特許第5880218号(P5880218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5880218
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】撥水性積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/14 20060101AFI20160223BHJP
【FI】
   B32B27/14
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-80865(P2012-80865)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-208815(P2013-208815A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今井 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】盧 和敬
(72)【発明者】
【氏名】井口 依久乃
(72)【発明者】
【氏名】松尾 龍吉
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−012064(JP,A)
【文献】 特開平02−003468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層とヒートシール樹脂層を有する積層体であって、
ヒートシール樹脂層の表面に、
平均一次粒子径が1000nm以上50000nm以下のミクロ粒子と、
平均一次粒子径が5nm以上1000nm以下の疎水性のナノ粒子と、
M(OR)n(Mは金属元素、Oは酸素、Rは有機基を表す)で表される金属アルコキシドあるいは該金属アルコキシドの加水分解物と、
を含む複合物からなる撥水層を有することを特徴とする撥水性積層体。
【請求項2】
前記ミクロ粒子は、シリコーン粒子、フッ素樹脂粒子、シリカ粒子、合成シリカ粒子、アルミナ粒子、ナイロン粒子、アクリル樹脂粒子の少なくとも一つ、あるいはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の撥水性積層体。
【請求項3】
前記シリコーン粒子は、
球状シリコーンゴムパウダー、ポリスチレン、アクリル、ポリウレタン、シリカ、アルミナ、酸化チタンのいずれかからなるコア粒子の表面をシリコーン樹脂で被覆した粒子、
またはジメチルポリシロキサンを架橋したシリコーンゴム粒子、
または(RSiO3/2で表されるポリオルガノシルセスキオキサン硬化物粒子、
のいずれかであることを特徴とする請求項2に記載の撥水性積層体。
【請求項4】
前記ナノ粒子は、ジメチルシリル、トリメチルシリル、ジメチルポリシロキサン、ジメチルシロキサン、アミノアルキルシリル、アルキルシリル、メタクリルシリルのいずれかの官能基で疎水化表面処理された、
酸化珪素または酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の撥水性積層体。
【請求項5】
前記ミクロ粒子とナノ粒子の重量比率は、1:99〜99:1の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥水性積層体。
【請求項6】
前記金属アルコキシドあるいは金属アルコキシドの加水分解物中の金属は、珪素、アルミニウム、チタニウムから選択される1種類以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の撥水性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性を有する積層体に関し、特に食品やトイレタリー商品の容器の蓋材や包装袋として用いられる、撥水性と熱シール性を兼ね備えた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
液状またはゲル状の、食品やトイレタリー商品などを収納するための、包装袋や容器の蓋材としては、商品に接する面が熱シール性を備えた積層体によって構成されるものが多く知られている。これらの積層体は、少なくとも基材とヒートシール樹脂層を有し、ヒートシール樹脂層同士を向かい合わせて周縁を熱シールして包装袋としたり、他の容器例えばプラスチック製の容器の開口部に熱シールして蓋材として用いたりする。
【0003】
いずれの場合であってもヒートシール樹脂層には、内容物が直接接触する。内容物の粘度が低いものである場合にはあまり問題とならないが、内容物の粘度が高いものや、固形物が混じっているものなどの場合、内容物に対するヒートシール樹脂層面の濡れ性が良いと、内容物がヒートシール樹脂層面に付着して残留する量が多くなったり、内容物が取り出し難かったりして、容器あるいは蓋材としての使い勝手が悪くなる。
【0004】
