特許第5881041号(P5881041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5881041隔離容器、搬入出用接続装置、生物隔離管理システム、及び隔離飼育生物への放射線照射方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881041
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】隔離容器、搬入出用接続装置、生物隔離管理システム、及び隔離飼育生物への放射線照射方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20160225BHJP
【FI】
   A61N5/10 Z
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-268796(P2011-268796)
(22)【出願日】2011年12月8日
(65)【公開番号】特開2013-118982(P2013-118982A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人放射線医学総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100135781
【弁理士】
【氏名又は名称】西原 広徳
(72)【発明者】
【氏名】小久保 年章
(72)【発明者】
【氏名】石田 有香
【審査官】 毛利 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭53−009281(JP,U)
【文献】 特開2000−316418(JP,A)
【文献】 特開平02−207724(JP,A)
【文献】 特開昭51−063280(JP,A)
【文献】 実開昭58−152915(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有して生物を収容する容器部、及び前記容器部の開口を密閉する蓋部を有する隔離筐体と、
前記隔離筐体に設けられて前記隔離筐体の内部空間への気体の吸気及び遮断を切り替える吸気部と、
前記隔離筐体に設けられて前記隔離筐体の内部空間からの気体の排気及び遮断を切り替える排気部と、
前記隔離筐体の内部空間を、前記生物を収容する生物収容側と前記吸気部から気体が流入する気体流入側とに仕切る仕切り部とを備え、
前記仕切り部と前記隔離筐体内壁の間、前記容器部、および前記仕切り部の少なくとも1つに、前記気体流入側と前記生物収容側との間で気体を通過させる気体流路を備え
前記隔離筐体は、放射線が照射される放射線照射面を有し、
前記吸気部及び前記排気部は、前記隔離筐体の前記放射線照射面へ向かって照射される放射線に干渉しない位置に設けられた
隔離容器。
【請求項2】
前記隔離筐体の前記生物収容側を前記放射線照射面の面方向へ複数の区画に区分けする区分け部を備え、
前記区分け部と前記隔離筐体内壁の間、前記隔離筐体、および前記区分け部の少なくとも1つに、前記仕切り部との反対側で前記各区画間に気体を通過させる区画間気体流路を備えた
請求項記載の隔離容器。
【請求項3】
前記仕切り部は、前記隔離筐体の内壁より一回り小さく形成され、
前記気体流路は、前記隔離筐体の内壁と前記仕切り部との隙間により構成された
請求項1または2記載の隔離容器。
【請求項4】
アイソレータの搬入出口に接続されて前記アイソレータ内部の隔離を維持しつつ前記生物を搬入出する搬入出用接続装置であって、
前記生物を収容した請求項1、2、または3記載の隔離容器を消毒する消毒部と、
前記隔離容器の吸気部に接続して気体を供給する気体供給部とを備えた
搬入出用接続装置。
【請求項5】
外界と隔離して生物を飼育するアイソレータと、
請求項記載の搬入出接続装置とを備えた
生物隔離管理システム。
【請求項6】
アイソレータ内で飼育中の生物を請求項1、2、または3記載の隔離容器に収容して密閉する収容工程と、
前記隔離容器を搬入出用接続装置を介して搬出する搬出工程と、
前記隔離容器及び前記生物に放射線を照射する放射線照射工程と、
前記搬入出用接続装置内で前記隔離容器を消毒する消毒工程と、
前記隔離容器をアイソレータに搬入して生物を飼育状態に戻す飼育復帰工程とを有し、
