(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、フルフリルアルコールとホルムアルデヒドとの共縮合物からなる、いわゆるフラン樹脂を主成分とする熱硬化性フラン樹脂組成物は、その硬化物が耐熱性・耐溶剤性・耐薬品性に優れていることから、鋼管ライニング、メジセメント、FRP等の積層体及び複合材のマトリックス樹脂として各種産業分野において使用されている。
【0003】
しかしながら、従来の熱硬化性フラン樹脂組成物は、フラン樹脂合成時の縮合反応に由来する含有水分と硬化反応に由来する発生水分の放散により、寸法変化が大きいという問題があった。
【0004】
これを踏まえ、フラン樹脂の縮合水を合成終了後留去することで水分含有量を低下させる方法(特許文献1参照)が提案されている。
【0005】
しかしながら、この方法では、水分の減少に伴いフラン樹脂の粘度が指数的に増加し、積層体のマトリックス樹脂として必要不可欠である含浸性を確保することが困難であった。
【0006】
更にこの方法では、硬化反応に由来する発生水分の放散による寸法収縮を防止することは困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、硬化後の寸法変化が小さい熱硬化性フラン樹脂組成物及びその硬化物、ならびにこれを含むフラン樹脂積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、フラン系樹脂と硬化触媒と水分捕捉剤からなる熱硬化性フラン樹脂組成物及びその硬化物により、さらにはこれを用いたフラン樹脂積層体により、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、フラン系樹脂(A)と硬化触媒(B)と水分捕捉剤(C)とを含有
し、前記フラン系樹脂(A)は、25℃での粘度が100〜5000mPa・sであって、前記水分捕捉剤(C)は、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウムから選ばれた1つあるいは無水硫酸ナトリウムと無水硫酸マグネシウムとの混合物であって、前記フラン系樹脂(A)100重量部に対して、10〜100重量部含む、熱硬化性フラン樹脂組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第
2の発明によれば、第
1の発明の熱硬化性フラン樹脂組成物を加熱硬化して得られた、フラン樹脂硬化物が提供される。
【0015】
また、本発明の第
3の発明によれば、第
2の発明のフラン樹脂硬化物と、繊維質基材とを含む、フラン樹脂積層体が提供される。
【0016】
また、本発明の第
4の発明によれば、請求項
1に記載の熱硬化性フラン樹脂組成物を繊維質基材に含浸、加熱硬化して得られたフラン樹脂積層体が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱硬化性フラン樹脂組成物によれば、フラン樹脂合成時の縮合反応に由来する含有水分と硬化反応に由来する発生水分の両方の水分を水分捕捉剤にて捕捉、水分放散を防止する事により寸法変化の防止を実現できるという効果がある。
【0018】
また、本発明のフラン樹脂硬化物によれば、硬化後の寸法収縮の小さな硬化物が提供されるという効果がある。
【0019】
また、本発明のフラン樹脂積層体によれば、寸法変化の小さな熱硬化性フラン樹脂組成物を繊維質基材に含浸させることで、硬化後の寸法収縮の小さな積層体となるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の熱硬化性フラン樹脂組成物及びこれを用いたフラン樹脂積層体を、以下に、具体的かつ詳細に説明する。
【0021】
1.熱硬化性フラン樹脂組成物
本発明の熱硬化性フラン樹脂組成物は、フラン系樹脂(A)と硬化触媒(B)と水分捕捉剤(C)とを含有している。
【0022】
(1)フラン系樹脂(A)
本発明において、フラン系樹脂(A)としては、フラン樹脂、変性フラン樹脂が好ましい。
フラン樹脂は、フルフラールやフルフリルアルコールを出発物質とする重合物あるいはその前駆体(オリゴマー)であり、フルフリルアルコール型、フルフリルアルコール・フルフラール共縮合型、フルフリルアルコール・アルデヒド共縮合型、フルフラール・ケトン共縮合型、フルフラール・フェノール共縮合型、フルフリルアルコール・尿素共縮合型、フルフリルアルコール・フェノール共縮合型等が挙げられる。
