(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記取得手段により取得されたヨーレイトの精度に基づいて、前記算出手段及び前記推定手段における該ヨーレイトの使用可否を判定するヨーレイト使用可否判定手段を含む請求項1または請求項2記載の速度推定装置。
前記取得手段により取得されたGPSデータの受信状態、擬似距離の残差、及びドップラー周波数の残差の少なくとも1つに基づいて、前記方程式の立式に用いるGPSデータを選択するGPS選択手段を含む請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の速度推定装置。
前記取得手段により取得された複数時刻における複数のGPSデータ各々を送信したGPS衛星の種類数に応じて、前記方程式に含まれる未知パラメータ数を選択する未知パラメータ数選択手段を含む請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の速度推定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の非特許文献1に記載の技術では、1時刻分の観測データのみを用いて、「車輪速による車速拘束」という拘束条件のみを利用しているため、利用できるGPS衛星数に制限があり、かつ速度推定を行う際の拘束条件が少ない。このため、観測されたGPS衛星数(以下、観測衛星数という)が少ない環境(3未満)では、速度推定を行うことができない、という問題がある。
【0007】
また、特許文献1記載の技術では、観測衛星数が4未満の場合では、GPSデータを棄却し、自律航法(INSのみによる軌跡推定)を行うが、自律航法では、進行方位誤差及び進行距離誤差が累積するため、観測衛星数が4未満の場所が長く続いた場合(自律航法が長く続いた場合)には、自車位置が大きくずれてしまう可能性がある、という問題がある。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、観測衛星数が少ない環境でも、安定して精度良く移動体の速度ベクトルを推定することができる速度推定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、
本発明の速度推定装置は、GPS衛星から送信されたGPSデータ
、移動体のヨーレイト
、及び移動体の速度の大きさを時系列に取得する取得手段と、前記取得手段により取得された時系列のヨーレイトに基づいて、前記移動体の進行方向の
所定の時刻における方位角に対する各時刻における相対方位角で表される方位角の時間変化を算出する算出手段と、前記取得手段により時系列に取得された複数のGPSデータに基づいて立式される各時刻における前記移動体の速度ベクトルを推定するための方程式であって、時刻毎に変化する未知パラメータ
である水平面内における速度ベクトルの大きさが、前記取得手段により取得された移動体の速度の大きさで拘束され、かつ該水平面内における速度ベクトルの方向が、前記算出手段により算出された方位角の時間変化により拘束された方程式に基づいて、前記移動体の速度ベクトルを推定する推定手段と、を含んで構成されている。
【0010】
本発明の速度推定装置によれば、取得手段が、GPS衛星から送信されたGPSデータ
、移動体のヨーレイト
、及び移動体の速度の大きさを時系列に取得し、算出手段が、取得手段により取得された時系列のヨーレイトに基づいて、移動体の進行方向の
所定の時刻における方位角に対する各時刻における相対方位角で表される方位角の時間変化を算出する。そして、推定手段が、取得手段により時系列に取得された複数のGPSデータに基づいて立式される各時刻における移動体の速度ベクトルを推定するための方程式であって、時刻毎に変化する未知パラメータ
である水平面内における速度ベクトルの大きさが、取得手段により取得された移動体の速度の大きさで拘束され、かつ水平面内における速度ベクトルの方向が、算出手段により算出された方位角の時間変化により拘束された方程式に基づいて、移動体の速度ベクトルを推定する。
【0011】
また、上記目的を達成するために、
本発明の速度推定装置
における前記推定手段は、前記取得手段により時系列に取得された複数のGPSデータに基づいて立式される各時刻での前記移動体の速度ベクトルを推定するための方程式であって、時刻毎に変化する未知パラメータ