前記搬出工程、前記放射線照射工程、及び前記消毒工程の必要なタイミングで前記隔離容器の吸気部から前記生物の生存に必要な気体を供給する気体供給工程を行う
隔離飼育生物への放射線照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば隔離して飼育している生物を搬送して放射線を照射できるような隔離容器、搬入出用接続装置、生物隔離管理システム、及び隔離飼育生物への放射線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無菌動物やノトバイオート等の生物を隔離状態で飼育できるビニールアイソレータが利用されている。このビニールアイソレータに対して生物を搬入搬出する作業は、隔離状態を保持するために経験が必要である。
【0003】
ここで、実験動物を収容するマイクロアイソレータを滅菌するために有用な方法が提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1には、マイクロアイソレータを挿入する移動ボックスが記載されている。この移動ボックスには、空気および蒸気滅菌剤は通過させるが、微生物が通過するには小さすぎる孔を有する開口が設けられている。
【0004】
しかし、この移動ボックスは、隔離状態で飼育している生物を移動させて放射線を照射する実験に適したものではなかった。すなわち、この移動ボックスは、実験動物が入っているマイクロアイソレータそのものを収納するものであった。このため、放射線照射用の別途の容器に実験動物を収容する等しなければ、放射線の照射が行えないものであった。また、マイクロアイソレータそのものを収納する大きなものであるから、取扱いに難があるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平9−506522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上述した問題に鑑み、隔離飼育している生物の衛生レベルを維持しつつその生物を容易に搬送して実験できる隔離容器、搬入出用接続装置、生物隔離管理システム、及び隔離飼育生物への放射線照射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、開口を有して生物を収容する容器部、及び前記容器部の開口を密閉する蓋部を有する隔離筐体と、前記隔離筐体に設けられて前記隔離筐体の内部空間への気体の吸気及び遮断を切り替える吸気部と、前記隔離筐体に設けられて前記隔離筐体の内部空間からの気体の排気及び遮断を切り替える排気部と、前記隔離筐体の内部空間を、前記生物を収容する生物収容側と前記吸気部から気体が流入する気体流入側とに仕切る仕切り部とを備え、前記仕切り部と前記隔離筐体内壁の間、前記容器部、および前記仕切り部の少なくとも1つに、前記気体流入側と前記生物収容側との間で気体を通過させる気体流路を備え、前記隔離筐体は、放射線が照射される放射線照射面を有し、前記吸気部及び前記排気部は、前記隔離筐体の前記放射線照射面へ向かって照射される放射線に干渉しない位置に設けられた隔離容器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明により、隔離飼育している生物の衛生レベルを維持しつつその生物を容易に搬送して放射線を照射できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】生物隔離管理システムの全体構成を示すブロック図。
図2】搬入出用接続装置の概略構成を示す斜視図。
図3】隔離照射容器の構成を示す分解斜視図。
図4】隔離照射容器の構成を説明する説明図。
図5】隔離照射容器の縦断右側面図。
図6】搬入出用接続装置の消毒用グローブボックスを拡大した横断平面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、実験動物隔離管理システム1(生物隔離管理システム)の全体構成を示すブロック図である。
実験動物隔離管理システム1は、アイソレータ2A、搬入出用接続装置2B、排気装置2C、空気供給装置9、及び酸素供給装置13により構成されている。
【0012】
アイソレータ2Aは、吸気装置2aと排気装置2bと搬入出口2cとグローブ25を備えている。吸気装置2aと排気装置2bは、HEPAフィルタ等の適宜のフィルタが必要に応じて設けられ、アイソレータ2A内の衛生状態を保ち、またアイソレータ2Aの外部に微生物を排出しないようにしている。
