特許第5880945号(P5880945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5880945
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】後輪操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20160225BHJP
   B62D 7/14 20060101ALI20160225BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20160225BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20160225BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D7/14 A
   B62D101:00
   B62D113:00
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-32840(P2012-32840)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-169804(P2013-169804A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 加寿也
(72)【発明者】
【氏名】岡 邦洋
(72)【発明者】
【氏名】山中 亨介
【審査官】 三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−050929(JP,A)
【文献】 特開平08−072735(JP,A)
【文献】 特開平02−254062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 7/14
B62D 101/00
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後輪転舵軸に設けられた第1係合歯と、前記第1係合歯に係合する第1揺動爪と、前記第1揺動爪をその揺動方向のホームポジションに揺動付勢する第1付勢ばねと、を含む第1ラチェット機構と、
前記第1ラチェット機構を、前記後輪転舵軸の中立位置から第1軸方向への移動のみを許容するラチェット状態に切り換える第1切換え機構と、
前記後輪転舵軸に設けられた第2係合歯と、前記第2係合歯に係合する第2揺動爪と、前記第2揺動爪をその揺動方向のホームポジションに揺動付勢する第2付勢ばねと、を含む第2ラチェット機構と、
前記第2ラチェット機構を、前記後輪転舵軸の中立位置から第2軸方向への移動のみを許容するラチェット状態に切り換える第2切換え機構と、を備え
前記第1切換え機構は、前記第1揺動爪が前記ホームポジションから前記後輪転舵軸の第2軸方向の移動を許容する揺動方向へ揺動することを規制する規制位置と規制を解除する規制解除位置とに変位可能な第1規制部材と、前記第1規制部材を前記規制位置と前記規制解除位置とに駆動する第1駆動部材と、を含み、
前記第2切換え機構は、前記第2揺動爪が前記ホームポジションから前記後輪転舵軸の第1軸方向の移動を許容する揺動方向へ揺動することを規制する規制位置と規制を解除する規制解除位置とに変位可能な第2規制部材と、前記第2規制部材を前記規制位置と前記規制解除位置とに駆動する第2駆動部材と、を含み、
前記第1駆動部材は、前記第1揺動爪の揺動方向に交差する方向に前記第1規制部材を進退させるソレノイドを含み、
前記第2駆動部材は、前記第2揺動爪の揺動方向に交差する方向に前記第2規制部材を進退させるソレノイドを含む後輪操舵装置。
【請求項2】
請求項において、前記第1駆動部材および前記第2駆動部材の作動を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記第1規制部材および前記第2規制部材を規制位置に変位させて前記第1ラチェット機構および前記第2ラチェット機構をラチェット状態に切り換えるように、前記第1駆動部材および前記第2駆動部材を駆動制御する機能を有する後輪操舵装置。
【請求項3】
請求項において、車両の走行状態を検出する走行状態検出センサと、
車両の操舵状態を検出する操舵状態検出センサと、
後輪を転舵する転舵アクチュエータと、を備え、
前記制御装置は、前記走行状態検出センサにより検出された走行状態および前記操舵状態検出センサにより検出された操舵状態に基づいて転舵アクチュエータを転舵制御する機能と、前記走行状態検出センサ、前記操舵状態検出センサおよび前記転舵アクチュエータの少なくとも1つにフェールが発生したときに、前記第1ラチェット機構および前記第2ラチェット機構をラチェット状態に切り換える機能とを有する後輪操舵装置。
