特許第5880155号(P5880155)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5880155
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 3/12 20060101AFI20160223BHJP
   F16H 19/04 20060101ALI20160223BHJP
   F16H 55/28 20060101ALI20160223BHJP
【FI】
   B62D3/12 501Z
   F16H19/04 N
   F16H19/04 G
   F16H55/28
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-51890(P2012-51890)
(22)【出願日】2012年3月8日
(65)【公開番号】特開2013-184597(P2013-184597A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】隅原 秀年
【審査官】 永冨 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−139326(JP,A)
【文献】 特開昭55−051665(JP,A)
【文献】 実開昭57−116574(JP,U)
【文献】 実開平01−117977(JP,U)
【文献】 実開平03−025377(JP,U)
【文献】 特開昭58−221768(JP,A)
【文献】 特開2005−016646(JP,A)
【文献】 特開2004−291741(JP,A)
【文献】 特開昭57−147958(JP,A)
【文献】 特開昭58−180377(JP,A)
【文献】 特開2005−199776(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0204588(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0080861(US,A1)
【文献】 特開2003−040116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のピニオン歯を有するピニオンシャフトと、
前記複数のピニオン歯に噛み合う複数のラック歯が形成されるストローク領域を有し、前記ストローク領域が、前記ストローク領域における中央位置を含む中央領域、前記ストローク領域における端部位置を含む端部領域、および前記中央領域と前記端部領域との間の中間領域を含み、前記中間領域に含まれる前記ラック歯の圧力角が前記中央領域および前記端部領域に含まれる前記ラック歯の圧力角よりも小さいラックシャフトと、
前記ラックシャフトの移動をガイドするサポートヨークと、
前記サポートヨークを前記ラックシャフトに押し付ける方向である付勢方向に作用する力を前記サポートヨークに付与する付勢部材と、
前記サポートヨークおよび前記付勢部材に対して前記付勢方向とは反対方向である反付勢方向側に位置し、前記サポートヨークのうちの前記反付勢方向側の端部と隙間を介して対向する規制部材と
を有するステアリング装置。
【請求項2】
前記ステアリング装置は、前記ストローク領域に含まれる前記ラック歯の圧力角の変化に基づいてステアリングギアレシオが変化する
請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記端部領域に含まれる前記ラック歯の圧力角は、前記中央領域に含まれる前記ラック歯の圧力角よりも大きい
請求項1または2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記ピニオン歯は、前記ラックシャフトに対する前記ピニオンシャフトの回転角度が0°のときに前記中央領域に含まれる前記ラック歯と噛み合い、前記ラックシャフトに対する前記ピニオンシャフトの回転角度が80°以上かつ100°以下のときに前記中間領域に含まれる前記ラック歯に噛み合い、
前記中間領域は、前記ストローク領域に含まれる全部の前記ラック歯のうちの最小の圧力角を有するラック歯を含み、
前記中央領域および前記端部領域は、前記最小の圧力角を有するラック歯を含まない
請求項1〜3のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記端部領域に含まれる前記ラック歯は、30°よりも大きい圧力角を有する
請求項1〜4のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記ストローク領域に含まれる全部の前記ラック歯は、20°以上の圧力角を有する
