【文献】
伊倉良祐 外,フライアッシュを用いたリン除去に関する研究,化学工学会第41回秋季大会 研究発表講演要旨集,日本,社団法人 化学工学会,2010年 5月26日,1020,URL,http://doi.org/10.11491/scej.2009f.0.823.0
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水酸化ナトリウム水溶液の含有量は、前記リン回収材の各成分合計量100質量部に対して、20質量部以上30質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載のリン回収材。
前記石膏の含有量は、前記リン回収材の各成分合計量100質量部に対して、15質量部以上40質量部以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリン回収材。
請求項6から請求項8のいずれか1項に記載のリン回収方法で得られたリンを吸着したリン回収材をそのまま、または粉砕、または外表面を擦り取って肥料を生成する肥料生成工程と、
を含むことを特徴とする肥料の製造方法。
前記肥料生成工程は、リンが含まれる外表面が擦り取られたリン回収材の残留物を新たなリン回収材または土工材として再利用することを特徴とする請求項9に記載の肥料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
<リン回収材>
本実施形態に係るリン回収材は、石炭灰と、石膏と、アルカリ溶液とを含む硬化体である。なお、本実施形態においては、硬化体としているが、石炭灰と、石膏と、アルカリ溶液とを含む混合物でもよい。
【0017】
(石炭灰)
本実施形態に係るリン回収材に含まれる石炭灰は、特に限定されず、一般的に公知の石炭灰を用いることができる。石炭灰としては、例えば、石炭火力発電プラントなどで石炭を燃焼させた時に発生する石炭灰を挙げることができる。この石炭灰は、微粉砕した石炭をボイラで燃焼させた時に発生するものである。石炭灰には、例えば、石炭が燃焼したときの灰の粒子が溶融固化してボイラ底部に落下した塊状の多孔質な灰を粉砕したクリンカと、燃焼ガスとともに浮遊する灰を電気式集じん器で集めた細かな球状の粒子のフライアッシュとがある。一般的に、クリンカとフライアッシュは約1:9の割合で発生する。石炭灰に含まれる成分は種々の成分があるが、主成分としては、酸化珪素(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化鉄(Fe
2O
3)である。また、石炭灰は、微量ながらカルシウム成分を含むためリン吸着能力があることが知られている。本実施形態に用いられる石炭灰としては、副産物の有効利用という観点から、石炭灰のなかでも大量に発生するフライアッシュが好適に用いられる。
【0018】
石炭灰(以下、「フライアッシュ」ともいう。)の含有量は、本実施形態に係るリン回収材の各成分合計量100質量部に対して、好ましくは30質量部以上60質量部以下、より好ましくは35質量部以上55質量部以下である。石炭灰の含有量が上記範囲内であると、硬化体製造時に十分な強度を有することができる。
【0019】
また、従来のセメント系のリン吸着材にフライアッシュを混和した場合、フライアッシュに含まれる二酸化ケイ素が水和反応によって生じた水酸化カルシウムと反応してケイ酸カルシウムの水和物を生成(ポゾラン反応)するために水酸化カルシウムを消費してしまい、リンと反応するためのカルシウム成分が徐々に減少してセメント系のリン吸着材はリンを吸着する能力が低下する。一方、本実施形態に係るリン回収材は、石膏を多く含むことにより、リンと反応するカルシウムを多く含むことができるため、リン回収率を向上させることができる。
【0020】
(石膏)
本実施形態に係るリン回収材に含まれる石膏(CaSO