こういった問題を生じやすい内容物の例としては、食品では、カレー、シチュー、粥などのレトルト食品や、マヨネーズ、ケチャップなどの調味料、ヨーグルト、アイスクリームなどが挙げられる。トイレタリー商品では、シャンプー、リンス、食器用洗剤、浴用洗剤などが挙げられる。
【0005】
特許文献1に記載された蓋材は、上記の問題を解決することを目的としてなされたものであり、熱接着層(ヒートシール樹脂層)の表面に、三次元網目構造からなる多孔質層を形成している疎水性酸化物微粒子を付着させたことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4348401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された蓋材は、撥水性微粒子層を形成する塗布液自体にバインダーを使用していないため、微粒子層が熱接着層に十分に固着できず、微粒子が脱落しやすいという問題がある。このため食品などの内容物に微粒子が異物として入り込んでしまうため、特に食品の場合、安全性が十分に担保できないという問題がある。
【0008】
また、特許文献1に記載された蓋材は、微粒子層自体の撥水性はあるものの、水以外の食品などの実際の内容物では、弾き性が不十分であるという問題もあった。
【0009】
本発明の解決しようとする課題は、実際の食品などに対しても十分な弾き性を有し、撥液層が脱落して内容物に混入することがない撥水性積層体を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、基材層とヒートシール樹脂層を有する積層体であって、ヒートシール樹脂層の表面に、平均一次粒子径が1000nm以上50000nm以下のミクロ粒子と、平均一次粒子径が5nm以上1000nm以下の疎水性のナノ粒子と、M(OR)n(Mは金属元素、Oは酸素、Rは有機基を表す)で表される金属アルコキシドあるいは該金属アルコキシドの加水分解物と、を含む複合物からなる撥水層を有することを特徴とする撥水性積層体である。
【0011】
本発明に係る撥水性積層体は、撥水層として、粒径の大きく異なるミクロ粒子とナノ粒子を金属アルコキシドあるいは金属アルコキシドの加水分解物中に分散させた複合物からなる層であるため、層内凝集力が強く、またヒートシール樹脂層に強固に付着しているため、脱落して内容物に混入することがない。また表面には、ミクロ粒子に起因するμmオーダーの凹凸とナノ粒子に起因するnmオーダーの凹凸が混在するため、表面積が大きくなる。このため、十分な撥水性が発揮され、粘度の高い食品など実際の内容物に対しても高い撥水性を示す。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記ミクロ粒子が、シリコーン粒子、フッ素樹脂粒子、シリカ粒子、合成シリカ粒子、アルミナ粒子、ナイロン粒子、アクリル樹脂粒子の少なくとも一つ、あるいはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の撥水性積層体である。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、前記シリコーン粒子が、球状シリコーンゴムパウダー、ポリスチレン、アクリル、ポリウレタン、シリカ、アルミナ、酸化チタンのいずれかからなるコア粒子の表面をシリコーン樹脂で被覆した粒子、またはジメチルポリシロキサンを架橋したシリコーンゴム粒子、または(RSiO3/2で表されるポリオルガノシルセスキオキサン硬化物粒子、のいずれかであることを特徴とする請求項2に記載の撥水性積層体である。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、前記ナノ粒子が、ジメチルシリル、トリメチルシリル、ジメチルポリシロキサン、ジメチルシロキサン、アミノアルキルシリル、アルキルシリル、メタクリルシリルのいずれかの官能基で疎水化表面処理された、酸化珪素または酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の撥水性積層体である。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、前記ミクロ粒子とナノ粒子の重量比率が、1:99〜99:1の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥水性積層体である。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、前記金属アルコキシドあるいは金属アルコキシドの加水分解物中の金属が、珪素、アルミニウム、チタニウムから選択される1種類以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の撥水性積層体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る疎水性積層体は、基材層とヒートシール樹脂層を有する積層体であって、ヒートシール樹脂層の表面に、平均一次粒子径が1000nm以上50000nm以下のミクロ粒子と、平均一次粒子径が5nm以上1000nm以下の疎水性のナノ粒子と、M(OR)nで表される金属アルコキシドあるいは該金属アルコキシドの加水分解物と、を含む複合物からなる撥水層を有することにより、内容物に対して十分な撥水性を発揮すると共に、撥水層の凝集力が高まり、容易に脱落しない撥水層とすることができる。