請求項1〜5のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピニオンシャフト、ラックシャフト、およびサポートヨークを有するステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリング装置は、ピニオンシャフト、ラックシャフト、およびラックガイド機構を有する。ピニオンシャフトは、複数のピニオン歯を有する。ラックシャフトは、複数のラック歯を有する。なお、特許文献1は、ピニオンシャフトおよびラックシャフトを有するステアリング装置の一例を開示している。
【0003】
ラックガイド機構は、サポートヨーク、付勢部材、および規制部材を有する。サポートヨークは、ラックシャフトの移動をガイドする。付勢部材は、サポートヨークをラックシャフトに押し付ける方向である付勢方向に作用する力をサポートヨークに付与する。規制部材は、サポートヨークおよび付勢部材に対して付勢方向とは反対方向である反付勢方向側に位置し、サポートヨークのうちの反付勢方向側の端部と隙間を介して対向する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−199776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステアリング装置においては、一般に良好な操舵感を持つことが望まれる。操舵感は、ピニオンシャフトに対する回転抵抗の大きさの影響を受ける。ピニオンシャフトに対する回転抵抗の大きさは、ピニオン歯およびラック歯の噛み合いによりピニオンシャフトがラックシャフトから受ける反力の大きさに応じて変化する。
【0006】
この反力の大きさは、サポートヨークを介してラックシャフトに付与される付勢部材の力に応じて変化する。サポートヨークに付与される付勢部材の力の大きさは、サポートヨークの反付勢方向側の端部と規制部材との隙間の大きさに応じて変化する。このため、サポートヨークの反付勢方向側の端部と規制部材との隙間の大きさを管理することにより、ピニオンシャフトに対する回転抵抗の大きさおよび操舵感を調節することができる。
【0007】
一方、上記ステアリング装置においてピニオンシャフトが回転するとき、ラックシャフトは、ラック歯およびピニオン歯の噛み合いにより反付勢方向の力を受ける。このため、ラック歯がピニオン歯から離間する。ピニオン歯から離間したラック歯は、サポートヨークを介してラックシャフトに付与される付勢部材の力の作用により、再びピニオン歯に接触する。このため、ピニオン歯に対するラック歯の接触にともない歯打ち音が発生する。
【0008】
そこで、このような歯打ち音の発生を抑制するための対策をとることが好ましい。ただし、ステアリング装置に対しては上記のとおり良好な操舵感を持つことが望まれるため、上記対策をとる場合には、操舵感に対する影響についても考慮することが好ましい。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、歯打ち音の発生を抑制すること、および操舵感を向上することを両立することが可能なステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)第1の手段は、請求項1に記載の発明すなわち、複数のピニオン歯を有するピニオンシャフトと、前記複数のピニオン歯に噛み合う複数のラック歯が形成されるストローク領域を有し、前記ストローク領域が、前記ストローク領域における中央位置を含む中央領域、前記ストローク領域における端部位置を含む端部領域、および前記中央領域と前記端部領域との間の中間領域を含み、前記中間領域に含まれる前記ラック歯の圧力角が前記中央領域および前記端部領域に含まれる前記ラック歯の圧力角よりも小さいラックシャフトと、前記ラックシャフトの移動をガイドするサポートヨークと、前記サポートヨークを前記ラックシャフトに押し付ける方向である付勢方向に作用する力を前記サポートヨークに付与する付勢部材と、前記サポートヨークおよび前記付勢部材に対して前記付勢方向とは反対方向である反付勢方向側に位置し、前記サポートヨークのうちの前記反付勢方向側の端部と隙間を介して対向する規制部材とを有することを要旨とする。
【0011】
