(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881037
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】絶縁物/半導体界面の評価方法及び評価装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20160225BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20160225BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
H01L21/66 Q
H01L29/78 301T
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-175232(P2011-175232)
(22)【出願日】2011年8月10日
(65)【公開番号】特開2013-38340(P2013-38340A)
(43)【公開日】2013年2月21日
【審査請求日】2014年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100108394
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 健一
(72)【発明者】
【氏名】木本 恒暢
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 裕典
【審査官】
▲高▼須 甲斐
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−315969(JP,A)
【文献】
特開2006−196713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
H01L 21/336
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100MHz程度の高周波におけるC−V特性を元に、酸化膜容量の影響を排除した半導体容量(CD+CIT〜CD)を計算する第1ステップと、
1/(CD+CIT)2を、低周波(準静電的)C−V特性から計算される表面ポテンシャルψsに対してプロットする第2ステップと、
ψs−1/(CD+CIT)2プロットの外挿値が原点を通るように定数項を定めることにより、表面ポテンシャルψsの絶対値を確定する第3ステップと
を有することを特徴とする絶縁物/半導体界面の評価方法。
ここで、CDは、半導体の容量であり、CITは、界面順位に起因する容量であり、CはMOSキャパシタの容量である。
【請求項2】
前記第1ステップにおいては、
を用い、
前記第2ステップにおいては、
を用い、
前記第3ステップにおいては、
を用いることを特徴とする請求項1に記載の絶縁物/半導体界面の評価方法。
ここで、COXは、酸化膜の容量であり、VGはゲート電圧であり、CQSは、準静電的な容量であり、Aは、積分定数であり、Cdepletionは、空乏層の容量であり、Sはゲート電極の面積であり、εSiCは、SiCの誘電率であり、eは、素電荷であり、NDは、SiCのドーピング濃度である。
【請求項3】
確定した前記表面ポテンシャルψsを用いて、酸化膜容量を差し引いた容量(CD+CIT)とψsとの関係を絶縁物/半導体界面における界面欠陥に起因する容量CITが無視できる程度の高周波および低周波で求める第4ステップと、
前記1/(CD+CIT)2-ψsプロットから求めたドーピング密度NDを用いて半導体容量CDの理論特性とに基づいて、低周波(CD+CIT)特性と理論特性CD(理論)との差分が界面準位に起因する容量CITとなることを利用して、当該CIT値から界面準位密度DITを求める第5ステップと
を有することを特徴とする請求項1に記載の絶縁物/半導体界面の評価方法。
【請求項4】
前記第4ステップにおいては、
を用い、
前記第5ステップにおいては、
を用いることを特徴とする請求項3に記載の絶縁物/半導体界面の評価方法。
ここで、CD,theoryはCDの理論値であり、kはボルツマン定数であり、Tは温度、(CD+CIT)QSは、半導体の容量と界面順位に起因する容量との和(準制電的な容量)である。
【請求項5】
前記理論特性CD(理論)の代わりに、十分周波数の高いCD+CIT特性を用いて求めることを特徴とする請求項3又は4に記載の絶縁物/半導体界面の評価方法。
【請求項6】
前記半導体は、SiCであり、
前記高周波は、100MHz程度の超高周波であることを特徴とする請求項5に記載の絶縁物/半導体界面の評価方法。
【請求項7】
請求項1又2に記載の絶縁物/半導体界面の評価方法で求めた表面ポテンシャルψsを、請求項3から5までのいずれか1項に記載の絶縁物/半導体界面の評価方法における前記第4のステップの表面ポテンシャルψsとして用いることを特徴とする絶縁物/半導体界面の評価方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の絶縁物/半導体界面の評価方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項9】
