特許第5880421号(P5880421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5880421鋼管継手、鋼管接合構造および鋼管接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5880421
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】鋼管継手、鋼管接合構造および鋼管接合方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/24 20060101AFI20160225BHJP
   E02D 5/28 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   E02D5/24 101
   E02D5/28
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-280461(P2012-280461)
(22)【出願日】2012年12月25日
(65)【公開番号】特開2014-125718(P2014-125718A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2014年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(72)【発明者】
【氏名】池田 真
(72)【発明者】
【氏名】藤井 義法
(72)【発明者】
【氏名】東 壮哉
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−043937(JP,A)
【文献】 実公昭38−007836(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22〜 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管どうしを接合するための雌側の鋼管継手であって、
鋼管の接合すべき接合端部に設けられる雌円筒と、この雌円筒の内周面に当該内周面に沿って前記雌円筒の軸方向と交差するように延び、かつ周方向に所定間隔で複数設けられた螺旋状の雌側突条とを備え、
この雌側突条の前記鋼管の軸方向内側を向く面に雌側係合部が形成されるとともに、前記雌側突条の前記鋼管の軸方向外側を向く面に当該雌側突条に沿って延びる雌側傾斜面が形成され
前記雌側係合部は、前記鋼管の軸方向に直交する直交当接面と当該軸方向に平行な平行当接面とを有する階段状に形成され、
前記直交当接面の周方向の幅をB(mm)、前記直交当接面の前記雌円筒の内周面からの高さをH(mm)、前記直交当接面の数をN、
前記鋼管の板厚をt(mm)、前記鋼管の直径をD(mm)、
前記直交当接面と前記雌側傾斜面との間の最短部長をL1(mm)、前記雌側突条の傾斜角をθ(°)、前記雌円筒の厚さをT(mm)とすると、以下の式を満たすことを特徴とする鋼管継手。
N・B・H=πD・t・F1/F2・1.1/1.5
L1≧H・(3)1/2−Btanθ/2
T≧F1/F2・t・1.4≧t
但し、鋼材の降伏値から決まる前記鋼管の長期許容引張強度をF1/1.5、
前記鋼管継手の長期許容支圧強度(F2/1.1)とし、
N・B≧πDとする。
【請求項2】
鋼管どうしを接合するための雄側の鋼管継手であって、
鋼管の接合すべき接合端部に設けられる雄円筒と、この雄円筒の外周面に当該外周面に沿って前記雄円筒の軸方向と交差するように延び、かつ周方向に所定間隔で複数設けられた螺旋状の雄側突条とを備え、
この雄側突条の前記鋼管の軸方向内側を向く面に雄側係合部が形成されるとともに、前記雄側突条の前記鋼管の軸方向外側を向く面に当該雄側突条に沿って延びる雄側傾斜面が形成され
前記雄側係合部は、前記鋼管の軸方向に直交する直交当接面と当該軸方向に平行な平行当接面とを有する階段状に形成され、
前記直交当接面の周方向の幅をB(mm)、前記直交当接面の前記雄円筒の外周面からの高さをH(mm)、前記直交当接面の数をN、
前記鋼管の板厚をt(mm)、前記鋼管の直径をD(mm)、