【請求項4】
請求項1からの何れか1項において、中立位置において、前記後輪転舵軸の第1係合歯と第2係合歯との間に、前記第1揺動爪および前記第2揺動爪が配置されるように構成されている後輪操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は後輪操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、後輪操舵装置において、前輪の操舵角が設定舵角を超えたときに、ソレノイドに通電してラック軸の孔にプランジャを挿入することにより後輪操舵を規制する技術が提案されている。特許文献1では、ソレノイドの通電回路にメカニカルな舵角スイッチを設けて、後輪操舵規制の誤作動を防止している。
特許文献2では、小舵角操舵時に使用するモータと大舵角操舵時に使用するモータとを分け、小舵角モータ駆動時には、常に後輪に連結したロッドのストローク規制を行う後輪操舵装置が提案されている。これにより、高速小舵角制御時に、大舵角操舵が行われることがないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−165099号公報
【特許文献2】特開平8−268314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
転舵軸が中立位置にあることを検出するセンサや、転舵軸を中立位置に戻すためのモータ等の大出力の駆動機構が必要である場合、後輪操舵装置の構造が複雑になり、後輪操舵装置が大型化する。また、センサやモータ等が故障していると、所要時に転舵軸を中立位置に復帰させることができないおそれがある。
本発明は、所要時に後輪転舵軸を中立位置に確実に復帰させることができる小型の後輪操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、後輪転舵軸(11)に設けられた第1係合歯(27)と、前記第1係合歯に係合する第1揺動爪(28)と、前記第1揺動爪をその揺動方向のホームポジションに揺動付勢する第1付勢ばね(29)と、を含む第1ラチェット機構(21)と、前記第1ラチェット機構を、前記後輪転舵軸の中立位置から第1軸方向(X1)への移動のみを許容するラチェット状態に切り換える第1切換え機構(23)と、前記後輪転舵軸に設けられた第2係合歯(31)と、前記第2係合歯に係合する第2揺動爪(32)と、前記第2揺動爪をその揺動方向のホームポジションに揺動付勢する第2付勢ばね(33)と、を含む第2ラチェット機構(24)と、前記第2ラチェット機構を、前記後輪転舵軸の中立位置から第2軸方向(X2)への移動のみを許容するラチェット状態に切り換える第2切換え機構(26)と、を備え、前記第1切換え機構は、前記第1揺動爪が前記ホームポジションから前記後輪転舵軸の第2軸方向の移動を許容する揺動方向へ揺動することを規制する規制位置と規制を解除する規制解除位置とに変位可能な第1規制部材(35)と、前記第1規制部材を前記規制位置と前記規制解除位置とに駆動する第1駆動部材(22)と、を含み、前記第2切換え機構は、前記第2揺動爪が前記ホームポジションから前記後輪転舵軸の第1軸方向の移動を許容する揺動方向へ揺動することを規制する規制位置と規制を解除する規制解除位置とに変位可能な第2規制部材(36)と、前記第2規制部材を前記規制位置と前記規制解除位置とに駆動する第2駆動部材(25)と、を含み、前記第1駆動部材は、前記第1揺動爪の揺動方向に交差する方向(P1)に前記第1規制部材を進退させるソレノイド(22c)を含み、前記第2駆動部材は、前記第2揺動爪の揺動方向に交差する方向(P2)に前記第2規制部材を進退させるソレノイド(25c)を含む後輪操舵装置(3)を提供する。
【0006】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ
【0007】
また、請求項のように、前記第1駆動部材および前記第2駆動部材の作動を制御する制御装置(16)を備え、前記制御装置は、前記第1規制部材および前記第2規制部材を規制位置に変位させて前記第1ラチェット機構および前記第2ラチェット機構をラチェット状態に切り換えるように、前記第1駆動部材および前記第2駆動部材を駆動制御する機能を有していてもよい。
【0008】
