特許第5880106号(P5880106)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5880106
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】高分子アクチュエータの取付構造
(51)【国際特許分類】
   H02N 11/00 20060101AFI20160223BHJP
   B25J 19/00 20060101ALI20160223BHJP
   A61F 2/56 20060101ALN20160223BHJP
【FI】
   H02N11/00 Z
   B25J19/00 A
   !A61F2/56
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-29624(P2012-29624)
(22)【出願日】2012年2月14日
(65)【公開番号】特開2013-169035(P2013-169035A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2014年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】馬場 一将
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏充
【審査官】 仲村 靖
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−135873(JP,A)
【文献】 再公表特許第2008/123090(JP,A1)
【文献】 特開2009−124875(JP,A)
【文献】 特開2008−277729(JP,A)
【文献】 特表2006−520180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 11/00
B25J 19/00
A61F 2/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料により長尺状に形成され、かつ電圧印加に応じて弾性変形するとともに、電圧印加の停止に応じて元の形状に復元することにより軸方向に伸縮動作する高分子アクチュエータを駆動源とし、前記伸縮動作を利用して作動する装置において、前記高分子アクチュエータを取付ける構造であって、
導電性材料により形成され、かつ電源に接続された固定側取付部を移動不能に配置するとともに、導電性材料により形成され、かつ電源に接続され、前記高分子アクチュエータの伸縮動作を前記装置に伝達するための可動側取付部を往復動可能に配置し、
前記高分子アクチュエータの軸方向についての一端を固定端とし他端を可動端とし、
前記高分子アクチュエータの両電極の一方を前記固定側取付部に電気的に接続させた状態で、前記固定端を第1締結部材により前記固定側取付部に締結するとともに、
前記両電極の他方を前記可動側取付部に電気的に接続させた状態で、前記可動端を第2締結部材により前記可動側取付部に締結し、
前記第1締結部材はボルトにより構成されており、
記ボルトの頭部と前記固定端との間前記固定側取付部が挟み込まれており、
前記固定側取付部は、一対の挟み部を備えており、
前記ボルトの軸部は、前記両挟み部間に配置されていることを特徴とする高分子アクチュエータの取付構造。
【請求項2】
前記高分子アクチュエータは、弾性を有する絶縁性高分子材料により形成された誘電体層と、弾性を有する導電性高分子材料により形成されて前記誘電体層を両側から挟む一対の電極とを備え、前記両電極間への電圧印加に応じ、前記誘電体層をその面に沿う方向へ伸長させ、前記電圧印加の停止に応じ、前記誘電体層を収縮させて元の形状に復元させることにより伸縮動作するものである請求項1に記載の高分子アクチュエータの取付構造。
【請求項3】
前記高分子アクチュエータは、前記誘電体層及び前記両電極が渦巻き状に巻かれることにより円筒状に形成されている請求項2に記載の高分子アクチュエータの取付構造。
【請求項4】
前記第2締結部材はボルトにより構成されており、
記ボルトの頭部と前記可動端との間前記可動側取付部が挟み込まれている請求項1〜3のいずれか1つに記載の高分子アクチュエータの取付構造。
【請求項5】
前記可動側取付部は一対の挟み部を備えており、
前記ボルトの軸部は、前記両挟み部間に配置されている請求項4に記載の高分子アクチュエータの取付構造。
【請求項6】
前記高分子アクチュエータは複数本用いられ、伸縮方向を揃えた状態で配置されており、
前記高分子アクチュエータ毎の前記固定端は、同高分子アクチュエータ毎の前記第1締結部材により、共通の固定側取付部に締結され、
前記高分子アクチュエータ毎の前記可動端は、同高分子アクチュエータ毎の前記第2締結部材により、共通の可動側取付部に締結される請求項1〜のいずれか1つに記載の高分子アクチュエータの取付構造。
【請求項7】
共通の前記可動側取付部の往復動をガイドするガイド部が設けられ、
複数本の前記高分子アクチュエータは、前記ガイド部の周りに配置されている請求項に記載の高分子アクチュエータの取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧の印加及び印加停止により伸縮動作する高分子アクチュエータを駆動源とし、その伸縮動作を利用して作動する装置において、高分子アクチュエータを取付ける構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子材料により長尺状に形成され、かつ電圧印加に応じて弾性変形するとともに、電圧印加の停止に応じて元の形状に復元することにより軸方向に伸縮動作する高分子アクチュエータが、例えば特許文献1に記載されている。この高分子アクチュエータは、弾性を有する絶縁性高分子材料により形成された誘電体層と、弾性を有する導電性高分子材料により形成されて前記誘電体層を両側から挟む一対の電極とを備える。この高分子アクチュエータでは、両電極間に電圧が印加されることで、誘電体層がその面に沿う方向へ伸長させられ、電圧印加が停止されることで、誘電体層が収縮して元の形状に復元する。
【0003】