前記直交当接面と前記雄側傾斜面との間の最短部長をL1(mm)、前記雄側突条の傾斜角をθ(°)、前記雄円筒の厚さをT(mm)とすると、以下の式を満たすことを特徴とする鋼管継手。
N・B・H=πD・t・F1/F2・1.1/1.5
L1≧H・(3)1/2−Btanθ/2
T≧F1/F2・t・1.4≧t
但し、鋼材の降伏値から決まる前記鋼管の長期許容引張強度をF1/1.5、
前記鋼管継手の長期許容支圧強度(F2/1.1)とし、
N・B≧πDとする。
【請求項3】
鋼管どうしを鋼管継手によって接合してなる鋼管接合構造であって、
接合すべき一方の鋼管の接合端部に請求項1に記載の雌側の鋼管継手が設けられるとともに、他方の鋼管の接合端部に請求項2に記載の雄側の鋼管継手が設けられ、
雌側の前記鋼管継手の雌円筒中に雄側の前記鋼管継手の雄円筒が挿入されるとともに、前記雌側傾斜面と前記雄側傾斜面とが相対的に滑ることによって、前記雄円筒と前記雌円筒とを相対的に回転させて、周方向に隣り合う前記雌側係合部と前記雄側係合部とを係合させることによって、前記鋼管どうしが前記鋼管継手によって接合されていることを特徴とする鋼管接合構造。
【請求項4】
前記雌側係合部および前記雄側係合部は、それぞれ、前記鋼管の軸方向に直交する直交当接面と当該軸方向に平行な平行当接面とを有する階段状に形成されており、
前記雌側係合部の前記直交当接面と前記雄側係合部の前記直交当接面が当接するとともに、前記雌側係合部の前記平行当接面と前記雄側係合部の前記平行当接面とが当接することによって、周方向に隣り合う前記雌側係合部と前記雄側係合部とが係合されていることを特徴とする請求項3に記載の鋼管接合構造。
【請求項5】
鋼管どうしを鋼管継手によって接合する鋼管接合方法であって、
接合すべき一方の鋼管の接合端部に請求項1に記載の雌側の鋼管継手が設けられるとともに、他方の鋼管の接合端部に請求項2に記載の雄側の鋼管継手が設けられ、
雌側の前記鋼管継手の雌円筒中に雄側の前記鋼管継手の雄円筒を挿入するとともに、前記雌側傾斜面と前記雄側傾斜面とを相対的に滑らせることよって、前記雄円筒と前記雌円筒とを相対的に回転させて、周方向に隣り合う前記雌側係合部と前記雄側係合部とを係合することによって、前記鋼管どうしを鋼管継手によって接合することを特徴とする鋼管接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管どうしを接合するための鋼管継手、鋼管接合構造および鋼管接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭は、通常、ねじ継手その他の機械的な継手、または現場溶接によって上下杭を接合し、長尺の基礎支持材等として供用されている。ねじ継手は鋼管杭端部にテーパねじなどからなる雄ねじを形成し、雌ねじを有するソケットまたは拡径部等にねじ込んで接合する(例えば、特許文献1参照)。このようなねじ継手は加工が面倒で高価である。また、現場溶接は天候に支配される影響が大きく溶接資格者の確保の点でも難点がある。
また、その他の機械的な継手の一例として、いわゆるキー式のものも知られている(例えば、特許文献2〜4参照)。しかし、このキー式のものは、キーを継手部の中に設ける必要があるため、その部分が厚くなって製品重量が重くなるという問題がある。
【0003】
前記のような問題を解決する鋼管の接合構造として、特許文献5〜7に記載のものが知られている。
この鋼管の接合構造は、杭軸方向圧着端面を有し互いに挿脱可能な雌円筒と雄円筒とからなり、雌円筒は、入り口側内面に、相互間隔を開けて円周方向に配設され内径が雄円筒の外周面に遊嵌する複数の内面突起を備え、雄円筒は、装入端側外面に、前記内面突起と交互に配設され外径が雌円筒の内周面に遊合する複数の外面突起を備え、該内面突起及び外面突起はそれぞれ奥側端面にテーパを有し、該テーパは雄円筒を雌円筒中に挿入して軸回りに回転したとき互いに接触し雄雌円筒を接続固定するテーパであることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3747594号公報
【特許文献2】特許第3158081号公報
