【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、車両のフロント側のバンパービーム14の近傍を車両の上方から見た概略平面図である。クラッシュボックス10は、サイドメンバー12Rとバンパービーム14の右端部14Rとの間に配設されて使用されるもので、
図1は車両の右側半分を示す平面図であり、左側半分は中心線を挟んで対称的に構成される。バンパービーム14の右端部14Rは、
図1に示す平面視において車体側へ滑らかに湾曲するように傾斜させられており、クラッシュボックス10はその湾曲傾斜部分に固定される。クラッシュボックス10は、平板状の複数の側壁を有する断面多角形状の中空の筒状体22と、その筒状体22の軸方向の両端部にそれぞれ一体的に溶接固定された一対の取付プレート24、26とを備えており、筒状体22の軸方向が車両の前後方向となる姿勢、厳密には前後方向から外側へ傾斜する姿勢で、サイドメンバー12Rとバンパービーム14との間に配設され、取付プレート24、26を介して図示しないボルト等によりそれ等のサイドメンバー12R、バンパービーム14に一体的に固定される。取付プレート26は、バンパービーム14の右端部14Rの湾曲傾斜形状に沿って湾曲させられている。サイドメンバー12Rは車体に相当する。
【0023】
図2〜
図4は、何れもクラッシュボックス10を単独で示す図で、
図2は
図1に対応する平面図であり、
図3は
図2における III−III 矢視部分の断面図、
図4は
図3におけるIV−IV矢視部分の断面図である。筒状体22の軸方向の両端縁は、それぞれその端縁の全周に亘って取付プレート24、26に略密着させられ、アーク溶接等により一体的に固設されている。このようなクラッシュボックス10は、車両前方から衝撃が加えられて軸方向に圧縮荷重を受けると、筒状体22が蛇腹状に圧壊させられ、その変形で衝撃エネルギーを吸収し、サイドメンバー12R等の車両の構造部材に加えられる衝撃を緩和する。この蛇腹状の圧壊は、筒状体22が軸方向の多数箇所で連続的に座屈(V字状の折れ曲がり)することによって生じる現象で、通常はバンパービーム14側すなわち入力側から座屈が開始し、時間の経過と共に車体側へ進行する。バンパービーム14は、バンパーのリインフォースメント(補強部材)および取付部材として機能するもので、図示しない、合成樹脂等から成るバンパーフェイシアが一体的に取り付けられるようになっている。
【0024】
筒状体22は、断面が多角形状、具体的には長方形の4つの角部に平面取りを施した八角形状を基本形状としており、車両幅方向の外側および内側に位置する略垂直な一対の外側側壁30および内側側壁31と、車両上下方向に位置する略水平な一対の上側側壁32および下側側壁33と、その上側側壁32および下側側壁33と外側側壁30との間に設けられた外側傾斜側壁34、35と、上側側壁32および下側側壁33と内側側壁31との間に設けられた内側傾斜側壁36、37とを備えている。外側側壁30および内側側壁31は何れもバンパービーム14側の取付プレート26側へ向かうに従って車両外側へ傾斜させられているとともに、外側側壁30の傾斜角θ1は内側側壁31の傾斜角θ2よりも大きく、本実施例ではθ1≒24°、θ2≒2.5°で、その差は約21.5°である。傾斜角θ1、θ2は、何れも平面視における車両の前後方向の軸線に対する傾斜角度である。
【0025】
前記外側傾斜側壁34、35は、上側側壁32および下側側壁33との間の稜線40、41が、上下方向から見た平面視において外側側壁30と平行になるように略一定の幅寸法で設けられており、上側側壁32、下側側壁33は外側側壁30の傾斜に伴ってバンパービーム14側へ向かうに従って幅広とされている。内側傾斜側壁36、37は、上側側壁32および下側側壁33との間の稜線42、43が、上下方向から見た平面視において車両前後方向の軸線と平行になるように、バンパービーム14側へ向かうに従って幅寸法が狭くされている。また、左右の外側側壁30および内側側壁31の高さ方向の中央部分、すなわち
図3における上下方向の中央の水平軸S部分には、それぞれ筒形状の内側へ凹む一対の凹溝44、45が設けられている。凹溝44、45は、先端部すなわち溝底側へ向かうに従って幅寸法が狭くなる台形形状の断面で、筒状体22の軸方向の全長に亘って一定の深さ寸法d1、d2で設けられている。凹溝44の深さ寸法d1は凹溝45の深さ寸法d2よりも大きく、例えばd1≒30mm、d2≒14mmである。
【0026】