フラン樹脂の前駆体は、フルフリルアルコール型、フルフリルアルコール・フルフラール共縮合型、フルフリルアルコール・アルデヒド共縮合型、フルフラール・ケトン共縮合型、フルフラール・フェノール共縮合型、フルフリルアルコール・尿素共縮合型、フルフリルアルコール・フェノール共縮合型等が挙げられる。
フラン系樹脂(A)としていずれの種類のものも使用可能であるが、工業的に安定に供給されていることから、フルフリルアルコール型やフルフリルアルコール・ホルムアルデヒド共縮合型が好ましい。
変性フラン樹脂としては、例えばエポキシ変性、フェノール変性、アルデヒド変性、尿素変性、メラミン変性等のものが挙げられる。
【0023】
フラン系樹脂(A)の水分含有率は積層体の寸法精度等により決定される為、特に限定されないが、大きすぎると硬化時の水分放散による寸法収縮が大きくなる為、10%以下が好ましく、特に好ましくは9%以下である。
【0024】
フラン系樹脂(A)の粘度は、積層体の成形方法等により決定される為、特に限定されないが、大きすぎると積層体成形時の含浸性が低下するおそれがあり、一方、小さすぎると積層体成形時タレが発生するおそれがあることから、50〜10000mPa・sが好ましく、100〜5000mPa・sが更に好ましく、200〜3000mPa・sが最も好ましい。
【0025】
(2)硬化触媒(B)
硬化触媒(B)はフラン系樹脂を硬化しうるものであれば特に限定されず、例えば有機スルホン酸、有機カルボン酸等の有機酸並びにその水溶液、塩酸、硫酸等の有機酸並びにその水溶液が挙げられる。
【0026】
有機スルホン酸としては、例えばパラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メタンスルホン酸等が挙げられる。
有機カルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、シュウ酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、安息香酸、クエン酸等が挙げられる。
【0027】
硬化時間の短縮とポットライフの両立を狙いとして、硬化触媒(B)として、熱反応型潜在性酸硬化触媒を単独あるいは他の硬化触媒と併用使用する事も好ましく、熱反応型潜在性酸硬化触媒としては、フラン系樹脂に含有する成分と常温では反応しにくく硬化時の加熱ですばやく反応し酸を発生させるものであれば特に限定されないが、常温時の安定性と硬化時の加熱による反応速度の点から、無機アンモニウム塩、1級アミン塩、2級アミン塩・3級アミン塩の少なくともいずれかを含有することが好ましく、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、メチルアミン塩酸塩、ジメチルアミン塩酸塩、エチルアミン塩酸塩、ジエチルアミン塩酸塩の少なくともいずれかを含有することが特に好ましい。
【0028】
硬化触媒(B)の添加量は、フラン系樹脂(A)および硬化触媒(B)の種類や希釈濃度、目的とする硬化温度・硬化時間により調整されるため特に限定されないが、フラン系樹脂(A)100重量部に対し、0.5〜10重量部が好ましく、1〜8重量部とするのが特に好ましい。0.5重量部より少ないと、硬化不良の問題となるおそれがある。一方、10重量部より多いと、ポットライフが短くなるおそれがある。
【0029】
(3)水分捕捉剤(C)
水分捕捉剤(C)は、水分を捕捉できるものであれば特に限定されないが、水分捕捉能力が低すぎると水分捕捉剤が大量に必要となる場合がある。また、水分捕捉速度が速すぎるとフラン系樹脂と混合時の粘度が上昇しやすく、遅すぎると硬化フラン樹脂の寸法変化を防止する事ができにくい。このため、重量当たりの水分捕捉能力が高く、適度な水分捕捉速度を有するものが好ましい。具体的には、例えば無機塩の水和により水分を捕捉できるもの、あるいは分子内細孔での吸着により水分を捕捉できるものなどがあげられる。
【0030】
水分捕捉剤(C)は、5gを100mlの水に溶解/分散した水溶液あるいは分散液とした時のpHが2〜10となるものが好ましく、4〜8となるものが最も好ましい。水溶液あるいは分散液のpHが10より大きくなる水分捕捉剤では硬化不良の問題となるおそれがある。一方、pHが2より小さいと、ポットライフが短くなるおそれがある。
【0031】
無機塩の水和により水分を捕捉できるものとしては、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム、無水硫酸銅、塩化カルシウム等があげられる。