【特許文献3】特許第3329781号公報
【特許文献4】特許第3336430号公報
【特許文献5】特許第3598052号公報
【特許文献6】特許第4456427号公報
【特許文献7】特許第3896318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記特許文献5〜7に記載の鋼管の接合構造では、雌雄の円筒にそれぞれ設けられた内面突起および外面突起は、円筒の内面および外面を切削加工することによって形成されるが、その場合、内面突起および外面突起の左右の側面および奥側と入口側の両端面の合計4面を高精度で切削加工する必要があり、加工コストが高くなるという問題があった。
また、接合すべき鋼管の接合端部にそれぞれ設けられた雄円筒と雌円筒とを接合する際に、雄円筒を雌円筒中に挿入したうえで、当該雄円筒をその軸回りに回転させる必要があるため、別途外部から鋼管に回転力を与える必要があった。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、加工コストを低減でき、また、鋼管どうしを接合する際に、鋼管に外部から回転力を加えなくても、当該鋼管を回転させることができる鋼管継手、鋼管接合構造および鋼管接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の雌側の鋼管継手は、鋼管の接合すべき接合端部に設けられる雌円筒と、この雌円筒の内周面に当該内周面に沿って前記雌円筒の軸方向と交差するように延び、かつ周方向に所定間隔で複数設けられた螺旋状の雌側突条とを備え、
この雌側突条の前記鋼管の軸方向内側を向く面に雌側係合部が形成されるとともに、前記雌側突条の前記鋼管の軸方向外側を向く面に当該雌側突条に沿って延びる雌側傾斜面が形成され
前記雌側係合部は、前記鋼管の軸方向に直交する直交当接面と当該軸方向に平行な平行当接面とを有する階段状に形成され、
前記直交当接面の周方向の幅をB(mm)、前記直交当接面の前記雌円筒の内周面からの高さをH(mm)、前記直交当接面の数をN、
前記鋼管の板厚をt(mm)、前記鋼管の直径をD(mm)、
前記直交当接面と前記雌側傾斜面との間の最短部長をL1(mm)、前記雌側突条の傾斜角をθ(°)、前記雌円筒の厚さをT(mm)とすると、以下の式を満たすことを特徴とする。
N・B・H=πD・t・F1/F2・1.1/1.5
L1≧H・(3)1/2−Btanθ/2
T≧F1/F2・t・1.4≧t
但し、鋼材の降伏値から決まる前記鋼管の長期許容引張強度をF1/1.5、
前記鋼管継手の長期許容支圧強度(F2/1.1)とし、
N・B≧πDとする。
【0008】
本発明においては、雌円筒の内周面に設けられた雌側突条の鋼管の軸方向内側を向く面に雌側係合部が形成されるとともに、雌側突条の鋼管の軸方向外側を向く面に当該雌側突条に沿って延びる雌側傾斜面が形成されているので、鋼管継手の加工コストを低減できる。つまり、雌側突条の鋼管の軸方向内側を向く面と軸方向外側を向く面の2面を切削加工することによって、雌側係合部と雌側傾斜面を形成できるので、従来に比べ加工コストを低減できる。
【0009】
また、本発明の雄側の鋼管継手は、鋼管の接合すべき接合端部に設けられる雄円筒と、この雄円筒の外周面に当該外周面に沿って前記雄円筒の軸方向と交差するように延び、かつ周方向に所定間隔で複数設けられた螺旋状の雄側突条とを備え、
この雄側突条の前記鋼管の軸方向内側を向く面に雄側係合部が形成されるとともに、前記雄側突条の前記鋼管の軸方向外側を向く面に当該雄側突条に沿って延びる雄側傾斜面が形成され
前記雄側係合部は、前記鋼管の軸方向に直交する直交当接面と当該軸方向に平行な平行当接面とを有する階段状に形成され、
前記直交当接面の周方向の幅をB(mm)、前記直交当接面の前記雄円筒の外周面からの高さをH(mm)、前記直交当接面の数をN、
前記鋼管の板厚をt(mm)、前記鋼管の直径をD(mm)、
前記直交当接面と前記雄側傾斜面との間の最短部長をL1(mm)、前記雄側突条の傾斜角をθ(°)、前記雄円筒の厚さをT(mm)とすると、以下の式を満たすことを特徴とする。
