(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881042
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】乳化物製造用親水性ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01F 17/42 20060101AFI20160225BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20160225BHJP
C08G 65/26 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
B01F17/42
B01J13/00 A
C08G65/26
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-527914(P2011-527914)
(86)(22)【出願日】2011年6月7日
(86)【国際出願番号】JP2011063015
(87)【国際公開番号】WO2011162093
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2011年6月30日
【審判番号】不服2014-13000(P2014-13000/J1)
【審判請求日】2014年7月4日
(31)【優先権主張番号】特願2010-142968(P2010-142968)
(32)【優先日】2010年6月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 和夫
(72)【発明者】
【氏名】今井 洋子
【合議体】
【審判長】
星野 紹英
【審判官】
國島 明弘
【審判官】
日比野 隆治
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−536316(JP,A)
【文献】
特開昭63−116737(JP,A)
【文献】
特許第2574309(JP,B2)
【文献】
特開2005−177746(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/064678号(WO,A1)
【文献】
特開2004−130300(JP,A)
【文献】
特開2006−239666(JP,A)
【文献】
特開昭62−27032(JP,A)
【文献】
特開2006−241424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F17/42
B01J13/00
C08G65/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化作用を有する親水性ナノ粒子を含有する乳化剤の製造方法であって、
両親媒性物質を、前記両親媒性物質に対する良溶媒に溶解させる調液工程と、
前記調液工程において得られた溶液を水と別途混合することで、乳化作用を有する親水性ナノ粒子として前記両親媒性物質を析出させる析出工程と、を有し、
前記良溶媒が水を含む混合溶媒である場合、該良溶媒中の水の含有率は、50質量%以下であり、該混合溶媒に含まれる水は、前記析出工程において別途混合される水でない、乳化剤の製造方法(ただし、リン脂質である両親媒性物質を除く)。
【請求項2】
両親媒性物質を、前記両親媒性物質に対する良溶媒中に溶解状態で含有する乳化剤調製液であって、
該乳化剤調製液は、水と別途混合することで、前記両親媒性物質が乳化作用を有する親水性ナノ粒子として析出するものであり、
前記良溶媒が水を含む混合溶媒である場合、該良溶媒中の水の含有率は、50質量%以下であり、該混合溶媒に含まれる水は、前記乳化剤調製液において親水性ナノ粒子が析出する際に該乳化剤調製液と混合される水でない、乳化剤調製液(ただし、リン脂質である両親媒性物質を除く)。
【請求項3】
乳化作用を有する親水性ナノ粒子を含有する乳化剤の製造方法であって、
両親媒性物質を、前記両親媒性物質に対する良溶媒に溶解させる調液工程と、
前記調液工程において得られた溶液を水と別途混合することで、乳化作用を有する親水性ナノ粒子として前記両親媒性物質を析出させる析出工程と、を有し、
前記両親媒性物質が、水素化レシチン又はレシチンであり、
前記両親媒性物質が水素化レシチンである場合、前記良溶媒は、クロロホルムからなる溶媒、又は該溶媒と水との混合溶媒であり、
前記両親媒性物質がレシチンである場合、前記良溶媒は、テトラヒドロフランもしくはクロロホルムからなる溶媒、又は該溶媒と水との混合溶媒であり、
前記良溶媒が水を含む混合溶媒である場合、該良溶媒中の水の含有率は、50質量%以下であり、該混合溶媒に含まれる水は、前記析出工程において別途混合される水でない、乳化剤の製造方法。
【請求項4】
両親媒性物質を、前記両親媒性物質に対する良溶媒中に溶解状態で含有する乳化剤調製液であって、
該乳化剤調製液は、水と別途混合することで、前記両親媒性物質が乳化作用を有する親水性ナノ粒子として析出するものであり、
前記両親媒性物質が、水素化レシチン又はレシチンであり、
前記両親媒性物質が水素化レシチンである場合、前記良溶媒は、クロロホルムからなる溶媒、又は該溶媒と水との混合溶媒であり、
