特許第5880161号(P5880161)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フジテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5880161-放送システムを具えるエレベータ 図000002
  • 特許5880161-放送システムを具えるエレベータ 図000003
  • 特許5880161-放送システムを具えるエレベータ 図000004
  • 特許5880161-放送システムを具えるエレベータ 図000005
  • 特許5880161-放送システムを具えるエレベータ 図000006
  • 特許5880161-放送システムを具えるエレベータ 図000007
  • 特許5880161-放送システムを具えるエレベータ 図000008
  • 特許5880161-放送システムを具えるエレベータ 図000009
  • 特許5880161-放送システムを具えるエレベータ 図000010
  • 特許5880161-放送システムを具えるエレベータ 図000011
  • 特許5880161-放送システムを具えるエレベータ 図000012
  • 特許5880161-放送システムを具えるエレベータ 図000013
  • 特許5880161-放送システムを具えるエレベータ 図000014
  • 特許5880161-放送システムを具えるエレベータ 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5880161
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】放送システムを具えるエレベータ
(51)【国際特許分類】
   B66B 3/00 20060101AFI20160223BHJP
【FI】
   B66B3/00 E
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-53060(P2012-53060)
(22)【出願日】2012年3月9日
(65)【公開番号】特開2013-184810(P2013-184810A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年7月22日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 掲載日:平成24年1月16日 掲載アドレス: http://www.fujitec.co.jp/news/2012/0116140040.html [刊行物等] 掲載日:平成24年1月19日 掲載アドレス: http://www.fujitec.co.jp/products/elevator/xior/comfort_design.html [刊行物等] 発行日:平成24年1月16日 フジテック株式会社発行のカタログ「マシンルームレス・エレベータ XIOR」 [刊行物等] 掲載日:平成24年1月16日 掲載アドレス: http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20120116/203617/ [刊行物等] 掲載日:平成24年1月16日 掲載アドレス: http://techon.nikkeibp.co.jp/article/INTERVIEW/20120116/203618/
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066728
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100141841
【弁理士】
【氏名又は名称】久徳 高寛
(74)【代理人】
【識別番号】100119596
【弁理士】
【氏名又は名称】長塚 俊也
(74)【代理人】
【識別番号】100100099
【弁理士】
【氏名又は名称】宮野 孝雄
(74)【代理人】
【識別番号】100100114
【弁理士】
【氏名又は名称】西岡 伸泰
(72)【発明者】
【氏名】藤井 琢也
(72)【発明者】
【氏名】廣畑 圭司朗
(72)【発明者】
【氏名】本田 美和子
(72)【発明者】
【氏名】若林 佳枝
【審査官】 大塚 多佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−101977(JP,A)
【文献】 特開平09−040311(JP,A)
