(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の電気かみそりにおいて、毛屑室といったヘッド部の内部をより衛生的に保つためには、特許文献1等のように、単に内刃の表面に光触媒膜を形成することでは足りず、より厳密に光触媒膜の形成箇所を規定する必要がある。すなわち、ヘッド部内の洗浄し難い箇所に対して、重点的に光触媒膜を形成することが、ヘッド部内を衛生的に保つうえで重要である。
【0005】
本発明の目的は、より効率的に光触媒膜に由来する良好な有機物分解作用や抗菌作用が発揮され、したがって、ヘッド部内を長期に亘って衛生的に保つことが可能な電気かみそりを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、動力源4からの駆動力を受けて駆動される切断体11を備える電気かみそりを対象とする。切断体11は、刃穴33および小刃31を有するプレート28と、このプレート28を保持する保持体19とを有する。小刃31には、外面50と、側面49を挟んで外面50と対峙する内面51とが形成されている。そして、少なくとも内面51の表面に光触媒膜75が形成されていることを特徴とする。
【0007】
内面51に加えて、側面49の表面に光触媒膜75が形成されている形態を採ることができる。
【0008】
小刃31の外面50の突端には刃先54が設けられており、刃先54に連続する小刃31の側面49の表面に形成された光触媒膜75の厚み寸法が、刃先54から離れるに従って徐々に厚くなるものとすることができる。
【0009】
側面49の表面に形成された光触媒膜75が、内凹みR状に形成されている形態を採ることができる。
【0010】
側面49が内凹みR状に形成されており、側面49に形成される光触媒膜75の表面曲率(R2)が、側面49の表面曲率(R1)よりも小さく設定されている形態を採ることができる。
【0011】
小刃31の内面51に凹部81が形成されており、凹部81に食込むように、内面51に光触媒膜75が形成されている形態を採ることができる。
【0012】
小刃31の内面51の表面には微小凹凸82が形成されており、この微小凹凸82を覆うように、光触媒膜75が形成されている形態を採ることができる。なお、かかる微小凹凸82はμmオーダーの凹凸であって、酸性溶液による化学的処理(エッチング処理)によって形成される。
【0013】
切断体11は、刃穴33と小刃31とを有するプレート28を逆U字状に折り曲げたスリット刃からなるレシプロ刃であり、切断体11を構成するプレート28は、逆U字状に折り曲げられた湾曲壁120と、湾曲壁120に連続して設けられて保持体19に取り付けられる一対の取付壁121とを有し、これら湾曲壁120および取付壁121の内面に形成された光触媒膜75の厚み寸法が、湾曲壁120から取付壁121に行くに従って徐々に厚くなるものとすることができる。
【0014】
光触媒膜75は親水性触媒で構成することが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、小刃31の内面51に光触媒膜75を形成したので、内刃11の洗浄し難い部分を光触媒膜75で被覆することができる。これによれば、光触媒膜75の有機物分解作用や抗菌作用を利用して、電気かみそりのヘッド部2の内部を効率的に殺菌・洗浄することができるので、小刃31の内面51に毛屑が付着した場合にも、これが腐敗することは無く、抗菌能および脱臭能に優れた電気かみそりを得ることができる。つまり、本発明に係る電気かみそりによれば、効率的に光触媒膜75に由来する良好な有機物分解作用や抗菌作用が発揮され、したがって、ヘッド部2内を長期に亘って衛生的に保つことが可能となる。
【0016】
また、小刃31の内面51に加えて、小刃31の側面49の表面に光触媒膜75が形成されていると、内面51のみならず、側面49に対しても光触媒膜75に由来する有機物分解作用や抗菌作用を付与することができる。
【0017】
刃先54に連続する小刃31の側面49の表面に形成された光触媒膜75の厚み寸法が、刃先54から離れるに従って徐々に厚くなっていると、膜厚寸法の大きな光触媒膜75が刃先54に付着されることにより、小刃31の切断能力が大きく低下することを防ぐことができる。従って、切断能力(切れ味)を損なうことなく、光触媒膜75の良好な有機物分解作用や抗菌作用を備えた電気かみそりを得ることができる。
【0018】
側面49の表面に形成された光触媒膜75が、内凹みR状に形成されていると、光触媒膜75の表面形状を平坦とする場合に比べて、光触媒膜75の表面積を大きくして、毛屑と光触媒膜75の接触機会を増やすことができる。従って、より効率的にヘッド部2の内部を殺菌・洗浄できる。
【0019】
側面49が内凹みR状に形成されており、側面49に形成される光触媒膜75の表面曲率R2が、側面49の表面曲率R1よりも小さく設定されていると、光触媒膜75の内凹み寸法を小さくすることができるので、光触媒膜75の内凹み部分に毛屑等の汚れが溜まることを効果的に防ぐことができる。
【0020】
小刃31の内面51に凹部81を形成し、凹部81に食込むように、内面51に光触媒膜75を形成すると、内面51からの光触媒膜75の脱落を効果的に抑えることができるので、より長期に亘って、光触媒膜75に由来する有機物分解作用や抗菌作用を得ることができる。さらに、凹部81の凹み分だけ、内面51部分の光触媒量を増やすことができる利点もある。
【0021】
小刃31の内面51の表面に微小凹凸82を形成し、この微小凹凸82を覆うように内面51に光触媒膜75を形成すると、先の凹部81の場合と同様に、内面51からの光触媒膜75の脱落を効果的に抑えることができるので、より長期に亘って、光触媒膜75に由来する有機物分解作用や抗菌作用を得ることができる。
【0022】