であるクロックドリフトが、クロックドリフトの時間変化の線形化により拘束された方程式に基づいて、前記移動体の速度ベクトルを推定する
ことができる。
【0013】
このように、時系列に取得された複数のGPSデータに基づいて移動体の速度ベクトルを推定する場合に、方程式における未知パラメータの時間変化分を拘束することにより、未知パラメータ数を削減することができる。これにより、各時刻における観測衛星数が少ない環境でも、未知パラメータ数以上の方程式を立式できる可能性が大きくなり、安定して精度良く移動体の速度ベクトルを推定することができる。
【0014】
また、
本発明の速度推定装置は、前記取得手段により取得された時系列のヨーレイトに基づいて、前記移動体の進行方向の方位角の時間変化を算出する算出手段を含んで構成することができ、前記推定手段は、前記未知パラメータが、さらに前記算出手段により算出された方位角の時間変化により拘束された方程式に基づいて、前記移動体の速度ベクトルを推定することができる。このように、拘束条件が増えるほど、未知パラメータ数を削減することができる。
【0015】
また、
本発明の速度推定装置は、前記取得手段により取得されたヨーレイトの精度に基づいて、前記算出手段及び前記推定手段における該ヨーレイトの使用可否を判定するヨーレイト使用可否判定手段を含んで構成することができる。
【0016】
また、
本発明の速度推定装置は、前記取得手段により取得された速度の大きさの精度に基づいて、前記推定手段における該速度の大きさの使用可否を判定する速度使用可否判定手段を含んで構成することができる。
【0017】
また、
本発明の速度推定装置は、前記取得手段により取得されたGPSデータの受信状態、擬似距離の残差、及びドップラー周波数の残差の少なくとも1つに基づいて、前記方程式の立式に用いるGPSデータを選択するGPS選択手段を含んで構成することができる。
【0018】
また、
本発明の速度推定装置は、前記取得手段により取得された複数時刻における複数のGPSデータ各々を送信したGPS衛星の種類数に応じて、前記方程式に含まれる未知パラメータ数を選択する未知パラメータ数選択手段を含んで構成することができる。
【0019】
このように、速度の大きさやヨーレイトの使用可否を判定したり、受信状態の良いGPSデータを選択したり、GPS衛星の種類数に応じて方程式に含まれる未知パラメータ数を選択したりすることで、より精度良く移動体の速度ベクトルを推定することができる。
【0020】
また、第
2の発明の速度推定プログラムは、コンピュータを、
上記の速度推定装置を構成する各手段として機能させるためのプログラムである。
【0022】
なお、本発明のプログラムを記憶する記憶媒体は、特に限定されず、ハードディスクであってもよいし、ROMであってもよい。また、CD−ROMやDVDディスク、光磁気ディスクやICカードであってもよい。更にまた、該プログラムを、ネットワークに接続されたサーバ等からダウンロードするようにしてもよい。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明の速度推定装置及びプログラムによれば、時系列に取得された複数のGPSデータに基づいて移動体の速度ベクトルを推定する場合に、方程式における未知パラメータの時間変化分を拘束することにより、未知パラメータ数を削減することができる。これにより、各時刻における観測衛星数が少ない環境でも未知パラメータ数以上の方程式を立式できる可能性が大きくなり、安定して精度良く移動体の速度ベクトルを推定することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態では、車両に搭載され、自車両の速度ベクトルを推定する速度推定装置に、本発明を適用した場合を例に説明する。
【0026】
図1に示すように、第1の実施の形態に係る速度推定装置10は、自車両の速度の大きさを検出する車速センサ12と、自車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ14と、GPS衛星から送信されるGPSデータを受信するGPS装置16と、自車両の速度ベクトルを推定するコンピュータ18とを備えている。
【0027】