【0013】
このアイソレータ2Aは、外界と隔離した状態で生物を飼育することができる。生物としては、マウスやラット等の実験動物(生物)を飼育することができる。特に、無菌実験動物(例えば無菌マウス)やノトバイオート実験動物(例えばノトバイオートマウス)等を、衛生レベルを維持したまま飼育することができる。
【0014】
搬入出用接続装置2Bは、アイソレータ前室3、消毒用グローブボックス4、及び消毒用グローブボックス前室5を備えている。この搬入出用接続装置2Bは、アイソレータ2Aの搬入出口2cにアイソレータ前室3が隙間なく密着して接続されている。アイソレータ前室3の内部空間3A、消毒用グローブボックス4の内部空間4A、及び消毒用グローブボックス前室5の内部空間5Aは、いずれも外界と隔離されており、無菌状態等を維持できる構成となっている。
【0015】
消毒用グローブボックス4は、室内空気を取り込む吸気側にHEPAフィルタ11が設けられている。このHEPAフィルタ11により、99.9%の微生物を除去して清浄な空気にできる。なお、HEPAフィルタ11の部分には、目的に応じたフィルタを設ければよく、HEPAフィルタ11以外のフィルタとすることもできる。消毒用グローブボックス4の排気側は、排気装置2Cに接続されている。
【0016】
排気装置2Cは、消毒用グローブボックス4からの気体の排気と遮断の切替を行う排気ボールバルブ14が備えられている。排気ボールバルブ14の次には、排気されてきた気体を一時収容するトラップボックス15が接続されている。このトラップボックス15により、排気した気体の通過の自由度が高まり、スムーズに排気できる。
【0017】
トラップボックス15の次には、換気ファン17が設けられている。この換気ファン17の前段には、流量調整バルブ16も接続されている。換気ファン17は、流量調整バルブ16からの室内空気、およびトラップボックス15からの排気を次のトラップボックス19へ送り込む。
【0018】
トラップボックス19の次は、2方向に分岐している。トラップボックス19の次の一方にはフィルタボックス18が接続され、他方にはHEPAフィルタ20が接続されている。フィルタボックス18は、HEPAフィルタまたは活性炭等、適宜のフィルタで構成されている。HEPAフィルタ20は、99.9%の微生物を除去して清浄な空気にする。なお、フィルタボックス18及びHEPAフィルタ20は、目的に応じて適宜のフィルタとすることができる。HEPAフィルタ20の次には、換気ファン21が接続されている。これにより、HEPAフィルタ20からの気体の排気を促進することができる。
【0019】
空気供給装置9は、HEPAフィルタ91、流量計92、圧力調整器93、及び空気ガスボンベ94を備えている。空気ガスボンベ94は、圧縮空気ガスを収容しており、空気ガスを放出することができる。
【0020】
空気ガスボンベ94の次に備えられている圧力調整器93は、空気ガスボンベ94から放出される空気ガスの圧力を、所望の圧力に調整する。この実施例では、HEPAフィルタ91が破れない程度の圧力となるように調整している。
【0021】
圧力調整器93の次に設けられている流量計92は、空気ガスの流量を測定して表示する。流量計92の次に設けられているHEPAフィルタ91は、99.9%の微生物を除去した清浄な空気を放出する。この空気ガスは、隔離照射容器7(隔離容器)に供給される。なお、HEPAフィルタ91は、目的に応じて適宜のフィルタとすることができる。
【0022】
酸素供給装置13は、開閉する酸素注入バルブ12を通じて消毒用グローブボックス4に酸素を供給する装置である。この酸素供給装置13は、空気供給装置9と同じ構成とする、あるいは酸素を供給する他の構成とすることができる。また、空気供給装置9をそのまま接続して酸素供給装置13とすることもできる。
【0023】
図2は、搬入出用接続装置2Bの概略構成を示す斜視図である。
搬入出用接続装置2Bは、アイソレータ前室3、消毒用グローブボックス4、及び消毒用グローブボックス前室5を備えている。
【0024】
