(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0011】
[空気入りタイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、トラックやバスなどに適用される重荷重用ラジアルタイヤを示している。なお、符号CLは、タイヤ赤道面である。
【0012】
この空気入りタイヤ1は、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16とを備える(
図1参照)。一対のビードコア11、11は、環状構造を有し、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、アッパーフィラー121およびローアーフィラー122から成り、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。カーカス層13は、単層構造を有し、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。ベルト層14は、積層された一対のベルトプライ141〜143から成り、カーカス層13のタイヤ径方向外周に配置される。これらのベルトプライ141〜143は、スチール材あるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードを配列して圧延加工して構成され、ベルトコードをタイヤ周方向に相互に異なる方向に傾斜させることによりクロスプライ構造を構成する。トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。
【0013】
また、空気入りタイヤ1は、タイヤ周方向に延在する複数の周方向主溝21、22と、これらの周方向主溝21、22に区画されて成る複数の陸部31〜33とをトレッド部に備える。この実施の形態では、タイヤ幅方向の最も外側にある周方向主溝22が最も深い溝深さを有し、この周方向主溝22により、セカンド陸部32とショルダー陸部33とが区画されている。なお、周方向主溝とは、溝深さ8mm以上の周方向溝をいう。
【0014】
また、この空気入りタイヤ1は、細溝4および細リブ5を有する。細溝4は、タイヤ接地端の近傍に配置されて、ショルダー陸部33の縁部に沿ってタイヤ周方向に延在する。細リブ5は、細溝4により区画されたリブである。かかる構成では、タイヤ転動時にて、細リブ5が接地して積極的に摩耗することにより、ショルダー陸部33の偏摩耗が抑制される。
【0015】
[水飛沫抑制用のフィン]
図2および
図3は、
図1に記載した空気入りタイヤのフィンを示す拡大図(
図2)および斜視図(
図3)である。
【0016】
また、空気入りタイヤ1は、水飛沫抑制用のフィン6を備える(
図2および
図3参照)。このフィン6は、タイヤ左右のバットレス部のうち少なくとも車両装着状態にて車幅方向外側に位置するバットレス部に形成される。また、フィン6は、バットレス部のプロファイルからタイヤ幅方向に突出した形状を有し、タイヤ径方向外側(タイヤ接地端側)の壁面とタイヤ径方向内側(サイドウォール部側)の壁面とを有する。また、フィン6は、タイヤ全周に渡って連続的に延在する環状かつリブ状の構造を有する。
【0017】
なお、バットレス部とは、タイヤ接地端とタイヤ最大幅位置との間にある側壁部をいう。また、フィン6は、タイヤ加硫成形時にてサイドウォールゴム16に一体成形されても良いし、タイヤ加硫成形後に接着されて取り付けられても良い。
【0018】
また、フィン6の形状および位置が、以下のように設定される。
【0019】
まず、タイヤ子午線方向の断面視にて、タイヤ接地端をAとする。また、タイヤ接地端Aからフィン6に接線lを引き、この接線lとフィン6との接点をBとする。また、タイヤ軸方向に対する接線lの傾斜角をθとする。また、最も深い周方向主溝(ここでは、タイヤ幅方向の最も外側にある周方向主溝22)の溝底からトレッド面のプロファイルに平行な曲線mを引き、この曲線mとタイヤの側壁面との交点をPとする。
【0020】
このとき、フィン6の頂部が円弧形状の輪郭線を有し、この頂部の円弧上に接点Bが位置する。また、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面が、接線lに対してタイヤ内側に凹となる。これにより、タイヤ接地端Aから接点Bに向かうに連れてタイヤ軸方向に湾曲あるいは屈曲する側壁面が形成される。なお、この実施の形態では、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面がタイヤ径方向内側に凹となる円弧形状の輪郭線を有し、さらに、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面とバットレス部のプロファイルとがタイヤ内側に凹む円弧形状の輪郭線を介して滑らかに接続されている。
【0021】
また、接線lの傾斜角θが、θ<45[deg]の範囲内にあり、より好ましくは、32[deg]≦θ≦37[deg]の範囲内にある。また、フィン6とバッドレス部のプロファイルとの交点(フィン6の根元のタイヤ径方向外側の端部)が、交点Pよりもタイヤ径方向内側の壁面に配置される。また、フィン6が、タイヤ最大幅を超えないように、フィン6の配置位置および高さHが調整される。これらにより、フィン6の形状および位置が適正化される。なお、フィン6の高さHは、バットレス部のプロファイルを基準として測定される。
