特許第5880275号(P5880275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5880275
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】蓄電装置、及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20160223BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20160223BHJP
   H01G 11/10 20130101ALI20160223BHJP
   H01G 11/12 20130101ALI20160223BHJP
   H01G 11/78 20130101ALI20160223BHJP
   H01G 11/82 20130101ALI20160223BHJP
【FI】
   H01M10/04 Z
   H01M2/16 P
   H01G11/10
   H01G11/12
   H01G11/78
   H01G11/82
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-117334(P2012-117334)
(22)【出願日】2012年5月23日
(65)【公開番号】特開2013-246879(P2013-246879A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2014年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕介
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−035472(JP,A)
【文献】 特開2011−238504(JP,A)
【文献】 特開2008−171583(JP,A)
【文献】 特開2006−331922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04−10/0587
H01M 2/14− 2/18
H01G 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極活物質層を有する正極、負極活物質を含む負極活物質層を有する負極、及びこれら正極及び負極の間に多孔質のセパレータを介装してなるセパレータ層を含み、前記正極及び前記負極が前記セパレータ層を間に挟んだ状態で積層されている電極体と、電解質と、前記電極体及び前記電解質を収容するケースとを有する蓄電装置であって、
前記ケースは、底壁の周縁部から側壁が延出て一面に開口部を有する箱状をなす本体部材と、前記本体部材溶接された状態で前記開口部を覆う蓋部材とを含み、
前記電極体は、前記正極及び負極の積層方向と、前記側壁の延出方向とを一致させた状態で前記ケースに収容されており、
前記セパレータは、第1セパレータと、前記第1セパレータを構成する材料の融点より高い温度の融点又は熱分解温度を有する材料からなる第2セパレータとを含み、前記第1セパレータは、所定温度に到達すると空孔が閉塞してイオンの通過の一部または全部を遮断する遮断層を含み、
前記電極体はそれぞれ複数の前記正極及び前記負極を積層して構成されており、
前記セパレータ層のうち、前記最も蓋部材側に形成されたセパレータ層から特定のセパレータ層までのセパレータ層は何れも前記第2セパレータからなり、前記特定のセパレータ層よりも前記底壁側に形成された他のセパレータ層は何れも前記第1セパレータからなることを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電装置の構造を備える二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置、及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、蓄電装置の一種である二次電池としては、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池などがよく知られている。例えばリチウムイオン二次電池は、金属箔(金属薄板)の表面に活物質層を形成したシート状の正極及び負極を、間に多孔質のセパレータを挟んだ状態で積層又は捲回して電極体を形成するとともに、当該電極体をケースに収容した構成とされている(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1では、溶融特性(熱的機械的特性)が異なる2種類のセパレータを用いて電極体を構成している。