(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
センサとしての測定抵抗体と、該測定抵抗体の一方に接続される第1配線と、該測定抵抗体の他方に接続される第2配線と、該測定抵抗体の他方に接続されると共にグランドに接続される第3配線とを備える3線式の抵抗値測定回路であって、
第1配線に接続される基準抵抗体と、
前記基準抵抗体を介して2種類の電圧を印加可能な電源部と、
前記基準抵抗体の電源部側、第1配線、第2配線、およびグランドの電圧を増幅するバッファと、
前記バッファの出力をAD変換するADコンバータと、
前記2種類の電圧について、前記ADコンバータから前記基準抵抗体の電源部側、第1配線、第2配線、およびグランドの電圧値を取得し、第1配線から第3配線の配線に生じる熱起電力および前記バッファのゲインとオフセットをキャンセルして前記測定抵抗体の抵抗値を演算する電圧測定部と、
をさらに備えることを特徴とする抵抗値測定回路。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の3線式抵抗値測定回路では配線抵抗をキャンセルし得るものの、高温環境下において異種金属間に生じる熱起電力については考慮されていない。例えば熱電対は、異種金属間に生じる熱起電力を利用して温度を測定するものである。そして数百度の高温環境下では、素子の配線と延長用の配線の成分が微妙に異なったり、これらの配線同士を溶接する際に異物が混入したりすることで、意図しない熱起電力が発生する。そのため、測定抵抗体の抵抗値を正確に測定できず、ひいては物理量を正確に求めることができない場合があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、センサとしての測定抵抗体の抵抗値を正確に測定可能な3線式の抵抗値測定回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の代表的な構成は、センサとしての測定抵抗体と、測定抵抗体の一方に接続される第1配線と、測定抵抗体の他方に接続される第2配線と、測定抵抗体の他方に接続されると共にグランドに接続される第3配線とを備える3線式の抵抗値測定回路であって、第1配線に接続される基準抵抗体と、基準抵抗体を介して2種類の電圧を印加可能な電源部と、
基準抵抗体の電源部側、第1配線、第2配線、およびグランドの電圧を増幅するバッファと、バッファの出力をAD変換するADコンバータと、2種類の電圧について、
ADコンバータから基準抵抗体の電源部側、第1配線
、第2配線
、およびグランドの電圧値を取得し、第1配線から第3配線の配線に生じる熱起電力
およびバッファのゲインとオフセットをキャンセルして測定抵抗体の抵抗値を演算する電圧測定部と、をさらに備えることを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、配線抵抗だけでなく、配線に生じる熱起電力
、さらにバッファのゲインとオフセットをもキャンセルして、センサとしての測定抵抗体の抵抗値を正確に求めることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、配線抵抗だけでなく、配線に生じる熱起電力をもキャンセルして、センサとしての測定抵抗体の抵抗値を正確に求めることができる3線式の抵抗値測定回路を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明の抵抗値測定回路の第1実施形態である温度測定回路100の概略構成を示す回路図である。以下では、抵抗値測定回路として温度測定回路100を挙げて説明するが、本実施形態はこれに限られず、測定抵抗体の抵抗値を測定して物理量を求めるひずみゲージなどについても同様の説明が適用されるものとする。
【0014】
図1に示すように、温度測定回路100には、測定抵抗体102として白金測温抵抗体が備えられる。白金測温抵抗体は抵抗値Rtと温度との関係が既知であって、抵抗値Rtから温度を求めることができる。
【0015】
測定抵抗体102の一方には第1配線104が接続される。また測定抵抗体102の他方には第2配線106が接続される。第3配線108は、測定抵抗体102の他方に接続されると共に、グランドに接続される。第1配線104、第2配線106、第3配線108は、それぞれの配線抵抗が等しくなるように、径、材質、長さ等が同一に設定される。
【0016】
