実に防止するという観点から、重合体(i)と重合体(ii)との重量比は50:50〜15:85の範囲内であることがより好ましい。
【0043】
本発明の効果を奏する観点から、上記重合体(i)と上記重合体(ii)に含まれる重合体ブロックAの総量と重合体ブロックBの総量との重量比が5:95〜25:75の範囲内であることが必要である。また、重合体ブロックAと重合体ブロックBとの総量100重量部中、重合体ブロックAを5重量部以上含ませることにより、形成される粘着剤層に適度な保持力を付与することが可能となるという好ましい効果を発揮させることができる。一方、重合体ブロックAと重合体ブロックBとの総量100重量部中、重合体ブロックBを75重量部以上含ませることにより、形成される粘着剤層が被着体表面の凹凸に対して良好な追随性を示すため、被着体表面を確実に保護することが可能となるという好ましい効果を発揮させることができる。重合体ブロックAの総量と重合体ブロックBの総量との重量比は7:93〜23:77の範囲内であることが更に好ましく、10:90〜21:79の範囲内であることが特に好ましい。
【0044】
<脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物>
本発明の粘着剤組成物は、示差走査熱量測定により、40〜80℃の範囲に、脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物起因の吸熱ピークが測定される、脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物を含有する。なお、本明細書において、「脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物」を単に「脂肪酸アミド」と称する場合がある。
【0045】
脂肪酸アミド化合物を主成分として含む脂肪酸アミド組成物において、「主成分として含む」とは、脂肪酸アミド化合物を60重量%以上含有することを意味する。なお、80重量%以上含有することが好ましく、90重量%以上含有することがより好ましい。脂肪酸アミド組成物に主成分として含有される脂肪酸アミド化合物としては、脂肪酸アミド化合物の2種以上の混合物であってもよい。この場合は、2種以上の脂肪酸アミド化合物の含有量を合計して主成分となる脂肪酸アミド化合物の含有量を算出する。
【0046】
<脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物起因の吸熱ピーク>
本発明の粘着剤組成物に含有される少なくとも1種の脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物は、示差走査熱量測定により40〜80℃の範囲に、「脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物」起因の吸熱ピークを有する。ここで「脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物起因の吸熱ピーク」とは、脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物に対する、後述の示差走査熱量測定により得られた吸熱ピークを指す。
【0047】
この吸熱ピークは、純粋な単一の脂肪酸アミド化合物に対してはシャープな単一ピークになると考えられる。これに対し、原材料であるジアミン、および脂肪酸等を不純物として含む脂肪酸アミド組成物では、これらの不純物によって、この吸熱ピークはブロードになる傾向があり、不純物量が増加するとよりブロードになる傾向がある。また、この吸熱ピークは、2種以上の脂肪酸化合物の混合物の場合にもブロードになる傾向がある。
【0048】
本発明の粘着剤組成物に含まれる「脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物」としては、「脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物」起因の吸熱ピークが40〜80℃の範囲にあれば良い。すなわち、40〜80℃の範囲に、吸熱ピーク強度が最も高い温度が存在する。なお、吸熱ピークはブロードであるか、シャープであるかは問わない。
【0049】
粘着剤組成物を表面保護フィルムに用いた場合に、脂肪酸アミド化合物起因の吸熱ピークが40℃未満で観測出来る場合では、初期粘着力の低下が著しく、表面保護フィルムとしての使用が出来なくなる場合がある。また、脂肪酸アミド化合物起因の吸熱ピークが80℃より高い温度で観測出来る場合では、23℃〜60℃程度の温度においては充分な粘着昂進抑制効果が得られない。
【0050】
