特許第5880919号(P5880919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5880919
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】光学ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20160225BHJP
   C03C 3/155 20060101ALI20160225BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   C03C3/068
   C03C3/155
   G02B1/00
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-168013(P2011-168013)
(22)【出願日】2011年8月1日
(65)【公開番号】特開2013-32232(P2013-32232A)
(43)【公開日】2013年2月14日
【審査請求日】2014年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】俣野 高宏
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−111530(JP,A)
【文献】 特開2012−166962(JP,A)
【文献】 特開2012−025638(JP,A)
【文献】 特開2008−201661(JP,A)
【文献】 特開2010−111580(JP,A)
【文献】 特開2010−052954(JP,A)
【文献】 特開2007−063071(JP,A)
【文献】 特開2010−116321(JP,A)
【文献】 特開2006−137662(JP,A)
【文献】 特開2009−091242(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0293556(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0049483(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0079389(US,A1)
【文献】 作花済夫編,“3.1.光学設計と光学ガラス”,ガラスハンドブック,日本,朝倉書店,1975年 9月30日,初版,71〜73頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/062 − 3/068
C03C 3/14 − 3/155
G02B 1/00
INTERGLAD
GAZ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO 0〜10%、B 5〜30%、LiO 0〜0.1%未満、ZnO 3.5〜14.5%、ZrO 0.1〜8%、La 25〜41%、Gd 2〜18.8%、TiO 0〜8%、Nb 0〜10%、Ta 0〜12%およびWO 0.7〜6.1%を含有し、TiO+Nb+WOが2〜20%であり、鉛成分、ヒ素成分およびフッ素成分を実質的に含有せず、かつ、屈折率が1.846以上、アッベ数が30〜45、ガラス転移点が650℃以下、着色度λ70が430nm未満であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
ZrO+Taが0.1〜18%であることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
La+Taが26〜52%であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
TiO+Taが0.1〜20%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項5】
Ta+WOが0.1〜17.5%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項6】
Nb+Taが0.1〜22%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
(TiO+WO)/(Nb+Ta)が1.5以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項8】
(La+Gd)/(TiO+Nb+WO)が2以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項9】
ZnO+ZrO〜18%であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項10】