そのため、上記高分子アクチュエータを装置の駆動源とし、高分子アクチュエータの伸縮動作を利用することにより、小さな作動音で装置を作動させることができる。また、装置の軽量化を図ることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−124875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように優れた特徴を有する高分子アクチュエータが組込まれた装置では、高分子アクチュエータへの給電を如何にして行ない、高分子アクチュエータの伸縮動作を如何にして装置に伝達するかが重要となる。そして、これらの条件が満たされるように高分子アクチュエータを装置に取付ける構造が要望されている。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、高分子アクチュエータへの給電が行なわれ、かつ同高分子アクチュエータの伸縮動作が装置に伝達されるように、高分子アクチュエータを装置に取付けることのできる、高分子アクチュエータの取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、高分子材料により長尺状に形成され、かつ電圧印加に応じて弾性変形するとともに、電圧印加の停止に応じて元の形状に復元することにより軸方向に伸縮動作する高分子アクチュエータを駆動源とし、前記伸縮動作を利用して作動する装置において、前記高分子アクチュエータを取付ける構造であって、導電性材料により形成され、かつ電源に接続された固定側取付部を移動不能に配置するとともに、導電性材料により形成され、かつ電源に接続され、前記高分子アクチュエータの伸縮動作を前記装置に伝達するための可動側取付部を往復動可能に配置し、前記高分子アクチュエータの軸方向についての一端を固定端とし他端を可動端とし、前記高分子アクチュエータの両電極の一方を前記固定側取付部に電気的に接続させた状態で、前記固定端を第1締結部材により前記固定側取付部に締結するとともに、前記両電極の他方を前記可動側取付部に電気的に接続させた状態で、前記可動端を第2締結部材により前記可動側取付部に締結し、前記第1締結部材はボルトにより構成されており、前記ボルトの頭部と前記固定端との間前記固定側取付部が挟み込まれており、前記固定側取付部は、一対の挟み部を備えており、前記ボルトの軸部は、前記両挟み部間に配置されていることを要旨とする。
【0008】
上記の構成によれば、高分子アクチュエータの装置への取付けに際しては、高分子アクチュエータの固定端が第1締結部材によって固定側取付部に締結される。この締結状態では、高分子アクチュエータの両電極の一方が固定側取付部に電気的に接続される。また、高分子アクチュエータの可動端が第2締結部材によって可動側取付部に締結される。この締結状態では、高分子アクチュエータの両電極の他方が可動側取付部に電気的に接続される。固定側取付部及び可動側取付部は、いずれも導電性材料によって形成されていて、電源に接続されている。そのため、固定側取付部及び可動側取付部を通じて高分子アクチュエータの両電極に給電される。
【0009】
高分子アクチュエータは、両電極間に電圧が印加されると弾性変形し、その電圧印加が停止されると元の形状に復元する。これらの弾性変形及び復元により、高分子アクチュエータは軸方向に伸縮動作する。
【0010】
ここで、高分子アクチュエータの固定端が、移動不能に配置された固定側取付部に締結
されていることから、同固定側取付部は上記伸縮動作に拘らず動かない。これに対し、高分子アクチュエータの可動端が、往復動可能に配置された可動側取付部に締結されていることから、同可動側取付部は上記伸縮動作に伴い軸方向に往復動する。そして、この可動側取付部の往復動を通じ高分子アクチュエータの伸縮動作が装置に伝達されて、同装置が作動させられる。
また、ボルトの頭部と固定端との間で固定側取付部が挟み込まれ、両電極の一方が固定側取付部に電気的に接続されるとともに、固定端が固定側取付部に締結される。
さらに、固定側取付部における一対の挟み部の先端同士が互いに離れていて、ボルトの軸部はこの離間部分を通過可能である。そのため、固定端に螺合された状態のボルトの軸部を、上記離間部分を通じて、固定側取付部の外方から両挟み部間に入れることが可能である。また、固定端に螺合された状態のボルトの軸部を、両挟み部間から固定側取付部の外方へ取出すことが可能である。その結果、高分子アクチュエータの固定端の固定側取付部に対する脱着作業が容易になる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記高分子アクチュエータは、弾性を有する絶縁性高分子材料により形成された誘電体層と、弾性を有する導電性高分子材料により形成されて前記誘電体層を両側から挟む一対の電極とを備え、前記両電極間への電圧印加に応じ、前記誘電体層をその面に沿う方向へ伸長させ、前記電圧印加の停止に応じ、前記誘電体層を収縮させて元の形状に復元させることにより伸縮動作するものであることを要旨とする。
【0012】
上記の構成によれば、一対の電極間に電圧が印加されると、一方の電極がプラスの電荷を帯び、他方の電極がマイナスの電荷を帯びる。ここで、各電極に電荷が所定量蓄積されるまでは電流が流れるが、電荷が所定量蓄積されると電流はほとんど流れなくなる。そのため、高分子アクチュエータの伸縮動作のために消費される電力は少なくてすむ。
【0013】
両電極が上記のように電荷を帯びると、プラスの電荷とマイナスの電荷とが互いに引きつけ合う力(クーロン力)が両電極に作用し、誘電体層が両電極によって両側から押圧される。誘電体層は弾性を有する絶縁性高分子材料によって形成されているため、上記のように両電極によって両側から押圧されると、自身の面に沿う方向に伸長する。電極も弾性を有する導電性高分子材料によって形成されているため、上記誘電体層に追従して伸長する。
【0014】
両電極間への上記電圧印加が停止されると、各電極に蓄積されていた電荷が放出(放電)される。この放電により、各電極が帯びている電荷が少なくなり、上記クーロン力が小さくなる。その結果、誘電体層は、自身の弾性復元力により、同誘電体層の面に沿う方向に収縮する。弾性を有する電極もまた誘電体層に追従して収縮する。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記高分子アクチュエータは、前記誘電体層及び前記両電極が渦巻き状に巻かれることにより円筒状に形成されていることを要旨とする。
【0016】
上記の構成によれば、高分子アクチュエータは、誘電体層及びその両側の電極が渦巻き状に巻かれることにより、コンパクトな形態(円筒状)となり、装置への搭載性が向上する。
【0017】
円筒状をなす高分子アクチュエータは、両電極間への電圧印加に応じ、誘電体層の面に沿う方向のうち軸方向(高分子アクチュエータの長さ方向)へ伸長する。高分子アクチュエータは、両電極間への上記電圧印加の停止に応じ、長さ方向に収縮して元の形状に復元する。
