(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態である車両用駆動装置10を示す概略図である。
図1に示すように、車両用駆動装置10は、エンジン11、トルクコンバータ12、前後進切換機構13、常閉クラッチ(摩擦係合機構)14および無段変速機15を有している。エンジン11と無段変速機15とは、トルクコンバータ12、前後進切換機構13および常閉クラッチ14を介して連結されている。また、無段変速機15には、ギヤ列16およびデファレンシャル機構17を介して前輪(駆動輪)18fが連結されるとともに、ギヤ列16およびトランスファクラッチ19を介して後輪(駆動輪)18rが連結されている。
【0014】
車両用駆動装置10はアイドリングストップ機能を有しており、所定の停止条件が成立したときにはエンジン11を自動的に停止させる一方、所定の始動条件が成立したときにはエンジン11を自動的に再始動させている。エンジン11の停止条件としては、例えば、停車状態(車速=0km/h)であり、且つブレーキペダルが踏み込まれること等が挙げられる。また、エンジン11の始動条件としては、例えば、ブレーキペダルの踏み込みが解除されることや、アクセルペダルが踏み込まれること等が挙げられる。なお、エンジン11を始動回転させるスタータモータとしては、始動時にピニオンが突出してエンジン11の図示しないリングギヤに噛み合う方式のスタータモータであっても良く、一方向クラッチを介してリングギヤに噛み合う常時噛合方式のスタータモータであっても良い。さらに、オルタネータをスタータモータとして機能させても良い。
【0015】
エンジン11に連結されるトルクコンバータ12は、クランク軸20に連結されるポンプインペラ21と、このポンプインペラ21に対向するとともにタービン軸22に連結されるタービンランナ23とを備えている。なお、トルクコンバータ12には、フロントカバー24とタービンランナ23とを直結するロックアップクラッチ25が設けられている。また、無段変速機15は、プライマリ軸30とこれに平行となるセカンダリ軸31とを有している。プライマリ軸30にはプライマリプーリ32が設けられており、プライマリプーリ32の背面側にはプライマリ油室33が区画されている。また、セカンダリ軸31にはセカンダリプーリ34が設けられており、セカンダリプーリ34の背面側にはセカンダリ油室35が区画されている。さらに、プライマリプーリ32およびセカンダリプーリ34には駆動チェーン36が巻き掛けられている。プライマリ油室33およびセカンダリ油室35の油圧を調整することにより、プーリ溝幅を変化させて駆動チェーン36の巻き付け径を変化させることが可能となる。
【0016】
トルクコンバータ12から無段変速機15にエンジン動力を伝達するため、トルクコンバータ12と無段変速機15との間には、前後進切換機構13および常閉クラッチ14が設けられている。前後進切換機構13は、タービン軸22に連結される前後進入力軸40と、常閉クラッチ14に連結される前後進出力軸41とを備えている。また、前後進切換機構13は、ダブルピニオン式の遊星歯車列42、前進クラッチ(電動係合機構)43および後退ブレーキ(電動係合機構)44を備えている。前後進切換機構13の遊星歯車列42は、前後進入力軸40に固定されるサンギヤ45と、これの径方向外方に配置されるリングギヤ46とを備えている。サンギヤ45とリングギヤ46との間には相互に噛み合う一対のピニオンギヤ47,48が複数設けられている。サンギヤ45とリングギヤ46とを連結するピニオンギヤ47,48はキャリア49によって回転自在に支持されており、このキャリア49は前後進出力軸41に固定されている。
【0017】
前後進切換機構13に設けられる前進クラッチ43は、前後進入力軸40に固定されるクラッチドラム50と、キャリア49に固定されるクラッチハブ51とを備えている。クラッチドラム50とクラッチハブ51との間には複数枚の摩擦板50a,51aが設けられており、摩擦板50aはクラッチドラム50の内周面に支持され、摩擦板51aはクラッチハブ51の外周面に支持されている。また、クラッチドラム50内には摩擦板50a,51aを押圧するピストン52が設けられている。また、前進クラッチ43には、ピストン52を解放方向に付勢するリターンスプリング53が設けられるとともに、ピストン52を締結方向に吸引する電磁石54が設けられている。