【文献】 特開平10−087198(JP,A)
【文献】 特開昭60−178172(JP,A)
【文献】 特開2001−354367(JP,A)
【文献】 特開2001−139240(JP,A)
【文献】 特許第4633351(JP,B2)
【文献】 実開昭53−104573(JP,U)
【文献】 特開平07−069549(JP,A)
【文献】 特開平03−166182(JP,A)
【文献】 実開昭62−053289(JP,U)
【文献】 特開2010−126348(JP,A)
【文献】 特開平04−075992(JP,A)
【文献】 特開2008−230810(JP,A)
【文献】 実開昭56−080361(JP,U)
【文献】 特開平07−196266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト内に昇降可能に配備されたかごと、
該かごをシャフト内で昇降させる昇降機構と、
該昇降機構によるかごの昇降を制御する昇降制御手段と、
該昇降制御手段に電気的に接続され、前記かご内に音響出力を行なう放送システムと、
を具えたエレベータにおいて、
シャフト内のかごの現在いる階床を検知するかご位置検知手段を具え、
前記放送システムは、前記昇降制御手段の制御によってかごが走行中であることを示す音響である階床移行音を、前記かご位置検知手段がかごの階床移行を検知する毎に、該走行中の方向に応じて異なる音色で出力することを特徴とするエレベータ。
【請求項2】
上昇を示す階床移行音は、上がり調子の音色、下降を示す階床移行音は下がり調子の音色である、請求項1に記載のエレベータ。
【請求項3】
前記放送システムは、停止していた階床から上下方向の何れかの最初の階床へかごが移行したことを前記かご位置検知手段が検知したときに出力する前記階床移行音の音量を、それ以降に出力する階床移行音よりも大とする、請求項1又は請求項2に記載のエレベータ。
【請求項4】
前記放送システムは、かごの乗車率に応じて、前記階床移行音の音量を変化させる、請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載のエレベータ。
【請求項5】
前記放送システムは、前記かご位置検知手段が、かごを停止させるべき階床の手前の階床から、停止させるべき階床へ移行したことを検知したときには、前記階床移行音を出力しない、請求項乃至請求項4の何れか一項に記載のエレベータ。
【請求項6】
前記放送システムは、かごを停止させるべき階床にかごが到着すると、該階床に関する音響出力を行なう、請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載のエレベータ。
【請求項7】
かご内に配置され、前記かご位置検知手段により検知されたかごの現在いる階床を表示するかごインジケータ手段を具え、
前記放送システムは、前記かご位置検知手段によるかごの階床移行の検知に基づいて階床移行音を出力するか、あるいは前記かご位置検知手段によるかごインジケータ手段の階床表示の切替えに同期して前記階床移行音の出力を行なうかの、何れかを選択して出力する、請求項乃至請求項6の何れか一項に記載のエレベータ。
【請求項8】
前記シャフトには、乗場のない乗場なしゾーンを有し、
前記放送システムは、かご位置検知手段により、かごが前記乗場なしゾーンを通過していることを検知している間も、前記かご位置検知手段によるかごインジケータ手段の階床表示の切替えに同期して前記階床移行音の出力を行なうと共に、該切替え時以外で前記階床移行を検知した際も前記階床移行音の出力を行なう、請求項乃至請求項7の何れか一項に記載のエレベータ。
【請求項9】
かご内の乗客の有無を判定する乗客判定手段を具え、
該乗客判定手段がかご内に乗客無と判定すると、放送システムは、前記階床移行音を出力しない、請求項1乃至請求項8の何れか一項に記載のエレベータ。
【請求項10】
前記放送システムは、かごの昇降スピードに基づいて、前記かご位置検知手段によるかごの階床移行の検知に基づいた前記階床移行音の出力タイミングを違える、請求項乃至請求項9の何れか一項に記載のエレベータ。
【請求項11】
前記放送システムは、前記階床移行音を一時的に出力停止とすることが可能である、請求項1乃至請求項10の何れか一項に記載のエレベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放送システムを具えるエレベータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、かごの走行状態、かごの現在いる位置や停止した階床など(以下、適宜「かごの状態」と称する)の確認は、かご内に設置されたかごインジケータの表示に頼っている。
