特許第5879141号(P5879141)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5879141ハードコート層を備えた物品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5879141
(24)【登録日】2016年2月5日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】ハードコート層を備えた物品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/04 20060101AFI20160223BHJP
【FI】
   C23C24/04
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-22344(P2012-22344)
(22)【出願日】2012年2月3日
(65)【公開番号】特開2013-159816(P2013-159816A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠
(72)【発明者】
【氏名】新野 史
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−071681(JP,A)
【文献】 特開2006−130703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56,24/00−30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な樹脂基板の表面をプラズマにさらすことにより密着処理層を形成する工程と、
前記密着処理層の上にプラズマCVD法により、透明な硬質無機材料層を下地層として形成する工程と、
前記下地層の上に、エアロゾルデポジション法により、透明な無機材料層をハードコート層として形成する工程とを有し、
前記ハードコート層の形成工程は、硬質無機材料の粒子と二酸化チタンの粒子とを含むエアロゾルを、前記下地層に衝突させて、前記硬質無機材料により形成された基材中に前記二酸化チタン粒子が分散した構造の膜を前記ハードコート層として形成することを特徴とするハードコート層を備えた物品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のハードコート層を備えた物品の製造方法において、前記密着処理層の形成工程で用いる前記プラズマは酸素プラズマであることを特徴とするハードコート層を備えた物品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハードコート層を備えた物品の製造方法において、前記下地層は、酸化ケイ素層であることを特徴とするハードコート層を備えた物品の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のハードコート層を備えた物品の製造方法において、前記プラズマCVD法は、直流アーク放電プラズマを用いるCVD法であることを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の物品表面にハードコート層を形成した構造に関し、特に、透明な樹脂製物品でハードコート層を備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用灯具のレンズや車両用窓や一般用窓等に、ポリカーボネート等の透光性樹脂基材が用いられている。樹脂基材は、紫外線に対する耐久性が低く、ガラスと比較して傷つきやすいものが多いため、特許文献1の発明では、紫外線を吸収する膜として酸化チタン膜を透光性樹脂基材上に配置し、さらにその上に、保護膜として酸化ケイ素膜をプラズマCVD法により配置した構成が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、ガラスや樹脂の透明基板上に、0.2〜2μmの脆性無機質微粒子のエアロゾルを吹き付けるエアロゾルデポジション法により、基板加熱なしで透明な無機質膜を形成する技術が開示されている。無機質微粒子としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、SiO、MgB等を用いることができると記載されている。しかしながら、特許文献2の段落0014には、エアロゾルデポジション法により樹脂基板が削られる現象や、膜厚が1μm以上にならないという現象が生じることも開示されている。これらの現象には、樹脂基板の特性が影響しているとして、樹脂基板の硬度のばらつきを測定し開示している。成膜条件を制御することで、すべての樹脂基板にアルミナ膜の成膜が可能であると記載しているが、どの条件をどのように制御するのか具体的な開示はない。
【0004】
一方、特許文献3には、エアロゾルデポジション法により樹脂基板上に脆性材料粒子を衝突させて脆性材料膜を形成する場合、樹脂が弾性に富む場合には粒子が跳ね返されてうまく成膜できず、樹脂が比較的硬く塑性に乏しい場合には粒子の衝突により樹脂が削られてうまく成膜できないという問題が開示されている。これを解決するため、特許文献3では、下地層を樹脂の表面に形成することを提案している。下地層の形成方法としては、樹脂の表面に脆性材料(酸化アルミニウム)粒子層を塗布法により形成した後、樹脂をガラス転移温度まで加熱して軟化させ、酸化アルミニウム微粒子層を押圧して軟化した樹脂表面に食い込ませて冷却する方法や、延性材料層をCVD法やメッキ法等により樹脂表面に形成する形成する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−45160号公報