ラックシャフトに作用する付勢部材の力の大きさは、サポートヨークの反付勢方向側端部と規制部材との間の隙間の大きさに応じて変化する。この隙間の大きさは、規制部材に対するサポートヨークの位置に応じて変化する。規制部材に対するサポートヨークの位置は、ラックシャフトとピニオンシャフトとの相対的な位置に応じて変化する。この相対的な位置は、ラック歯およびピニオン歯の噛み合い深さに応じて変化する。ラック歯およびピニオン歯の噛み合い深さは、ラック歯の圧力角に応じて変化する。このため、ラック歯の圧力角を変化させることにより、サポートヨークの反付勢方向側端部と規制部材との間の隙間の大きさを変化させること、すなわちラックシャフトに作用する付勢部材の力の大きさを変化させることができる。上記ステアリング装置においては、以上の事項を踏まえて、中間領域に含まれるラック歯の圧力角を中央領域および端部領域に含まれるラック歯の圧力角よりも小さくしている。このため、中間領域に含まれるラック歯がピニオン歯に噛み合うとき、ラック歯およびピニオン歯の噛み合い深さが相対的に小さくなる。このため、サポートヨークの反付勢方向側端部と規制部材との間の隙間が小さくなることにより、ラックシャフトに作用する付勢部材の力が大きくなる。このため、ピニオンシャフトが回転するとき、ラック歯がピニオン歯から離間しにくくなり、その結果としてラック歯およびピニオン歯の歯打ち音が発生しにくくなる。また、中央領域および端部領域に含まれるラック歯がピニオン歯に噛み合うとき、ラック歯およびピニオン歯の噛み合い深さが相対的に大きくなる。このため、サポートヨークの反付勢方向側端部と規制部材との間の隙間が大きくなることにより、ラックシャフトに作用する付勢部材の力が小さくなる。このため、ピニオンシャフトに対する回転抵抗が小さくなり、その結果として操舵感が向上する。以上のとおり、本発明のステアリング装置は、歯打ち音の発生を抑制する効果および操舵感を向上する効果を奏する。すなわち、歯打ち音の発生を抑制すること、および操舵感を向上することを両立することが可能になる。
【0012】
(2)第2の手段は、請求項2に記載の発明すなわち、請求項1において、前記ステアリング装置は、前記ストローク領域に含まれる前記ラック歯の圧力角の変化に基づいてステアリングギアレシオが変化することを要旨とする。
【0013】
上記ステアリング装置は、歯打ち音の発生を抑制すること、および操舵感を向上することを両立するため、ストローク領域においてラック歯の圧力角が変化する構造を有する。また、この構造を利用してステアリングギアレシオを変化させている。このため、歯打ち音の発生を抑制すること、操舵感を向上すること、および車両の運転状況に応じて操舵性を変化させることが可能になる。
【0014】
(3)第3の手段は、請求項3に記載の発明すなわち、請求項1または2において、前記端部領域に含まれる前記ラック歯の圧力角は、前記中央領域に含まれる前記ラック歯の圧力角よりも大きいことを要旨とする。
【0015】
上記ステアリング装置においては、端部領域に含まれるラック歯がピニオン歯に噛み合うとき、中央領域に含まれるラック歯がピニオン歯に噛み合うときと比較して、ラック歯およびピニオン歯の噛み合い深さが大きくなる。このため、ラックシャフトに作用する付勢部材の力が小さくなる。このため、ピニオンシャフトの回転角度が大きい操舵状態において、操舵感が向上する効果がより高くなる。
【0016】
(4)第4の手段は、請求項4に記載の発明すなわち、請求項1〜3のいずれか一項において、前記ピニオン歯は、前記ラックシャフトに対する前記ピニオンシャフトの回転角度が0°のときに前記中央領域に含まれる前記ラック歯と噛み合い、前記ラックシャフトに対する前記ピニオンシャフトの回転角度が80°以上かつ100°以下のときに前記中間領域に含まれる前記ラック歯に噛み合い、前記中間領域は、前記ストローク領域に含まれる全部の前記ラック歯のうちの最小の圧力角を有するラック歯を含み、前記中央領域および前記端部領域は、前記最小の圧力角を有するラック歯を含まないことを要旨とする。
【0017】
上記ステアリング装置においては、中間領域に含まれる最小の圧力角を有するラック歯がピニオン歯に噛み合うとき、ラック歯およびピニオン歯の噛み合い深さが最も小さくなる。このため、ラック歯およびピニオン歯の噛み合い深さの影響により変化する範囲内において、ラックシャフトに作用する付勢部材の力が最も大きくなる。このため、ピニオンシャフトの回転角度が80°以上かつ100°以下の範囲内にあるとき、歯打ち音の発生を抑制する効果が最も高くなる。
【0018】
(5)第5の手段は、請求項5に記載の発明すなわち、前記端部領域に含まれる前記ラック歯は、30°よりも大きい圧力角を有することを要旨とする。
上記ステアリング装置においては、端部領域に含まれるラック歯がピニオン歯に噛み合うとき、30°以下の圧力角を有するラック歯がピニオン歯に噛み合うときと比較して、ラック歯およびピニオン歯の噛み合い深さが大きくなる。このため、ラックシャフトに作用する付勢部材の力が小さくなる。このため、ピニオンシャフトに対する回転抵抗が小さくなり、その結果として操舵感が向上する。