このため、特許文献1では、ケース内部の温度が上昇した場合に、熱的機械的特性の低いセパレータにおいてシャットダウンを生じさせる一方で、熱的機械的特性の高いセパレータによって電極間における電池反応を持続させ、電極をなす正極及び負極の充電状態を低下させることにより、自己発熱を抑制して熱安定性を向上させている。ここで「シャットダウン」とは、セパレータを構成する材料が溶融(軟化)することにより当該セパレータの空孔(微細な連通孔)が閉塞し、電極間におけるイオンの通過を阻止することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−25526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、電極体を収容するケースは、一面に開口部を有して箱状をなす本体部材と、当該本体部材の開口部を覆う蓋部材とから構成されるとともに、本体部材と蓋部材との接合には、レーザ溶接やアーク溶接などといった溶接が用いられている。蓋部材と本体部材とを溶接する場合には、本体部材と蓋部材との溶接部が加熱されることから、溶接による熱が本体部材に収容された電極体に伝達されるとともに、当該電極体の温度が部分的にセパレータの融点に達する虞がある。そして、溶接時において、電極体の温度がセパレータの融点に達した場合には、電極体を構成するセパレータが溶融したり、当該溶融に伴って前述のシャットダウンが発生したりする可能性がある。
【0006】
この発明は、上記従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、ケースの溶接時にセパレータが溶融することを抑制できる蓄電装置、及び二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、正極活物質を含む正極活物質層を有する正極、負極活物質を含む負極活物質層を有する負極、及びこれら正極及び負極の間に多孔質のセパレータを介装してなるセパレータ層を含み、前記正極及び前記負極が前記セパレータ層を間に挟んだ状態で積層されている電極体と、電解質と、前記電極体及び前記電解質を収容するケースとを有する蓄電装置であって、前記ケースは、底壁の周縁部から側壁が延出て一面に開口部を有する箱状をなす本体部材と、前記本体部材溶接された状態で前記開口部を覆う蓋部材とを含み、前記電極体は、前記正極及び負極の積層方向と、前記側壁の延出方向とを一致させた状態で前記ケースに収容されており、前記セパレータは、第1セパレータと、前記第1セパレータを構成する材料の融点より高い温度の融点又は熱分解温度を有する材料からなる第2セパレータとを含み、前記第1セパレータは、所定温度に到達すると空孔が閉塞してイオンの通過の一部または全部を遮断する遮断層を含み、前記電極体はそれぞれ複数の前記正極及び前記負極を積層して構成されており、前記セパレータ層のうち、前記最も蓋部材側に形成されたセパレータ層から特定のセパレータ層までのセパレータ層は何れも前記第2セパレータからなり、前記特定のセパレータ層よりも前記底壁側に形成された他のセパレータ層は何れも前記第1セパレータからなることを要旨とする。
【0008】
これによれば、ケースは一面に開口部を有する箱状の本体部材、及び当該本体部材と溶接されて開口部を覆う蓋部材を含んで形成されるとともに、電極体は当該電極体において積層された正極及び負極の積層方向と本体部材における側壁の延出方向とを一致させた状態でケースに収容されている。そして、正極と負極との間に第1,第2セパレータの何れかが介装されてなるセパレータ層のうち、少なくとも最も蓋部材側に形成されるセパレータ層は、第1セパレータを構成する材料の融点より高い温度の融点又は熱分解温度を有する材料からなる第2セパレータから形成されている。このため、ケースの本体部材と蓋部材とを溶接する場合であっても、最も蓋部材側に形成されるセパレータ層が第1セパレータからなる場合と比較して、ケースの溶接時にセパレータが溶融することを抑制できる。
【0010】
また、第1セパレータは、電極体の温度が遮断層の融点に達した場合、遮断層の空孔が閉塞してイオンの通過を遮断し、蓄電装置の内部抵抗を高める所謂シャットダウン機能を発揮する。このため、蓄電装置としての使用時において、電極体の温度が上昇した場合であっても、第1セパレータからなるセパレータ層によって蓄電装置の内部抵抗を高めることができる。そして、少なくとも最も蓋部材側のセパレータ層を、第1セパレータではなく第2セパレータにより形成していることから、ケースの溶接時において、遮断層を有する第1セパレータの温度が上昇することにより、遮断層の空孔が閉塞されてしまうことを好適に抑制できる。
【0012】
