(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
狭い波長幅の平行光を発する照明光源と、平行光で照明すると円環形状に広がる回折光を発する第1ホログラムと、1点から拡がる光で照明すると特定の範囲に収束する回折光を発する第2ホログラムと、を有する照明装置であって、
照明光源からの平行光が第1ホログラムに入射して回折され、円環形状の回折光として第2ホログラムに入射し、第2ホログラムから発し収束する回折光が対象物を照明するように配置されており、
前記第2ホログラムを有する乾板は、前記円環形状の中央部分において、前記対象物を照明した反射光を直接通すことが可能な中抜き形状を有していることを特徴とする照明装置。
【背景技術】
【0002】
カメラを用いて撮像した画像から欠陥検出を行う検査装置は、製品検査などで広く用いられている。このような検査装置では、欠陥を検出しやすいように適切な照明光源で検査対象物を照明することが重要である。
【0003】
このような照明光源の一つとして光源の配置を円環状としたリング照明があり、円形に近い形状の対象物を検査する場合、検査時に対象物の向きが変わってしまう場合、影を出難くする場合など、光の照射方向に起因する照明の不均一性を克服するために、多くの用途に用いられている。
上述のリング照明とカメラを用いた構成による検査には、例えば、特許文献1、特許文献2など、多くのものが知られており、用いられるリング照明は、通常は多数のLED(発光ダイオード)を円環状に配置する(特許文献3、4参照)、サークル形状の蛍光管を用いる、ファイバー光源からの光に対して特殊なレンズを入れる(非特許文献1参照)などの方法で実現している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カメラとリング照明を用いる検査では、検査対象物の向きによる違いを小さくし、影などを生じ難くするために、照明装置には下記のようなことが求められる。
(1)照明光が方向によらず一定の強さである。
(2)検査する対象物に対して均一に照明される。
(3)光が効率的に利用できる。
しかし、LEDを用いたリング照明の場合、LED部分と隙間部分とで明るさが違うため、方向によって明るさのムラが生じやすく、検査される対象物の表面の照明に不均一さが発生するという問題があった。特に、使用するLED素子の数が少ない照明装置の場合に顕著であった。
また、蛍光管を使用したリング照明では、光が広い範囲に広がるため光の利用効率が悪く、ファイバー光源を用いるリング照明では、ファイバーに光を入射するときのロスが大きいため利用効率が悪いという問題があった。
さらに、比較的対象物に近い位置から照明する場合には、どの方法の照明光源を用いても、光源に近いリングに沿った周辺部が明るく、リングから略等距離の円環の中心付近が暗くなり易いという問題があった。
【0007】
本発明は、前記の問題点に鑑みて提案するものであり、本発明が解決しようとする課題は、従来のリング照明に替わって、上記(1)〜(3)の条件を同時に満足する照明装置を提供することによって、検査装置で欠陥検出の行いやすい画像を得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、狭い波長幅の平行光を発する照明光源と、平行光で照明すると円環形状に広がる回折光を発する第1ホログラムと、1点から拡がる光で照明すると特定の範囲に収束する回折光を発する第2ホログラムと、を有する照明装置であって、照明光源からの平行光が第1ホログラムに入射して回折され、円環形状の回折光として第2ホログラムに入射し、第2ホログラムから発し収束する回折光が対象物を照明するように配置されて
おり、前記第2ホログラムを有する乾板は、前記円環形状の中央部分において、前記対象物を照明した反射光を直接通すことが可能な中抜き形状を有していることを特徴とする照明装置である。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、照明光源が、単色のLEDであることを特徴とする請求項1に記載の照明装置である。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、照明光源が、半導体レーザーであることを特徴とする請求項1に記載の照明装置である。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、照明光源が、赤外光を発することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の照明装置である。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、照明光源が、可視光を発することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の照明装置である。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、照明光源が、紫外光を発することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の照明装置である。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は、ホログラムが、表面レリーフ型のものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の照明装置である。
