特許第5880510号(P5880510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許58805103価クロムめっき液の再生装置、前記再生装置を備えた3価クロムめっきシステム、及び3価クロムめっき液の再生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5880510
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】3価クロムめっき液の再生装置、前記再生装置を備えた3価クロムめっきシステム、及び3価クロムめっき液の再生方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 21/18 20060101AFI20160225BHJP
   C25D 3/06 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   C25D21/18 N
   C25D3/06
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-201768(P2013-201768)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2015-67849(P2015-67849A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2015年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】柴田 明
(72)【発明者】
【氏名】井土 尚泰
(72)【発明者】
【氏名】吉田 順治
(72)【発明者】
【氏名】森本 健二郎
【審査官】 瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−322599(JP,A)
【文献】 特開平7−150377(JP,A)
【文献】 特開平7−118899(JP,A)
【文献】 特開平6−306698(JP,A)
【文献】 特開平6−173100(JP,A)
【文献】 特開昭52−35133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 21/16
C25D 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価クロムイオンと還元剤とを含有する3価クロムめっき液を循環する3価クロムめっき液の再生装置であって、
3価クロムめっき後の3価クロムめっき液が供給される再生槽と、該再生槽から3価クロムめっき液が供給される冷却槽とを備え、
前記再生槽の温度は、3価クロムめっき温度より高く設定され、
前記冷却槽の温度は、前記3価クロムめっき温度以上であって、前記再生槽の温度より低く設定されていることを特徴とする3価クロムめっき液の再生装置。
【請求項2】
前記再生槽の温度は、40℃を超えて100℃未満であることを特徴とする請求項1記載の3価クロムめっき液の再生装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の3価クロムめっき液の再生装置を備えた3価クロムめっきシステムであって、
3価クロムめっきを施すための本槽と、前記本槽との間で3価クロムめっき液を循環して前記本槽に3価クロムめっき液を供給するためのサブ槽とを備え、
前記サブ槽内の3価クロムめっき液を前記再生装置に循環することを特徴とする3価クロムめっきシステム。
【請求項4】
3価クロムめっきを施す本槽から取り出した3価クロムめっき液を、3価クロムめっき温度より高い温度まで加熱する加熱工程と、
加熱された前記3価クロムめっき液を前記3価クロムめっき温度まで冷却して前記本槽に戻す冷却工程と、
を含むことを特徴とする3価クロムめっき液の再生方法。
【請求項5】
前記加熱工程は、40℃を超えて100℃未満の温度で前記3価クロムめっき液を加熱することを特徴とする請求項4記載の3価クロムめっき液の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3価クロムめっき液中で生成する6価クロムイオン濃度を減少させるために用いられる3価クロムめっき液の再生装置、当該再生装置を備えた3価クロムめっきシステム、及び3価クロムめっき液中で生成する6価クロムイオン濃度を減少させるための3価クロムめっき液の再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属、樹脂、セラミックなどの素材表面の装飾性を高めたり、防錆性、防食性、耐摩耗性、耐熱性、装飾性等各種性能を付与したりするために、素材表面の表面処理技術の一つとしてめっき処理が行われている。その中でも、皮膜が固くて安定であり、変色や腐食に強くて鏡面光沢を有するクロムめっきは、耐摩耗性や光沢性に優れており、銅やニッケルめっきを下地としためっき層に装飾性を付与するための仕上げの最上層めっきとして使用されている。
