(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
内燃機関を動力とする近年の車両は、燃費をより向上させるために信号待ち等での一時的なアイドリング状態である場合に内燃機関を一時的に停止する、いわゆるアイドル停止の機能を備えた車両が増加傾向にある。
また従来より、内燃機関の運転中は、クランクシャフト等の回転力を動力とする機械式オイルポンプを用いて、オイルパンに溜めてある潤滑オイルを吸い上げ、潤滑を必要とする摺動部や回転部へ潤滑オイルを供給することで摺動部や回転部の摩耗を抑制している。
内燃機関を停止させると、機械式オイルポンプが停止し、潤滑オイルを供給する各油路の圧力は時間の経過とともに低下し、油膜が徐々に薄くなっていく。
内燃機関が始動されれば、再度、摺動部や回転部に潤滑オイルが供給されるが、内燃機関が始動された後でなければ機械式オイルポンプが動作しないので、潤滑オイルの供給遅れが発生する。従って、アイドル停止等にて内燃機関の停止と始動を繰り返す場合、摺動部や回転部の摩耗が増大する可能性がある。
なお、電動式ポンプを追加して、内燃機関の始動の際、始動に先立って電動式ポンプにて潤滑オイルを数秒間、摺動部や回転部に供給した後に、内燃機関を始動する方法も考えられるが、信号待ちからの始動等では、わずか数秒であっても始動遅れが発生することは好ましくない。
【0003】
ここで特許文献1に記載された従来技術には、エンジンの運転中は、シリンダブロックの側壁に設けた収縮バッグ内に潤滑オイルを溜めておき、エンジンを始動する際は収縮バッグに設けられたアクチュエータを駆動して収縮バッグ内の潤滑オイルを摺動部や回転部に供給した後にエンジンを始動する、潤滑装置及びこれを備えたエンジンが記載されている。
また特許文献2に記載された従来技術には、コンプレッサを回転駆動させる電動機を備えたターボチャージャにおいて、内燃機関の非運転時でもコンプレッサ回転軸に潤滑液を供給可能なターボチャージャが記載されている。そして特許文献2には、内燃機関の始動以前に、流量制御弁を制御して貯留タンク内の潤滑液をコンプレッサ回転軸に供給することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に記載された従来技術は、専用のタンク等に予め潤滑オイルを蓄えておき、内燃機関を始動する前に、蓄えておいた潤滑オイルを用いて潤滑を必要とする部位に潤滑オイルを供給しており、摩耗を抑制することができるが、内燃機関の始動の要求が発生したときに潤滑オイルを供給する時間(数秒)が必要であり、始動遅れが発生する。信号待ち等でのアイドル停止状態からの始動では、わずか数秒の始動遅れであっても好ましくない。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、潤滑を必要とする摺動部や回転部に適切に潤滑オイルが供給されている状態にてアイドル停止状態から内燃機関を始動することが可能であり、且つ数秒の始動遅れをも発生させることがない、内燃機関の潤滑機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る内燃機関の潤滑機構は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、内燃機関における所定の潤滑対象部位への潤滑オイルを溜めることが可能なオイル溜め空間と、前記内燃機関の運転中に前記潤滑対象部位に潤滑オイルを供給する経路とは異なる経路であって前記オイル溜め空間に溜められている潤滑オイルを前記潤滑対象部位へと導くオイル供給経路と、前記オイル供給経路に設けられた弁手段と、を有する内燃機関の潤滑機構である。
前記オイル溜め空間は、前記潤滑対象部位よりも高い位置に配置され、前記内燃機関の一部の潤滑に利用された潤滑オイルの戻経路が接続されて前記内燃機関の運転中には前記戻経路を流れる潤滑オイルが溜められる。