モールドプレス成形用であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の光学ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラスに関するものである。詳細には、各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、ビデオカメラまたは一般のカメラの撮影用レンズ等に好適な光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、ビデオカメラ、一般のカメラの撮影用レンズは、一般に以下のようにして作製される。
【0003】
まず、溶融ガラスをノズルの先端から滴下して、液滴状ガラスを作製し(液滴成形)、必要に応じて研削、研磨および洗浄を施してプリフォームガラスを作製する。または、溶融ガラスを急冷鋳造して一旦ガラスインゴットを作製し、研削、研磨および洗浄してプリフォームガラスを作製する。続いて、プリフォームガラスを加熱して軟化し、精密加工を施した金型によって加圧成形し、金型の表面形状をプリフォームガラスに転写してレンズを作製する。このような成形方法は、一般にモールドプレス成形法と呼ばれている。
【0004】
モールドプレス成形法を採用する場合、金型の劣化を抑制するため、できるだけ低いガラス転移点(少なくとも650℃以下)を有するガラスが求められており、種々のガラスが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
また、プリフォームガラスを作製する際に失透が生じると、レンズとしての基本性能が得られないことから、耐失透性に優れたガラスであることが重要である。さらに、環境問題への意識の高まりから、ガラス成分に鉛等の有害な物質を使用しない光学ガラスが望まれている。なお、近年では、各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズや、撮影用レンズといった光学レンズには、コスト削減を目的として、レンズを薄くしたり、レンズの枚数を少なくすることが検討されており、これを実現するために高屈折率で低分散の(アッベ数の大きい)ガラス材質が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−267748号公報
【特許文献2】特開2003−248897号公報
【特許文献3】特開2006−16295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、高屈折率の光学ガラスを作製しようとすると、アッベ数が小さくなる、すなわち高分散になる傾向があるため、高屈折率かつ低分散のガラスを作製することは難しいとされている。また、高屈折率かつ低分散のガラスを作製しようとすると、耐失透性が低下する傾向にあることが知られている。
【0008】
したがって、本発明は、(1)環境上好ましくない成分を実質的に含有しない、(2)低ガラス転移点を有する、(3)高屈折率かつ低分散である、(4)プリフォーム成形時の耐失透性に優れる、といった要求をすべて満足することが可能な光学ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ガラス組成として、質量%で、SiO 0〜10%、B 5〜30%、LiO 0〜0.1%未満、ZnO 3.1〜14.5%、ZrO 0〜8%、La 25〜41%、Gd 0〜30%、TiO 0〜8%、Nb 0〜10%、Ta 0〜12%およびWO 0〜10%を含有し、鉛成分、ヒ素成分およびフッ素成分を実質的に含有せず、かつ、屈折率が1.846以上、アッベ数が30〜45、ガラス転移点が650℃以下であることを特徴とする光学ガラスに関する。
【0010】
本発明の光学ガラスは上記組成を満たすことにより、低ガラス転移点、高屈折率かつ低分散の光学特性および優れた耐失透性等の各特性を容易に達成することができる。なお、本発明において、「鉛成分、ヒ素成分およびフッ素成分を実質的に含有しない」とは、これらの成分を意図的にガラス中に含有していないという意味であり、不可避的不純物まで完全に排除することを意味するものではない。客観的には、不純物を含めたこれらの成分の含有量が、質量%で、各々0.1%未満であることを意味する。
【0011】
第二に、本発明の光学ガラスは、ZrO+Taが0.1〜18%であることが好ましい。
【0012】
第三に、本発明の光学ガラスは、La+Taが26〜52%であることが好ましい。
【0013】
第四に、本発明の光学ガラスは、TiO+Taが0.1〜20%であることが好ましい。
【0014】
第五に、本発明の光学ガラスは、Ta+WOが0.1〜22%であることが好ましい。
【0015】
第六に、本発明の光学ガラスは、Nb+Taが0.1〜22%であることが好ましい。
【0016】
第七に、本発明の光学ガラスは、TiO+Nb+WOが0.1〜25%であることが好ましい。
【0017】
第八に、本発明の光学ガラスは、(TiO+WO)/(Nb+Ta)が1.5以下であることが好ましい。
【0018】
第九に、本発明の光学ガラスは、(La+Gd)/(TiO+Nb+WO)が2以上であることが好ましい。
【0019】
第十に、本発明の光学ガラスは、ZnO+ZrOが3.1〜18%であることが好ましい。