4)は、特に限定されず、一般的に公知の石膏を用いることができる。石膏としては、例えば、石炭火力発電プラントなどで排ガス中の硫黄酸化物を除去するための排煙脱硫工程で発生する副産物である排煙脱硫石膏を挙げることができる。なお、本実施形態の石膏としては、排煙脱硫石膏に限定されることはなく、一般的な石膏や廃石膏ボードを再利用して用いてもよい。
【0021】
本実施形態のリン回収材は、セメントの水和反応時に生成される水酸化カルシウムが溶出して強アルカリを示す場合とは異なり、強アルカリである水酸化ナトリウムを使うにもかかわらず、これが基本的に新たな生成物質の一部となって取り込まれることで、基本的に溶出する強アルカリ量が減ることで大幅なpH上昇が抑制されているものと思われる。
【0022】
石膏の含有量は、本実施形態に係るリン回収材の各成分合計量100質量部に対して、好ましくは15質量部以上40質量部以下、より好ましくは20質量部以上35質量部以下である。石膏の含有量が上記範囲内であると、硬化体の強度にあたえる影響も小さく、リンと反応させることができるカルシウム成分を多く含むことができるため、リンを十分に吸着できる。
【0023】
(アルカリ溶液)
本実施形態に係るリン回収材に含まれるアルカリ溶液は、例えば、水ガラスや、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物などの水溶液が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)などの溶液を挙げることができる。
【0024】
水ガラスとしては、例えば、ケイ酸ナトリウム(メタケイ酸のナトリウム塩:Na
2SiO
3)の濃い水溶液であり、ケイ酸ナトリウムを水に溶かして加熱することで得られる。メタケイ酸のナトリウム塩の他にNa
4SiO
4、Na
2Si
2O
5、Na
2Si
4O
9などを挙げることができる。水ガラスに含まれるアルカリ成分としては一般に酸化ナトリウムNa
2O(場合によっては酸化カリウムK
2O)を含み、組成はNa
2OnSiO
2(n=2〜4)であり、その他に少量の酸化鉄Fe
2O
3などが含まれており、水分は10%〜30%程度である。水酸化ナトリウム(NaOH)溶液としては、例えば、入手し易く取り扱いが容易という点で、工業用として市販されている25%苛性ソーダ液を好適に用いることができる。
【0025】
アルカリ溶液の含有量は、本実施形態に係るリン回収材の各成分合計量100質量部に対して、好ましくは20質量部以上30質量部以下、より好ましくは25質量部以上30質量部以下である。アルカリ溶液の含有量が上記範囲内であると、本実施形態に係るリン回収材は、フライアッシュのSiO
2やAl
2O
3の溶出や石膏の溶解を促進して硬化し、水中で安定な形状を保つことができる。
【0026】
アルカリ溶液は、石炭灰と石膏と共に混合されることにより混合物を硬化させる作用を有するものである。すなわち、石炭灰に含まれる酸化珪素(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)と、石膏に含まれるカルシウム成分とが強アルカリの存在のもとで溶出がすすみ、重合反応あるいは水和反応することで硬化体が形成される。
【0027】
本実施形態に係るリン回収材は、石炭灰と石膏とアルカリ溶液とを混合して硬化体とするために、製造時に大量の二酸化炭素を発生するセメントや石灰を使用する必要がないので環境に配慮したリン回収材である。
【0028】
また、本実施形態に係るリン回収材は、石炭灰と石膏とをアルカリ溶液との混合物の硬化体を所定範囲のサイズに粉砕または造粒化したものである。なお、サイズに決まりはないが、大きすぎると材料の表面積が減ってリン回収率が下がることから、好ましくは3mm以上5mm以下である。リン回収材のサイズが上記範囲内であると本実施形態に係るリン回収材は、取り扱いが容易であると共にリン回収率を高く維持することができる。なお、粉砕または造粒化したリン回収材の形状としては特に球形状に限定されない。
【0029】