【0003】
多くの工業製品の表面処理にこうした装飾クロムめっきを施す場合、従来では、防錆性、防食性に優れた被膜特性を有し、また、めっき浴管理も容易であることから、6価クロムめっきが幅広く使用されてきた。しかし、6価クロムは人体に影響を与える有害物質であることから環境面における問題があり、環境基本法等によっても排水規制が行われている。そこで近年では、人体や環境への悪影響に対応するため、6価クロムめっきの代替法として3価クロムめっきの利用が進められてきている。
【0004】
3価クロムめっきは、例えば、陽極電極として鉛合金電極を用い、塩化クロム、硫酸クロムナトリウム等の3価クロム源、錯化剤、電導塩、pH緩衝剤、及び界面活性剤等を含有する浴中で、比較的低電流密度で行われるものが知られている。こういった3価クロムめっきは、6価クロムめっきと比べて浴安定性が低いことから、良好なめっき層を安定して得ることが難しかったものの、近年では、浴の改良が進んで6価クロムめっきの代替法として定着してきている。
【0005】
しかし、その一方で、3価クロムめっき浴中で陰極側の製品に対する金属クロムの析出が進行すると、陽極電極側では、3価クロムイオンが酸化されて6価クロムイオンが生成し、生成した6価クロムイオンが製品の基材表面の状態を変質させるといった問題がある。こういった基材表面の変質現象は、6価クロムイオン濃度が所定濃度を超えると観察され、また、電流密度が高い部分、つまり、陽極電極に近い部分で生じやすい。そして、基材表面の変質が起こると基材表面に対する金属クロムの付着性が悪くなり、基材表面にはヤケが生じてしまうため、結果として製造された製品の色調が悪くなって外観不良を起こす要因となっていた。
【0006】
特許文献1には、3価クロムめっき浴中での6価クロムイオンの生成を抑制して長期にわたって安定した3価クロムめっきを可能とするためのクロムめっき方法が記載されている。ここでは、陽極電極として酸化イリジウムからなる電極触媒の被覆を形成した電極を使用すること、或いは、陽極電極をクロムめっき浴中でイオン交換膜で区画した陽極室に設けること、が記載されている。
【0007】
特許文献2には、建浴段階で還元剤を加えて、6価クロムイオンを3価クロムイオンに還元させるための3価クロムクロメート液の調整方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−13199号公報
【特許文献2】特開2006−28547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載されるクロムめっき方法において、酸化イリジウムからなる電極触媒の被覆を形成した電極を使用して3価クロムめっきを行った場合には、6価クロムイオンの生成を抑制することはできるものの、その抑制量は十分ではなく、なお改善の余地があるものであった。また、陽極電極をイオン交換膜で区画した場合には、生成した6価クロムイオンによる基材表面の変質を抑制することはできるものの、6価クロムイオン自体の生成を抑制するものではないため、根本的な解決となるものではなかった。
【0010】
特許文献2に記載される3価クロムめっきでは、還元剤による反応率向上のために浴温を高温に維持するものであり、高温では還元反応は効率的に進行するものの、3価クロムめっきの浴安定性は悪くなり、3価クロムめっき自体の効率が損なわれるといった問題があった。
【0011】
本発明は、こういった問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、3価クロムめっき液中に生成する6価クロムイオン濃度を減少させることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の3価クロムめっき液の再生装置の発明では、3価クロムイオンと還元剤とを含有する3価クロムめっき液を循環する再生装置であって、3価クロムめっき後の3価クロムめっき液が供給される再生槽と、該再生槽から3価クロムめっき液が供給される冷却槽とを備え、前記再生槽の温度は、3価クロムめっき温度より高く設定され、前記冷却槽の温度は、前記3価クロムめっき温度以上であって、前記再生槽の温度より低く設定されていることを要旨とする。
【0013】
この発明によれば、3価クロムめっき温度より高く設定された再生槽に3価クロムめっき液が循環されることにより、3価クロムめっき液中に含有される還元剤の反応速度を増大させることができる。これにより、3価クロムめっき液中で生成した6価クロムイオンを効率的に還元することが可能であり、金属クロムの付着性に影響のない濃度範囲にまで6価クロムイオンを減少させることができる。したがって、再生槽で6価クロムイオン濃度が減少した3価クロムめっき液を3価クロムめっき処理槽に再度供給することができる。また、このとき、再生槽の3価クロムめっき液を冷却槽に供給することから、再生槽で6価クロムイオンが減少した3価クロムめっき液を、冷却槽で効率的に冷却して3価クロムめっき処理槽に供給することができる。したがって、冷却槽内の3価クロムめっき液の温度が、3価クロムめっき処理の至適温度からはずれることが抑制される。