【0015】
また、請求項8に記載の発明は、ホログラムが、体積型のものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の照明装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の照明装置は、狭い波長幅の平行光を発する照明光源からの光を、第1ホログラムに入射して、均一な明るさの円環状に広げた第1段の回折光を取り出し、第1段の回折光を第2ホログラムに入射して、略一定の回折効率で出射して各方向からの収束光となる第2段の回折光が対象物を均一の明るさで照明することができる。また、前記各回折光は、一定の必要範囲内のみに広がり、不要な範囲にまで広がらないようにできるため、回折効率がある程度高ければ、元の照明光源からの光を効率良く利用することができる。従って、検査装置で欠陥検出の行いやすい画像を得られるように、従来のリング照明に替わって、照明光が方向によらず一定の強さであり、検査する対象物に対して均一に照明され、かつ、光が効率的に利用できるような照明装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に従って、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の照明装置を用いた検査装置の一例を示す概要図である。
【0019】
図1において、照明装置は、1枚目のホログラム(以下第1ホログラムと呼ぶ)1、2枚目のホログラム(以下第2ホログラムと呼ぶ)2、狭い発光波長幅の平行光を発する照明光源3によって構成されている。
照明光源3から生じた、平行光4は第1ホログラム1に入射する。この光は第1ホログラム1で回折されて、第2ホログラム2の近辺で均一な強度の円環形状に広がる回折光5として射出される。回折光5は第2ホログラムに入射して回折され、特定の範囲に収束する回折光6として射出される。回折光6は、検査対象物7の近辺を均一な強度で照明するような光になっている。この光が検査対象物7に当たって反射された後、その反射光8がカメラ9のレンズに入射して、カメラ9に検査対象物7の画像が撮像されることになる。
【0020】
本発明の照明装置を用いて検査装置を運用する際に、検査対象物7を照明する回折光6が、第1ホログラム1によって均一な強度の円環形状の回折光5に予め広げられた光を源としているため、各方向から検査対象物7を照明する光の強度が同じになっている。
上述のように、第2ホログラムから生じた回折光6が、検査対象物7をほぼ均一な強度で照明するため、ほぼ均一な明るさで照明された画像を得ることができる。
【0021】
さらに、回折光5は円環形状の範囲のみに広がり、回折光6は検査対象物7の近辺のみに広がって、不要な範囲には広がらないため、光を効率的に利用することができる。
本発明の照明装置では、照明光源3に狭い波長幅の光を用いるため、検査対象物7を照明する回折光6が目視では彩度が高く見づらい画像となることもあるが、検査装置ではモノクロカメラ9の画像を用いて判別を行うので、波長幅による問題は無く、良好な検査判定を行うことができる。
【0022】
なお、本発明の照明装置の機構を満足させるホログラムは、第1ホログラムが平行光で照明すると円環形状に広がる回折光を発する特性を有し、第2ホログラムが1点から拡がる光で照明すると特定の範囲に収束する回折光を発する特性を有するものであり、これらのホログラムは、例えば以下のような方法で作製することができる。
【0023】
図2は、
図1で用いる第1ホログラム1を作製するための光学系の一実施例としての撮影系の一例を示す概要図である。
図示しないレーザー光源からの平行レーザー光10が感光材料の塗布された乾板11に斜め方向から入射する。同一のレーザー光源から発して分岐したレーザー光12は拡散板13を均一な強度となるように照明し、この拡散板13からの光は、円弧状の透過パターン14が開口部として描かれた遮光用のマスク15を通過して、拡散レーザー光16として、乾板11に入射する。これら光10と光16の干渉により、乾板11にホログラムが記録される。
【0024】
図3、
図4は、
図2のようにして作製した第1ホログラムを像再生する場合の二つの実施例を示す概要図である。
図3に示すように、第1ホログラムが作製された乾板11を、作製に用いた平行光(
図2の10)と同じ波長で逆方向からの平行光17で照明すると、作製時のマスクパターン(
図2の14)の位置に同じ円弧パターンの再生像18を結像するような回折光19が生じることになる。
【0025】
また、
図4に示すように、細いビーム状の平行光20で、第1ホログラムが作製された乾板11を照明すると、均一な円環形状に広がる回折光21が得られることになり、
図1で本発明の第1ホログラム1として用いられるような特性が得られることになる。
【0026】
図5は、
図1で示した第2ホログラムを作製するための光学系の一実施例としての撮影系の一例を示す概要図である。