上記筒状体22は、前記稜線42、43付近で2つに分割されており、それぞれプレス加工によって成形された一対の半割体50、52によって構成されている。すなわち、車幅方向外側に位置する外側半割体50は、凹溝44が設けられた外側側壁30、その外側側壁30の上下両端から斜めに車幅方向内側へ延び出す一対の外側傾斜側壁34、35、およびその一対の外側傾斜側壁34、35の端部から水平に延び出す上側側壁32、下側側壁33を一体に備えている。また、車幅方向内側に位置する内側半割体52は、凹溝45が設けられた内側側壁31、およびその内側側壁31の上下両端から車幅方向外側へ斜めに延び出す一対の内側傾斜側壁36、37を一体に備えている。内側半割体52の内側傾斜側壁36、37の先端には、外側半割体50の上側側壁32、下側側壁33の内側に重ね合わされる接合部46、47が設けられており、スポット溶接やアーク溶接等により一体的に接合される。
【0027】
ここで、本発明品I〜IVおよび従来品の計5種類の試験品を用意し、
図5に示すようにバリア角度γの衝突面62を有する衝突バリア60に対して車速V1で車両の右側前部を衝突させるオフセット衝突試験を行い、FEM解析により
図7、
図8に示すように圧縮ストロークに対する荷重変化特性および吸収エネルギー特性を調べた結果を説明する。オフセットは、衝突バリア60とバンパービーム14とのラップ(重なり)が小さい微小ラップ(25%ラップ)で、
図6に示すようにクラッシュボックス10の一部に衝突バリア60が衝突する。バリア角度γ≒0°で、車速V1≒64km/hである。
図5、
図6は、何れも上方から見た平面図である。また、
図9は、各試験品についてクラッシュ前の形状とクラッシュ後の形状を比較して示した図である。
【0028】
本発明品Iは前記実施例のクラッシュボックス10で、本発明品IIは
図10および
図11に示すクラッシュボックス70である。クラッシュボックス70は、前記筒状体22の内部空間を区分するように、上側側壁32と下側側壁33とを連結する中間壁72が、車両前後方向と平行に筒状体22の軸方向の全長に亘って設けられている。中間壁72には、前記凹溝45と略対称的に凹溝74が設けられている。
図10は前記
図3に対応する断面図で、
図11は
図10におけるXI−XI矢視部分の断面図である。本発明品III は、
図12に示すクラッシュボックス80で、前記クラッシュボックス10に比較して外側側壁30に設けられる凹溝82の深さ寸法d1が反対側の凹溝45の深さ寸法d2と略同じ場合である。
図12は前記
図3に対応する断面図である。本発明品IVは、
図13および
図14に示すクラッシュボックス90で、前記クラッシュボックス10に比較して稜線40、41が稜線42、43と平行、すなわち車両前後方向と平行に設けられており、上側側壁32、下側側壁33がそれぞれ一定の幅寸法で設けられ、外側傾斜側壁34、35が外側側壁30の傾斜に伴ってバンパービーム14側の取付プレート26側へ向かうに従って幅広とされている。
図13は前記
図2に対応する平面図で、
図14は
図13における XIV−XIV 矢視部分の断面図である。
【0029】
また、従来品は、
図15および
図16に示すクラッシュボックス200で、軸方向の全長に亘って扁平な八角形の一定の断面形状の筒状体202を有し、その筒状体202の軸方向が車両前後方向と平行になる姿勢でバンパービーム14の右端部14Rとサイドメンバー12Rとの間に配設されている。
図15は前記
図6に対応する平面図で、
図16は
図15における XVI−XVI 矢視部分の断面図である。
【0030】
図7〜
図9から明らかなように、従来品(クラッシュボックス200)ではバンパービーム14の端部が折れ曲がり変形するとともに、クラッシュボックス200自体も根元(車体側の端部)から車両内側方向へ横倒れし、圧縮ストロークの略全域で荷重が低く、吸収エネルギーが少ない。吸収エネルギーは、荷重の積分値に対応する。これに対し、本発明品I〜IVは、圧縮ストロークの略全域で蛇腹状に圧壊し、吸収エネルギーが大きくなって優れた衝撃エネルギー吸収性能が得られる。特に、本発明品I(クラッシュボックス10)および本発明品II(クラッシュボックス70)は、荷重の変化が比較的小さく、圧縮ストロークの全域で安定した衝撃エネルギー吸収性能が得られる。すなわち、外側傾斜側壁34、35が一定の幅寸法になるように上側側壁32、下側側壁33の幅寸法をバンパービーム14側へ向かうに従って幅広にするとともに、外側側壁30の凹溝44の深さ寸法d1を大きくすることが望ましい。中間壁72を有する本発明品IIの場合には、圧縮ストロークの全域で本発明品Iよりも荷重が高くなり、一層優れた衝撃エネルギー吸収性能が得られる。凹溝44の深さ寸法d1が比較的小さい本発明品III (クラッシュボックス80)、および外側傾斜側壁34、35がバンパービーム14側へ向かうに従って幅広になる本発明品IV(クラッシュボックス90)は、圧縮ストロークの中間部分で荷重が低下するが、その後再び上昇し、全体として優れた衝撃エネルギー吸収性能が得られる。