切断体11を、逆U字状に折り曲げられた湾曲壁120と、湾曲壁120に連続して設けられて保持体19に取り付けられる一対の取付壁121とを有するものとし、これら湾曲壁120および取付壁121の内面に形成された光触媒膜75の厚み寸法が、湾曲壁120から取付壁121に行くに従って徐々に厚くなるものとすることができる。このように、光触媒膜75の厚み寸法が、湾曲壁120から取付壁121に行くに従って徐々に厚くなるものとしてあると、光触媒膜75を形成したことに伴い、切断体11の湾曲壁120側の重量が過剰に大きくなることを防ぐことができるので、往復駆動時において切断体11の上方側に作用する慣性モーメントの増加を抑えて、切断体11の湾曲壁120等が撓み変形することを防ぐことができる。
【0023】
光触媒膜75は親水性触媒で構成することが望ましく、これにより、水洗い洗浄時に優れた有機物分解作用や抗菌作用を発揮する光触媒膜75を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施例)
図1ないし
図14は、本発明に係る電気かみそりを、ロータリー式の電気かみそりに適用した第1実施例を示す。
図2に示すように、電気かみそりは、本体部1と、本体部1で支持されるヘッド部2と、本体部1に装着される外枠3と、本体部1の後面側に配置される図外のきわ剃りユニットなどで構成する。外枠3は電気かみそりの装飾性を向上するために設けられており、本体部1と協同してグリップを構成する。外枠3の一側上部には、モーター(動力源)4への通電状態をオン・オフ操作するためのスイッチボタン5が設けられている。本体部1の内部には、モーター4のほかに、二次電池6、回路基板7などが組み付けられている。回路基板7には、先のスイッチボタン5で切り換えられるスイッチのほか、表示灯8用のLED、制御回路、電源回路などが実装されている。動力源4としては、モーターの他にぜんまいばねを挙げることができる。
【0026】
ヘッド部2には、外刃10と内刃(切断体)11とからなるメイン刃が設けられおり、さらに内刃11を回転駆動するモーター4と、モーター4の回転動力を回転刃である内刃11に伝動するための駆動構造などが設けられている。モーター4はヘッドフレームの下面に固定されており、本体部1の上部内面に収容されている。駆動構造は一群のギヤトレイン9で構成されており、モーター4の縦軸周りの回転動力を横軸周りの回転動力に変換して内刃11に伝動する。内刃11は
図3に示す矢印の向き(反時計回転方向)に回転駆動される。外刃10は、エッチング法或いは電鋳法で形成されるシート状の網刃からなり、その前後縁が外刃ホルダー12で支持されて、逆U字状に保形されている。
図3には、電鋳法で形成された外刃10を示しており、符号13は外刃10の刃先である。ヘッド部2は、本体部1で上下に移動可能に支持されており、両者1・2の間は防水パッキンでシールされている。
【0027】
外刃ホルダー12は、ヘッドフレーム14に対して着脱自在に装着されて、図外のロック構造で分離不能にロック保持されている。ヘッドフレーム14に設けた左右一対のロック解除ボタン15・15を同時に押し込み操作すると、ロック構造がロック解除されて、外刃ホルダー12をヘッドフレーム14から取り外して、内刃11を露出させることができる。この状態で、ヘッドフレーム14の上面や、内刃11に付着した毛屑を水洗い清浄することができる。
【0028】
図3、
図10および
図11に示すように、内刃11は、切断刃ブランク(プレート)28と、切断刃ブランク28を保持する保持体19とで構成される。保持体19は、回転軸体20であって、軸本体22と、軸本体22に圧嵌固定される5個のディスク23とで構成される。軸本体22は、マルテンサイト系のステンレス鋼材に旋削加工を施して丸軸状に形成してあり、ディスク23は、オーステナイト系のステンレス鋼材に旋削加工を施して円盤状に形成してある。
【0029】
ディスク23を軸本体22に圧嵌固定(かしめ固定)するために、軸本体22の周囲に、各ディスク23の固定位置に対応して複数のかしめ突起24を形成する。かしめ突起24は、軸本体22の周囲にステーキング加工を施して形成してあり、この実施例では各ディスク23の固定位置ごとに、周方向の四箇所にリブ状のかしめ突起24を形成した(
図8(c)参照)。
図9に示すように、かしめ突起24は、軸本体22の中心軸方向の5箇所に断続する状態で形成してあり、かしめ突起24の中心軸方向の長さは、ディスク23の厚み寸法の2.5倍とした。ステーキング加工の詳細については後述する。
【0030】
円盤状のディスク23の中央には、軸本体22に挿通される装填穴25が形成されており、装填穴25の内面には、かしめ突起24に対応する逃げ溝が形成されている。ディスク23の周面は、円形の刃受面26が形成されており、この刃受面26の周面に切断刃21が溶接される。
【0031】
切断刃21は、マルテンサイト系のステンレス板材にエッチング加工を施し、さらにロール加工(塑性加工)を施して円筒状に形成するが、加工の詳細については後述する。
図5に示すように、エッチング加工を施したプレート状ブランク27には、第1小刃(小刃)31aの一群と、第2小刃(小刃)31bの一群と、両小刃31a・31bで囲まれる菱形の刃穴33の一群と、これらの周囲を囲む周枠34とが形成される。両小刃31(31a・31b)の一群は、それぞれ回転軸体20の中心軸に対して互いに逆向きに傾斜する状態で形成されており、これにより展開状態のプレート状ブランク27の全体はエキスパンドメタル状の外観を呈している。
【0032】
上記のように、プレート状ブランク27をエキスパンドメタル状に構成すると、スパイラル刃を切断要素とする従来の回転刃に比べて、切刃の合計長さを増加でき、しかも傾斜方向が異なる両小刃31(31a・31b)により、切断対象を交互に切断できる。さらに、刃穴33の開口面積が格段に大きくなるので、スパイラル刃を切断要素とする内刃と同様に、切断対象を効果的に刃穴33に導入して能率よく切断できる。