粘着昂進抑制メカニズムを、脂肪酸アミドの一例としてエチレンビスステアリン酸アミド(EBSA)を挙げて解説する。なお、以下の解説は本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0051】
日油株式会社製エチレンビスステアリン酸アミド、アルフローH50Fの、示差走査熱量測定の結果を
図1に示す。
図1の曲線は、下記実施例における脂肪酸アミド組成物の吸熱ピーク評価と同様に、後述の第一〜第三ステージを順に実行したときの、第三ステージにおいて得られたDSC曲線である。
図1によると、吸熱ピークが65、145℃付近に現れている。
【0052】
これらのピークの由来について明確にわかっている訳ではないが、EBSAなどの脂肪酸アミド化合物の分子構造及び、実施例における粘着力測定結果から、下記のように推定している。
【0053】
EBSAなどの脂肪酸アミド化合物は1分子中にNH基とC=O基を2つ有しており、NH基とC=O基との間で水素結合を形成する。水素結合によって形成されるEBSAなどの脂肪酸アミド化合物の結晶構造としては、結晶密度が異なり融点の異なる2種類の結晶構造が考えられる。
【0054】
65℃付近の吸熱ピークは、EBSAなどの脂肪酸アミド化合物の低融点結晶構造が、融解する際に発生する吸熱ピークと考えられる。
【0055】
上記の吸熱ピークを有するEBSAを主成分として含む脂肪酸アミド組成物を含有した粘着剤組成物を用いた表面保護フィルムでは、被着体に貼り付け後、高温の環境下(例えば60℃条件下)に曝された際に、低融点結晶構造のEBSAなどの脂肪酸アミド化合物成分が融解して被着体と接触している粘着層表面に析出してくる。この為、接着面積の増加を阻害することで粘着昂進抑制効果が得られると考えられる。
【0056】
なお、40〜80℃の範囲に存在する脂肪酸アミド化合物起因の吸熱ピークがブロードである場合、吸熱ピークの吸熱開始温度から結晶が融解する。したがって、脂肪酸アミド化合物の吸熱ピークより低い温度に粘着剤組成物が曝された場合であっても粘着昂進抑制効果が得られる。低融点結晶構造の吸熱ピークが60℃以上であると23℃から60℃付近までの温度に曝された粘着剤組成物の粘着昂進抑制効果は減少する傾向を示す。吸熱ピークが60℃以上であれば23℃から60℃付近までの温度における粘着昂進抑制効果が抑制されるため、実際の使用環境における初期粘着力を高く維持しやすい。
【0057】
特に、結晶転移ピーク(融点とは別の吸熱ピーク)が60〜80℃の範囲内にある場合には、高温状態で長時間(例えば60℃条件下で3日以上)養生した場合でも、粘着昂進抑制効果を発揮できるので好ましい。
【0058】
なお、本発明の粘着剤組成物に用いられる重合体ブロックAと重合体ブロックBとが相分離構造を有する場合は、例えば60℃以上の高温環境下において相分離構造が破壊されるため、著しい粘着昂進が引き起こされやすいと考えられる。したがって、そのような粘着剤組成物では、粘着昂進を抑制することが難しい場合がある。しかしながら、本発明の粘着剤組成物が、示差走査熱量測定により、特に60〜80℃の範囲に飽和脂肪酸アミド化合物に起因する吸熱ピークが測定される脂肪酸アミドを含有すると、本発明の粘着剤組成物が相分離構造を有していたとしても、粘着昂進をより効果的に抑制することができる。よって、本発明の粘着剤組成物に用いられる重合体ブロックAと重合体ブロックBとが相分離構造を有する場合は、示差走査熱量測定により、60〜80℃の範囲に飽和脂肪酸アミド化合物に起因する吸熱ピークが測定される脂肪酸アミドを含有することが好ましい。EBSA等の炭素数16〜18の脂肪酸アミドにおいては、特に、70〜80℃の範囲に飽和脂肪酸アミド化合物に起因する吸熱ピークが測定される脂肪酸アミドが好ましい。
【0059】
なお、脂肪酸アミドは、EBSAに限定されるものではなく、例えば以下に説明される化合物を包含する。
【0060】
本発明の粘着剤組成物に用いられる「脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物」における脂肪酸アミド化合物は、好ましくは、飽和脂肪酸ビスアミド化合物である。飽和脂肪酸ビスアミド化合物としては、例えば、エチレンビスステアリン酸アミド(EBSA)、メチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸等の炭素数10〜18の飽和脂肪酸脂肪族ビスアミド化合物;ならびにm−キシリレンビスステアリン酸アミド、およびN,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド等の飽和脂肪酸芳香族ビスアミド化合物が好ましい。
【0061】