車速センサ12は、車輪速から出力された車速データを検出する。なお、車速センサ12としては、レーザレーダ、ミリ波レーダ、ステレオカメラ等、GPS装置16以外であれば、車輪速を検出するセンサ以外を用いてもよい。
【0028】
ヨーレイトセンサ14は、ジャイロセンサなどを用いることができ、自車両のヨーレイトデータを検出する。なお、ヨーレイトセンサ14としては、レーザレーダ、移動ステレオなど、GPS装置16以外であれば、ジャイロセンサ以外のセンサを用いてもよい。
【0029】
GPS装置16は、測位及び速度推定に必要となる擬似距離、ドップラー周波数、衛星番号、衛星位置、衛星速度等を含むGPSデータを、GPS衛星から受信する。
【0030】
コンピュータ18は、CPU、後述する速度推定処理ルーチンを実現するためのプログラムを記憶したROM、データを一時的に記憶するRAM、及びHDD等の記憶装置で構成されている。このコンピュータ18を以下で説明する速度推定処理ルーチンに従って機能ブロックで表すと、
図1に示すように、時系列に取得された車速データを蓄積する時系列車速蓄積部20と、時系列に取得されたヨーレイトデータを蓄積する時系列ヨーレイト蓄積部22と、時系列に取得されたGPSデータを蓄積する時系列GPSデータ蓄積部24と、時系列のヨーレイトデータから方位角の時間変化を算出する方位角時間変化算出部26と、GPSデータを用いて自車両からGPS衛星方向への速度ベクトルを算出する衛星方向速度算出部28と、各観測値及び未知パラメータの時間変化分を拘束した方程式に基づいて、自車両の速度ベクトルを推定する自車速度推定部30と、を含んだ構成で表すことができる。
【0031】
時系列車速蓄積部20には、車速センサ12で検出された車速データが時系列に保存される。データ保存のトリガは、一定時間経過時でもよいし、一定距離走行時でもよい。なお、時刻tに車速センサ12で検出された車速データをV
twheelとすると、最終的に推定する速度ベクトル(Vx
t,Vy
t,Vz
t)とV
twheelとの関係は、下記(1)式のように設定することができる。
【0033】
時系列ヨーレイト蓄積部22には、ヨーレイトセンサ14で検出されたヨーレイトデータが時系列に保存される。データ保存のトリガは、時系列車速蓄積部20と同じタイミングとする。
【0034】
時系列GPSデータ蓄積部24には、GPS装置16で取得されたGPSデータが時系列に保存される。データ保存のトリガは、時系列車速蓄積部20と同じタイミングとする。
【0035】
方位角時間変化算出部26は、自車両の進行方向のある時点における方位角に対する時刻tの相対方位角(方位角の時間変化)θ
tgyroを下記(2)式により算出する。なお、Δtはタイムステップを示し、ω
tは時刻tに検出されたヨーレイトデータを示す。
【0037】
衛星方向速度算出部28は、時系列GPSデータ蓄積部24に蓄積されたGPSデータに含まれるドップラー周波数を用いて、自車両からGPS衛星方向の速度ベクトル(衛星方向速度)を算出する。
【0038】
ここで、
図2に、ドップラー周波数を用いた速度ベクトル算出の概要を示す。ドップラー周波数を用いた速度推定では、観測された各GPS衛星のドップラー周波数に基づき、各GPS衛星方向への速度成分をそれぞれ算出し、各々を合成することで自車両の速度ベクトルを求める。そのための各GPS衛星方向への速度成分は下記(3)式により算出される。
【0040】
ここで、Vs
tiは自車両からGPS衛星i方向への自車速度ベクトルの大きさ、Vxs
ti、Vys
ti、Vzs
tiはGPS衛星iの各速度成分、D
tiはドップラー周波数、f1はGPSデータの搬送波の周波数、Cは光速、r
tiは自車両とGPS衛星i間の擬似距離、Gx
ti、Gy
ti、Gz
tiは自車両からGPS衛星iへの視線ベクトル、X
tsi、Y
tsi、Z
tsiは衛星位置、X
tv、Y
tv、Z
tvは自車両位置を示す。添え字tは時刻tのデータであることを表し、添え字iはi番目のGPS衛星のデータであることを表す。自車両位置は、擬似距離を用いた一般的な測位方法またはその他の測位方法を用いて算出した値を用いることができる。
【0041】
(3)式に示す自車両から各GPS衛星方向への速度ベクトルの大きさと、最終的に推定する自車両の速度ベクトルとの関係式を下記(5)式に示す。なお、Cbv