【0003】
しかしながら、かごが混雑している場合や、視覚障がい者にとって、かごの状態を視覚のみで把握することは容易ではない。
【0004】
そこで、各階床をかごが通過する毎に、乗場に設置された発音器により、乗場にブザー音などの一種類の音を発するようにしたエレベータも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−1178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ブザー音では、乗場にいる人にはかごが走行していることは判別できるが、かご内の乗客には、かごが上昇しているのか下降しているのかなどの走行状態は判断できず、さらには、かごが停止した階床が何階であるのかを判別することはできない。このため、従来の放送システムを補完した放送システムを具えるエレベータの提供が求められている。
【0007】
本発明の目的は、かごの状態をより判り易く乗客に知らせることのできる放送システムを具えるエレベータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る放送システムを具えたエレベータは、
シャフト内に昇降可能に配備されたかごと、
該かごをシャフト内で昇降させる昇降機構と、
該昇降機構によるかごの昇降を制御する昇降制御手段と、
該昇降制御手段に電気的に接続され、前記かご内に音響出力を行なう放送システムと、
を具えたエレベータにおいて、
シャフト内のかごの現在いる階床を検知するかご位置検知手段を具え、
前記放送システムは、前記昇降制御手段の制御によってかごが走行中であることを示す音響である階床移行音を、前記かご位置検知手段がかごの階床移行を検知する毎に、該走行中の方向に応じて異なる音色で出力するようにしたものである。
【0009】
シャフト内のかごの現在いる階床を検知するかご位置検知手段を具え、
前記放送システムは、前記かご位置検知手段によるかごの階床移行の検知に基づいて、前記走行方向に応じた階床移行音を出力することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の放送システムを具えたエレベータによれば、かごの走行方向に応じて異なる階床移行音を出力することができるので、かご内が混雑している場合や視覚障がい者にとって、視覚に頼ることなく聴覚によりかごの走行又は停止、及び、かごの走行方向を判別することができる。
【0011】
また、かごが階床を移行する毎に階床移行音を出力することで、乗客はかごの現在のおおよその走行位置や、あとどのくらいで行先として所望する階床に到着するのかを判断又は大まかに判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施例であるエレベータの全体構成の概略図である。
図2図2は、本発明の一実施例であるエレベータの制御ブロック図である。
図3図3は、階床移行音出力のタイミングを示すエレベータの模式図である。
図4図4は、図3の階床移行音出力の基本となるタイミングフローチャート図である。
図5図5は、階床移行音出力とかごインジケータ表示の切替えを同期させたタイミングフローチャート図である。
図6図6は、目的階で到着の音響出力を行なうようにした階床移行音出力のタイミングを示すエレベータの模式図である。
図7図7は、図6の階床移行音出力のタイミングフローチャート図である。
図8図8は、乗場なしゾーンを通過中は、階床移行音出力とかごインジケータ表示の切替えを同期させたタイミングを示すエレベータの模式図である。
図9図9は、乗場なしゾーンを通過中は、階床移行音出力とかごの階床移行の検知を同期させたタイミングを示すエレベータの模式図である。
図10図10は、乗場なしゾーンを通過中は、かごインジケータに乗場なしゾーン通過中の表示を行ない、階床移行音出力とかごインジケータ表示切替えを同期させたタイミングを示すエレベータの模式図である。
図11図11は、乗場なしゾーンを通過中は、かごインジケータに乗場なしゾーン通過中の表示を行ない、階床移行音出力とかごの階床移行の検知を同期させたエレベータの模式図である。
図12図12は、図8乃至図11の階床移行音出力のタイミングフローチャート図である。
図13図13は、最初の階床移行音の出力を大きくしたエレベータの模式図である。