従来のセメント系のリン吸着材は多量の石膏を添加した場合、エトリンガイトの生成による硬化体の崩壊や硬化体の強度低下を引き起こすことが考えられるが、本実施形態のリン回収材では、エトリンガイトはほとんど生成されない。従って、脱硫石膏を多量に含むことが可能となる。
【0030】
また、本実施形態に係るリン回収材は、石炭灰と石膏とにアルカリ溶液を加えることで新しい生成物(セサナイト:Ca
1+xNa
4−x(SO
4)
3(OH)
X(1−x)H
2Oを生成させることができる。この新しい生成物(セサナイト)は、リン回収材から比較的短時間に硬化体表面に溶出してリンと反応してリンを固定化するために、リン回収率を向上させることができると考えられる。しかし、従来の脱硫石膏は溶解度が小さく、リンを吸着する能力は非常に低かった。これに対して、本実施形態に係るリン回収材は、石炭灰と石膏とアルカリ溶液との混合物から生成されるセサナイトが硬化体表面に溶出してリンと反応することでリンを固定化するために、リンの回収性能を向上させることができると考えられる。
【0031】
図1は、本実施形態におけるリン回収材のリン吸着前とリン吸着後のX線回折図である。表1は、本実施形態におけるリン回収材のリン吸着前とリン吸着後の化学組成分析結果である。
図1に示すように、リン吸着前のリン回収材は、結晶物質として認められたものは石炭灰起源のムライト、石英、脱硫石膏起源の石膏に加えて、セサナイトが認められた。このセサナイトは、NaとCaの硫酸塩鉱物である。一方、リン吸着後のリン回収材は、セサナイトが認められないことから、溶解性があるものと推察される。また、
図1に示すように、リン吸着後のリン回収材の表面部分のX線回折結果からハイドロキシアパタイトが認められた。従って、石膏およびセサナイトの溶解によるCa成分がハイドロキシアパタイトとして沈殿し、リンを回収したものと考えられる。
【0033】
本実施形態に係るリン回収材は、更に、スラグを含むことができる。本実施形態に係るリン回収材に含まれるスラグは、特に限定されず、一般的に公知のものを用いることができる。スラグとしては、例えば、高炉スラグを挙げることができる。高炉スラグは、製鉄所の溶鉱炉で、銑鉄と同時に生成する溶融状態の高炉スラグを水によって急冷し、これを乾燥・粉砕したもので砂状の非晶質体(ガラス質)である。高炉スラグは、CaO、SiO
2、Al
2O
3を主成分としており、セメントに似た化学成分を有している。この高炉スラグは、アルカリ性溶液と接触すると急激に反応を起こす潜在水硬性を有している。本実施形態に用いられるスラグとしては、アルカリ溶液と反応をして硬化する高炉スラグを好適に用いることができる。従って、本実施形態に係るリン回収材は、さらにスラグを含有することにより、スラグの成分がアルカリ溶液と反応をするため、石炭灰、石膏、アルカリ溶液とを混合した混合物の硬化体の強度を向上させることができる。なお、このスラグは脱硫石膏を多量に入れた場合の強度低下防止のために加えることになるので、脱硫石膏の配合量を減らせばスラグの配合量は少なくできる。
【0034】
本実施形態のリン回収材は、石炭灰と石膏とアルカリ溶液とを含む硬化体である。リン回収材に含まれる石炭灰と石膏は、石炭火力発電プラントなどで大量に発生する副産物である石炭灰と脱硫石膏とを用いることができる。従来は、この副産物である石炭灰は、コンクリートを製造する際のコンクリート混和材などとして、また、脱硫石膏は、石膏ボードの原料、セメントの原料、土壌改良材などとして有効利用されているが、石炭灰や脱硫石膏は大量に発生するため、より一層の有効利用拡大が望まれている。本実施形態に係るリン回収材は、石炭火力発電プラントで大量に発生する副産物としての石炭灰や脱硫石膏を好適に用いることができる。また、本実施形態のリン回収材は、リンを吸着するとともに、リンを含む溶液がアルカリ性になることを抑制することができるという特徴を有する。従って、本実施形態のリン回収材は、石炭火力発電プラントにおいて副産物として大量に発生する石炭灰や脱硫石膏などを有効に利用することができる。
