(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1〜14を参照して、本発明による電動式走行車両の一実施の形態を説明する。本実施の形態では、本発明をシリーズハイブリッド式ホイールローダに適用した場合について説明する。
【0011】
図1は、本発明による電動式走行車両の一例であるシリーズハイブリッド式のホイールローダ100の側面図である。ホイールローダ100は、アーム111、バケット112、前輪113等を有する前部車体110と、運転室121、エンジン室140、後輪123等を有する後部車体120とで構成される。
【0012】
本実施の形態のホイールローダ100は、前部車体110と、後部車体120とが連結軸101U,101Lを屈曲軸として左右に屈曲されるアーティキュレート式のホイールローダ100である。前部車体110と後部車体120とは連結軸101U,101Lにより互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ116の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折して操舵される。
【0013】
前部車体110には、上下方向に回動可能にアーム111が連結されており、アーム111はアームシリンダ117の駆動により上下方向に回動(俯仰動)する。アーム111の先端にはバケット112が上下方向に回動可能に連結されており、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(クラウドまたはダンプ)する。
【0014】
図2は、ホイールローダ100の構成の一例を示す図である。ホイールローダ100は、メインコントローラ20と、エンジン1と、エンジンコントローラ21と、走行電動装置100Eと、作業油圧装置(以下、単に作業装置と称す)100Hと、走行駆動装置100Dとを備えている。
【0015】
作業装置100Hは、アーム111およびバケット112(
図1参照)と、アームシリンダ117およびバケットシリンダ115とを含んで構成され、エンジン1により駆動される作業用油圧ポンプ10から吐出される圧油により駆動される。作業用油圧ポンプ10から吐出される圧油は、制御弁11を介して、アームシリンダ117およびバケットシリンダ115へと供給される。運転室121内のアーム操作レバー57およびバケット操作レバー58を操作することにより、制御弁11が動作し、アームシリンダ117およびバケットシリンダ115へ作動油が適宜分配され、アーム111およびバケット112に所定の動作を行わせることができるようになっている。
【0016】
走行電動装置100Eは、モータ/ジェネレータ5と、M/Gインバータ25と、走行用電動機であるフロントモータ3およびリアモータ4と、フロントインバータ23と、リアインバータ24と、蓄電素子(たとえば、キャパシタ)7と、コンバータ27とを含んで構成される。
【0017】
走行駆動装置100Dは、アクスル60F,60Rと、デファレンシャル装置70F,70Rと、プロペラシャフト64とを含んで構成され、フロントモータ3およびリアモータ4によって駆動される。
【0018】
図2および
図6、
図7を参照して、フロントモータ3とリアモータ4との連結構造について説明する。フロントモータ3のロータ3rにはモータシャフト63が一体化され、リアモータ4のロータ4rにはモータシャフト65が一体化されている。フロントモータシャフト63の車両後端とリアモータシャフト65の車両前端とは、自在継手73,74を介してプロペラシャフト64に接続されている。すなわち、プロペラシャフト64の車両後端には第1自在継手74を介してリアモータ4のモータシャフト65が接続され、プロペラシャフト64の車両前端には第2自在継手73を介してフロントモータ3のモータシャフト63が接続されている。これにより、フロントモータ3のモータシャフト63とリアモータ4のモータシャフト65とは、プロペラシャフト64および一対の自在継手73,74により連結され、一体的に回転する。
【0019】