飽和脂肪酸脂肪族ビスアミド化合物のなかでは、エチレンビスステアリン酸アミドがより好ましい。脂肪酸アミド組成物としては、純度70%以下のステアリン酸を用いて製造された、エチレンビスステアリン酸アミドであってもよい。また、飽和脂肪酸芳香族ビスアミド化合物のなかでは、m−キシリレンビスステアリン酸アミドがより好ましい。
【0062】
飽和脂肪酸ビスアミド化合物は、通常、ジアミンと飽和脂肪酸との脱水縮合反応によって合成される。このため、上述の説明から明らかなように、得られた飽和脂肪酸ビスアミド(反応生成物)は、不純物としてジアミン、および飽和脂肪酸を含有する場合がある。本明細書においてこの場合には、「飽和脂肪酸ビスアミド組成物」と称する。
【0063】
「脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物」の低融点結晶の融解温度は、原料として用いる脂肪酸の炭素鎖数及び飽和度に影響を受ける。この為、2種類以上の脂肪酸を用いて脂肪酸アミドを合成することにより、得られた脂肪酸アミド組成物の低融点結晶の融解温度、すなわち脂肪酸アミド化合物起因の吸熱ピークのピーク位置を調整することが可能である。これらの飽和脂肪酸ビスアミド化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
示差走査熱量測定により40〜80℃の範囲に、「脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物」起因の吸熱ピークを有する、脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物としては、アルフローH50L、アルフローH50S、アルフローH50F、アルフローH50TF(いずれも日油株式会社製)なども使用できる。
【0065】
<脂肪酸アミド化合物の総含有量>
重合体(i)および重合体(ii)の合計重量(共重合体組成物の重量)100重量部に対する脂肪酸アミド化合物の総含有量は0.3〜2重量部である。脂肪酸アミド化合物の総含有量とは、例えば、炭素数18のエチレンビスステアリン酸アミドと、炭素数14又は16の脂肪酸アミド化合物を含む場合には、それらの合計含有量を指す。上記脂肪酸アミド化合物の総含有量が0.3重量部未満の場合には、粘着昂進現象の抑制が十分でない。また、2重量部超の場合には、初期接着力が十分でなくなる。
【0066】
粘着剤組成物における脂肪酸アミド化合物の総含有量は、たとえば、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)で測定することができる。例えば、装置としてWaters2695+RI waters2414+UV Waters2487、カラムはShodex LF−804 Columns(6.0mm×15.0mm)、移動相はTHFを使用する事で定量出来、検量線を用いることで含有量を測定する事が出来る。また、脂肪酸アミド化合物の総含有量は、重合体(i)および重合体(ii)の合計重量(共重合体組成物の重量)100重量部に対して配合した、脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物の使用量から計算できる。
【0067】
本発明の粘着剤組成物に含まれる脂肪酸アミド組成物は、通常、天然原料から製造されるため、どのような脂肪酸アミド化合物がどのような割合で含有されているかを決定することは比較的困難を伴う場合がある。このため、脂肪酸アミド組成物の示差走査熱量測定による40〜80℃の範囲に存在する脂肪酸アミド化合物起因の吸熱ピークの吸熱量や、脂肪酸アミド組成物の酸価を特定することが有用な場合がある。
【0068】
<吸熱量>
上記吸熱ピークの吸熱量は、上記脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物1mgに対して0.5mJ以上であることが好ましく、0.8〜4.0mJであることがより好ましい。脂肪酸アミド組成物の単位重量あたりの吸熱量は、原料に含まれる有効成分としての脂肪酸アミド化合物の量に対応する。このため、吸熱量が高いほど原料(脂肪酸アミド組成物)に含まれる有効成分(脂肪酸アミド化合物)の濃度が濃く、粘着剤組成物中に添加する原料を少量にすることができ、原料コストを抑えられる。
【0069】
<酸価>
上記脂肪酸アミド化合物又はそれを主成分として含む脂肪酸アミド組成物の酸価は、14mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは8.5mgKOH/g以下、さらに好ましくは5mgKOH/g以下である。酸価がこのような範囲にあることにより、表面保護フィルムの粘着力の経時での粘着力安定性が向上する。脂肪酸アミドを合成した後に不純物として残った脂肪酸の含有量を測定する指標が酸価であり、数値が高い事は反応残渣として脂肪酸がより多く含まれている事を示している。脂肪酸はアルキル鎖の長さによるが加熱により容易に気化し、経時で粘着剤表面に析出し、表面保護フィルムの粘着力の不安定化の原因となる。上記の範囲に酸価を抑えることにより、表面保護フィルムの経時による粘着力安定性がより向上する。