【0033】
次に内刃11の製造方法の詳細を説明する。回転刃である内刃11の製造工程は、回転軸体20を形成する工程と、切断刃21を形成して回転軸体20に固定する工程と、切断刃21に光触媒膜75を形成する工程に大別できる。回転軸体20を形成する工程は、軸本体22の周囲にかしめ突起24を形成する工程と、ディスク23に装填穴25を形成する工程と、ディスク23を軸本体22に挿通して圧嵌姿勢に保持する工程と、ディスク23と軸本体22を相対移動させてかしめ突起24を圧嵌する工程とからなる。
【0034】
切断刃21を形成する工程は、
図4および
図5に示すように、ステンレス板材46にエッチングを施して、プレート状ブランク27を形成する工程と、
図6に示すようにプレート状ブランク27にロール加工(塑性加工)を施して円筒状の切断刃ブランク28を形成する工程とからなる。こののち、切断刃ブランク28を回転軸体20に溶接する工程を経て回転刃ブランク29を構成し、回転刃ブランク29に焼き入れ処理と研削処理を施して、回転刃である内刃11を完成する。プレート状ブランク27は、ステンレス板材に打抜き加工を施して形成してあってもよい。
【0035】
(装填穴を形成する工程)
この工程では、ステンレス製の丸軸に切削加工を施して所定の直径値の旋削ブランクを形成し、得られた旋削ブランクの中央に旋削加工あるいはドリル加工を施して装填穴25を形成する。得られた長尺のブランクを突っ切りバイトで所定の幅に切断してディスク23を形成する。ディスク23は、ステンレス板材に打抜き加工を施して形成することができ、あるいはステンレス板材にエッチングを施して形成することもできる。
【0036】
(かしめ突起を形成する工程)
図8に示すように、かしめ突起24を形成する工程では、定置されたステーキング加工用の固定型35と、固定型35に向かって下降し、あるいは上昇するステーキング加工用の可動型36とで、軸本体22の周面に中心軸方向の長いリブ状のかしめ突起24を形成する。
図8(b)に示すように、固定型35および可動型36の対向面の前後には、それぞれ鋭角の切刃37・37が形成されている。固定型35の切刃37で、ディスク23が仮組みされた軸本体22を支持し、固定型35の側端に設けた位置決め枠38で軸本体22を位置決めした状態で、可動型36を軸本体22の周面に食込ませることにより、
図8(c)に示すように、軸本体22の周方向の四箇所に逆V字状に突出するリブ状のかしめ突起24を形成できる。かしめ突起24は、各ディスク23の固定位置ごとに、軸本体22の中心軸方向に沿って一定間隔おきに断続的に形成するが、各ディスク23の固定位置における個々のかしめ突起24の位相位置は一定位置に揃えてある。かしめ突起24を形成するのと同時に、切刃37の食込み跡39が形成される。
【0037】
(かしめ突起を圧嵌する工程)
この工程では、
図9に示すように、軸本体22に仮組みした状態のディスク23を治具40の支持壁41で支持する。この状態で、軸本体22を中心軸に沿って下向きに押し込んで、その下端面を治具40の下端のストッパー42に外接させることにより、かしめ突起24と装填穴25を互いに圧嵌する。これにて、装填穴25が通過した部分のかしめ突起24の突端側の部分が装填穴25によって削り取られ、あるいは逆に装填穴25の一部が、残ったかしめ突起24の基部側の圧潰面で削り取られて両者24・25が互いに密着するため、ディスク23を軸本体22に圧嵌固定することができる。
【0038】
(切断刃を形成する工程)
この工程では、
図4および
図5に示すようにステンレス板材46にエッチングを施して、切断刃21のプレート状ブランク27を形成する。具体的には、厚みが0.3mmのステンレス板材46の表裏両面にエッチング処理を施して、小刃31(31a・31b)などを形成する。エッチング工程においては、
図4に示すようにステンレス板材46の表裏両面にレジスト膜47を形成したのち露光し、露光部を除去して、非露光部に囲まれる板材表面をエッチング液で蝕刻する。このとき、多数個のプレート状ブランク27を同時に形成して、その辺部に設けられた橋絡部48を切断して、ステンレス板材46からプレート状ブランク27を分離する。
【0039】
エッチング処理を施すことにより、
図4に示すような断面形状の小刃31が形成される。小刃31は、外面の切断面50と、内面のベース面51と、これら両者50・51の端縁間に係る側面に内凹み状に形成される掬い面52と抉り面53とで4つの隅部を備えた異形断面状に形成される。これら掬い面52と抉り面53により、小刃31の側面49が形成される。矢印で示す切断面50の回転方向側の突端(端縁)に刃先54が形成されており、刃先54に連続して小刃31の側面に掬い面52が形成される。また、刃先54の反対側の端縁には、逃げ縁55が形成され、この逃げ縁55に連続して小刃31の側面に抉り面53が形成される。掬い面52および抉り面53は、切断面50の端縁からベース面51の端縁に至る、一つの凹曲面で形成される。エッチング液としては、塩化第二鉄を使用することができる。なお、かかるエッチング処理により、レジスト膜47で覆われていない掬い面52、および抉り面53の表面には微小凹凸82が形成される。
【0040】
(切断刃ブランクを形成する工程)
この工程では、
図6(a)、(b)に示すように、プレート状ブランク27にロール加工(塑性加工)を施して、円筒状の切断刃ブランク28を形成する。ロール加工は、下側に配置した2個のベースローラ56・56と、両ベースローラ56・56の間の上方に配置される加圧ローラ57とで行い、両ローラ56・57の間にプレート状ブランク27を通すことにより、円筒状の切断刃ブランク28を形成する。切断刃ブランク28は、スリット58を有する不完全円筒状に湾曲されている。
【0041】
(切断刃ブランクを溶接する工程)