【0019】
(6)第6の手段は、請求項6に記載の発明すなわち、請求項1〜5のいずれか一項において、前記ストローク領域に含まれる全部の前記ラック歯は、20°以上の圧力角を有することを要旨とする。
【0020】
上記ステアリング装置においては、ストローク領域に含まれる全部のラック歯が20°以上の圧力角を有する、すなわち最小の圧力角を有するラック歯が20°以上の圧力角を有する。このため、ストローク領域の全体において、一般的なラック歯と同等の機械的強度を確保することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、歯打ち音の発生を抑制すること、および操舵感を向上することを両立することが可能なステアリング装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態におけるステアリング装置の全体構成を示す構成図。
図2】実施形態のステアリング装置に関する断面図であり、図1のラックシャフトの軸方向に垂直な断面構造を示す断面図。
図3】実施形態のステアリング装置におけるラック歯の断面構造を示す断面図。
図4】実施形態のステアリング装置におけるピニオンシャフトの回転角度とラック歯の圧力角との関係を示すグラフ。
図5】実施形態のステアリング装置におけるピニオン歯と中央領域のラック歯との噛み合いを示す模式図。
図6】実施形態のステアリング装置におけるピニオン歯と中間領域のラック歯との噛み合いを示す模式図。
図7】実施形態のステアリング装置におけるピニオン歯と端部領域のラック歯との噛み合いを示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1を参照して、ステアリング装置1の構成について説明する。
ステアリング装置1は、ステアリングシャフト10、ラックシャフト20、アシスト装置30、ハウジング40、およびラックガイド機構50を有する。
【0024】
ステアリングシャフト10は、コラムシャフト11、インターミディエイトシャフト12、およびピニオンシャフト13を有する。
コラムシャフト11には、ステアリングホイール2が固定される。コラムシャフト11は、ステアリングホイール2の回転を、インターミディエイトシャフト12を介してピニオンシャフト13に伝達する。インターミディエイトシャフト12は、コラムシャフト11とピニオンシャフト13とを互いに接続する。ピニオンシャフト13は、複数のピニオン歯14を有する。ピニオン歯14は、ラックアンドピニオン機構1Aを構成する。
【0025】
ラックシャフト20は、複数のラック歯21を有する。ラック歯21は、ラックアンドピニオン機構1Aを構成する。ラックシャフト20は、ラック歯21がピニオン歯14と噛み合うことにより、ピニオンシャフト13の回転に応じて移動する。ラックシャフト20には、転舵輪3が接続される。
【0026】
アシスト装置30は、電動モーター31、ウォームシャフト32、およびウォームホイール33を有する。
ウォームシャフト32は、電動モーター31の出力により回転する。ウォームホイール33は、コラムシャフト11と一体的に回転する。ウォームホイール33は、ウォームシャフト32と噛み合うこと。ウォームシャフト32およびウォームホイール33は、減速機構1Bを構成する。
【0027】
ステアリング装置1の動作について説明する。
ステアリングシャフト10は、ステアリングホイール2の回転にともない回転する。ラックアンドピニオン機構1Aは、ピニオンシャフト13の回転運動をラックシャフト20の直線運動に変換する。ラックシャフト20は、図中の矢印Xで示す軸方向に移動する。ラックシャフト20が軸方向Xに移動することにより、転舵輪3の向きが変化する。アシスト装置30は、ステアリングシャフト10が回転しているとき、ステアリングシャフト10に付与されたトルクを検出するトルクセンサ(図示略)の出力に基づいて電動モーター31を駆動させ、ラックシャフト20の移動を補助するアシストトルクをステアリングシャフト10に付与する。
【0028】
図2を参照して、ハウジング40およびラックガイド機構50について説明する。図2は、ラックシャフト20の軸方向X(図1)に垂直であって、かつ、ピニオンシャフト13の軸方向Yに沿った、ハウジング40等の断面を示す。
【0029】
ハウジング40は、第1収容部分41、第2収容部分42、シール部材43、玉軸受44、および針軸受45を有する。