図14図14は、乗車率に応じて階床移行音の出力を調整したエレベータの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施例であるエレベータ(10)の全体構成の概略図、図2は、制御ブロック図である。
図1に示すように、エレベータ(10)は、建物に設置されたシャフト内に、乗客の搭乗するかご(20)を昇降可能に配置して構成される。
エレベータ(10)のすべての制御は、シャフトの最上階に設けられた機械室などに配備される制御盤(40)と、かご(20)の上部などに配備されるかご側制御盤(50)により行なわれる。制御盤(40)及びかご側制御盤(50)は夫々マイコン、メモリ、チップ、スイッチなどを基板に実装して構成され、制御盤(40)とかご側制御盤(50)は有線接続されて、エレベータ(10)の運行に必要な各種プログラムを実行する。
【0014】
かご(20)の操作は、かご(20)内及び各階床の乗場に設けられた登録手段により行なわれる。
かご(20)側の登録手段は、乗客が行先として所望する階床(以下「行先階」と称する)の登録や戸の開閉を行なう操作パネル(22)であり、かご側制御盤(50)に電気的に接続されている。
また、乗場の登録手段は、乗場に設けられた乗場装置(48)であり、行先階の方向に応じた乗場呼びを登録し、制御盤(40)に送信する。乗場装置(48)は、一般的には上方階行きを指定する操作ボタンと下方階行きを指定する操作ボタンから構成される。
【0015】
なお、乗場にて乗客が予め行先階を登録するエレベータにおいては、乗場装置に行先階を選択する複数の操作ボタンが配置される。本発明はこのようなエレベータにも適用できる。
【0016】
かご(20)内には、上記した操作パネル(22)の他に、かご(20)の現在の階床や走行方向を示すかごインジケータ(24)、後述する放送システム(30)からの階床移行音等の音響出力を行なうスピーカ(32)が配備されている。これらは何れもかご側制御盤(50)に電気的に接続される。
【0017】
放送システム(30)は、上記したスピーカ(32)からかご(20)内に種々の音響出力を行なう装置であり、かご側制御盤(50)に音響再生部(34)を具え、音響再生部(34)から送信される各種の階床移行音、音声、報知信号などの音響をスピーカ(32)から出力可能となっている。音響再生部(34)には、階床移行音、音声、報知信号などの音響データが格納され、必要に応じてこれら音響データが呼び出されて、スピーカ(32)から音響出力される。
【0018】
音声として、後述する図13に吹き出し表示するように、走行方向と戸の閉じを案内する「上へまいります。ドアが閉まります。」、到着階と戸の開きを案内する「5階です。ドアが開きます。」などの音声言語を例示することができる。
【0019】
また、かご(20)の走行中に、かご(20)の走行方向を案内する階床移行音として、上昇時に上がり調子の3音以上の構成、下降時に下がり調子の3音以上の構成等からなる音色を例示できる。勿論、階床移行音は、これに限らず、音楽、音声言語、チャイム音、ブザー音、ベル音、サイレン音などを採用することもできる。
なお、階床移行音は、複数の周波数を組み合わせることで、幅広い周波数帯域となるので、特定の周波数帯域が聞き取りにくい乗客も聴取可能とすることができる。周波数の組み合わせは、例えば倍音がある。
【0020】
報知信号として、チャイム音、ブザー音、ベル音、サイレン音などを例示できる。
【0021】
上記した音響等は例示であり、これらに限定されるものではない。
【0022】
かご(20)の走行は、モータ(46)、ブレーキ、シーブ、ロープ、釣り合い錘などにより構成される昇降機構(44)により行なわれる。
昇降機構(44)、具体的にはモータ(46)は、制御盤(40)に設けられた昇降制御手段(42)により制御される。
モータ(46)の回転は、エンコーダ信号として出力される。該エンコーダ信号のパルス数に基づいて、かご位置検知手段(51)は、かご(20)の基準位置(例えば最下階の乗場床面の高度)からの差分値によってかご位置を検知すると共に、単位時間当たりの変化量によって走行速度を検知し、その検知信号に基づいて昇降制御手段(42)かご(20)の走行を制御する。
【0023】
そして、上記かご位置検知手段(51)は、かご(20)の現在いる階床を検知する。
【0024】
また、かご位置検知手段(51)は、かご(20)の階床移行を判定する通過検知手段(52)(図2参照)としての機能を含み、放送システム(30)による階床移行音の出力タイミングを制御する。
【0025】