【0022】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明において、前記第2締結部材はボルトにより構成されており、前記ボルトの頭部と前記可動端との間前記可動側取付部が挟み込まれていることを要旨とする。
【0023】
上記の構成によれば、ボルトの頭部と可動端との間で可動側取付部が挟み込まれ、両電極の他方が可動側取付部に電気的に接続されるとともに、可動端が可動側取付部に締結される。
【0024】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記可動側取付部は一対の挟み部を備えており、前記ボルトの軸部は、前記両挟み部間に配置されていることを要旨とする。
【0025】
上記の構成によれば、可動側取付部における一対の挟み部の先端同士が互いに離れていて、ボルトの軸部はこの離間部分を通過可能である。そのため、可動端に螺合された状態のボルトの軸部を、上記離間部分を通じて、可動側取付部の外方から両挟み部間に入れることが可能である。また、可動端に螺合された状態のボルトの軸部を、両挟み部間から可動側取付部の外方へ取出すことが可能である。その結果、高分子アクチュエータの可動端の可動側取付部に対する脱着作業が容易になる。
【0026】
請求項に記載の発明は、請求項1〜のいずれか1つに記載の発明において、前記高分子アクチュエータは複数本用いられ、伸縮方向を揃えた状態で配置されており、前記高分子アクチュエータ毎の前記固定端は、同高分子アクチュエータ毎の前記第1締結部材により、共通の固定側取付部に締結され、前記高分子アクチュエータ毎の前記可動端は、同高分子アクチュエータ毎の前記第2締結部材により、共通の可動側取付部に締結されることを要旨とする。
【0027】
上記の構成によれば、高分子アクチュエータから出力される力が小さいと、可動側取付部に加わる力が小さい。しかし、請求項8に記載の発明によるように、複数本の高分子アクチュエータが伸縮方向を揃えた状態で配置され、共通の固定側取付部に締結され、共通の可動側取付部に締結されることで、同可動側取付部に大きな力が加えられる。その結果、可動側取付部を通じ装置に大きな力が伝達される。
【0028】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、共通の前記可動側取付部の往復動をガイドするガイド部が設けられ、複数本の前記高分子アクチュエータは、前記ガイド部の周りに配置されていることを要旨とする。
【0029】
上記の構成によれば、各高分子アクチュエータが伸縮動作した場合、可動側取付部が往復動するが、その往復動は、ガイド部によってガイドされる。また、複数本の高分子アクチュエータがガイド部の周りに配置されていることから、これらの高分子アクチュエータの伸縮動作は、可動側取付部に対し、偏ることなくバランスよく伝達される。
【発明の効果】
【0030】
本発明の高分子アクチュエータの取付構造によれば、高分子アクチュエータの固定端を固定側取付部に取付け、可動端を可動側取付部に取付けるようにしたため、高分子アクチュエータへの給電が行なわれ、かつ同高分子アクチュエータの伸縮動作が装置に伝達されるように、高分子アクチュエータを装置に取付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の取付構造を電動義手に適用した一実施形態を示す図であり、電動義手の全体構成を示す斜視図。
図2図1の要部を拡大して示す部分斜視図。
図3図1におけるA−A線断面図。
図4図2におけるB−B線断面図。
図5】一実施形態において、展開させられた状態の高分子アクチュエータの構造を概念的に示す斜視図。
図6】一実施形態における高分子アクチュエータを示す図であり、(A)は電圧印加の停止に応じ収縮した高分子アクチュエータの断面構造を概念的に示す断面図、(B)は電圧印加に応じ伸長した高分子アクチュエータの断面構造を概念的に示す断面図。
図7図2におけるC−C線断面図。
図8】高分子アクチュエータを義手本体の固定側取付部及び可動側取付部に取付ける前の状態を概念的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の取付構造を、装置としての電動義手に適用した一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態の電動義手は、義手本体10、複数の指部、複数本の高分子アクチュエータ40及び動力伝達部60を備えている。次に、電動義手の上記各部について説明する。
【0033】
<義手本体10>
義手本体10は、電動義手の骨格部分をなすものである。ここで、電動義手において、人の手首に相当する箇所に向かう方向を「後」とし、指先に相当する箇所に向かう方向を「前」とすると、義手本体10は前後方向(図1の上下方向)に細長い形状をなしている。義手本体10は、その後部に基部11を備えている。基部11の中心部からは、支柱12が前方へ向けて延びている。支柱12の後端部には、導電性材料によって形成された固定側取付部13が、同支柱12に対し、前後方向及び周方向への移動不能に取付けられている。この固定側取付部13は、各高分子アクチュエータ40の一端(後端)が取付けられる箇所であり、複数本の高分子アクチュエータ40に対し共通するものとして1つ設けられている。
【0034】
図3に示すように、固定側取付部13には、それぞれ支柱12の径方向外方へ膨らむ複数の膨出部14が、同支柱12の周りに等角度毎に設けられている。膨出部14は、高分子アクチュエータ40の本数と同数設けられている。各膨出部14は、互いに支柱12の周方向に離間した状態で、同支柱12の径方向外方へそれぞれ延びる一対の挟み部15を備えている。
【0035】
また、図1及び図2に示すように、支柱12の前部には、導電性材料によって形成された可動側取付部16が、同支柱12に対し周方向への移動不能、かつ前後方向への往復動可能に取付けられている。この可動側取付部16は、各高分子アクチュエータ40の他端(前端)が取付けられる箇所であり、複数本の高分子アクチュエータ40に対し共通するものとして1つ設けられている。より詳しくは、支柱12の少なくとも前部には、略円筒状のガイド部17が形成されている。図4に示すように、ガイド部17の中心を挟んで相対向する箇所には、前後方向に延びる一対の溝部18が形成されている。一方、可動側取付部16の中央部分には、上記ガイド部17を挿通可能とした挿通孔19があけられている。また、挿通孔19の内壁面において、同挿通孔19の中心を挟んで相対向する箇所間には連結部21が架設されている。そして、この連結部21が上記両溝部18に通されている。両溝部18は、連結部21、ひいては可動側取付部16がガイド部17の周方向へ移動(回動)するのを規制しつつ、前後方向に往復動するのを許容する。