電磁石54に対して通電を実施することにより、電磁力によってピストン52を締結方向に移動させることができ、前進クラッチ43を締結状態に切り換えることが可能となる。一方。電磁石54に対する通電を遮断することにより、リターンスプリング53のバネ力によってピストン52を解放方向に移動させることができ、前進クラッチ43を解放状態に切り換えることが可能となる。前進クラッチ43を締結状態に切り換えることにより、前後進入力軸40と前後進出力軸41とが直結されるため、前後進入力軸40に入力されるエンジン動力は、回転方向を維持したまま前後進出力軸41に伝達されることになる。なお、図示する前進クラッチ43は、滑り状態に制御されることなく、締結状態と解放状態との2つの状態に切り換えられるクラッチとなっている。
【0018】
また、前後進切換機構13に設けられる後退ブレーキ44は、ケース59に固定されるブレーキドラム60と、リングギヤ46に固定されるブレーキハブ61とを有している。ブレーキドラム60とブレーキハブ61との間には複数枚の摩擦板60a,61aが装着されており、摩擦板60aはブレーキドラム60の内周面に支持され、摩擦板61aはブレーキハブ61の外周面に支持されている。また、ブレーキドラム60内には摩擦板60a,61aを押圧するピストン62が設けられている。また、後退ブレーキ44には、ピストン62を解放方向に付勢するリターンスプリング63が設けられるとともに、ピストン62を締結方向に吸引する電磁石64が設けられている。電磁石64に対して通電を実施することにより、電磁力によってピストン62を締結方向に移動させることができ、後退ブレーキ44を締結状態に切り換えることが可能となる。一方、電磁石64に対する通電を遮断することにより、リターンスプリング63のバネ力によってピストン62を解放方向に移動させることができ、後退ブレーキ44を解放状態に切り換えることが可能となる。後退ブレーキ44を締結状態に切り換えることにより、ケース59に対してリングギヤ46が固定されるため、前後進入力軸40に入力されるエンジン動力は、逆向きの回転方向となって前後進出力軸41に伝達されることになる。なお、図示する後退ブレーキ44は、滑り状態に制御されることなく、締結状態と解放状態との2つの状態に切り換えられるブレーキとなっている。
【0019】
また、常閉クラッチ14は、前後進出力軸41に固定されるクラッチドラム70と、プライマリ軸30に固定されるクラッチハブ71とを備えている。クラッチドラム70とクラッチハブ71との間には複数枚の摩擦板70a,71aが設けられており、摩擦板70aはクラッチドラム70の内周面に支持され、摩擦板71aはクラッチハブ71の外周面に支持されている。また、クラッチドラム70内には摩擦板70a,71aを押圧するピストン72が設けられている。また、ピストン72の一方面側には締結油室73が区画される一方、ピストン72の他方面側には解放油室74が区画されている。さらに、締結油室73にはスプリング(付勢部材)75が組み込まれており、スプリング75によってピストン72は締結方向に付勢されている。なお、締結方向とはピストン72が摩擦板70a,71aに近づく方向であり、後述する解放方向とはピストン72が摩擦板70a,71aから離れる方向である。
【0020】
常閉クラッチ14の締結油室73に作動油を供給して解放油室74から作動油を排出することにより、ピストン72を締結方向に移動させることが可能となる。これにより、摩擦板70a,71aにピストン72を押し当てて摩擦板70a,71aを係合状態とすることができ、常閉クラッチ14を締結状態に切り換えることが可能となる。一方、常閉クラッチ14の締結油室73から作動油を排出して解放油室74に作動油を供給することにより、ピストン72を解放方向に移動させることが可能となる。これにより、摩擦板70a,71aからピストン72を離して摩擦板70a,71aの係合状態を解除することができ、常閉クラッチ14を解放状態に切り換えることが可能となる。また、締結油室73と解放油室74との双方から作動油が排出された場合であっても、ピストン72はスプリング75によって締結方向に付勢されることから、常閉クラッチ14は滑り状態または締結状態に制御される。なお、常閉クラッチ14の滑り状態とは、摩擦板70a,71a間に設定される遊びが無くなる状態であり、摩擦板70a,71a同士が完全に締結される前の所謂半クラッチ状態である。
【0021】
ここで、
図2は車両用駆動装置10の動力伝達径路80を示す概略図である。