アイソレータ前室3は、本体が透明のアクリル板で形成されている。アイソレータ前室3のアイソレータ2A側(左側面)には、アイソレータ2Aの搬入出口2c(図1参照)と連通する開口を開閉する搬入出扉31が設けられている。この搬入出扉31は、蝶番33によりアイソレータ前室3の本体に接続されている。搬入出扉31は、この蝶番33を回転軸として回転動作し、開閉することができる。搬入出扉31は、長方形の板状であり、1辺に前記蝶番33が設けられ、他の辺にロック部32が設けられている。このロック部32は、搬入出扉31が閉まっている状態でロックすることができる。ロック部32がロック解除されると、搬入出扉31は、蝶番33を回転軸に回転して開くことができる。
【0025】
また、アイソレータ前室3は、アイソレータ2Aとの反対側である消毒用グローブボックス4側(右側面)に、消毒用グローブボックス4と連通する開口が設けられている。この開口は、消毒用グローブボックス4側の搬入出扉41により開閉される。
【0026】
また、アイソレータ前室3は、正面にグローブ用穴35aが設けられている。このグローブ用穴35aには、グローブ35の基部が隙間なく接続されている。これにより、作業者は、グローブ35を手にはめてグローブ用穴35aからアイソレータ前室3内に手を挿入することができ、隔離された状態を維持しつつアイソレータ前室3内での作業を行うことができる。
【0027】
また、アイソレータ前室3は、正面に消毒剤供給栓36が設けられている。この消毒剤供給栓36は、接続端部が接続されると通気可能に連通し、接続端部が取り外されると通気孔を閉鎖して気体の流動を遮断する。消毒剤供給栓36は、外側に消毒液供給装置が接続され、内側に適宜のホースを介して消毒用ガンが接続されている。これにより、作業者は、グローブ35を手にはめて内部の消毒用ガンを手に持ち、消毒液供給装置から供給される消毒液を、消毒用ガンから消毒対象(隔離照射容器7)に照射して消毒することができる。
【0028】
消毒用グローブボックス4は、本体が透明のアクリル板で形成されている。消毒用グローブボックス4のアイソレータ前室3側(左側面)には、アイソレータ前室3と連通する開口を開閉する搬入出扉41が設けられている。この搬入出扉41は、搬入出扉31と同様にロック部42(32に対応)および蝶番43(33に対応)を備えている。搬入出扉41の構造及び機能は、搬入出扉31と同一である。
【0029】
また、消毒用グローブボックス4は、アイソレータ前室3との反対側である消毒用グローブボックス前室5側(右側面)に、消毒用グローブボックス前室5と連通する開口が設けられている。この開口は、消毒用グローブボックス前室5側の搬入出扉51により開閉される。
【0030】
また、消毒用グローブボックス4は、正面に2つのグローブ用穴45aが設けられている。それぞれのグローブ用穴45aには、グローブ45の基部が隙間なく接続されている。
【0031】
消毒用グローブボックス4の上面には、吸気側のHEPAフィルタ11が接続され、背面には排気側のHEPAフィルタ47(図6参照)が接続されている。消毒用グローブボックス4の正面には、消毒剤供給栓48および空気供給栓46が備えられている。
【0032】
消毒剤供給栓48は、外側に消毒液供給装置が接続され、内側に適宜のホース48a(図5参照)を介して消毒用ガン49(図5参照)が接続されており、上述した消毒剤供給栓36と同一の作用効果を有する。この消毒剤供給栓48、ホース48a、及び消毒用ガン49は、消毒部として機能する。
【0033】
空気供給栓46は、外側に酸素注入バルブ12を介して酸素供給装置13が接続され、内側に適宜のホース46a(図6参照)を介して接続端部90(図5参照)が接続されている。これにより、酸素供給装置13から供給される気体(酸素や空気ガス等)を隔離照射容器7に供給することができる。この空気供給栓46、ホース46a、及び接続端部90は、気体供給部として機能する。
【0034】
消毒用グローブボックス4には、グローブ45が2つ備えられているため、内部で隔離照射容器7に接続端部90を接続して気体を供給し、消毒用ガン49を操作して隔離照射容器7を消毒する作業を両手で行うことができる。
【0035】
消毒用グローブボックス前室5は、本体が透明のアクリル板で形成されている。消毒用グローブボックス前室5の消毒用グローブボックス4側(左側面)には、消毒用グローブボックス4の搬入出口と連通する開口を開閉する搬入出扉51が設けられている。この搬入出扉51は、上述した搬入出扉31と同様にロック部52(32に対応)および蝶番53(33に対応)を備えている。搬入出扉51の構造及び機能は、搬入出扉31と同一である。
【0036】