【0036】
可動側取付部16には、それぞれ挿通孔19の径方向外方へ膨らむ複数の膨出部24が、同挿通孔19の周りに等角度毎に設けられている。これらの膨出部24は、上述した固定側取付部13の膨出部14と同様、高分子アクチュエータ40の本数と同数設けられている。各膨出部24は、互いに挿通孔19の周方向に離間した状態で、同挿通孔19の径方向外方へそれぞれ延びる一対の挟み部25を備えている。固定側取付部13の各膨出部14(両挟み部15)と、可動側取付部16の各膨出部24(両挟み部25)とは、前後方向に相対向している。
【0037】
図1及び図2に示すように、支柱12において、可動側取付部16よりも前側部分には被着部26が固定されている。被着部26の厚み方向についての両側には、一対の対向壁部27,28が配置されている。各対向壁部27,28は板状をなしており、ねじ等の締結部材29によって被着部26に固定されている。対向壁部27は、人の手の甲(手を握ると外側になる、手首から指のつけ根までの面)に相当する箇所である。対向壁部28は、手の平(手首から指の付け根までの、手を握ったときに内側になる面)に相当する箇所である。なお、図1及び図2では、対向壁部27は二点鎖線で図示されている。
【0038】
図6(A)に示すように、固定側取付部13及び可動側取付部16の一方は、電源31のプラス極に接続され、他方はスイッチ32を介して電源31のマイナス極に接続されている。
【0039】
<指部>
図1及び図2に示すように、複数の指部は、第1指部33及び第2指部37からなる。第1指部33は、人の手の人差し指、中指等に相当する箇所である。第1指部33の基端部(後端部)は、両対向壁部27,28の一側部間に配置され、同一側部間に架け渡された支軸34により回動可能に支持されている。
【0040】
また、第2指部37は、人の手の親指に相当する箇所である。第2指部37の基端部(後端部)は、両対向壁部27,28の他側部間に配置され、同他側部間に架け渡された支軸38により回動可能に支持されている。
【0041】
<高分子アクチュエータ40>
高分子アクチュエータ40は、高分子材料により形成され、かつ電圧印加に応じて弾性変形し、電圧印加の停止に応じて元の形状に復元することにより伸縮動作するアクチュエータであり、人の手における筋肉に相当するものである。
【0042】
高分子アクチュエータ40としては、誘電方式と呼ばれるものと、イオン方式と呼ばれるものとがあるが、本実施形態では、変位、発生力等の点で優れる誘電方式の高分子アクチュエータが採用されている。
【0043】
図5は、誘電方式の高分子アクチュエータ40を、平面状に展開させた状態で示している。この図5に示すように、高分子アクチュエータ40は、弾性を有する絶縁性高分子材料によって形成された誘電体層41と、弾性を有する導電性高分子材料により形成されて誘電体層41をその厚み方向(図5の上下方向)についての両側から挟む一対の電極42,43とを備えている。
【0044】
誘電体層41は、架橋点の動く高分子化合物(高分子ゲル等)、例えばポリロタキサンによって形成されている。これに対し、両電極42,43は、汎用ゴム等によって形成されている。
【0045】
高分子アクチュエータ40は、両電極42,43間への電圧印加に応じ、誘電体層41をその面に沿う方向へ伸長させ、電圧印加の停止に応じ、誘電体層41を収縮させて元の形状に復元させることにより伸縮動作するものである。
【0046】
高分子アクチュエータ40の主要部は、図6(A),(B)に示すように、誘電体層41及び両電極42,43が、渦巻き状に巻かれることにより、両端が開口された円筒状に形成されている。このように、高分子アクチュエータ40はコンパクトな形態を採っており、電動義手への搭載性のよいものとなっている。
【0047】
また、高分子アクチュエータ40は、両電極42,43間への電圧印加により、誘電体層41の面に沿う方向のうち軸方向(高分子アクチュエータ40の長さ方向)に伸長し(図6(B)参照)、電圧印加の停止により、上記軸方向(長さ方向)に収縮して元の形状に復元する(図6(A)参照)。
【0048】
なお、高分子アクチュエータ40の伸縮に伴う変位量は、両指部33,37の開閉に伴う変位量に比べ少ないが、図6(A),(B)では、説明の便宜上、高分子アクチュエータ40の伸縮の状態が誇張して図示されている。
【0049】
上記高分子アクチュエータ40の軸方向についての両方の開口には、円筒状の雌ねじ部材45,46がそれぞれ挿入されて固定されている。各雌ねじ部材45,46の内壁面には雌ねじが形成されている。
【0050】
高分子アクチュエータ40内において、上記両雌ねじ部材45,46間にはコイルばね47が圧縮された状態で配置されている。このコイルばね47は、両雌ねじ部材45,46を、互いに遠ざける方向(図6(A),(B)の各上下方向)へ付勢している。このコイルばね47の付勢力は、両雌ねじ部材45,46を通じて高分子アクチュエータ40に伝わる。従って、高分子アクチュエータ40は、その軸方向に伸びるように付勢されていることになる。このような構成を採っているのは、誘電体層41を面に沿う方向へ伸長させる際に、渦に沿う方向へ伸長するのを極力抑えることにより、軸方向への高分子アクチュエータ40の変位量を可能な限り大きくするためである。
【0051】
図1及び図2に示すように、本実施形態では、上記の構成を有する高分子アクチュエータ40が複数本用いられている。これらの高分子アクチュエータ40は、伸縮方向を義手本体10の前後方向に揃えた状態で配置されている。すなわち、本実施形態では、各高分子アクチュエータ40の伸縮方向と、前後方向とが合致している。
【0052】
図6(A),(B)に示すように、各高分子アクチュエータ40においては、軸方向についての一端である後端が固定端48とされ、他端である前端が可動端49とされている。固定端48及び可動端49の各端面には、電極取出部51,52が設けられている。電極取出部51は、両電極42,43の一方に電気的に接続され、電極取出部52は両電極42,43の他方に電気的に接続されている。
【0053】
各高分子アクチュエータ40は、固定側取付部13における膨出部14毎の両挟み部15と、可動側取付部16における膨出部24毎の両挟み部25との間に配置されている。