第1収容部分41は、ラックシャフト20のラック歯21を含む部分と、ピニオンシャフト13のピニオン歯14を含む部分と、シール部材43と、玉軸受44と、針軸受45とを収容する。第1収容部分41は、ピニオンシャフト13の挿入口となる開口部41Aを有する。
【0030】
第2収容部分42は、サポートヨーク51と、弾性部材53,54と、付勢部材55と、規制部材56の一部分とを収容する。第2収容部分42は、サポートヨーク51の挿入口となる開口部42Aを有する。
【0031】
シール部材43は、第1収容部分41の開口部41Aにおいて、ピニオンシャフト13とハウジング40との間に位置する。シール部材43は、開口部41Aからハウジング40内への異物の侵入を抑制する。
【0032】
玉軸受44は、ピニオンシャフト13におけるピニオン歯14よりも上方の部分を支持する。針軸受45は、ピニオンシャフト13におけるピニオン歯14よりも下方の部分を支持する。玉軸受44および針軸受45は、ピニオンシャフト13の軸方向Yにおいて、互いに間隔を空けた箇所に位置する。
【0033】
ラックガイド機構50は、サポートヨーク51と、シート部材52と、弾性部材53としてのOリングと、弾性部材54としてのOリングと、付勢部材55としてのコイルばねと、規制部材56としてのプラグとを有する。
【0034】
サポートヨーク51は、ラックシャフト20と付勢部材55との間に位置する。サポートヨーク51は、ハウジング40内において移動方向Zにおいて移動可能に構成されている。サポートヨーク51は、軸方向X(図1)のラックシャフト20の移動を案内するとともに、シート部材52を介してラックシャフト20をピニオンシャフト13に押さえ付ける。すなわち、サポートヨーク51は、ラックシャフト20を支持し、かつ、ラックシャフト20の移動を案内する。
【0035】
シート部材52は、耐摩耗性に優れ、かつ、ラックシャフト20に対して摩擦係数の低い樹脂により形成される。シート部材52は、ラックシャフト20の軸方向X(図1)の移動により摩耗する。
【0036】
弾性部材53,54は、移動方向Zに垂直な方向において、サポートヨーク51とハウジング40との間に位置する。弾性部材53,54は、移動方向Zにおいて互いに間隔を空けた箇所に位置する。弾性部材53,54は、弾性を有する樹脂により形成されたOリングである。
【0037】
付勢部材55は、移動方向Zにおいてサポートヨーク51と規制部材56との間に位置する。付勢部材55は、コイルばねである。付勢部材55は、ラックシャフト20をピニオンシャフト13に押し付ける付勢方向に、サポートヨーク51を付勢する。すなわち、付勢部材55は、移動方向Zにおける付勢方向に作用する力をサポートヨーク51に付与する。
【0038】
規制部材56は、第2収容部分42の開口部42Aに位置する。規制部材56は、おねじ56Aを有する。おねじ56Aは、第2収容部分42に形成されているめねじ42Bにねじ込まれている。すなわち、規制部材56は、ねじ込み式のものであって、ハウジング40の第2収容部分42に固定されている。規制部材56は、第2収容部分42の開口部42Aを閉鎖し、付勢方向の反対方向である反付勢方向へのサポートヨーク51の移動を規制する。付勢部材55がサポートヨーク51に付与する力は、サポートヨーク51と規制部材56との隙間D1に応じて変化する。
【0039】
図3(a)〜(d)を参照して、ラックシャフト20の構成を詳しく説明する。図3(a)は、ピニオンシャフト13の軸方向Y(図2)に垂直なラックシャフト20の断面を示している。
【0040】
図3(a)に示されるように、ラックシャフト20は、ラック歯21を所定のストローク領域22に有している。ストローク領域22は、ストローク領域22の中央位置を含む中央領域22Aと、ストローク領域22の端部位置を含む端部領域22Cと、中央領域22Aと端部領域22Cとの間に位置する中間領域22Bとを有する。中央領域22Aは、ラックシャフト20の軸方向Xに垂直な対称線Mを含む。ストローク領域22におけるラック歯21は、対称線Mを軸として線対称に形成されている。ピニオン歯14(図2)がストローク領域22の中央領域22Aにおけるラック歯21と噛み合うときのピニオンシャフト13の回転角度を0°とする。
【0041】
ラック歯21は、ピニオンシャフト13の回転角度の所定の変化量に対するラックシャフト20の移動量の比が変化するバリアブルギアである。すなわち、2つの隣り合うラック歯21の間隔D2は、ラック歯21の位置に応じて変化する。
【0042】