絶縁物/半導体界面における界面欠陥に起因する容量CITが無視できる程度の高周波におけるC−V特性を元に、酸化膜容量の影響を排除した半導体容量(CD+CIT)を計算する半導体容量(CD+CIT)演算部と、
1/(CD+CIT)2を低周波(準静電的)C−V特性から計算される表面ポテンシャルψsに対してプロットする1/(CD+CIT)2−ψsプロット部と、
1/(CD+CIT)2−ψsプロットの外挿値が原点を通るように定数項を定めることにより、表面ポテンシャルψsの絶対値を確定する積分定数A演算部と
を有することを特徴とする絶縁物/半導体界面の評価装置。
【請求項10】
確定した前記表面ポテンシャルψsを用いて、酸化膜容量を差し引いた容量(CD+CIT)とψsとの関係を絶縁物/半導体界面における界面欠陥に起因する容量CITが無視できる程度の高周波および低周波で求めるMOSキャパシタのVG−ψsプロット部と、
前記1/(CD+CIT)2-ψsプロットから求めたドーピング密度NDを用いて半導体容量Csの理論特性とに基づいて、低周波(CD+CIT)特性と理論特性CD(理論)との差分が界面準位に起因する容量CITとなることを利用して、当該CIT値から界面準位密度DITを求めるDIT演算部と
を有することを特徴とする請求項9に記載の絶縁物/半導体界面の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁物/半導体界面の評価技術に関し、特に、絶縁膜/SiC半導体界面欠陥の評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁膜/半導体界面(MIS界面、MOS界面)の電子物性は、MOSFET、TFT、CCD、太陽電池など多くの主要な半導体デバイスの性能を左右する重要な特性である。特に、次世代パワー半導体として期待される炭化珪素(SiC)の分野では、パワーMOSFETの高性能化が最も重要な課題の一つであるが、酸化膜/SiC界面に多くの欠陥(界面準位)が存在し、MOS界面のチャネル移動度が極めて低いことが問題となっている。
【0003】
酸化膜/SiC界面の評価では、エネルギーバンド端に近づくにつれて界面準位密度が指数関数的に増大することが見出され、このエネルギー的に浅い界面準位が、チャネル移動度の低下をもたらしていることが分かっている。
【0004】
したがって、このエネルギー的に浅い界面準位を正確に評価する手法(エネルギー位置と界面準位密度との両方を正確に求める手法)の確立が急務となっている。
【0005】
絶縁膜/半導体界面の界面準位密度の評価法については、Siの分野で20〜40年前に確立されて以来、ほとんど進展がないと言って過言ではない。これらの評価法には、以下のものがある。
【0006】
1)MISあるいはMOS構造(MISあるいはMOSキャパシタ)の高周波(0.1−1MHz)特性と理論特性の差分から界面準位密度を求めるターマン法。
2)高周波(0.1−1MHz)および低周波(準静電的,QS)のC−V特性から求めるhigh−low法。
3)MOS構造のコンダクタンスの周波数依存性を元に解析するコンダクタンス法。
【0007】
上記1)から3)までの3種類の評価方法が一般的であり、これらは半導体に関する多くの教科書にも記載されている。例えば、当該分野の代表的な教科書である下記非特許文献1などに記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S.M. Sze and K.K. Ng, “Physics of Semiconductor Devices (3rd ed.)”, Chapter 4, (2007, John Wiley & Sons, Inc., USA).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術である3種類の代表的な界面準位密度評価法の問題点について、以下に説明する。
【0010】
1)ターマン法: 測定は簡便である。
しかしながら、界面準位密度の絶対値に関する感度が低く、界面準位密度が3x10
11cm
−2eV
−1以下になると、ノイズと計算誤差の影響を受けて界面準位密度を正確に評価できない。
【0011】
また、各々の界面準位密度に相当するエネルギー位置の求め方が極めて曖昧であり、正確な界面準位密度の分布を求めることが不可能である。
【0012】
2)High−low法: QSと0.1−1MHzの高周波とで、C−V測定を行う方法であり、測定は比較的簡便である。また、界面準位密度の定量評価も比較的良好であるため、Siの分野では標準的な評価手法となっている。
【0013】
しかしながら、エネルギー位置の求め方に曖昧性があり、界面準位密度がバンド端近傍で急激な変化を示す場合(SiCの場合など)には、適用することが危険である。
