【実施例】
【0031】
本発明を以下の試験例により具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0032】
[試験例1]
海水中での二酸化塩素と過酸化水素との共存状態を確認した。
試験には和歌山県某所で採水した自然海水をカートリッジフィルター(目合い5μm)を用いて濾過した濾過海水を使用した。
濾過海水200mLに、下記のように調製した添加薬剤(二酸化塩素、過酸化水素および次亜塩素酸ナトリウム)を表1に示す濃度になるように、かつ上段および下段の薬剤の順でそれぞれ添加し、水温20℃で15分間撹拌した。
実施例1〜6では二酸化塩素と過酸化水素とを併用し、比較例1および2では次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素とを併用した。
そして、薬剤添加直後、薬剤添加から5分後および15分後の各添加薬剤の残留濃度を下記のように測定した。
また、薬剤の添加濃度を100%として、各添加薬剤の残留濃度からそれぞれの残留率を算出した。
得られた結果を、各添加薬剤およびそれらの濃度と共に表1に示す。
【0033】
(添加薬剤)
二酸化塩素は、亜塩素酸ナトリウムおよび塩酸をそれぞれ適宜純水で希釈して混合し、発生した二酸化塩素を適宜純水で希釈することで濾過海水に添加する薬剤濃度に調整した。例えば、18000ppmの亜塩素酸ナトリウム溶液と24000ppmの塩酸溶液をローラーポンプで吸液し、ローラーポンプ直後にY字ジョイントを設置することによりチューブ内で両溶液を混合し、混合後にチューブ内で1時間の反応時間を持つようにチューブの長さを設定することで濃度約2000mg/Lの二酸化塩素溶液を調製した。なお、この溶液に亜塩素酸ナトリウムの残留はなかった。
過酸化水素は、35%過酸化水素溶液を適宜純水で希釈することで濾過海水に添加する薬剤濃度に調整した。
次亜塩素酸ナトリウムは、有効塩素濃度12%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を適宜純水で希釈することで濾過海水に添加する薬剤濃度に調整した。
【0034】
(残留濃度の測定)
二酸化塩素濃度(mg/L)は、ポータブル吸光光度計(ハック社製、型式:DR2700)を用いて、グリシンDPD試薬発色による吸光光度法により測定した。
過酸化水素濃度(mg/L)は、多項目水質計(株式会社共立理化学研究所製、型式:ラムダ−9000)を用いて、酵素法により測定した。
次亜塩素酸ナトリウムの塩素濃度(mg/L)は、DPD法残留塩素計(笠原理化工業株式会社製、型式:DP−3F)を用いて、DPD試薬発色による吸光光度法により全残留塩素濃度として測定した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1の結果から、濾過海水に次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素とを添加した場合(比較例1および2)には、経時的に残留塩素濃度が低下し両者が共存できないことがわかる。一方、濾過海水に二酸化塩素と過酸化水素とを添加した場合(実施例1〜6)には、二酸化塩素の残留時間が次亜塩素酸ナトリウムとの併用の場合に比べて長くなり、二酸化塩素と過酸化水素とが一定時間共存できることがわかる。また、二酸化塩素と過酸化水素との添加順序を入れ替えても(実施例3と4、実施例5と6)両者が一定時間共存できることがわかる。
【0037】
さらに、実施例3と実施例5の撹拌15分後の二酸化塩素の残留率の比較から、過酸化水素濃度は低濃度にするほうが海水中の二酸化塩素がより長時間残留することがわかる。
また、実施例1と実施例2の撹拌15分後の二酸化塩素の残留率の比較から、二酸化塩素濃度は低濃度にするほうが海水中の二酸化塩素がより長時間残留することがわかる。