図2に示すように、エンジン11と駆動輪18f,18rとの間には、入力側共通径路81、前進伝達径路82、後退伝達径路83、出力側共通径路84を備える動力伝達径路80が設けられている。
図1および
図2に示すように、エンジン11には、トルクコンバータ12や前後進入力軸40等によって構成される入力側共通径路81が接続されている。また、駆動輪18f,18rには、前後進出力軸41、常閉クラッチ14および無段変速機15等によって構成される出力側共通径路84が接続されている。さらに、入力側共通径路81と出力側共通径路84とは、並列となる前進伝達径路82および後退伝達径路83を介して接続されている。前進伝達径路82は前進クラッチ43等によって構成されており、後退伝達径路83は遊星歯車列42や後退ブレーキ44等によって構成されている。このように、エンジン11と駆動輪18f,18rとの間の動力伝達径路80には、常閉クラッチ14、前進クラッチ43および後退ブレーキ44が設けられている。
【0022】
車両を前進走行させる際には、前進伝達径路82に設けられる前進クラッチ43が締結状態に切り換えられ、後退伝達径路83に設けられる後退ブレーキ44が解放状態に切り換えられる。また、出力側共通径路84に設けられる常閉クラッチ14は締結状態に切り換えられる。これにより、エンジン動力は、切断された後退伝達径路83を迂回するように、入力側共通径路81、前進伝達径路82および出力側共通径路84を経て駆動輪18f,18rに伝達されることになる。一方、車両を後退走行させる際には、前進伝達径路82に設けられる前進クラッチ43が解放状態に切り換えられ、後退伝達径路83に設けられる後退ブレーキ44が締結状態に切り換えられる。また、出力側共通径路84に設けられる常閉クラッチ14は締結状態に切り換えられる。これにより、エンジン動力は、切断された前進伝達径路82を迂回するように、入力側共通径路81、後退伝達径路83および出力側共通径路84を経て駆動輪18f,18rに伝達されることになる。
【0023】
ここで、
図3は車両用駆動装置10の一部を制御系とともに示す概略図である。
図3に示すように、車両用駆動装置10には、前進クラッチ43や後退ブレーキ44の電磁石54,64に対する通電電流を生成するため、駆動回路部90が設けられている。また、車両用駆動装置10には、常閉クラッチ14等に対して作動油を供給するため、トロコイドポンプ等のオイルポンプ91が設けられている。また、常閉クラッチ14の締結油室73および解放油室74に作動油を供給制御するため、車両用駆動装置10内には複数のソレノイドバルブを備えたバルブユニット92が設けられている。オイルポンプ91とバルブユニット92とは油路93を介して接続されており、オイルポンプ91から吐出される作動油はバルブユニット92を経て常閉クラッチ14等に供給される。オイルポンプ91には従動スプロケット94bが連結されており、トルクコンバータ12のポンプインペラ21には駆動スプロケット94aが連結されている。また、駆動スプロケット94aと従動スプロケット94bとはチェーン94cを介して連結されている。このように、エンジン11とオイルポンプ91とは連結されており、オイルポンプ91はエンジン11によって駆動されている。なお、オイルポンプ91から吐出される作動油は、バルブユニット92を経てトルクコンバータ12や無段変速機15にも供給されている。
【0024】
また、エンジン11、前進クラッチ43、後退ブレーキ44、駆動回路部90、バルブユニット92等を制御するため、車両用駆動装置10には制御手段として機能する制御ユニット95が設けられている。この制御ユニット95には、セレクトレバー96の操作(セレクト操作)を検出するインヒビタスイッチ97、アクセルペダルの操作量(アクセル操作量)を検出するアクセルペダルセンサ98、ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキペダルセンサ99、イグニッションスイッチ100、前後進出力軸41の回転数つまり常閉クラッチ14の入力回転数(入力回転速度)を検出する入力回転数センサ101、プライマリ軸30の回転数つまり常閉クラッチ14の出力回転数(出力回転速度)を検出する出力回転数センサ102等が接続されている。そして、制御ユニット95は、各種センサ等からの情報に基づき車両状態を判定し、エンジン11、前進クラッチ43、後退ブレーキ44、駆動回路部90、バルブユニット92等に対して制御信号を出力する。また、