この工程では、回転軸体20のディスク23の周面に切断刃21の切断刃ブランク28を溶接する。詳しくは、円筒状の切断刃ブランク28をディスク23に外嵌し、断面が半円状の治具で切断刃ブランク28を抱持してディスク23の刃受面26に密着させる。この状態で、切断刃ブランク28をレーザー溶接機でディスク23に溶接することにより、
図11に示すような円筒籠状の回転刃ブランク29が得られる。
【0042】
(熱処理工程)
熱処理工程においては、回転刃ブランク29を約1000℃にまで加熱し、その状態を所定時間維持したのち、水および加熱された油で順に冷却して焼入れを行う。これにより、切断刃21および軸本体22の金属組織をマルテンサイト化してその表面硬度を増強できる。回転刃ブランク29を加熱することで、レーザー溶接時に溶接部の周辺部で生じた熱による内部歪みを除去できる。必要に応じて焼き戻しを行う。
【0043】
(研磨工程)
研磨工程では、回転刃ブランク29の周面に粗研削加工と仕上げ研削加工とを順に施して、切断刃21の周面の真円度を向上し、さらに刃先54をシャープに仕上げる。粗研削加工では、溶接部の膨出表面を除去し、同時に切断刃21の表面を研削する。また、仕上げ研削加工では、切断刃21の周面の表面粗さが小さくなるように仕上げ研削を行って、回転刃である内刃11の外周面の直径寸法と、真円度と、表面粗さとを所定の状態に仕上げる。粗研削加工では、腐食しやすい溶接部の膨出表面を除去するので、溶接部の腐食や割れなどを一掃して切断刃21の耐久性を向上できる。かかる研磨工程は、
図12に示すように、切断刃21の表面に研磨ローラ59を押し当てた状態で、研磨ローラ59および回転刃ブランク29を同方向に回転させることで行うことができる。尤も、切断刃21に対して電解研磨を行うことで研磨加工を行っても良い。なお、内刃11の真円度に対する要求仕様が低い場合には、研削加工は省略することができる。
【0044】
(光触媒の形成工程)
光触媒膜の形成工程は、
図13(a)〜(d)に示すような下地層60の形成工程と、
図14(a)〜(d)に示すような光触媒層61の形成工程とに大別できる。下地層60の形成工程では、まず、回転刃ブランク29を無機酸を主成分とした酸性溶液(化学研磨液)に所定時間浸漬させる化学的処理(エッチング処理)を行う。かかる化学的処理によって、小刃31の切断面50、ベース面51、掬い面52、および抉り面53の各面の表面に不動態皮膜が形成されるとともに、その表面にμmオーダーの微小凹凸82が形成される(
図1参照)。かかる微小凹凸82は、光触媒膜75の形成に先立つ酸性溶液による化学的処理によって形成される。このように不動態皮膜が形成されると、各面が腐食されることを効果的に防ぐことができる。また、微小凹凸82が形成されることにより、光触媒膜75の密着性が高まり、光触媒膜75の不用意な脱落を防止できる。加えて、かかる化学的処理においては、回転軸体20の表面にも微小凹凸が形成される。したがって、小刃31と同様に回転軸体20の表面における光触媒膜75の密着性が高まり、光触媒膜75の不用意な脱落を防止できる。化学研磨液の具体例としては、切断刃21のプレート状ブランク27を形成する際に用いた塩化第二鉄(エッチング液)のほか、公知のバリ取り剤を挙げることができる。また、化学的処理は、酸性溶液に浸漬させる以外に、回転刃ブランク29に酸性溶液を噴霧装置等で吹き付けることにより実施することができる。
【0045】
次に、
図13(a)に示すように、下地層60を構成するバインダー樹脂62が充填されたバインダー槽63内に回転刃ブランク29を所定時間浸漬させて、回転刃ブランク29の表面全体にバインダー樹脂62を付着させる。これにて、切断面50、ベース面51、掬い面52、および抉り面53とで構成される小刃31の表面に、略均一の厚さ寸法にバインダー樹脂62を付着することができる。
【0046】
次に、
図13(b)に示すように、刃先54に付着している余分なバインダー樹脂62の除去処理、およびバインダー樹脂62で構成される下地層60の薄層化処理を行う。ここでは、まず、回転刃ブランク29を軸本体22を中心に所定時間(約10秒)回転させることで、遠心分離力により小刃31の外面側にバインダー樹脂62を移動させるとともに、余分なバインダー樹脂62を除去する。次に、切断刃21の最上部に位置する刃先54に対峙するように、送風機の吹出口65を配置したうえで、内刃11の回転方向と同方向(反時計方向)に、回転刃ブランク29を軸本体22を中心に回転させながら、吹出口65からバインダー樹脂62の除去空気66を送給する(約3秒)。扁平なノズル口を有する吹出口65は、切断刃21の最上部から延出される接線上に位置しており、且つ最上部の切断刃21の刃先54の回転方向の下流側(図示例では左側)に位置している。このように、切断刃21を回転させながら、回転方向の下流側から刃先54に向けて除去空気66を送給することにより、刃先54に付着しているバインダー樹脂62を除去することができる。また、除去空気66により、刃先54に付着しているバインダー樹脂62を掬い面52の下方側に押しやることができる。従って、掬い面52に付着しているバインダー樹脂62の層厚を、刃先54側が薄く、刃先54から離れるに従って徐々に厚くなるものとできる。
【0047】
次に、
図13(c)に示すように、ベーキング装置67を使って、バインダー樹脂62が付着の回転刃ブランク29に対して加熱処理を行い(120〜150℃)、バインダー樹脂62を固化させて、小刃31の表面に下地層60を形成する。次に、
図13(d)に示すように、60℃に維持された恒温室68内に回転刃ブランク29を所定時間(約10分)収容して、回転刃ブランク29を温める。このように回転刃ブランク29を温めると、次工程における下地層60への光触媒層61の付着が良好となる。
【0048】
続く光触媒層61の形成工程においては、まず、