また、正極及び負極を積層した電極体において、特定のセパレータ層よりも本体部材の底壁側に配置される他のセパレータ層は、何れも前述のシャットダウン機能を有する第1セパレータからなる。このため、蓄電装置としての使用時において、電極体の温度が上昇した場合であっても、特定のセパレータ層よりも底壁側に形成されたセパレータ層(第1セパレータ)によって、蓄電装置の内部抵抗を好適に高めることができる。
【0013】
請求項に記載の発明は、請求項1に記載の蓄電装置の構造を備える二次電池であることを要旨とする。したがって、この発明の二次電池は、請求項1に記載の発明の効果を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ケースの溶接時にセパレータが溶融することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】リチウムイオン二次電池を模式的に示す斜視図。
図2】(a)は、分解した電極体を模式的に示す斜視図、(b)は、第1セパレータの端面を模式的に示す部分拡大図、(c)は、第2セパレータの端面を模式的に示す部分拡大図。
図3図1に示すA−A線断面図。
図4】別の実施形態における分解した電極体を模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1図3にしたがって説明する。
図1に示すように、蓄電装置としてのリチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」と示す)11は、全体として扁平な略直方体状(直方体状)をなすケース13を備えている。以下の説明では、矢印Y1に示すケース13の長手方向を左右方向と示し、矢印Y2に示すケース13の高さ方向を上下方向と示し、図3で矢印Y3に示すケース13の短手方向を前後方向と示す。
【0017】
ケース13は、矩形の平板状をなす底壁14aと、当該底壁14aを囲う4つの各縁部(周縁部)からそれぞれ前方へ向かって直角に延出形成された4つの側壁14bとからなり、全体として一面に開口部14cを有する扁平な四角箱状(有底筒状)をなす本体部材14を備えている。本体部材14は、金属材料(例えばステンレスやアルミニウムなど)から形成されている。また、各側壁14bにおける先端部の内側には、開口部14cの全周にわたって階段状をなす段部14dが形成されている。
【0018】
また、側壁14bのうち1つの側壁14b(本実施形態では上側に配置される側壁14b)には、当該側壁14bを肉厚方向(上下方向)に貫通する略円柱状をなし、一端がケース13の外側に突出する正極端子15、及び負極端子16が形成されている。本実施形態の正極端子15及び負極端子16は、金属材料からなるとともに、ケース13(本体部材14)からそれぞれ絶縁された状態で固定されている。本実施形態の二次電池11では、外部端子となる正極端子15及び負極端子16を介して充電及び放電がなされる。
【0019】
また、ケース13は、本体部材14に組み付けられ、本体部材14の開口部14cを覆って密閉する矩形の平板状に形成された蓋部材17を備えている。蓋部材17は、金属材料(例えばステンレスやアルミニウムなど)から形成されている。また蓋部材17は、本体部材14において、側壁14bの先端に形成された段部14dに嵌め込まれた状態で、その周縁部の全周にわたって例えばレーザ溶接などによって溶接され、本体部材14と相互に固定されている。
【0020】
そして、本体部材14と蓋部材17との間には、直方体状をなす収容空間Saが形成されている。このケース13内に形成される収容空間Saには、正極としての正極シート21、負極としての負極シート31、及びこれら正極シート21と負極シート31との間にセパレータを介装してなるセパレータ層18を含み、正極シート21及び負極シート31が間にセパレータ層18を挟んだ状態で積層された電極体19が収容されている。電極体19は、全体として上下方向及び左右方向に扁平な直方体状をなしている。
【0021】
図2に示すように、正極シート21は、矩形のシート状をなす正極金属箔22を備えている。正極金属箔22は、例えばアルミニウムからなる。正極金属箔22の両表面(前面及び後面)には、正極金属箔22の1辺となる上縁部23から左右方向の全幅にわたって一定幅で設定された未塗工部としての非塗布領域24aを除き、その全面に正極活物質を含む活物質合剤が塗布されて正極活物質層24(塗布領域24b)が形成されている。
【0022】
また、正極シート21は、正極金属箔22の上縁部23から上方へ向かって延出形成された四角形をなす正極リード部25を備えている。本実施形態の正極リード部25は、正極シート21において正極金属箔22と一体に形成されている。また、正極リード部25は、上縁部23における左右方向の左側に形成されている。そして、正極リード部25の両表面は、正極活物質層24が形成されておらず、非塗布領域24aの一部を構成する。