第1配線104には、基準抵抗体110が接続される。かかる基準抵抗体110は、その抵抗値Rrefが予め既知のものを用いる。また、温度測定回路100には、基準抵抗体110を介して2種類の電圧を印加可能な電源部112が備えられる。電源部112は、リレー116を有する経路120と、リレー118及び抵抗器124を有する経路122とを含む。
【0017】
電源部112はリレー116がクローズ、リレー118がオープンの場合に基準電圧VDD1を印加することで、第1の電圧として基準電圧VDD1を印加する。また、電源部112は、リレー116がオープン、リレー118がクローズの場合に基準電圧VDD1を印加することで、第2の電圧として基準電圧VDD1が抵抗器124で電圧降下したものを印加する。
【0018】
図2は、
図1の電源部112の他の例(電源部114)を示す図である。
図2に示すように、上述した電源部112に換えて、抵抗器124を有さず2種類の基準電圧VDD1(第1の電圧)、VDD2(第2の電圧)を印加可能な電源部114を用いてもよい。
【0019】
図3は、温度測定回路100に発生する熱起電力について説明する図である。
図3に示すように、測定抵抗体102は、数百度の高温環境下において使用される。そのため、測定抵抗体102に接続される第1配線104、第2配線106、第3配線108は、高温への耐久性があるNiワイヤ等で形成される。なお、端子台130より電圧測定部132側の第1配線104、第2配線106、第3配線108はNiワイヤではなく、例えば銅線で構成される。
【0020】
第1配線104、第2配線106、第3配線108は、測定抵抗体102の配線に延長用の配線を溶接して形成される(この溶接箇所を「溶接箇所126、128」として図示する)。ここで測定抵抗体102の配線と延長用の配線とが同じNiワイヤであっても、その成分が微妙に異なったり、溶接箇所126、128に異物が混入したりするので、熱起電力Vt1、Vt2、Vt3(
図1参照)が発生する。
【0021】
再び、
図1を参照する。電圧測定部132は、基準抵抗体110の電源部112側、第1配線104、第2配線106に接続され、基準抵抗体110の電源部112側の電圧値V0、第1配線104の電圧値V1、第2配線106の電圧値V2を取得する。すなわち、第1の電圧を印加した際のこれらの電圧値Va0、Va1、Va2、第2の電圧を印加した際のこれらの電圧値Vb0、Vb1、Vb2を取得する(表1参照)。
【0023】
電圧測定部132は、取得した各電圧値を用いて後述する演算を行い、第1配線104から第3配線108の配線に生じる熱起電力Vt1、Vt2、Vt3をキャンセルして、測定抵抗体102の正確な抵抗値Rtを求める。以下、その具体的な演算方法について例示する。
【0024】
なお、以下では、電源部112が第1の電圧を印加した場合の電流値をIa、電源部112が第2の電圧を印加した場合の電流値をIb、第1配線104の配線抵抗値をr1、第2配線106の配線抵抗値をr2、第3配線108の配線抵抗値をr3とする。
【0025】
まず、電流値Iaは下記式1で表される。また電流値Ibは下記式2で表される。
【数1】
【0026】
第1配線104、第2配線106、第3配線108は、それぞれの配線抵抗値r1、r2、r3が等しくなるように設定されるので、r1=r2=r3=rとすると、下記式3、式4、式5、式6が成り立つ。
【数2】
【0027】
ここで、式3から式5を引くと下記式7となる。また式4から式6を引くと下記式8となる。
【数3】
【0028】
配線抵抗値rを消去するために、式8を2倍して式7からこれを引くと下記式9となる。
【数4】
【0029】
電流値をIa、Ibを消去するために、式9に式1、2を代入すると下記式10となる。この式10を左辺が測定抵抗体102の抵抗値Rtとなるように変形すると、下記式11となる。
【数5】
【0030】
上述した式11に、取得した各電圧値Va0、Va1、Va2、Vb0、Vb1、Vb2及び基準抵抗体110の抵抗値Rrefを代入することで、電圧測定部132は、測定抵抗体102の抵抗値Rtを演算する。かかる構成により、配線抵抗だけでなく、配線に生じる熱起電力Vt1、Vt2、Vt3をもキャンセルして、測定抵抗体102の正確な抵抗値Rtを求めることができる。
【0031】
(比較例)
以下、第1実施形態にかかる温度測定回路100の理解を深めるために、配線に生じる熱起電力Vt1、Vt2、Vt3を考慮しない比較例について例示する。
図4は、比較例にかかる温度測定回路300の概略構成を示す回路図である。なお、第1実施形態にかかる温度測定回路100と実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0032】