【0020】
第十一に、本発明の光学ガラスは、モールドプレス成形用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の光学ガラスは、ガラス転移点が低く、低温でモールドプレス成形可能であるため、金型の劣化を抑制することができる。また、高屈折率かつ低分散の光学特性を有するため、レンズの薄肉化やレンズ枚数の削減が可能になり、光学デバイスの部品コストを低減することができる。さらに、プリフォーム成形時に透明性を阻害する失透物が生じにくいため、レンズとしての基本性能に支障を来たしにくい。なお、本発明の光学ガラスは、有害成分である鉛成分、ヒ素成分およびフッ素成分を実質的に含有しないため、環境上好ましいガラスである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の光学ガラスにおいて、各成分の含有量を上記のように規制した理由を説明する。なお、特に断りがない場合、以下の各成分の含有量の説明において「%」は「質量%」を意味する。
【0023】
SiOはガラス骨格を構成する成分であり、失透を抑制するとともに耐候性を向上させる効果がある。また、アッベ数を高める効果がある。SiOの含有量は0〜10%、0.5〜8%、1〜7%、特に1.5〜6%であることが好ましい。SiOの含有量が多すぎると、屈折率が低下したり、軟化点が高くなる傾向がある。
【0024】
はガラス骨格を構成する成分であり、アッベ数を最も高める成分でもある。Bの含有量は5〜30%、7.5〜25%、特に8.5〜20%であることが好ましい。Bの含有量が多すぎると、屈折率が小さくなるとともに耐候性が低下する傾向がある。一方、Bの含有量が少なすぎると、低分散特性が得られにくくなる。また、ガラスが不安定になって耐失透性が低下したり、着色度が低下する傾向がある。
【0025】
LiOはアルカリ金属酸化物のなかで最も軟化点を低下させる効果が大きい。しかし、分相性が強いため、その含有量が多すぎるとBとLaを主成分とする失透物が析出しやすくなり、液相温度が高くなって作業性が低下するおそれがある。また、モールドプレス成形時に発生する揮発物が増加したり、金型と融着しやすくなる。したがって、LiOの含有量は0〜0.1%未満にする必要がある。
【0026】
ZnOはアッベ数を大きく変化させることなく、ガラス粘度を低下させる成分である。よって、ZnOを含有することにより、ガラス転移点を低減することができ、さらに、モールドプレス成形時に金型と融着しにくいガラスを得ることができる。また、アルカリ土類金属成分(CaO、SrO、BaO、MgO)に比べ失透傾向が強くないため、多量に含有させても均質なガラスを得ることができる。ZnOの含有量は3.1〜14.5%、3.5〜14.5%、4〜14.5%、5〜14.5%、特に5.5〜14%であることが好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、耐候性が低下したり、屈折率が低下する傾向がある。一方、ZnOの含有量が少なすぎると、低ガラス転移点を達成しにくくなる。また、モールドプレス成形時に金型と融着しやすくなる。
【0027】
ZrOはアッベ数をほとんど低下させずに屈折率を高める成分である。また、中間酸化物としてガラス骨格を形成するため、化学的耐久性を向上させる効果もある。ただし、その含有量が多すぎると、ガラス転移点が上昇してモールドプレス成形性が低下するとともに、ZrOとLaまたはZrOとGdやTaを主成分とする失透物が析出しやすくなる。したがって、ZrOの含有量は0〜8%、0.1〜7%、特に0.5〜6%であることが好ましい。
【0028】
Laはアッベ数をほとんど低下させずに屈折率を高める効果がある成分である。Laは、屈折率を高める効果のある他の成分であるZrO、Ta、Gd、Nbに比べ失透傾向が強くないため、多量に含有させても均質なガラスを得ることができる。Laの含有量は25〜41%、27.5〜40.5%、30〜40.5%、31〜40.5%、32〜40.5%、特に32.5〜40.5%であることが好ましい。Laの含有量が少なすぎると、所望の屈折率が得られにくい。一方、Laの含有量が多すぎると、ガラス成形時にBとLaで形成される失透物が生成しやすくなる。
【0029】
Gdは屈折率を高める成分である。また、耐失透性(BおよびLaで形成される失透物の抑制)を向上させる効果があり、作業温度範囲を拡大することができる成分である。その一方で、多量に含有すると、B、LaおよびTaで形成される失透物が表面に析出(表面失透)しやすくなり、液相温度が上昇する傾向がある。また、分相傾向が強くなり、均質なガラスが得られにくくなる。さらに、アッベ数が低下しやすくなる。ただし、GdはTa、WO、TiO等に比べると、アッベ数の低下割合は低いと言える。以上に鑑み、Gdの含有量は0〜30%、2〜25%、特に4〜20%であることが好ましい。
【0030】