【0070】
<その他の成分>
本発明の粘着剤組成物は、必要に応じて、粘着付与剤、スチレン系ブロック相補強剤、軟化剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料、粘着昂進防止剤、オレフィン系樹脂、シリコーン系ポリマー、液状アクリル系共重合体、リン酸エステル系化合物等の公知の添加剤を適宜含有してもよい。
【0071】
粘着付与剤としては、例えば、脂肪族系共重合体、芳香族系共重合体、脂肪族−芳香族系共重合体や脂環式系共重合体等の石油樹脂、クマロン−インデン樹脂、テルぺン樹脂、テルぺン−フェノール樹脂、重合ロジン等のロジン樹脂、(アルキル)フェノール樹脂、キシレン樹脂またはこれらの水素添加物などの、一般に粘着剤に使用されるものを特に制限なく使用することができる。粘着付与剤の軟化点が、90〜140℃のものを用いることがより好ましい。これらの粘着付与剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、剥離性および耐候性などを高めるためには、水素添加物型の粘着付与剤を用いることがより好ましい。また、オレフィン樹脂とのブレンド物として市販されている粘着付与剤を用いてもよい。
本発明での粘着付与剤とは、芳香族アルケニルブロック共重合体中の共役ジエン系またはその水素添加されたソフトセグメントであるゴム層に対して相溶し、粘着力をコントロールできるものを意味する。
なお、「相溶」とは、共重合体組成物に粘着付与剤を配合することにより得られる配合物のtanδピーク温度が、共重合体組成物のtanδピーク温度とは異なる値になる状態のことをいう。なお、本明細書中、「tanδピーク温度」とは、tanδの最大となる温度を意味する。
【0072】
軟化剤は、通例、粘着力の向上に有効である。軟化剤としては、例えば、低分子量のジエンポリマー、ポリイソブチレン、水添ポリイソプレン、水添ポリブタジエン、ひまし油、トール油、天然油、パラフィン系オイルやナフテン系オイルや芳香族系オイル等のプロセスオイル、液体ポリイソブチレン樹脂、ポリブテン、またはこれらの水素添加物などの一般的に粘着剤に使用されるものを特に制限なく使用することができる。これらの軟化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
酸化防止剤としては、特に限定されず、例えば、モノフェノール、ビスフェノール、高分子型フェノールなどのフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等の通常使用されるものが挙げられる。
光安定化剤としては、ヒンダードアミン系化合物が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、特に限定されず、例えば、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0074】
充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン等が挙げられる。
粘着昂進防止剤としては、脂肪酸アミド、ポリエチレンイミンの長鎖アルキルグラフト物、大豆油変性アルキド樹脂(例えば、荒川化学工業社製、商品名「アラキード251」等)、トール油変性アルキド樹脂(例えば、荒川化学工業社製、商品名「アラキード6300」等)などが挙げられる。
これらの添加剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0075】
<表面保護フィルム>
本発明の表面保護フィルムは、基材層と、上記で説明した粘着剤組成物からなる粘着剤層とを有する。
好ましくは、当該粘着剤層は、当該基材層の一方の表面上に配置されている。
当該基材層と当該粘着剤層の間には、中間層が存在していてもよい。
【0076】
<基材層>
基材層として好ましくは、ポリオレフィン基材層である。当該「ポリオレフィン」としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−n−ブチルアクリレート共重合体、およびポリプロピレン(ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー)等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、「ポリオレフィン」は、置換基を有するポリオレフィンであってもよく、ポリオレフィン以外の樹脂が添加されていてもよい。さらに、表面保護フィルムの製造過程で生じた、ポリオレフィン基材層の端材や表面保護フィルムの端材が添加されていてもよい。