図4に示すように、比較例にかかる温度測定回路300では、電源部312は1種類の電圧のみを印加するように構成される。すなわち、基準電圧VDD1を印加するように構成される。比較例にかかる温度測定回路300では、電圧測定部332が測定抵抗体102の抵抗値Rtを下記のように求める。
【0033】
電源部112が基準電圧VDD1を印加した場合の電流値をIとすると、かかる電流値Iは下記式12、式13、式14のように表される。
【数6】
【0034】
ここで式12の左辺に式13の右辺を代入し、配線抵抗値r1について解くと下記式15となる。また式12の左辺に式14の右辺を代入し、配線抵抗値r3について解くと下記式16となる。
【数7】
【0035】
3線式の温度測定回路300では、配線抵抗値r1と配線抵抗値r3は等しく設定されるので、式15の左辺に式16の右辺を代入し、測定抵抗体102の抵抗値Rtについて解くと下記式17となる。
【数8】
【0036】
上述した式17に基いて、比較例にかかる温度測定回路300では電圧測定部332が測定抵抗体102の抵抗値Rtを求める。しかしながら、かかる構成では、配線に生じる熱起電力Vt1、Vt2、Vt3を考慮しないため、正確な抵抗値Rtを求めることができないのは明白である。対して、第1実施形態にかかる温度測定回路100では、電圧測定部132が2種類の電圧を印加した場合における各電圧値を取得することで、式11に基き測定抵抗体102の抵抗値Rtを正確に求めることができる。したがって、正確な抵抗値Rtから正確な温度を求めることができる。
【0037】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態にかかる温度測定回路200の概略構成を示す回路図である。なお、第1実施形態にかかる温度測定回路100と実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0038】
図5に示すように、第2実施形態において電圧測定部232は、切替回路としてのマルチプレクサ234と、増幅器であるバッファ236と、ADコンバータ238と、演算部240とを含む。電圧測定部232は、基準抵抗体110の電源部112側、第1配線104、第2配線106に加えて、さらにグランド(第3配線108)の電圧を測定し、測定抵抗体102の抵抗値Rtを演算する。
【0039】
マルチプレクサ234は、基準抵抗体110の電源部112側、第1配線104、第2配線106、グランドのいずれかに接続を切り替える。バッファ236はマルチプレクサ234の出力を増幅する。ADコンバータ238はバッファ236の出力をAD変換する。
【0040】
ここでバッファ236やADコンバータ238は、周囲温度の影響で、オフセットとゲインが変動してしまう。一般に比較的ゲインが安定している範囲(レンジ)を用いるようにオペアンプを選定したり周辺の抵抗素子を調整したりするが、安定している範囲でもゲインは入力に対して直線的に変化してしまう(入力が大きくなるとゲインも大きくなる)。このゲインを下記の式18のように一次関数に近似して入力が0のところまで外挿することで、オフセット(オフセット電圧)を求めることができる。
【0041】
電圧測定部232では、演算部240が、バッファ236のゲインとオフセットをキャンセルして、測定抵抗体102の正確な抵抗値Rtを演算する。以下、その具体的な演算方法について例示する。なお以下では、バッファ236への入力電圧をVin、バッファ236からの出力電圧をVoutとする。
【0042】
また以下では、表2に示すように、アナログ電圧(Vin側、測定しない)にはVの記号を付し、デジタル値(Vout側、演算部240が取得する値)にはDの記号を付す。
【表2】
【0043】
バッファ236からの出力電圧は、バッファ236のゲインをα、オフセットをβとすると下記式18で表される。そして、この式18を変形すると下記式19となる。
【数9】
【0044】
式19に基き、下記式20〜25が導出される。
【数10】
【0045】
上記式11に、式20〜25の右辺を代入すると下記式26となる。
【数11】
【0046】
上述した式26に、取得した各デジタル値Da0、Da1、Da2、Da3、Db0、Db1、Db2、Db3及び基準抵抗体110の抵抗値Rrefを代入することで、演算部240は測定抵抗体102の抵抗値Rtを演算する。かかる構成により、バッファ236のゲインとオフセットをキャンセルして測定抵抗体102の正確な抵抗値Rtを求めることができる。
【0047】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。