【0014】
また、SiCの場合に適用すると、最も重要なバンド端近傍の界面準位密度を著しく過小評価することが知られており、問題となっていた。また、この過小評価の物理的理由も不明であった。
【0015】
3)コンダクタンス法: 界面準位密度の絶対評価という観点では、最も精度が良い。
しかしながら、測定とデータ解析とに極めて長時間を要することが最大の問題である(high−low法に比べて3倍以上の時間が必要である)。
【0016】
さらに、得られる界面準位密度は、特定のエネルギー位置に対応する不連続な点としてのみ求められ、デバイス特性解析に必要な界面準位密度のエネルギー分布を直接求めることが不可能である。
【0017】
加えて、high−low法の場合と同様に、エネルギー位置の曖昧性、バンド端近傍での界面準位密度の定量性に問題がある。
【0018】
本発明は、MISあるいはMOS界面の欠陥密度(界面準位密度)を簡便かつ高い精度で求めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一観点によれば、100MHz程度の高周波におけるC−V特性を元に、酸化膜容量の影響を排除した半導体容量(C
D+C
IT〜C
D)を計算する第1ステップと、1/(C
D+C
IT)
2を、低周波(準静電的)C−V特性から計算される表面ポテンシャルψsに対してプロットする第2ステップと、ψs−1/(C
D+C
IT)
2プロットの外挿値が原点を通るように定数項を定めることにより、表面ポテンシャルψsの絶対値を確定する第3ステップとを有することを特徴とする絶縁物/半導体界面の評価方法が提供される。ここで、100MHz程度とは、絶縁物/半導体界面における界面欠陥に起因する容量C
ITが無視できる程度の高周波を示すものである。
【0020】
前記第1ステップにおいては、
を用い、
前記第2ステップにおいては、
を用い、
前記第3ステップにおいては、
を用いることができる。
【0021】
また、本発明は、確定した前記表面ポテンシャルψsを用いて、酸化膜容量を差し引いた容量(C
D+C
IT)とψsとの関係を絶縁物/半導体界面における界面欠陥に起因する容量C
ITが無視できる程度の高周波および低周波で求める第4ステップと、前記1/(C
D+C
IT)
2-ψsプロットから求めたドーピング密度N
Dを用いて半導体容量C
Dの理論特性とに基づいて、低周波(C
D+C
IT)特性と理論特性C
D(理論)との差分が界面準位に起因する容量C
ITとなることを利用して、当該C
IT値から界面準位密度D
ITを求める第5ステップとを有することを特徴とする絶縁物/半導体界面の評価方法である。
【0022】
ここで、前記第4ステップにおいては、
を用い、
前記第5ステップにおいては、
を用いることができる。
【0023】
前記理論特性C
D(理論)の代わりに、十分周波数の高いC
D+C
IT特性を用いて求めることも可能である。
【0024】
前記半導体は、SiCであり、前記高周波は、100MHz程度の超高周波であることが好ましいが、Si,Ge,GaAs,GaNなど任意の半導体材料について適用可能である。禁制帯幅が比較的小さい半導体においては、室温で容易に反転層が形成されるために、広い電圧範囲で空乏層容量を求めることが困難であるが、そのような場合にはパルス電圧を用いたパルスC−V測定を行えば、深い空乏状態が得られ、広範囲で正確に空乏層容量を求めることができる。
【0025】
また、本発明は、上記第1から第3までのステップを含む絶縁物/半導体界面の評価方法で求めた表面ポテンシャルψsを、前記第4、第5のステップを含む絶縁物/半導体界面の評価方法における前記第4のステップの表面ポテンシャルψsとして用いることを特徴とする絶縁物/半導体界面の評価方法である。
【0026】
本発明は、上記のいずれかに記載の絶縁物/半導体界面の評価方法を、コンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0027】
本発明は、当該プログラムを記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体であっても良い。
【0028】
本発明の他の観点によれば、絶縁物/半導体界面における界面欠陥に起因する容量C
ITが無視できる程度の高周波におけるC−V特性を元に、酸化膜容量の影響を排除した半導体容量(C
D+C
IT)を計算する半導体容量(C
D+C
IT)演算部と、1/(C
D+C
IT)
2を低周波(準静電的)C−V特性から計算される表面ポテンシャルψsに対してプロットする1/(C
D+C
IT)
2−ψsプロット部と、ψs−1/(C
D+C
IT)
2プロットの外挿値が原点を通るように定数項を定めることにより、表面ポテンシャルψsの絶対値を確定する積分定数A演算部と、を有することを特徴とする絶縁物/半導体界面の評価装置が提供される。
【0029】
確定した前記表面ポテンシャルψsを用いて、酸化膜容量を差し引いた容量(C