一対の前輪113は、それぞれ、前輪側アクスル60Fに連結されている。前輪側アクスル60Fは、デファレンシャル装置70Fに接続され、デファレンシャル装置70Fは、一対の自在継手からなる連結部72を介してフロントモータ3のモータシャフト63に連結されている。一対の後輪123は、それぞれ、後輪側アクスル60Rに連結されている。後輪側アクスル60Rは、デファレンシャル装置70Rに接続され、デファレンシャル装置70Rは、一対の自在継手からなる連結部75を介してリアモータ4のモータシャフト65に連結されている。
【0020】
図2に示すように、モータ/ジェネレータ5は、エンジン1の出力軸に連結され、エンジン1により駆動されて3相交流電力を発生する発電機として機能する。この3相交流電力は、M/Gインバータ25により直流電力に変換されてフロントインバータ23およびリアインバータ24に供給される。なお、充電率が所定値まで低下している場合には、M/Gインバータ25により変換された直流電力はコンバータ27を介して蓄電素子7にも供給され、蓄電素子7が充電される。
【0021】
M/Gインバータ25、フロントインバータ23およびリアインバータ24は、メインコントローラ20からのインバータ駆動信号により駆動され、直流電力を交流電力に、または、交流電力を直流電力に変換する電力変換装置である。M/Gインバータ25、フロントインバータ23およびリアインバータ24は、コンバータ27を介して蓄電素子7に接続されている。コンバータ27は、蓄電素子7の充放電電圧を昇圧または降圧する。
【0022】
蓄電素子7は、ある程度の電気的仕事(たとえば数10kW、数秒程度の仕事)で発生する電力を蓄電し、所望の時期に蓄電された電荷を放電することが可能な電気二重層キャパシタである。蓄電素子7は、フロントインバータ23およびリアインバータ24やM/Gインバータ25で変換された直流電力により充電される。
【0023】
M/Gインバータ25で変換された直流電力、および/または、蓄電素子7から出力された直流電力は、フロントインバータ23およびリアインバータ24により3相交流電力に変換される。フロントモータ3およびリアモータ4は、それぞれフロントインバータ23およびリアインバータ24で変換された3相交流電力(モータ駆動信号とも呼ぶ)により駆動されて回転トルクを発生する。フロントモータ3およびリアモータ4で発生した回転トルクは、デファレンシャル装置70F,70Rおよびアクスル60F,60Rを介して、前輪113および後輪123に伝達される。
【0024】
一方、回生制動の運転時には、前輪113および後輪123から伝達される回転トルクによりフロントモータ3およびリアモータ4が回転して、3相交流電力が発生する。フロントモータ3およびリアモータ4で発生した3相交流電力は、それぞれフロントインバータ23およびリアインバータ24により直流電力に変換され、コンバータ27を介して蓄電素子7に供給され、蓄電素子7はフロントインバータ23およびリアインバータ24で変換された直流電力により充電される。
【0025】
メインコントローラ20およびエンジンコントローラ21は、CPUや記憶装置であるROMおよびRAM、その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成されている。メインコントローラ20は、ホイールローダ100の走行系および油圧作業系を含むシステム全体の制御を行っており、システム全体が最高のパフォーマンスを発揮するように各部を制御する。
【0026】
メインコントローラ20には、前後進切換スイッチ51、アクセルペダルセンサ52、車速センサ53、ブレーキペダルセンサ54、エンジン回転センサ50、フロントモータ3の回転センサ59F、リアモータ4の回転センサ59R、および駐車ブレーキスイッチ55からの信号がそれぞれ入力される。
【0027】
前後進切換スイッチ51は、車両の前進/後進を指令する前後進スイッチ信号をメインコントローラ20に出力する。アクセルペダルセンサ52は、アクセルペダル(不図示)のペダル操作量を検出してアクセル信号をメインコントローラ20に出力する。車速センサ53はホイールローダ100の車両走行速度(車速)を検出して、車速信号をメインコントローラ20に出力する。ブレーキペダルセンサ54は、ブレーキペダル(不図示)のペダル操作量を検出してサービスブレーキ信号をメインコントローラ20に出力する。駐車ブレーキスイッチ55は、駐車ブレーキを作動させるためのスイッチである。