図14(a)に示すように、前工程で下地層60が形成された回転刃ブランク29を液状の光触媒71が充填された触媒槽70内に所定時間浸漬させて、下地層60の表面全体に光触媒71を付着させる。この状態では、下地層60の表面には、略均一の厚み寸法に光触媒71が付着される。光触媒71は、親水性触媒であることが好ましく、これにより、水洗い洗浄時に優れた有機物分解作用や抗菌作用を発揮する光触媒膜75を形成できる。
【0049】
次に、刃先54に付着している余分な光触媒71の除去処理、および光触媒71で構成される光触媒層61の薄層化処理を行う(
図14(b)参照)。かかる除去処理および薄層化処理の方法は、先の
図13(b)と同様である。すなわち、まず、回転刃ブランク29を軸本体22を中心に所定時間(約10秒)回転させて、遠心分離力により切断刃21の外面側に光触媒71を移動させるとともに、余分な光触媒71を除去する。次に、切断刃21の最上部の刃先54に対峙するように、送風機の吹出口72を配置したうえで、内刃11の回転方向と同方向(反時計方向)に、回転刃ブランク29を軸本体22を中心に回転させながら、吹出口72から光触媒71の除去空気73を送給する(約3秒)。扁平なノズル口を有する吹出口72は、切断刃21の最上部から延出される接線上に位置しており、且つ最上部の切断刃21の刃先54の回転方向の下流側(図示例では左側)に位置している。このように、切断刃21を回転させながら、回転方向の下流側から切断刃21の刃先54に向けて除去空気73を送給することにより、刃先54に付着している光触媒71を除去することができる。また、除去空気73により、刃先54に付着している光触媒71を掬い面52の下方側に押しやることができる。従って、掬い面52の下地層60の表面に付着している光触媒71の層厚を、刃先54側が薄く、刃先54から離れるに従って徐々に厚くなるものとすることができる。
【0050】
次に、
図14(c)に示すように、ベーキング装置67を使って、光触媒71が付着の回転刃ブランク29に対して加熱処理を行い(120〜150℃)、光触媒71を固化させて、下地層60上に光触媒層61を形成する。最後に、
図14(d)に示すように、切断面50を研磨ローラ74に押し当てた状態で、研磨ローラ74および回転刃ブランク29を同方向に回転させることにより、切断面50上に形成された下地層60および光触媒層61を除去する。以上より、
図14(d)および
図1に示すような内刃11を得ることができる。なお、
図14(d)における切断面50上に形成された下地層60および光触媒層61の除去作業は廃することができる。これは外刃10を装着した状態で、内刃11を駆動回転させると、外刃10との接触により、切断面50上に形成された下地層60および光触媒層61は除去されることに拠る。
【0051】
(内刃の構成)
図1に示すように、内刃11の小刃31(31a・31b)は、外面の切断面50と、内面のベース面51と、これら両者50・51の端縁間に係る側面に内凹み状に形成される掬い面52と抉り面53とで4つの隅部を備えた異形断面状に形成され、切断面50の回転方向側の突端に刃先54を備えるものとなる。掬い面52および抉り面53は、切断面50の端縁からベース面51の端縁に至る一つの凹曲面で形成されており、これら掬い面52、抉り面53、およびベース面51の表面に、下地層60と光触媒層61とからなる内凹み状の光触媒膜75が形成される。
【0052】
加えて、前述の
図13(b)および
図14(b)の除去処理および薄層化処理を行うことにより、掬い面52の表面に形成された光触媒膜75の厚み寸法は、刃先54側が薄く、刃先54から離れるに従って徐々に厚みが大きいものとなる。より具体的には、掬い面52における光触媒膜75は、その膜厚寸法が、刃先54側が薄く、掬い面52の最凹部52aに近づくに連れて徐々に厚くなり、最凹部52aを過ぎてベース面51に近づくに連れて徐々に薄くなっている。
図1において、寸法(D1)は、最凹部52aにおける光触媒膜75の最大膜厚寸法を示している。また、光触媒膜75の表面曲率(R2)は、掬い面52の表面曲率(R1)よりも小さくなっている。
【0053】
抉り面53の表面に形成された光触媒膜75の厚み寸法は均一とされており、
図1において寸法(D2)は、抉り面53に形成された光触媒膜75の膜厚寸法を示している。光触媒膜75の表面曲率(R4)は、抉り面53の表面曲率(R3)よりも大きくなっている。ベース面51の表面に形成された光触媒膜75の最大厚み寸法(D3)は、掬い面52に形成された光触媒膜75の最大厚み寸法(D1)よりも大きくされている。
【0054】
以上のように、第1実施例に係る電気かみそりによれば、内刃11を構成する掬い面52等に光触媒膜75を形成したので、光触媒膜75の有機物分解作用や抗菌作用により、ヘッド部2の内部を衛生的な状態に保持することができる。加えて、掬い面52の表面に形成された光触媒膜75の厚み寸法を、刃先54側が薄く、刃先54から離れるに従って徐々に厚みが大きいものとなるとしたので、光触媒膜75が刃先54に付着することに起因して、内刃11の切断能力が低下することを防ぐことができる。以上より、切断能力(切れ味)を損なうことなく、光触媒膜75の良好な有機物分解作用や抗菌作用を備えた電気かみそりを得ることができる。
【0055】
掬い面52を、刃先54に連続して小刃31(第1小刃31a、第2小刃31b)の側面に内凹みの湾曲状に形成したので、光触媒膜75と掬い面52との接触面積を大きくして、掬い面52から光触媒膜75が脱落することを確実に防ぐことができる。また、光触媒膜75の表面曲率(R2)を掬い面52の表面曲率(R1)よりも小さくしたので、光触媒膜75の内凹み寸法を小さくすることができる。これにて、光触媒膜75の内凹み部分へ毛屑等の汚れが溜まることを効果的に防ぐことができる。
【0056】