【0035】
本実施形態のリン回収材は、石炭灰と石膏とアルカリ溶液だけで簡単に製造できる硬化体であるため、大変安価な製造が可能になる。従って、本実施形態のリン回収材のリン吸着量はやや少ないが、経済的なリン回収材として好適に用いることができる。
【0036】
(リン回収材の製造方法)
本実施形態に係るリン回収材を製造する方法は、上記のフライアッシュと脱硫石膏とアルカリ溶液とを所定量配合して、これらを混合ミキサー等の撹拌装置を用いて十分に混練し、均一に分散させる等により混合する。次に、得られた混合物を所定温度、所定時間蒸気または乾燥養生することにより石炭灰と、石膏と、アルカリ溶液とを含む硬化体を得ることができる。そして、得られた硬化体を所定範囲のサイズに粉砕または造粒してリン回収材を製造することができる。なお、本実施形態の硬化体を粉砕または造粒するために用いる粉砕機及び造粒機は、特に限定されることはなく公知の装置を適用することができる。
【0037】
なお、所定温度とは、好ましくは50℃以上70℃以下、より好ましくは55℃以上65℃以下、さらに好ましくは60℃である。また、所定時間とは、好ましくは24時間以上72時間以下、より好ましくは36時間以上60時間以下、さらに好ましくは48時間である。温度及び養生時間が上記範囲内であると本実施形態に係るリン回収材は、従来のセメント系のリン回収材と同等の強度を発現することができるため、取り扱いが容易であり、またリンを含む溶液中において安定な形状を保つことができる。
【0038】
<リン回収方法>
上述したような構成を有する本実施形態に係るリン回収材を用いたリン回収方法の一例について図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係るリン回収方法の処理工程の一例を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態のリン回収方法は、以下の工程を有する。
(a)石炭灰と、石膏と、アルカリ溶液とを含む混合物(硬化体)を作製する硬化体作製工程(ステップS11)
(b)硬化体を所定範囲のサイズに粉砕または造粒化するリン回収材成形工程(ステップS12)
(c)リン回収材を容器に充填するリン回収材充填工程(ステップS13)
(b)リン回収材を充填した容器をリンを含む溶液に所定時間浸漬、またはリン回収材を充填した容器にリンを含む溶液を所定時間通水するリン吸着工程(ステップS14)
【0039】
(硬化体作製工程:ステップS11)
硬化体作製工程は、上述したように、石炭灰と脱硫石膏とアルカリ溶液とを所定量配合して、これらを混合した後、混合物を所定温度、所定時間乾燥養生する(ステップS11)。これにより石炭灰と、石膏と、アルカリ溶液とを含む混合物を硬化させた硬化体とすることで取り扱いを容易にする。ここで、所定温度とは、好ましくは50℃以上70℃以下、より好ましくは55℃以上65℃以下、さらに好ましくは60℃である。
【0040】
また、所定時間とは、好ましくは24時間以上72時間以下、より好ましくは36時間以上60時間以下、さらに好ましくは48時間である。温度及び養生時間が上記範囲内であると本実施形態に係るリン回収材は、従来のセメント系のリン吸着材と同等の強度を発現することができるため、取り扱いが容易であり、またリンを含む溶液中において安定な形状を保つことができる。
【0041】
(リン回収材成形工程:ステップS12)
リン回収材成形工程は、得られた硬化体を所定範囲のサイズに粉砕または造粒化してリン回収材を成形する(ステップS12)。なお、本実施形態の硬化体を粉砕または造粒化するために用いる粉砕機及び造粒機は、特に限定されることはなく公知の装置を適用することができる。
【0042】
(リン回収材充填工程:ステップS13)