【0028】
エンジン回転センサ50はエンジン1の実回転数を検出して、実回転信号をメインコントローラ20に出力する。走行モータ回転センサ59F,59Rは、たとえばレゾルバであり、フロントモータ3およびリアモータ4の回転に応じた信号を出力する。このモータ回転信号はそれぞれメインコントローラ20に入力される。なお、走行モータ回転センサ59F,59Rおよび車速センサ53のうち、いずれかを省略してもよい。たとえば、車速センサ53を省略し、走行モータ回転センサ59により検出されたモータ回転数に基づいて車速を演算してもよい。
【0029】
メインコントローラ20は、アクセルペダル(不図示)のペダル操作量を含む車両情報に応じた要求トルクをフロントモータ3およびリアモータ4が出力するように、エンジン1、フロントインバータ23およびリアインバータ24を制御する。フロントモータ3とリアモータ4の要求トルクの演算方法については後述する。
【0030】
メインコントローラ20は、演算したモータ要求トルクに基づいてフロントモータ3およびリアモータ4に必要な発電量を演算する。メインコントローラ20は、モータ/ジェネレータ5で所定の発電量を得るためのエンジン目標回転数を演算し、演算したエンジン目標回転数に基づいてエンジン駆動制御信号をエンジンコントローラ21に出力するとともに、モータ/ジェネレータ5で発電した3相交流電力を直流電力に変換するための駆動信号をM/Gインバータ25に出力する。
【0031】
エンジンコントローラ21は、エンジン回転センサ50で検出されたエンジン1の実回転数Naと、メインコントローラ20からのエンジン目標回転数Ntとを比較して、エンジン1の実回転数Naをエンジン目標回転数Ntに近づけるために燃料噴射装置(不図示)を制御する。
【0032】
メインコントローラ20は、蓄電素子7の充電率(SOC:State Of Charge)が所定の下限値を下回らないように、かつ、所定の上限値を上回らないように、車両の運転状況、すなわち車速情報やアクセルペダルのペダル操作量、充電率等に応じて、エンジン1、M/Gインバータ25、フロントインバータ23およびリアインバータ24、コンバータ27等を制御する。
【0033】
上記したように、メインコントローラ20は、走行時にフロントモータ3およびリアモータ4に要求されるトルクであるモータ要求トルクを演算する。
図3は、モータ要求トルクマップ(モータ特性)を示す図である。モータ要求トルクマップは、フロントモータ3のトルクカーブ(特性M2)と、リアモータ4のトルクカーブ(特性M1)とを表すマップである。
【0034】
図3に示すように、フロントモータ3とリアモータ4とでは特性が異なっている。フロントモータ3は、低速域で大きなトルクを出すことはできないが高速回転まで駆動可能な特性を有する高速型モータ(特性M2)であり、リアモータ4は、高速回転までトルクを出すことはできないが、低速域で大きなトルクを出すことが可能な低速型モータ(特性M1)である。フロントモータ3とリアモータ4とでは、高効率で駆動できる動作領域が異なるため、車両に要求される動力性能の広い範囲で高効率な電動機駆動が可能となる。
【0035】
特性M1および特性M2のそれぞれは、モータ要求トルクが、アクセル信号に比例しつつリアモータ4およびフロントモータ3の回転数に反比例するように設定されており、メインコントローラ20内の記憶装置に記憶されている。
【0036】
つまり、メインコントローラ20には、アクセルペダルセンサ52から入力されるアクセル信号の増減に応じてフロントモータ3およびリアモータ4のそれぞれの出力が増減するようアクセル信号とフロントモータ3およびリアモータ4の出力との関係が設定されている。メインコントローラ20は、アクセル信号に応じたトルクカーブを決定し、そのトルクカーブを用いて、フロントモータ3およびリアモータ4の回転数から、モータ要求トルクを決定する。フロントモータ3とリアモータ4のそれぞれの要求トルクを決定し、このトルクに基づいて周知の方法によりモータ駆動信号を生成し、モータ駆動信号をフロントインバータ23およびリアインバータ24に出力する。