そして、各高分子アクチュエータ40の固定端48は、第1締結部材により、固定側取付部13の各膨出部14に締結されている。第1締結部材としては、雄ねじの形成された軸部53Aと、その軸部53Aの後端部に一体に設けられた頭部53Bとからなるボルト53が用いられている。このボルト53の軸部53Aが、固定側取付部13の後方から、膨出部14毎の両挟み部15間に通され、固定端48側(後側)の雌ねじ部材45に螺合されている。このボルト53により、電極取出部51が固定側取付部13に圧接させられ、電極42,43の一方が電極取出部51を介して固定側取付部13に電気的に接続されるとともに、固定端48が固定側取付部13に締結されている。
【0054】
また、各高分子アクチュエータ40の可動端49は、第2締結部材により、可動側取付部16の各膨出部24に締結されている。第2締結部材としては、雄ねじの形成された軸部54Aと、その軸部54Aの前端部に一体に設けられた頭部54Bとからなるボルト54が用いられている。このボルト54の軸部54Aが、可動側取付部16の前方から、膨出部24毎の両挟み部25間に通され、可動端49側の雌ねじ部材46に螺合されている。このボルト54により、電極取出部52が可動側取付部16に圧接させられ、電極42,43の他方が電極取出部52を介して可動側取付部16に電気的に接続されるとともに、可動端49が可動側取付部16に締結されている。
【0055】
<動力伝達部60>
図1及び図2に示すように、動力伝達部60は、義手本体10の可動側取付部16と各指部33,37(支軸34,38)との間に設けられ、各高分子アクチュエータ40の伸縮動作に伴う可動側取付部16の前後動を回動運動に変換して各指部33,37に伝達し、これらを回動(開閉)させるためのものである。
【0056】
第1指部33の基端部(後端部)であって、支軸34の周りには被動ギヤ61が一体に設けられている。また、第2指部37の基端部(後端部)であって、支軸38の周りには被動ギヤ(図示略)が一体に設けられている。
【0057】
一方、図2及び図4に示すように、可動側取付部16(連結部21)の中心部には駆動ピン63が固定されている。駆動ピン63は、上記両支軸34,38間において、可動側取付部16から前方へ延び、上記被着部26を挿通している。図2及び図7に示すように、上記両支軸34,38間であって、被着部26の前方には、伝達部材64が上記駆動ピン63を取り囲んだ状態で配置されている。伝達部材64は、上記駆動ピン63に対し直交する方向(図7の上下方向)へ延びる連結軸65により、駆動ピン63に連結されている。
【0058】
伝達部材64の第1指部33側の端部には、駆動ギヤ66が一体に設けられている。両対向壁部27,28間であって、駆動ギヤ66と支軸34周りの被動ギヤ61との間には、伝達ギヤ67が軸68により回動可能に支持されている。伝達ギヤ67は、駆動ギヤ66及び被動ギヤ61の両者に噛み合わされている。
【0059】
これに対し、伝達部材64の第2指部37側には、一対の支持壁部69が設けられており、これらの支持壁部69間に駆動ギヤ71が配置されている。駆動ギヤ71は、軸72により両支持壁部69に回動可能に支持されている。そして、この駆動ギヤ71が上記第2指部37の被動ギヤ(図示略)に噛み合わされている。
【0060】
上記のように構成された本実施形態の電動義手では、複数本の高分子アクチュエータ40が次のようにして取付けられる。
図8の左半部に示すように、高分子アクチュエータ40毎の固定端48側(後側)の雌ねじ部材45に対し、ボルト53が締まる方向(軸部53Aが雌ねじ部材45に螺入する方向)へ緩く回転される。また、高分子アクチュエータ40毎の可動端49側の雌ねじ部材46に対し、ボルト54が締まる方向(軸部54Aが雌ねじ部材46に螺入する方向)へ緩く回転される。これらの回転は、ボルト53の頭部53Bと、ボルト54の頭部54Bとの間隔が、収縮時の各高分子アクチュエータ40の長さ(正確には、両電極取出部51,52の間隔)よりも僅かに大きくなるように行なわれる。
【0061】
続いて、図8の右半部において二点鎖線で示すように、高分子アクチュエータ40を、固定側取付部13及び可動側取付部16間に配置する作業が行なわれる。この際、固定側取付部13の各膨出部14における一対の挟み部15の先端同士が互いに離れていて、ボルト53の軸部53Aはこの離間部分を通過可能である(図3参照)。同様に、可動側取付部16の各膨出部24における一対の挟み部25の先端同士が互いに離れていて、ボルト54の軸部54Aはこの離間部分を通過可能である(図4参照)。
【0062】
そこで、固定端48側の雌ねじ部材45に螺合された状態のボルト53の軸部53Aが、上記離間部分を通じて、固定側取付部13の外方から両挟み部15間に入れられる。また、可動端49側の雌ねじ部材46に螺合された状態のボルト54の軸部54Aが、上記離間部分を通じて、可動側取付部16の外方から両挟み部25間に入れられる。
【0063】
続いて、ボルト53が締まる方向に回転される。この回転に伴い、頭部53Bと固定端48との間で電極取出部51及び固定側取付部13が挟み込まれる。固定端48と固定側取付部13との間にガタがなくなる、又はガタが許容できるほど少なくなるまで、上記のボルト53の回転が行なわれる。その結果、図6(A)に示すように、電極取出部51が固定側取付部13に圧接させられ、両電極42,43の一方が電極取出部51を介し固定側取付部13に対し電気的に接続される。これに加え、固定端48の固定側取付部13に対する締結が行なわれる。
【0064】
また、図8に示すように、ボルト54が締まる方向に回転される。この回転に伴い、頭部54Bと可動端49との間で電極取出部52及び可動側取付部16が挟み込まれる。可動端49と可動側取付部16との間にガタがなくなる、又はガタが許容できるほど少なくなるまで、ボルト54の上記回転が行なわれる。その結果、図6(A)に示すように、電極取出部52が可動側取付部16に圧接させられ、両電極42,43の他方が電極取出部52を介して可動側取付部16に対し電気的に接続される。これに加え、可動端49の可動側取付部16に対する締結が行なわれる。このようにして、1本の高分子アクチュエータ40が固定側取付部13及び可動側取付部16間に取付けられる。
【0065】
そして、上記の一連の作業が、複数の高分子アクチュエータ40の全てについて行なわれる。
なお、高分子アクチュエータ40の交換等のために、電動義手からそれまで装着されていた高分子アクチュエータ40を取り外す場合には、上記とは逆の作業が行なわれる。
【0066】
すなわち、図6(A)に示すように、ボルト53が緩む方向に回転される。この回転により、頭部53Bが固定端48から後方へ遠ざかり、電極取出部51及び固定端48が固定側取付部13に圧接されなくなる。また、ボルト54が緩む方向に回転される。この回転により、頭部54Bが可動端49から前方へ遠ざかり、電極取出部52及び可動端49が可動側取付部16に圧接されなくなる。