前記両親媒性物質がレシチンである場合、前記良溶媒は、テトラヒドロフランもしくはクロロホルムからなる溶媒、又は該溶媒と水との混合溶媒であり、
前記良溶媒が水を含む混合溶媒である場合、該良溶媒中の水の含有率は、50質量%以下であり、該混合溶媒に含まれる水は、前記乳化剤調製液において親水性ナノ粒子が析出する際に該乳化剤調製液と混合される水でない、乳化剤調製液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化物製造用として用いる親水性ナノ粒子の製造方法、該親水性ナノ粒子を用いた乳化物の製造方法、該親水性ナノ粒子を使用する方法、乳化剤の製造方法、乳化剤調製液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機能性油性基剤または機能性顆粒を水に乳化分散させる場合には、機能性油性基剤の所要HLBや顆粒表面の性質に応じて界面活性剤を選択し、乳化分散を行っていた。また、乳化剤として用いられる界面活性剤の所要HLB値は、O/W型エマルションを作る場合とW/O型エマルションを作る場合とのそれぞれに応じて使い分ける必要があり、しかも、熱安定性や経時安定性が十分でないため、多種多様な界面活性剤を混合して用いていた(非特許文献1〜4等参照)。
【0003】
しかしながら、界面活性剤は、生分解性が低く、泡立ちの原因となるので、環境汚染などの深刻な問題となっている。また、機能性油性基剤の乳化製剤の調製法として、HLB法、転相乳化法、転相温度乳化法、ゲル乳化法等の物理化学的な乳化方法が一般に行われているが、いずれも油/水界面の界面エネルギーを低下させ、熱力学的に系を安定化させる作用をエマルション調製の基本としているので、最適な乳化剤を選択するために非常に煩雑かつ多大な労力を有しており、まして、多種類の油が混在していると、安定に乳化させることは殆ど不可能であった。
【0004】
そこで、特許文献1には、自発的に閉鎖小胞を形成する両親媒性物質により形成され、200nm〜800nmの粒度分布を有する親水性ナノ粒子を含有する乳化剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3855203号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Emulsion Science” Edited by P. Sherman, Academic Press Inc. (1969)
【非特許文献2】“Microemulsions−Theory and Practice” Edited by Leon M. price, Academic Press Inc. (1977)
【非特許文献3】「乳化・可溶化の技術」 辻薦,工学図書出版(1976)
【非特許文献4】「機能性界面活性剤の開発技術」 シー・エム・シー出版(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に示される乳化剤は、両親媒性物質の粘性等が高く水への分散性が悪いため、親水性ナノ粒子を効率的に生成することが困難である。ここで、多量の両親媒性物質を水に添加すると、ゲル化や固化等するため、調製された親水性ナノ粒子分散液が期待する乳化能を得ることは難しくなる。
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、幅広い範囲の量の親水性ナノ粒子を製造できる親水性ナノ粒子の製造方法、乳化剤の製造方法、及び乳化剤調製液を提供することを目的とする。また、本発明は、親水性ナノ粒子の新規用途を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、両親媒性物質を良溶媒中に溶解させ、溶液を水と混合することで、乳化作用を有する親水性ナノ粒子が析出することを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) 乳化物の製造に用いられる親水性ナノ粒子の製造方法であって、
両親媒性物質を、前記両親媒性物質に対する良溶媒に溶解させる調液工程と、
前記調液工程において得られた溶液を水と混合することで、乳化作用を有する親水性ナノ粒子として前記両親媒性物質を析出させる析出工程と、を有する親水性ナノ粒子の製造方法。
【0011】
(2) 前記両親媒性物質が、下記の一般式で表されるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の誘導体であって、前記誘導体のエチレンオキシドの平均付加モル数(E)が3〜100である(1)に記載の親水性ナノ粒子の製造方法。
【化1】
【0012】
(3) 前記調液工程では、前記ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の誘導体に対して0.1〜0.33モル分率の界面活性剤を更に溶解させる(2)に記載の親水性ナノ粒子の製造方法。
【0013】
(4) 前記良溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、ter−ブタノール、sec−ブタノール、ペンタノール、メチルエチルケトン、1,3−プロパンジオール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、1,4−ジオキサン、ジエチレンオキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、アセトン、及びテトラヒドロフランからなる群から選ばれる1種若しくは2種以上である溶媒、又は該溶媒と水との混合溶媒である(1)から(3)いずれかに記載の親水性ナノ粒子の製造方法。