また、消毒用グローブボックス前室5は、消毒用グローブボックス4との反対側(右側面)に、外界と連通する開口が設けられている。この開口は、搬入出扉57により開閉される。この搬入出扉57は、上述した搬入出扉31と同様にロック部52(32に対応)および蝶番53(33に対応)を備えている。搬入出扉57の構造及び機能は、搬入出扉31と同一である。
【0037】
また、消毒用グローブボックス前室5は、正面にグローブ用穴55aが設けられている。このグローブ用穴55aには、グローブ55の基部が隙間なく接続されている。これにより、作業者は、グローブ55を手にはめてグローブ用穴55aから消毒用グローブボックス前室5内に手を挿入することができ、隔離された状態を維持しつつ消毒用グローブボックス前室5内での作業を行うことができる。
【0038】
図3は、隔離照射容器7の構成を示す分解斜視図であり、図4(A)は空気供給状態の隔離照射容器7の縦断右側面図であり、図4(B)は蓋71(蓋部)を取り外した状態の隔離照射容器7の平面図であり、図5は閉鎖状態(空気の通過を遮断している状態)の隔離照射容器7の縦断右側面図である。
【0039】
隔離照射容器7は、蓋71、仕切り板固定部材74、仕切り板75(仕切り部)、区画整理部材80、及び隔離容器85により主に構成されている。
蓋71は、円盤形状に形成されている。この蓋71は、厚み一定の板状で上面及び下面が平滑に形成されており、この上面が放射線照射面71aとして機能する。この蓋71の上面が、放射線が入射する入射面となる。従って、蓋71の上面及び下面は、放射線の照射方向に対して直角に形成されている。蓋71の外周面には、複数の着脱器具72aが設けられている。この着脱器具72aは4か所に設けられているが、これに限らず蓋71を隔離容器85に安定して固定可能な適宜の数とすることができる。
【0040】
仕切り板固定部材74は、ネジ形状に形成されている。仕切り板固定部材74のネジ頭部分は、人の指でつまんで回せる大きさの円筒形に形成されている。この仕切り板固定部材74は、上面と下面が蓋71の放射線照射方向に対して直角の平面に形成されており、仕切り板固定部材74のネジ頭部分の側面が放射線の照射方向と平行に形成されている。
【0041】
仕切り板75は、隔離容器85の内壁の直径よりも少し小さい円盤状に形成されている。この仕切り板75は、略円盤状で外周の一部に開口部77bを有する仕切り板本体77と、開口部77bにはめ込まれる開閉蓋76とで構成されている。仕切り板本体77と開閉蓋76は、いずれも厚み一定の板状に形成されており、複数の通気孔76a,77aが設けられている。この通気孔76a,77aは、区画整理部材80により区分けされる各区画K1〜K10(図4(B)参照)に対して複数(例えば4〜5個)設けられている。
【0042】
仕切り板本体77の平面視中央には、円盤の中心となる穴79が設けられている。この穴79に仕切り板固定部材74が挿入されて、仕切り板75が区画整理部材80に対して相対回転可能な状態で位置関係が保持される。
仕切り板本体77の開口部77bおよび開閉蓋76は、区画整理部材80により区分けされる各区画K1〜K10(図4(B)参照)の大きさとほぼ同じ大きさに形成されている。
【0043】
区画整理部材80は、円筒形の中心部81と、中心部81の外周面に放射状に設けられた複数(例えば10個)の区画整理板83(区分け部)により構成されている。
中心部81の上面には、中心位置に穴82が形成されている。この穴82に仕切り板固定部材74がねじ止めされる。
【0044】
区画整理板83は、立てられた板形状で、中心部81から隔離容器85内壁に接触する位置(若しくは近い位置)まで伸びる横長形状に形成されている。この区画整理板83は、上下方向の長さが中心部81の長さよりも短く形成され、上端辺が中心部81の上面と同じかほぼ同じ位置となるように配置されている。区画整理板83は、複数(例えば4個)の通気孔84が設けられ、各区画K1〜K10(図4(B)参照)の間で気体が出入りできるようにしている。また、区画整理板83の外側上端は面取り83aが設けられている。この面取り83aにより、実験動物がマウス、ラットのような場合に、尾が挟まることを防止できるようにしている。区画整理板83により区切られた各区画K1〜K10(図4(B)参照)は、対象となる実験動物を1匹入れられる程度の大きさに構成されている。
【0045】