基材層は、単層でもよいし、組成の異なる2種以上の多層構造を有している層であってもよい。
基材層は、表面保護フィルムの用途等によって、その厚さを適宜調整することができる。通常、10〜100μm程度の厚さに設定することが適している。
【0077】
<粘着剤層>
上述のように、粘着剤層は、上記で説明した粘着剤組成物からなる。
粘着剤層の厚さは特に制限されないが、例えば、通常0.5〜50μm程度、好ましくは1〜40μm、さらに好ましくは2〜30μmである。
【0078】
<製造方法>
本発明の粘着剤組成物は、例えば、共重合体(I)および共重合体(II)をそれぞれブロック重合により合成し、これらを所定の質量比でブレンドした後に、所望により水素添加を行って、共重合体(I)またはその水素添加物、および共重合体(I)またはその水素添加物の混合物を得、および所望により配合される添加剤を慣用の方法で混合することによって製造される。
【0079】
水素添加触媒としては、元素周期表Ib、IVb、Vb、VIb、VIIb、VIII族金属のいずれかを含む化合物を用いることができる。例えば、Ti、V、Co、Ni、Zr、Ru、Rh、Pd、Hf、Re、Pt原子を含む化合物を挙げることができ、より具体的には、Ti、Zr、Hf、Co、Ni、Rh、Ruなどのメタロセン系化合物、Pd、Ni、Pt、Rh、Ruなどの金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土、塩基性活性炭などの担体に担持させた担持型不均一系触媒を挙げることができる。
なお、メタロセン系化合物の具体例としては、シクロペンタジェニル環(Cp環)またはCp環上の水素をアルキル基で置換した配位子を二つ有するKaminsky(カミンスキー)触媒、ansa(アンサ)型メタロセン触媒、非架橋ハーフメタロセン触媒、架橋ハーフメタロセン触媒等を挙げることができる。
【0080】
具体的な例を挙げると、特開平1−275605号公報、特開平5−271326号公報、特開平5−271325号公報、特開平5−222115号公報、特開平11−292924号公報、特開2000−37632号公報、特開昭59−133203号公報、特開昭63−5401号公報、特開昭62−218403号公報、特開平7−90017号公報、特公昭43−19960号公報、特公昭47−40473号公報に記載の触媒を挙げることができる。これら各種の触媒は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0081】
別法として、共重合体(II)が上記一般式[A−B]x−Y(式中の記号は上記と同意義を表す。)で表される構造を有する場合、本発明の粘着剤組成物は、以下のような方法(カップリング法)によって、製造してもよい。カップリング法は、共重合体(I)またはその水素添加物(重合体(i))と共重合体(II)またはその水素添加物(重合体(ii))を1ポットで合成することができるため製造工程が簡素であり、製造コストが低廉で、カップリング剤の種類や量により、重合体(i)と重合体(ii)との比率を制御することができる等の点において好ましい。
【0082】
カップリング法は、第1工程:[A−B]の構造を有する共重合体をブロック重合により合成する工程と、第2工程:上記[A−B]の構造を有する共重合体の一部を、カップリング剤Y−Z
x(但し、「Y」はカップリング剤残基、「Z」は脱離基、「X」は2以上の整数を示す。)によりカップリングさせ、{[A−B]
x−Y}の構造を有する共重合体を合成する工程と、水素添加物を得る場合には、更に、第3工程:上記[A−B]の構造を有する共重合体及び上記{[A−B]
x−Y}の構造を有する共重合体に水素添加することにより、それぞれ水素化された共重合体(I)と共重合体(II)とからなる共重合体組成物を得る工程とを備える。
【0083】
「カップリング剤」としては、例えば、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、ジブロモエタン、テトラクロロ錫、ブチルトリクロロ錫、テトラクロロゲルマニウム、ビス(トリクロロシリル)エタン等のハロゲン化合物;エポキシ化大豆油等のエポキシ化合物;アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、ジメチルテレフタル酸、ジエチルテレフタル酸等のカルボニル化合物、ジビニルベンゼン等のポリビニル化合物;ポリイソシアネート;等を挙げることができる。中でも、工業的に入手し易く、反応性も高いという理由から、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、テトラクロロシランが好ましい。