tはGPS装置16の時計誤差の時間変化(クロックドリフト)である。
【0043】
(5)式に示す連立方程式に、GPSデータから算出したVs
ti、Gx
ti、Gy
ti及びGz
tiを代入して解くことにより、自車両の速度ベクトルを推定することができる。衛星方向速度算出部28では、このVs
ti、Gx
ti、Gy
ti及びGz
tiを算出する。衛星方向速度Vs
tiは、ドップラー周波数から求められる各GPS衛星に対する自車両の相対速度、GPSデータに含まれる衛星位置の時系列データから求められる各GPS衛星の速度ベクトル、及び各GPS衛星の衛星位置と自車両位置とから求められる衛星方向に基づいて算出することができる。Gx
ti、Gy
ti及びGz
tiは、(4)式により算出することができる。
【0044】
自車速度推定部30は、後述する拘束条件で拘束された速度推定のための方程式に基づいて、自車両の速度ベクトルを推定する。速度推定に用いる各観測値の時系列データの範囲は、現時刻からの経過時間や走行距離などに基づき決定する。以下では、速度推定に使用する時系列データの内、最古のデータの時刻をt=0(初期時刻)として扱う。
【0045】
ここで、本実施の形態の原理について説明する。
【0046】
(5)式の連立方程式を解くにあたり、解を得るための条件は、通常「未知パラメータ数=立式数」である、(5)式では、Vx
t、Vy
t、Vz
t、及びCbv
tの4つが未知パラメータであるため、時系列データの全時刻における未知パラメータ数は、「未知パラメータ数=時刻数×4」となる。これに対して、「立式数=時刻数×各時刻での観測衛星数」であるため、各時刻での観測衛星数が平均4つ以上ない場合には、速度推定結果が得られないことになる。特に、都市部のように建物の遮蔽により観測衛星数が少ない環境では、上記条件を満たすのは困難である。
【0047】
そこで、本実施の形態では、以下の拘束条件を取り入れることで、未知パラメータ数を削減し、観測衛星数が少ない環境でも速度推定の解が得られる可能性を向上させる。本実施の形態で用いる拘束条件は、下記に示す拘束条件1〜3である。
【0049】
拘束条件1は、推定する速度ベクトルの各成分の大きさを車速データで拘束し、かつ時間変化分を方位角時間変化算出部26で算出した方位角の時間変化で拘束したものである。拘束条件1内のθ
0は初期時刻における自車両の進行方向の方位角である。拘束条件2は、高さ方向速度の変化は常に微小であると仮定するものである。拘束条件3は、クロックドリフトの時間変化は緩やかであるため、短時間内における変化は線形であると仮定するものである。拘束条件3内のCbv
0は初期時刻におけるクロックドリフト、及びAはクロックドリフトの時間変化の傾きを示す。なお、ここでは、拘束条件1及び2により、二次元平面内の速度成分のみを拘束する場合について説明するが、3軸ジャイロセンサなどにより取得したピッチレイトを用いて、3次元空間における速度成分を拘束してもよい。上記拘束条件1〜3を、(5)式に取り入れた結果、下記(6)式が得られる。
【0051】
(6)式において、未知パラメータは、θ
0、Cbv
0、及びAであり、これらの未知パラメータを求めることで、自車両の速度ベクトルを推定することができる。(6)式では、方位角の時間変化及びクロックドリフトを用いた拘束条件により、未知パラメータの時間変化分を拘束して、未知パラメータ数を削減している。(6)式では、未知パラメータ数を3つまで削減したため、「立式数=時刻数×各時刻の観測衛星数」が3以上であれば、速度推定結果を得ることができる。例えば、3時刻(t
0,t
1,t
2)の観測衛星数がそれぞれ1であったとしても、観測されたGPS衛星からのGPSデータを用いて、速度推定結果を算出可能である。
【0052】
従って、自車速度推定部30は、上記の本実施の形態の原理に従って、時間変化分を拘束した(6)式を用いて、自車両の速度ベクトルを推定する。具体的には、時系列車速蓄積部20に蓄積された時系列の車速データV
twheel、方位角時間変化算出部26で算出された方位角の時間変化θ
tgyro、並びに衛星方向速度算出部28で算出された衛星方向速度Vs
ti及びGx
ti、Gy
ti、Gz
tiを(6)式に代入して、時刻数×各時刻の観測衛星数分の方程式を立式する。これらの方程式を解いて未知パラメータθ
0、Cbv