具体的には、実施例1で攪拌15分後での二酸化塩素の残留率が50%以上であることから、二酸化塩素濃度は0.1mg/L以下、過酸化水素濃度は1.05mg/L以下であることが好ましい。
【0038】
[試験例2]
二酸化塩素と過酸化水素との併用によるムラサキイガイ受精卵の発生阻害効果を確認した。
大阪湾の某所において2月初旬に採取したムラサキイガイに電気刺激を与えて卵と精子を放出させ、それらを混合することで受精卵を得た。得られた受精卵を直ちに濾過海水20mLに約100個/mLになるように分散させた。濾過海水としては、予めムラサキイガイと共に採取した海水を孔径0.45μmのメンブレンフィルターで濾過した海水を用いた。
受精(卵と精子の混合)から1時間経過後に、下記のように調製した添加薬剤(二酸化塩素および過酸化水素)を表2に示す濃度になるように添加した。その後、設定温度20℃の恒温器内に3日間静置し、下記のように卵発生の状態を観察した。
実施例1〜15では二酸化塩素と過酸化水素とを併用し、比較例1〜4では過酸化水素を単独で、比較例5〜9では二酸化塩素を単独で用いた。
なお、ブランクとして薬剤無添加についても試験した。
得られた結果を、各添加薬剤およびそれらの濃度と共に表2に示す。
【0039】
(添加薬剤)
二酸化塩素は、塩素酸ナトリウム、過酸化水素および硫酸をそれぞれ適宜純水で希釈して混合し、発生した二酸化塩素(濃度2000mg/L)を適宜純水で希釈することで濾過海水に添加する薬剤濃度に調整した。例えば、37%塩素酸ナトリムト溶液20mLと8%過酸化水素溶液20mLを混合した溶液を容量500mLの三口フラスコ内に入れ、滴下ロートを用いて80%硫酸を20g滴下することで二酸化塩素ガスを発生させ、ゴム管を通して別途準備した水500mLを入れたメスシリンダーに通気し、二酸化塩素ガスを溶解させることで濃度2000mg/Lの二酸化塩素溶液を調製した。
過酸化水素は、45%過酸化水素溶液を適宜純水で希釈することで濾過海水に添加する薬剤濃度に調整した。
【0040】
(卵発生の状態観察)
試験後、濾過海水に25%グルタルアルデヒドを100μL添加し、受精卵を固定した後、マイクロピペットを用いて濾過海水を0.3mL採取し、プランクトン計数板に載置した。次いで、光学顕微鏡(40倍)で観察し、発生卵のうち、D型幼生まで発生しているものを正常発生(個数N)、それ以外のものを異常発生(個数E)として計数した。計数は各試験で2回行い、その平均を取った。
得られた計数結果から次式により正常発生率NP(%)を算出した。
正常発生率NP(%)=N/(N+E)×100
同様にして、ブランク(薬剤無添加)の正常発生率BNP(%)を算出し、次式により卵発生阻害率EP(%)を算出した。
卵発生阻害率EP(%)=[(BNP−NP)/BNP]×100
【0041】
【表2】
【0042】
表2の結果から、二酸化塩素または過酸化水素の単剤では殆どムラサキイガイ受精卵の発生阻害効果が発揮されない濃度でも、二酸化塩素と過酸化水素とを併用した場合にはムラサキイガイ受精卵の発生阻害率が上昇することがわかる。一方、二酸化塩素または過酸化水素の単剤でムラサキイガイ受精卵の発生阻害効果が少しでも発揮される濃度では、二酸化塩素と過酸化水素とを併用した場合にはムラサキイガイ受精卵の発生阻害率が上昇するか、変化がなく、少なくとも減少することはないことがわかる。
以上のことから、二酸化塩素と過酸化水素とが共存する場合には、両者が共存して両者の効果、相乗効果に相当する効果が発揮されるものと考えられる。
【0043】
[試験例3]
二酸化塩素と過酸化水素との併用による海生生物の付着防止効果を確認した。
瀬戸内海に面した某所に水路試験装置を設け、試験を行った。
水中ポンプを用いて揚水した海水を6系統に分岐させた水路に、各水路に流量1.0m
3/hで57日間、一過式に通水し、各水路に下記のように調製した添加薬剤(二酸化塩素および過酸化水素)を表3に示す濃度になるように同時に連続添加した。