【0037】
本実施の形態では、最高の電動機効率となるように、リアモータ4およびフロントモータ3のそれぞれの要求トルクを決定する。
図4は、リアモータ4とフロントモータ3のトルクの決定方法を説明するための機能ブロック図である。
図4に示すように、メインコントローラ20は、車両走行出力演算部91と、走行用電動機トルク演算部92と、リミッタ93とを機能的に備えている。
【0038】
運転者からの操作指令に相当するアクセル信号、ブレーキ信号、前後進スイッチ信号、ならびに現在の車両走行速度(車速)等が車両走行出力演算部91に入力されると、車両走行出力演算部91において、車両から要求される走行出力指令が演算される。
【0039】
演算された走行出力指令が走行用電動機トルク演算部92に入力されると、走行用電動機トルク演算部92は、リアモータ4およびフロントモータ3のそれぞれに要求されるトルクを演算する。このとき、リアモータ4の要求トルク、および、フロントモータ3の要求トルクを合計すると、上記した車両が要求する走行出力指令に相当するトルク値となっている。
【0040】
走行用電動機トルク演算部92では内部にリアモータ4およびフロントモータ3の効率データテーブルを有しており、その効率データテーブルに基づいて、走行出力指令に対し最高の電動機効率となるようなトルクの分配を決定する。リアインバータ24、および、フロントインバータ23のそれぞれが有する制御装置(不図示)に対し、トルク指令として出力する際には、リミッタ93においてハイブリッドシステムおよび車両の制限事項に基づくトルク制限処理を施して、リアモータトルク指令、フロントモータトルク指令とする。リアインバータ24およびフロントインバータ23は、リアモータトルク指令、フロントモータトルク指令に基づいて、リアモータ4およびフロントモータ3のそれぞれの電機子巻線(固定子巻線)に3相交流電力を供給し、ロータ3r,4rを回転させて車両の走行動作を行う。
【0041】
以上のように、本実施の形態では特性の異なる2つの走行電動機を用いて、電動機の効率が最高となるように車両要求に対してトルクの配分を行うので、各走行電動機を最適の容量とすることができ、駆動装置の小型化、および高効率化を実現することが可能となる。
【0042】
本実施の形態に係るフロントモータ3およびリアモータ4は、ハイブリッド式車両の走行に使用するのが好適な走行電動機であって、かご型ロータを備える誘導電動機や永久磁石を有するロータを備える同期電動機である。以下、誘導電動機を例に説明する。
【0043】
図5は、本実施の形態に係るフロントモータ3およびリアモータ4の断面模式図である。
図5(a)に示すように、フロントモータ3は、ハウジング30と、ハウジング30の内部に保持されたステータ3sとを有し、ステータ3sは円筒形状のステータコア(固定子鉄心)32と固定子巻線33とを備えている。ステータコア32の内側には、ロータ(回転子)3rが隙間を介して回転可能に保持されている。ロータ3rは、円筒形状のロータコア35と、導体バー(不図示)と、エンドリング(短絡環)36とを備えており、ロータコア35の中空部には円柱状のロータシャフト(回転軸体)63が圧入され、ロータコア35がモータシャフト63に固定されている。
【0044】
ハウジング30は、円筒状のセンターブラケット30aと、軸受38a,38bが設けられた一対のエンドブラケット30b,30cとを有している。センターブラケット30aとステータコア32との間には冷却ジャケット31が介装されている。モータシャフト63は、エンドブラケット30b,30cのそれぞれに設けられた軸受38a,38bにより回転自在に保持されている。
【0045】