【0014】
(5) 乳化作用を有する親水性ナノ粒子を含有する乳化剤の製造方法であって、
両親媒性物質を、前記両親媒性物質に対する良溶媒に溶解させる調液工程と、
前記調液工程において得られた溶液を水と混合することで、乳化作用を有する親水性ナノ粒子として前記両親媒性物質を析出させる析出工程と、を有する乳化剤の製造方法。
【0015】
(6) 両親媒性物質を、前記両親媒性物質に対する良溶媒中に溶解状態で含有し、
水と混合することで、前記両親媒性物質が乳化作用を有する親水性ナノ粒子として析出する乳化剤調製液。
【0016】
(7) 界面活性剤では乳化させることが困難な条件下で乳化物を製造するために、両親媒性物質により形成された親水性ナノ粒子を使用する方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、両親媒性物質が良溶媒中に溶解された溶液を水と混合することで、乳化作用を有する親水性ナノ粒子が析出する。このため、良溶媒への両親媒性物質の溶解量を適宜調節することで、幅広い範囲から所望の量の親水性ナノ粒子を製造でき、親水性ナノ粒子を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を説明するが、これが本発明を限定するものではない。
【0019】
[親水性ナノ粒子の製造方法]
本発明の親水性ナノ粒子は、乳化物の製造に用いるものであり、その製造方法は調液工程と析出工程とを有する。以下、各構成を詳細に説明する。
【0020】
<調液工程>
調液工程では、両親媒性物質を、この両親媒性物質に対する良溶媒に溶解させる。本発明で用いる両親媒性物質としては、特に限定されないが、下記の一般式1で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体、もしくは一般式2で表されるジアルキルアンモニウム誘導体、トリアルキルアンモニウム誘導体、テトラアルキルアンモニウム誘導体、ジアルケニルアンモニウム誘導体、トリアルケニルアンモニウム誘導体、又はテトラアルケニルアンモニウム誘導体のハロゲン塩の誘導体が挙げられる。
【0022】
式中、エチレンオキシドの平均付加モル数であるEは、3〜100である。Eが過大になると、両親媒性物質を溶解する良溶媒の種類が制限されるため、親水性ナノ粒子の製造の自由度が狭まる。Eの上限は好ましくは50であり、より好ましくは40であり、Eの下限は好ましくは5である。
【0024】
式中、R1及びR2は、各々独立して炭素数8〜22のアルキル基又はアルケニル基であり、R3及びR4は、各々独立して水素又は炭素数1〜4のアルキル基であり、XはF、Cl、Br又はIである。
【0025】
調液工程では、親水性ナノ粒子の乳化対象への付着力を高めるために、親水性ナノ粒子をイオン化してもよい。カチオン化のためには、イオン性界面活性剤として、アルキルまたはアルケニルトリメチルアンモニウム塩(炭素鎖長12〜22)、好ましくは、炭素鎖長16のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(Hexadecyltrimethylammonium Bromide:以下、CTABという)、アニオン化のためには、アルキル硫酸エステル塩(CnSO
4−M
+炭素鎖長n=8〜22、M:アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム塩など)、アルキルスルホン酸塩(CnSO
3− M
+ 炭素鎖長8〜22、M:アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム塩など)などを用いることができる。
【0026】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の誘導体、例えばHCO−10(一般式1においてEが10である場合)と、CTABとの混合ベシクルにおいて、CTABのモル分率(Xs)は、0.1未満であると、混合ベシクルのカチオン性が一定に保ちにくく、0.33超であると、安定した混合ベシクルを得られにくくなる。そこで、Xsは0.1以上0.33以下であることが好ましい。
【0027】
また、親水性ナノ粒子を形成する両親媒性物質としては、リン脂質やリン脂質誘導体等を採用してもよい。リン脂質としては、下記の一般式3で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPC(1,2−Dilauroyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)、炭素鎖長14のDMPC(1,2−Dimyristoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)、炭素鎖長16のDPPC(1,2−Dipalmitoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)が採用可能である。