リン回収材充填工程は、リン回収材成形工程(ステップS12)で得られたリン回収材を簡単に取替え可能で水が流通できる容器に充填する(ステップS13)。なお、容器としては、所定範囲のサイズのリン回収材を保持でき、水が流通できるものであれば特に限定されることはなく、メッシュ状、穴あき形状などの公知の容器を用いることができる。また、容器の形状は特に限定されない。
【0043】
(リン吸着工程:ステップS14)
リン吸着工程は、リン回収材を充填した容器を、河川、湖沼、または製造プラントの排水処理などのリンを含む溶液中にリンが十分に吸着できる所定時間浸漬、または所定流量のリンを含む溶液をリン回収材を充填した容器内に所定時間連続通水し、リンをリン回収材の表面に吸着させて回収する(ステップS14)。なお、リンを含む溶液に浸漬する時間としては処理対象のリンを含む溶液のリンの濃度などに基づいて適宜設定することができる。
【0044】
リンを含む溶液をリン回収材を充填した容器内に通水してリンを回収処理する場合、容器内を通過させる処理溶液の空間速度(SV:space velocity)としては、好ましくは15h
−1以上35h
−1以下である。空間速度を小さくすると容器(または処理装置)をコンパクトにすることができるためコストダウンに寄与し、空間速度が速すぎるとリンの回収処理が十分に行われなくなる。よって、空間速度が上記範囲内であると本実施形態のリン回収方法は、十分にリンをリン回収材に吸着させることができ、リン回収性能を向上させることができる。
【0045】
また、リン回収材を充填した容器内を通過させる処理溶液の線速度(LV:linear velocity)としては、好ましくは10m/hr以上20m/hr以下である。線速度を小さくすると容器をコンパクトにすることができるためコストダウンに寄与し、線速度が速すぎるとリンの回収処理が十分に行われなくなる。よって、線速度が上記範囲内であると本実施形態のリン回収方法は、十分にリンをリン回収材に吸着させることができ、リン回収性能を向上させることができる。
【0046】
なお、所定時間及び所定流量については、リンを含む溶液の処理量や処理対象のリンを含む溶液のリンの濃度などに基づいて適宜設定することができる。
【0047】
本実施形態に係るリン回収材を用いたリン回収方法を適用することにより、例えば、高濃度のリン含有水を扱う製造プラントなどでは排水処理工程において高価なリン回収設備などは不要となり、リンを含む溶液のアルカリ性が高くなることを抑制することができるため排出する排水のpH調整を行う必要がなく、リン回収材によってリンを回収することができる。
【0048】
<肥料の製造方法>
上述したような構成を有する本実施形態に係るリン回収材を用いた肥料の製造方法の一例について図面を用いて説明する。
図2は、本実施形態に係る肥料の製造方法の処理工程の一例を示すフローチャートである。
図2に示すように、本実施形態の肥料の製造方法は、以下の工程を有する。
(a)石炭灰と、石膏と、アルカリ溶液とを含む混合物(硬化体)を作製する硬化体作製工程(ステップS21)
(b)硬化体を所定範囲のサイズに粉砕または造粒化するリン回収材成形工程(ステップS22)
(c)リン回収材を容器に充填するリン回収材充填工程(ステップS23)
(d)リン回収材を充填した容器をリンを含む溶液に所定時間浸漬、またはリン回収材を充填した容器にリンを含む溶液を所定時間通水するリン吸着工程(ステップS24)
(e)リン吸着工程(ステップS24)によってリンを吸着したリン回収材をそのまま、または粉砕、または外表面を擦り取って肥料を生成する肥料生成工程(ステップS25)
【0049】
(硬化体作製工程(ステップS21)〜リン吸着工程(ステップS24))
硬化体作製工程(ステップS21)〜リン吸着工程(ステップS24)は、各々上述したリン回収方法の硬化体作製工程(ステップS11)〜リン吸着工程(ステップS14)と同様であるため、説明は省略する。
【0050】
(肥料生成工程:ステップS25)
