特許第5880237号(P5880237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5880237-耐熱ICタグ 図000002
  • 特許5880237-耐熱ICタグ 図000003
  • 特許5880237-耐熱ICタグ 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5880237
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】耐熱ICタグ
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/077 20060101AFI20160223BHJP
   G06K 19/02 20060101ALI20160223BHJP
【FI】
   G06K19/077 220
   G06K19/02 050
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-90019(P2012-90019)
(22)【出願日】2012年4月11日
(65)【公開番号】特開2013-218594(P2013-218594A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】深津 麻由子
(72)【発明者】
【氏名】中川 仁克
【審査官】 梅沢 俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−042956(JP,A)
【文献】 特開2003−017514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
G06K 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICチップと電気的に結合したアンテナを備えたICタグであって、
前記アンテナと前記ICチップが樹脂で一体に形成され、前記樹脂部の一部が螺旋状に、一部が重なった形状のリング部であり、
前記螺旋状リング部が、被媒体に巻きついて取り付くことを特徴とする耐熱ICタグ。
【請求項2】
前記ICチップとアンテナが前記リング部の外側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の耐熱ICタグ。
【請求項3】
前記一体成形された樹脂部が、非晶性サルホン系樹脂からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の耐熱ICタグ。
【請求項4】
前記一体成形された樹脂部のガラス転移温度が180度以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐熱ICタグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグに関し、特に、術具などの医療器具の他、工具、文房具などの個体管理、工程管理、トレーサビリティー管理にも使用でき、機器、物品に容易に取付けが可能で、消毒等の滅菌処理が可能な耐熱ICタグに関する。
【背景技術】
【0002】
手術器具のリアルタイム追跡を提供する総合システムとして、手術用鋼製小物一本一本にICタグ(RFIDタグ)を取付け、手術器具の洗浄、組立て、滅菌、手術部での術前/術後の確認を行い、手術器具の遺残事故の予防、在庫管理により手術器具を一本一本の個体レベルで管理する提案がなされている(非特許文献1)。
【0003】
手術器具にICタグを取付け、手術器具の洗浄、組立て、滅菌、手術部での術前/術後の確認を行うためには、滅菌処理が可能な耐熱と、機械強度を持つ必要があり、ICチップ装着体を、セラミック製外装材で被覆する提案がなされているが、製品とICタグの取付け部に生じる溝に汚れがたまり、完全に滅菌できないという問題がある。また、材質がセラミックであり、手術中に衝撃でICタグが落ちてしまった時に、人体への影響が懸念され、さらに、製品に後付けされるため、煩雑な薬事法の許可を得る必要がある(特許文献1)。
【0004】
また耐熱性を持たせるために、石英ガラス、ホウ珪酸ガラスなどのガラス材料で構成し、さらにICチップとアンテナを備えた非接触型のICタグと最外層の保護層との間の空隙を、真空とするかまたは少なくともその一部を連続気泡を有する断熱材で充填する提案がなされている。しかしながら、手術器具に取付け、滅菌のための、熱処理が可能でも、人体への影響が考慮されておらず使用することができない(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−236279号公報
【特許文献2】特開2011−123866号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】平成23年度大学病院情報マネジメント部門連絡会議 2012年1月19日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、手術器具に取付けて、一本一本の個体レベルでの管理が可能で、取付けた時に、ICタグと被媒体との間に溝や段差が無く、完全に滅菌することが可能で、人体への影響が無く、煩雑な薬事法への申請が不要な耐熱ICタグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、ICチップと電気的に結合したアンテナを備えたICタグであって、
前記アンテナと前記ICチップが樹脂で一体に形成され、前記樹脂部の一部が螺旋状に、一部が重なった形状のリング部であり、
前記螺旋状リング部が、被媒体に巻きついて取り付くことを特徴とする耐熱ICタグであ
る。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、前記ICチップとアンテナが前記リング部の外側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の耐熱ICタグである。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、前記一体成形された樹脂部が、非晶性サルホン系樹脂からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の耐熱ICタグである。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、前記一体成形された樹脂部のガラス転移温度が180度以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐熱ICタグである。
【発明の効果】
【0012】