掬い面52の表面に加えて、ベース面51の表面に光触媒膜75が形成されていると、内刃11の洗浄し難い部分を光触媒膜75で被覆することができるので、光触媒膜75の有機物分解作用や抗菌作用を利用して、ヘッド部2の内部を殺菌・洗浄することができる。特に、ベース面51の表面に形成された光触媒膜75の厚み寸法(D3)を、掬い面52の表面に形成された光触媒膜75の最大厚み寸法(D1)よりも大きくしていると、ベース面51側の光触媒膜75に由来する有機物分解作用や抗菌作用を、より長期に亘って得ることができる。加えて、ベース面51の表面に微小凹凸82を形成したうえで、これ(微小凹凸82)を覆うように光触媒膜75を形成したので、該微小凹凸82の凹部に食込むように光触媒膜75を形成することができ、ベース面51からの光触媒膜75の脱落を効果的に抑えることができる。従って、より長期に亘って、光触媒膜75に由来する有機物分解作用や抗菌作用を得ることができる。
【0057】
抉り面53に形成された光触媒膜75の最大厚み寸法(D2)が、掬い面52に形成された光触媒膜75の最大厚み寸法(D1)よりも大きくしていると、抉り面53側の光触媒膜75に由来する有機物分解作用や抗菌作用を、より長期に亘って得ることができる。
【0058】
また、この電気かみそりによれば、内刃11を構成する回転軸体20の表面にも光触媒膜75が形成される。したがって、小刃31と同様に、回転軸体20に付着する毛屑に対しても光触媒膜75に由来する有機物分解作用や抗菌作用が発揮される。
【0059】
(第2実施例)
図15に、本発明の第2実施例を示す。この
図15に示す内刃11の小刃31は、抉り面53を二つの凹曲面でく字状に形成した点が先の第1実施例の内刃と相違する。すなわち、抉り面53を、第1抉り面80aと第2抉り面80bとで構成した点が、先の第1実施例と相違する。それ以外の点は、先の第1実施例と同様であるので、同様の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0060】
(第3実施例)
図16に、本発明の第3実施例を示す。この
図16に示す内刃11の小刃31は、切断面50にハーフエッチングにより凹部81aを形成した点、ベース面51に、ハーフエッチングにより凹部81bを形成した点、および、これら凹部81a・81b内を埋めるように光触媒膜75が形成されている点が、先の第1実施例と相違する。それ以外の点は、先の第1実施例と同様であるので、同様の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。このように、切断面50およびベース面51に凹部81a・81bを形成してあると、切断面50等からの光触媒膜75の脱落を効果的に抑えることができるので、より長期に亘って、光触媒膜75に由来する有機物分解作用や抗菌作用を得ることができる。
【0061】
(第4実施例)
図17および
図18に、本発明の第4実施例を示す。この第4実施例では、小刃31の側面に形成される掬い面52と抉り面53とを、直線状の斜面88・89で形成した点、および切断面50に凹部81aを形成した点が、先の第1実施例と相違する。それ以外の点は先の第1実施例と同様であるので、同一の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0062】
内刃11は、電鋳法で形成したプレート状の刃ブランク83に、プレス加工、光触媒膜75の形成、研磨処理などを施して形成することができる。詳しくは、
図18(a)に示すように、母型84の上面にフォトレジスト膜を形成し、その表面にパターンフィルムを載置して露光し現像したのち、電鋳パターンに合致するフォトレジスト層85を形成し、1次電鋳層86を形成する。次に、
図18(b)に示すように、電鋳液を矢印に示す向きに流しながら、1次電鋳層86の外面に2次電鋳層87を形成する。2次電鋳層87を剥離することにより、断面が不等脚台形状の小刃31を備えた刃ブランク83が得られる。詳しくは、電鋳液の流れ方向上手側の斜面88の傾斜角度が小さく、流れ方向下手側の斜面89の傾斜角度が大きな、不等脚台形状の小刃31を形成できる。
【0063】
次に、2次電鋳層87を剥離することにより、
図18(c)に示すような刃ブランク83を得る。次に、刃ブランク83にプレス加工を施して、全体を湾曲状に塑性変形させて円筒形の切断刃ブランク28を形成したうえで、先の第1実施例と同様の手順で光触媒膜75の形成、および研磨処理を行い、
図17に示すような内刃11を得ることができる。
【0064】
図17に示すように、内刃11の小刃31は、傾斜角度の小さな斜面88で構成される掬い面52と、傾斜角度の大きな斜面89で構成される抉り面53とを備え、切断面50の側に1次電鋳層87に対応する凹部81aを備えている。切断面50の突端縁が刃先54となる。ベース面51、掬い面52、抉り面53の表面には、光触媒膜75が形成されている。また、切断面50の凹部81a内にも光触媒膜75が形成されている。掬い面52における光触媒膜75の厚み寸法は、刃先54側が薄く、刃先54から離れるに従って徐々に厚み寸法が大きくなるものとなっている。
【0065】
(第5実施例)
図19〜
図26は、本発明をレシプロ式の電気かみそりに適用した第5実施例を示す。
図19および
図20に示すように、電気かみそりのヘッド部2は、ヘッドフレーム14と、その下部に固定されるモーター4と、ヘッド部2の上部に配置される切断機構100と、モーター4の動力を切断機構100に伝動する駆動構造101と、ヘッドフレーム14に対して着脱される外刃ホルダー12などで構成される。切断機構100は、左右横長の外刃10と、外刃10の内面に沿って左右に往復駆動される左右横長の内刃(切断体)11とからなる。外刃10は電鋳法あるいはエッチング法で形成されるシート状の網刃からなり、先の外刃ホルダー12で逆U字状に保形されている。内刃11は、プレート状ブランク27にプレス加工を施して、逆U字状に折り曲げたスリット刃からなり、保持体19である内刃ホルダー110で逆U字のままで固定されている。プレート状ブランク27は、後述するように、エッチング法で形成する。