図3(b)に示されるように、中央領域22Aにおけるラック歯21は、例えば29°の圧力角を有する。なお、図3(b)は、図3(a)の中央部分S1を拡大した図である。図中の角αは、圧力角を示している。すなわち圧力角は、ラックシャフト20の軸方向Xに垂直な方向と、ラック歯21が有する傾斜面21Aとのなす鋭角に等しい。傾斜面21Aは、ラックシャフト20の軸方向Xに垂直な方向に対して傾斜している。
【0043】
図3(c)に示されるように、中間領域22Bにおけるラック歯21は、中央領域22Aにおけるラック歯21に比べて、小さい圧力角、例えば20°の圧力角を有する。なお、図3(c)は、図3(a)の中間部分S2を拡大した図である。
【0044】
図3(d)に示されるように、端部領域22Cにおけるラック歯21は、中間領域22Bにおけるラック歯21に比べて、大きい圧力角を有し、かつ、中央領域22Aにおけるラック歯21に比べて、大きい圧力角を有する。例えば、端部領域22Cにおけるラック歯21は、35°の圧力角を有する。なお、図3(d)は、図3(a)の両端部分S3を拡大した図である。
【0045】
図4を参照して、ラック歯21の圧力角の変化の一例を説明する。
ピニオンシャフト13の回転角度が0°であるとき、ピニオン歯14と噛み合うラック歯21の圧力角は29°である。ピニオンシャフト13の回転角度が0°から90°に近づくにつれて、ピニオン歯14と噛み合うラック歯21の圧力角は小さくなる。ピニオンシャフト13の回転角度が90°であるとき、ピニオン歯14と噛み合うラック歯21の圧力角は20°である。ピニオンシャフト13の回転角度が90°から300°に近づくにつれて、ピニオン歯14と噛み合うラック歯21の圧力角は大きくなる。ピニオンシャフト13の回転角度が300°であるとき、ピニオン歯14と噛み合うラック歯21の圧力角は約33°である。また、ピニオンシャフト13の回転角度が300°から450°に近づくにつれて、ピニオン歯14と噛み合うラック歯21の圧力角は大きくなる。ピニオンシャフト13の回転角度が300°から450°までの圧力角の変化量は、ピニオンシャフト13の回転角度が90°から300°までの圧力角の変化量に比べて、小さい。ピニオンシャフト13の回転角度が450°であるとき、ピニオン歯14と噛み合うラック歯21の圧力角は約36°である。
【0046】
ピニオンシャフト13の回転角度が80°以上100°以下であるとき、ストローク領域22の中間領域22Bにおけるラック歯21が、ピニオン歯14と噛み合う。また、ピニオンシャフト13の回転角度が300°以上であるとき、ストローク領域22の端部領域22Cにおけるラック歯21が、ピニオン歯14と噛み合う。したがって、ピニオンシャフト13の回転角度が80°以上100°以下においてピニオン歯14に噛み合うラック歯21の圧力角が、ストローク領域22の全域におけるラック歯21の圧力角のうち最小の圧力角である。また、ストローク領域22の端部領域22Cにおけるラック歯21は、30°よりも大きい圧力角を有する。また、ストローク領域22の全域において、ラック歯21の圧力角が20°以上である。
【0047】
ラック歯21の作用を説明する。
図5に示されるように、図2のピニオンシャフト13の回転角度が0°であるとき、ピニオン歯14は中央領域22Aのラック歯21と噛み合う。このとき、サポートヨーク51と規制部材56との隙間D1(図2)は、所定の大きさの間隔、例えば60μmになる。図中の矢印Eは、ピニオン歯14がラック歯21と噛み合う深さを示している。
【0048】
図6に示されるように、図2のピニオンシャフト13の回転角度が90°であるとき、ピニオン歯14は中間領域22Bのラック歯21と噛み合う。このとき、ピニオン歯14が中間領域22Bのラック歯21と噛み合う深さは、ピニオン歯14が中央領域22Aのラック歯21と噛み合うときに比べて小さくなる。このため、ピニオンシャフト13の回転角度が0°であるときに比べて、図2のサポートヨーク51が反付勢方向側に位置し、サポートヨーク51と規制部材56との隙間D1は、例えば50μmになる。
【0049】
図7に示されるように、ピニオンシャフト13の回転角度が450°であるとき、ピニオン歯14は端部領域22Cのラック歯21と噛み合う。このとき、ピニオン歯14が端部領域22Cのラック歯21と噛み合う深さは、ピニオン歯14が中間領域22Bおよび中央領域22Aのラック歯21と噛み合うときに比べて大きくなる。このため、ピニオンシャフト13の回転角度が90°および0°であるときに比べて、図2のサポートヨーク51が付勢方向側に位置し、サポートヨーク51と規制部材56との隙間D1は、例えば100μmになる。
【0050】
本実施形態のステアリング装置1は以下の効果を奏する。