N・B・H=πD・t・F1/F2・1.1/1.5
L1≧H・(3)1/2−Btanθ/2
T≧F1/F2・t・1.4≧t
但し、鋼材の降伏値から決まる前記鋼管の長期許容引張強度をF1/1.5、
前記鋼管継手の長期許容支圧強度(F2/1.1)とし、
N・B≧πDとする。
【0010】
本発明においては、雄円筒の外周面に設けられた雄側突条の鋼管の軸方向内側を向く面に雄側係合部が形成されるとともに、雄側突条の鋼管の軸方向外側を向く面に当該雄側突条に沿って延びる雄側傾斜面が形成されているので、鋼管継手の加工コストを低減できる。つまり、雄側突条の鋼管の軸方向内側を向く面と軸方向外側を向く面の2面を切削加工することによって、雄側係合部と雄側傾斜面を形成できるので、従来に比べ加工コストを低減できる。
【0011】
本発明の鋼管接合構造は、鋼管どうしを鋼管継手によって接合してなる鋼管接合構造であって、
接合すべき一方の鋼管の接合端部に請求項1に記載の雌側の鋼管継手が設けられるとともに、他方の鋼管の接合端部に請求項2に記載の雄側の鋼管継手が設けられ、
雌側の前記鋼管継手の雌円筒中に雄側の前記鋼管継手の雄円筒が挿入されるとともに、前記雌側傾斜面と前記雄側傾斜面とが相対的に滑ることによって、前記雄円筒と前記雌円筒とを相対的に回転させて、周方向に隣り合う前記雌側係合部と前記雄側係合部とを係合させることによって、前記鋼管どうしが前記鋼管継手によって接合されていることを特徴とする。
【0012】
ここで、雌側の前記鋼管継手の雌円筒中に雄側の前記鋼管継手の雄円筒を、前記雌側傾斜面上を前記雄側傾斜面を滑らすようにして挿入することで、前記雄円筒を軸回りに回転させて、前記雄側係合部を、その周方向に隣り合う前記雌側係合部に係合させることによって、前記鋼管どうしが鋼管継手によって接合されていてもよいし、雄側の前記鋼管継手の雄円筒に雌側の前記鋼管継手の雌円筒を、前記雄側傾斜面上を前記雌側傾斜面を滑らすようにして外挿することで、前記雌円筒を軸回りに回転させて、前記雌側係合部を、その周方向に隣り合う前記雄側係合部に係合させることによって、前記鋼管どうしが鋼管継手によって接合されていてもよい。
【0013】
本発明においては、雌側突条の鋼管の軸方向内側を向く面と軸方向外側を向く面の2面を切削加工することによって、雌側係合部と雌側傾斜面を形成できるとともに、雄側突条の鋼管の軸方向内側を向く面と軸方向外側を向く面の2面を切削加工することによって、雄側係合部と雄側傾斜面を形成できるので、従来に比べ加工コストを低減できる。
また、前記雌側傾斜面と前記雄側傾斜面とが相対的に滑ることによって、前記雄円筒と前記雌円筒とを相対的に回転させて、周方向に隣り合う前記雌側係合部と前記雄側係合部とを係合させることによって、鋼管どうしが鋼管継手によって接合されているので、鋼管どうしを接合する際に、鋼管に外部から回転力を加えなくても、当該鋼管を回転させることができる。
【0014】
また、本発明の前記構成において、前記雌側係合部および前記雄側係合部は、それぞれ、前記鋼管の軸方向に直交する直交当接面と当該軸方向に平行な平行当接面とを有する階段状に形成されており、
前記雌側係合部の前記直交当接面と前記雄側係合部の前記直交当接面が当接するとともに、前記雌側係合部の前記平行当接面と前記雄側係合部の前記平行当接面とが当接することによって、周方向に隣り合う前記雌側係合部と前記雄側係合部とが係合されているのが好ましい。
【0015】
このような構成によれば、雌側係合部の直交当接面と雄側係合部の直交当接面とが当接しているので、接合される鋼管の引張軸力を確実に伝達することができるともに、雌側係合部の平行当接面と雄側係合部の平行当接面とが係合しているので、雌側円筒と雄側円筒の周方向の位置決めを確実に行える。
【0016】
また、本発明の鋼管接続方法は、鋼管どうしを鋼管継手によって接合する鋼管接合方法であって、
接合すべき一方の鋼管の接合端部に請求項1に記載の雌側の鋼管継手が設けられるとともに、他方の鋼管の接合端部に請求項2に記載の雄側の鋼管継手が設けられ、