肥料生成工程は、上述したリン回収方法においてリンを十分に吸着したリン回収材を容器から取り出し、リン回収材をそのまま肥料、または粉砕して肥料、または表面の擦り取りを行って肥料を生成する(ステップS25)。リン回収材をそのまま肥料とする場合は、例えば、粒径を3mm〜5mm程度に造粒した場合であり、そのまま肥料として再利用される。また、粉砕して肥料とする場合は、例えば塊状に固化した場合であり、粉砕されたリン回収材の全てが肥料として再利用される。また、リン回収材の表面の擦り取りをして肥料とする場合、リン回収材の表面のみが擦り取られ、リンが吸着して満たされた部分のみを肥料として再利用するとともに、擦り取られた残りの残留物は、新たなリン回収材またはリン回収材の原料、または道路材・地盤改良材・埋立材などの土工材として再利用する。
【0051】
なお,本実施形態のリン回収材の表面を擦り取ってリンを回収する際には,副産リン酸肥料の基準を満足するように擦り取り量を調整することが可能である。
【0052】
本実施形態の肥料の製造方法を用いることにより、リンを十分に吸着したリン回収材を回収する場合、リン回収材を充填した容器を回収することでリン回収材の回収を容易に行うことができる。
【0053】
従って、本実施形態の肥料の製造方法によれば、リンを吸着したリン回収材を容易に回収して、回収したリン回収材から容易に肥料を製造することができ、環境の改善およびリンのリサイクル処理を行うことができる。また、リン回収材を肥料として再利用することで石炭灰や脱硫石膏などの産業副産物の従来にない新たな利用方法として有用である。
【0054】
本実施形態に係るリン回収材の用途は特に限定されないが、本実施形態に係るリン回収材は、以上のような優れた特性を有することから、高濃度のリン含有水を扱っている各種製造プラント、下水道、畜産業等の排水処理の用途に好適に用いられる。
【0055】
以上、本発明のリン回収材、リン回収方法及び肥料の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記の例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、各種の変更および改良を行ってもよい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
<リン回収材の作製>
下記表2に示す各成分を表2に示す質量比(質量部)で配合して、これらを均一に混合した後、混合物を60℃、48時間乾燥養生することにより各実施例のリン回収材の硬化体を得た。そして、得られた硬化体を粉砕した後、3mm〜5mmのサイズに破砕して各実施例のリン回収材を得た。比較例1のセメント系硬化体は、下記表2に示す各成分を表2に示す質量比(質量部)で配合して、これらを均一に混合した後、60℃飽和水蒸気下で24時間養生することによりセメント系の硬化体を得た。得られたセメント系の硬化体を粉砕した後、3mm〜5mmのサイズに破砕して比較例1のセメント系硬化体を得た。各実施例、比較例について、下記に示す方法で圧縮強度を測定した。測定結果を表3示す。
【0058】
(圧縮強度)
圧縮強度試験は、JIS A1108に準拠して行った。圧縮強度は、硬化体が水中で安定性を維持できる強度として10MPa以上を基準とし良好と判断した。
【0059】
【表2】
【0060】
実施例1は、高炉スラグを含まない例であり、アルカリ溶液として水酸化ナトリウム粉末を水に溶解したものである。得られた実施例1のリン回収材1の圧縮強度はセメント系硬化体と同程度であった。
【0061】
実施例2は、高炉スラグを含まない例であり、アルカリ溶液として25%水酸化ナトリウム溶液と強度を向上させるために水酸化ナトリウム粉末を添加したものである。得られた実施例2のリン回収材2の圧縮強度はセメント系硬化体と同程度であった。
【0062】
実施例3は、硬化体の強度を向上させるために更に高炉スラグを添加したものである。得られた実施例3のリン回収材3の圧縮強度はセメント系硬化体と同程度であった。
【0063】