図3に示すように、運転手に操作されるセレクトレバー96は、Pレンジ(駐車レンジ)、Nレンジ(ニュートラルレンジ,中立レンジ)、Dレンジ(前進レンジ,走行レンジ)、Rレンジ(後退レンジ,走行レンジ)に操作可能となっている。また、制御ユニット95は、制御信号等を演算するCPUを備えるとともに、制御プログラム、演算式、マップデータ等を格納するROMや、一時的にデータを格納するRAMを備えている。
【0025】
続いて、制御ユニット95によって実行される常閉クラッチ14、前進クラッチ43および後退ブレーキ44の切換制御について説明する。
図4は常閉クラッチ14、前進クラッチ43および後退ブレーキ44の切換制御の手順を示すフローチャートである。なお、
図4に示すフローチャートは、PレンジまたはNレンジにセレクト操作された状態から開始されるフローチャートとなっている。また、
図5はエンジン作動時においてPレンジまたはNレンジにセレクト操作を行った際に実行されるクラッチ解放処理の手順を示すフローチャートである。さらに、
図6(a)〜(c)は、エンジン作動時における常閉クラッチ14、前進クラッチ43および後退ブレーキ44の作動状態を示す概略図である。さらに、
図7(a)〜(c)は、エンジン停止時における常閉クラッチ14、前進クラッチ43および後退ブレーキ44の作動状態を示す概略図である。
【0026】
図4に示すように、ステップS1では、エンジン11が作動しているか否かが判定される。ステップS1において、エンジン11が作動していると判定された場合には、ステップS2に進み、セレクトレバー96がDレンジに操作されているか否かが判定される。ステップS2において、Dレンジにセレクト操作が為されていると判定された場合には、ステップS3に進み、常閉クラッチ14の解放油室74に作動油が供給され、常閉クラッチ14が解放状態に切り換えられる。続くステップS4では、常閉クラッチ14の解放が完了したか否かが判定される。ステップS4において、常閉クラッチ14の解放が完了したと判定された場合には、ステップS5に進み、電磁石54に対する通電によって前進クラッチ43が締結される一方、電磁石64に対する通電遮断によって後退ブレーキ44が解放される。そして、ステップS6に進み、常閉クラッチ14の締結油室73に作動油が供給され、常閉クラッチ14が締結状態に切り換えられる。
【0027】
このように、エンジン11が作動するとともに、Dレンジにセレクト操作が為されている状況では、前進クラッチ43を締結することで前進伝達径路82が接続され、後退ブレーキ44を解放することで後退伝達径路83が切断され、常閉クラッチ14を締結することで出力側共通径路84が接続される。これにより、
図6(a)に示すように、エンジン動力は入力側共通径路81、前進伝達径路82および出力側共通径路84を経て駆動輪18f,18rに伝達され、エンジン動力によって駆動輪18f,18rを前進方向に回転させることが可能となる。また、常閉クラッチ14を解放した状態のもとで、前進クラッチ43や後退ブレーキ44を切り換えることにより、前進クラッチ43や後退ブレーキ44の切り換え動作に伴うショックが抑制されている。
【0028】
また、ステップS2において、Dレンジにセレクト操作が為されていないと判定された場合には、ステップS7に進み、セレクトレバー96がRレンジに操作されているか否かが判定される。ステップS7において、Rレンジにセレクト操作が為されていると判定された場合には、ステップS8に進み、常閉クラッチ14の解放油室74に作動油が供給され、常閉クラッチ14が解放状態に切り換えられる。続くステップS9では、常閉クラッチ14の解放が完了したか否かが判定される。ステップS9において、常閉クラッチ14の解放が完了したと判定された場合には、ステップS10に進み、電磁石64に対する通電によって後退ブレーキ44が締結される一方、電磁石54に対する通電遮断によって前進クラッチ43が解放される。そして、ステップS11に進み、常閉クラッチ14の締結油室73に作動油が供給され、常閉クラッチ14が締結状態に切り換えられる。
【0029】
このように、エンジン11が作動するとともに、Rレンジにセレクト操作が為されている状況では、前進クラッチ43を解放することで前進伝達径路82が切断され、後退ブレーキ44を締結することで後退伝達径路83が接続され、常閉クラッチ14を締結することで出力側共通径路84が接続される。これにより、