【0018】
また、請求項2に記載の発明のように、前記ミクロ粒子が、シリコーン粒子、フッ素樹脂粒子、シリカ粒子、合成シリカ粒子、アルミナ粒子、ナイロン粒子、アクリル樹脂粒子の少なくとも一つ、あるいはこれらの混合物である場合には、撥水層を塗工する際の加工適性や、撥水層の弾き性が良好となる。
【0019】
また、請求項3に記載の発明のように、前記シリコーン粒子が、球状シリコーンゴムパウダー、ポリスチレン、アクリル、ポリウレタン、シリカ、アルミナ、酸化チタンのいずれかからなるコア粒子の表面をシリコーン樹脂で被覆した粒子、またはジメチルポリシロキサンを架橋したシリコーンゴム粒子、または(RSiO3/2で表されるポリオルガノシルセスキオキサン硬化物粒子、のいずれかである場合には、撥水層の弾き性においてさらに好ましい結果を与えるものとなる。
【0020】
また、請求項4に記載の発明のように、前記ナノ粒子が、ジメチルシリル、トリメチルシリル、ジメチルポリシロキサン、ジメチルシロキサン、アミノアルキルシリル、アルキルシリル、メタクリルシリルのいずれかの官能基で疎水化表面処理された酸化珪素または酸化アルミニウムである場合には、撥水層に対してより優れた撥水性を付与することができる。
【0021】
また、請求項5に記載の発明のように、ミクロ粒子とナノ粒子の重量比率が、1:99〜99:1の範囲である場合には、撥水層塗工液の安定性が確保されると共に撥水層の層内凝集力も十分確保される。
【0022】
また、請求項6に記載の発明のように、前記金属アルコキシドあるいは金属アルコキシドの加水分解物中の金属が、珪素、アルミニウム、チタニウムから選択される1種類以上である場合には、撥水層のヒートシール樹脂層に対する接着性や撥水層内の凝集力が高まり、より強固な膜とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明に係る撥水性積層体の基本的な実施態様における断面構造を示した断面模式図である。
図2図2は、本発明に係る撥水性積層体の他の実施態様における断面構造を示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下図面を参照しながら、本発明に係る撥水性積層体について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る撥水性積層体の基本的な実施態様における断面構造を示した断面模式図である。
【0025】
本発明に係る撥水性積層体(1)は、基材層(2)とヒートシール樹脂層(3)を有する積層体であって、ヒートシール樹脂層(3)の表面に、平均一次粒子径が1000nm以上50000nm以下のミクロ粒子(5)と、平均一次粒子径が5nm以上1000nm以下の疎水性のナノ粒子(6)と、M(OR)n(Mは金属元素、Oは酸素、Rは有機基を表す)で表される金属アルコキシドまたはその加水分解物(7)を含む複合物からなる撥水層(4)を有する。
【0026】
撥水層(4)に含まれるミクロ粒子(5)とナノ粒子(6)の合計と金属アルコキシドまたはその加水分解物(7)を金属酸化物に換算した時の重量比は、5:95〜95:5の範囲が適当であり、撥水層(4)の膜厚は100nm以上5000nm以下であることが望ましい。
【0027】
本発明に係る撥水性積層体(1)は、粒径の大きく異なるミクロ粒子(5)とナノ粒子(6)をバインダーとしての金属アルコキシド(またはその加水分解物)(7)中に分散
した構造をもった撥水層(4)を有するため、表面積が大きくなり、撥水性に優れる。また撥水層(4)の層内凝集力が高いため、撥水層(4)が脱落して、内容物に混入するようなことがない。
【0028】
基材層(2)としては、紙、プラスチックフィルム、アルミニウム箔、アルミニウム蒸着フィルム、無機酸化物蒸着フィルムなど、及びこれらを適宜組み合わせて積層したものを使用することができる。
【0029】
基材層(2)の表面には、商品を示す印刷が施されていてもよい。基材層(2)の材質、厚さ、構成などは、目的とする積層体の要求品質や加工適性によって適宜選択される。
【0030】
図2に示した実施態様においては、基材層(2)とヒートシール樹脂層(3)との間にバリア層(8)を設けてある。バリア層(8)としては、アルミニウム箔、アルミニウム蒸着フィルム、無機酸化物蒸着フィルムなどのガスバリア性の材料を用いる。なおこれらのガスバリア性材料は、前述の通り、単体で基材層(2)として用いることもできる。
【0031】
ヒートシール樹脂層(3)は、積層体の用途が蓋材であれば被着体となる容器の材質や、内容物、必要とされるヒートシール強度などによって、また積層体の用途が包装袋であれば、包装袋の大きさ、形状、内容物、必要とされるヒートシール強度などによって決定される。