また、請求項のように、車両の走行状態を検出する走行状態検出センサ(19)と、車両の操舵状態を検出する操舵状態検出センサ(18,19)と、後輪を転舵する転舵アクチュエータ(14)と、を備え、前記制御装置は、前記走行状態検出センサにより検出された走行状態および前記操舵状態検出センサにより検出された操舵状態に基づいて転舵アクチュエータを転舵制御する機能と、前記走行状態検出センサ、前記操舵状態検出センサおよび前記転舵アクチュエータの少なくとも1つにフェールが発生したときに、前記第1ラチェット機構および前記第2ラチェット機構をラチェット状態に切り換える機能とを有していてもよい。
【0009】
求項のように、中立位置において、前記転舵軸の第1係合歯と第2係合歯との間に、前記第1揺動爪および前記第2揺動爪が配置されるように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、各切換え機構によって、対応するラチェット機構をラチェット状態に切り換えると、各ラチェット機構が、中立位置から転舵軸の対応する軸方向への移動を規制する。したがって、路面からのセルフアライメントトルクによって、転舵軸を自動的に中立位置に復帰させて、中立位置に確実に保持することができる。中立位置を検出するセンサや、転舵軸を中立位置に戻すモータ等を不要にでき、ラチェット機構を用いた簡単な構造で小型化を達成することができる。
【0011】
また、各切換え機構において、各駆動部材が対応する規制部材を規制位置に変位させることで、対応するラチェット機構をラチェット状態に容易に切り換えることができる。
また、各駆動部材のソレノイドが、対応する揺動爪の揺動方向に交差する方向に、対応する規制部材を進出させることにより、対応する揺動爪の所定の揺動方向への揺動を規制して、対応するラチェット機構をラチェット状態に切り換えることができる。ソレノイドであれば、オンオフの動作が確実であり、結果として、転舵軸を確実に中立位置に自動復帰させることができる。
請求項の発明によれば、制御装置が各駆動部材を駆動制御することより、各規制部材を規制位置に変位させることができる。
【0012】
請求項の発明によれば、車両の走行状態や操舵状態を検出するセンサや、転舵アクチュエータの何れかにフェールが発生したときに、転舵軸を中立位置に自動的に復帰させて、走行安定性を向上することができる
【0013】
請求項の発明によれば、中立位置において、転舵軸の両係合歯の間に、両揺動爪が配置されるので、一層の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態の後輪操舵装置が適用された四輪操舵装置の模式図である。
図2】後輪操舵装置の中立位置自動復帰装置の概略断面図である。
図3】ECUの制御の流れを示すフローチャートである。
図4】各ラチェット機構が非ラチェット状態であるときの中立位置自動復帰装置の概略断面図である。(a)および(b)は、それぞれ、第1ラチェット機構が転舵軸の第1軸方向への移動を許容する状態、および第1ラチェット機構が第2軸方向への移動を許容する状態を示している。
図5】各ラチェット機構が非ラチェット状態であるときの中立位置自動復帰装置の概略断面図である。(a)および(b)は、それぞれ、第2ラチェット機構が転舵軸の第1軸方向への移動を許容する状態、および第2ラチェット機構が第2軸方向への移動を許容する状態を示している。
図6】各ラチェット機構がラチェット状態であるときの中立位置自動復帰装置の概略断面図である。(a)は、中立位置から第2軸方向側に変位している転舵軸が、第1軸方向への移動を許容される状態を示しており、(b)は中立位置に達した転舵軸が中立位置に保持される状態を示している。
図7】各ラチェット機構がラチェット状態であるときの中立位置自動復帰装置の概略断面図である。(a)は、中立位置から第1軸方向側に変位している転舵軸が、第2軸方向への移動を許容される状態を示しており、(b)は中立位置に達した転舵軸が中立位置に保持される状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施形態の後輪操舵装置を含む四輪操舵装置の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、四輪操舵装置1は、前輪操舵装置2と、後輪操舵装置3とを備えている。前輪操舵装置2は、ステアリングホイール等の操舵部材4と、操舵部材4の回転操作に伴って回転するピニオン軸5と、ピニオン軸5に噛み合うラック軸からなる前輪転舵軸6と、前端転舵軸6としてのラック軸の両端に連結された一対のタイロッド7と、各タイロッド7と対応するナックルアーム(図示せず)を介して連結された左右の前輪8とを備えている。ピニオン軸5と前輪転舵軸6としてのラック軸とにより、前輪転舵機構としてのラックアンドピニオン機構Aが構成されている。
【0016】