【0067】
ボルト53の軸部53Aが、両挟み部15間から上記離間部分を通じて、固定側取付部13の外方へ抜き出される。また、これと略同時に、ボルト54の軸部54Aが、両挟み部25間から上記離間部分を通じて、可動側取付部16の外方へ抜き出される。
【0068】
そして、上記の一連の作業が、複数の高分子アクチュエータ40の全てについて行なわれる。
次に、本実施形態の電動義手の動作について説明する。
【0069】
図1及び図2は、スイッチ32が開かれて高分子アクチュエータ40の両電極42,43(図5参照)間への電圧印加が停止されているときの電動義手の状態を示している。この状態では、図6(A)に示すように、各高分子アクチュエータ40では、放電(電荷の放出)により、両電極42,43に電荷が蓄積されておらず、各高分子アクチュエータ40が収縮している。
【0070】
各高分子アクチュエータ40の後端は固定端48として、共通の固定側取付部13に固定されているため、その前後位置を変えない。これに対し、各高分子アクチュエータ40の前端は可動端49とされていて、共通の可動側取付部16に取付けられているにすぎず、義手本体10に固定されていない。各高分子アクチュエータ40の前端(可動端49)は、可動範囲の最も後ろ側の箇所に位置している。可動端49(前端)が取付けられた可動側取付部16は、可動範囲の最も後側の箇所に位置している。第1指部33の指先33Aと、第2指部37の指先37Aとは、互いに大きく離れている。
【0071】
上記の状態から、電動義手によって把持対象物(図示略)を把持する場合には、上記スイッチ32が閉じられる(図6(B)参照)。各高分子アクチュエータ40の両電極42,43(図5参照)間に電圧が印加される。電極42,43の一方がプラスの電荷を帯び、他方がマイナスの電荷を帯びる。
【0072】
ここで、各電極42,43に電荷が所定量蓄積されるまでは電流が流れるが、電荷が所定量蓄積されると電流はほとんど流れなくなる。ほとんど流れなくなるというのは、電荷が所定量蓄積された後に放電が少なからず生ずるため、その放電により減少した電荷を補うための電流は流れるという意味である。
【0073】
両電極42,43が上記のように電荷を帯びると、プラスの電荷とマイナスの電荷とが互いに引きつけ合う力(クーロン力)が両電極42,43に作用し、誘電体層41がその厚み方向についての両側から押圧されて、誘電体層41の面に沿う方向に伸長する。電極42,43も弾性を有する導電性高分子材料によって形成されているため、上記誘電体層41に追従して伸長する。誘電体層41及び両電極42,43が渦巻き状に巻かれることにより円筒状に形成された各高分子アクチュエータ40は、誘電体層41の面に沿う方向のうち軸方向(長さ方向)に伸長する。この伸長は、可動端49が固定端48から遠ざかる方向である前方へ移動することにより行なわれる。これに伴い、可動端49が取付けられた可動側取付部16は、高分子アクチュエータ40の伸長方向(前方)へ移動する。この際、可動側取付部16は、ガイド部17により周方向の動き(回動)を規制されながら、高分子アクチュエータ40の伸長方向(前方)へ移動することをガイドされる(図4参照)。
【0074】
可動側取付部16の上記前方への移動に伴い、図2に示すように、駆動ピン63も可動側取付部16と一体となって同方向へ移動する。この駆動ピン63の移動は、連結軸65を介して伝達部材64に伝わり、同伝達部材64も前方へ移動する。この伝達部材64の前方への移動は、駆動ギヤ66、伝達ギヤ67及び被動ギヤ61を介して第1指部33に伝達され、同第1指部33が支軸34を支点として、図1の時計回り方向へ回動する。この回動により、第1指部33の指先33Aが第2指部37の指先37Aに近付く。
【0075】
また、上記伝達部材64の前方への移動は、駆動ギヤ71及び被動ギヤ(図示略)を介して第2指部37に伝達され、同第2指部37が支軸38を支点として、図1の反時計回り方向へ回動する。この回動により、第2指部37の指先37Aが第1指部33の指先33Aに近付き、両指先37A,33A間で把持対象物を把持することが可能となる。
【0076】
これに対し、上記の状態からスイッチ32が再び開かれる(図6(A)参照)と、各高分子アクチュエータ40の両電極42,43間への電圧印加が停止される。この停止により、両電極42,43に蓄積されていた電荷が放出(放電)される。この放電により、両電極42,43が帯びている電荷が少なくなり、上記クーロン力が小さくなる。その結果、誘電体層41は、自身の弾性復元力により、同誘電体層41の面に沿う方向に収縮する。円筒状の高分子アクチュエータ40は、誘電体層41の面に沿う方向のうち同高分子アクチュエータ40の軸方向(長さ方向)に収縮する(図6(A))。弾性を有する導電性高分子材料によって形成されている電極42,43は、上記誘電体層41に追従して、軸方向に収縮する。この収縮は、可動端49が固定端48に近付く方向である後方へ移動することにより行なわれる。これに伴い可動側取付部16は、高分子アクチュエータ40の収縮方向(後方)へ移動する。この際、可動側取付部16は、ガイド部17により周方向の動き(回動)を規制されながら、高分子アクチュエータ40の収縮方向(後方)へ移動することをガイドされる(図4参照)。
【0077】
可動側取付部16の上記後方への移動に伴い、駆動ピン63も可動側取付部16と一体となって同方向へ移動する。この駆動ピン63の移動は、連結軸65を介して伝達部材64に伝わり、同伝達部材64も後方へ移動する。この伝達部材64の後方への移動は、駆動ギヤ66、伝達ギヤ67及び被動ギヤ61を介して第1指部33に伝達され、同第1指部33が支軸34を支点として、図1の反時計回り方向へ回動する。この回動により、第1指部33の指先33Aが第2指部37の指先37Aから遠ざかる。
【0078】
また、伝達部材64の上記後方への移動は、駆動ギヤ71及び被動ギヤを介して第2指部37に伝達され、同第2指部37が支軸38を支点として、図1の時計回り方向へ回動する。この回動により、第2指部37の指先37Aが第1指部33の指先33Aから遠ざかり、両指先37A,33A間の間隔が拡がる。
【0079】
上記のようにして、高分子アクチュエータ40の伸縮動作が動力伝達部60によって回動運動に変換されて、第1指部33及び第2指部37に伝達される。