雌側の前記鋼管継手の雌円筒中に雄側の前記鋼管継手の雄円筒を挿入するとともに、前記雌側傾斜面と前記雄側傾斜面とを相対的に滑らせることよって、前記雄円筒と前記雌円筒とを相対的に回転させて、周方向に隣り合う前記雌側係合部と前記雄側係合部とを係合することによって、前記鋼管どうしを鋼管継手によって接合することを特徴とする。
【0017】
ここで、雌側の前記鋼管継手の雌円筒中に雄側の前記鋼管継手の雄円筒を、前記雌側傾斜面上を前記雄側傾斜面を滑らすようにして挿入することで、前記雄円筒を軸回りに回転させて、前記雄側係合部を、その周方向に隣り合う前記雌側係合部に係合することよって、前記鋼管どうしを鋼管継手によって接合してもよいし、雄側の前記鋼管継手の雄円筒に雌側の前記鋼管継手の雌円筒を、前記雄側傾斜面上を前記雌側傾斜面を滑らすようにして外挿することで、前記雌円筒を軸回りに回転させて、前記雌側係合部を、その周方向に隣り合う前記雄側係合部に係合することよって、前記鋼管どうしを鋼管継手によって接合してもよい。
【0018】
本発明においては、雌側の前記鋼管継手の雌円筒中に雄側の前記鋼管継手の雄円筒を挿入するとともに、前記雌側傾斜面と前記雄側傾斜面とを相対的に滑らせることよって、前記雄円筒と前記雌円筒とを相対的に回転させて、周方向に隣り合う前記雌側係合部と前記雄側係合部とを係合することによって、鋼管を鋼管継手によって接合するので、鋼管どうしを接合する際に、鋼管に外部から回転力を加えなくても、当該鋼管を回転させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、雌側突条および雄側突条のそれぞれの軸方向内側を向く面と軸方向外側を向く面の2面を切削加工することによって、それぞれ雌側係合部と雄側係合部および雌側傾斜面と雄側傾斜面を形成できるので、従来に比べ加工コストを低減できる。
また、前記雌側傾斜面と前記雄側傾斜面とを相対的に滑らせることよって、前記雄円筒と前記雌円筒とを相対的に回転させるので、鋼管どうしを接合する際に、鋼管に外部から回転力を加えなくても、当該鋼管を回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る雌側の鋼管継手の概略図である。
図2】本発明の実施の形態に係る雌側の鋼管継手の概略図である。
図3】本発明の実施の形態に係る雌側係合部の要部を示すもので、(a)は雌側係合部の概略正面図、(b)は雌側係合部の要部の断面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る鋼管接合方法を説明するためのもので、接合すべき鋼管を示す斜視図である。
図5】本発明の実施の形態に係る鋼管構造を説明するためのもので、(a)は雌側の鋼管継手に雄側の鋼管継手を係合している状態を示す概略図、(b)は雌側の鋼管継手に雄側の鋼管継手が係合した状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1は本実施の形態に係る雌側の鋼管継手の概略図、図2は本実施の形態に係る雄側の鋼管継手の概略図である。
図1に示すように、雌側の鋼管継手10は、鋼管1の接合すべき接合端部(図1においては上端部)に設けられる雌円筒11と、この雌円筒11の内周面に当該内周面に沿って雌円筒11の軸方向と交差するように延び、かつ周方向に所定間隔で複数設けられた螺旋状の雌側突条12とを備えている。
【0022】
雌円筒11は、鋼管1とほぼ同径に形成されており、当該鋼管1と同軸に配置されたうえで、鋼管1の接合すべき接合端部(図1では上端部)に円周溶接によって接合されている。
雌側突条12は、雌円筒11の内周面に雌円筒11の軸方向と所定角度で傾斜して設けられている。雌側突条12は、雌円筒11の内周面に溶接等によって設けてもよいし、雌円筒11の内周面を切削加工することによって設けてもよい。
また、雌側突条12は雌円筒11の周方向に沿って所定間隔を隔てて設けられているが、隣り合う雌側突条12,12間の距離は、後述する雄側突条22が隣り合う雌側突条12,12間に入り込むことができるに足る長さ(周方向の長さ)に設定されている。さらに、雌側突条12は、その上下端がそれぞれ雌円筒11の上下端またはその近傍に達するように設けられている。また、雌側突条12は、雌円筒11の下端面とのなす角が雌円筒11の正面視において30°〜60°となるように、雌円筒11の軸方向に対して傾斜している。