図5(b)に示すように、リアモータ4は、ハウジング40と、ハウジング40の内部に保持されたステータ4sとを有し、ステータ4sは円筒形状のステータコア(固定子鉄心)42と固定子巻線43とを備えている。ステータコア42の内側には、ロータ(回転子)4rが隙間を介して回転可能に保持されている。ロータ4rは、円筒形状のロータコア45と、導体バー(不図示)と、エンドリング(短絡環)46とを備えており、ロータコア45の中空部には円柱状のロータシャフト(回転軸体)65が圧入され、ロータコア45がモータシャフト65に固定されている。
【0046】
ハウジング40は、円筒状のセンターブラケット40aと、軸受48a,48bが設けられた一対のエンドブラケット40b,40cとを有している。センターブラケット40aとステータコア42との間には冷却ジャケット41が介装されている。モータシャフト65は、エンドブラケット40b,40cのそれぞれに設けられた軸受48a,48bにより回転自在に保持されている。
【0047】
リアモータ4は、上記したように、低速域ではフロントモータ3よりもトルクが大きく、高速域ではフロントモータ3よりもトルクが小さい特性を有する低速型モータである。リアモータ4は、高速型モータであるフロントモータ3に対してサイズ(ロータ4rの径方向長さ)、質量が大きいもので構成してある。すなわち、リアモータ4の体格は、フロントモータ3の体格よりも大きい。
【0048】
図6は、ホイールローダ100に搭載されたリアモータ4およびフロントモータ3を簡略的に示した図である。
図7は、ホイールローダ100の平面図である。
図6では、ホイールローダ100の外形を二点鎖線で示している。
図7では、運転室121やエンジン室140、アーム111やバケット112等の図示を省略している。
【0049】
ホイールローダ100では、車両前方に設置されたバケット112等の作業装置で重量物搬送等の各種作業を実施する関係上、車両後方にバランスをとるためのカウンタウエイト124が搭載されている(
図1参照)。よって、作業装置の反対方向、すなわち車両の後方に重量物となる低速型モータを搭載することが好ましい。
【0050】
前部車体110は、前フレーム119を構成する上板119U、下板119L、および、一対の側板119Sを有する略箱状に形成された前フレーム119を有しており、この前フレーム119内にフロントモータ3が配設されている。後部車体120は、運転室121およびエンジン室140が取り付けられる後フレーム129を有しており、この後フレーム129内にリアモータ4が配設されている。リアモータ4の側方には後フレーム129の側板129Sが設けられている。
【0051】
フロントモータ3は、上板119U、下板119L、および、一対の側板119Sによって囲まれているため、掘削作業時に土砂等から保護される。リアモータ4は、運転室121の下方に位置し、運転室121および側板129Sによって囲まれているため、掘削作業時に土砂等から保護される。
【0052】
図8は、
図7の要部拡大図である。ホイールローダ100は、ディスク式の駐車ブレーキ装置80を備えている。駐車ブレーキ装置80はネガティブ式駐車ブレーキである。駐車ブレーキ装置80は、リアモータ4のモータシャフト65の車両前側(フロント側)に設けられた駐車ブレーキ用ディスク(ブレーキディスク)81と、ブレーキディスク81の外周部を挟持してホイールローダ100に駐車ブレーキ力を与える一対のブレーキパッド82とを備えている。駐車ブレーキ装置80は、駐車ブレーキの作動/非作動を制御する駐車ブレーキ用油圧シリンダ83と、駐車ブレーキ用油圧シリンダ83が設けられるブレーキキャリパ85と、駐車ブレーキ作動指令により駐車ブレーキ用油圧シリンダ83を駆動制御する油圧回路84とを備えている。
【0053】
図9は、駐車ブレーキ装置80の断面構造、および、駐車ブレーキ装置80の取り付け状態の一例を示す図である。
図10は、リアモータ40と駐車ブレーキ装置80との分解図である。
図11は、前部車体110と、後部車体120とを連結軸101U,101Lで右側に屈曲させたホイールローダ100の連結軸101U,101L近傍を左前方から見たときの斜視図である。
図12は、駐車ブレーキ80の前方から駐車ブレーキ装置80の取り付け状態を見たときの図であり、
図13は、駐車ブレーキ80の上方から駐車ブレーキ装置80の取り付け状態を見たときの図である。
【0054】