D+C
IT)とψsとの関係を絶縁物/半導体界面における界面欠陥に起因する容量C
ITが無視できる程度の高周波および低周波で求めるMOSキャパシタのV
G−ψ
sプロット部と、前記1/(C
D+C
IT)
2-ψsプロットから求めたドーピング密度N
Dを用いて半導体容量Csの理論特性とに基づいて、低周波(C
D+C
IT)特性と理論特性C
D(理論)との差分が界面準位に起因する容量C
ITとなることを利用して、当該C
IT値から界面準位密度D
ITを求めるD
IT演算部とを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、MISあるいはMOS界面の欠陥密度(界面準位密度)を簡便(高速)かつ高い精度で得ることができる。
【0031】
また、不連続なデータになることなく、連続的なエネルギー分布を得ることができるため、精密な解析結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施の形態による、MOSキャパシタのC−V測定結果を示す図であり、準静電的(QS: quasi−static)、10kHz、1MHz、100MHzでの測定結果を示す図である。
【
図2】MOSキャパシタの等価回路図であり、
図2(a)は、界面準位を含む一般的な界面構造の等価回路図であり、
図2(b)は、界面に多数キャリアが強く蓄積された状態における等価回路図である。
【
図3】高周波での、空乏状態における1/(C
D+C
IT)
2とψsとの関係をプロットした図である。ここでは、1MHzと100MHzとの値を示している。
【
図4】C
D+C
ITとψsとの関係を、種々の周波数で求めた特性と、理論特性とを示す図である。
【
図5】同じキャパシタにおいて、本願を含む種々の方法(本願の方法、従来のhigh−low法、コンダクタンス法)で求めた界面準位密度のエネルギー分布を示す図である。
【
図6】本実施の形態で使用した絶縁膜/SiCキャパシタの構造の一例を示す図である。各種パラメータは、限定的なものではない。
【
図8】本実施の形態による、絶縁物/半導体界面欠陥の評価方法の一例を示すフローチャート図である。
【
図9】本実施の形態による、絶縁物/半導体界面欠陥の評価装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
【
図10】n型SiC MOSキャパシタについて、蓄積状態(ψs= 0.03V)で測定したC
D+C
ITの周波数依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施の形態による絶縁物/半導体界面欠陥の評価技術について、図面を参照しながら説明を行う。
図6は、本実施の形態で使用した絶縁膜/SiCキャパシタの構造の一例を示す図である。尚、絶縁膜/SiCキャパシタの構造、パラメータなどは、単なる一例であり、以下のものに限定されるものではなく、多くの構造に対して有効に用いることができる。
図6に示す例では、n型4H−SiC基板上に、n型のSiCバッファ層、n型のSiC層、SiO
2等の絶縁膜が形成され、絶縁膜上に第1電極が、n型基板に第2電極が形成されている。第1電極と第2電極との間に電圧Vgを印加することで、C−V測定を行い、キャパシタの容量を求めることができる。
【0034】
図1は、本発明の一実施の形態による、MOSキャパシタ(
図6参照)のC−V測定結果を示す図であり、準静電的(quasi−static: QS)の状態(DCに近い)、10kHz、1MHz、100MHzにおける測定結果を示す図である。
図2は、本実施の形態によるMOSキャパシタの等価回路図であり、
図2(a)は、界面準位を含む一般的な界面構造の等価回路図であり、
図2(b)は、MOSキャパシタにおいて多数キャリアが強く蓄積された状態における等価回路図である。
【0035】
図2(a)に示す等価回路図において、MOSキャパシタは、酸化膜の容量Coxと、半導体の容量C
D(V
G)と、界面準位に起因する容量C
ITと、界面におけるコンダクタンスG
ITと、直列インピーダンスZと、で表すことができる。
【0036】
周波数を高くすることによる蓄積容量の減少は、直列の寄生インピーダンスZに起因するものであり、C
OXとZとは、
図2(b)に示すように、強い蓄積状態と想定されるV
G=15Vにおけるインピーダンスより求めることができる。
【0037】
次に、本実施の形態による絶縁物/半導体界面欠陥の評価方法について、
図1から
図9までを参照しながら説明する。
【0038】
まず、以下の説明において用いる計算式を示す。
【数1】
【0039】
(1)式は、V
Gに依存する表面ポテンシャルを求めるための式である。ここで、ψs(V
G)は、V
Gに依存する表面ポテンシャルである。C
QSは、準静電的な容量であり、C
OXは、酸化膜の容量であり、Aは、積分定数である。
【0041】
(2)式は、測定された容量Cと、半導体の容量C
Dと、酸化膜の容量C