なお、雌側突条12の上端は雌円筒11の上端とほぼ一致しているが、雌円筒11の上端部より下方側に設けてもよい。
【0023】
雌側突条12の鋼管1の軸方向内側(図1において下方)を向く面には雌側係合部13が形成されている。この雌側係合部13は、鋼管1の軸方向に直交する直交当接面13aと当該軸方向に平行な平行当接面13bとをそれぞれ複数有する階段状に形成されている。また、雌側係合部13は、雌側突条12の鋼管1の軸方向内側を向く面を階段状に切削加工することによって形成されている。
図3に示すように、このような雌側係合部13の直交当接面13aの周方向(雌円筒11の周方向)の幅(ギヤ幅)をB、直交当接面13aの雌円筒11の内周面からの高さH、直交当接面13aの数(ギヤ数)をNとすると、これらは、鋼材の降伏値から決まる鋼管1の長期許容引張強度(F1/1.5)と、鋼管継手10の長期許容支圧強度(F2/1.1)と、鋼管1の板厚tおよび鋼管1の直径Dから次のように設定することが可能であり、要求性能に合わせた鋼管継手10を提供可能である(鋼管継手10の板厚についても同様の考え方で設計可能である)。
N・B・H=πD・t・F1/F2・1.1/1.5
また、ギヤ最短部長をL1、雌側突条12の傾斜角をθ、雌円筒11の厚さをTとすると、以下のような関係が成り立つ。
L1≧H・(3)1/2−Btanθ/2
T≧F1/F2・t・1.4≧t
但し、上記の演算式は、N・B≧πDを前提とする。
【0024】
また、図1に示すように、雌側突条12の鋼管1の軸方向外側(図1において上方)を向く面には、当該雌側突条12に沿って延びる雌側傾斜面14が形成されている。この雌側傾斜面14は雌円筒11の上下端まで達するように傾斜して延びている。また、雌側傾斜面14は、雌円筒11の下端面とのなす角が雌円筒11の正面視において30°〜60°となるように、雌円筒11の軸方向に対して傾斜している。また、雌側傾斜面14は、雌側突条12の鋼管1の軸方向外側を向く面を雌円筒11の正面視において一直線状に切削加工することによって形成されている。
【0025】
図2に示すように、雄側の鋼管継手20は、鋼管1の接合すべき接合端部に設けられる雄円筒21と、この雄円筒21の外周面に当該外周面に沿って雄円筒21の軸方向と交差するように延び、かつ周方向に所定間隔で複数設けられた雄側突条22とを備えている。
【0026】
雄円筒21は、鋼管1とほぼ同径に形成されており、当該鋼管1と同軸に配置されたうえで、鋼管1の接合すべき接合端部(図2では下端部)に円周溶接によって接合されている。また、雄円筒21は前記雌円筒11の内径側に挿入可能な直径に形成されている。したがって、雄円筒21は雌円筒11に対して挿脱可能となっている。
雄側突条22は、雄円筒21の外周面に雄円筒21の軸方向と所定角度で傾斜して設けられるとともに、前記雌側突条12と平行に設けられている。雄側突条22は、雄円筒21の外周面に溶接等によって設けてもよいし、雄円筒21の外周面を切削加工することによって設けてもよい。
【0027】
また、雄側突条22は雄円筒21の周方向に沿って所定間隔を隔てて設けられているが、隣り合う雄側突条22,22間の距離は、前記雌側突条12が隣り合う雄側突条22,22間に相対的に入り込むことができるに足る長さ(周方向の長さ)に設定されている。また、雄側突条22の周方向におけるピッチは、雌側突条12の周方向におけるピッチと等しくなっている。
さらに、雄側突条22は、その上下端がそれぞれ雄円筒21の上下端またはその近傍に達するように設けられている。また、雄側突条22は、雄円筒21の下端面とのなす角が雄円筒21の正面視において30°〜60°となるように、雄円筒21の軸方向に対して傾斜している。
なお、雄側突条22の下端は雄円筒21の下端とほぼ一致しているが、雄円筒21の下端部より上方側に設けてもよい。
【0028】
雄側突条22の鋼管1の軸方向内側(図1において上方)を向く面には雄側係合部23が形成されている。この雄側係合部23は、鋼管1の軸方向に直交する直交当接面23aと当該軸方向に平行な平行当接面23bとをそれぞれ複数有する階段状に形成されている。また、雄側係合部23は、雄側突条22の鋼管1の軸方向内側を向く面を階段状に切削加工することによって形成されている。