(1)ラックシャフト20に作用する付勢部材55の力の大きさは、サポートヨーク51の反付勢方向側端部と規制部材56との間の隙間D1の大きさに応じて変化する。隙間D1の大きさは、規制部材56に対するサポートヨーク51の位置に応じて変化する。規制部材56に対するサポートヨーク51の位置は、ラックシャフト20とピニオンシャフト13との相対的な位置に応じて変化する。この相対的な位置は、ラック歯21およびピニオン歯14の噛み合い深さに応じて変化する。ラック歯21およびピニオン歯14の噛み合い深さは、ラック歯21の圧力角に応じて変化する。このため、ラック歯21の圧力角を変化させることにより、隙間D1の大きさを変化させること、すなわちラックシャフト20に作用する付勢部材55の力の大きさを変化させることができる。ステアリング装置1においては、以上の事項を踏まえて、中間領域22Bに含まれるラック歯21の圧力角を中央領域22Aおよび端部領域22Cに含まれるラック歯21の圧力角よりも小さくしている。このため、中間領域22Bに含まれるラック歯21がピニオン歯14に噛み合うとき、ラック歯21およびピニオン歯14の噛み合い深さが相対的に小さくなる。このため、隙間D1が小さくなることにより、ラックシャフト20に作用する付勢部材55の力が大きくなる。このため、ピニオンシャフト13が回転するとき、ラック歯21がピニオン歯14から離間しにくくなり、その結果としてラック歯21およびピニオン歯14の歯打ち音が発生しにくくなる。また、中央領域22Aおよび端部領域22Cに含まれるラック歯21がピニオン歯14に噛み合うとき、ラック歯21およびピニオン歯14の噛み合い深さが相対的に大きくなる。このため、隙間D1が大きくなることにより、ラックシャフト20に作用する付勢部材55の力が小さくなる。このため、ピニオンシャフト13に対する回転抵抗が小さくなり、その結果として操舵感が向上する。以上のとおり、ステアリング装置1は、歯打ち音の発生を抑制する効果および操舵感を向上する効果を奏する。すなわち、歯打ち音の発生を抑制すること、および操舵感を向上することを両立することが可能になる。
【0051】
(2)ステアリング装置1は、歯打ち音の発生を抑制すること、および操舵感を向上することを両立するため、ストローク領域22においてラック歯21の圧力角が変化する構造を有する。また、この構造を利用してステアリングギアレシオを変化させている。このため、歯打ち音の発生を抑制すること、操舵感を向上すること、および車両の運転状況に応じて操舵性を変化させることが可能になる。
【0052】
(3)端部領域22Cに含まれるラック歯21の圧力角は、中央領域22Aに含まれるラック歯21の圧力角よりも大きい。したがって、ステアリング装置1においては、端部領域22Cに含まれるラック歯21がピニオン歯14に噛み合うとき、中央領域22Aに含まれるラック歯21がピニオン歯14に噛み合うときと比較して、ラック歯21およびピニオン歯14の噛み合い深さが大きくなる。このため、ラックシャフト20に作用する付勢部材55の力が小さくなる。このため、ピニオンシャフト13の回転角度が大きい操舵状態において、操舵感が向上する効果がより高くなる。
【0053】
(4)中間領域22Bは、ストローク領域22に含まれる全部のラック歯21のうちの最小の圧力角を有するラック歯21を含み、中央領域22Aおよび端部領域22Cは、最小の圧力角を有するラック歯21を含まない。したがって、ステアリング装置1においては、中間領域22Bに含まれる最小の圧力角を有するラック歯21がピニオン歯14に噛み合うとき、ラック歯21およびピニオン歯14の噛み合い深さが最も小さくなる。このため、ラック歯21およびピニオン歯14の噛み合い深さの影響により変化する範囲内において、ラックシャフト20に作用する付勢部材55の力が最も大きくなる。このため、ピニオンシャフト13の回転角度が80°以上かつ100°以下の範囲内にあるとき、歯打ち音の発生を抑制する効果が最も高くなる。
【0054】
(5)一般的なラック歯の形成方法であるブローチ加工では30°よりも大きい圧力角を形成することが困難であるため、一般的なラック歯は30°以下の圧力角を有する。端部領域22Cに含まれるラック歯21は、30°よりも大きい圧力角を有する。したがって、ステアリング装置1においては、端部領域22Cに含まれるラック歯21がピニオン歯14に噛み合うとき、30°以下の圧力角を有するラック歯21がピニオン歯14に噛み合うときと比較して、ラック歯21およびピニオン歯14の噛み合い深さが大きくなる。このため、ラックシャフト20に作用する付勢部材55の力が小さくなる。このため、ピニオンシャフト13に対する回転抵抗が小さくなり、その結果として操舵感が向上する。
【0055】