TiOは屈折率を高める成分である。また、耐失透性(BおよびLaで形成される失透物の抑制)を向上する効果もある。ただし、TiOの含有量が多すぎると、アッベ数が低下する傾向がある。また、TiOは紫外域での吸収が大きく、透過率曲線における吸収端を長波長側にシフトさせ、短波長領域の透過率を低下させるため、短波長用レンズとしての使用に支障をきたす可能性がある。以上に鑑み、TiOの含有量は0〜8%、0〜5%、特に0.1〜2.5%であることが好ましい。
【0031】
Nbは屈折率を高める効果が大きい成分である。また、Taを多量に含むガラス組成の場合、耐失透性(La、TaおよびBで形成される失透物の抑制)を改善する働きがある。さらに、アッベ数の低下に対して屈折率の上昇の大きい成分であり、高屈折率および低分散の光学特性を得るために有効な成分である。Nbの含有量は0〜10%、特に0.1〜9%であることが好ましい。Nbの含有量が多すぎると、アッベ数が低下したり、Nbを主成分とする失透物が表面に析出(表面失透)しやすくなる。
【0032】
Taは屈折率、化学的耐久性、耐失透性(BおよびLaで形成される失透物の抑制)を高める効果がある。また、アッベ数の低下に対して屈折率の上昇が大きい成分であり、高屈折率かつ低分散の光学特性を得るために有効な成分である。Taの含有量は0〜12%、0.5〜11%、1〜10%、特に2〜9.5%であることが好ましい。Taの含有量が多すぎると、アッベ数が低下して所望の光学特性が得られにくくなる。また、La、Gd、TaおよびBで形成される失透物が析出し、液相温度が上昇しやすくなる。さらに、原料バッチコストも高くなるため、経済的観点からも好ましくない。
【0033】
WOは屈折率を高める効果を有する。また、中間酸化物としてガラス骨格を形成するため、耐失透性(BおよびLaで形成される失透物の抑制)を向上する効果もある。さらに、TaやNbに比べ失透傾向が強くないため、多量に含有させても均質なガラスを得ることができる。また、アッベ数の低下に対して屈折率の上昇の大きい成分であり、高屈折率かつ低分散の光学特性を得るために有効な成分である。WOの含有量は0〜10%、1〜9.5%、2〜9%、特に2.5〜8%であることが好ましい。WOの含有量が多すぎると、アッベ数が低下して所望の光学特性が得られにくくなる。また、透過率曲線における吸収端が長波長側にシフトし、短波長領域(例えば390〜440nm)の透過率が低下しやすくなる。よって、短波長用レンズとしての使用に支障をきたす可能性がある。
【0034】
鉛成分(例えばPbO)、ヒ素成分(例えばAs)およびフッ素成分(例えばF)は、環境上の理由から実質的なガラスへの導入は避けるべきである。よって、本発明ではこれらの成分は実質的に含有しない。
【0035】
本発明の光学ガラスにおいて、高屈折率で耐失透性を向上する効果を得るためには、ZnO、ZrO、La、Gd、Ta、Nb、WO、TiOのうち2種または3種の合量や割合を適切に調整することが好ましい。以下に具体的に説明する。
【0036】
ZrO+Taは0.1〜18%、1〜17%、特に2〜16%であることが好ましい。ZrO+Taが多すぎると、耐失透性が低下しやすくなり、一方、少なすぎると、高屈折率特性を達成しにくくなる。
【0037】
La+Taは26〜52%、27〜51%、特に29〜50%であることが好ましい。La+Taが多すぎると、耐失透性が低下しやすくなり、一方、少なすぎると、高屈折率特性を達成しにくくなる。
【0038】
TiO+Taは0.1〜20%、1〜17.5%、特に2〜15%であることが好ましい。TiO+Taが多すぎると、低分散特性が得られにくくなり、一方、少なすぎると、高屈折率特性や良好な耐失透性が得られにくくなる。
【0039】
Ta+WOは0.1〜22%、1〜17.5%、特に2〜15%であることが好ましい。Ta+WOが多すぎると、低分散特性が得られにくくなり、一方、少なすぎると、高屈折率特性や良好な耐失透性が得られにくくなる。
【0040】
Nb+Taは0.1〜22%、1〜17.5%、特に2〜15%であることが好ましい。Nb+Taが多すぎると、低分散特性が得られにくくなり、一方、少なすぎると、高屈折率特性や良好な耐失透性が得られにくくなる。
【0041】
TiO+Nb+WOは0.1〜25%、1〜20%、特に2〜18%であることが好ましい。TiO+Nb+WOが多すぎると、低分散特性が得られにくくなり、一方、少なすぎると、高屈折率特性や良好な耐失透性が得られにくくなる。
【0042】
(TiO+WO)/(Nb+Ta)は1.5以下、特に1.4以下であることが好ましい。当該比率が大きすぎると、低分散特性や耐失透性が得られにくくなる。また、紫外域での吸収が大きくなり、透過率曲線における吸収端が長波長側にシフトして短波長領域の透過率が低下しやすくなる。
【0043】
(La+Gd)/(TiO+Nb+WO)は2以上、特に2.1以上であることが好ましい。当該比率が小さすぎると、低分散特性を達成しにくくなる。
【0044】
ZnO+ZrOは3.1〜18%、4〜16%、特に4.5〜15%であることが好ましい。ZnO+ZrOが多すぎると、耐失透性を向上する効果が得られにくくなり、一方、少なすぎると、高屈折率特性が得られにくくなる。