なお、本発明において、かご(20)の階床移行とは、かご(20)が階床と上下方向に隣接する何れかの階床との間を通過したとき、かご(20)が各階床の所定位置、例えば各階床の停止位置を通過又は到達したときなどを意味する。
【0026】
さらに、上記したかご位置検知手段(51)は、かごインジケータ(24)の表示切替えを行なう階床表示切替手段(53)(図2参照)としての機能を含み、放送システム(30)による階床移行音の出力タイミングや到着階の音響案内も制御する。
【0027】
シャフトには、乗場(12)の設けられていない乗場なしゾーンを設けることができる。乗場なしゾーンは、かご位置検知手段(51)に予め設定しておくことができ、かご位置検知手段(51)により検知されたかご(20)の現在いる階床が乗場なしゾーンであることを判別することができる。
【0028】
本発明の放送システム(30)は、かご(20)が階床を移行したときに、その走行方向に応じた階床移行音を出力することで、聴覚によりかご(20)の状態を判別できるようにしたものである。
【0029】
以下、具体的実施例について図面を参照しながら説明を行なう。
図3は、複数の乗場(12)(12)を有するエレベータ(10)の模式図、図4は、階床移行音を出力するタイミングフローチャート図である。
【0030】
本実施例は、かご(20)の階床移行を検知する毎に走行方向に応じた階床移行音をスピーカ(32)から出力する例である。実施例では、階床移行音出力タイミングは、通過検知手段(52)を採用し、かご(20)の階床移行を、かご(20)が階床間を通過したことにより検知するようにしている。1階からかご(20)に搭乗した乗客が操作パネル(22)を操作して、4階を行先階とする上昇方向のかご(20)の走行を例に挙げている。
【0031】
操作パネル(22)に行先階(4階)が入力されると、その入力はかご側制御盤(50)及び制御盤(40)に送信される。昇降制御手段(42)は、出発階となる現在の階床(1階)から、かご(20)を応答させて停止させるべき階床として行先階の中から選んだ目的階(この例では4階)への走行方向(上昇)を検知し、モータ(46)を回転させて、かご(20)を走行させる(ステップ101)。
【0032】
かご(20)が目的階に対応する減速開始位置に到着するまでは、モータ(46)の回転数の高い高速走行を継続し(ステップ102のNo、103)、その間に、通過検知手段(52)により、かご(20)が階床間を通過したことが検知されると(ステップ104のYes)、かご側制御盤(50)は、音響再生部(34)により走行方向に応じた音響データをスピーカ(32)から階床移行音として出力する(ステップ105)。階床移行音は、走行方向が上昇の場合には、上がり調子の音色、下降の場合には、下がり調子の音色を例示できる。
【0033】
これにより、乗客は、かご(20)が走行しているのか、停止しているのかを、かごインジケータ(24)を目視することなく、階床移行音に基づいて聴覚により判別することができる。また、上昇の場合と下降の場合で階床移行音の音色を変えることで、乗客は、かごインジケータ(24)を目視することなく、階床移行音から聴覚により走行方向も判別することができる。特に、近年のエレベータ(10)は、走行音が静音であるため、走行又は停止の判別が難しいが、本発明によりこの問題は解消される。
加えて、乗客は、出発階からの階床移行音の聞こえた回数を数えることで、かご(20)が現在何階を走行しているのかを判断したり、後どれくらいで所望する行先階に到着するのかを判断することができる。
【0034】
目的階に対応する減速開始位置に到達するまで、階床間を通過する毎に上記フローを繰り返し、かご(20)が目的階に対応する減速開始位置に到達すると(ステップ102のYes)、昇降制御手段(42)は、モータ(46)の回転数を落として、かご(20)を減速させる(ステップ106)。
【0035】
かご(20)の減速が、目的階の複数階床手前から開始されている場合、目的階に到着するまでに(ステップ107のYes)、かご(20)は1又は複数の階床間を通過する。この階床間の通過を通過検知手段(52)が検知すると(ステップ107のNo、ステップ108のYes)、再度走行方向に応じた階床移行音を出力する(ステップ109)。
【0036】
かご(20)が目的階に到着すると(ステップ107のYes)、昇降制御手段(42)はモータ(46)の回転を止めて、かご(20)を停止させ、本タイミングフローは終了する。
【0037】