(6)ステアリング装置1においては、ストローク領域22に含まれる全部のラック歯21が20°以上の圧力角を有する、すなわち最小の圧力角を有するラック歯21が20°以上の圧力角を有する。このため、ストローク領域22の全体において、一般的なラック歯21と同等の機械的強度を確保することができる。
【0056】
本発明は、上記実施形態以外の実施形態を含む。以下、本発明のその他の実施形態としての上記実施形態の変形例を示す。なお、以下の各変形例は、互いに組み合わせることもできる。
【0057】
・実施形態のステアリング装置1において、ストローク領域22の全域において、ラック歯21の圧力角が20°以上である。一方、変形例のステアリング装置1において、中間領域22Bにおけるラック歯21は、20°未満の圧力角を有する。すなわち、ストローク領域22の全域において、ラック歯21の圧力角が20°以上でないように構成することもできる。
【0058】
・実施形態のステアリング装置1において、ストローク領域22の端部領域22Cにおけるラック歯21は、30°よりも大きい圧力角を有する。一方、変形例のステアリング装置1において、端部領域22Cにおけるラック歯21は、30°以下の圧力角を有する。すなわち、端部領域22Cにおけるラック歯21の圧力角を適宜変更することもできる。
【0059】
・実施形態のステアリング装置1において、ストローク領域22の中央領域22Aにおけるラック歯21の圧力角は、ストローク領域22の端部領域22Cにおけるラック歯21の圧力角に比べて小さい。一方、変形例のステアリング装置1において、ストローク領域22の中央領域22Aにおけるラック歯21の圧力角は、ストローク領域22の端部領域22Cにおけるラック歯21の圧力角と同じ、またはストローク領域22の端部領域22Cにおけるラック歯21の圧力角に比べて大きい。すなわち、中央領域22Aにおけるラック歯21の圧力角が、中間領域22Bにおけるラック歯21の圧力角よりも大きく、かつ、端部領域22Cにおけるラック歯21の圧力角が、中間領域22Bにおけるラック歯21の圧力角よりも大きければよい。
【0060】
・中央領域22Aにおけるラック歯21の圧力角の大きさ、中間領域22Bにおけるラック歯21の圧力角の大きさ、および端部領域22Cにおけるラック歯21の圧力角の大きさは、実施形態で例示した数値に限定されない。
【0061】
・実施形態のステアリング装置1において、ピニオンシャフト13の回転角度が80°以上100°以下の範囲内の所定の一角度において、ピニオン歯14に噛み合うラック歯21の圧力角が最小の圧力角となっている。一方、変形例のステアリング装置1において、ピニオンシャフト13の回転角度が80°以上100°以下の範囲の全角度において、ピニオン歯14に噛み合うラック歯21の圧力角が最小の圧力角となっている。すなわち、複数のラック歯21が最小の圧力角を有することもできる。
【0062】
・実施形態のステアリング装置1において、付勢部材55はコイルばねである。一方、変形例のステアリング装置1において、付勢部材55は皿ばねである。すなわち、サポートヨーク51に力を付与することができるのであれば、付勢部材55の形状や形成材料を変更することもできる。
【0063】
・実施形態のステアリング装置1は、電動モーター31の出力をコラムシャフト11に付与するコラムアシスト型のパワーステアリング装置である。一方、変形例のステアリング装置は、電動モーターの出力を、ラックシャフトを並進させる力としてラックシャフトに付与するラックアシスト型のパワーステアリング装置、または、ピニオンシャフトに付与するピニオンアシスト型のパワーステアリング装置である。
【符号の説明】
【0064】
1…ステアリング装置、1A…ラックアンドピニオン機構、1B…減速機構、2…ステアリングホイール、3…転舵輪、10…ステアリングシャフト、11…コラムシャフト、12…インターミディエイトシャフト、13…ピニオンシャフト、14…ピニオン歯、20…ラックシャフト、21…ラック歯、21A…傾斜面、22…ストローク領域、22A…中央領域、22B…中間領域、22C…端部領域、30…アシスト装置、31…電動モーター、32…ウォームシャフト、33…ウォームホイール、40…ハウジング、41…第1収容部分、41A…開口部、42…第2収容部分、42A…開口部、42B…めねじ、43…シール部材、44…玉軸受、45…針軸受、50…ラックガイド機構、51…サポートヨーク、52…シート部材、53,54…弾性部材、55…付勢部材、56…規制部材、56A…おねじ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7