【0029】
また、下記の一般式4で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPG(1,2−Dilauroyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩又はNH4塩、炭素鎖長14のDMPG(1,2−Dimyristoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩又はNH4塩、炭素鎖長16のDPPG(1,2−Dipalmitoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩又はNH4塩を採用してもよい。
【0031】
さらに、リン脂質としては、他のグリセロリン脂質(レシチン、エタノールアミン,セリン,イノシトールなど)、スフィンゴリン脂質が挙げられる。卵黄レシチンまたは大豆レシチンなどの天然物質を採用してもよい。なお、被乳化油性成分を上記親水性ナノ粒子により形成される乳化剤を用いて乳化分散する場合には、被乳化油性成分と前記乳化剤との質量比を4〜200として接触、混和させるとよい。
【0032】
<良溶媒>
本発明で用いる良溶媒は、用いる両親媒性物質を溶解する能力を有し、かつ水への混合性を有するものである。良溶媒には多量の両親媒性物質を溶解でき、その溶液を良溶媒の水混合性に応じた量で混合できるので、所望量の親水性ナノ粒子の製造が可能である。
【0033】
良溶媒は、前述のとおり、用いる両親媒性物質に応じて適宜選択されてよいが、例えば、水への混合性に優れる点で、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、ter−ブタノール、sec−ブタノール、ペンタノール、メチルエチルケトン、1,3−プロパンジオール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、1,4−ジオキサン、ジエチレンオキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、アセトン、及びテトラヒドロフランからなる群から選ばれる1種若しくは2種以上である溶媒、又は該溶媒と水との混合溶媒であることが好ましい。水を含む混合溶媒の場合、水の含有率は、両親媒性物質の溶解度を所望の程度を下回らない範囲で、適宜設定されてよい。
【0034】
なお、良溶媒は、上記のものに限られず、ベンジルアルコール、n−ブタノール等であってもよい。これらの溶媒は、水への混合性が優れてはいないが、両親媒性物質の溶解能に優れるため、多くの両親媒性物質を高濃度で溶解する溶液を形成できる。これにより、水と混合する溶液の量が少量に抑えられるため、水への混合性に低さが問題となりにくい。このように、本発明における良溶媒は、両親媒性物質の溶解度と水への混合性とのバランスを考慮して、適宜選択されてよい。
【0035】
<析出工程>
析出工程では、調液工程において得られた溶液を水と混合することで、乳化作用を有する親水性ナノ粒子として両親媒性物質を析出させる。
【0036】
溶液と水との混合は、撹拌等の外的作用を介して行ってもよく、良溶媒の水混合性に依存した拡散による自発的なものであってもよい。ただし、効率の観点からは前者が好ましい。なお、撹拌は、溶液の水への添加もしくは水の溶液への添加と同時に行ってもよく、添加後に行ってもよい。なお、水は、イオン交換水、純水、超純水、水道水のいずれでもよく、求められる純度に応じて適宜選択されてよい。
【0037】
このようにして析出する親水性ナノ粒子は、分散液中0.1〜20質量%で存在する場合に、平均粒子径20nm〜800nm程度である。かかる粒度分布を有する親水性ナノ粒子は、使用時にエマルション形成の工程で親水性ナノ粒子が細粒化されることで、平均粒子径8〜500nm程度の優れた安定したエマルション形成作用を呈することになる。なお、本明細書における平均粒子径は個数頻度に基づく平均値を指し、測定装置は「FPAR(大塚電子(株)社製)」である。
【0038】
[乳化剤の製造方法]
本発明は、親水性ナノ粒子を含有する乳化剤の製造方法も提供する。この方法は、前述した親水性ナノ粒子を製造する方法と同様の工程を有する。
【0039】
析出した親水性ナノ粒子は、水及び良溶媒の混合溶媒中に分散している。かかる分散液は、親水性ナノ粒子による乳化の対象に応じて適宜処理してもよく、無処理のまま乳化剤としてもよい。
【0040】
乳化物が、例えば生体に使用される物、具体的には被摂取物(例えば飲食品、経口投与製剤)、外用剤、化粧品、農薬等、あるいは良溶媒に侵される物(例えば、タンパク質)として使用される場合には、安全性の向上や刺激性の低下等の観点から、良溶媒の含有量が低いことが好ましい。そこで、良溶媒の含有量を低減させる処理(例えば分留、水希釈)を行ってもよい。分散液における水含有率が過大であると、親水性ナノ粒子の保存性が低下するため、良溶媒の含有量を低減させる処理(例えば分留、水希釈)は、乳化の長時間前に行わないことが望ましい。なお、乳化物が、生体に使用されない物、例えば燃料、塗料等に使用される場合には、上記処理を行わなくてもよい。
【0041】
[使用]