【0084】
本発明の表面保護フィルムは、例えば、押出成形によって基材シート(基材層)を製造した後、上記粘着剤組成物を溶融または溶解させた液体を基材シートに塗布または噴霧する方法、あるいは、インフレーション法により得られた基材シートと粘着シートを貼り合わせる方法、あるいは多層マニホールドを備えたTダイを用いて基材原料と上記粘着剤組成物を共押出する方法により製造できる。なかでも、基材層と粘着剤層が密着した多層シートが得られるので共押出により製造する方法が好ましい。なお、本発明の粘着剤組成物を溶融または溶解させた液体もまた、本発明の粘着剤組成物に包含される。
【0085】
<適用>
本発明の表面保護フィルムは、表面が平滑なシート状の被着体や、光学板、プリズムシート、および拡散フィルム等の凹凸のある被着体に好適に用いることができる。なかでも、拡散フィルムの表面保護用に好適に用いることができる。
本発明の表面保護フィルムは、凹凸のある被着体のなかでも、凹凸が小さい被着体に特に好適に使用できる。このような被着体では、粘着昂進が特に問題になり易いが、本発明の表面保護フィルムを用いれば、高温条件下でも粘着昂進が生じにくい。
具体的には、本発明の表面保護フィルムは、表面粗さRaが2μm以下の被着体に好適に使用でき、より好ましくは、表面粗さRaが0.5μm以下の被着体に好適に使用できる。ただし、本発明の表面保護フィルムをこれ以外の被着体にも使用できることは、言うまでもない。
なお、本明細書中、「表面粗さRa」は、JIS B0601:2001に規定されている、「算術平均高さ」である。
【0086】
被着体を構成する材料としては、特に限定されないが、透光性を有する樹脂、例えばアクリル系樹脂、ポリカーボネート等が挙げられる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明の表面保護フィルムを、実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
(合成例1)(共重合体組成物の合成)
(重合体ブロックA)
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン500質量部、スチレン20質量部及びテトラヒドロフラン5質量部を仕込み、重合開始温度の40℃にてn−ブチルリチウム0.13質量部を添加して、昇温重合を行った。
(重合体ブロックB)
重合体Aの重合転化率が略100%に達した後、反応液を15℃に冷却し、次いで、1,3−ブタジエン70質量部およびスチレン10質量部を加え、更に昇温重合を行った。
【0089】
重合転化率がほぼ100%に達した後、カップリング剤としてメチルジクロロシラン0.06質量部を加え、カップリング反応を行った。カップリング反応が完結した後、水素ガスを0.4MPa−Gaugeの圧力で供給しながら10分間放置した。一部取り出したポリマーは、ビニル含有率64%、重量平均分子量約11万、カップリング率60%であった。
【0090】
その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.03質量部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06質量部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa−Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻し、反応容器から抜き出すことにより、重合体(i)と重合体(ii)からなる共重合体組成物を得た。この共重合体組成物の性質を表1に示す。
なお、表1中、「St(A+B)」、「St(B)」、「St(A)」、および「St(b)」は、それぞれ次のように定義される数値を表す。当該定義において、「全重合体」とは、重合体(i)および重合体(ii)の全体を意味する。
【0091】
「St(A+B)」は、全重合体の芳香族アルケニル化合物単位含有率であり、次式(1)で表される数値を意味する。なお、これは、下記「St(B)」と下記「St(A)」との和に等しい。
式(1):
St(A+B)=(全重合体中の芳香族アルケニル化合物単位重量)/
(全重合体中の全単量体単位重量)×100(重量%)
「St(B)」は、次式(2)で表される数値を意味する。
式(2):
St(B)=(全重合体ブロックB中の芳香族アルケニル化合物単位重量)/
(全重合体中の全単量体単位重量)×100(重量%)
「St(A)」は、次式(3)で表される数値を意味する。
式(3):
St(A)=(全重合体ブロックA中の芳香族アルケニル化合物単位重量)/
(全重合体中の全単量体単位重量)×100(重量%)
「St(b)」は、重合体ブロックBの芳香族アルケニル化合物単位含有率であり、次式(4)で表される数値を意味する。