また、各水路内には、付着防止効果確認用にアクリル製カラム(内径64mm×長さ300mm×厚さ2mm、表面積602.88cm
2)を挿入し、通水終了後にカラムに付着したヘドロ量および付着生物量を測定し、付着防止効果を評価した。
実施例1および2では二酸化塩素と過酸化水素とを併用し、比較例1では過酸化水素を単独で、比較例2および3では二酸化塩素を単独で用いた。
なお、ブランクとして薬剤無添加についても試験した。
得られた結果を、各添加薬剤およびそれらの濃度と共に表3に示す。
【0044】
(添加薬剤)
二酸化塩素は、表3に示す二酸化塩素濃度が得られるように、亜塩素酸ナトリウムおよび塩酸をそれぞれ適宜純水で希釈した水溶液を、薬剤添加ポイント前のチューブ内で混合し、1時間の滞留時間を持たせることで発生した二酸化塩素水溶液を付着防止効果確認用アクリル製カラムの手前から添加した。
過酸化水素は、35%過酸化水素溶液を適宜純水で希釈することで海水に添加する薬剤濃度に調整し、付着防止効果確認用アクリル製カラムの手前から定量ポンプを用いて添加した。
【0045】
(付着防止効果の確認)
試験後、水路から取り外したカラムの質量W
1(g)を測定し、次いでカラムを海水中で軽く洗い流した後、カラムの質量W
2(g)を測定した。予め試験前に測定しておいた乾燥時のカラムの質量W
0と共に、次式によりヘドロ量(g)および付着生物量(g)を算出した。
ヘドロ量(g)=W
2−W
1
付着生物量(g)=W
2−W
0
付着生物は、主としてムラサキイガイなどのイガイ類やフジツボ類、コケムシ類などの海生付着生物に由来し、ヘドロは、主として付着生物やスライムの排泄物や死骸、細胞外分泌物などに海水中に含まれる粘度粒子や浮遊物が付着した、有機質を多く含む泥に由来する。
【0046】
【表3】
【0047】
表3の結果から、二酸化塩素と過酸化水素とを併用した場合には、二酸化塩素または過酸化水素を単剤で用いた場合よりもヘドロ量および付着生物量が共に減少することがわかる。このような効果は、試験例1の結果からわかるように、二酸化塩素と過酸化水素とが海水中に一定時間共存し、両者の効果が発揮されて得られるものと考えられる。
また発明者らの経験では、ヘドロ量が多くなる試験条件では過酸化水素の効果が発揮されにくい傾向がある。よって本試験例は過酸化水素の効果が出にくい条件であったと考えられるが二酸化塩素と併用することで効果を補うことが出来ている。一方、二酸化塩素の効果が出にくい傾向があるフジツボ類等の付着が多い条件では、過酸化水素がその点を補うことが推察される。これらの効果により海水冷却系で障害の発生を抑制することができる。
【0048】
[試験例4]
二酸化塩素と過酸化水素との併用による実施例および次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素との併用による比較例ついて、スライムを主体とする汚れ防止効果を確認した。
太平洋に面した和歌山県沿岸の某所に水路試験装置を設け、試験を行った。
水中ポンプを用いて揚水した海水(pH8)を12系統に分岐させた水路に、ポンプを用いて未濾過海水を流量1m
3/h(流速65cm/秒)で63日間、一過式に通水し、各水路に下記のように調製した添加薬剤(二酸化塩素と過酸化水素、または次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素)を表4に示す濃度になるように同時に連続添加した。
また、各水路内には、スライム汚れ防止効果確認用にチタン管からなるテストチューブ(内径23.4mm、長さ1000mm、肉厚1.0mm)を設置し、通水終了後にテストチューブの内面に形成されたスライムを主体とする汚れ量を測定し、汚れ防止効果を評価した。
なお、ブランクとして薬剤無添加についても試験した。
得られた結果を、各添加薬剤およびそれらの濃度と共に表4に示す。
【0049】
(添加薬剤)