【0014】
上記構成において、前記再生槽の温度は、40℃を超えて100℃未満であることが好ましい。
前記目的を達成するために、請求項3に記載の3価クロムめっきシステムの発明では、請求項1又は2記載の3価クロムめっき液の再生装置を備え、3価クロムめっきを施すための本槽と、前記本槽との間で3価クロムめっき液を循環して前記本槽に3価クロムめっき液を供給するためのサブ槽とを備え、前記サブ槽内の3価クロムめっき液を前記再生装置に循環することを要旨とする。
【0015】
3価クロムめっき液を本槽との間で循環して供給するサブ槽内の3価クロムめっき液には、3価クロムめっきにより生成した6価クロムイオンが存在している。請求項3に記載の3価クロムめっきシステムによれば、高温に設定された再生槽を備えた再生装置に3価クロムめっき液を循環することにより、3価クロムめっき液中の還元剤による反応を促進させて6価クロムイオンを還元することができる。これにより、本槽内の3価クロムめっき液中の6価クロムイオンを、金属クロムの付着性に影響のない濃度にまで減少させることができるため、製品に対する付着むらを抑制することが可能な3価クロムめっきシステムを構築することが可能となる。
【0016】
また、3価クロムめっきを実際に行う本槽とは別に設けられた再生装置の再生槽の温度を、3価クロムめっき温度より高温に設定していることから、3価クロムめっき処理と、3価クロムめっき液の再生とを異なる温度で行うことができる。それぞれの反応の至適温度に各槽を設定することができるため、各反応を効率的に行うことができる。
【0017】
前記目的を達成するために、請求項4に記載の3価クロムめっき液の再生方法の発明では、3価クロムめっきを施す本槽から取り出した3価クロムめっき液を、3価クロムめっき温度より高い温度まで加熱する加熱工程と、加熱された前記3価クロムめっき液を前記3価クロムめっき温度まで冷却して前記本槽に戻す冷却工程と、を含むことを要旨とする。
【0018】
上記構成において、前記加熱工程は、40℃を超えて100℃未満の温度で前記3価クロムめっき液を加熱することを要旨とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の3価クロムめっき液の再生装置、当該再生装置を備えた3価クロムめっきシステム、及び3価クロムめっき液の再生方法によれば、3価クロムめっき液中に生成する6価クロムイオン濃度を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】3価クロムめっきシステムの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態としての3価クロムめっきシステムについて説明する。
本実施形態の3価クロムめっきシステムは、銅やニッケルめっきを下地とした金属めっき層に、装飾性を付与するための仕上げのめっきとして、製品の最上層に積層される装飾3価クロムめっき処理に適用されるものである。
【0022】
3価クロムめっき処理に供される基材は、従来公知の方法によって表面処理されたものを使用することができる。基材の素材としては、従来公知の樹脂素材或いは金属素材を適宜選択して使用することができる。3価クロムめっき処理を施す前の一般的な表面処理も従来公知の方法で行えばよい。
【0023】
例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)樹脂を使用する場合、脱脂工程、エッチング工程、触媒付与工程、及び酸活性化工程によって、ABS樹脂基材表面を前処理した後、無電解ニッケルめっき処理によって素材表面に導電性を付与する。その後、銅めっき処理、ニッケルめっき処理を経て、3価クロムめっきを最上層に積層するようにすればよい。これら前処理、銅めっき処理、及びニッケルめっき処理のいずれも従来公知の方法により行うことができる。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の3価クロムめっきシステム1は、3価クロムめっき処理を施すための本槽2と、本槽2との間で3価クロムめっき液を循環して本槽2に3価クロムイオンを供給するためのサブ槽3と、再生装置4とで構成されている。再生装置4は、本槽2で3価クロムめっきが進行したときに生成した6価クロムイオンを還元するための装置であり、3価クロムめっき液中に存在する還元剤の反応を促進して6価クロムイオン濃度を減少させるものである。
【0025】