【0032】
積層体の用途が蓋材である場合のヒートシール樹脂層(3)の材質としては、容器の材質がポリエチレン樹脂であれば、ポリエチレン樹脂(PE)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)等が使用できる。容器の材質がポリプロピレン樹脂であれば、PE、EVA、変性オレフィン樹脂等が使用できる。また容器の材質がポリスチレン樹脂であれば、アクリル樹脂、EVA、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(塩酢ビ)、PE、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等が使用できる。
【0033】
積層体の用途が包装袋である場合のヒートシール樹脂層(3)の材質としては、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、EVA、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−メタアクリル酸樹脂共重合体などのエチレン系樹脂や、ポリエチレンとポリブテンのブレンド樹脂や、ホモポリプロピレン樹脂、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂等が使用できる。
【0034】
ヒートシール樹脂層(3)と、基材となる紙またはプラスチックフィルムとの密着性を高めるために、基材層(2)の表面にプライマー層を設けてもよい。プライマー層の樹脂系としては、EVA、アクリルアミン、ポリエステル、ウレタンエステル、塩酢ビ、変性オレフィン、イミン、ポリブタジエン、ポリアクリル酸エチル(EAA)等が用いられる。
【0035】
ミクロ粒子(5)としては、シリコーン粒子、フッ素樹脂粒子、シリカ粒子、合成シリカ粒子、アルミナ粒子、ナイロン粒子、アクリル樹脂粒子から選択される1種以上を用いることができる。
【0036】
ミクロ粒子(5)の平均一次粒子径は、1000nm以上50000nm以下であることが好ましく、加工適性や弾き性の観点からは、5000nm以上30000nm以下であることがさらに好ましい。
【0037】
シリコーン粒子としては、球状シリコーンゴムパウダー、ポリスチレン、アクリル、ポリウレタン、シリカ、アルミナ、酸化チタンのいずれかからなるコア粒子の表面をシリコーン樹脂で被覆した粒子、またはジメチルポリシロキサンを架橋したシリコーンゴム粒子、または(RSiO3/2で表されるポリオルガノシルセスキオキサン硬化物粒子が好ましく使用できる。
【0038】
ポリオルガノシルセスキオキサンとしては、ポリメチルシルセスキオキサン、ポリフェニルシルセスキオキサン等が挙げられる。
【0039】
ミクロ粒子としては、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂などの有機樹脂粒子や、シリコーンゴム、及び珪素酸化物、チタン酸化物などの無機酸化物粒子の表面をポリメチルシルセスキオキサンなどのポリオルガノシルセスキオキサンで被覆した粒子も好ましく使用できる。
【0040】
アクリル樹脂粒子としては、(架橋)ポリメタクリル酸メチル、(架橋)ポリメタクリル酸ブチル、(架橋)ポリアクリル酸エステルが好ましく使用できる。
【0041】
フッ素樹脂粒子としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、EFEP(ダイキン工業株式会社製特殊フッ素樹脂)などの粒子が好ましく使用できる。
【0042】
ミクロ粒子(5)とヒートシール樹脂層(3)の接着強度あるいは、撥水層(4)中での凝集力を高めるためには、シリカ粒子、合成シリカ粒子、アルミナ粒子などの無機粒子が良く、さらに強い密着性を求める場合は、ナイロン粒子、アクリル樹脂粒子などが好ましい。これらを混合して用いてもよい。
【0043】
ナノ粒子(6)としては、疎水官能基で表面処理した無機酸化物粒子が良く、コアとなる粒子が酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタンなどの酸化物であり、コアとなる粒子の表面をシランカップリング剤で処理して、疎水性の官能基を付与したものが良い。
【0044】
疎水官能基としては、ジメチルシリル(CHSi(O−R)、トリメチルシリル(CHSiO−R、ジメチルポリシロキサン(CH−Si−O−Si(O−R)、ジメチルシロキサン、アミノアルキルシリル、アルキルシリル、メタクリルシリルなどが好ましいが、より好ましくはメチル基(CH)が多いトリメチルシリル官能基が良い。
【0045】
ナノ粒子(6)の平均一次粒子径は、5nm以上1000nm以下が好ましく、加工適性、弾き性の観点から、10nm以上500nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下が更に好ましい。
【0046】