従って、実施例1〜3のリン回収材1〜3は、セメント系硬化体と同程度の強度を有することが確認された。よって、本実施例のリン回収材は、セメント系硬化体と同程度の強度を有するため取り扱いが容易であり、またリンを含む溶液中において安定な形状を保つことができる。
【0064】
<リン回収試験及び通過流量試験>
実施例1として上記で得られたリン回収材1、比較例1としてセメント系硬化体についてリン回収試験及び通過流量試験を行った。リン回収率の経時変化、pHの経時変化、通過流量の経時変化を以下に示す方法により測定した。試験結果を
図3〜6に示す。
【0065】
[リン回収試験]
リン回収材を充填した容器に以下に示す濃度のリンを含む溶液を通水して、入口濃度に対する出口濃度からリン回収率を求めた。また、同時にpHの経時変化を測定した。結果を
図3〜
図5に示す。なお、実施例1の通水流量0.2L/minの場合を
図3に示し、実施例1の通水流量0.15L/minの場合を
図4に示し、比較例1の通水流量0.2L/minの場合を
図5に示す。
・通水したリンを含む溶液のリン濃度:23ppm
・通水流量:0.2L/min、0.15L/min
・リン回収材のサイズ:最大径3mm〜5mm
・充填容器:φ35mm×500mm円筒容器に充填(0.8ton/m
3)
【0066】
(評価)
・リン回収率は、20%以上の場合を良好と判断し、20%を下回った場合を回収性能が低下したと判断した。
【0067】
[通過流量試験]
リン回収材を充填した容器に以下に示す濃度のリンを含む溶液を通水して、通過流量を測定した。結果を
図6に示す。なお、実施例1の通水流量は0.2L/min、0.15L/minとし、比較例1の通水流量は0.2L/minとした。
・通水したリンを含む溶液のリン濃度:23ppm
・通水流量:0.2L/min、0.15L/min
・リン回収材のサイズ:最大径3mm〜5mm
・充填容器:φ35mm×500mm円筒容器に充填(0.8ton/m
3)
【0068】
(評価)
・通過流量は、15時間後の流量が初期の流量の80%以上を維持していれば良好と判断した。
【0069】
(試験結果)
図3、4は、本実施例に係るリン回収材のリン回収率の経時変化とpHの経時変化を示す図である。
図5は、比較例に係るセメント系硬化体のリン回収率とpHの経時変化を示す図である。
図6は、本実施例に係るリン回収材の通過流量の経時変化と比較例のセメント系硬化体の通過流量の経時変化を示す図である。
【0070】
図3は、実施例1の通水流量0.2L/minの場合であり、縦軸左はリン回収率(%)、縦軸右はpH、横軸は経過時間を示している。実線はリン回収率を表し、点線はpHを表している。
図3に示すように、実施例1のリン回収材は、初期のリン回収率は90%程度であり、時間の経過とともに徐々に低下し、5時間経過後にはリン回収率が30%程度となる。しかし、その後はリン回収率が20%以上を保っているため、リン回収率は良好であることが確認された。また、入口リン濃度とリン回収率と通水時間から求めた16時間経過した時の積算リン回収量は1654.592mg程度であり、リン回収材1gあたりのリン回収量は4.3mg/g程度であり、実施例1のリン回収材が極めて安価であることを考慮すれば十分な吸着量を有していることがわかる。また、実施例1のpHは、試験開始直後はpH11を超えたものの、その後は低下し、5時間経過後には、ほぼpH7程度となり、その後はほぼ中性を保っていることが確認された。
【0071】
よって、実施例1のリン回収材は、通水流量0.2L/minの場合、リンを含む溶液がアルカリ性になることを抑制することができると共に、リンの回収性能を維持することができるといえる。
【0072】
図4は、実施例1の通水流量0.15L/minの場合であり、縦軸左はリン回収率(%)、縦軸右はpH、横軸は経過時間を示している。実線はリン回収率を表し、点線はpHを表している。