OXとの関係を示す図である。左側の近似は、十分高い周波数のときに成立する。
【0043】
(3)式は、界面準位密度D
ITを求める式であり、ここで、C
D+C
ITが、界面準位を含めた半導体の容量であり、QSにおいて測定した容量に対応する。D
ITは、界面準位密度である。Sは、ゲート電極(
図6の第1電極)の面積であり、eは、素電荷である。
【0045】
(4)式は、十分に高い周波数であり、かつ、強い空乏状態において、界面準位は応答しない状態における式である。
【0046】
ここで、C
depletionは、空乏層容量であり、ε
SiCは、SiCの誘電率であり、N
Dは、SiCのドーピング濃度である。
【0047】
【数5】
(5)式は、C
Dの理論値を求める式である。
【0048】
図8は、本実施の形態による半導体界面の評価方法の一例を示すフローチャート図である。
図9は、絶縁物/半導体界面欠陥評価装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
【0049】
図8のステップS1において、処理が開始される。次いで、ステップS2において、CV測定部(ユーザが測定する場合、自動的に測定がなされる場合を含む。以下、同様である。)100が、1)QS(準静電的)なCV測定、2)高周波のうち100MHzでのCV測定、3)1MHzでのCV測定を行う。尚、1MHzでの測定は任意であり、また、
図1では、さらに、10kHzでの測定も行っているが、このステップS2において、QSと100MHzでの測定は必須である。ここで、高周波として100MHzを用いたのは、
図2の等価回路で、C
ITの成分を無視できる程度に高い高周波として選択したものである。
図1に示すように、従来から用いられてきた、1MHzの高周波では、周波数に依存する界面欠陥に起因する容量成分C
ITの影響を十分に取り除けていないことを、発明者が見出した。
【0050】
次いで、ステップS3において、半導体容量(C
D+C
IT)演算部110が、ステップS2で求めた2)の100MHzの容量から、上記(2)式により求めた容量Cから酸化物容量C
OX成分を減算し、C
D+C
ITを得る。ここで100MHzでは、周波数に依存する界面欠陥に起因する容量成分C
ITの影響を十分に取り除くことができ、すなわちC
IT=0であるため、C
D+C
IT=C
Dとすることができる(
図2参照)。
【0051】
次いで、ステップS4において、ψs演算部120が、上記(1)式から、ステップS2の1)の(QS)値を用いて(
図3参照)、Aは不定のまま表面ポテンシャルψs(Vg)を計算する。
【0052】
これにより、ψsとVgとの関係を、横軸の位置が不定(A不定)のまま決定することができる。
図7は、ψsとV
Gとの関係の例を示す図である。ステップS4において、
図7に示すψsとV
Gとの関係のカーブの形状だけは確定するが、実際にはVgが不確定のため、横軸を含めたψsとV
Gとの関係は決まっていない。
【0053】
次いで、ステップS5において、1/(C
D+C
IT)
2−ψsプロット部130が、ステップS4で求めたψsを用いて、高周波測定で得られた1/(C
D+C
IT)
2をψsに対してプロットする(
図3)。
【0054】
図3は、高周波での、空乏状態における1/(C
D+C
IT)
2とψsとの関係をプロットした図である。ψsを決めるときにはQSで測定した容量を用い、
図3の縦軸をプロットするときには高周波(100MH)で測定した容量を用いる。
図3においては、100MHzでの測定値と、参考として1MHzでの測定値を示すが、両者では原点への外挿値がほぼ同じであることがわかる。尚、十分な空乏状態では、界面準位は1MHzに追随しないため、この領域の値を用いた外挿値は周波数依存性が小さく、精度が高い。
【0055】
次いで、ステップS6において、積分定数A演算部140が、ステップS5でプロットした1/(C
D+C
IT)
2−ψs特性(
図3)において、上記(4)式を用いてプロットの外挿値が原点を通るように定数項を定めることにより表面ポテンシャルψsの絶対値を決定する。ここまでの処理で、表面ポテンシャルψsを求めることができる。
【0056】
半導体物理の考察に基づいている(4)式を参照すると、ψsは1/(C
D+C
IT)
2と原点を通る比例関係にあるため、1/(C
D+C
IT)
2−ψs特性の外挿入値が原点を通るようにすることで、(1)式の積分定数const(A)を求めることができる。このようにすると、表面ポテンシャルψsの絶対値を±0.02eVの精度で決定することができる。尚、従来法の精度は±0.1eV程度であり、本実施の形態による方法の方が高精度であることがわかる。
【0057】
図4は、C
D+C
ITとψsとの関係を種々の周波数で求めた特性と、理論特性とを示す図である。ここで、反転を考慮しない理論的な半導体容量C
D(理論)もプロットした。周波数の増加に伴って、C
D+C
ITの測定値は、半導体容量C