かご(20)の減速に伴って、通過検知手段(52)により検知される階床間のタイムインターバルも長くなるから、階床移行音が出力される間隔も徐々に長くなる。これにより、乗客は、かご(20)が減速し、目的階に近づいていることを聴覚により認識することができるから、降車もスムーズに行なうことができる。
【0038】
なお、かご(20)が走行中に、乗場装置(48)が操作されて新規の乗場呼びが発生したり、新規の乗客が操作パネル(22)を操作することで行先階が追加され、これらの操作に応答してかご(20)の走行、停止を行なう場合であっても、上記タイミングフローチャートに従って、階床間を通過する毎に階床移行音の出力を実行すればよい。
【0039】
また、図3に示すように、階床間を通過する際にかごインジケータ(24)の表示を連動して変化させるエレベータ(10)においては、階床移行音出力タイミングを、通過検知手段(52)によるタイミング(階床間の通過を検知するタイミング)とせずに、階床表示切替手段(53)によるタイミング(かごインジケータ(24)の表示を切り替えるタイミング)と同期させてもよい(階床移行音出力タイミングのフローチャートとして、図4のステップ104、108をステップ104’、108’に置き換えた図5参照)。なお、本明細書及び図面において、タイミングフローチャート図中、同じステップ番号は同様のプロセスを示す。
【0040】
例えば、階床移行音出力タイミングとして、階床表示切替手段(53)を採用した場合には、上述したようにモータ(46)のエンコーダ信号に基づいてかご(20)の現在の位置を検知して、かごインジケータ(24)の階床表示を切替え、これと同期して、走行方向に応じた階床移行音を出力するよう制御すればよい。
【0041】
図6及びタイミングフローチャート図7は、上記実施例に、到着した目的階を放送する機能を追加したものである。図6に吹き出し表示で示すように、目的階である4階に到着後、「ピンポーン、4階です」と音声言語で放送するようにしている。この目的階への到着案内は、目的階に到着後(ステップ107のYes)、ステップ110にて実行される。
階床移行音だけでなく、到着した目的階を音声放送することで、聴覚により降車すべき階床かどうかをかごインジケータ(24)を目視することなく判断できる。
【0042】
階床表示切替手段(53)が、かご(20)の目的階の手前の階床から目的階へと切り替わったときに、スピーカ(32)から階床移行音を出力し、続いて目的階到着の音声放送を行なうと、階床移行音と目的階到着の音声放送が被ってしまったり、連続的に放送されて、聞き辛くなることがある。このため、上記のような場合には、階床移行音の出力を行なわないようにすることが望ましい(ステップ104”、ステップ108”)。
【0043】
なお、乗場なしゾーンが設けられているエレベータ(10)においては、乗場なしゾーンを通過中に、図8乃至図11に示すように、階床移行音出力タイミングにアレンジを持たせることができる。乗場なしゾーン通過中における階床移行音の出力タイミングは、通過検知手段(52)又は階床表示切替手段(53)の何れかに基づき実行される。
【0044】
図8は、乗場なしゾーンを通過中は、乗場なしゾーンの中間点、図示の実施例では、1階と5階との中間を通過したときに(かごインジケータ(24)の表示が1階から5階へ切り替わるときに)階床移行音を出力するようにした実施例である。この例では、かごインジケータ(24)は、乗場がない階(2、3、4階)の階床表示をしないようにしている。乗場なしゾーン通過中の階床移行音出力タイミングは、階床表示切替手段(53)を採用する。
【0045】
図9は、乗場なしゾーンを通過中であっても、乗場なしゾーン外の停止可能階の階床移行のタイミングと同じタイミング図9で、乗場なしゾーン中の破線位置を通過するタイミング)で、階床移行したときに階床移行音を出力する実施例である。この例でも、かごインジケータ(24)は、乗場がない階(2、3、4階)の階床表示をしないようにしている。乗場なしゾーン通過中の階床移行音出力タイミングは、通過検知手段(52)を採用する。
【0046】
図10は、乗場なしゾーンを通過中は、かごインジケータ(24)の表示を階床表示ではなくハイフン等とした実施例である。乗場なしゾーン通過中の階床移行音の出力タイミングは、図8と同様、階床表示切替手段(53)を採用する。図示の実施例では、階床移行音の出力タイミングは、乗場なしゾーンに移行する前後、即ち、1階から乗場なしゾーンに移行したとき(かごインジケータ(24)の表示が1階からハイフンへ切り替わるとき)と、乗場なしゾーンから5階に移行したとき(かごインジケータ(24)の表示がハイフンから5階へ切り替わるとき)としている。