【0045】
本発明の光学ガラスは、上記成分に加えて高屈折率成分であるYおよびYbを含有することができる。
【0046】
およびYbは、アッベ数をほとんど低下させることなく屈折率を高める成分である。YおよびYbの含有量は各々0〜10%であることが好ましく、各々0〜8%であることがより好ましい。YまたはYbの含有量が多すぎると失透しやすくなり、作業温度範囲が狭くなる傾向がある。また、ガラス中に脈理が発生しやすくなる。
【0047】
上記成分以外にも、本発明の特性を損なわない範囲で種々の成分を含有することが可能である。このような成分としては、例えばAl、CaO、BaO、SrO、MgO、NaO、KOおよび清澄剤等が挙げられる。
【0048】
Alは、SiOやBとともにガラス骨格を構成することが可能な成分である。また、耐候性を向上させる効果があり、特にガラス中の成分が水へ選択的に溶出することを抑制する効果が大きい。Alの含有量は10%以下、特に5%以下であることが好ましい。Alの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。また、溶融性が低下して脈理や泡がガラス中に残存しやすくなり、レンズ用ガラスとしての要求品位を満たさなくなる可能性がある。
【0049】
CaO、BaOおよびSrOといったアルカリ土類金属酸化物は、アッベ数をほとんど低下させることなく、融剤として作用する効果がある。ただし、CaO、BaOおよびSrOの含有量が多すぎると、高屈折率が得られにくくなる。また、プリフォームガラスの溶融または成形工程中にBおよびLaを主成分とする失透物が析出しやすくなり、液相温度が上がって作業範囲が狭くなりやすい。その結果、量産化しにくくなる。さらに、耐候性が低下して、研磨洗浄水等の各種洗浄溶液中へガラス成分の溶出が増加したり、高温多湿状態でのガラス表面の変質が顕著になる傾向がある。よって、CaO、BaOおよびSrOは合量で20%以下であることが好ましい。
【0050】
なお、アルカリ土類金属酸化物の各成分の好ましい含有量は以下の通りである。
【0051】
CaOの含有量は0〜10%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0052】
BaOの含有量は0〜20%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0053】
SrOの含有量は0〜20%、0〜10%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0054】
なお、CaO、BaOおよびSrO以外にも、アルカリ土類金属酸化物成分としてMgOを含有してもよい。MgOの含有量は0〜10%、特に0〜5%であることが好ましい。MgOの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。
【0055】
NaOはLiO同様に軟化点を低下させる効果を有する。しかしながら、その含有量が多すぎると、溶融時にBとNaOで形成される揮発物が多くなり、脈理の生成を助長してしまう。また、BとLaを主成分とする失透物が析出しやすく、液相温度が高くなりやすい。さらに、モールドプレス成形時に発生する揮発物が増加したり、金型と融着しやすくなる。したがって、NaOの含有量は0〜10%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0056】
OもLiO同様に軟化点を低下させる効果を有する。しかしながら、その含有量が多すぎると、耐候性が低下する傾向がある。また、BとLaを主成分とする失透物が析出しやすく、液相温度が高くなりやすい。さらに、モールドプレス成形時に発生する揮発物が増加したり、金型と融着しやすくなる。したがって、KOの含有量は0〜10%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0057】
清澄剤としては、例えばSbやSnOが挙げられる。特にSbは、不純物として混入しやすいFeによる着色を消色する効果がある。清澄剤の含有量は0〜1%、0〜0.1%、特に0〜0.05%であることが好ましい。清澄剤の含有量が多すぎると、ガラスが過度に着色するおそれがある。
【0058】
本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は1.846以上、1.85以上、1.86以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、本発明のガラス組成系では、現実的には1.92以下である。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は30〜45、32〜42、特に34〜40であることが好ましい。これらの光学特性を満たすことにより、色分散が少なく、高機能で小型の光学素子用の光学レンズとして好適となる。
【0059】