0、及びAを求める。そして、求めたパラメータθ
0と、車速データV
twheel、及び方位角の時間変化θ
tgyroとを拘束条件1に代入して、自車両の速度ベクトルを算出する。
【0053】
次に、第1の実施の形態に係る速度推定装置10の作用について説明する。
【0054】
各時刻tにおいて、車速センサ12により車速データV
twheelを検出し、ヨーレイトセンサ14によりヨーレイトデータω
tを検出し、GPS装置16によりGPSデータを受信しているときに、コンピュータ18において、
図3に示す速度推定処理ルーチンが実行される。
【0055】
ステップ100で、観測値として、車速センサ12により検出された車速データV
twheel、ヨーレイトセンサ14により検出されたヨーレイトデータω
t、及びGPS装置16により受信したGPSデータを時系列に取得する。そして、各々を、時系列車速蓄積部20、時系列ヨーレイト蓄積部22、及び時系列GPSデータ蓄積部24に保存する。
【0056】
次に、ステップ102で、上記ステップ100で保存された時系列のヨーレイトデータω
tに基づいて、(2)式により、方位角の時間変化θ
tgyroを算出する。
【0057】
次に、ステップ104で、上記ステップ100で保存された時系列のGPSデータに基づいて、衛星方向速度Vs
tiを算出する。また、(4)式により、Gx
ti、Gy
ti及びGz
tiを算出する。
【0058】
次に、ステップ106で、時間変化分を拘束した(6)式に、上記ステップ100で取得した車速データV
twheel、上記ステップ102で算出した方位角の時間変化θ
tgyro、及び上記ステップ104で算出したVs
ti、Gx
ti、Gy
ti、Gz
tiを代入して、時刻数×各時刻の観測衛星数分の方程式を立式する。
【0059】
次に、ステップ108で、上記ステップ106で立式した方程式を解いて、未知パラメータθ
0、Cbv
0、及びAを求める。そして、求めたパラメータθ
0と、車速データV
twheel、及び方位角の時間変化θ
tgyroとを拘束条件1に代入して、自車両の速度ベクトルを算出して出力し、速度推定処理ルーチンを終了する。
【0060】
以上説明したように、第1の実施の形態の速度推定装置によれば、複数時刻におけるGPSデータを用いて自車両の速度ベクトルを推定する場合に、速度推定のための方程式における未知パラメータの時間変化分を拘束することにより、未知パラメータ数を削減する。これにより、各時刻における観測衛星数が少ない環境でも、未知パラメータ数以上の方程式を立式できる可能性が大きくなり、安定して精度良く自車両の速度ベクトルを推定することができる。
【0061】
なお、第1の実施の形態では、車速データ及び方位角の時間変化による拘束、並びにクロックバイアスの時間変化による拘束の全てを用いる場合について説明したが、これに限定されない。車速データ、方位角の時間変化、クロックバイアスの時間変化各々のみによる拘束条件としてもよいし、また、各々を適宜組み合わせた拘束条件としてもよい。ただし、時間変化分を拘束することにより未知パラメータ数を削減するという観点から、方位角の時間変化及びクロックバイアスの時間変化の少なくとも一方を用いた拘束条件であることが望ましい。
【0062】
拘束条件として、方位角の時間変化のみを用いた場合には、(6)式において、V
twheel、θ
0、及びCbv
t(Cbv
t=Cbv
0+Atの拘束がないため、(6)式の「Cbv
0−At」を「Cbv
t」に置き換え)が未知パラメータとなるため、時系列データの全時刻における未知パラメータ数は、「時刻数×2+1」となる。全ての拘束条件を適用した場合に比べると未知パラメータ数は多くなるが、拘束条件がない場合(未知パラメータ数=時刻数×4)に比べると、未知パラメータ数を削減することができる。
【0063】
また、拘束条件として、クロックドリフトの時間変化のみを用いた場合には、(6)式において、V
twheel、θ
0、θ
tgyro、Cbv
0、及びAが未知パラメータとなるため、時系列データの全時刻における未知パラメータ数は、「時刻数×2+3」となり、上記と同様に、未知パラメータ数を削減することができる。
【0064】
また、拘束条件として、クロックドリフトの時間変化及び車速データを用いた場合には、(6)式において、θ
0、θ
tgyro、Cbv