ここで、各高分子アクチュエータ40が伸長するときに発生する力が小さいと、可動側取付部16に加わる力が小さい。しかし、本実施形態では、高分子アクチュエータ40が複数本用いられ、それらの高分子アクチュエータ40が伸縮方向を揃えた状態で配置されていて、高分子アクチュエータ40毎の可動端49が共通の可動側取付部16に取付けられている。そのため、可動側取付部16に大きな力が加えられ、把持対象物を、両指部33,37による大きな力で把持することが可能である。
【0080】
ところで、上記第1指部33及び第2指部37をそれぞれ回動駆動する駆動源として用いられる高分子アクチュエータ40は、高分子材料(誘電体層41:絶縁性高分子材料、電極42,43:導電性高分子材料)によって形成されているため、金属によって形成された駆動源、例えば、電動モータや電磁アクチュエータよりも軽量である。そのため、電動義手全体も軽量となる。
【0081】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)導電性材料により形成され、かつ電源31に接続された固定側取付部13を移動不能に配置する。また、導電性材料により形成され、かつ電源31に接続され、高分子アクチュエータ40の伸縮動作を電動義手(動力伝達部60)に伝達するための可動側取付部16を往復動可能に配置する。高分子アクチュエータ40の軸方向についての一端(後端)を固定端48とし、他端(前端)を可動端49とする。高分子アクチュエータ40の電極42,43の一方を固定側取付部13に電気的に接続させた状態で、固定端48を第1締結部材により固定側取付部13に締結する。両電極42,43の他方を可動側取付部16に電気的に接続させた状態で、可動端49を第2締結部材により可動側取付部16に締結している(図6(A))。
【0082】
そのため、固定側取付部13及び可動側取付部16を通じて高分子アクチュエータ40に給電を行なうことができる。また、高分子アクチュエータ40の伸縮動作に伴い移動する可動側取付部16を通じて動力伝達部60を作動させ、指部33,37を回動(開閉)させることができる。
【0083】
このように、本実施形態によれば、高分子アクチュエータ40への給電が行なわれ、かつ同高分子アクチュエータ40の伸縮動作が電動義手(動力伝達部60)に伝達されるように、高分子アクチュエータ40を電動義手に取付けることができる。
【0084】
(2)高分子アクチュエータ40として、弾性を有する絶縁性高分子材料により形成された誘電体層41と、弾性を有する導電性高分子材料により形成されて誘電体層41を厚み方向についての両側から挟む一対の電極42,43とを備えるものを用いている(図5)。
【0085】
そのため、両電極42,43間への電圧印加により、誘電体層41をその面に沿う方向へ伸長させ、電圧印加の停止に応じ、誘電体層41を前記面に沿う方向へ収縮させて元の形状に復元させることができる。
【0086】
また、各電極42,43に電荷が所定量蓄積されるまでは電流が流れるが、電荷が所定量蓄積されると電流はほとんど流れなくなるため、高分子アクチュエータ40の作動(伸縮)のために消費される電力が少なくてすむ。その結果、電源31として、容量の少ないバッテリを使用することができ、利便性が向上する。
【0087】
(3)誘電体層41及び両電極42,43を、渦巻き状に巻くことにより、高分子アクチュエータ40の主要部分を円筒状に形成している(図6(A))。
そのため、高分子アクチュエータ40をコンパクトな形態(円筒状)とし、電動義手への搭載性を向上させることができる(図1)。
【0088】
また、電圧印加により、高分子アクチュエータ40を、誘電体層41の面に沿う方向のうち軸方向(高分子アクチュエータ40の長さ方向)へ伸長させることができる(図6(B))。上記電圧印加の停止に応じ、高分子アクチュエータ40を上記軸方向に収縮させることができる(図6(A))。
【0089】
(4)第1締結部材をボルト53によって構成する。このボルト53を固定端48側の雌ねじ部材45に対し締まる方向(軸部53Aが雌ねじ部材45に螺入する方向)へ回転させることにより、ボルト53の頭部53Bと固定端48との間で固定側取付部13を挟み込むようにしている(図6(A))。
【0090】
そのため、ボルト53を締まる方向へ回転するといった簡単な作業を行なうだけで、電極42,43の一方を固定側取付部13に電気的に接続するとともに、固定端48を固定側取付部13に締結することができる。
【0091】
(5)固定側取付部13の各膨出部14に一対の挟み部15を設ける。そして、上記ボルト53の回転を、軸部53Aを両挟み部15間に入り込ませた状態で行なうようにしている(図3図6(A))。
【0092】
そのため、固定端48側の雌ねじ部材45に螺合された状態のボルト53の軸部53Aを、固定側取付部13の外方から両挟み部15間に入れたり、両挟み部15間から固定側取付部13の外方へ取出したりすることができる。高分子アクチュエータ40の固定側取付部13に対する脱着作業を容易に行なうことができる。
【0093】
(6)第2締結部材をボルト54によって構成する。このボルト54を可動端49側の雌ねじ部材46に対し締まる方向(軸部54Aが雌ねじ部材46に螺入する方向)へ回転させることにより、ボルト54の頭部54Bと可動端49との間で可動側取付部16を挟み込むようにしている(図6(A))。
【0094】
そのため、ボルト54を締まる方向へ回転させるといった簡単な作業を行なうだけで、両電極42,43の他方を可動側取付部16に電気的に接続するとともに、可動端49を可動側取付部16に締結することができる。
【0095】
(7)可動側取付部16の各膨出部24に一対の挟み部25を設ける。そして、上記ボルト54の回転を、軸部54Aを両挟み部25間に入り込ませた状態で行なうようにしている(図4図6(A))。
【0096】
そのため、可動端49側の雌ねじ部材46に螺合された状態のボルト54の軸部54Aを、可動側取付部16の外方から両挟み部25間に入れたり、両挟み部25間から可動側取付部16の外方へ取出したりすることができる。高分子アクチュエータ40の可動側取付部16に対する脱着作業を容易に行なうことができる。
【0097】
(8)高分子アクチュエータ40を複数本用い、伸縮方向を揃えた状態で配置する。高分子アクチュエータ40毎の固定端48を同高分子アクチュエータ40毎のボルト53により、共通の固定側取付部13に締結する。また、高分子アクチュエータ40毎の可動端49を同高分子アクチュエータ40毎のボルト54により、共通の可動側取付部16に締結するようにしている(図1)。
【0098】
そのため、各高分子アクチュエータ40から出力される力が小さくても、可動側取付部16に大きな力を加え、両指部33,37に大きな力を伝達し、把持対象物を強い力で把持することができる。
【0099】