後輪操舵装置3は、車体9に固定されたハウジング10と、ハウジング10に軸方向(第1軸方向X1および第2軸方向X2)に移動可能に且つ回転不能に支持された後輪転舵軸11と、後輪転舵軸11の両端に連結された一対のタイロッド12と、各タイロッド12と対応するナックルアーム(図示せず)を介して連結された左右の後輪13とを備えている。
【0017】
後輪操舵装置3は、操舵部材4と左右の後輪13との機械的な連結が解除された、いわゆるステアバイワイヤシステムを構成している。すなわち、後輪操舵装置3は、操舵部材2の回転操作に応じて回転駆動される例えば電動モータからなる転舵アクチュエータ14と、転舵アクチュエータ14の回転運動を後輪転舵軸11の軸方向(第1軸方向X1および第2軸方向X2)の直線運動に変換するボールねじ機構15と、転舵アクチュエータ14を転舵制御する制御装置としてのECU16(Electronic Control Unit )と、所要時に後輪転舵軸11を中立位置に自動的に復帰させる中立位置自動復帰装置17とを備えている。
【0018】
また、後輪操舵装置3は、操舵部材4の操舵角θhを検出する操舵角センサ18(操舵状態検出センサ)と、車速Vを検出する車速センサ19(走行状態検出センサ)と、後輪転舵軸11の軸方向X1,X2の位置に応じて後輪13の転舵角θwを検出する転舵角センサ20(操舵状態検出センサ)とを備えている。操舵角センサ18、車速センサ19および転舵角センサ20からの検出信号が、ECU16に入力される。
【0019】
ECU16は、操舵角センサ18により検出された操舵角θhおよび車速センサ19により検出された車速Vに基づいて転舵アクチュエータ14を転舵制御する。具体的には、検出された操舵角θhおよび検出された車速Vに基づいて、目標転舵角を設定する。そして、この目標転舵角と、転舵角センサ20によって検出された転舵角θw との偏差に基づいて、駆動回路(図示せず)を介し、転舵アクチュエータ14を駆動制御(転舵制御)する。
【0020】
中立位置自動復帰装置17は、後輪転舵軸11の第1軸方向X1(例えば左方)および第2軸方向X2(例えば右方)の双方への移動を許容する非ラチェット状態と、後輪転舵軸11の中立位置から第1軸方向X1への移動のみを許容するラチェット状態とに切換え可能な第1ラチェット機構21と、第1ラチェット機構21をラチェット状態に切り換える第1駆動部材22を含む第1切換え機構23とを備えている。
【0021】
また、中立位置自動復帰装置17は、後輪転舵軸11の第1軸方向X1および第2軸方向X2の双方への移動を許容する非ラチェット状態と、後輪転舵軸11の中立位置から第2軸方向X2への移動のみを許容するラチェット状態とに切換え可能な第2ラチェット機構24と、第2ラチェット機構24をラチェット状態に切り換える第2駆動部材25を含む第2切換え機構26とを備えている。
【0022】
図2に示すように、第1ラチェット機構21は、後輪転舵軸11の外周11aに設けられた第1係合歯27と、第1係合歯27に係合する第1揺動爪28と、第1揺動爪28を揺動付勢する第1付勢ばね29とを備えている。第1揺動爪28は、ハウジング10に第1支軸30を介して第1支軸30の回りに揺動可能に支持されている。第1付勢ばね29は、第1揺動爪28をその揺動方向のホームポジション(揺動範囲の中間位置)に付勢している。
【0023】
第2ラチェット機構24は、後輪転舵軸11の外周11aに設けられた第2係合歯31と、第2係合歯31に係合する第2揺動爪32と、第2揺動爪32を揺動付勢する第2付勢ばね33とを備えている。第2揺動爪32は、ハウジング10に第2支軸34を介して第2支軸34の回りに揺動可能に支持されている。第2付勢ばね33は、第2揺動爪32をその揺動方向のホームポジション(揺動範囲の中間位置)に付勢している。
【0024】
第1切換え機構23は、第1規制部材35と、第1駆動部材22とを備えている。第1規制部材35は、第1揺動爪28が前記ホームポジションから後輪転舵軸11の第2軸方向X2の移動を許容する揺動方向(図2では、反時計回りである第2揺動方向Y2に相当)へ揺動することを規制する規制位置と、その規制を解除する規制解除位置〔図4(a)を参照〕とに変位可能である。第1駆動部材22は、第1規制部材35を図2に示す規制位置と図4(a)に示す規制解除位置とに駆動する。
【0025】
第2切換え機構26は、第2規制部材36と、第2駆動部材25とを備えている。第2規制部材36は、第2揺動爪32が前記ホームポジションから後輪転舵軸11の第1軸方向X1の移動を許容する揺動方向(図2では、時計回りである第1揺動方向Z1に相当)へ揺動することを規制する規制位置と、その規制を解除する規制解除位置〔図4(a)とに変位可能である。第2駆動部材25は、第2規制部材36を図2に示す規制位置と図4(a)に示す規制解除位置とに駆動する。