図9,10に示すように、リアモータ4のハウジング40のうち、フロント側のエンドブラケット40bには、駐車ブレーキ装置80のブレーキキャリパ85を取り付けるための電動機側取付部として、キャリパ取付ブラケット410が設けられている。キャリパ取付ブラケット410には、後述するキャリパ取付ボルト86が螺合するネジ穴411が設けられている。
【0055】
駐車ブレーキ装置80のブレーキディスク81は、リアモータ4のモータシャフト65に固定され、モータシャフト65とともに回転する。駐車ブレーキ用油圧シリンダ83は、ブレーキキャリパ85に固定されている。駐車ブレーキ用油圧シリンダ83は、後述する油圧経路84からの圧油の供給が絶たれると、内蔵するバネの付勢力によってピストンを
図9における図示右方へ押し出して、ブレーキパッド82をブレーキディスク81に押しつけて、駐車ブレーキを作動させる。また、駐車ブレーキ用油圧シリンダ83は、油圧経路84からの圧油によって内蔵するバネの付勢力に抗してピストンを
図9における図示左方へ押し戻して、駐車ブレーキを解除する。すなわち、駐車ブレーキ装置80は、ネガティブ式の駐車ブレーキ装置である。
【0056】
ブレーキキャリパ85は、キャリパ取付ボルト86によってキャリパ取付ブラケット410に取り付けられている。上述したように、キャリパ取付ボルト86は、キャリパ取付ブラケット410のネジ穴411に螺号して、キャリパ取付ブラケット410に固定される。なお、ブレーキキャリパ85は、一対のブレーキパッド82がブレーキディスク81の両面を同じ力で挟時するように、キャリパ取付ボルト86の延在方向(スラスト方向)へ移動可能とされている。このように、ブレーキキャリパ85は、キャリパ取付ボルト86の延在方向に移動可能な状態でリアモータ4のハウジング40(エンドブラケット40b)に取り付けられているが、本実施の形態では、単に「取り付けられている」と記載する。
【0057】
図11に示すように、前部車体110と、後部車体120とを連結軸101U,101Lでたとえば右側に屈曲させると、連結軸101U,101L近傍で駐車ブレーキ装置80が露出する。そのため、駐車ブレーキ装置80のメンテナンス性が良好である。
【0058】
図14は、ホイールローダ100の油圧回路のうち、主に本実施の形態に係る部分を示した油圧回路図である。油圧回路84は、電磁切替弁841と、蓄圧器(アキュムレータ)842と、逆止弁843とを備えている。作業用油圧ポンプ10から駐車ブレーキ用油圧シリンダ83へ供給される圧油は、電磁切替弁841によって制御される。作業用油圧ポンプ10からの圧油は、逆止弁843を介して電磁切替弁841へ供給される。逆止弁843と電磁切替弁841とを結ぶ配管には、アキュムレータ842が取り付けられている。
【0059】
メインコントローラ20からの駐車ブレーキ作動信号によって電磁切替弁841のソレノイドは消磁され、メインコントローラ20からの駐車ブレーキ解除信号によって電磁切替弁841のソレノイドは励磁される。電磁切替弁841のソレノイドが消磁されると、電磁切替弁841のスプールがロ位置に切り替えられて、駐車ブレーキ用油圧シリンダ83への圧油の供給が絶たれるとともに、駐車ブレーキ用油圧シリンダ83と不図示の作動油タンクが接続される。これにより、駐車ブレーキ用油圧シリンダ83は、内蔵するバネの付勢力によってピストンを押し出す。その結果、上述したように、駐車ブレーキが作動する。
【0060】
電磁切替弁841のソレノイドが励磁されると、電磁切替弁841のスプールがイ位置に切り替えられて、駐車ブレーキ用油圧シリンダ83へ圧油が供給される。これにより、駐車ブレーキ用油圧シリンダ83は、内蔵するバネの付勢力に抗してピストンを押し戻す。その結果、上述したように、駐車ブレーキが解除される。
【0061】
すなわち、オペレータが駐車ブレーキの作動を指令する操作を行い、たとえば、駐車ブレーキスイッチ55から駐車ブレーキ作動指令が出力されると、メインコントローラ20から駐車ブレーキ作動信号が電磁切替弁841へ出力される。これにより、上述したように、駐車ブレーキ用油圧シリンダ83が収縮し、バネの付勢力でブレーキパッド82が駐車ブレーキ用ディスク81を挟持して駐車ブレーキが作動する。