そして、前記弁手段は、前記オイル供給経路を開口または閉鎖することが可能であり、前記内燃機関が運転中の場合は、前記オイル溜め空間に潤滑オイルを蓄えることができるように、且つ前記オイル供給経路を経由して前記潤滑対象部位から前記オイル溜め空間へと潤滑オイルが逆流しないように閉鎖しており、前記内燃機関が停止した場合は、前記オイル溜め空間に蓄えた潤滑オイルを前記潤滑対象部位へ供給するように開口する。
【0007】
この第1の発明によれば、内燃機関が運転中にはオイル溜め空間に潤滑オイルを溜め、内燃機関が停止した場合にはオイル溜め空間の潤滑オイルを潤滑対象部位に供給する。
これにより、潤滑を必要とする摺動部や回転部に適切に潤滑オイルが供給されている状態にてアイドル停止状態から内燃機関を始動することが可能となる。
また、内燃機関の再始動がいつ発生してもよいように、内燃機関の停止中に潤滑オイルを供給しているので、数秒の始動遅れをも発生させることなく再始動を行うことができる。
【0008】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関の潤滑機構であって、前記弁手段は電磁弁であり、前記弁手段を開口または閉鎖することが可能な制御手段を備え。
そして、前記制御手段は、前記内燃機関が運転中の場合は、前記弁手段を閉鎖し、前記内燃機関が再始動を前提とした一時的な停止状態であるアイドル停止状態となった場合は、前記弁手段を開口する。
【0009】
この第2の発明によれば、電磁弁(弁手段)と制御手段とを用いて、内燃機関の停止中はオイル溜め空間に潤滑オイルを溜め、アイドル停止状態となった場合にオイル溜め空間から潤滑対象部位に潤滑オイルを供給する。
これにより、潤滑を必要とする摺動部や回転部に適切に潤滑オイルが供給されている状態にてアイドル停止状態から内燃機関を始動することが可能であり、且つ数秒の始動遅れをも発生させることなく再始動を行うことができる。
【0010】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関の潤滑機構であって、前記弁手段は、逆流防止弁であり、前記内燃機関が運転中の場合は、前記オイル供給経路を経由して前記潤滑対象部位から前記オイル溜め空間へと潤滑オイルが逆流しないように閉鎖し、前記内燃機関が停止した場合は、前記オイル溜め空間から前記潤滑対象部位へと潤滑オイルが流れるように開口する。
【0011】
この第3の発明によれば、逆流防止弁にて弁手段を実現する。そして制御手段を用いることなく、内燃機関の停止中は自動的に潤滑対象部位からの潤滑オイルの逆流を防止するように閉鎖してオイル溜め空間に潤滑オイルを溜め、アイドル停止状態となった場合に自動的に開口してオイル溜め空間から潤滑対象部位に潤滑オイルを供給する。
これにより、潤滑を必要とする摺動部や回転部に適切に潤滑オイルが供給されている状態にてアイドル停止状態から内燃機関を始動することが可能であり、且つ数秒の始動遅れをも発生させることなく再始動を行うことができる。また、よりシンプルな構成にて潤滑機構を構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。
●[内燃機関の潤滑機構の概略(
図1)と、内燃機関の潤滑機構の構造(
図2)]
まず
図1及び
図2を用いて、本発明の内燃機関の潤滑機構の構造について説明する。本実施の形態の説明では、内燃機関の例として、車両に搭載されたエンジン10の例を説明する。なお
図1は、内燃機関(エンジン10)の潤滑機構の概略を説明するブロック図を示しており、実線にて示す部分は本発明の内燃機関の潤滑機構に相当する部分であり、点線にて示す部分は従来から用いられている内燃機関の潤滑機構に相当する部分である。
本発明の内燃機関の潤滑機構は、オイル溜め空間51、戻経路51A、51B、オイル供給経路52A、52B、弁手段52、制御手段50、信号線50A等にて構成されている。
また
図2(A)は、エンジン10におけるクランクシャフト21の軸方向に直交する平面による断面図であり、
図2(B)は、
図2(A)におけるB−B断面図であり、内燃機関(エンジン10)の潤滑機構(オイル溜め空間51、戻経路51A、51B、オイル供給経路52A、52B、弁手段52)の具体的な構造の例を示している。
【0014】