【特許文献2】特開2006−130703号公報
【特許文献3】特開2003−34003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両用灯具のレンズや車両用窓等の高い透光性と高い耐久性が要求される樹脂基板上にハードコート層を形成する場合、ハードコート層として透明性と大きな硬度が必要とされる。そのため、厚く、透明性の高いハードコート層が要求される。しかし、エアロゾルデポジション法で樹脂基板上にハードコート層を形成しようとすると、特許文献2,3に記載のように、粒子が樹脂に跳ね返されたり、粒子が樹脂を削ったりするため、安定して厚いハードコート層を形成することは難しい。
【0007】
そのため、樹脂基板上に下地層を形成することが考えられるが、特許文献3のように樹脂を軟化させ、脆性材料粒子を食い込ませて下地層を形成する方法は、樹脂をガラス転移温度まで加熱する必要があり、樹脂の劣化や透明性低下の可能性がある。一方、延性材料をCVD法やメッキ法により成膜して下地層とする方法は、延性材料のほとんどは金属であり、透光性が低下するため、透明な物品に採用することが難しい。
【0008】
本発明の目的は、透明樹脂基材上に、エアロゾルデポジション法により厚いハードコート層を備えた物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明によれば、透明な樹脂基板の表面をプラズマにさらすことにより密着処理層を形成する工程と、密着処理層の上にプラズマCVD法により、透明な硬質無機材料層を下地層として形成する工程と、下地層の上に、エアロゾルデポジション法により、透明な無機材料層をハードコート層として形成する工程とを有するハードコート層を備えた物品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、プラズマ処理により密着処理層を形成した後、透明な硬質無機材料層を下地層として形成することにより、透明で、エアロゾルデポジションに耐えられる下地層を形成できる。よって、透明樹脂基材上に、エアロゾルデポジション法により厚いハードコート層を備えた物品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の物品の断面構成を示すブロック図。
図2】実施形態で用いる直流アーク放電を用いる成膜装置の構成を示すブロック図。
図3】実施形態で用いるエアロゾルデポジション装置の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について具体的に説明する。
【0013】
本実施形態の透明物品を図1を用いて説明する。この透明物品は、優れた透明性および所定の光学特性を長期間維持でき、耐久性に優れた特性が要求される透明物品である。例えば、ヘッドランプやテールランプ等の車両用灯具の樹脂カバーやレンズ、自動車や列車や飛行機等の車両用窓、建造物の窓等である。
【0014】
具体的には、本発明の透明物品は、図1のように透明な樹脂基板1と、その表面を形成されたプラズマ処理層(以下、密着処理層とも呼ぶ)2と、密着処理層2上に配置された透明な硬質無機材料層からなる下地層3と、下地層3の上に配置された透明なハードコート層4とを備える。
【0015】
樹脂基板1は、例えばポリカーボネートで形成されたものを用いる。樹脂基板1の形状は、図1では板状のものを示しているが、この形状に限らず、製品に必要とされる所望の形状に形成する。
【0016】
本発明の透明物品は、以下のような製造方法により製造することができる。
【0017】
まず、透明な樹脂基板1の表面をプラズマにさらすことにより密着処理層2を形成する。つぎに、密着処理層2の上にプラズマCVD法により、透明な硬質無機材料層を下地層3として形成する。下地層3の上に、エアロゾルデポジション法により、透明な無機材料層をハードコート層4として形成する。
【0018】
このように密着処理層2と下地層3を形成するのは以下のような理由による。エアロゾルデポジション法でハードコート層4を安定して形成するためには、樹脂基板1によるエアロゾル中の粒子の跳ね返りや、粒子により樹脂基板1が削られる現象を防止する必要がある。本発明では透明な硬質無機材料で形成された下地層3を樹脂基板1の表面に形成する。下地層3は、特許文献3に記載されているように樹脂を軟化させて粒子を食い込ませる方法により形成すると樹脂基板を劣化させる可能性があるため、本発明では、樹脂基板1を加熱せずに、プラズマCVD法を用いて透明な硬質材料の下地層3を形成する。プラズマCVD法を用いることにより、基板加熱なしで透明な硬質材料の下地層3を形成することが可能である。特に、直流アーク放電プラズマを用いるプラズマCVD法は、成膜速度が大きいため短時間で、厚い透明硬質材料膜を下地層3として形成することができるため好適である。
【0019】