【0023】
また、負極シート31は、矩形のシート状をなす負極金属箔32を備えている。負極金属箔32は、例えば銅からなる。負極金属箔32の両表面(前面及び後面)には、負極金属箔32の1辺となる上縁部33から左右方向の全幅にわたって一定幅で設定された未塗工部としての非塗布領域34aを除き、その全面に負極活物質を含む活物質合剤が塗布され、負極活物質層34(塗布領域34b)が形成されている。
【0024】
また、負極シート31は、負極金属箔32の上縁部33から上方へ向かって延出形成された四角形をなす負極リード部35を備えている。本実施形態の負極リード部35は、負極シート31において負極金属箔32と一体に形成されている。また、負極リード部35は、上縁部33における左右方向の右側に形成されている。そして、負極リード部35の両表面は、負極活物質層34が形成されておらず、非塗布領域34aの一部を構成する。
【0025】
また、セパレータ層18は、絶縁性を有する樹脂材料からなり、極めて微細な空孔構造を有する多孔質のセパレータを正極シート21及び正極金属箔22の間に介装させて形成されている。本実施形態では、セパレータ層18を構成するセパレータとして、第1セパレータ18a、及び当該第1セパレータとは異なる樹脂材料から形成された第2セパレータ18bが用いられている。なお、この第1セパレータ18a及び第2セパレータ18bについては、後に詳しく説明する。
【0026】
そして、電極体19は、正極シート21及び負極シート31の間に第1セパレータ18a又は第2セパレータ18b(セパレータ層18)を挟んだ状態で、正極シート21及び負極シート31を前後方向(厚さ方向)に交互に積層して形成されている。本実施形態の電極体19は、複数枚(例えば80枚)の正極シート21と、複数枚(例えば81枚)の負極シート31を積層して形成される。
【0027】
本実施形態では、矢印Y1に示す左右方向、及びY2に示す上下方向が正極シート21、負極シート31、及びセパレータ層18の面に沿った方向となり、矢印Y3に示す前後方向が電極体19における正極シート21、負極シート31、及びセパレータ層18の積層方向となる。
【0028】
そして、図1に示すように、電極体19の上縁部において、左右方向の中央より左側には、正極リード部25がセパレータ層18を介装させない状態で前記積層方向に積層された正極集電部(正極リード群)28が形成されている。また、電極体19の上縁部において左右方向の中央より右側には、負極リード部35がセパレータ層18を介装させない状態で前記積層方向に積層された負極集電部(負極リード群)38が形成されている。
【0029】
また、図3に示すように、電極体19では、その積層方向の両端に負極シート31が配置されている。なお本実施形態において、各正極シート21の正極金属箔22は、各負極シート31の負極金属箔32よりも小さく形成されているとともに、電極体19における積層方向から見た場合において、各正極シート21の塗布領域24bは、負極シート31の塗布領域34bに内包されている。
【0030】
本実施形態の電極体19は、絶縁性フィルムからなる絶縁袋13aに覆われた状態で収容空間Sa(本体部材14)に収容されている。絶縁袋13aをなす絶縁性フィルム(材料)は、第1セパレータ18aを形成する材料の融点より高い温度の融点、又は熱分解温度を有する材料から形成されている。
【0031】
また、電極体19は、当該電極体19をなす正極シート21及び負極シート31の積層方向と、側壁14bの延出方向とを一致させた状態でケース13(本体部材14)に収容されている。即ち電極体19は、本体部材14に対する電極体19の挿入方向(開口部14cから底壁14aへ向かう方向)と、電極体19における積層方向とを一致させた状態で本体部材14に収容されている。
【0032】
そして、ケース13内において電極体19は、間に絶縁袋13aを挟んだ状態で、その積層方向における端面が蓋部材17の内側面、及び本体部材14における底壁14aの内側面とそれぞれ対向させた状態で配置されている。また、電極体19において蓋部材17側に配置される端面(前面)、絶縁袋13a、及び蓋部材17の内側面は、相互に面接触している一方で、電極体19において底壁14a側に配置される端面(後面)、絶縁袋13a、及び底壁14aの内側面は、相互に面接触している。
【0033】
また、図1に示すように、正極集電部28(正極リード部25)は、四角形の平板状をなす集電部材としての正極集電端子40の一端に対し、例えば抵抗溶接などにより接合され、電気的に接続されている。また、正極集電端子40の他端は、ケース13の収容空間Saに突出する正極端子15の他端側に連結され、電気的に接続されている。
【0034】