前述した方法で製造される親水性ナノ粒子及び乳化剤は、種々の油性物質の乳化に使用できる。具体的には、乳化剤に、水相に分配される物質を適宜添加し又は添加せずに、油性物質と混合することで、油性物質を含む油相と、水相とが分散したエマルションを製造できる。なお、油性物質とは、油のみ又は油を主成分として含む物質をいう。詳細な使用手順は、特許第3855203号公報に記載されている。
【0042】
親水性ナノ粒子及び乳化剤は、機能性油性基剤と水、または機能性顆粒と水などの界面に対して、熱安定性や経時安定性に優れた乳化分散系を形成できる。このため、本発明の乳化分散剤は、長期間に亘る幅広い温度領域での安定な乳化に使用できる。また、一種類の乳化分散剤を用いて、被乳化油剤の所要HLB値又は機能性顆粒の表面状態に関係なく、油性物質を乳化分散できるので、炭化水素系油剤やシリコン系油剤の乳化にも使用できる。このため、多種類の混在している油を併せて乳化するためにも使用できる。従って、本発明の親水性ナノ粒子及び乳化剤は、軽油、A重油、C重油、タール、バイオディーゼル燃料、再生重油、廃食油、化粧油、食用油、工業用油剤(例えばシリコン油、灯油)等の種々の油への水の乳化に使用し得る。
【0043】
その他、本発明の親水性ナノ粒子及び乳化剤は、界面活性剤では乳化させることが困難な条件下で乳化物を製造するために使用し得る。かかる条件としては、強酸性(例えばpH4以下)及び強塩基性(例えばpH12以上)の条件、高塩濃度(例えば0.1モル/L以上)の条件、天然物油剤(植物油、鉱物油)の乳化、高融点(例えば50℃以上)の油剤(乳化時は高温で液状、乳化後に固化してしまう油剤)の乳化が挙げられる。
【実施例】
【0044】
(参考例)
前述した一般式1におけるエチレンオキシドの平均付加モル数(E)が100であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の誘導体(HCO−100)を、種々の割合で60℃の水に滴下して撹拌した。その混合物の状態を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
次に、HCO−100、水及びエタノール又はイソプロピルアルコールを7:1.5:1.5(質量比)の比率で混合した。すると、エタノール及びイソプロピルアルコールのいずれを用いた場合も、混合物は均一な液体であった。従って、水のみの溶媒を用いた場合にはゲル化するような多量の両親媒性物質も、良溶媒を用いることで溶解できることが確認された。
【0047】
本発明者らが、各々の両親媒性物質に関し、溶解性に優れる良溶媒を調査した結果を次に示す。なお、表2において、○は溶液を形成したこと、×は溶液を形成できない又は沈殿を生じたことを示す。
【0048】
【表2】
【0049】
<実施例1> ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の誘導体
HCO−10、水及びエタノールを7:1.5:1.5(質量比)の比率で混合して得られる溶液10mLを、25℃の水1Lに添加し、500rpmで5分間に亘って撹拌することによって混合した。得られた混合物について、粒度分布測定装置FPAR(大塚電子(株)社製)で粒度分布を測定したところ、親水性ナノ粒子の存在を示すピークが400nm付近の他、数μmの所にもピークが確認された。
【0050】
(比較例)
前述した一般式1におけるエチレンオキシドの平均付加モル数(E)が10であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の誘導体(HCO−10)を、60℃の水に滴下した。HCO−10の滴下量は、質量比1:9(HCO−10:水)とした。得られた混合物について、粒度分布測定装置FPAR(大塚電子(株)社製)で粒度分布を測定したところ、親水性ナノ粒子の存在を示すピークが400nm付近の他、数μmの所にもピークが確認された。
【0051】
(評価)
実施例1及び比較例の分散液を、表3及び4に示す各質量比でA−重油と、室温でホモミキサーを用いて、8000rpmで約5分間撹拌して乳化し、その乳化状態を評価した。なお、評価基準は、次の通りである。
○:相分離なし、△:比重差による分離(コアセルベーション)、×:分離
1:O/W型エマルション、2:W/O型エマルション、3:W/Oエマルションと分離水相
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
表3及び4に示されるように、比較例の分散液では、80質量%以上のA重油を乳化できず、また60〜70質量%のA重油の乳化安定性が不充分であった。これに対し、実施例1の分散液では、あらゆる量、少なくとも95質量%以下の量のA重油が、安定的にかつ良好に乳化された。
【0055】
<実施例2> リン脂質
表2に示す、水素化レシチンのクロロホルム溶液を、実施例1と同様の手順で、水と混合した。得られた混合物について、実施例1と同様に粒度分布を測定したところ、親水性ナノ粒子の存在を示すピークが100nm付近に確認された。
【0056】
得られた分散液を、表5に示す条件の範囲で各油と実施例1と同様に撹拌して乳化し、その乳化状態を評価した。評価基準は前述のとおりである。
【0057】
【表5】
【0058】
表5に示されるように、実施例2の分散液は、種々の油を幅広い範囲の混合量比に亘って安定に乳化した。