二酸化塩素は、表4に示す二酸化塩素濃度が得られるように、亜塩素酸ナトリウムおよび塩酸をそれぞれ適宜純水で希釈した水溶液を、薬剤添加ポイント前のチューブ内で混合し、1時間の滞留時間を持たせることで発生した二酸化塩素水溶液をチタン管からなるテストチューブの手前から添加した。
過酸化水素は、35%過酸化水素溶液を適宜純水で希釈することで海水に添加する薬剤濃度に調整し、同様にチタン管からなるテストチューブ手前から定量ポンプを用いて添加した。
次亜塩素酸ナトリウムは、有効塩素として12%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を適宜純水で希釈することで海水に添加する薬剤濃度に調整し、同様にチタン管からなるテストチューブ手前から定量ポンプを用いて添加した。
【0050】
(汚れ防止効果の確認)
試験後、水路から取り外したテストチューブの内面に形成されたスライムを主体とする汚れを掻き取り、10〜100mLのメスシリンダーに回収し、4時間静置後の湿体積を計量した。
【0051】
【表4】
【0052】
表4の結果から、二酸化塩素と過酸化水素とを併用添加した場合、それぞれ単独で添加した場合と比較して、薬剤、特に過酸化水素の添加量を低減しても長期間にわたりスライムを主体とする汚れの付着を防止できることがわかる(実施例1〜4、比較例1〜3)。
また、二酸化塩素と過酸化水素とを併用添加した場合の効果は、同じ濃度の次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素とを併用添加した場合の効果と比較して、顕著に優れていることがわかる(実施例1および3、比較例4および5)。
【0053】
[試験例5]
二酸化塩素と過酸化水素との併用による実施例および次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素との併用による比較例ついて、海生生物の付着防止効果を確認した。
太平洋に面した和歌山県沿岸の某所に水路試験装置を設け、試験を行った。
水中ポンプを用いて揚水した海水を7系統に分岐させた水路に、各水路に流量1.0m
3/hで69日間、一過式に通水し、各水路に下記のように調製した添加薬剤(過酸化水素と二酸化塩素または次亜塩素酸ナトリウム)を表5に示す濃度になるように同時に連続添加した。
また、各水路内には、付着防止効果確認用にアクリル製カラム(内径64mm×長さ300mm×厚さ2mm、表面積602.88cm
2)を挿入し、通水終了後にカラムに付着した付着生物量を測定し、付着防止効果を評価した。
なお、ブランクとして薬剤無添加についても試験した。
得られた結果を、各添加薬剤およびそれらの濃度と共に表5に示す。
【0054】
(添加薬剤)
二酸化塩素、過酸化水素および次亜塩素酸ナトリウムは、それぞれ表5に示す濃度が得られるように調整し、付着防止効果確認用アクリル製カラムの手前から添加すること以外は、試験例4と同様にして添加した。
【0055】
(付着防止効果の確認)
試験後、水路から取り外したカラムを海水中で軽く洗い流した後、カラムの質量W
2(g)を測定した。予め試験前に測定しておいた乾燥時のカラムの質量W
0と共に、次式により付着生物量(g)を算出した。
付着生物量(g)=W
2−W
0
薬剤無添加の場合、主として、ムラサキイガイ、フジツボ類、カンザシゴカイ類、オベリア類およびコケムシ類などの海生付着生物が付着した。
【0056】
【表5】
【0057】
表5の結果から、二酸化塩素と過酸化水素とを併用添加した場合には、ムラサキイガイなどのイガイ類を含む広範な海生生物種の付着を長期間持続して有効に防止できること、従来技術の次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素とを併用添加した場合と比較して顕著な効果が発揮されていることがわかる(実施例1〜4、比較例1および2)。