【0062】
オペレータが駐車ブレーキ作動の解除操作を行い、たとえば、駐車ブレーキスイッチ55から駐車ブレーキ解除指令が出力されると、メインコントローラ20から駐車ブレーキ解除信号が電磁切替弁841へ出力される。これにより、上述したように、駐車ブレーキ用油圧シリンダ83がバネの付勢に抗して伸長して、駐車ブレーキ用ディスク81がブレーキパッド82による挟持から解放され、駐車ブレーキが非作動となる。
【0063】
なお、上述したように、油圧回路84にはアキュムレータ842が設けられている。アキュムレータ842には、作業用油圧ポンプ10からの圧油が保持(蓄積)される。アキュムレータ842に蓄積された圧油は、作業用油圧ポンプ10の停止後も(すなわち、エンジン1の停止後も)逆止弁843およびロ位置に切り替えられた電磁切替弁841によって、アキュムレータ842で保持される。
【0064】
たとえば、エンジン1の停止中であっても電磁切替弁841のソレノイドへ通電できるように電気回路を構成することによって、エンジン1の停止中であっても、アキュムレータ842に蓄積された圧油によって駐車ブレーキの解除が可能となる。また、電磁切替弁841を手動操作によってイ位置に切り替えられるように構成することで、エンジン1の停止中の場合や、何らかの原因によって電磁切替弁841のソレノイドに通電できない場合であっても、アキュムレータ842に蓄積された圧油によって駐車ブレーキの解除が可能となる。すなわち、アキュムレータ842で保持された圧油によって駐車ブレーキ装置80にブレーキ解除圧を供給するように構成してもよい。
【0065】
上述した本実施の形態のホイールローダ100では、次の作用効果を奏する。
(1) ディスク式の油圧ネガティブブレーキである駐車ブレーキ装置80をシリーズハイブリッド式のホイールローダ100の駐車ブレーキ装置として用いるように構成した。これにより、たとえば電動式駐車ブレーキ装置を採用した場合のように、駐車ブレーキの電動機を回転駆動させるための電気系統に不具合が生じて駐車ブレーキを解除できなくなる、という不具合を回避できる。したがって、駐車ブレーキが解除できなくなることによってホイールローダ100での移動や作業ができなくなるという不具合を防止でき、作業効率の向上に資する。また、既存機種のホイールローダにも容易に採用できるので、設計変更等の手間や、取り付けのための加工が最小限で済み、コスト増を抑制できる。
【0066】
(2) アキュムレータ842で保持された圧油によって駐車ブレーキ装置80にブレーキ解除圧を供給するように構成することにより、エンジン1の停止中であっても、アキュムレータ842に蓄積された圧油によって駐車ブレーキの解除が可能となる。これにより、エンジン1の停止中にエンジン1を始動させなくても駐車ブレーキを解除できるので、利便性が向上する。また、上述したように、電磁切替弁841を手動操作によってイ位置に切り替えられるように構成することで、エンジン1の停止中の場合や、何らかの原因によって電磁切替弁841のソレノイドに通電できない場合であっても、アキュムレータ842に蓄積された圧油によって駐車ブレーキの解除が可能となる。これにより、駐車ブレーキが解除できなくなることによってホイールローダ100での移動や作業ができなくなるという不具合を防止でき、作業効率の向上に資する。
【0067】
(3) リアモータ4のハウジング40にブレーキキャリパ85を取り付けるように構成した。これにより、たとえば、後部車体120の強度部材にブレーキキャリパ85を取り付けた場合と比べると、駐車ブレーキの作動時にブレーキディスク81からの入力に対してブレーキキャリパ85が動き難くなるため、ホイールローダ100の駐車時の安定性が向上する。
【0068】
(4) フロントモータ3よりも外径が大きいリアモータ4のハウジング40にブレーキキャリパ85を取り付けるように構成した。これにより、ブレーキキャリパ85とモータシャフト65の軸線との距離を長くすることができ、駐車ブレーキ装置80による制動トルクを増大させることができる。したがって、ホイールローダ100の駐車時の安定性が向上する。
【0069】