式(4):
St(b)=(全重合体ブロックB中の芳香族アルケニル化合物単位重量)/
(全重合体ブロックB中の全単量体単位重量)×100(重量%)
また、表1中、「A:B」は、重合体ブロックAの総量と重合体ブロックBの総量との重量比を表す。
また、表1中、「(i):(ii)」は、重合体(i)と重合体(ii)の重量比を表す。
また、表1中、「共役ジエン含有率」は、重合体ブロックBの共役ジエン単位含有率を表す。
また、表1中、「ビニル結合含有率」は、重合体ブロックBのビニル結合の含有率を表す。
【0092】
【表1】
【0093】
(実施例1〜9、比較例1〜7)
上記の合成例1により得られた共重合体組成物100重量部に、粘着付与剤(アルコンP100(荒川化学工業社製))、酸化防止剤(イルガノックス1010(チバスペシャルティケミカルズ社製))、および脂肪酸アミドを、表2の通り配合し、各粘着剤組成物を得た。なお、以下の表2〜4中の脂肪酸アミドの表記は、それを主成分として含む脂肪酸組成物の意味であり、原材料であるジアミン、および脂肪酸等の不純物、ならびに炭素数が異なる脂肪酸ジアミドを含有する。
(脂肪酸アミド)
エチレンビスステアリン酸アミドとして、実施例1ではアルフローH50Lを、実施例2ではアルフローH50Sを、実施例3ではアルフローH50Fを、実施例4,7,8及び9ではアルフローH50TFを用いた。アルフローH50L、アルフローH50S、アルフローH50F及びアルフローH50TFは、日油株式会社製であった。なお、これらは、エチレンビスステアリン酸アミドを主成分として含有し、原材料であるジアミン、および脂肪酸等の不純物、ならびに炭素数が14〜16の脂肪酸アミド組成物などを含有する組成物である。
実施例5のエチレンビスミリスチン酸アミドは、脂肪酸としてステアリン酸に代えてミリスチン酸を用いて製造した脂肪酸ジアミドである。実施例6のエチレンビスラウリン酸アミドは、脂肪酸としてラウリン酸を用いて製造した脂肪酸ジアミドである。
比較例2のエチレンビスベヘン酸アミドは、脂肪酸としてベヘン酸を用いて製造した脂肪酸ジアミドである。比較例3のエチレンビスカプリル酸アミドは、脂肪酸としてカプリル酸を用いて製造した脂肪酸ジアミドである。
比較例4では、エチレンビスオレイン酸アミドとして、日油株式会社製のアルフローAD−281Fを用いた。
比較例5,6及び7では、エチレンビスステアリン酸アミドとして、日油株式会社製のアルフローH50TFを用いた。
また、使用した脂肪酸アミド組成物の示差走査熱量測定による、融点とは別の吸熱ピークを下記の通り測定・評価した。
【0094】
(脂肪酸アミドの吸熱ピークの評価方法)
示差走査熱量計(SII社製 DSC6220)により、第一〜第三ステージを順に実行した。脂肪酸アミド化合物起因の吸熱ピークは、第三ステージにおけるDSC曲線から読み取ることができる。
図1には、第三ステージにおけるDSC曲線を示す。
第一ステージ:20℃/分の昇温速度で20℃から200℃まで昇温する。
第二ステージ:20℃/分の降温速度で200℃から20℃まで降温する。
第三ステージ:20℃/分の昇温速度で20℃から200℃まで昇温する。
【0095】
基材にはポリプロピレン(プライムポリマー社製 J715M)を用い、Tダイ法により基材と各粘着剤組成物を共押出成形することで、34μmの厚みの基材層と6μmの厚みの粘着剤層とが積層一体化された、実施例1〜9、および比較例1〜7の表面保護フィルムを成形した。
【0096】
(表面保護フィルムの評価)
上記のようにして得られた各表面保護フィルムについて、以下の項目を評価した。それらの結果を表2に示す。
【0097】
(1)初期粘着力
各表面保護フィルムを、Raが0.44nmの拡散フィルムのレンズ面を覆うように貼り付けた。拡散フィルムとしては、アクリル樹脂からなるものを用意した。貼り付け条件は、室温23℃および相対湿度50%の環境下、それぞれ2kgの圧着ゴムローラーを用いて、300mm/分の速度で貼り付け、その状態で30分間放置した後、JIS Z0237に準拠し、25mm幅における180度剥離強度を300mm/分の速度で測定した。このようにして測定された剥離強度を初期粘着力とした。
【0098】
(2)経時粘着力
各表面保護フィルムを、室温23℃および相対湿度50%の環境下、(1)の初期粘着力評価に用いた拡散フィルムの表面に、それぞれ2kgの圧着ゴムローラーを用いて、300mm/分の速度で貼り付けた。表面保護フィルムを貼り付けた拡散フィルムを60℃、30分放置した。これを室温に取り出し、60分間放置した後、JIS Z0237に準拠し、25mm幅における180度剥離強度を300mm/分の速度で測定した。
このようにして測定された剥離強度を経時粘着力とし、初期粘着力から経時粘着力の変化率(粘着力昂進率)を次式で算出した。