【0026】
第1係合歯27は、第2係合歯31よりも第1軸方向X1側に配置され、第2係合歯31は、第1係合歯27よりも第2軸方向X2側に配置されている。第1係合歯27と第2係合歯31とは、後輪転舵軸11の軸方向X1,X2に所定距離離隔している。
第1係合歯27は、後輪転舵軸11の軸方向X1,X2に対して傾斜した傾斜歯面27aと、後輪転舵軸11の軸方向X1,X2と直交する直交歯面27bとを有している。1つの第1係合歯27において、傾斜歯面27aは直交歯面27bよりも第1軸方向X1側に配置されている。
【0027】
第2係合歯31は、後輪転舵軸11の軸方向X1,X2に対して傾斜した傾斜歯面31aと、後輪転舵軸11の軸方向X1,X2と直交する直交歯面31bとを有している。1つの第2係合歯31において、傾斜歯面31aは直交歯面31bよりも第2軸方向X2側に配置されている。第1係合歯27の傾斜歯面27aと第2係合歯31の傾斜歯面31aとは、互いに逆向きに傾斜している。
【0028】
第1揺動爪28は、第1端部281および第2端部282を有し、第1支軸30は、両端部281,282間に配置されている。第1揺動爪28の第1端部281には、第1係合歯27の傾斜歯面27aに係合する第1係合部28aが設けられている。第1係合部28aは、第1揺動爪28がホームポジションにある状態で、後輪転舵軸11の軸方向X1,X2に対して傾斜している。
【0029】
第1揺動爪28の側部28b(側部28bは、第1揺動爪28がホームポジションにある状態で後輪転舵軸11の軸方向X1,X2に直交している)は、第1端部281において、第1係合歯27の直交歯面27bに係合する第2係合部28cを有している。第1揺動爪28の側部28bは、第2端部282において、第1規制部材35に係合する第3係合部28dを有している。
【0030】
第1付勢ばね29は、例えばコイルばねにより構成されている。第1付勢ばね29の一端は、ハウジング10の内周10aに設けられた突起10bに固定され、第1付勢ばね29の他端は、第1揺動爪28の第2端部282に固定されている。第1揺動爪28がホームポジション(図2に示す直立状態に相当)から何れかの傾斜方向(第1揺動方向Y1または第2揺動方向Y2)に傾斜すると、第1付勢ばね29は、第1揺動爪28に対して、その傾斜方向の反対方向に付勢力(ホームポジションへの復元力)を及ぼす。
【0031】
第2揺動爪32は、第1端部321および第2端部322を有し、第2支軸34は、両端部321,322間に配置されている。第2揺動爪32の第1端部321には、第2係合歯31の傾斜歯面31aに係合する第1係合部32aが設けられている。第1係合部32aは、第2揺動爪32がホームポジションにある状態で、後輪転舵軸11の軸方向X1,X2に対して傾斜している。
【0032】
第2揺動爪32の側部32b(側部32bは、第2揺動爪32がホームポジションにある状態で後輪転舵軸11の軸方向X1,X2に直交している)は、第1端部321において、第2係合歯31の直交歯面31bに係合する第2係合部32cを有している。第2揺動爪32の側部32bは、第2端部322において、第2規制部材36に係合する第3係合部32dを有している。
【0033】
第2付勢ばね33は、例えばコイルばねにより構成されている。第2付勢ばね33の一端は、ハウジング10の内周10aに設けられた突起10cに固定され、第2付勢ばね33の他端は、第2揺動爪32の第2端部322に固定されている。第2揺動爪32がホームポジション(図2に示す直立状態に相当)から何れかの傾斜方向(第1揺動方向Z1または第2揺動方向Z2)に傾斜すると、第2付勢ばね33は、第2揺動爪32に対して、その傾斜方向の反対方向に付勢力(ホームポジションへの復元力)を及ぼす。
【0034】
互いに近接する第1係合歯27の直交歯面27bと第2係合歯31の直交歯面31bとの配置間隔D1は、ホームポジションにある両揺動爪28,32の第2係合部28c,32c間の距離D2と等しくなるように構成されている。
第1切換え機構23の第1駆動部材22は、電磁アクチュエータからなり、本体22aと、本体22aから第1揺動爪28の揺動方向Y1,Y2に交差する交差方向P1に進退するロッド22bと、本体22aに内蔵されたソレノイド22cと、ロッド22bを伸長方向に付勢する圧縮コイルばね22dとを備えている。ロッド22bの端部に第1規制部材35が固定されており、圧縮コイルばね22dは、第1規制部材35と本体22aとの間に介在している。
【0035】
第1駆動部材22のソレノイド22cがオフ(励磁が解除)されると、圧縮コイルばね22dの付勢力によってロッド22bが伸長する。これにより、第1規制部材35が、第1揺動爪28の第3係合部28dに係合する規制位置(図2参照)に変位する。その結果、第1揺動爪28の第1揺動方向Y1への揺動のみが規制される〔図6(a)参照〕。