本実施形態の3価クロムめっきシステム1に設けられる再生装置4は、3価クロムめっき液を加熱するための再生槽5と、加熱された3価クロムめっき液を冷却するための冷却槽6とを備えている。本槽2、サブ槽3、再生槽5、及び冷却槽6の間は、図示しないポンプによって3価クロムめっき液が循環するようになっている。図1に示すように、本槽2とサブ槽3との間で循環している3価クロムめっき液は、再生槽5、冷却槽6の順に供給された後、サブ槽3を介して本槽2に戻される。
【0026】
本槽2では、3価クロムめっきを施す基材を陰極21にセットし、カーボン或いは鉛ースズ合金等からなる陽極電極22と陰極21との間で通電を行うことで3価クロムめっき処理を行うものである。3価クロムめっき処理は、従来公知の3価クロムめっき液にて従来公知の条件下で行うことができる。例えば、塩化クロム、硫酸クロムナトリウム等をクロム供給源とし、ギ酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム等の錯化剤、塩化アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等の電導塩、pH緩衝剤、析出促進剤等を含有するめっき浴に浸漬することによって行うことができる。
【0027】
ここで、3価クロムめっき液中には、還元剤が含有されていることが必須である。3価クロムめっき液中では、浴液中に含有される3価クロムイオンが陽極電極22側で酸化されて6価クロムイオンの生成が進むことが観察される。そして、浴液中の6価クロムイオンが所定濃度以上となると、製品表面の色調が悪くなって外観不良が生じる場合がある。これは、6価クロムイオンの存在が基材表面の変質を引き起こすことによるものであると考えられ、こういった基材表面の変質によって金属クロムの付着性が悪くなるためであると考えられる。
【0028】
還元剤の種類としては、特に限定されるものではない。例えば、リンゴ酸、クエン酸等の有機酸系の還元剤、ホウ水素化ナトリウム、テトラヒドロホウ酸カリウム、ジメチルアミンボラン等の水素化ホウ素系の還元剤、亜リン酸、次亜リン酸等の亜リン酸系の還元剤、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸系の還元剤、或いは、ヒドラジン、ホルムアルデヒドといった従来公知の還元剤を適宜使用することができる。還元剤は1種類であってもよく、複数種類を適宜組み合わせて使用することもできる。
【0029】
通常、3価クロムめっき処理は浴温度が30〜50℃に管理されており、比較的低温領域で行われる。このような浴温度では、浴液中に含有される還元剤による還元作用が十分とは言えず、3価クロムめっき液中で生成する6価クロムイオン量に比べて、6価クロムイオンの還元量が少ないものとなる。3価クロムめっき液中に含有される還元剤による還元作用を効果的に発現させるために、3価クロムめっきを行う本槽2とは別に再生装置4を備えている。再生装置4では、再生槽5で、循環された3価クロムめっき液を3価クロムめっきの浴温度より高温に加熱することで、3価クロムめっき液中で生成した6価クロムイオンの還元反応を効率的に進めるとともに、冷却槽6で3価クロムめっき液を3価クロムめっき処理の浴温度まで冷却して、サブ槽3を介して本槽2へ戻すようにしているものである。
【0030】
3価クロムめっきシステム1を構成する各槽における温度について説明する。本槽2における3価クロムめっき液の温度は、3価クロムめっき処理のための至適温度であればよいが、30〜50℃であることが好ましい。本槽2内の3価クロムめっき液を循環して、本槽2に3価クロムめっき液を供給するためのサブ槽3についても本槽2とほぼ同じ温度に保持されていることが好ましい。図1に示した例では、本槽2、サブ槽3ともに、3価クロムめっき液の浴温度が40℃となるように管理されている。
【0031】
循環された3価クロムめっき液を加熱するための再生槽5の温度は、3価クロムめっき液に含まれる還元剤によって浴液中の6価クロムイオン濃度を減少させることができる温度であることが必要である。つまり、還元剤の還元反応を進行させるために十分な温度であることが必要である。再生槽5の温度は、3価クロムめっき処理の温度より高く設定されており、3価クロムめっき液の浴温度を40℃に設定している場合には、40℃を超えて100℃未満であることが好ましい。40℃以下の低温であると還元剤による還元反応が起こりにくくなり、100℃以上の高温であると3価クロムめっき液の溶媒である水が沸騰してしまうため好ましくない。50〜80℃であることがより好ましく、60〜70℃であることがさらに好ましい。図1に示した例では、再生槽5の温度が70℃となるように管理されている。
【0032】
また、再生槽5により加熱された3価クロムめっき液を冷却するための冷却槽6の温度は、本槽2の温度以上であって、前記再生槽5の温度より低く設定されていることが好ましい。3価クロムめっき液を冷却してサブ槽3を経て本槽2へ供給することを考慮して、本槽2の温度、つまり、3価クロムめっき処理における処理温度に、より近いことが好ましい。例えば、図1に示した例では、冷却槽6の温度を43℃に設定して、3価クロムめっき液の浴温度40℃に近い温度としている。これにより、3価クロムめっき液をサブ槽3を介して本槽2に供給したときに、本槽2内の3価クロムめっき液の温度を過度に上昇させることがなく、加熱された3価クロムめっき液による3価クロムめっき処理への影響を抑制することができる。