【0022】
なお、タイヤ接地端とは、タイヤが規定リムに装着されて規定内圧を付与されると共に静止状態にて平板に対して垂直に置かれて規定荷重に対応する負荷を加えられたときのタイヤと平板との接触面におけるタイヤ軸方向の端部をいう。
【0023】
また、タイヤのトレッド端とは、タイヤが規定リムに装着されて規定内圧を付与されると共に無負荷状態とされたときのタイヤのトレッド模様部分の両端部をいう。
【0024】
また、規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
【0025】
[フィンの波状形状]
図4は、
図2に記載したフィンの波状形状を示す説明図である。
図4において、左側は、タイヤ子午線方向の断面視におけるフィンの輪郭線および位置を示し、右側は、トレッド部の側面視におけるタイヤ接地端Aとフィン上の接点Bとの位置関係を示している。
【0026】
一般的な水飛沫抑制用のフィンを有する空気入りタイヤでは、タイヤの摩耗進行によりフィンと路面との距離が減少すると、例えば、フィンの水没などにより、フィンの水飛沫抑制効果が低下するおそれがある。
【0027】
そこで、この空気入りタイヤ1は、タイヤの摩耗進行後にもフィンの水飛沫抑制効果を維持するために、以下の構成を採用する。
【0028】
すなわち、この空気入りタイヤ1では、フィン6がタイヤ周方向に延在し、且つ、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面が、タイヤ径方向に振幅を有する波状形状を有する(
図4参照)。
【0029】
例えば、この実施の形態では、フィン6がタイヤのバットレス部の所定の位置に配置され、タイヤ周方向に連続したリブ状構造を有する(
図2および
図3参照)。また、フィン6が、正弦波状に滑らかに湾曲しつつタイヤ周方向に延在する(
図4参照)。また、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面が、タイヤ径方向に対して所定の周期Tおよび所定の振幅Wを有しつつ周期的に変位する。
【0030】
図5および
図6は、
図2に記載したフィンの作用を示す説明図である。これらの図は、湿潤路走行時におけるフィンの水飛沫抑制作用を示している。また、
図5は、タイヤ新品時(摩耗率0%時)の様子を示し、
図6は、摩耗末期(摩耗率80%時)の様子を示している。
【0031】
この空気入りタイヤ1では、湿潤路走行時にて、フィン6が飛散する水飛沫をタイヤ幅方向にガイドして水飛沫の飛散高さを抑制する(
図5および
図6参照)。これにより、隣接車線や対向車線を走行する他の車両への水飛沫の影響(乗用車のフロントガラスに水飛沫が飛散してドライバーの視界を遮ること)が抑制される。
【0032】
また、タイヤ新品時には、波状形状を有するフィン6の全域のうち主としてタイヤ径方向外側にある部分が、水飛沫をガイドする(
図5参照)。また、摩耗進行により路面からフィン6までの高さが低くなると、主としてフィン6のタイヤ径方向内側にある部分が、水飛沫をガイドする(
図6参照)。これにより、タイヤ新品時から摩耗末期に至るまでのタイヤの全使用期間を通じて、フィン6の水飛沫抑制機能を確保できる。
【0033】
なお、この空気入りタイヤ1では、タイヤ新品時にて、タイヤ接地端Aにおけるタイヤ周長Lと、接点Bにおけるフィン6の周期Tとが、20≦L/T≦60の関係を有することが好ましく、30≦L/T≦50の関係を有することがより好ましい(
図4参照)。タイヤ周長Lおよびフィン6の周期Tは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。
【0034】
また、この空気入りタイヤ1では、タイヤ新品時にて、フィン6の接点Bにおける振幅Wと、タイヤ接地端Aから接点Bまでのタイヤ径方向の距離Dの最小値D1とが、0.2≦W/D1≦0.9の関係を有することが好ましく、0.3≦W/D1≦0.8の関係を有することがより好ましい(
図4参照)。すなわち、タイヤ接地端Aからフィン6の接点Bまでのタイヤ径方向の距離Dは、フィン6が波状形状を有するため、タイヤ周方向に向かうに連れて周期的に変化する。このとき、フィン6の振幅Wが、距離Dの最小値D1に対して適正化される。また、この振幅Wにより、距離Dの最大値D2(=D1+W)が規定される。なお、距離Dは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。
【0035】
また、タイヤ新品時における距離Dの最小値D1が、15[mm]≦D1≦45[mm]の範囲内にあることが好ましく、20[mm]≦D1≦30[mm]の範囲内にあることがより好ましい。ただし、上記のように、フィン6の位置が、接線lの傾斜角θおよび曲線mとの関係で規定されるため(
図2参照)、距離Dの最小値D1は、かかるフィン6の位置により制約を受ける。
【0036】
また、この実施の形態では、上記のように、フィン6が正弦波状に変位しつつタイヤ周方向に延在している(
図4参照)。しかし、これに限らず、フィン6が、矩形波状あるいはジグザグ状に変位しつつタイヤ周方向に延在しても良い。例えば、
図7の変形例では、フィン6が、台形波状に屈曲しつつタイヤ周方向に周期的に変位して延在している。
【0037】
[効果]
以上説明したように、この空気入りタイヤ1は、水飛沫抑制用のフィン6をバットレス部に備える(
図2および