0、及びAが未知パラメータとなるため、時系列データの全時刻における未知パラメータ数は、「時刻数×1+3」となり、上記と同様に、未知パラメータ数を削減することができる。
【0065】
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態の速度推定装置において、第1の実施の形態の速度推定装置10と同一の構成については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0066】
図4に示すように、第2の実施の形態の速度推定装置210は、車速センサ12と、ヨーレイトセンサ14と、GPS装置16と、コンピュータ218とを備えている。このコンピュータ218を以下で説明する速度推定処理ルーチンに従って機能ブロックで表すと、
図4に示すように、車速センサ12で検出された車速データの使用可否を判定する車速使用可否判定部32と、ヨーレイトセンサ14で検出されたヨーレイトデータの使用可否を判定するヨーレイト使用可否判定部34と、観測されたGPS衛星から受信状態の良いrGPS衛星を選択する衛星選択部36と、時系列車速蓄積部20と、時系列ヨーレイト蓄積部22と、時系列GPSデータ蓄積部24と、方位角時間変化算出部26と、衛星方向速度算出部28と、観測されたGPS衛星の種類数に応じて方程式に含まれる未知パラメータ数を選択する未知パラメータ数選択部38と、各観測値及び未知パラメータの時間変化分を拘束した選択された未知パラメータ数の方程式に基づいて、自車両の速度ベクトルを推定する自車速度推定部230と、を含んだ構成で表すことができる。
【0067】
車速使用可否判定部32は、車速センサ12で検出された車速データの信頼性判定を行い、車速データが使用可能か否かを判定する。例えば、車速データを車輪速から検出した場合には、低速時には車輪速分解能力が低下することにより、車速データの精度が劣化するため、一定値以下の車速データは使用不可と判定する。また、カーブ時には、タイヤのスリップによって車速データの誤差が増加するため、ヨーレイトデータが一定値以上のときに検出された車速データは使用不可と判定する。
【0068】
ヨーレイト使用可否判定部34は、ヨーレイトセンサ14で検出されたヨーレイトデータの信頼性判定を行い、ヨーレイトデータが使用可能か否かを判定する。例えば、カーブ時には、タイヤのスリップによって車両の進行方向と車両の向きとの間にずれが生じるため、一定値以上のヨーレイトデータは使用不可と判定する。
【0069】
衛星選択部36は、受信したGPSデータの中で、受信状態が良いGPS衛星からのGPSデータを選択する。都心部では、建物によりGPS信号の反射(マルチパス)などが起こり、擬似距離やドップラー周波数の精度が劣化する場合があるため、例えば、GPSデータの受信時のSN比や、擬似距離またはドップラー周波数の残差が大きい場合には、そのGPSデータは誤りであると判定して、排除する。
【0070】
未知パラメータ数選択部38は、自車速度推定部230で用いる方程式に含まれる未知パラメータ数を選択する。通常、未知パラメータ数を増やすことで、より高精度な速度推定を行うことが可能となるが、観測されたGPS衛星の種類数が未知パラメータ数を下回る場合、解は不安定性を増し、正確な速度推定結果が得られない場合がある。そこで、未知パラメータ数選択部38は、時系列GPSデータ蓄積部24に保存された時系列のGPSデータにおいて、全時刻で観測されたGPS衛星の種類数に応じて、自車速度推定部230で速度推定を行う未知パラメータ数を選択する。GPS衛星の種類数は、全時刻におけるGPS衛星の衛星番号から重複を排除してカウントすることにより求めることができる。例えば、観測されたGPS衛星の種類数を「3」、「4」、「5以上」のように場合わけを行い、各場合の未知パラメータ数を、それぞれ「3」、「4」、「5」のように選択することができる。
【0071】
自車速度推定部230は、未知パラメータ数選択部38で選択された未知パラメータ数に応じた方程式を立式した上で、自車両の速度ベクトルを推定する。例えば、選択されたパラメータ数が「3」の場合には、第1の実施の形態と同様に、(6)式により方程式を立式する。この場合、未知パラメータは、θ
0、Cbv