【0047】
図11も、乗場なしゾーンを通過中は、かごインジケータ(24)の表示を、階床表示ではなくハイフンとした実施例である。乗場なしゾーン通過中の階床移行音出力タイミングは、図9と同様、通過検知手段(52)を採用する。なお、通過検知手段(52)によって乗場なしゾーン通過中に階床移行音を出力するタイミングは、乗場なしゾーン外の停止可能階の階床移行のタイミングと同じタイミング図9図11で、乗場なしゾーン中の破線位置を通過するタイミング)に限定する必要はなく、階床移行音を出力するために予め定めたかご位置を通過するタイミングでさえあれば、他のタイミングでも構わない。
【0048】
図12は、図8乃至図11の実施例に対する階床移行音の出力のタイミングチャート図である。
操作パネル(22)に行先階が入力されると、昇降制御手段(42)は、行先階の方向を検知し、モータ(46)を回転させて、かご(20)を上昇させる(ステップ201)。
【0049】
目的階に対応する減速開始位置に到着するまで高速走行を継続する(ステップ202のNo、203)。乗場なしゾーン通過中の階床移行音出力タイミングに、図8図10のような階床表示切替手段(53)が採用される場合、かごインジケータ(24)の階床表示が切り替わったときのみ、階床移行音出力が可能である(ステップ204のYes)。その後、かごインジケータ(24)の階床表示と目的階が一致して目的階に到達したと判定されるまで、走行方向に応じた階床移行音を出力する(ステップ205のNo、ステップ207)。
【0050】
乗場なしゾーン通過中の階床移行音出力タイミングに、図9図11のような通過検知手段(52)が採用される場合、乗場なしゾーン外の停止可能階の階床移行のタイミングと同じタイミング図9図11で、乗場なしゾーン中の破線位置を通過するタイミング)で、階床移行したときに階床移行音の出力が可能である(ステップ206のYes)。その後、かごインジケータ(24)の階床表示と目的階が一致して目的階に到達したと判定されるまで、走行方向に応じた階床移行音を出力する(ステップ207)。
【0051】
これにより、乗客は、かご(20)の走行方向を聴覚により判別することができる。
【0052】
目的階に対応する減速開始位置に到達すると(ステップ202のYes)、昇降制御手段(42)は、モータ(46)の回転速度を落とし、かご(20)を減速させる(ステップ208)。
【0053】
減速が目的階の複数階床手前から開始されている場合、目的階に到着するまでに(ステップ209のNo)、1又は複数の階床間を通過する。この通過をかご位置検知手段(51)が検知すると、前記ステップ204〜ステップ207と同じように、階床移行音の出力を制御する(ステップ210〜ステップ213)。
目的階に到着すると(ステップ209)、目的階に到着した旨の音声放送を行ない(ステップ214)、昇降制御手段(42)はモータ(46)の回転を止めて、かご(20)を停止させ、本タイミングフローは終了する。
【0054】
なお、新規の乗場呼びや行先階の追加があった場合には、これらに応答してかご(20)の走行、停止を行なえばよい。
【0055】
上記のように乗場なしゾーンを通過中は、階床表示切替手段(53)又は通過検知手段(52)の何れかを採用することにより階床移行音の出力が可能である。なお図12は、階床表示切替手段(53)を採用する場合と通過検知手段(52)を採用する場合の両方を一つのフローチャートで示しているが、実際にはいずれか一方が採用されて処理される。
【0056】
また、乗場なしゾーン外を走行中においても同様に、階床表示切替手段(53)又は通過検知手段(52)の何れかを採用することにより階床移行音の出力が可能である。
【0057】
スピーカ(32)から出力される階床移行音の出力間隔を違えることができるから、乗客は、かご(20)が乗場なしゾーンの内外何れを走行しているか、聴覚により識別することも可能である。
【0058】
なお、図13に示すように、かご位置検知手段(51)が、かご(20)が停止している状態から、上下方向の何れかの最初の階床に移行したことを検知したときに出力される階床移行音は、それ以後の階床移行音に比して大きくすることで、乗客の注意を惹くことができる。例えば、最初の階床移行音を後の階床移行音に比して5dB程度大きくすることが望ましい。
【0059】
すべての階床移行音を大きくすると、かご(20)内の雑音が小さい場合は乗客が騒音と感じてしまうことがあるが、最初だけ大きい階床移行音とすることで、階床移行音が出力されることを乗客が認識することができ、その階床移行音でかご(20)の走行状態を判定できることを容易に気づかせることができる利点がある。