図1に示すように、エンジン10の下部には、エンジン10の摺動部及び回転部を潤滑するための潤滑オイルが溜められたオイルパン26が設けられている。
オイルパン26に溜められている潤滑オイルは、(機械式)オイルポンプ27にて吸い上げられ、オイルクーラー28へと吐出される。
オイルクーラー28にて冷却された潤滑オイルは、各摺動部及び回転部への供給経路に供給される。例えば、一部の潤滑オイルは供給経路11Aからカムシャフト11に供給され、一部の潤滑オイルは供給経路21Aからクランクシャフト21に供給され、一部の潤滑オイルは供給経路29A及びオイルジェット29を経由してピストン24に供給され、一部の潤滑オイルは供給経路30Aからターボチャージャ30に供給される。
各摺動部及び回転部に供給された潤滑オイルは、潤滑(及び冷却)に使用された後、戻経路11R、21R、24R、30Rにてオイルパン26に戻される。
【0015】
エンジン10を備えた近年の車両は、燃費の向上を目的として、信号待ち等にて一時的なアイドル状態となった場合にエンジン10を停止する、いわゆるアイドル停止の機能を備えた車両が増加傾向にある。
アイドル停止状態は、再始動を前提とした一時的な停止状態であるので、アイドル停止状態からブレーキを開放等の所定条件を満足した場合には、瞬時にエンジン10が再始動される。
ところがアイドル停止中は(機械式)オイルポンプ27が停止しているので、各供給経路11A、21A、29A、30Aの油圧が時間の経過とともに低下し、潤滑対象部位の油膜が徐々に薄くなっていく。
従って、アイドル停止状態からの再始動時に必要な油膜の厚さを維持できていない部位では、摩耗が増大する可能性がある。
本発明の内燃機関の潤滑機構は、内燃機関における所定の潤滑対象部位に、内燃機関の停止中において、内燃機関の運転中とは異なる経路から潤滑オイルを供給する構成を有している。
【0016】
図1に示すように、本発明の内燃機関の潤滑機構は、オイル溜め空間51、戻経路51A、51B、オイル供給経路52A、52B、弁手段52、制御手段50、信号線50A等にて構成されている。
なお、本実施の形態の説明では、エンジン10(内燃機関)が停止した場合であっても潤滑オイルを供給するべき所定の潤滑対象部位をクランクシャフト21の軸受22とした例を説明する。
図2(A)に示すように、オイル溜め空間51は、潤滑対象部位へ供給するための潤滑オイルを溜めておくこことが可能である。本実施の形態では、オイル溜め空間51をカムシャフト11よりも低い位置に配置しており、シリンダヘッド13に形成された戻経路51Aを経由させてカムシャフト11の潤滑に利用された潤滑オイルをオイル溜め空間51に溜めている。
またオイル溜め空間51には戻経路51Bが接続されており、必要以上に溜まった潤滑オイルをオイルパン26に戻している。
またオイル溜め空間51の下方には、潤滑対象部位へ潤滑オイルを供給するためのオイル供給経路52A、52Bが接続されている。そしてオイル供給経路52A、52Bの任意の位置には、オイル供給経路52A及び52Bを開口または閉鎖することが可能な弁手段52が設けられている。また
図1に示すように、弁手段52は、制御手段50から信号線50Aを介して制御される電磁弁である。
またオイル溜め空間51は、潤滑対象部位(この場合、クランクシャフト21の軸受22)よりも高い位置に配置されている。
【0017】
図2(A)には、オイル溜め空間51をシリンダブロック14に形成し、戻経路51Aをシリンダヘッド13に形成し、戻経路51Bをシリンダブロック14及びクランクケース25に形成し、オイル供給経路52Aをシリンダブロック14に形成した例を示している。
また
図2(B)(
図2(A)におけるB−B断面図)に示すように、クランクシャフト21は、クランク23、クランクジャーナル21Jを有しており、クランクジャーナル21Jは軸受22を介してクランク支持壁25Aに支持されている。そしてクランク支持壁25Aには、エンジン10の運転中に潤滑オイルを供給する供給経路21A(
図1参照)、エンジン10の停止中にオイル溜め空間51から潤滑オイルを供給するオイル供給経路52Bが形成されている。