【0066】
内刃11を往復駆動する駆動構造101は、モーター4の出力軸に固定される偏心カム102と、振動子103と、振動子103の上部中央に突設される駆動軸104とで構成される。モーター4の回転動力は、偏心カム102と振動子103とで往復動力に変換され、駆動軸104を介して内刃11に伝動される。内刃11は、振動子103と内刃ホルダー110との間に配置された圧縮コイル形のばね105で押し上げ付勢されて、外刃10の内面に常に密着している。
【0067】
次に内刃11の製造方法の詳細を説明する。往復駆動刃である内刃11の製造工程は、プレート状ブランク27を形成する工程と、プレート状ブランク27にプレス加工を施して切断刃ブランク28を形成する工程と、切断刃ブランク28の表面に光触媒膜75を形成する工程と、光触媒膜75が形成された切断刃ブランク28を内刃ホルダー110に固定する工程とに大別できる。
【0068】
図23に示すように、プレート状ブランク27は、左右横長のプレート体からなり、プレート体の壁面にはリブ状の小刃31と、スリット状の刃穴33とが左右方向へ交互に形成されている。
図19に示すように、小刃31は、外面の切断面50と、内面のベース面51と、内凹み状に湾曲する左右の掬い面52・52とで、断面が逆等脚台形になるように形成される。これに伴い、切断面50の左右両側縁のそれぞれには、鋭角の刃先54が形成され、これら刃先54が外刃10と協同してひげを切断する。これら切断面50、ベース面51および左右の掬い面52・52の表面に、光触媒膜75が形成される。なお、
図19には、切断面50上に形成される光触媒膜75を省略して示している。これは、外刃10を装着した状態で、内刃11を往復駆動させると、外刃10との接触により、切断面50上に形成された光触媒膜75は除去されることに拠る。
【0069】
プレート状ブランク27は、厚みが0.25mmのステンレス板材46に、エッチング処理を施して形成するが、その過程で小刃31を構成する各面50・51・52が形成される。まず、
図22に示すように、エッチング処理では、ステンレス板材46の表裏両面にそれぞれレジスト膜47・47を形成したのち露光し、露光部分を除去してレジストパターンに囲まれる板材表面をエッチング液で蝕刻する。表側のレジストパターンに比べて、裏側のレジストパターンはひとまわり小さく形成してある。そのため、ステンレス板材46の表面に比べて裏面側の蝕刻の度合いが大きくなる。蝕刻によって表面(切断面50)側から成長した湾曲面と、裏面(ベース面51)側から成長した湾曲面とは、最終的にひとつの湾曲面になって掬い面52を形成するが、裏面側の蝕刻の度合いが大きい分だけ、裏面側へ向かって先窄まり状となる。結果、小刃31の断面の全体が逆等脚台形状に形成される。このとき、
図23に示すように、多数個のプレート状ブランク27を同時に形成して、その辺部に設けられた橋絡部48を切断して、ステンレス板材46からプレート状ブランク27を分離する。
図23において、符号114は、内刃ホルダー110への装着用の装着穴を示す。
【0070】
次に、
図24に示すように、U字溝を有する下型116にプレート状ブランク27をセットした状態で、上方から凸球部117を有する上型118をプレート状ブランク27に押し当てて、プレート状ブランク27にプレス加工を施して断面U字状に塑性変形させる。これにて、逆U字状に折り曲げられた湾曲壁120と、湾曲壁120に連続して設けられて内刃ホルダー110に装着される一対の取付壁121とを備える切断刃ブランク28を得ることができる。
【0071】
次に、切断刃ブランク28を酸性溶液に所定時間浸漬させる化学的処理を行い、切断刃ブランク28の表面にμmオーダーの微小凹凸を形成したうえで、
図25に示すように、バインダー樹脂と光触媒とを混合してなる触媒液112が充填された触媒槽113内に、切断刃ブランク28を所定時間浸漬させて、切断刃ブランク28の表面全体に触媒液112を付着させる。これにて、切断面50、ベース面51、および掬い面52・52とで構成される小刃31の表面に、略均一寸法に触媒液112を付着させることができる。触媒液112に含有されるバインダー樹脂および光触媒は、先の第1実施例に挙げたものと同様であり、光触媒としては親水性触媒が好適である。
【0072】
次に、
図25に示すように、切断刃ブランク28を、その湾曲壁120が上方に指向するような姿勢状態で所定時間放置する。これにて、湾曲壁120を構成する小刃31において、掬い面52の上端(刃先54)に付着の触媒液112は自重で下方に移動する。従って、掬い面52における触媒液112の膜厚は、刃先54側が薄く、刃先54から離れるに従って徐々に厚いものとなる(
図19・25参照)。また、ベース面51に付着している触媒液112の膜厚は、表面張力により中央部が厚く、周縁が薄いものとなる。加えて、触媒液112が自重で下方に移動することにより、切断刃ブランク28の湾曲壁120に付着する触媒液112の厚み寸法(D4)は、取付壁121に付着の触媒液112の厚み寸法(D5)に比べて小さなものとなる(
図21参照)。
【0073】
なお、かかる触媒液112の下方への移動は、自重による移動に限らず、遠心分離機を使って積極的に触媒液112を移動させる方法を採ることができる。具体的には、湾曲壁120側が遠心分離機の回転中心側に位置し、取付壁121側が外方に指向するような姿勢状態で触媒液112が付着の切断刃ブランク28を遠心分離機にセットし、遠心分離機を回転駆動させることによっても、触媒液112を取付壁121側へ移動させることができる。また、かかる遠心分離機の回転駆動により、湾曲壁120の小刃31を構成する切断面50側に付着の触媒液112はベース面51側に移動させることができるため、掬い面52における触媒液112の膜厚を、刃先54側が薄く、刃先54から離れるに従って徐々に厚いものとすることができる。かかる方法は、特に触媒液112の粘性が高い場合に有用である。