下地層3は、ハードコート層4を形成時のエアロゾルデポジション法で粒子の衝突固化が可能な硬度を有し、しかも、衝突固化時に樹脂基板1には影響を及ぼさないように、材質および膜厚を選択する。例えば、下地層3を構成する透明な硬質材料としては、無機材料であることが望ましく、酸化ケイ素(特にSiO)や、Alを用いることができる。また、下地層3の膜厚は、100nm以上1μm以下であることが望ましい。
【0020】
しかしながら、硬質材料の厚膜の下地層3は、樹脂基板1上に直接形成しようとすると膜剥がれを生じ、エアロゾルデポジションの下地層として作用を果たすことができない。そこで、本発明では、プラズマ処理により密着処理層2を樹脂基板1の表面に配置している。
【0021】
樹脂基板1の表面をプラズマにさらすことにより、樹脂基板1の清浄な面が露出されるとともに、凹凸が形成されるため、膜剥がれを生じさせることなく樹脂基板1の上に厚い無機硬質材料の下地層3を形成することができる。
【0022】
プラズマは、酸素プラズマやArプラズマを用いることが可能であるが、特に酸素プラズマは、ポリカーボネートからなる樹脂基板1を化学的にエッチングするため好ましい。
【0023】
このようにして形成した密着処理層2および下地層3の上に、エアロゾルデポジション法により、硬質無機材料粒子のエアロゾルを吹き付け、粒子を常温で衝突固化させることにより、粒子が積み重なった結晶構造を有する、厚く透明な硬質無機材料層をハードコート層4として形成する。例えば、酸化ケイ素、アルミナおよび酸化ジルコニウムの粒子を1種以上を用いることにより、これらのうちいずれかの単層膜または2以上の混合膜、または積層膜をハードコート層4として形成することができる。
【0024】
この時、エアロゾルに硬質無機材料の粒子のみならず、紫外線吸収特性を有する粒子を含有させることにより、エアロゾル中の2種類の粒子が下地層3に衝突固化し、硬質無機材料基材中に紫外線吸収粒子が分散した膜をハードコート層4として形成することも可能である。紫外線吸収特性を有する粒子としては、酸化チタン(TiO)、In、ZnO等の粒子を用いることができる。例えば、SiO基材中にTiO粒子が分散したハードコート層4を形成することができる。これにより、紫外線吸収機能を備えたハードコート層4を1層で実現することができる。
【0025】
以下、本発明のハードコート層を備えた物品の製造方法の具体例について説明する。ここでは、密着処理層2および下地層3をいずれも図2に示す直流アーク放電プラズマを用いる成膜装置により形成する例について説明する。
【0026】
図2のように、この成膜装置は、成膜室11とプラズマガン10を備える。成膜室11内には、樹脂基板1を支持する基板ホルダー13と、材料ガス導入管17が配置されている。基板1と材料ガス導入管17との間には、反応ガスを供給するための反応ガス導入管15が配置されている。
【0027】
成膜室11の側面にはプラズマガン10が備えられている。プラズマガン10は、筒状のプラズマガン容器103に、カソード51、第1中間電極52、第2中間電極53、アノード54をプラズマ引き出し軸101に沿って順に配置した構造である。カソード51、第1中間電極52、第2中間電極53、アノード54は不図示のガイシによって相互に絶縁されている。アノード54の外周側には、プラズマをガイドするための空芯コイル55が配置されている。カソード51は、アーク放電に適した公知のカソード構造である。カソード51には放電ガスの導入口102が備えられている。
【0028】
第1および第2中間電極52、53、ならびに、アノード54は、それぞれ中央に所定の径の貫通孔(オリフィス)52a,53a、54aを有している。この貫通孔52a,53a、54aが、プラズマガン容器103の圧力を成膜室11よりも陽圧に維持し、圧力勾配を形成する。
【0029】
密着処理層2および下地層3を形成時の手順は以下の通りである。まず、プラズマガン10の内部および成膜室11内を所定の圧力まで排気する。プラズマガン10にArガス、Heガス等の放電ガスを供給し、直流電源16からカソード51、第1および第2の中間電極52,53ならびにアノード54に電圧を印加する。これにより、カソード51にグロー放電を生じさせ、その後、アーク放電に移行させる。プラズマガン10のアーク放電は、貫通孔52a、53a、54aを通過して成膜室11内に引き出され、放電電子が空間電荷によって反射されてアノード54に戻る。これにより均質な直流アーク放電プラズマ105を成膜室11内に発生させることができる。
【0030】
この状態で反応ガス導入管15から酸素を導入することにより、酸素プラズマ105を生成することができる。酸素プラズマ105に基板1の表面をさらすことにより、密着処理層2を形成する。例えば、処理条件は、放電電流20A、酸素ガス流量50sccm、プラズマに基板1をさらす処理時間を1分間、に設定して密着処理層2を形成する。
【0031】
樹脂基板1を装置から取り出すことなく、続けて下地層3を成膜する。材料ガス導入管17からヘキサメチルジシロキサンを30sccm、反応ガス導入管15から酸素ガスを20sccm導入し、放電電流20Aで直流アーク放電プラズマ105を生じさせる。これによりプラズマ重合反応を生じさせてプラズマCVDにより、基板1上に下地膜3としてSiO膜を形成することができる。膜厚は、例えば、100nmから1μmの範囲に成膜する。
【0032】
このように直流アーク放電プラズマCVD法を用いることにより樹脂基板1を加熱することなく、しかも、成膜速度が大きいため短時間で下地層3としてSiO層を形成することができる。
【0033】