図6(b)に示すように、エンジン動力は入力側共通径路81、後退伝達径路83および出力側共通径路84を経て駆動輪18f,18rに伝達され、エンジン動力によって駆動輪18f,18rを後退方向に回転させることが可能となる。また、常閉クラッチ14を解放した状態のもとで、前進クラッチ43や後退ブレーキ44を切り換えることにより、前進クラッチ43や後退ブレーキ44の切り換え動作に伴うショックが抑制されている。
【0030】
また、ステップS7において、Rレンジにセレクト操作が為されていないと判定された場合、つまりNレンジまたはPレンジにセレクト操作が為されている場合には、ステップS12に進み、常閉クラッチ14、前進クラッチ43および後退ブレーキ44を解放するクラッチ解放処理が実行される。ここで、
図5に示すように、クラッチ解放処理を実行する際には、まずステップS21において、常閉クラッチ14の締結油室73から作動油が排出されるとともに、常閉クラッチ14の解放油室74に作動油が供給され、常閉クラッチ14の解放状態に向けた切り換えが開始される。続くステップS22では、常閉クラッチ14の解放が完了したか否かが判定される。このステップS22では、常閉クラッチ14の入力回転数と出力回転数とを比較することにより、常閉クラッチ14が解放状態に切り換えられたか否かを判定している。すなわち、入力回転数と出力回転数との回転数差が所定値を下回る場合には、常閉クラッチ14が締結状態または滑り状態であると判定される一方、入力回転数と出力回転数との回転数差が所定値を上回る場合には、常閉クラッチ14が解放状態であると判定されることになる。なお、常閉クラッチ14が解放状態に切り換えられたか否かを判定する方法としては、入力回転数および出力回転数を用いた方法に限られることはない。例えば、締結油室73や解放油室74の油圧を用いて常閉クラッチ14の作動状態を判定しても良く、ピストン72の作動位置から常閉クラッチ14の作動状態を判定しても良い。
【0031】
ステップS22において、常閉クラッチ14が解放状態に切り換えられていると判定された場合には、ステップS23に進み、電磁石54に対する通電遮断によって前進クラッチ43が解放されるとともに、電磁石64に対する通電遮断によって後退ブレーキ44が解放される。このように、常閉クラッチ14が解放された状態のもとで、前進クラッチ43や後退ブレーキ44を解放するようにしたので、前進クラッチ43や後退ブレーキ44の解放動作に伴うショックを抑制することが可能となる。一方、ステップS22において、常閉クラッチ14が解放状態に切り換えられていない場合、つまり常閉クラッチ14が締結状態または滑り状態であると判定された場合には、ステップS24に進み、運転手のアクセル操作量が所定値を超えるか否かが判定される。ステップS24において、アクセル操作量が所定値を超えないと判定された場合には、再びステップS22に戻り、常閉クラッチ14が解放状態に切り換えられたか否かが判定される。一方、ステップS24において、アクセル操作量が所定値を超えたと判定された場合には、ステップS23に進み、前進クラッチ43および後退ブレーキ44が解放される。すなわち、常閉クラッチ14が解放状態に切り換えられる前に、アクセル操作量が所定値を超えた場合には、常閉クラッチ14の解放を待つことなく、前進クラッチ43および後退ブレーキ44が解放されることになる。なお、アクセル操作量と比較判定される所定値は、固定値であっても良く、変動値であっても良い。
【0032】
これまで説明したように、エンジン作動時にNレンジまたはPレンジにセレクト操作が為された場合には、
図6(c)に示すように、常閉クラッチ14、前進クラッチ43および後退ブレーキ44が解放される。これにより、エンジン11と駆動輪18f,18rとが切り離され、車両用駆動装置10はニュートラル状態に制御される。さらに、前述したように、常閉クラッチ14、前進クラッチ43および後退ブレーキ44を解放するクラッチ解放制御においては、運転手のアクセル操作量に基づいて前進クラッチ43や後退ブレーキ44の解放タイミングを制御している。
【0033】