本願発明により、完成製品である手術器具に付属品として取り付ける形状であり、煩雑な薬事法への申請が不要で、人体への影響が無く、手術器具の遺残事故の予防、在庫管理ができ、滅菌のための加熱処理、薬品処理が可能で、耐圧性を持つ耐熱ICタグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本願発明の耐熱ICタグ及び耐熱ICタグにおけるリング部の一形状の一例を示した概念図である。
図2】本願発明の耐熱ICタグ及び耐熱ICタグにおけるリング部の他形状の一例を示した概念図である。
図3】本願発明の耐熱ICタグが取り付けられた被媒体を示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を実施するための形態を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本願発明の耐熱ICタグ10における形状の一例を示しており、ICタグ部3と、被媒体20に螺旋状に巻き付くリング部4からなっており、耐熱性で変形可能な樹脂で一体成型されている。ICタグ部3はICチップ1とアンテナ2が電気的に結合されており、リング部4は、被媒体20に、螺旋状に巻き付くようになっている。
【0015】
図2は、耐熱ICタグ10の他の形状示しており、被媒体20に、螺旋状に巻き付く被媒体20に、螺旋状に2方向から巻き付くリング部4を持っている。
【0016】
図3は、本願発明の耐熱ICタグ10が取り付けられた被媒体20の一例であり、手術器具一つひとつ取り付けられる。完成製品に付属品として取り付けるため、手間と時間のかかる薬事法の申請が不要となる。
【0017】
手術器具は多くの場合金属性であり、本願発明の耐熱ICタグを取り付ける時には、リング部4の外側に形成するのが好ましい。これは耐熱ICタグに使われる電波の周波数によって、金属の器具と干渉してしまうことを防ぐ効果があり、製品が金属の場合でも、直接金属には密着しないため、通信が可能となる。
【0018】
手術器具など滅菌対応が必要な物品に取り付ける場合は、材質を滅菌処理に耐えられる高耐熱・耐圧性の樹脂を用いる必要があり、ICタグ部3とリング部4を一体成型され、使用樹脂は、ガラス転移温度が180度以上であることが好ましく、さらに被媒体20に、螺旋状に巻き付け出来るばね弾性や強靭性を備えている必要がある。
【0019】
好適に用いることができる耐熱性の樹脂としては、ポリイミドやポリサルホン等のフィ
ルムが使用できる。モールド用いられる樹脂としては、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニルサルホン、変性ポリフェニルサルホン等の非晶性サルホン系樹脂が使用でき、ポリフェニルサルホン(PPSU)が好適である。
【0020】
ポリフェニルサルホン樹脂は、ガラス転移温度220度の高耐熱性、優れた耐薬品性、さらに繰り返し蒸気滅菌処理を行っても特性に変化は無かった。また、ISO10993、FDA、食品衛生関連、UL規格適合等の医療・食品に関する世界中の多くの規格に適合しており、医療現場で安心して使用することができる。
【0021】
リング部4は、被媒体20に取り付けるのに十分な回転数巻かれていれば良く、好ましくは、リング部の螺旋の回転角度が360°〜720°、すなわち螺旋の一部が重なり、2重に重ならない程度である。螺旋の重なる部分がないと、被媒体からの耐熱ICタグが脱落してしまうおそれがあり、重なりが2重を超えると、耐熱ICタグの被媒体への着脱が困難となる。
【0022】
ICタグ部3は、ICチップ1とアンテナ2とを備えたインレットがリング部と同一の樹脂で覆われ、リング部と一体化されている。インレットは、銅線等の金属線ワイヤでコイル状のアンテナ2を形成し、端部をICチップ1に電気的に結合し、形成することができる。また別の方法としては、アンテナ2を、耐熱性のあるフィルム上にアルミや銅からなる箔が積層されたモノや、アルミや銅を真空薄膜形成されたモノを、フォトリソ法を用い形成されたり、印刷法により、導電性ペーストをパターン状に設けて形成し、形成されたアンテナ2にICチップ1を電気的に結合し、インレットとすることができる。
【0023】
耐熱ICタグ10の製造方法としては、ICタグ部3とリング部4の形状を持つ金型を用い、金型のICタグ部の形状部分に作製したインレットをセットし、樹脂を流し込んで一体成型することがきる。また、ICタグ部の形状の金型を用いてICタグ部を樹脂成形し、ICタグ部とは別にリング部を金型成形や射出成形等で形成し、超音波を用いた融着等で一体化させて製造することができる。
【0024】
本発明の耐熱ICタグは、耐熱ICタグ自体に取付け機能を有した一体加工となっているため、器具面から距離を浮かせて取り付けるため器具の取付け部分の間に溝や隙間が無く、完全滅菌処理可能である。また器具面から浮かせてあるため、金属製の器具でも、金属器具との干渉が無く、通信障害は生じない。
【0025】
従来ではICタグ導入についてクリアすべき課題が多かった医療現場でも、この耐熱ICタグを取付けことで医療器具のトレーサビリティーや、使用履歴管理などに活用することができる。
【0026】
作製した耐熱ICタグは血液等で汚れたままでも、不透明な袋に入っていても読み取ることが可能であった。また、複数の耐熱ICタグを一度に読めるので、効率を大幅アップさせることができ、手術器具一本一本、個体レベルでの管理が容易で、手術器具の遺残事故も予防できる。
【実施例1】
【0027】
絶縁被覆された銅線からなる巻線コイルをアンテナ2とし、銅線の両端をICチップに接続することでインレットを作製した。インレットは、HF帯用の設計のインレットと、UHF帯用の設計のインレットをそれぞれ作製した。
【0028】
ICタグ部3とリング部4のそれぞれの形状を持つ金型に、作製したインレットをセットし、金型にポリフェニルサルホン樹脂(ソルベイアドバンストポリマーズ社製)を流し
込んだ。続いて、インレットとポリフェニルサルホン樹脂の入った金型を370℃の温度に加熱し、ICタグ部3、リング部4をそれぞれ別に成型した。
【0029】
次に、作製したICタグ部3とリング部4を超音波融着で一体化した。このとき、信号が、金属器具と干渉するのを抑制するため、ICタグ部3はリング部4の外側に配置した。
【0030】
作製したICタグは、HF帯用のインレットを備えたICタグについては周波数13.56(MHz)において測定したところ、約30cm離れても通信ができた。同様にUHF帯用のインレットを備えたICタグについても周波数950(MHz)において測定したところ、約30cm離れても通信ができた。
【0031】
さらに130℃で飽和蒸気圧となるように圧力を調整しながら、20分の滅菌処理試験を行った。100回の試験を行ったが、滅菌処理後もデ通信障害が生じることは無かった。
【符号の説明】
【0032】
1・・・ICチップ
2・・・アンテナ
3・・・ICタグ部
4・・・リング部
10・・・耐熱ICタグ
20・・・被媒体
図1
図2
図3