次に、図2の装置から樹脂基板1を取り出し、下地層3の上にハードコート層4を形成する。ここでは、図3に示したエアロゾルデポジション装置を用いて形成する例について説明する。
【0034】
図3に示すように、エアロゾルデポジション装置は、基板ホルダー33と、エアロゾル噴出用のノズル34が内部に配置された成膜チャンバー31と、成膜チャンバー31の内部空間を減圧する減圧装置38と、エアロゾル発生器32とを備えて構成される。また、基板ホルダー33には、樹脂基板1をノズル34に対して移動させる移動機構37が備えられている。
【0035】
エアロゾル発生器32は、内部空間に成膜原料となる粒子39が配置されている。ここでは、ハードコート層4を構成する硬質無機材料の粒子を用いる。また、ハードコート層4として、硬質無機材料の基材中に紫外線吸収材料の粒子が分散された層を形成する場合には、紫外線吸収材料の粒子を硬質武器材料の粒子と混合した粒子39を用いる。
【0036】
エアロゾル発生器32の内部には、ガス導入管36とエアロゾル搬送管35の先端が挿入されている。ガス導入管36は、高圧の不活性ガス等の搬送ガスを内部空間に導入する。エアロゾル搬送管35の他端は、ノズル34に接続されている。
【0037】
樹脂基板1は、基板ホルダー33に取り付ける。ガス導入管36から所定の圧力で搬入ガスをエアロゾル発生器32に導入する。これにより、搬送ガスと粒子39とが混合され、エアロゾルが形成される。形成されたエアロゾルは、エアロゾル搬送管35によりノズル34まで導かれる。成膜チャンバー31とエアロゾル発生器32の内圧の差により、ノズル34の先端からエアロゾルが樹脂基板1に噴射される。
【0038】
具体的には、粒子39がSiOである場合、粒径は、エアロゾルデポジションを可能にするために0.2〜2μm程度であることが好ましく、特に、0.2〜0.5μm程度であることが望ましい。
【0039】
粒子39に紫外線吸収材料であるTiOの粒子を混合する場合には、TiO粒子の粒径は、10nm以上400nm以下、特に10nm以上200nm以下であることが望ましい。その理由は、成膜後のハードコート層4内に分散したTiO粒子が、Mie散乱を生じないようにするために、可視光波長よりも小さい(400nm以下である)ことが好ましいためである。また、紫外線波長を吸収するためにはバンドギャップが形成される結晶サイズであることが必要であるため、10nm以上であることが望ましいためである。また、ハードコート層4のTiO粒子の含有割合は、3〜30wt%であることが好ましく、5〜20wt%であることがさらに好ましく、10wt%前後であることが特に好ましい。
【0040】
エアロゾル発生器32の内部に導入する搬送ガスは、不活性ガスであることが望ましく、例えばNガスやArやHeガスを用いる。エアロゾル発生器2の圧力は、10〜500kPa程度、成膜チャンバー31の圧力は、0.5〜2.0kPa程度に設定する。ノズル34の先端と樹脂基板1との距離は、50〜100mm程度に設定する。
【0041】
ノズル34から噴射されたエアロゾルに含まれる粒子39は、固体状態のまま基板に衝突し、付着する(常温衝突固化現象)。このとき、樹脂基板1を移動機構37により面内2軸方向に移動させることにより、樹脂基板1の全面にエアロゾルを噴射する。これにより、粒子同士が積み重なって密着した高密度の多結晶構造のハードコート層4を、樹脂基板1を加熱することなく全面に形成することができる。また、粒子39に紫外線吸収材料の粒子を混合した場合には、硬質無機材料の基材に紫外線吸収材料粒子が分散した構造のハードコート層4を形成できる。
【0042】
本実施形態では、硬質無機材料の下地層3が形成されているため、樹脂基材1の弾性や塑性特性に関わらず、下地層3の上にハードコート層4を形成できる。また、下地層3が形成されていることにより、エアロゾルの粒子の衝突による影響を樹脂基板1に及ぼさない。さらに、下地層3は、密着処理層2により樹脂基板1に密着しているため、エアロゾルの粒子の衝突によって膜剥がれ等の損傷を生じない。
【0043】
このように、本実施形態の製造方法によれば、密着処理層2をプラズマ処理により、透明な硬質無機材料層である下地層3をプラズマCVDにより形成することにより、エアロゾルデポジション法により透明なハードコート層4を、常温で樹脂基板1上に形成することができる。よって、樹脂基板1を熱により劣化させることがない。エアロゾルデポジション法では、大きな粒子を基板に衝突させて固化させるため、密度の高い膜が形成できる。これにより、透明性および耐久性に優れたハードコート層4を備えた物品を製造することができる。
【0044】
なお、ハードコート層4の上に、反射防止膜等の他の膜を形成することも可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…樹脂基板、2…密着処理層(プラズマ処理層)、3…下地層(硬質無機材料層)、4…ハードコート層、11…成膜室、13…基板ホルダー、15…反応ガス導入管、16…直流電源、17…材料ガス導入管、20,21…ホーロー抵抗、31…成膜チャンバー、32…エアロゾル発生器、33…基板ホルダー、34…ノズル、35…エアロゾル搬送管、36…ガス導入管、37…移動機構、38…減圧装置、51…カソード、52…第1中間電極、53…第2中間電極、54…アノード、55…空芯コイル、101…プラズマ軸、102…放電ガス導入口、103…プラズマガン容器
図1
図2
図3