なお、オイル溜め空間51をシリンダブロック14の内部等に形成することなく、
図2(A)に点線にて示すように別体のオイルタンク51Z(オイル溜め空間に相当)を取り付け、戻経路51A、52B、オイル供給経路52Aに相当する各配管を接続するようにしてもよい。
【0018】
●[制御手段50の処理手順(
図3)]
次に
図3のフローチャートを用いて、制御手段50による弁手段52の制御の処理手順について説明する。
図3に示すフローチャートの処理は、所定タイミング(例えば数ms〜数10ms等の所定時間間隔)で実行される。
【0019】
ステップS10にて制御手段50は、現在、アイドル停止を実行中であるか否か(現在、アイドル停止状態であるか否か)を判定する。アイドル停止を実行中である場合(Yes)はステップS12に進み、アイドル停止を実行中でない場合(No)はステップS20に進む。なお、ステップS12〜S18はアイドル停止の解除を判定する条件であり、ステップS20〜S36はアイドル停止の実行を判定する条件である。
ステップS12に進んだ場合、制御手段50は、アイドル停止の継続時間が所定時間以上であるか否かを判定する。アイドル停止の継続時間が所定時間以上である場合(Yes)はステップS40Bに進み、アイドル停止の継続時間が所定時間未満である場合(No)はステップS14に進む。アイドル停止状態には、最大許容時間が設定されており、制御手段50は、アイドル停止状態が最大許容時間に達すると、アイドル停止状態を強制的に解除してエンジン10を再始動させる。例えば最大許容時間が2分である場合、所定時間は2分に設定される。そして、オイル溜め空間51の容量は、この2分間の間、潤滑対象部位に潤滑オイルを供給可能な容量以上に設定されており、例えば最大許容時間が2分の場合、容量は200[cc]程度に設定される。なお容量は、車両のサイズ(軸受22のサイズ)と最大許容時間に応じて適切な容量に設定される。
【0020】
ステップS14に進んだ場合、制御手段50は、自身が搭載される車両がAT車であるか否かを判定する。車両がAT車である場合(Yes)はステップS16に進み、車両がMT車である場合(No)はステップS18に進む。制御手段50は、所定の検出手段からの検出信号に基づいて、自身が搭載されている車両がAT車であるか否かを判定することが可能である。
ステップS16に進んだ場合、制御手段50は、ブレーキが開放されたか否かを判定する。ブレーキが開放された場合(Yes)はステップS40Bに進み、ブレーキが開放されていない場合(No)はステップS42Aに進む。制御手段50は、ブレーキ踏込量検出手段からの検出信号に基づいてブレーキの踏込量を検出することが可能である。
ステップS18に進んだ場合、制御手段50は、クラッチの開放状態からの踏込量が第1所定量以上であるか否かを判定する。クラッチの開放状態からの踏込量が第1所定量以上である場合(Yes)はステップS40Bに進み、クラッチの開放状態からの踏込量が第1所定量未満の場合(No)はステップS42Aに進む。制御手段50は、(MT車の場合、)クラッチ踏込量検出手段からの検出信号に基づいてクラッチの踏込量を検出することが可能である。
【0021】
ステップS20に進んだ場合、制御手段50は、冷却水温が第1所定温度以上であるか否かを判定する。冷却水温が第1所定温度以上である場合(Yes)はステップS21に進み、冷却水温が第1所定温度未満である場合(No)はステップS42Bに進む。制御手段50は、冷却水温検出手段からの検出信号に基づいて冷却水温を検出することが可能である。
ステップS21に進んだ場合、制御手段50は、外気温が第2所定温度以上であるか否かを判定する。外気温が第2所定温度以上である場合(Yes)はステップS22に進み、外気温が第2所定温度未満である場合(No)はステップS42Bに進む。制御手段50は、外気温検出手段からの検出信号に基づいて外気温を検出することが可能である。