ミクロ粒子(5)とナノ粒子(6)の混合比率は、重量比率で1:99〜99:1の範囲であることが好ましい。これらの粒子は凝集して存在してもかまわないが、均一に分布させることがより好ましい。
【0047】
ミクロ粒子(5)とナノ粒子(6)をヒートシール樹脂層(3)に強固に接着させたり、撥水層(4)の層内凝集力を高めるために、バインダーとして金属アルコキシドまたは金属アルコキシドの加水分解物(7)を添加することは、非常に有効である。
【0048】
金属アルコキシドは、テトラエチルオルソシリケート(Si(OC)(TEOS)、トリイソプロピルアルミニウム(Al(OC)などの、一般式M(OR)n(Mは珪素、チタニウム、アルミニウム、ジルコニウムなどの金属、Oは酸素、Rはメチル基、エチル基などのアルキル基)で表されるものである。その中でも、Mが珪素、アルミニウム、チタニウムである金属アルコキシドの特性が優れている。
【0049】
撥水層(4)に含まれる粒子分とバインダーの比率については、ミクロ粒子(5)とナノ粒子(6)の合計と前記金属アルコキシドあるいは該金属アルコキシドの加水分解物を金属酸化物に換算した時の重量比が、5:95〜95:5の範囲であることが好ましい。
【0050】
撥水層(4)の膜厚については、100nm以上5000nm以下であることが好ましい。100nm未満では、十分な撥水性が期待できない。また5000nm以上であると、ヒートシール樹脂層(3)のヒートシール性を低下させる恐れがある。なお撥水層(4)の膜厚よりもミクロ粒子(5)の粒径が大きい場合には、ミクロ粒子(5)が撥水層(4)から突出する形になる。
【0051】
ヒートシール樹脂層(3)の表面に撥水層(4)を形成する方法としては、公知のロールコート法、グラビアコート法、ディッピングコート法、スプレーコート法などを用いることができる。実験室的にはスピンコート法も使用できる。
以下実施例に基づいて、本発明に係る撥水性積層体について更に具体的に説明する。
【実施例1】
【0052】
基材層(2)として坪量52.3g/mの模造紙と厚さ7μmのアルミニウム箔と厚さ12μmのPETフィルムを貼り合せたものを使用した。PETフィルム面にプライマー層を介して、ヒートシール樹脂層としてヒートシールラッカーを塗布した。
【0053】
プライマー層は、ポリエステル樹脂とイソシアネート硬化剤を混合し、乾燥後の塗布量で1g/mとなるようにバーコーターで塗布し、80℃1分の熱風乾燥を行った。ヒートシールラッカーは、ポリアクリレート樹脂系で、乾燥後の塗布量が3g/mとなるように、バーコーターで塗布し、80℃1分の熱風乾燥を行った。
【0054】
撥液層(4)を形成するための塗工液を以下の処方に基づいて調製した。
・ミクロ粒子分散液:アクリル粒子(平均一次粒子径5000nm)とメタノールを固形分が10%となるように混合し、分散した。
・ナノ粒子分散液:トリメチルシリル基を付与したシリカ(SiO)粒子(平均一次粒子径15nm)とメタノールを固形分が10%となるように混合し、分散した。
・金属アルコキシド加水分解液:TEOSに、塩酸でpHを1に調整した水とメタノールを加えて撹拌し、加水分解液を作成した後、水を加えてSiO分として固形分濃度が10%となるように調整した。
・撥液層塗工液:上記ミクロ粒子分散液とナノ粒子混合分散液を1:1の割合で混合し、さらにこの混合液と金属アルコキシド加水分解液を1:1の割合で混合した。
【0055】
上記基材のヒートシールラッカー面に、バーコーターを用いて、上記塗工液を固形分塗布量2g/mとなるように塗工し、100℃10分の熱風乾燥を行い、目的とする撥液性積層体を作成した。
【0056】
評価方法としては、以下の評価を実施した。
撥水性評価:水の転落角を測定。60°>:○、60°≦:×、水とヨーグルトで実施。粒子密着性:セロファン粘着テープ剥離。粒子の取られなし:○、取られあり:×
【実施例2】
【0057】
ミクロ粒子分散液とナノ粒子混合分散液を2:1の比率で混合した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【実施例3】
【0058】
ミクロ粒子分散液とナノ粒子混合分散液を1:2の比率で混合した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【実施例4】
【0059】
ミクロ粒子分散液とナノ粒子混合分散液を1:99の比率で混合した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【実施例5】
【0060】
ミクロ粒子分散液とナノ粒子混合分散液を99:1の比率で混合した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【実施例6】
【0061】
撥液層塗工液:上記ミクロ粒子分散液とナノ粒子混合分散液の混合液とTEOS加水分解液を固形分重量比(アルコキシドはSiO換算)で90:10となるように混合した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【実施例7】
【0062】