0、及びAの3つである。選択された未知パラメータ数が「4」の場合には、下記(7)式により方程式を立式する。(7)式では、ヨーレイトセンサ14が有するオフセット性の誤差ω
offsetが未知パラメータとして追加されている。すなわち、未知パラメータは、θ
0、Cbv
0、A、及びω
offsetの4つである。選択された未知パラメータ数が「5」の場合には、下記(8)式により方程式を立式する。(8)式では、さらに、車速センサ12が有するスケール誤差Sが未知パラメータとして追加されている。すなわち、未知パラメータは、θ
0、Cbv
0、A、ω
offset、及びSの5つである。
【0073】
次に、第2の実施の形態に係る速度推定装置210の作用について説明する。
【0074】
各時刻tにおいて、車速センサ12により車速データV
twheelを検出し、ヨーレイトセンサ14によりヨーレイトデータω
tを検出し、GPS装置16によりGPSデータを受信しているときに、コンピュータ218において、
図5に示す速度推定処理ルーチンが実行される。なお、第1の実施の形態の速度推定処理ルーチンと同一の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0075】
ステップ100で、各観測値を時系列に取得し、次に、ステップ200で、上記ステップ100で取得した各時刻tにおける車速データV
twheelの使用可否を判定する。使用可と判定された車速データV
twheelは時系列車速蓄積部20に保存し、使用不可と判定された車速データV
twheelは排除する。
【0076】
次に、ステップ202で、上記ステップ100で取得した各時刻tにおけるヨーレイトデータω
tの使用可否を判定する。使用可と判定されたヨーレイトデータω
tは時系列ヨーレイト蓄積部22に保存し、使用不可と判定されたヨーレイトデータω
tは排除する。
【0077】
次に、ステップ204で、上記ステップ100で取得した各時刻tにおける各GPS衛星からのGPSデータの中で、GPSデータの受信時のSN比や、擬似距離またはドップラー周波数の残差に基づいて、受信状態が良いGPSデータを選択する。受信状態が良いと判定されたGPSデータは時系列GPSデータ蓄積部24に保存し、受信状態が悪いと判定されたGPSデータは排除する。
【0078】
次に、ステップ102で、方位角の時間変化θ
tgyroを算出し、次に、ステップ104で、衛星方向速度s
ti、並びに(4)式のGx
ti、Gy
ti及びGz
tiを算出する。
【0079】
次に、ステップ206で、時系列データの全時刻における観測されたGPS衛星の種類数を求めて、GPS衛星の種類数に応じて、後段のステップ208で立式する方程式に含まれる未知パラメータ数を選択する。
【0080】
次に、ステップ208で、上記ステップ206で選択された未知パラメータ数に応じた方程式に、上記ステップ200で保存された車速データV
twheel、上記ステップ102で算出した方位角の時間変化θ
tgyro、及び上記ステップ104で算出したVs
ti、Gx
ti、Gy
ti、Gz
tiを代入して、時刻数×各時刻の観測衛星数分の方程式を立式する。この際、上記ステップ200または202で、使用不可と判定された車速データV
twheelまたはヨーレイトデータω
tが存在する時刻tについては、方程式は立式されない。
【0081】
次に、ステップ108で、上記ステップ208で立式した方程式を解いて、選択された未知パラメータ数分の未知パラメータを求めて、求めたパラメータθ
0と、車速データV
twheel、及び方位角の時間変化θ
tgyroとを拘束条件1に代入して、自車両の速度ベクトルを算出して出力し、速度推定処理ルーチンを終了する。
【0082】
以上説明したように、第2の実施の形態の速度推定装置によれば、車速データ、ヨーレイトデータの使用可否を判定したり、受信状態の良いGPSデータを選択したり、観測されたGPS衛星の種類数に応じて方程式に含まれる未知パラメータ数を選択したりすることで、より速度ベクトルの推定精度が向上する。
【0083】
なお、上記の実施の形態では、車両に搭載される速度推定装置について説明したが、本発明の速度推定装置が搭載される移動体は車両に限定されない。例えば、速度推定装置をロボットに搭載してもよいし、歩行者が携帯できるように速度推定装置をポータブル端末として構成するようにしてもよい。