隔離容器85は、外周サイズが蓋71の外周サイズと同一の円筒形で上面を開口し下面を閉鎖した容器本体87(容器部)を有している。容器本体87の円形の上面縁には、同じ大きさの円形のゴムパッキン86が設けられている。この容器本体87とゴムパッキン86と蓋71により隔離筐体70が構成されている。
【0046】
容器本体87の外周面には、複数の着脱器具72bが設けられている。この着脱器具72bは、蓋71の着脱器具72aに対応する位置に設けられている。着脱器具72bのアーム72cが着脱器具72aの凸部にかけて固定されると、固定器具72として機能し、蓋71が隔離容器85のゴムパッキン86を押圧する状態で強固に固定される。これにより、容器本体87と蓋71で囲まれた内部空間が外界と隔離された状態となり、機密性を維持できる。
【0047】
容器本体87の外周面には、吸気栓88(吸気部)と排気栓89(排気部)が容器本体87の中心を挟んで両端の上部側にそれぞれ設けられている。この吸気栓88と排気栓89は、気体流入空間E1(図4(A)参照)に対して気体を吸気または排気する。
【0048】
吸気栓88は、接続端部90(図4(A)参照)が装着されると内部の開閉弁88a(図4(A)参照)が開状態となって気体の通過を許容し、接続端部90が取り外されると開閉弁88aが閉状態となって気体の通過を遮断する栓であり、カプラ(登録商標)と呼ばれるものである。吸気栓88は、容器本体87に設けられた穴に装着されており、容器本体87内への気体の吸気と遮断を切替することができる。
【0049】
排気栓89は、気体の排気と遮断を切り替えるハンドル89aが設けられている。このハンドル89aは、内部の開閉弁89b(図4(A)参照)に接続されており、ハンドル89aを回転させると開閉弁89bが開状態と閉状態に切り替わる。この排気栓89は、容器本体87に設けられた穴に装着されており、容器本体87内の気体の排気と遮断を切替ることができる。
【0050】
この排気栓89、吸気栓88、及び固定器具72(72a,72b,72c)は、蓋71及び容器本体87の外周面の外側に設けられている。これにより、アクリルではない排気栓89、吸気栓88、及び固定器具72が、隔離照射容器7の蓋71の放射線照射面71aへの放射線照射に干渉することなく、良好な放射線照射を行える。
【0051】
これらの蓋71、仕切り板固定部材74、仕切り板75、区画整理部材80、および容器本体87は、いずれも放射線の照射を妨げない素材により形成されており、例えば透明のアクリルにより形成されている。そして、容器本体87の底面、蓋71、および仕切り板75は、互いに平行に配置され、これらに対して区画整理部材80の区画整理板83が直角に配置されている。
【0052】
このように構成された実験動物隔離管理システム1は、次のように利用される。
まず、実験動物を飼育しているアイソレータ2A(図1参照)と、アイソレータ2Aに接続された搬入出用接続装置2B(図2参照)と、隔離照射容器7(図4参照)とを準備する工程を行う。
【0053】
次に、アイソレータ2A内で飼育中の実験動物を隔離照射容器7に収容し、隔離照射容器7の蓋71と隔離容器85を固定器具72で固定して密閉する収容工程が行われる。
【0054】
次に、アイソレータ2Aから隔離照射容器7を搬入出用接続装置2Bへ搬出し、搬入出用接続装置2B内のアイソレータ前室3、消毒用グローブボックス4、及び消毒用グローブボックス前室5をこの順で通過させて外界に搬出する搬出工程が行われる。
【0055】
次に、搬出した隔離照射容器7に放射線を照射する放射線照射工程が行われる。
次に、隔離照射容器7が搬入出用接続装置2B内に搬入され、隔離照射容器7が消毒される消毒工程が行われる。この消毒工程は、消毒用グローブボックス4内で主に行われるが、アイソレータ前室3及び消毒用グローブボックス前室5でも行ってもよい。
【0056】
次に、隔離照射容器7をアイソレータ2Aに搬入して実験動物を飼育状態に戻す飼育復帰工程が行われる。この飼育復帰工程では、隔離照射容器7の固定器具72が外されて実験動物が取り出され、この実験動物がアイソレータ2A内の適宜の飼育装置に収容される。
【0057】
これらの各工程のうち必要な工程で、隔離照射容器7内に空気等の気体を供給する気体供給工程が行われる。必要な工程は、隔離照射容器7内に空気を供給しないと内部の実験動物に窒息等の影響が出る工程であり、作業者の作業速度等によって変化する。
【0058】