ナノ粒子分散液:トリメチルシリル基を付与したSiO粒子(平均一次粒子径50nm)とメタノールを固形分10%となるように混合し、分散した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【実施例8】
【0063】
ナノ粒子分散液:トリメチルシリル基を付与したSiO粒子(平均一次粒子径100nm)とメタノールを固形分10%となるように混合し、分散した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【実施例9】
【0064】
ナノ粒子分散液:トリメチルシリル基を付与したSiO粒子(平均一次粒子径200nm)とメタノールを固形分10%となるように混合し、分散した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【実施例10】
【0065】
ミクロ粒子分散液:アクリル粒子(平均一次粒子径15000nm)とメタノールを固形分10%となるように混合し、分散した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【実施例11】
【0066】
ミクロ粒子分散液:アクリル粒子(平均一次粒子径30000nm)とメタノールを固形分10%となるように混合し、分散した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【実施例12】
【0067】
ナノ粒子分散液:トリメチルシリル基を付与したアルミナ粒子(平均一次粒子径15nm)とメタノールを固形分10%となるように混合し、分散した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【実施例13】
【0068】
ナノ粒子分散液:ジメチポリシロキサンを付与したSiO粒子(平均一次粒子径15nm)とメタノールを固形分10%となるように混合し、分散した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【実施例14】
【0069】
ミクロ粒子分散液:ナイロン粒子(平均一次粒子径5000nm)とメタノールを固形分10%となるように混合し、分散した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【実施例15】
【0070】
ミクロ粒子分散液:シリカ粒子(平均一次粒子径5000nm)とメタノールを固形分10%となるように混合し、分散した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【実施例16】
【0071】
ミクロ粒子分散液:ポリオルガノシルセスキオキサン硬化物粒子(平均一次粒子径5000nm)とメタノールを固形分10%となるように混合し、分散した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【0072】
<比較例1>
ミクロ粒子+ナノ粒子混合分散液:実施例1で使用したミクロ粒子分散液のみを使用し、ナノ粒子分散液を混合しなかった。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【0073】
<比較例2>
ミクロ粒子+ナノ粒子混合分散液:実施例1で使用したナノ粒子分散液のみを使用し、ミクロ粒子分散液を混合しなかった。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【0074】
<比較例3>
撥液層塗工液:ミクロ粒子とナノ粒子を混合せず、実施例1で用いた金属アルコキシド加水分解液のみを使用した。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【0075】
<比較例4>
撥液層塗工液:実施例1で使用したミクロ粒子+ナノ粒子混合分散液のみを使用し、金属アルコキシド加水分解液を混合しなかった。それ以外は実施例1と同様にして、積層体を作成した。
【0076】
以上で得られた積層体について、評価を行った結果を表1に示す。なお表中でバインダーと記したのは、金属アルコキシドまたは金属アルコキシドの加水分解物の意味である。
【表1】
【0077】
ナノ粒子を含まない比較例1の積層体は、弾き性、密着性とも劣る結果となった。またミクロ粒子を含まない比較例2の積層体は、弾き性にやや劣り、密着性が劣る結果となった。ミクロ粒子もナノ粒子も含まない比較例3の積層体は、密着性は良好であるが、弾き性に劣る。また金属アルコキシドを含まない比較例4の積層体は、弾き性は良好であるが、密着性が劣る結果となった。
【0078】
これに対して、本発明に係る積層体である実施例1〜16の積層体は、いずれも弾き性、密着性とも良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0079】
1・・・撥水性積層体
2・・・基材層
3・・・ヒートシール樹脂層
4・・・撥水層
5・・・ミクロ粒子
6・・・ナノ粒子
7・・・金属アルコキシド(またはその加水分解物)
8・・・バリア層
図1
図2