本発明の光学ガラスのガラス転移点は650℃以下、640℃以下、特に630℃以下であることが好ましい。ガラス軟化点が高すぎると、モールドプレス成形温度が高くなって、金型の酸化、ガラス成分の揮発による金型の汚染、さらにはガラスと金型との融着等の問題が生じやすくなる。
【0060】
本発明の光学ガラスの着色度λ70は430nm未満、425nm以下、420nm以下、特に410nm以下であることが好ましい。着色度λ70が大きすぎると、可視域または近紫外域における透過率に劣り、各種光学レンズ等に使用することが困難となる。なお、「着色度λ70」とは、透過率曲線において透過率が70%となる波長をいう。
【0061】
着色度λ70を上記範囲に調整するためには、着色成分であるFe、Ni、CrおよびCu等の不純物の混入を抑制する、あるいは、Nb、WOおよびTiO等の透過率を低下させる成分の含有量を少なくすることが効果的である。
【0062】
次に、本発明の光学ガラスを用いて光ピックアップレンズや撮影用レンズ等を製造する方法を述べる。
【0063】
まず、所望の組成になるようにガラス原料を調合した後、ガラス溶融炉中で溶融する。次に、溶融ガラスをノズルの先端から滴下して液滴状ガラスを作製し、プリフォームガラスを得る。または、溶融ガラスを急冷鋳造して一旦ガラスブロックを作製し、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを得る。続いて、精密加工を施した金型中にプリフォームガラスを投入し、軟化状態となるまで加熱しながら加圧成形し、金型の表面形状をガラスに転写させる。このようにして光ピックアップレンズや撮影用レンズを得ることができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
表1〜3は本発明の実施例(No.1〜30)を、表4は比較例(No.31〜33)をそれぞれ示している。なお、表において、例えば「Zr+Ta」は「ZrO+Ta」(酸化物)を意味する(他も同様)。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
各試料は次のようにして作製した。
【0071】
まず、表に示す各組成になるようにガラス原料を調合し、白金ルツボを用いて1300〜1450℃で3時間溶融した。溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、アニール後、各測定に適した試料を作製した。
【0072】
得られた試料について、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、ガラス転移点(Tg)、液相温度(TL)および表面失透温度を測定した。また、金型融着性を評価した。それらの結果を表1〜4に示す。
【0073】
なお、屈折率(nd)はヘリウムランプのd線(587.6nm)に対する測定値で示した。
【0074】
アッベ数(νd)は、上記したd線の屈折率と水素ランプのF線(486.1nm)、同じく水素ランプのC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、アッベ数(νd)=[(nd−1)/(nF−nC)]式から算出した。
【0075】
ガラス転移点(Tg)は、熱膨張測定装置(dilato meter)にて測定される値によって評価した。
【0076】
液相温度は、電気炉内で1350℃−0.5時間の条件で各試料を再溶融後、温度勾配を有する電気炉内で16時間保持した後、電気炉から取り出して空気中で放冷し、光学顕微鏡で失透物の析出位置(温度)を求めることで測定した。ここで、液相温度が1200℃以下であれば、100.5dPa・s以上の液相粘度を達成しやすく、液滴成形を行った場合であっても失透が生じにくくなる。
【0077】
着色度は、厚さ10mm±0.1mmの光学研磨されたガラス試料について、分光光度計を用いて200〜800nmの波長域での透過率を0.5nm間隔で測定し、透過率70%を示す波長により評価した。
【0078】
表から明らかなように、実施例である試料No.1〜30のガラスは、屈折率が1.8463以上およびアッベ数が36.9〜40.5と所望の光学特性を満たしていた。また、ガラス転移点が627℃以下と低く、モールドプレス成形に好適であることがわかる。さらに、液相温度が1115℃以下と低いため、例えば液滴成形を行った場合であっても、失透しにくいと考えられる。
【0079】
一方、試料No.31のガラスは屈折率が1.8370と低く、試料No.32のガラスはアッベ数が28.7と低くなり所望の光学特性を満たしていなかった。また、試料No.33のガラスはガラス転移点が697℃と高く、モールドプレス成形に適していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のモールドプレス用光学ガラスは、CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、ビデオカメラ、一般のカメラの撮影用レンズ等に好適である。また、モールドプレス以外の成形方法で成形されるガラス硝材として使用することも可能である。