負極集電部38(負極リード部35)は、四角形の平板状をなす集電部材としての負極集電端子41の一端に対し、例えば抵抗溶接などにより接合され、電気的に接続されている。また、負極集電端子41の他端は、ケース13の収容空間Saに突出する負極端子16の他端側に連結され、電気的に接続されている。そして、ケース13(収容空間Sa)内には、電解質(電解液)が充填されている。
【0035】
次に、電極体19を構成する第1セパレータ18a及び第2セパレータ18bについて詳しく説明する。
図2(b)に示すように、第1セパレータ18aは、ポリプロピレンからなる多孔質の基材層Laを、ポリエチレンからなる多孔質の細孔層Lbで挟むように積層した多層構造(本実施形態では3層構造)とされている。ポリプロピレンの融点は、160℃〜170℃であり、ポリエチレンの融点は、130℃〜140℃である。
【0036】
第1セパレータ18aでは、温度が細孔層Lbを構成するポリエチレンの融点(所定温度)に達すると、当該細孔層Lbをなすポリエチレンが溶融(軟化)して空孔構造が崩壊し、細孔層Lbに形成された空孔(微細な連通孔)が閉塞される。これにより、第1セパレータ18aは、正極シート21と負極シート31との間のイオンの通過の一部又は全部を阻止(遮断)して二次電池11の内部抵抗を高め、二次電池11の温度上昇を抑制するようになっている(所謂「シャットダウン機能」)。このように、本実施形態では、第1セパレータ18aをなす細孔層Lbが遮断層として機能することにより、セパレータ層18は、シャットダウン機能を有する。以下の説明では、セパレータ層18の細孔層Lbを構成するポリエチレンの融点を特にシャットダウン温度と示す。
【0037】
また、図2(c)に示すように、第2セパレータ18bは、融点を有さず且つ第1セパレータ18aを構成する材料(本実施形態ではポリプロピレン及びポリエチレン)よりも高い温度の熱分解温度を有するアラミド樹脂から形成されている。なお、第2セパレータ18bは単層構造をなしている。このアラミド樹脂は、ポリプロピレンやポリエチレンと比較して高い耐熱性を有する樹脂材料であり、その熱分解温度は400℃〜500℃である。
【0038】
このため、第2セパレータ18bは、前述したシャットダウン機能を有さないとともに、第1セパレータ18aの融点を超える温度下であっても安定であり、空孔構造の崩壊が少ない。また、第2セパレータ18bは、アラミド樹脂が融点を有していないことから、アラミド樹脂の熱分解温度より低く且つシャットダウン温度より高い温度(例えば200℃)の環境下において殆ど収縮しない。
【0039】
そして、図3に示すように、電極体19におけるセパレータ層18のうち、最も蓋部材17側に形成されたセパレータ層18から、特定のセパレータ層(本実施形態では4層目)までの各セパレータ層18は、何れも第2セパレータ18bで形成されている。そして、上記特定のセパレータ層よりも本体部材14における底壁14a側に形成された他のセパレータ層18は、何れも第1セパレータ18aで形成されてなる。特定のセパレータ層とは、本体部材14と蓋部材17とを溶接する際の熱により、第1セパレータ18aではシャットダウンしてしまう可能性があるセパレータ層18であり、溶接条件や設計等によって適宜判断される。
【0040】
次に、上記のように構成した二次電池11の作用の作用を説明する。
本実施形態のケース13は、一面に開口部14cを有する箱状の本体部材14、及び当該本体部材14と溶接されて開口部14cを覆う蓋部材17を含んで形成されるとともに、電極体19は正極シート21及び負極シート31の積層方向と側壁14bの延出方向とを一致させた状態でケース13に収容されている。
【0041】
そして、正極シート21と負極シート31との間に形成されたセパレータ層18のうち、最も蓋部材17側に形成されたセパレータ層18から特定のセパレータ層(本実施形態では4層目)までの各セパレータ層18は、何れも第2セパレータ18bから形成されている。前述のように、第2セパレータ18bは、融点を有さず且つ第1セパレータ18aを構成する樹脂材料よりも高い温度の熱分解温度を有するアラミド樹脂から形成されている。
【0042】
ここで、図3において矢印Y4に示すように、本体部材14と蓋部材17との溶接(接合)は、蓋部材17の周縁部に沿って溶接加工用のレーザ光を照射することにより、蓋部材17及び本体部材14を溶融させて行うことができる。このとき、蓋部材17の周縁部にレーザ光が照射されることで、レーザ光の照射部位における温度が急激に上昇される。そして、矢印Y5に示すように、レーザ光の照射部位で発生した熱は、蓋部材17を介して電極体19に伝達される。
【0043】