ステップS22に進んだ場合、制御手段50は、大気圧が所定圧力以上であるか否かを判定する。大気圧が所定圧力以上である場合(Yes)はステップS23に進み、大気圧が所定圧力未満である場合(No)はステップS42Bに進む。制御手段50は、大気圧検出手段からの検出信号に基づいて大気圧を検出することが可能である。
【0022】
ステップS23に進んだ場合、制御手段50は、始動後の走行距離が所定距離以上(例えば3km以上)であるか否かを判定する。始動後の走行距離が所定距離以上である場合(Yes)はステップS24に進み、始動後の走行距離が所定距離未満である場合(No)はステップS42Bに進む。制御手段50は、速度検出手段からの検出信号に基づいて検出した速度と走行時間に基づいて走行距離を検出することが可能である。
ステップS24に進んだ場合、制御手段50は、車両の速度が所定速度以下(例えば25km/h以下)であるか否かを判定する。車両の速度が所定速度以下である場合(Yes)はステップS25に進み、車両の速度が所定速度より大きい場合(No)はステップS42Bに進む。制御手段50は、速度検出手段からの検出信号に基づいて車両の速度を検出することが可能である。
ステップS25に進んだ場合、制御手段50は、ステアリングの操舵角度が所定角度以下(例えば90度以下)であるか否かを判定する。ステアリングの操舵角度が所定角度以下である場合(Yes)はステップS26に進み、ステアリングの操舵角度が所定角度より大きい場合(No)はステップS42Bに進む。制御手段50は、操舵角度検出手段からの検出信号に基づいてステアリングの操舵角度を検出することが可能である。
【0023】
ステップS26に進んだ場合、制御手段50は、ブレーキ踏込量が所定踏込量以上であるか否かを判定する。ブレーキの踏込量が所定踏込量以上である場合(Yes)はステップS27に進み、ブレーキの踏込量が所定踏込量未満である場合(No)はステップS42Bに進む。
ステップS27に進んだ場合、制御手段50は、バッテリ容量が所定容量以上であるか否かを判定する。バッテリ容量が所定容量以上である場合(Yes)はステップS30に進み、バッテリ容量が所定容量未満である場合(No)はステップS42Bに進む。制御手段50は、バッテリ容量検出手段からの検出信号に基づいてバッテリの容量を検出することが可能である。
【0024】
ステップS30に進んだ場合、制御手段50は、自身が搭載されている車両がAT車であるか否かを判定する。車両がAT車である場合(Yes)はステップS31に進み、車両がMT車である場合(No)はステップS35に進む。
ステップS31に進んだ場合、制御手段50は、シフトポジションがDレンジまたは1速であるか否かを判定する。シフトポジションがDレンジまたは1速である場合(Yes)はステップS32に進み、シフトポジションがDレンジでも1速でもない場合(No)はステップS42Bに進む。制御手段50は、シフトポジション検出手段からの検出信号に基づいてシフトポジションを検出することが可能である。
ステップS32に進んだ場合、制御手段50は、後退後の停止であるか否かを判定する。後退後の停止(駐車後の停止)である場合(Yes)はステップS42Bに進み、後退後の停止でない場合(No)はステップS40Aに進む。制御手段50は、検出したシフトポジションに基づいて後退後の停止であるか否かを判定することが可能である。
【0025】
ステップS35に進んだ場合、制御手段50は、クラッチの開放状態からの踏込量が第2所定量以上であるか否かを判定する。クラッチの開放状態からの踏込量が第2所定量以上である場合(Yes)はステップS36に進み、クラッチの開放状態からの踏込量が第2所定量未満である場合(No)はステップS42Bに進む。
ステップS36に進んだ場合、制御手段50は、後退後の停止であるか否かを判定する。後退後の停止(駐車後の停止)である場合(Yes)はステップS42Bに進み、後退後の停止でない場合(No)はステップS40Aに進む。制御手段50は、シフトポジション検出手段からの検出信号に基づいてシフトポジションを検出し、検出したシフトポジションに基づいて後退後の停止であるか否かを判定することが可能である。
【0026】