すなわち、エンジン作動時にNレンジにセレクト操作が為された場合に、アクセル操作量が所定値を超えない場合には、常閉クラッチ14が解放状態に切り換えられた後に、前進クラッチ43または後退ブレーキ44を解放状態に切り換えている。これにより、前進クラッチ43や後退ブレーキ44の解放動作に伴うショックを抑制することが可能となる。一方、アクセル操作量が所定値を超えた場合には、常閉クラッチ14が解放状態に切り換えられる前に、前進クラッチ43または後退ブレーキ44を解放状態に切り換えている。これにより、エンジン作動時におけるNレンジへのセレクト操作直後に、アクセルペダルが踏み込まれてエンジン回転数が上昇する状況であっても、ショックの発生を抑制することが可能となる。すなわち、アクセルペダルが踏み込まれた場合には、常閉クラッチ14の解放を待つことなく、前進クラッチ43や後退ブレーキ44が解放されることから、エンジントルクが駆動輪18f,18r側に伝達されることがなく、ショックの発生を抑制することが可能となる。
【0034】
次いで、
図4に示すように、ステップS1において、エンジン11が作動していないと判定された場合には、ステップS13に進み、セレクトレバー96がDレンジに操作されているか否かが判定される。ステップS13において、Dレンジにセレクト操作が為されていると判定された場合には、ステップS14に進み、電磁石54に対する通電によって前進クラッチ43が締結される一方、電磁石64に対する通電遮断によって後退ブレーキ44が解放される。このように、アイドリングストップ等によってエンジン11が停止するとともに、Dレンジにセレクト操作が為されている状況では、
図7(a)に示すように、前進クラッチ43を締結することで前進伝達径路82が接続され、後退ブレーキ44を解放することで後退伝達径路83が切断される。また、アイドリングストップによってオイルポンプ91が停止しているが、常閉クラッチ14はバネ力によって滑り状態または締結状態に保持されている。このように、制御油圧が低下しても常閉クラッチ14が解放されることはなく、エンジン再始動時の急速な油圧上昇による常閉クラッチ14の締結ショックを抑制することが可能となる。
【0035】
また、ステップS13において、Dレンジにセレクト操作が為されていないと判定された場合には、ステップS15に進み、セレクトレバー96がRレンジに操作されているか否かが判定される。ステップS15において、Rレンジにセレクト操作が為されていると判定された場合には、ステップS16に進み、電磁石64に対する通電によって後退ブレーキ44が締結される一方、電磁石54に対する通電遮断によって前進クラッチ43が解放される。このように、アイドリングストップ等によってエンジン11が停止するとともに、Rレンジにセレクト操作が為されている状況では、
図7(b)に示すように、前進クラッチ43を解放することで前進伝達径路82が切断され、後退ブレーキ44を締結することで後退伝達径路83が接続される。また、アイドリングストップによってオイルポンプ91が停止しているが、常閉クラッチ14はバネ力によって滑り状態または締結状態に保持されている。このように、制御油圧が低下しても常閉クラッチ14が解放されることはなく、エンジン再始動時の急速な油圧上昇による常閉クラッチ14の締結ショックを抑制することが可能となる。
【0036】
また、ステップS15において、Rレンジにセレクト操作が為されていないと判定された場合、つまりNレンジまたはPレンジにセレクト操作が為されている場合には、ステップS17に進み、電磁石54,64に対する通電遮断によって前進クラッチ43および後退ブレーキ44が共に解放される。このように、アイドリングストップ等によってエンジン11が停止するとともに、NレンジまたはPレンジにセレクト操作が為されている状況では、
図7(c)に示すように、電動の前進クラッチ43および後退ブレーキ44が解放される。これにより、常閉クラッチ14を解放するための制御油圧を得ることができないエンジン停止時においても、中立レンジであるNレンジにセレクト操作が為された場合には、エンジン11と駆動輪18f,18rとを切り離すことができ、車両用駆動装置10をニュートラル状態に制御することが可能となる。
【0037】
これまで説明したように、動力伝達径路80に常閉クラッチ14を設けるとともに、この常閉クラッチ14にスプリング75を組み込んでピストン72を係合方向に付勢している。これにより、DレンジやRレンジにセレクト操作が為された状態のもとで、アイドリングストップが実行されて制御油圧が低下した場合であっても、常閉クラッチ14が滑り状態または締結状態に保持されるため、エンジン再始動時の急速な油圧上昇による常閉クラッチ14の締結ショックを抑制することが可能となる。これにより、前進時および後退時の双方でアイドリングストップを実行する場合であっても、エンジン再始動時の締結ショックを抑制することが可能となる。