しかしながら、本実施形態において、最も蓋部材17側に形成されたセパレータ層18は、第2セパレータ18bから形成されている。このため、ケース13の本体部材14と蓋部材17とを溶接する場合であっても、最も蓋部材17側に形成されるセパレータ層18が第1セパレータ18aからなる場合と比較して、ケース13の溶接時にセパレータが溶融することを抑制できる。
【0044】
さらに、本実施形態では、最も蓋部材17側に形成されたセパレータ層18から、特定のセパレータ層(本実施形態では4層目)までの各セパレータ層18を全て第2セパレータ18bにより形成している。このため、最も蓋部材17側に形成されたセパレータ層18のみを第2セパレータ18bとする構成と比較して、より確実にセパレータ層18を構成するセパレータの溶融を抑制できる。
【0045】
また、本実施形態の第2セパレータ18bは、高温でも殆ど収縮しないことから、溶接による熱が伝達されても容易に収縮せず、負極シート31と正極シート21との絶縁性を好適に保つことができる。
【0046】
また、本実施形態において、前記特定のセパレータ層よりも本体部材14における底壁14a側に形成された他のセパレータ層18は、何れもシャットダウン機能を有する第1セパレータ18aからなる。このため、二次電池11としての使用時において、電極体19の温度が上昇した場合であっても、特定のセパレータ層よりも底壁14a側に形成されたセパレータ層18(第1セパレータ18a)によって二次電池11の内部抵抗を好適に高めることができる。
【0047】
そして、本実施形態では、セパレータ層18の一部に第1セパレータ18aを用いる場合であっても、蓋部材17側に形成されたセパレータ層18を第2セパレータ18bにより形成することにより、ケース13の溶接時に第1セパレータ18aの温度が上昇し、細孔層Lbの空孔が閉塞されてしまうことを好適に抑制できる。即ち、本体部材14と蓋部材17とを溶接する際に、第1セパレータ18aのシャットダウン機能が働いてしまうことを好適に抑制できる。
【0048】
また、上記のように構成された二次電池11は種々の用途に使用されるが、例えば、車両に搭載されて、走行用モータの電源として使用される。
したがって、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0049】
(1)ケース13は、開口部14cを有する本体部材14、及び本体部材14と溶接される蓋部材17を含んで形成されるとともに、電極体19は、正極シート21及び負極シート31の積層方向と本体部材14における側壁14bの延出方向とを一致させた状態でケース13に収容されている。そして、電極体19を構成するセパレータ層18のうち、最も蓋部材17側に形成されるセパレータ層18は、第1セパレータ18aを構成する材料の融点より高い温度の熱分解温度を有する第2セパレータ18bからなる。このため、ケース13の本体部材14と蓋部材17とを溶接する場合であっても、最も蓋部材17側に形成されるセパレータ層18が第1セパレータ18aからなる場合と比較して、セパレータ層18をなすセパレータが溶融することを抑制できる。
【0050】
(2)第1セパレータ18aは、電極体19の温度が細孔層Lbの融点に達した場合、当該細孔層Lbの空孔が閉塞してイオンの通過を遮断し、二次電池11の内部抵抗を高めてシャットダウン機能を発揮する。このため、二次電池11としての使用時において、電極体19の温度が上昇した場合であっても、第1セパレータ18aからなるセパレータ層18によって二次電池11の内部抵抗を高めることができる。そして、少なくとも最も蓋部材17側のセパレータ層18を、第1セパレータ18aではなく第2セパレータ18bにより形成していることから、ケース13の溶接時においては、細孔層Lbを有する第1セパレータ18aの温度が上昇することにより、細孔層Lbの空孔が閉塞されてしまうことを好適に抑制できる。
【0051】
(3)正極シート21及び負極シート31を積層した電極体19において、特定のセパレータ層よりも本体部材14の底壁14a側に配置される他のセパレータ層18は、前述のシャットダウン機能を有する第1セパレータ18aからなる。このため、二次電池11としての使用時において、電極体19の温度が上昇した場合であっても、特定のセパレータ層よりも底壁14a側に形成されたセパレータ層18(第1セパレータ18a)によって二次電池11の内部抵抗を好適に高めることができる。
【0052】
(4)最も蓋部材17側に形成されたセパレータ層18から、特定のセパレータ層(本実施形態では4層目)までの各セパレータ層18を全て第2セパレータ18bにより形成している。このため、最も蓋部材17側に形成されたセパレータ層18のみを第2セパレータ18bとする構成と比較して、より確実にセパレータ層18を構成するセパレータの溶融を抑制できる。
【0053】