以上に説明した実験動物隔離管理システム1により、アイソレータ2Aで隔離飼育している生物の衛生レベルを維持しつつその生物を容易に搬送して放射線を照射することができる。
【0059】
また、隔離照射容器7は、容器本体87と蓋71がゴムパッキン86を介して密着し、内部を気密状態に隔離することができる。また、吸気栓88は接続端部90が挿入されるまで気体の通過を遮断し、排気栓89もハンドル89aが閉状態のときに気体の通過を遮断するため、隔離照射容器7の内部を気密状態に隔離することを確実に行える。
【0060】
また、アイソレータ2Aにより、容易に個別飼育ができる。また、隔離照射容器7により、アイソレータ2Aにより個別飼育された実験動物の衛生レベルを保持し封じ込めをしたまま放射線照射実験を行うことができる。従って、ノトバイオートの実験動物や無菌動物等、異なる衛生レベルで管理されている実験動物を隔離照射容器7に隔離してアイソレータ2Aから共同実験エリアへ搬出し、放射線の照射実験を行い、アイソレータ2Aへ戻しても、実験前後で衛生レベルを変化させずに維持することができる。
【0061】
また、隔離照射容器7の内部空間Eを、図4(A)に示すように、仕切り板75によって気体流入空間E1(気体流入側)と実験動物収容空間E2(生物収容側)に仕切ることができる。
仕切り板75の外周の外側と容器本体87の内壁との間には、平面視リング状の隙間となる気体流路101が形成される。この気体流路101を介して気体流入空間E1と実験動物収容空間E2の間で気体が流動できる。特に、吸気栓88から吸気された気体は、吸気栓88から遠い位置の気体流路101を通じて気体流入空間E1から実験動物収容空間E2へ流動し、さらに吸気栓88から近い位置の気体流路101を通じて実験動物収容空間E2から気体流入空間E1へ流動し、最終的に排気栓89から外界へ排気される。
【0062】
また、仕切り板75は、吸気栓88から流入する気体を図4(A)の矢印Y1に示すように気体流入空間E1内に通過させる。これにより、HEPAフィルタを通過させるために圧をかけた状態で吸気栓88から流入する気体が、実験動物収容空間E2内の実験動物に直接当たることを防止できる。
【0063】
また、区画整理板83の底辺と容器本体87の底板上面との間には、気体が通過する隙間である区画間気体流路103が形成される。この区画間気体流路103を介して、図4(A)の矢印Y2に示すように、区画間に気体を流動させることができる。
【0064】
開閉蓋76を開口部77bにはめ込み固定した状態の仕切り板75により、区画整理部材80で仕切られた各区画K1〜K10(図4(B)参照)から気体流入空間E1(図4(A)参照)へ実験動物が出ることを防止できる。
【0065】
仕切り板75を回転させ、区画整理部材80で仕切られた任意の区画K(K1〜K10)に開口部77bを合わせて開閉蓋76を取り外すと、その区画K(K1〜K10)に実験動物を出し入れすることができる。
【0066】
隔離照射容器7を構成する各要素のうち放射線が通過する部分となるアクリル性の要素は、図5の縦断右側面図に示すように、放射線の照射方向Y3に対して平行か水平に形成されている。これにより、放射線の照射を妨げずに良好な放射線照射実験を行うことができる。
【0067】
また、区画K(K1〜K10)は、放射線の照射方向Y3に対して直角となる方向に複数配置されている。これにより、照射方向Y3に実験動物が重なることがなく、全ての区画K(K1〜K10)に対して均等な放射線を照射できる。従って、区画K(K1〜K10)の数までの実験動物に対して同一条件で一度に放射線を照射することができる。
【0068】
図6は、搬入出用接続装置2Bの消毒用グローブボックス4(図2参照)を拡大した横断平面図である。図示するように、隔離照射容器7の吸気栓88には、接続端部90を接続することができる。これにより、消毒用グローブボックス4の外から隔離照射容器7内へ実験動物生存用の気体である空気(もしくは酸素)を供給することができる。従って、消毒用グローブボックス4内でグローブ45(図2参照)越しに消毒用ガン49を操作し、隔離照射容器7に消毒液をかけて消毒する動作をゆっくりと丹念に行うことができる。また、慣れない作業者であっても、隔離照射容器7内への空気供給により内部の実験動物が窒息することがないため、問題なく消毒作業を行うことができる。なお、搬入出用接続装置2B内で隔離照射容器7内に供給されて排気栓89から排気された空気は、HEPAフィルタ47により清浄な空気となって排気される。