【0031】
図17〜
図19は、前記5種類の試験品を用いて、衝突バリア60とバンパービーム14とのラップ(重なり)が40%で、バリア角度γ≒10°、車速V1≒16km/hで、オフセット衝突試験を行った場合で、それぞれ前記
図7〜
図9に対応する図である。また、
図20〜
図22は、前記5種類の試験品を用いて、バリア角度γ≒0°、車速V1≒55km/hで、正面衝突試験を行った場合で、それぞれ前記
図7〜
図9に対応する図である。これ等の場合には、全体として圧縮ストロークに対する荷重の変化が大きいが、従来品も含めて横倒れすることなく蛇腹状に圧壊させられ、本発明品I〜IVと従来品とで衝撃エネルギー吸収性能に有為な差は見られなかった。言い換えれば、外側側壁30および内側側壁31が何れもバンパービーム14側へ向かうに従って車両外側へ傾斜しているとともに、外側側壁30の傾斜角θ1が内側側壁31の傾斜角θ2よりも大きい本発明品I〜IVは、40%ラップのオフセット衝突試験或いは正面衝突試験においても、従来品と同程度かそれ以上の衝撃エネルギー吸収性能が得られる。
【0032】
このように本実施例のクラッシュボックス10、70、80、90(本発明品I〜IV)においては、外側側壁30の傾斜角θ1が内側側壁31の傾斜角θ2よりも大きいため、バンパービーム14側へ向かうに従って車両外側へ拡がるように幅寸法が大きくなり、微小ラップのオフセット衝突時においてもバンパービーム14の端部の折れ曲がり変形が抑制される。これにより、クラッシュボックス10、70、80、90自体の横倒れも抑制され、筒状体22が蛇腹状に圧壊させられるようになって、衝撃エネルギー吸収性能が適切に得られるようになる。内側側壁31の傾斜角θ2が小さく、バンパービーム14側の取付幅が大きくなることから、クラッシュボックス10、70、80、90が車両外側へ横倒れする可能性も小さくなり、種々の衝突状況下で筒状体22の横倒れが抑制されて所定の衝撃エネルギー吸収性能が安定して得られる。
【0033】
また、サイドメンバー12R側の取付幅はバンパービーム14側に比べて狭いため、筒状体22の全長に亘って幅寸法を大きくする場合に比較して重量増加が抑制されるとともに、サイドメンバー12Rを変更することなく取り付けることが可能で、従来の車両に対して容易に適用できる。
【0034】
また、クラッシュボックス10、70、80(本発明品I〜III )は、筒状体22の断面が八角形状を成しているとともに、外側傾斜側壁34、35は、上側側壁32および下側側壁33との間の稜線40、41が外側側壁30と平行になるように一定の幅寸法で設けられているため、その外側側壁30の車両外側への傾斜に伴って上側側壁32および下側側壁33の幅寸法がバンパービーム14側へ向かうに従って広くなる。これにより、外側側壁30の大きな傾斜に拘らず適切な強度が得られるようになり、衝撃エネルギー吸収性能が向上する。
【0035】
また、クラッシュボックス10、70、90(本発明品I、II、IV)は、外側側壁30および内側側壁31にそれぞれ凹溝44、45が設けられているとともに、外側側壁30の凹溝44の深さ寸法d1が内側側壁31の凹溝45の深さ寸法d2よりも大きいため、外側側壁30の座屈強度が高くなり、大きな傾斜に拘らず衝撃エネルギー吸収性能が適切に得られる。
【0036】
また、クラッシュボックス70(本発明品II)は、上側側壁32と下側側壁33とを連結する中間壁72が筒状体22の全長に亘って設けられているとともに、その中間壁72には凹溝74が設けられているため、筒状体22の座屈強度が高くなり、優れた衝撃エネルギー吸収性能が得られる。
【0037】
なお、上記実施例では何れも外側側壁30および内側側壁31に凹溝44、45、或いは82が設けられていたが、
図23に示すように凹溝が無い単純な断面多角形状のクラッシュボックス100を採用することもできる。また、
図24に示すクラッシュボックス110のように、上側側壁32と外側傾斜側壁34との境界部分、下側側壁33と外側傾斜側壁35との境界部分に、凹溝114、116を設けることもできるなど、種々の態様が可能である。
図24のクラッシュボックス110はまた、筒状体112が薄肉パイプ或いは繊維強化プラスチック等により一体に構成されている。
図23、
図24は、何れも前記
図3に対応する断面図である。
【0038】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。