ステップS40Aに進んだ場合、制御手段50は、アイドル停止処理を実行してステップS42Aに進む。なおアイドル停止処理は既存の処理であり、エンジン10の運転を停止する処理である。
ステップS42Aに進んだ場合、制御手段50は、弁手段52が開口状態となるように信号線50Aを介して弁手段52に制御信号(駆動信号)を出力し、処理を終了する。
ステップS40Bに進んだ場合、制御手段50は、アイドル停止の解除処理を実行してステップS42Bに進む。なおアイドル停止の解除処理は既存の処理であり、アイドル停止状態のエンジン10を再始動する処理である。
ステップS42Bに進んだ場合、制御手段50は、弁手段52が閉鎖状態となるように信号線50Aを介して弁手段52に制御信号(駆動信号)を出力し、処理を終了する。
【0027】
●[電磁弁の代わりに逆流防止弁を用いた例]
以上に説明した本実施の形態では、弁手段52として電磁弁を用い、当該電磁弁を制御手段50にて制御したが、弁手段52を逆流防止弁とすることで、制御手段50からの制御を省略することができる。
逆流防止弁は、潤滑対象部位(この場合、クランクシャフト21の軸受22)からオイル供給経路52Bを逆流してくる潤滑オイルの圧力が所定圧力以上である場合、オイル供給経路52B、52Aを閉鎖するように自動的に動作する。また潤滑対象部位からオイル供給経路52Bを逆流してくる潤滑オイルの圧力が所定圧力未満となった場合、オイル供給経路52B、52Aを開口するように自動的に動作する。
従って、エンジン10が運転中の場合は、
図1及び
図2(B)に示す供給経路21Aからの高圧の潤滑オイルが、オイル供給経路52Bからオイル溜め空間51に向かって逆流しようとするが、逆流防止弁にてオイル供給経路52B、52Aを閉鎖して逆流を防止する。これにより、エンジン10が運転中の場合は、オイル供給経路52B、52Aが閉鎖しているので、潤滑オイルの逆流を防止するとともにオイル溜め空間51に潤滑オイルを溜めることができる。
そして、エンジン10が停止した場合は、供給経路21Aから逆流しようとする潤滑オイルの圧力が徐々に低下し、所定圧力以下になると逆流防止弁はオイル供給経路52B、52Aを開口するように自動的に動作する。これにより、エンジン10が停止した場合は、オイル溜め空間51に蓄えられている潤滑オイルが、オイル供給経路52A、52Bを経由して潤滑対象部位に供給される。
【0028】
以上、本実施の形態にて説明した内燃機関の潤滑機構は、内燃機関が運転中の場合はオイル溜め空間51にオイルを蓄え、内燃機関が停止した場合はオイル溜め空間に蓄えた潤滑オイルを潤滑対象部位に供給する。これにより、潤滑を必要とする摺動部や回転部に適切に潤滑オイルが供給されている状態で内燃機関のアイドル停止状態から始動(再始動)することが可能であり、摺動部や回転部の摩耗を適切に抑制することができる。
また、始動(再始動)の要求が発生してから潤滑するのでなく、始動(再始動)の要求が発生する可能性がある場合に潤滑を継続しているので、アイドル停止状態からの再始動の要求が発生した場合は、即座に再始動が可能であり、数秒の始動遅れが発生することも無い。
【0029】
本発明の内燃機関の潤滑機構は、本実施の形態で説明した構成、構造、処理、動作等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
また、本発明の内燃機関の潤滑機構は、アイドル停止の機能を備えた種々の内燃機関に適用することが可能である。
また本実施の形態の説明では、オイル溜め空間に溜めた潤滑オイルの供給先の潤滑対象部位を、クランクシャフト21の軸受22とした例を説明したが、軸受22に限定されず、ターボチャージャのタービンシャフトの軸受等、種々の摺動部や回転部を、オイル溜め空間に溜めた潤滑オイルの供給先の潤滑対象部位とすることができる。
また制御手段50の処理手順は、
図3のフローチャートに示した処理手順に限定されるものではない。
また、以上(≧)、以下(≦)、より大きい(>)、未満(<)等は、等号を含んでも含まなくてもよい。
また、本実施の形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。