(9)可動側取付部16の往復動をガイドするガイド部17を設け、複数本の高分子アクチュエータ40をガイド部17の周りに配置している(図4)。
そのため、各高分子アクチュエータ40の伸縮動作を、可動側取付部16に対し、偏ることなくバランスよく伝達することができる。
【0100】
(10)高分子アクチュエータ40を柔軟な高分子材料(誘電体層41:弾性を有する絶縁性高分子材料、電極42,43:弾性を有する導電性高分子材料)によって形成している(図5)。
【0101】
そのため、両指部33,37に対し、これらを開閉させようとする力が外部から加わっても、高分子アクチュエータ40を伸縮させることで、その力を吸収することができる。
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
【0102】
<固定側取付部13及び可動側取付部16について>
・固定側取付部13において、一対の挟み部15に代えて、膨出部14毎にボルト53の軸部53Aを挿通するための孔が設けられてもよい。また、可動側取付部16において、一対の挟み部25に代えて、膨出部24毎にボルト54の軸部54Aを挿通するための孔が設けられてもよい。
【0103】
この場合には、ボルト53,54が取付けられていない状態の高分子アクチュエータ40を、固定側取付部13及び可動側取付部16間に配置し、その後に、ボルト53,54を孔に通し、雌ねじ部材45,46に締付けるようにしてもよい。
【0104】
<指部について>
・指部33,37の数が3以上に変更されてもよい。
<高分子アクチュエータ40について>
・高分子アクチュエータ40は、上述した誘電方式に代え、イオン方式であってもよい。
【0105】
イオン方式の高分子アクチュエータは、イオン交換樹脂と電極との接合体からなる。このタイプの高分子アクチュエータとしては、フッ素系イオン交換樹脂膜の両面に、金、白金等の貴金属によって形成された電極を、無電解メッキにより接合したものが代表的である。この高分子アクチュエータでは、電極間に数ボルトの電圧が印加されることで、イオン交換樹脂の内部でイオンの移動が起こり(陽イオンが陰極側へ移動し)、このイオンの移動により、高分子アクチュエータの表裏で膨潤に差が生じて、同高分子アクチュエータが弾性変形する。電圧印加が停止されると、弾性復元力により高分子アクチュエータは元の形状に復元する。これらの弾性変形及び復元により、高分子アクチュエータを伸縮動作させる。
【0106】
本発明の取付構造は、こうしたイオン方式の高分子アクチュエータを装置に取付ける場合に適用されることで、上記実施形態と同様の効果が得られる。
<締結部材について>
・ボルト53(54)の頭部53B(54B)と固定側取付部13(可動側取付部16)との間に、それらを互いに遠ざけさせる方向へ付勢する付勢部材、例えば、ばね、ばね座金等が介在されてもよい。このようにすると、頭部53B(54B)と固定側取付部13(可動側取付部16)との間に隙間があっても、上記電気的接続を確保したうえで固定端48(可動端49)を固定側取付部13(可動側取付部16)に締結することができる。付勢部材が上記の隙間を吸収するからである。
【0107】
また、同様の理由により、固定側取付部13(可動側取付部16)と高分子アクチュエータ40の固定端48(可動端49)との間に、それらを互いに遠ざけさせる方向へ付勢する付勢部材が介在されてもよい。
【0108】
さらに、付勢部材が上記の隙間を吸収することから、ボルト53(54)と雌ねじ部材45(46)とは一体に構成されたものであってもよい。
・第1締結部材(第2締結部材)は、高分子アクチュエータ40の両電極42,43の一方(他方)を固定側取付部13(可動側取付部16)に電気的に接続させた状態で、固定端48(可動端49)を固定側取付部13(可動側取付部16)に締結できるものであればよく、ボルト53(54)とは異なる構成を有するものであってもよい。
【0109】
例えば、第1締結部材(第2締結部材)は、リベットと割りピンとの組合わせによって構成されてもよい。この場合、高分子アクチュエータ40の固定端48(可動端49)及びリベットの軸部にそれぞれ孔があけられる。これらの孔に割りピンが通され、同割りピンの脚部分のうち両孔から露出する部分が曲げられることで、割りピンを介して高分子アクチュエータ40が固定側取付部13(可動側取付部16)に締結される。
【0110】
<動力伝達部60について>
・動力伝達部60の構成を変更することで、上記実施形態とは逆に、高分子アクチュエータ40の高分子アクチュエータ40が伸長するときに第1指部33及び第2指部37を開く側へ回動させ、同高分子アクチュエータ40が収縮するときに両指部33,37を閉じる側へ回動させるようにしてもよい。
【0111】
・上記実施形態では、動力伝達部60において、可動側取付部16の前後動を回動運動に変換して第1指部33に伝達する機構と、可動側取付部16の前後動を回動運動に変換して第2指部37に伝達する機構とを異ならせたが、いずれか一方の機構に統一してもよい。
【0112】
・動力伝達部60として、上記実施形態とは異なる構造が採用されてもよい。
<第1指部33及び第2指部37が閉じる(把持対象物を把持する)力について>
・この力は、次の要素を調整することで変更可能である。
【0113】
(i)高分子アクチュエータ40毎の電極42,43に印加する電圧。この電圧が高くなるに従い、上記力が増大する。
(ii)高分子アクチュエータ40の直径。この直径が大きくなるに従い、上記力が増大する。
【0114】
(iii )伸縮動作する高分子アクチュエータ40の本数。この本数が多くなるに従い、上記力が増大する。
この場合、電動義手に装着される高分子アクチュエータ40の本数が変更されてもよいし、電圧印加の対象となる高分子アクチュエータ40の本数が状況に応じて、制御により、又は操作により変更されてもよい。
【0115】
<その他>
・本発明の取付構造は、高分子アクチュエータ40の伸縮動作を利用して作動する装置であれば適用可能である。例えば、高分子アクチュエータ40の伸縮動作に伴う可動側取付部16の往復動を利用して、振動機能を発揮させるようにした携帯電話が、これに該当する。
【符号の説明】
【0116】
10…義手本体(装置)、13…固定側取付部、15,25…挟み部、16…可動側取付部、17…ガイド部、31…電源、40…高分子アクチュエータ、41…誘電体層、42,43…電極、48…固定端、49…可動端、53…ボルト(第1締結部材)、53A,54A…軸部、53B,54B…頭部、54…ボルト(第2締結部材)。
図1
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図8