また、ソレノイド22cがオン(励磁)されると、ソレノイド22cの電磁力でロッド22bが収縮する。これにより、第1規制部材35が、第1揺動爪28の第3係合部28dとの係合を解除する規制解除位置〔図4(a),(b)参照〕に変位する。その結果、第1揺動爪28の両揺動方向Y1,Y2への揺動が可能となる。
【0036】
図2に示すように、第2切換え機構26の第2駆動部材25は、電磁アクチュエータからなり、本体25aと、本体25aから第2揺動爪32の揺動方向Z1,Z2に交差する交差方向P2に進退するロッド25bと、本体25aに内蔵されたソレノイド25cと、ロッド25bを伸長方向に付勢する圧縮コイルばね25dとを備えている。ロッド25bの端部に第2規制部材36が固定されており、圧縮コイルばね25dは、第2規制部材36と本体25aとの間に介在している。
【0037】
第2駆動部材25のソレノイド25cがオフ(励磁が解除)されると、圧縮コイルばね52dの付勢力によってロッド25bが伸長する。これにより、第2規制部材36が、第2揺動爪32の第3係合部32dに係合する規制位置(図2参照)に変位する。その結果、第2揺動爪32の第2揺動方向Z2への揺動のみが規制される〔図7(a)参照〕。
また、ソレノイド25cがオン(励磁)されると、ソレノイド25cの電磁力でロッド25bが収縮する。これにより、第2規制部材36が、第2揺動爪32の第3係合部32dとの係合を解除する規制解除位置〔図5(a),(b)参照〕に変位する。その結果、第2揺動爪32の両揺動方向Z1,Z2への揺動が可能となる。
【0038】
図3はECU16の制御の流れを示すフローチャートである。システムの起動に応じて、ステップS1において、各ラチェット機構21,24のソレノイド22c,25cをオンする。これにより、各ラチェット機構21,24は非ラチェット状態となり、各揺動爪28,32は何れの揺動方向にも揺動可能な状態となる。
その結果、第1ラチェット機構21は、図4(a)に示すように、後輪転舵軸11の第1軸方向X1への移動を許容し、また、図4(b)に示すように、後輪転舵軸11の第2軸方向X2への移動を許容する。第2ラチェット機構24は、図5(a)に示すように、後輪転舵軸11の第1軸方向X1への移動を許容し、また、図5(b)に示すように、後輪転舵軸11の第2軸方向X2への移動を許容する。
【0039】
次いで、ステップS2において、後輪操舵に関わる各種信号(例えば操舵角センサ18、車速センサ19、転舵角センサ20および転舵アクチュエータ14としての電動モータの駆動電流値等)を入力する。ステップS3では、入力された信号が正常値を逸脱するか否かに基づいて、フェールの発生の有無を判定する。
ステップS3において、フェールの発生がないと判定された場合(ステップS3においてNOの場合)には、ステップS2に戻り、ステップS2,S3の処理を繰り返して、フェールの発生を監視する。
【0040】
ステップS3において、フェールの発生が有ると判定された場合(ステップS3においてYESの場合)には、ステップS4に進み、各ラチェット機構21,24のソレノイド22c,25cをオフする。これにより、各駆動部材22,25のロッド22b,25bが伸長し、各規制部材35,36が規制位置に変位する。これにより、各ラチェット機構21,24がラチェット状態になる。
【0041】
このようにラチェット状態に切り換えられたときに、例えば、図6(a)に示すように、後輪転舵軸11が中立位置から第2軸方向X2〔図6(a)において左方〕に変位していた場合、ラチェット状態にある第1ラチェット機構21が、後輪13が路面から受けるセルフアライメントトルクSTによって、後輪転舵軸11が第1軸方向X1に変位されること〔図6(a)において、白抜き矢符の方向へ変位されること〕のみを許容する。
【0042】
その結果、図6(b)に示すように、後輪転舵軸11が中立位置に達した時点で、各ラチェット機構21,24の揺動爪28,32が、対応する規制部材35,36と対応する直交歯面27b,31bとによって双方向の揺動を規制され、その結果、後輪転舵軸11が、双方向(第1軸方向X1および第2軸方向X2)の移動を規制されて、中立位置にロックされる。
【0043】
一方、ラチェット状態に切り換えられたときに、例えば、図7(a)に示すように、後輪転舵軸11が中立位置から第1軸方向X1〔図6(a)において右方〕に変位していた場合、ラチェット状態にある第2ラチェット機構24が、後輪13が路面から受けるセルフアライメントトルクSTによって、後輪転舵軸11が第2軸方向X2に変位されること〔図7(a)において、白抜き矢符の方向へ変位されること〕のみを許容する。