【0060】
また、図14に示すように、かご(20)の乗車率が高い場合には、かご(20)内の混雑により雑音も大きくなるから、乗車率に応じて、階床移行音を変化させることが望ましい。具体的には、最初に出力される階床移行音だけでなく、後の階床移行音も大きくする。乗車率は、例えば、かご(20)の重量、行先階の登録数、画像認識などにより判定することができる。
【0061】
かご(20)の昇降スピードが速いエレベータ(10)については、階床間を通過する毎に階床移行音を出力せずに、複数の階床を移行する毎、例えば、3〜5階床移行毎に階床移行音を出力するように、出力タイミングを変えてもよい。
【0062】
さらに、かご(20)の昇降スピードを、例えば、所定速度以下の低速域と、それを越える高速域に分け、低速域と高速域で階床移行音の出力タイミングを変え、低速域に比して高速域における出力タイミングを遅らせるようにしてもよい。低速域での出力タイミングのまま高速域に推移すると、出力間隔が短くなりすぎて階床移行音どうしが重なってしまい、聞き辛くなる。しかしながら、上記のように高速域での出力タイミングを低速域での出力タイミングよりも遅らせることで、高速域における階床移行音どうしの音の重なりを防止できる。
【0063】
かご(20)の昇降スピードを、低速域と高速域に加え、低速域よりもかご(20)の昇降スピードの遅い超低速域に分けて、同様の要領で超低速域での出力タイミングを低速域での出力タイミングよりも早めることにより、超低速域における階床移行音の間延びを防止することもできる。
【0064】
加えて、出力タイミングを違えるだけでなく、階床移行音の音色、例えば、音の高さや音の長さを変えることで、超低速域、低速域、高速域で出力タイミングを変えていることが認識されるだけでなく、かご(20)の昇降スピードを聴覚により把握することができる利点がある。
【0065】
また、図2に示すように、制御盤(40)又はかご側制御盤(50)にかご(20)内の乗客の有無を判定する乗客判定手段(56)を接続し、乗客無の場合には、階床移行音やその他の音響の放送をしないようにすることで、省電力化を図ることができ、さらには、建物内で不要な音が発生することを避けることができる。
乗客判定手段(56)は、操作パネル(22)とすることができ、かご(20)内の操作パネル(22)に行先階の登録操作が行なわれていないことで乗客無と判定することができる。また、かご(20)内にカメラ、赤外線センサなどを配置し、乗客の有無を判定してもよい。また、かご(20)の重量、画像認識などにより判定することもできる。
【0066】
上記した階床移行音の音色は、上記に限定されるものでないことは勿論であるが、警報音と間違えることのない音を選択することが望ましい。
また、感覚的に上昇又は下降を判別できる音を選択することが望ましい。
【0067】
本発明の放送システムを具えたエレベータによれば、かごが走行していること、かごの走行方向、かごの位置(階数)を聴覚により確認することができるため、乗客は、かごの運行状況を視覚に頼らず判断できる。また、乗客は、これらの情報からあとどのくらいで所望の行先階まで到着するかを予測でき、かごの停止した階床が所望の行先階であることを判断することもできる。
【0068】
なお、階床移行音の一時的な出力停止を、操作パネル(22)の操作で行なうようにしてもよい(例えば、戸開ボタンと戸閉ボタンを同時に押したり、走行中において戸開ボタン又は戸閉ボタンを押すことにより、出力を停止する)。この場合、出力停止操作後は階床移行音の出力は停止されるが、出力停止の解除は、一回の走行終了後や、乗客無となったときなど、適宜設定できる。また、階床移行音の一時的停止を、時間帯設定(例えば、夜間は出力停止)などにより行なうようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、かごの状態をより判り易く乗客に知らせることのできる放送システムを具えるエレベータとして有用である。
【符号の説明】
【0070】
(10) エレベータ
(20) かご
(22) 操作パネル
(24) かごインジケータ
(30) 放送システム
(32) スピーカ
(34) 音響再生部
(51) かご位置検知手段
(52) 通過検知手段
(53) 階床表示切替手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14