【0033】
このように構成された本実施形態の3価クロムめっきシステム1では、本槽2で3価クロムめっき処理が行われると、陽極電極22側で6価クロムイオンが生成し、6価クロムイオンが所定濃度以上になると、陰極21側の基材表面状態に影響を及ぼすことが考えられる。本槽2との間で3価クロムめっき液を循環させて本槽2へ3価クロムイオンを供給するサブ槽3から、再生装置4の再生槽5側へ3価クロムめっき液を循環させて、再生槽5内で3価クロムめっき液を加熱する。これにより、3価クロムめっき液中で生成した6価クロムイオンが、浴液中に含まれる還元剤によって3価クロムイオンに還元される。6価クロムイオン濃度が減少した3価クロムめっき液は、冷却槽6において3価クロムめっき処理の処理温度近くまで冷却されて、サブ槽3を介して本槽2へ戻される。このようにして、本実施形態の3価クロムめっきシステム1では、3価クロムめっき処理中に生成した6価クロムイオン濃度を減少させて、好適な3価クロムめっき処理を長期間にわたって行うことができる。
【0034】
次に、本実施形態の3価クロムめっきシステム1の作用について記載する。
本実施形態の3価クロムめっきシステム1では、本槽2における3価クロムめっき処理によって、陽極電極22側で生成した6価クロムイオンを含む3価クロムめっき液が、図示しないポンプによって吸引されて、サブ槽3を介して再生装置4の再生槽5に供給される。再生槽5は、3価クロムめっき処理の処理温度である40℃より高い70℃に保持されていることから、3価クロムめっき液が加熱されて、3価クロムめっき液中に含まれる還元剤の還元作用が増大する。これによって、3価クロムめっき液中に生成した6価クロムイオンが還元されて3価クロムイオンとなり、浴液中の6価クロムイオン濃度が減少するように作用する。
【0035】
また、加熱されて6価クロムイオン濃度が減少した3価クロムめっき液は、図示しないポンプによって吸引されて、冷却槽6に供給される。冷却槽6は、再生槽5より低い温度であって3価クロムめっき処理の処理温度に近い43℃に保持されていることから、再生槽5で加熱された3価クロムめっき液が冷却される。これによって、冷却された3価クロムめっき液は、サブ槽3を介して本槽2に供給されたときに、本槽2内の3価クロムめっき液の温度を過度に上昇させないように作用する。
【0036】
次に、本実施形態の3価クロムめっきシステム1の効果について記載する。
(1)3価クロムめっきを行う本槽2は3価クロムめっき処理に最適な温度に保持される一方で、本槽2とは別に設けられた再生装置4は、3価クロムめっき液を高温に加熱している。これにより、3価クロムめっき液中に含まれる還元剤による還元作用を好適に発揮させることができる。3価クロムめっき処理を行う本槽2と、6価クロムイオンの還元反応を進める再生装置4とを別構成とすることで、3価クロムめっき処理に影響を与えることなく、6価クロムイオンの還元反応を効率的に行うことができる。そして、3価クロムめっき液中の6価クロムイオン濃度を、金属クロム皮膜の形成に影響を与えないレベルまで減少させることが可能な3価クロムめっきシステム1を構築することができる。
【0037】
(2)再生装置4を、3価クロムめっき液を加熱する再生槽5と、加熱された3価クロムめっき液を冷却する冷却槽6で構成している。還元剤の還元反応を効率的に進めるとともに、本槽2内の3価クロムめっき液の温度管理を容易に行うことができる。
【0038】
なお、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。また、以下に示す変更例をそれぞれ組み合わせてもよい。
・ 本実施形態では、本槽2及びサブ槽3の温度を40℃とし、再生槽5の温度を70℃とし、冷却槽6の温度を43℃としたが、これに限定されるものではない。3価クロムめっき液の成分、還元剤の種類、基材の性状等に応じて適宜設定温度を変更することができる。
【0039】
・ 冷却槽6を省略してもよい。この場合、再生槽5の容積を大きくすることで、再生槽5の加熱温度を低く保持したとしても、還元剤による6価クロムイオンの還元反応を進めて6価クロムイオン量を減少させることが可能である。
【0040】
・ 本実施形態では、3価クロムめっきシステムを装飾クロムめっきとしての3価クロムめっき処理に適用したが、工業用クロムめっきとしての3価クロムめっき処理に適用することもできる。また、めっき製品の最上層に積層される3価クロムめっき処理に適用したが、中間層に積層される3価クロムめっき処理に適用することもできる。
【0041】