分子内細孔での吸着により水分を捕捉できるものとしては、シリカゲル、モレキュラシーブ、ゼオライト等があげられる。
これらの中でも、重量当たりの水分捕捉能力が高く、適度な水分捕捉速度を有し、水溶液あるいは分散液のpHが適正である無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウムの単一物あるいは混合物が最も好ましい。
【0032】
水分捕捉剤(C)の添加量は、フラン系樹脂(A)および硬化触媒(B)の種類や含有水分量、目的とする寸法精度等により調整されるため特に限定されないが、フラン系樹脂(A)100重量部に対し、1〜100重量部が好ましく、2〜50重量部が更に好ましく、5〜30重量部が最も好ましい。1重量部より少ないと、十分な水分捕捉効果が得られないおそれがあり、100重量部より多いとフラン系樹脂(A)との混合時粘度が高くなりすぎるおそれがある。
【0033】
(4)その他の添加物
粘度調整や反応性調整を狙いとして、フラン系樹脂(A)に反応性希釈剤を添加する事も好ましい。反応性希釈剤としては、粘度が低く、フラン樹脂成分と相溶性があり、フラン樹脂組成物が硬化する際に反応・固化するものであれば特に限定されないが、フラン樹脂成分との相溶性の点から、フルフリルアルコール単独、フルフラール単独、あるいはフルフリルアルコールとフルフラールの混合物が特に好ましい。
【0034】
反応性希釈剤の添加量は、反応性希釈剤の種類、フラン樹脂成分の粘度により異なるが、少なすぎると基材への含浸性が低下するおそれがあり、一方、多すぎると積層体成形時タレが発生するおそれがあることから、フラン系樹脂(A)100重量部に対して、10〜100重量部であることが好ましく、10〜90重量部が更に好ましく、20〜80重量部が最も好ましい。
【0035】
強度特性の向上を狙いとして、硬化性フラン樹脂組成物に無機系充填材を添加する事も好ましい。無機系充填材としては、弾性率が高く、高充填が可能であれば特に限定されないが、硬化阻害を防止する観点から、pHが10以下の無機系フィラーが好ましく、具体的には、ガラスパウダー・シリカ・タルク・カオリン・マイカ・水酸化アルミニウム等が好ましく、コストの点からカオリン・シリカ・水酸化アルミニウムが最も好ましい。
【0036】
フラン系樹脂(A)との界面接着力向上を狙いとして、無機系充填材に表面処理を施すことは好ましい。表面処理剤としては、無機系充填材やフラン系樹脂(A)と反応、あるいは結合が可能であれば特に限定さないが、結合が形成しやすい、有機シラン系表面処理が好ましく、具体的には、アミノシラン系表面処理剤、エポキシシラン系表面処理剤、アクリルシラン系表面処理剤が最も好ましい。
【0037】
無機系充填材の添加量は、フラン系樹脂(A)の粘度により異なるが、少なすぎると強度特性向上の効果が得られず、一方、多すぎると増粘による基材への含浸性低下が発生するおそれがあることから、フラン系樹脂(A)100重量部に対して、10〜200重量部であることが好ましく、20〜150重量部が更に好ましく、30〜100重量部が最も好ましい。
【0038】
2.フラン樹脂硬化物
本発明のフラン樹脂硬化物は、上記熱硬化性フラン樹脂組成物を加熱硬化して得られる。硬化条件としては、特に限定されないが、一般的に、例えば70〜130℃で、例えば1時間以上硬化することが好ましい。本発明のフラン樹脂硬化物では、25℃(湿度50%)100時間養生後の、寸法保持率が99%以上の優れた特性を有する。
【0039】
3.フラン樹脂積層体
本発明のフラン樹脂積層体は、上記フラン樹脂硬化物と、繊維質基材とを含んでいる。本発明のフラン樹脂積層体は、繊維質基材に上記熱硬化性樹脂組成物を含浸、加熱硬化して製造する。熱硬化性樹脂組成物の含浸量は特に限定されない。
【0040】
繊維質基材としては、例えば不織布やチョップドストランドマット、ロービングクロス等があげられる。
【0041】
不織布の材料としては、例えばポリエステル、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン等の高強度で高弾性のもの、中でも樹脂が好ましく、また、可撓性を有し多孔質である、連続フィラメント又はステープルファイバーを備えたフェルト、マット、スパンボンド、ウェブなども使用可能である。
【0042】