【0029】
また、雄側係合部23は雌側係合部13と係合可能に形成されている。すなわち、雄側係合部23の直交当接面23aと雌側係合部13の直交当接面13aとは、同形、同大に形成され、その数や雄円筒21の軸方向に隣り合う直交当接面23a,23aの距離も前記直交当接面13aのそれらと等しくなっている。また、雄側係合部23の平行当接面23bと雌側係合部13の平行当接面13bとは、同形、同大に形成され、その数や雄円筒21の周方向に隣り合う平行当接面23b,23bの距離も前記平行当接面13bのそれらと等しくなっている。
したがって、雄側係合部23と雌側係合部13とは、それぞれの直交当接面13a,23aどうしが当接するとともに、平行当接面13b,23bどうしが当接することによって、係合するようになっている。この場合、雌側係合部13の直交当接面13aと雄側係合部23の直交当接面23aとは、これらが係合した状態において、雌円筒11と雄円筒21とが互いに離間する方向に軸方向引張力を受けた場合に、互いに当接してこの軸方向引張力に抗するようになっている。
【0030】
このような雄側係合部23の直交当接面23aの周方向(雄円筒21の周方向)の幅(ギヤ幅)をB、直交当接面23aの雄円筒21の内周面からの高さH、直交当接面23aの数(ギヤ数)をNとすると、これらは、鋼材の降伏値から決まる鋼管1の長期許容引張強度(F1/1.5)と、鋼管継手20の長期許容支圧強度(F2/1.1)と、鋼管1の板厚tおよび鋼管1の直径Dから次のように設定することが可能であり、要求性能に合わせた鋼管継手20を提供可能である(鋼管継手20の板厚についても同様の考え方で設計可能である)。
N・B・H=πD・t・F1/F2・1.1/1.5
また、ギヤ最短部長をL1、雌側突条12の傾斜角をθ、雌円筒11の厚さをTとすると、以下のような関係が成り立つ。
L1≧H・(3)1/2−Btanθ/2
T≧F1/F2・t・1.4≧t
但し、上記の演算式は、N・B≧πDを前提とする。
【0031】
また、雄側突条22の鋼管1の軸方向外側(図2において下方)を向く面には、当該雄側突条22に沿って延びる雄側傾斜面24が形成されている。この雄側傾斜面24は雄円筒21の上下端まで達するように傾斜して延びている。また、雄側傾斜面24は、雄円筒21の下端面とのなす角が雄円筒21の正面視において30°〜60°となるように、雄円筒21の軸方向に対して傾斜している。また、雄側傾斜面24は、雄側突条22の鋼管1の軸方向外側を向く面を雄円筒21の正面視において一直線状に切削加工することによって形成されている。
【0032】
次に、鋼管1,1どうしを前記鋼管継手10,20によって接合してなる鋼管接合構造および方法について説明する。
まず、図4に示すように、接合すべき一方の鋼管1の一端部である接合端部に前記雌側の鋼管継手10を設けるとともに、他方の鋼管1の一端部である接合端部に前記雄側の鋼管継手20を設けておく。なお、複数の鋼管1を連続して接合していく場合は、前記一方の鋼管1の他端部に雄側の鋼管継手20を設けておき、前記他方の鋼管1の他端部に雌側の鋼管継手10を設けておく。
【0033】
次に、雌側の鋼管継手10を設けた鋼管1(1A)を、鋼管継手10が上端側に位置するようにして鉛直に配置する。
次に、雄側の鋼管継手20を設けた鋼管1(1B)を、鋼管継手20が下端側に位置するようにして、鋼管1Aの上方に当該鋼管1Aと同軸に配置する。この場合、例えば、鋼管1Bはクレーン等によって吊り下げて鋼管1Aと同軸に配置する。
また、鋼管1Aに対して鋼管1Bの周方向の位置決め、すなわち、雌側の鋼管継手10に対して雄側の鋼管継手20の周方向の位置決めを行う。この場合、鋼管継手10の内周面に設けられている雌側突条12の雌側傾斜面14の上端部に、鋼管継手20の外周面に設けられている雄側突条22の雄側傾斜面24の下端部が鋼管1の軸方向において重なるようにして鋼管1Bの周方向の位置決めを行う。
【0034】