(5)二次電池11としてケース13の溶接時にセパレータ層18をなすセパレータが溶融することを抑制できる結果、二次電池11としての内部抵抗が高くなることを抑制できる。このため、電気容量の低下に伴って二次電池11の充電サイクルが短くなることを抑制できる。
【0054】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
図4に示すように、電極体19は、正極シート21、負極シート31、及びセパレータ18a,18bを帯状(長尺のシート状)に形成するとともに、これらを積層した状態で渦まき状に捲回してもよい。この場合、正極シート21の上縁部23には、正極シート21の長さ方向において所定間隔で正極リード部25を延出形成する一方で、負極シート31の上縁部33には、負極シート31の長さ方向において所定間隔で負極リード部35を延出形成する。
【0055】
また、本別例では、第1セパレータ18aと第2セパレータ18bとを長さ方向の途中で接続する(切り替える)とともに、捲回の始端側に第1セパレータ18aを配置する一方で捲回の終端側に第2セパレータ18bを配置する。
【0056】
そして、セパレータ18a,18b、正極シート21、及び負極シート31を積層した状態で捲回することにより、電極体19において上縁部の左側には、複数の正極リード部25がセパレータ層18を間に挟まない状態で積層された正極集電部28が上方に向かって延出形成される。また、電極体19において上縁部の右側には、複数の負極リード部35がセパレータ層18を間に挟まない状態で積層された負極集電部38が形成される。そして、電極体19において捲回軸線と直交する方向の外側には、正極シート21と負極シート31との間に第2セパレータ18bからなるセパレータ層18が形成される一方で、内側には、第1セパレータ18aからなるセパレータ層18が形成される。このように形成された電極体19をケース13に収容することにより、電極体19を構成するセパレータ層18のうち、最も蓋部材17側に形成されるセパレータ層18を、第2セパレータ18bからなるセパレータ層18とすることができる。
【0057】
○ 電極体19を構成するセパレータ層18のうち、最も蓋部材17側に形成されるセパレータ層18のみを第2セパレータ18bから形成してもよい。また、特定のセパレータ層として、蓋部材17側から2層目、或いは3層目や、5層目より底壁14a側のセパレータ層を設定してもよい。また、特定のセパレータ層よりも底壁14a側に配置されるセパレータ層18の一部を、第2セパレータ18bから形成してもよい。即ち、セパレータ層18のうち、少なくとも最も蓋部材17側に形成されるセパレータ層18が第2セパレータ18bから形成されておればよい。
【0058】
○ ケース13と電極体19との絶縁のため、電極体19における積層方向の両端に第1セパレータ18a又は第2セパレータ18bを配置してもよい。
○ 第1セパレータ18aは、細孔層Lbのみからなる単層構造をなしていてもよい。同様に第2セパレータ18bは、複層構造をなしていてもよい。
【0059】
○ 第2セパレータ18bは、融点を有し且つ第1セパレータ18aを構成する樹脂材料の融点よりも高い融点を有する材料から形成してもよい。
○ 第1セパレータ18a及び第2セパレータ18bの材質を変更してもよい。例えば、第2セパレータ18bとしてガラス繊維からなるセパレータを用いてもよい。
【0060】
○ ケース13(本体部材14及び蓋部材17)は、例えばアーク溶接などを用いて溶接してもよい。
○ 正極金属箔22としたが、二次電池11における電気容量(電池容量)の低下や電池作製時に影響しない程度の厚みのある薄板であってもよい。負極金属箔32についても同様に変更できる。
【0061】
○ 電極体19を構成する正極シート21、及び負極シート31の枚数は適宜変更してもよい。
○ ケース13(本体部材14)の形状は、円柱状や、左右方向に扁平な楕円柱状に形成してもよい。
【0062】
○ 本発明は、蓄電装置としてのニッケル水素二次電池や、電気二重層キャパシタとして具体化してもよい。
上記実施形態及び別例(変形例)からは、以下の技術的思想を把握できる。
【0063】
(イ)前記電極体において、前記特定のセパレータ層より前記底壁側には複数のセパレータ層が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の蓄電装置。
【符号の説明】
【0064】
Lb…細孔層(遮断層)、11…リチウムイオン二次電池(蓄電装置)、13…ケース、14…本体部材、14a…底壁、14b…側壁、14c…開口部、17…蓋部材、18…セパレータ層、18a…第1セパレータ、18b…第2セパレータ、19…電極体、21…正極シート(正極)、24…正極活物質層、31…負極シート(負極)、34…負極活物質層。
図1
図2
図3
図4