粘着力昂進率=(経時粘着力/初期粘着力)×100
【0099】
<判定基準>
粘着力(初期)
◎(優 ):0.10N/25mm以上
×(不良):0.10N/25mm未満
なお、表中の、「浮き」は、表面保護フィルムと被着体との間に浮きが生じたことを表す。
粘着力昂進率
◎(優 ):400%未満
○(良 ):400%以上600%以下
×(不良):600%超
【0100】
(3)総合評価
◎(優 ):粘着力(初期)および粘着力昂進率の両方が優である。
○(良 ):粘着力(初期)および粘着力昂進率のどちらも不良ではなく、上記「◎(優)」には該当しない
△(やや良):60℃での3日間経過後の粘着力昂進率は不良であるが、40℃での短時間経時ならびに3日間経過後の粘着力昂進率、及び60℃の短時間(30分)経時の粘着力昂進率が優である。
×(不良):粘着力(初期)および粘着力昂進率のいずれかが不良である。
【0101】
【表2】
【0102】
(実施例10〜16、比較例8〜12)
粘着剤組成物の各成分の配合量を表3に記載のようにした以外は、実施例1と同様にして、実施例10〜16、比較例8〜12の表面保護フィルムを成形した。なお、実施例14〜16及び比較例10〜12では、高純度(99%以上)の脂肪酸を用いて合成されたエチレンビスステアリン酸アミドの高純度品を使用した。この組成物では、結晶転移ピークは78℃であった。
【0103】
これらの表面保護フィルムを、実施例1と同様に評価した。経時粘着力については、表面保護フィルムを貼り付けた拡散フィルムを「60℃、30分放置」に加えて、「60℃、3日放置」、「40℃、30分放置」及び「40℃、3日放置」したものについても評価した。結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
(実施例17〜20)
粘着剤組成物の各成分の配合量を表4に記載のようにした以外は、実施例1と同様にして、実施例17〜20の表面保護フィルムを成形した。なお、実施例20で使用した脂肪酸アミドは、下記の合成例2により調製した。
【0106】
(合成例2)
市販のエチレンビスステアリン酸アミドに、酸価が15.0mgKOH/gになるようにステアリン酸を添加して、酸価が15.0mgKOH/gのエチレンビスステアリン酸アミドを調製した。
【0107】
実施例17〜20で得られたフィルムを、
図2に示すように、芯2に巻きつけてロール(原反)状態とした。
図2において、1は、芯2に巻きつけられた表面保護フィルムである。
【0108】
これらのロール(原反)の初期粘着力を前述した方法と同様にして測定した。その後、これらのロール(原反)を、直接オーブンに投入し、40℃、60℃、80℃で各々3時間加熱した後、これを室温に取り出し、60分間放置した後、初期粘着力測定と同様にして粘着力を測定した。このようにして測定された剥離強度を原反経時粘着力とし、原反経時粘着力の低下率を次式で算出した。
粘着力低下率(%)=(1−(原反経時粘着力/初期粘着力))×100
結果を表4に示す。
【0109】
また、使用した脂肪酸アミドの酸価は以下の通り評価した。
(酸価評価方法)
1 飽和脂肪酸アミド2gにトルエン10mLを加えた混合液を、熱板上に滴下した。
2 フェノールフタレイン(特級試薬)1gをエタノール100mLを加えた混合液を熱板上の混合液に加えた。
3 熱板を加熱して混合液に含まれる固形分を完全に溶解させた後、加熱を続けながら0.1mol/L 水酸化カリウム・エタノール標準液を混合液に滴下して滴定した。液の微紅色が30秒間続いた時を終点とした。
4 以下の式で酸価を算出した。
酸価=(5.611×0.1×A)/2
(Aは、0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール標準液の使用量(mL)である。)
【0110】
【表4】
【0111】
上記実施例及び比較例で使用した脂肪酸アミド組成物は、何れも、1種または2種以上の脂肪酸アミド化合物の合計含有量が90重量%以上であった。表2,3から明らかなように、用いた脂肪酸アミドの結晶転移ピーク(融点とは別の吸熱ピーク)が40〜80℃の範囲内にあり、かつ、用いた脂肪酸アミド化合物の総含有量が、重合体(i)および重合体(ii)の合計重量(共重合体組成物の重量)100重量部に対して、0.3〜2重量部である場合、粘着力(初期)および粘着力昂進率の両方に優れる表面保護フィルムが得られた。特に、結晶転移ピーク(融点とは別の吸熱ピーク)が60〜80℃の範囲内にある場合には、高温状態で長時間の養生(例えば60℃条件下で3日以上)した場合でも、粘着昂進抑制効果を発揮した。また、使用した脂肪酸アミドの酸価が8.5mgKOH/g以下の場合に、優れた粘着昂進抑制効果に加えて、原反経時粘着力の低下が少ないという、より優れた効果が得られた。