【0074】
次に、ベーキング装置等を使って、触媒液112が付着の切断刃ブランク28に対して加熱処理を行い(120〜150℃)、触媒液112を固化させて、切断刃ブランク28の表面に光触媒膜75を定着させる。
【0075】
図19に示すように、内刃11の小刃31は、外面の切断面50と、内面のベース面51と、これら両者50・51の端縁間に係る側面に内凹み状に形成される掬い面52・52で4つの隅部を備えた逆等脚台形状に形成され、切断面50の左右端縁に刃先54・54を備えるものとなる。掬い面52は、切断面50の端縁からベース面51の端縁に至る一つの凹曲面で形成されており、これら掬い面52、切断面50およびベース面51の表面に、内凹み状の光触媒膜75が形成される。
【0076】
本実施例において、ベース面51における光触媒膜75は外凸R状となっている。掬い面52の表面に形成された光触媒膜75の厚み寸法は、刃先54側が薄く、刃先54から離れるに従って徐々に厚みが大きいものとなる。より具体的には、掬い面52における光触媒膜75は、その膜厚寸法が、刃先54側が薄く、掬い面52の最凹部52aに近づくに連れて徐々に厚くなるものとなっている。
図19において、寸法(D1)は、最凹部52aにおける光触媒膜75の最大膜厚寸法を示している。また、光触媒膜75の表面曲率(R2)は、掬い面52の表面曲率(R1)よりも小さくなっている。
【0077】
加えて、触媒液112が下方に移動することにより、内刃11の湾曲壁120における光触媒膜75の厚み寸法(D4)は、取付壁121における光触媒膜75の厚み寸法(D5)に比べて小さなものとなる(
図21参照)。より具体的には、光触媒膜75の厚みは、上方の湾曲壁120から下方の取付壁121に行くに従って徐々に厚いものとなる。このように、光触媒膜75の厚みを、上方の湾曲壁120から下方の取付壁121に行くに従って徐々に厚いものとしてあると、光触媒膜75を形成したことに伴い、切断刃ブランク28の上方側(湾曲壁120側)の重量が過剰に大きくなることを防ぐことができる。これにて、往復駆動時において内刃11の上方側に作用する慣性モーメントの増加を抑えることができるので、内刃11を構成する切断刃ブランク28の湾曲壁120等が歪に撓み変形することを防ぐことができる。
【0078】
(第6実施例)
図27に、本発明の第6実施例を示す。この第6実施例では、小刃31のベース面51に、ハーフエッチングにより凹部81を形成した点、および、凹部81内を埋めるように光触媒膜75が形成されている点が、先の第5実施例と相違する。それ以外の点は、先の第5実施例と同様であるので、同様の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。このように、ベース面51に凹部81が形成されていると、ベース面51からの光触媒膜75の脱落を効果的に抑えることができるので、より長期に亘って、光触媒膜75に由来する有機物分解作用や抗菌作用を得ることができる。
【0079】
(第7実施例)
図28に、本発明の第7実施例を示す。
図28に示すように、本実施例の小刃31は、外面の切断面50と、切断面50の左右周縁から下窄まりのテーパー状に形成された左右一対の掬い面52・52と、内面のベース面51と、ベース面51の左右周縁と、掬い面52・52の下端とを繋ぐストレート面123・123(側面49)とを備える断面杯状に形成されている。ストレート面123・123の上下方向の中央部には、凹部137が形成されており、ベース面51の左右方向中央部には凸部138が形成されている。また、ストレート面123の凹部137に対応して、光触媒膜75の側面には、内凹みR状の凹部140が形成されており、ベース面51の凸部138に対応して、光触媒膜75の下面には、外凸R状の凸部141が形成されている。
【0080】
(第8実施例)
図29に本発明の第8実施例を示す。この第8実施例では、スプレー噴射方式により触媒液112をベース面51に塗布することで、ベース面51上に光触媒膜75を形成している。具体的には、エッチング法、或いはプレス加工により、小刃31を有するプレート状ブランク27を形成したうえで、ベース面51に対応する開口151を有するマスキングプレート152をプレート状ブランク27の下面に貼着する。次に、開口151を介してベース面51に向けて、ノズル153から霧状の触媒液112を噴射して、ベース面51の表面に触媒液112を塗布する。具体的には、マスキングプレート152が貼着されたプレート状ブランク27を矢印に示す方向に移動させながら、ノズル153から霧状の触媒液112を噴射したのち、マスキングプレート152を除去する。次いで、プレート状ブランク27に加熱処理を施して触媒液112を固化することにより、ベース面51を覆う光触媒膜75を形成する。なお、
図29には、エッチング法で形成されたプレート状ブランク27(
図1参照)に対して、スプレー噴射方式により光触媒膜75を形成した例を示している。
【0081】
本発明は、回転刃の周囲に、回転刃の食込み量を規制するガード体が設けられた電気かみそりにも適用できる。すなわち、本発明は外刃を備えていない電気かみそりにも適用できる。切断刃ブランク(プレート)28は、塑性加工を施して円筒状や断面U字状に形成したが、その必要はなく、平板状であってもよい。切断刃ブランク28が平板状の場合には、外刃10も平板状に形成する。このような平板状の外刃10と切断刃ブランク28とは、例えば、電気かみそりの往復式センター刃、あるいは、バリカンと同様に固定刃と可動刃とで構成されるきわぞり刃などに適用することができる。第1実施例等のロータリー式の電気かみそりにおいて、内刃11は、1枚の切断刃ブランク28の形態に限らず、複数枚の部分円弧状の切断刃ブランク(プレート)28を用意し、それら複数枚の切断刃ブランク28を回転軸体20に固定することで、断面が円弧状となる形態であってよい。