D(理論)に近づくことがわかる。すなわち、従来から用いていた1MHzでの測定値は理論値とは大きく異なるが、100MHzになると、かなり理論値に近くなることがわかった。
【0059】
次いで、ステップS7において、MOSキャパシタのV
G−ψ
sプロット部150が、MOSキャパシタのVgとψsの関係を確定する。Vgとψsの関係は、定数項(A)を除けばステップS4で既に求めている。そして、ステップS6において、積分定数Aが求まったため、同時にVgとψsの関係が確定したことになる。すなわち、
図7のMOSキャパシタのVgとψsの関係を、横軸の位置を含めて全て確定することができる。
【0060】
次に、ステップS8において、ψs−(C
D+C
IT)プロット部160が、ψsとC
D+C
ITの関係をQSと理論値((5)式の理論特性)でプロットする。ここで、理論値の代わりに100MHzでの測定値を用いてプロットしても良い。
【0061】
さらに、ステップS9において、D
IT演算部170が、ステップS8のプロットにおける差分を求め、(3)式を用いてD
ITを求める。
【0062】
次いで、ステップS10において、エネルギー変換部180は、ψsをエネルギー(E
C−E)に変換し、(E
C−E)−D
ITプロット部190が、エネルギー(E
C−E)(
図5参照)とD
ITとの関係をプロットする。
【0063】
この際、半導体(不純物濃度既知)のフェルミ準位E
Fを計算し(
図5参照、1×10
16cm
−3であれば、E
C−E
F=0.19eV)、ここで、ψ
Sが0になる。
図5の横軸E
C−Eは、E
F−ψsで計算する。ψs=0の時に、E
C−Eは0.1〜0.2eV程度(ドーピング密度に依存)である。
【0064】
このように、
図5に示すE
C−EとD
ITとの関係を求めることができる。すなわち、伝導帯からのエネルギー準位と界面欠陥密度との関係を求めることができる。すなわち、絶縁膜/半導体界面欠陥の評価を行うことができる、ステップS11で当該処理を終了する。
【0065】
図5に示すように、100MHzで測定した界面欠陥密度D
IT−(E
C−E)カーブは、コンダクタンス法で精度良く求めたプロット値と非常に良い一致を示していることがわかる。1MHzにおけるフラットバンド容量に基づいて計算した従来のhigh−low法で求めた値は、1MHz程度の高周波で測定しても応答する界面欠陥の影響を見落としており、D
ITを低く見積もりすぎであることがわかる。
【0066】
これに比べて、本実施の形態による界面欠陥の評価技術によれば、従来から高精度であるとされていたが、測定に時間を要するコンダクタンス法と同等の精度の測定を、より高速に行うことが可能であることがわかる。さらに、Ec−Eに対して連続した曲線を得ることができるため、コンダクタンス法よりも短い時間で、界面欠陥の評価がしやすいことがわかる。
【0067】
図10は、n型SiC MOSキャパシタについて、蓄積状態(ψ
S=0.03V)で測定したC
D+C
ITの周波数依存性を示す図である。従来のhigh−low法でよく用いられる周波数である1MHzでは、C
D+C
IT値が理論計算値より明らかに大きく、応答の速い界面準位が追随していることが分かる。
【0068】
一方、100MHzの測定では、C
D+C
IT値が、ほぼ理論値に一致しており、界面準位は追随していないことが分かる。
【0069】
高周波の値としては、50MHz以上が理論値に近いという意味では好ましく、特に、100MHzであれば、ほぼ理論値と同じであるという意味で、より好ましい。
【0070】
以上に説明したように、本実施の形態によれば、従来のいかなる評価手法よりも高い精度でMISあるいはMOS界面の欠陥密度(界面準位密度)を求めることができる。その絶対値だけでなく、そのエネルギー位置の精度も格段に優れている。しかも従来の標準的手法であるhigh−low法と測定・解析時間はほぼ同じ(簡便)である。また、コンダクタンス法のように不連続なデータになることなく、連続的なエネルギー分布を得ることができる。バンド端近傍の界面準位密度の精密な評価にも対応しており、本手法の欠点はない。
【0071】
尚、上記の実施の形態において、添付図面に図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。また、本実施の形態で説明した機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、絶縁物/半導体界面の欠陥評価装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0073】
50…絶縁膜/半導体界面評価装置、100…CV測定部m、110…半導体容量(C
D+C
IT)演算部、120…ψs演算部、130…1/(C
D+C
IT)
2−ψsプロット部、140…積分定数A演算部、150…MOSキャパシタのV
G−ψ
sプロット部、160…ψs−(C
D+C
IT)プロット部、170…D
IT演算部、180…エネルギー変換部、190…(E
C−E)−D
ITプロット部。