・ 一般的な装飾クロムめっき工程として、本実施形態では、樹脂基材表面を前処理した後、銅めっき処理、ニッケルめっき処理を行った後、3価クロムめっき処理を行う場合を記載したが、装飾3価クロムめっき処理までの各工程は、これに限定されるものではない。基材の性状、求められる製品の用途、機能等に応じて各めっき処理を適宜選択することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
(3価クロムめっき液の違いによる6価クロムイオン生成の検討)
市販されている3価クロムめっき液を使用して、3価クロムめっき処理時の6価クロムイオン生成の有無を検討した。
【0043】
3価クロムめっき液を、電流5Aで0、5、15、30、40、50、60分間、及び電流10、15Aで5分間のハルセル試験を行って、3価クロムめっき液中で生成する6価クロムイオン濃度を調べた。3価クロムめっき液は、市販されているCP−300(日本マクダーミット株式会社製)、TGY(SurTec MMC Japan K.K.製)、EXM(SurTec MMC Japan K.K.製)の3種類のものを使用した。また、陽極板としては、チタニウム基板上にイリジウム等の白金族原料を焼成コーティングした3価クロムめっき用不溶性陽極を使用した。
【0044】
なお、6価クロムイオン濃度の測定には、ジフェニルカルバジド吸光光度法の発色原理を用いた6価クロム簡易測定キットである株式会社共立理化学研究所製の6価クロムパックテスト 型式WAK−Cr6+を使用した。
【0045】
6価クロムイオン濃度の測定結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
表1から、3価クロムめっき液の種類によって生成する6価クロムイオン濃度に差はあるものの、すべての3価クロムめっき液で6価クロムイオンの生成が観察された。
【0047】
(3価クロムめっき液加熱後の6価クロムイオン濃度の検討)
次に、電流5Aで60分間ハルセル試験を行った後の3価クロムめっき液を、加熱温度75℃で、1、2、24時間加熱して、6価クロムイオン濃度の変化を調べた。加熱後の3価クロムめっき液中の6価クロムイオン濃度の測定結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
表2から、3価クロムめっき液を70℃に加熱したとき、すべての3価クロムめっき液中で、6価クロムイオンが還元されてその濃度が減少していることがわかった。6価クロムイオン濃度の初期濃度が高いほど、6価クロムイオン濃度がゼロになるまでの時間が長くかかるものの、いずれの3価クロムめっき液でも、75℃2時間の加熱により6価クロムイオン濃度がゼロになった。
【0049】
(3価クロムめっき液加熱温度の検討)
次に、電流5Aで60分間ハルセル試験を行った後の3価クロムめっき液を、加熱温度を40、50、60、75℃と変えて、1、2、5、9、12、15時間加熱したときの、6価クロムイオン濃度の変化を調べた。加熱後の3価クロムめっき液中の6価クロムイオン濃度の測定結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
表3から、すべての3価クロムめっき液で、40℃以上で加熱することにより6価クロムイオン濃度が減少し、加熱後所定時間経過すると、6価クロムイオンが検出されないレベルにまで還元反応が進行することがわかった。いずれの温度でも、6価クロムイオン濃度の初期濃度が高いほど6価クロムイオン濃度がゼロになるまでの時間が長くかかった。また、いずれの3価クロムめっき液でも、加熱温度が高いほど6価クロムイオン濃度がゼロになるまでの時間が短縮された。
【0051】
(3価クロムめっき液の加熱温度の違いによる6価クロムイオンの還元速度の検討)
各温度での1時間当たりの還元速度を計算したものを表4に示す。ここで、1時間当たりの還元速度は、表3において、加熱前の6価クロムイオン濃度を、6価クロムイオン濃度が0になったときの加熱時間で割った値として表した。
【0052】
【表4】
表4から、6価クロムイオンの還元速度は、6価クロムイオンの初期濃度が高いほど大きく、6価クロムイオンの初期濃度への依存性が高いことがわかった。また、すべての3価クロムめっき液で、加熱温度を上げていくほど還元速度が増加した。
【0053】
以上の結果より、いずれの3価クロムめっき液においても6価クロムイオンの生成が観察されるものの、3価クロムめっき処理槽とは別個の槽内で加熱処理を行うことにより、生成した6価クロムイオン濃度をゼロとすることが可能であることがわかった。3価クロムめっき処理を行う本槽とは別に、3価クロムめっき液を循環して加熱処理を行う再生装置を設けた3価クロムめっきシステムにより、3価クロムめっき液の効率的な再生が可能であり、3価クロムめっき処理に影響のないレベルにまで3価クロムめっき液中の6価クロムイオンを減少させることができる。
【符号の説明】
【0054】
1…3価クロムめっきシステム、2…本槽、3…サブ槽、4…再生装置、5…再生槽、6…冷却槽、21…陰極、22…陽極電極。
図1