【0069】
また、空気供給装置9(図1参照)により、アイソレータ2Aから搬入出用接続装置2Bを介して搬出した隔離照射容器7内に、内部の衛生レベルを維持しつつ空気を供給することができる。これにより、放射線照射等の実験に時間がかかっても、隔離照射容器7内の実験動物の生存を維持することができる。なお、空気供給装置9のHEPAフィルタ91から伸びるホースの先端に設けられた接続端部90(図4(B)参照)が隔離照射容器7の吸気栓88に接続されて空気が供給されるとき、排気栓89は開状態とする必要がある。このとき、排気栓89から排出される気体の微生物等を除去するために、排気栓89にHEPAフィルタ等の適宜のフィルタを接続すると良い。
【0070】
また、アイソレータ前室3により、外界から消毒用グローブボックス4に隔離照射容器7を直接搬入するよりも確実に滅菌等することができる。
【0071】
また、消毒用グローブボックス前室5により、消毒用グローブボックス4からアイソレータ2Aに隔離照射容器7を直接搬入するよりも確実に滅菌等することができる。
【0072】
また、隔離照射容器7は、アイソレータ2Aとコンベンショナルエリアとの間で搬入及び搬出される間に、3つの隔離ボックス(アイソレータ前室3、消毒用グローブボックス4、及び消毒用グローブボックス前室5)を通過する。これにより、消毒効果の高い消毒液を用いて隔離照射容器7の表面を殺菌するのみで、衛生レベルを保持したまま物品の出し入れができる。
【0073】
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
例えば、隔離照射容器7は、平面視円形とすることで放射線を均一に効率よく照射できるようにしているが、これに限らず他の形状に形成することができる。
【0074】
また、隔離照射容器7は、上部側に気体流入空間E1と吸気栓88を設け、下部側に実験動物収容空間E2を設けているが、これに限らず上下逆の構成とすることもできる。
【0075】
また、仕切り板75の外周サイズを容器本体87の内周サイズより小さくして気体流路101を設けたが、これに限らず適宜の構成によって気体流路101を備えることができる。例えば、仕切り板75の外周サイズと容器本体87の内周サイズを同じ程度とし、容器本体87の内壁または/および仕切り板75の外周に穴または溝を設け、この溝を気体流路101とすることができる。
【0076】
また、区画整理部材80の中心部81の上方位置に区画整理板83を設けて下部に隙間となる区画間気体流路103を設けたが、これに限らず適宜の構成によって区画間気体流路103を構成することもできる。例えば、中心部81の下端位置まで区画整理板83を設け、区画整理板83の下辺または容器本体87の底板の上面に穴若しくは溝を設け、この穴若しくは溝を区画間気体流路103とすることができる。
【0077】
また、区画整理部材80の区画整理板83の数は、10個に限らず適宜の個数とすることができる。これにより、実験動物を所望の数だけ収容可能な隔離照射容器7を提供することができる。
【0078】
また、隔離照射容器7の排気栓89の排気側に、吸着材を接続してもよい。この場合、実験動物の吸入実験が可能となり、空気中の化学物質や放射性物質などの影響を調べることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
この発明は、アイソレータ等で隔離して飼育している実験動物を持ち出し、放射線を照射する実験に用いることができる。例えば、特定の微生物に感染させたノトバイオート実験動物や無菌実験動物等の実験動物に放射線を照射し、遺伝子レベルでの解析を行う実験に用いることができる。また、実験動物の衛生レベルを維持しつつ移動させる用途にも用いることができる。
【符号の説明】
【0080】
1…実験動物隔離管理システム
2A…アイソレータ
2B…搬入出用接続装置
7…隔離照射容器
46…空気供給栓
46a…ホース
48…消毒剤供給栓
48a…ホース
49…消毒用ガン
70…隔離筐体
71…蓋
71a…放射線照射面
75…仕切り板
83…区画整理板
87…容器本体
88…吸気栓
89…排気栓
90…接続端部
101…気体流路
103…区画間気体流路
E…内部空間
E1…気体流入空間
E2…実験動物収容空間
K1〜K10…区画
図1
図2
図3
図4
図5
図6