【0044】
その結果、図7(b)に示すように、後輪転舵軸11が中立位置に達した時点で、各ラチェット機構21,24の揺動爪28,32が、対応する規制部材35,36と対応する直交歯面27b,31bとによって双方向の揺動を規制され、その結果、後輪転舵軸11が、双方向(第1軸方向X1および第2軸方向X2)の移動を規制されて、中立位置にロックされる。
【0045】
本実施形態によれば、各切換え機構23,26によって、対応するラチェット機構21,24をラチェット状態に切り換えると、各ラチェット機構21,24が、中立位置から後輪転舵軸11の対応する軸方向X1,X2への移動を規制する。したがって、路面からのセルフアライメントトルクSTによって、後輪転舵軸11を自動的に中立位置に復帰させて、中立位置に確実に保持することができる。したがって、中立位置を検出するセンサや、後輪転舵軸を中立位置に戻すモータ等が不要にでき、ラチェット機構21,24を用いた簡単な構造で小型化を達成することができる。
【0046】
また、各切換え機構23,26において、各駆動部材22,25が対応する規制部材35,36を規制位置に変位させることで、対応するラチェット機構21,24をラチェット状態に容易に切り換えることができる。具体的には、ECU16が、各駆動部材22,25を駆動制御することより、各規制部材35,36を規制位置に変位させることができる。
【0047】
また、車両の走行状態を検出するセンサ(本実施形態では車速センサ19)や、車両の操舵状態を検出するセンサ(本実施形態では操舵角センサ18、転舵角センサ20)や、転舵アクチュエータ14の何れかにフェールが発生したときに、後輪転舵軸11を中立位置に自動的に復帰させて、走行安定性を向上することができる。
また、各駆動部材22,25のソレノイド22c,25cが、対応する揺動爪28,32の揺動方向Y1,Y2;Z1,Z2に交差する交差方向P1;P2に、対応する規制部材35,36を進出させることにより、対応する揺動爪28,32の所定の揺動方向の揺動を規制して、各ラチェット機構21,24をラチェット状態に切り換えることができる。ソレノイド22c,25cであれば、オンオフの動作が確実であり、結果として、後輪転舵軸11を確実に中立位置に自動復帰させて、中立位置に保持することができる。
【0048】
また、図2に示すように、中立位置において、後輪転舵軸11の両係合歯27,31の間に、両揺動爪28,32が配置されるので、後輪操舵装置3の一層の小型化を図ることができる。
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではい。例えば、前記実施形態では、フェールの発生時に、後輪転舵軸11を中立位置に自動的に復帰させる中立位置自動復帰装置17として構成されていたが、これに限らない。中立位置自動復帰装置17を、フェールの発生がない通常時において、後輪転舵軸11を中立位置にロックする中立位置ロック装置として機能させてもよい。その他、本発明の請求項記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0049】
1…四輪操舵装置、2…前輪操舵装置、3…後輪操舵装置、4…操舵部材、9…車体、10…転舵ハウジング、11…後輪転舵軸、12…タイロッド、13…後輪、14…転舵アクチュエータ、15…ボールねじ機構、16…ECU(制御装置)、17…中立位置自動復帰装置、18…操舵角センサ(操舵状態検出センサ)、19…車速センサ(走行状態検出センサ)、20…転舵角センサ(操舵状態検出センサ)、21…第1ラチェット機構、22…第1駆動部材、22a…本体、22b…ロッド、22c…ソレノイド、22d…圧縮コイルばね、23…第1切換え機構、24…第2ラチェット機構、25…第2駆動部材、25a…本体、25b…ロッド、25c…ソレノイド、25d…圧縮コイルばね、26…第2切換え機構、27…第1係合歯、27a…傾斜歯面、27b…直交歯面、28…第1揺動爪、28a…第1係合部、28b…側部、28c…第2係合部、28d…第3係合部、29…第1付勢ばね、30…第1支軸、31…第2係合歯、31a…傾斜歯面、31b…直交歯面、32…第2揺動爪、32a…第1係合部、32b…側部、32c…第2係合部、32d…第3係合部、33…第2付勢ばね、34…第2支軸、35…第1規制部材、36…第2規制部材、P1,P2…交差方向、X1…第1軸方向、X2…第2軸方向、Y1…第1揺動方向、Y2…第2揺動方向、Z1…第1揺動方向、Z2…第2揺動方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7