図示しないレーザー光源からのレーザー光22は、レンズ23によって集光点24に向かう収束レーザー光25となる。収束レーザー光25の中で周辺部の光は、乾板26に直接入射する。一方、収束レーザー光25の中で中央付近の光は拡散板27に入射し、拡散レーザー光28となって乾板26に入射する。これら収束レーザー光25の周辺部の光と拡散レーザー光28との干渉によって、乾板26にホログラムが記録される。
【0027】
図6は、
図5のようにして作製した第2ホログラムを像再生する場合の一実施例を示す概要図である。
第2ホログラムが作製された乾板26を、作製時に光が収束する点(
図5の集光点24)に相当する位置から同じ波長の発散光29で照明すると、作製時の拡散板に相当する位置(
図5の拡散板27)に結像するような回折光30が生じる。
第2ホログラムを有する乾板26の中央部分を取り除いて中抜き形状とすることにより、
図1に示した検査装置において、検査対象物7を照明した反射光8をカメラ9の方向に直接通すことができるので、本発明の照明装置の第2ホログラム2として用いられるような特性のホログラムが得られることになる。
【0028】
本発明の請求項2では、照明光源として単色のLEDを、また、請求項3では半導体レーザーを用いている。
ホログラムでは、再生光の波長が違うと回折光の方向が変化するので、照明光源として単一波長の光を用いて像再生することが好ましい。このため、像再生の適性のみを考えるならば、波長幅の狭い半導体レーザーがより適している。しかし、半導体レーザーは価格が高く、また必ずしも発光効率が良くない。このため、多くの場合、安価で発光効率の高い単色のLEDを照明光源として用いることが実用的である。
【0029】
単色LEDを照明光源とした場合、通常は、発光波長の帯域が半値で20〜50nm程度ある。例えば、円環形状の回折照明のリング径が10cm、円環形状の回折照明と検査対象物との距離が10cmのときに、再生波長が50nm違ったときの再生像の位置ずれは5mm以下程度に抑えることができ、通常のリング照明の系に用いる場合と同様に、単色LEDにおける照明波長の分布内波長差による再生像の位置ずれは、殆ど問題にならない。
【0030】
本発明の請求項4では照明光に赤外光を、請求項5では可視光を、請求項6では紫外光をそれぞれ用いている。
モノクロカメラは可視光以外に、近紫外、近赤外にも感度を持っており、またホログラムは紫外光、赤外光に対しても、可視光と同様に用いることができるので、本発明の照明装置として、紫外、赤外の検査にも用いることができる。
検査対象によっては、紫外光や赤外光での検査が適している場合があり、また、LEDや半導体レーザーの中には、赤外発光で高輝度かつ比較的安価なものがあるため、検査内容によっては、本発明の照明装置を可視光以外の照明装置として用いる方が適する場合があ
る。
【0031】
本発明の請求項7では、ホログラムとして、表面レリーフ型のものを用いている。
表面レリーフ型のホログラムは、エンボスや射出成型などで簡単に複製が行えるため、ホログラムを安価に作成できるという利点を持っている。また、使える材料に制限が少ないため、耐久性の必要な状況でも検査に用い易いという利点がある。
【0032】
本発明の請求項8では、ホログラムとして、膜内部の屈折率差の縞として記録した体積型のものを用いている。
体積型のホログラムは、高い回折効率が得られる(理論的には100%)ので、光を有効に利用できるという利点がある。
【実施例】
【0033】
図2のような撮影系を用いて、本発明の第1ホログラムとして用いるホログラム撮影を行った。撮影には、Arイオンレーザーの波長458nmの光を用いている。
乾板として、透明なガラス板にフォトレジストを塗布したものを用いた。拡散板部分にはすりガラスを2枚重ねて用いている。遮光用のマスクは黒紙を切り抜いて作製し、外側直径が約6cm、幅1cmの円弧状に穴があいているようなものとした。
拡散板と乾板の距離は約30cmにして、参照光として約20°の角度で平行光が乾板に入射するようにした。
上記の撮影系で、乾板上に露光を行った後に、アルカリ現像液で現像することで、表面レリーフ型の第1ホログラムを作製した。
【0034】
次に、
図5のような光学系により第2ホログラムの撮影を行った。なお、第1ホログラムと同じく、Arイオンレーザーと、フォトレジスト乾板を用いている。
この系で、拡散板の部分には透明なガラス板に、拡散フィルムシートを直径約3cmの円形に切って貼り付けて用いた。
レーザー光は10cm径の凸レンズで集光して、先のフィルムシートが貼り付けてある、ガラス板を通して、乾板を照明し、その後で集光するようにしている。
このとき、拡散板と乾板との距離は約10cmとし、乾板の後方約30cmの位置で焦点を結ぶように調整した。
乾板は露光を行った後に、アルカリ現像液で現像して、表面レリーフ型の第2ホログラムを作製した。
【0035】
前述のように作製した2枚のホログラムを約30cm離して平行設置した後、中心波長が約465nmの青色LEDの光をレンズでほぼ平行にした光により、第1ホログラムを照明した。
なお、このとき撮影波長と像再生波長が若干違うので、第1ホログラムからの回折光が第2ホログラムを照明できるように、入射角度を調整している。
検査対象物を設置する予定の、第2ホログラムから約10cmの距離に白い紙を設置して、その照明されている部分を、モノクロのCCDカメラで撮影した。
カメラには、ほぼ均一な明るさの円形画像が得られ、均一な照明ができていることが確認できた。