次に、鋼管1Bを降下させることによって、図5(a)に示すように、鋼管継手10の雌円筒中11に雄側の鋼管継手20の雄円筒21を、雌側傾斜面14上を雄側傾斜面24を滑らすようにして重力によって挿入する。すると、雄側傾斜面24が雌側傾斜面14によって周方向に押されるので、雄円筒21がその軸回りに回転していき、これに伴って雄側係合部23が回転しつつ隣の雌側係合部13に近付いていく。そして、雄円筒21が軸回りに所定角度回転すると、図5(b)に示すように、雄側係合部23が隣の雌側係合部13に係合することによって、鋼管1Aに鋼管1Bが接合される。
雄側係合部23が隣の雌側係合部13に係合する場合、雄側係合部23の複数の直交当接面13aに雄側係合部23の複数の直交当接面23aがそれぞれ当接するとともに、雌側係合部13の複数の平行当接面13bに雄側係合部23の複数の平行当接面23bがそれぞれ当接することによって、雄側係合部23が、その周方向に隣り合う雌側係合部13に係合される。また、雄側係合部23が、その周方向に隣り合う雌側係合部13に係合されると同時に、雄円筒21の下端面が鋼管1Aの上端面に当接される。
【0035】
雄側係合部23が雌側係合部13に係合された後、図示しない回転防止金具を雌円筒11と雄円筒21との接合部にセットする。回転防止金具によって、雌円筒11に対する雄円筒21の回転を防止するには、例えば、雌円筒11と雄円筒21との接合部における外周面に切欠部を形成しておき、この切欠部にキー等の回転防止金具を嵌め込んで固定することにより行えばよい。
【0036】
また、雄円筒21を雌円筒11から取り外す場合、前記回転防止金具を取り外した後、雄円筒21、つまり鋼管1Bを係合時とは逆方向に、雄側係合部23が雌側係合部13から離れるまで軸回りに回転させた後、雌側傾斜面14上を雄側傾斜面24を滑らすようにして、雄円筒21、つまり鋼管1Bを上方に引き抜くことにより行う。
【0037】
なお、本実施の形態では、雌側の鋼管継手10を設けた鋼管1Aに、雄側の鋼管継手20を設けた鋼管1Bを接合する場合を例にとって説明したが、これとは逆に、雄側の鋼管継手20を設けた鋼管1Bに、雌側の鋼管継手10を設けた鋼管1Aを接合してもよい。
【0038】
本実施の形態によれば、雌側の鋼管継手10の雌側突条12の鋼管1の軸方向内側を向く面と軸方向外側を向く面の2面を切削加工することによって、雌側係合部13と雌側傾斜面14を形成できるとともに、雄側の鋼管継手20の雄側突条22の鋼管1の軸方向内側を向く面と軸方向外側を向く面の2面を切削加工することによって、雄側係合部23と雄側傾斜面24を形成できるので、従来に比べ加工コストを低減できる。
【0039】
また、雌円筒11中に雄円筒21を、雌側傾斜面14上を雄側傾斜面24を滑らすようにして挿入することで、雄円筒21を軸回りに回転させて、雄側係合部23を、その周方向に隣り合う雌側係合部13に係合させることによって、鋼管1,1が鋼管継手10,20によって接合されているので、鋼管1,1どうしを接合する際に、鋼管1に外部から回転力を加えなくても、当該鋼管1を回転させることができる。
さらに、雌側係合部13に雄側係合部23が係合しており、その際、雌側係合部13の直交当接面13aに雄側係合部23の直交当接面23aが当接しているので、接合される鋼管1,1の引張軸力を確実に伝達することができ、また、雌側係合部13の平行当接面13bに雄側係合部23の平行当接面23bが当接しているので、雌円筒11に対する雄円筒21の周方向の位置決めも確実に行うことができる。
【0040】
また、雌側の鋼管継手10の階段状の雌側係合部13の段数および雄側の鋼管継手20の階段状の雄側係合部23の段数等や、雌側突条12および雄側突条22の数、傾斜角を適宜設定することによって、鋼管1,1どうしの接合強度(軸方向引張強度)を容易に調整することができる。
【符号の説明】
【0041】
1,1A,1B 鋼管
10 雌側の鋼管継手
11 雌円筒
12 雌側突条
13 雌側係合部
13a 直交当接面
13b 平行当接面
20 雄側の鋼管継手
21 雄円筒
22 雄側突条
23 雄側係合部
23a 直交当接面
23b 平行当接面
図1
図2
図3
図4
図5