(5) 前部車体110と、後部車体120とを連結軸101U,101Lで左右に屈曲させると、連結軸101U,101L近傍で駐車ブレーキ装置80が露出するように構成した。これにより、駐車ブレーキ装置80のメンテナンス性が良好となる。
【0070】
−−−変形例−−−
(1) 上述の説明では、リアモータ4の体格がフロントモータ3の体格よりも大きい場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、リアモータ4よりもフロントモータ3の体格の方が大きい場合には、フロントモータ3のリア側のエンドブラケット30cにブレーキキャリパ85を取り付けるように構成してもよい。
【0071】
(2) 上述の説明では、リアモータ4の体格がフロントモータ3の体格よりも大きい場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、フロントモータ3の外径とリアモータ4の外径とが同じであってもよい。この場合には、リアモータ4のフロント側のエンドブラケット40bにブレーキキャリパ85を取り付けるように構成してもよく、フロントモータ3のリア側のエンドブラケット30cにブレーキキャリパ85を取り付けるように構成してもよい。
【0072】
(3) 上述の説明では、ホイールローダ100に走行用電動機としてフロントモータ3およびリアモータ4の2基が設けられているが、本発明はこれに限定されない。たとえば、走行用電動機が1基であってもよい。この場合には、この1基の走行用電動機にブレーキキャリパ85を取り付けるように構成すればよい。
【0073】
(4) 上述の説明では、リアモータ4のフロント側のエンドブラケット40bにキャリパ取付ブラケット410が設けられ、キャリパ取付ブラケット410のネジ穴411にキャリパ取付ボルト86を螺合させることにより、ブレーキキャリパ85をリアモータ4のハウジング40に取り付けるように構成したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、
図15に示すように、リアモータ4のフロント側のエンドブラケット40bに台座420を取り付け、この台座420に設けられたネジ穴421にキャリパ取付ボルト86を螺合させることにより、ブレーキキャリパ85をリアモータ4のハウジング40に取り付けるように構成してもよい。
【0074】
(5) 上述の説明では、走行用電動機が2基の例と一つの例を示したが、3基以上の走行用電動機を有する電動式走行車両にも本発明を適用できる。
(6)上述の説明では、ホイールローダ100が、モータ/ジェネレータ5で発電した電力でフロントモータ3およびリアモータ4を駆動するようにしたシリーズハイブリッド式走行装置を採用しているが、電動走行式車両はこれに限定されず、種々の形態を採用することができる。
【0075】
(7) 上述の説明では、本発明をハイブリッド式ホイールローダに適用した実施の形態についてしたが、本発明は、走行駆動力を電動モータで得るようにした走行電動ダンプトラックやその他の産業用車両などの電動式走行車両に適用することができる。
(8) 上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。
【0076】
なお、本発明は、上述した実施の形態のものに何ら限定されず、ロータと、ステータと、ロータおよびステータを内部に保持するハウジングとを有し、走行駆動力を与える走行用電動機と、ディスク式の油圧ネガティブブレーキであって、駐車ブレーキ指令によりブレーキディスクに駐車ブレーキ力を与え、油圧によるブレーキ解除圧により駐車ブレーキ力を解除する駐車ブレーキ装置と、蓄圧器を有し、蓄圧器で保持した圧油によって駐車ブレーキ装置にブレーキ解除圧を供給するブレーキ解除装置とを備え、駐車ブレーキ装置は、ブレーキディスクと、ブレーキパッドと、ブレーキディスクにブレーキパッドを押しつけるブレーキキャリパとを有し、走行用電動機は、ハウジングにブレーキキャリパが取り付けられる電動機側取付部を有し、ブレーキキャリパは、電動機側取付部に取り付けられることを特徴とする各種構造の電動式走行車両を含むものである。