図4に示すように、実施例1のリン回収材は、初期のリン回収率は90%以上であり、時間の経過とともに徐々に低下するが、5時間経過後にはリン回収率が40%を上回る程度となる。しかし、その後はリン回収率が徐々に低下するもののリン回収率が20%以上を保っているため、リン回収率は良好であることが確認された。
図3と比較した場合、通水流量が少ないためリン回収率の低下が遅く、高いリン回収率を維持していることが確認された。また、実施例1の入口リン濃度とリン回収率と通水時間から求めた17.5時間経過した時の積算リン回収量は、1408.157mg程度であり、リン回収材1gあたりのリン回収量は3.6mg/g程度であり実施例1のリン回収材が極めて安価であることを考慮すれば十分な吸着量を有していることがわかる。また、実施例1のpHは、試験開始直後はpH11を超えたものの、その後は低下し、5時間経過後には、ほぼpH8程度となり、その後はpH7程度とほぼ中性を保っていることが確認された。
【0073】
よって、実施例1のリン回収材は、通水流量0.15L/minの場合、リンを含む溶液がアルカリ性になることを抑制することができると共に、リンの回収性能を維持することができるといえる。
【0074】
図5は、比較例1のセメント系硬化体の通水流量0.2L/minの場合であり、縦軸左はリン回収率(%)、縦軸右はpH、横軸は経過時間を示している。実線はリン回収率を表し、点線はpHを表している。
図5に示すように、比較例1のセメント系硬化体は、初期のリン回収率は60%程度が最大であり、時間の経過とともにほぼ線形的に低下していることが確認された。従って、10時間経過後にはリン回収率が20%を下回ってリン回収性能が低下するため、リン回収率は劣ると判断される。また、比較例1の入口リン濃度とリン回収率と通水時間から求めた9時間経過した時の積算リン回収量は、1186.591mg程度であり、リン回収材1gあたりのリン回収量は3.1mg/g程度であり実施例1と比べて吸着量が少ないことが確認された。また、比較例1のpHは、試験開始直後はpH12を超え、その後も低下が緩やかであり、10時間経過後でも、pH10程度であり、リンを含む溶液がアルカリ性になることが抑制されていないことが確認された。
【0075】
よって、比較例1のセメント系硬化体は、リンを含む溶液がアルカリ性になることを抑制できない共に、リンの回収能力は実施例1のリン回収材と比べて劣るといえる。
【0076】
図6は、縦軸はリンを含む溶液の通水流量(L/min)、横軸は経過時間を示している。
図6に示すように、実施例1−1のリン回収材の通過流量は、通水流量0.2L/minの場合(白抜き四角)、初期通過流量約0.22L/minから約16時間経過後には約0.18L/minと約82%に低下するものの、十分な通過流量を維持していることが確認された。なお、実施例1−1のリン回収材の通過流量の経時変化は比較例1のセメント系硬化体(通水流量0.2L/min、黒塗り四角)の場合とほぼ同様であった。
【0077】
また、実施例1−2のリン回収材の通過流量は、通水流量0.15L/minの場合(四角×印)、初期通過流量約0.14L/minから約17時間経過後には約0.13L/minと約93%に低下するものの、十分な通過流量を維持していることが確認された。
【0078】
よって、リン吸着性能の低い従来のセメント系硬化体と同等またはそれ以上の通過流量を維持できることから、実施例1−1、1−2のリン回収材はリンを含む溶液を通水しても十分にリンを吸着することができるためリンの回収性能を維持することができるといえる。
【0079】
従って、実施例の石炭灰と、石膏と、アルカリ溶液とを含む硬化体であるリン回収材は、リンを含む溶液のアルカリ性が高くなることを抑制することができると共に、リンの回収性能が優れることが判明した。
【0080】
以上のように、本発明に係るリン回収材は、リンを含む溶液のアルカリ性が高くなることを抑制することができると共に、リンの回収性能を維持することができるため、製造プラントなどでの高濃度のリンを含む排水処理においてリン回収材として好適に用いることができる。