【0038】
また、動力伝達径路80に電動の前進クラッチ43および後退ブレーキ44を設けるようにしている。これにより、エンジン停止時であってもセレクトレバー96をNレンジに操作することにより、前進クラッチ43および後退ブレーキ44を解放してエンジン11と駆動輪18f,18rとを切り離すことが可能となる。すなわち、常閉クラッチ14を解放するためには制御油圧が必要であることから、オイルポンプ91が停止するエンジン停止時においては、常閉クラッチ14を解放することが不可能となっていた。そこで、本発明の車両用駆動装置10においては、動力伝達径路80に電動の前進クラッチ43および後退ブレーキ44を設けるようにしている。これにより、常閉クラッチ14を解放できないエンジン停止時であっても、車両用駆動装置10をニュートラル状態に制御することができ、車両の牽引作業等を安全に行うことが可能となる。
【0039】
さらに、常閉クラッチ14を解放する際には、スプリング75のバネ力に抗してピストン72を解放方向に移動させる必要がある。すなわち、制御油圧の供給状態によっては、常閉クラッチ14の解放に時間的な遅れが生じるおそれがある。このため、本発明の車両用駆動装置10においては、エンジン作動時にNレンジにセレクト操作が為された場合に、アクセル操作量が所定値を超えた場合には、常閉クラッチ14の解放を待つことなく、前進クラッチ43または後退ブレーキ44を解放状態に切り換えている。これにより、エンジン作動時にNレンジにセレクト操作が為された直後に、アクセルペダルが踏み込まれてエンジン回転数が上昇する状況であっても、動力伝達径路80を切断してショックの発生を抑制することが可能となる。
【0040】
前述の説明では、常閉クラッチ14を出力側共通径路84に設けているが、これに限られることはなく、常閉クラッチ14を入力側共通径路81に設けても良い。また、摩擦係合機構として常閉クラッチ14を挙げているが、これに限られることはなく、前進クラッチ43や後退ブレーキ44にスプリング75を組み込むことで、前進クラッチ43や後退ブレーキ44を摩擦係合機構として機能させても良い。この場合には、入力側共通径路81や出力側共通径路84に電動係合機構が設けられることになる。
【0041】
また、前述の説明では、摩擦クラッチや摩擦ブレーキによって前進クラッチ43や後退ブレーキ44を構成しているが、これに限られることはなく、ドグクラッチやシンクロメッシュ機構と呼ばれる噛合クラッチや噛合ブレーキを用いて前進クラッチ43や後退ブレーキ44を構成しても良い。さらに、前述の説明では、前進クラッチ43および後退ブレーキ44は、締結状態と解放状態との2つの状態に切り換えられるクラッチやブレーキであるが、これに限られることはなく、滑り状態に制御可能なクラッチおよびブレーキを採用しても良い。
【0042】
また、前進クラッチ43および後退ブレーキ44は、通電によって締結状態に切り換えられる一方、通電遮断によって解放状態に切り換えられているが、これに限られることはなく、通電遮断によって締結状態に切り換えるとともに、通電によって解放状態に切り換えても良い。さらに、前進クラッチ43や後退ブレーキ44に電磁石54,64を組み込むことなく、電動アクチュエータを用いて前進クラッチ43や後退ブレーキ44を締結状態や解放状態に切り換えるようにしても良い。
【0043】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、図示する場合には、無段変速機15よりもエンジン11側に、常閉クラッチ14、前進クラッチ43および後退ブレーキ44を設けているが、これに限られることはなく、無段変速機15よりも駆動輪18f,18r側に、常閉クラッチ14、前進クラッチ43および後退ブレーキ44を設けても良い。また、前述の説明では、運転手に操作される操作部としてセレクトレバー96を挙げているが、これに限られることなく、パドルを用いてセレクト操作が行われるパドル式の操作部、ダイヤルを用いてセレクト操作が行われるダイヤル式の操作部、または押ボタンを用いてセレクト操作が行われる押ボタン式の操作部を採用しても良い。また、図示する車両用駆動装置10は、四輪駆動用の車両用駆動装置であるが、これに限られることなく、前進駆動用や後輪駆動用の車両用駆動装置であっても良い。