チョップドストランドマットとしては、例えばガラス繊維等のストランドを一定長さに切断し、マット状に分散させた後、熱可塑性樹脂等の粘接着剤を均一に付与して熱溶融し、ストランド同士を接着させてマットとしたものなどが好ましい。
【0043】
ロービングクロスとしては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、無機繊維、有機繊維、ウィスカー等の強化繊維からなるものが好ましく、中でもガラス繊維が、得られる繊維強化樹脂層の強度と価格のバランスからして好ましい。また、強化繊維は繊維径が3〜25μmの範囲のものであることが好ましく、強度及び価格の観点から5〜20μmの繊維径のものがより好ましい。
【0044】
4.フラン樹脂積層体の製造方法
本発明のフラン樹脂積層体の製造方法は、上記熱硬化性フラン樹脂組成物を、繊維質基材に含浸・硬化させることを特徴とする。繊維質基材としては、上記例示のものが使用できる。
【0045】
繊維質基材に熱硬化性フラン樹脂組成物を含浸させる方法は特に限定されず、例えば、強化繊維に熱硬化性フラン樹脂組成物を含浸ロールにて含浸させる方法等が挙げられる。
【0046】
繊維質基材に含浸させた熱硬化性フラン樹脂組成物の硬化方法は特に限定されず、例えば、熱硬化性フラン樹脂組成物を含浸させた繊維質基材を金型内に設置し、熱風であるいは熱板に挟み込んで加熱硬化する方法等が挙げられる。
上記本発明の熱硬化性フラン樹脂組成物を加熱硬化する際の温度は、特に限定されないが、一般的に、例えば70〜130℃が好ましい。加熱硬化時間は、特に限定されないが、一般的に、例えば1時間以上が好ましい。
【0047】
本発明のフラン樹脂積層体は、上記のような寸法変化の小さな熱硬化性フラン樹脂組成物を使用することにより、硬化後の寸法収縮の小さな積層体を簡便に与える事ができる。したがって、本発明により、品質が良好なフラン樹脂積層体を低コストにて製造することができるものであり、例えばFRPなどの用途に特に好適に用いることができるものである。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によりなんら限定されるものではない。
本発明における各物性値の測定方法を以下に示す。
【0049】
1.測定法
(1)pH
水分捕捉剤5gを100mlの水に溶解/分散した水溶液あるいは分散液のpHをJIS Z802『pHの測定方法』に準拠して測定した。
【0050】
(2)寸法保持率
成形したフラン樹脂積層体を100mm×100mmにカット後寸法測定し、25℃の恒温室(湿度50%)で100時間養生した後、以下の式を元に比較、寸法保持率を求めた。
寸法保持率(%)=100時間後の寸法(mm)/カット後寸法(mm)×100
【0051】
2.実施例
、参考例および比較例
(熱硬化性フラン樹脂組成物の調整)
<
参考例、実施例1
、2>
フルフリルアルコールとホルムアルデヒドとの共縮合物(粘度2700mPa・s、水分含有量7.4重量%)100重量部に対し、表1に示す水分捕捉剤を10重量部添加し、ホモディスパーを用い1000rpmで5分間攪拌した。撹拌後、硬化触媒としてパラトルエンスルホン酸50%水溶液4.0重量部を添加し、更に1000rpm5分間攪拌することで熱硬化性フラン樹脂組成物を得た。
【0052】
<比較例>
フルフリルアルコールとホルムアルデヒドとの共縮合物(粘度2700mPa・s、水分含有量7.4重量%)100重量部に対し硬化触媒としてパラトルエンスルホン酸50%水溶液4.0重量部を添加し、更に1000rpm5分間攪拌することで熱硬化性フラン樹脂組成物を得た。
【0053】
(フラン樹脂積層体の成形)
上記、熱硬化性フラン樹脂組成物5500g/m
2をポリエステル不織布基材(厚さ5mm、目付1000g/m
2)に含浸ロールにて均一に含浸した後、内寸240mm×240mm×5mmの金型内に静置し、90℃で12時間硬化し、フラン樹脂積層体を得た。
【0054】
上記
参考例、実施例及び比較例により得られたフラン樹脂積層体について、各評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0055】
【表1】
【0056】
3.評価
表1から明らかなように、実施例
1,2と比較例とを対比すると、水分捕捉剤を添加しなかった比較例で得られたものは、寸法保持性が98.8%と不良であったのに対して、本願発明の実施例
1,2においては、寸法保持率が良好であり、硬化後の寸法変化が小さい熱硬化性フラン樹脂組成物及びフラン樹脂積層体が得られることが明らかになった。