図3参照)。また、フィン6がタイヤ周方向に延在すると共に、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面がタイヤ径方向に振幅Wをもつ波状形状を有する(
図4参照)。
【0038】
かかる構成では、フィン6がタイヤ径方向に振幅Wを有することにより、タイヤの摩耗進行後にも、フィン6と路面との距離Dが適正となる部分が残存する。これにより、タイヤの摩耗進行後にも、フィン6の水飛沫抑制作用を適正に確保できる利点がある。
【0039】
また、かかる構成では、フィン6が波状形状を有することにより、フィン6の剛性が増加して、フィン6の耐もげ性が向上する利点がある。このことは、空気入りタイヤ1が、重荷重用ラジアルタイヤを適用対象とするときに、特に有益である。
【0040】
また、この空気入りタイヤ1では、タイヤ新品時におけるタイヤ接地端Aにおけるタイヤ周長Lと、接点Bにおけるフィン6の周期Tとが、20≦L/T≦60の関係を有する(
図4参照)。かかる構成では、タイヤ周長Lとフィン6の周期Tとの関係が適正化されるので、フィン6の水飛沫抑制作用を適正に確保できる利点がある。例えば、L/T<20となると、フィンの水飛沫抑制作用が低下するため、好ましくない。また、60<L/Tとなると、フィンが縁石などに接触したとき、進行方向の衝撃を受けやすくなりフィンがもげ易くなるため好ましくない。
【0041】
また、この空気入りタイヤ1では、タイヤ新品時の接点Bにおけるフィン6の振幅Wと、タイヤ接地端Aから接点Bまでのタイヤ径方向の距離Dの最小値D1とが、0.2≦W/D1≦0.9の関係を有する(
図4参照)。かかる構成では、フィン6の振幅Wと接点Bまでの距離Dの最小値D1との関係が適正化されるので、フィン6の水飛沫抑制作用をタイヤの全使用期間にて適正に確保できる利点がある。例えば、W/D1<0.2となると、摩耗末期におけるフィン6の水飛沫抑制作用が低下するため、好ましくない。また、0.9<W/D1となると、タイヤ新品時におけるフィン6の水飛沫抑制作用が低下するため、好ましくない。
【実施例】
【0042】
図8および
図9は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す説明図(
図8)および表(
図9)である。
【0043】
この実施例では、相互に異なる複数の空気入りタイヤについて、(1)水飛沫抑制性能、および、(2)フィンの耐もげ性能に関する評価が行われた(
図8および
図9参照)。これらの性能試験では、タイヤサイズ275/80R22.5の空気入りタイヤがリムサイズ22.5×7.50のリムに組み付けられ、この空気入りタイヤに900[kPa]の空気圧およびJATMA規定の最大負荷能力が付与される。また、空気入りタイヤが、総重量25トンのトラックである試験車両に装着される。
【0044】
(1)水飛沫抑制性能に関する評価では、試験車両が水深10[mm]の湿潤路を直進走行し、水飛沫の飛散高さがビデオカメラで撮影されて測定される。そして、この測定結果に基づいて、従来例2のタイヤ新品時を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。なお、摩耗率0%(タイヤ新品時)、摩耗率50%(摩耗中期)および摩耗率80%(摩耗末期)における各段階での指数が80以上であれば、フィンの水飛沫抑制性能が適正に発揮されているといえる。
【0045】
(2)耐もげ性能に関する評価では、試験車両が高さ250[mm]の縁石の乗り上げ試験を20回繰り返した後に、フィンのもげの発生数が観察される。そして、この観察結果に基づいて、従来例2を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。なお、この評価は、90以上であれば、耐もげ性能が適正に確保されているといえる。
【0046】
実施例1〜6は、
図1に記載した空気入りタイヤ1であり、水飛沫抑制用のフィン6がバットレス部に形成され、また、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面が波状形状を有しつつタイヤ周方向に延在する(
図2〜
図4参照)。また、タイヤ新品時にて、タイヤ周長LがL=3035[mm]であり、接線lの傾斜角θがθ=35[deg]であり、最も深い周方向主溝22の溝深さGがG=18[mm]である。また、タイヤ接地端Aから接点Bまでのタイヤ径方向の距離Dの最小値D1がD1=20[mm]であり、フィン6の高さHがH=15[mm]である。
【0047】
従来例1の空気入りタイヤは、水飛沫抑制用のフィンを備えていない。また、従来例2の空気入りタイヤは、水飛沫抑制用のフィンを距離D=15[mm]の位置に備えるが、フィンが振幅を有することなくタイヤ周方向に直線的に延在する。
【0048】
試験結果に示すように、実施例1〜6の空気入りタイヤ1では、フィン6が波状形状を有することにより、水飛沫抑制性能が適正に確保され(
図8参照)、また、水飛沫抑制効果の維持性能およびフィンの耐もげ性能が向上することが分かる(
図9参照)。また、実施例1〜3を比較すると、タイヤ周長Lとフィン6の周期Tとの関係が適正化されることにより、水飛沫抑制効果の維持性能およびフィンの耐もげ性能が向上することが分かる。また、実施例1、4、5を比較すると、フィン6の振幅Wと接点Bまでの距離Dの最小値D1との関係が適正化されることにより、水飛沫抑制効果の維持性能が向上することが分かる。