【文献】
森敏,提案10:セシウム137(Cs137)汚染土壌から雲母を選別する方法を開発しよう,WINEPブログ,日本,2011年 5月30日,URL,http://moribin.blog114.fc2.com/blog-entry-1111.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記吸着工程又は前記凝集工程を経た非沈降の土壌懸濁液に、中和剤を加えて静置する中和工程を経たうえで、第二次回収工程を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の放射性物質回収方法。
土壌から放射性物質を分離させる前記脱着剤が、酸性水溶液又はアルカリ性水溶液であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の放射性物質回収方法。
【背景技術】
【0002】
我が国は地震が頻発する国として知られており、地震を経験するたびに甚大な被害を被ってきた。特に今般の東日本大震災では、津波によって計り知れない被害を受けたうえ、さらに福島原子力発電所の原子炉が破損したことによって放射性物質が大量に漏れ出すという事故も発生した。
【0003】
この原発事故による放射性物質の漏出により、立ち入り禁止の警戒区域が指定されるなど、原子力発電所の周辺は著しく汚染された環境となった。漏出した放射性物質は、最終的に何らかの物に付着するが、その多くは土壌表面に付着する。そのため、学校や公園をはじめとする多くの施設を利用することができない。特に農地にとっては、極めて大きな問題である。
【0004】
放射性物質によって汚染された環境を改善する対策として、最も効果的な手段とされているのが除染である。この除染の手法としては、専ら表土を剥ぎ取るという手段が採用されている。その結果、剥ぎ取った表土、つまり放射性物質に汚染された汚染土壌の処理が新たな問題となっている。
【0005】
原子力発電所から漏出した放射性物質は、主にヨウ素とセシウムである。このうちヨウ素は、その半減期が8日であることからあまり問題とはならないが、一方のセシウムは、その半減期が比較的長いためそれが及ぼす影響は大きい。特に、セシウム137は半減期が30年であるため、先に述べた除染後の汚染土処理の問題を一層深刻なものとしている。
【0006】
除染によって発生した汚染土壌は、放射線漏れを防御しつつ保管する必要があり、また大量に発生することから広大な保管場所を必要とする。一方、表土をはぎ取った土壌のうち実際に放射性物質が付着しているのはわずかな部分である。つまり、放射性物質が付着した部分だけ抽出することができれば、多くの土壌は再生可能となるうえ、汚染土壌として保管すべき容量も大きく減じられるので極めて便宜である。
【0007】
ところでセシウムは、黒雲母をはじめとする磁性鉱物と結合しやすいという特徴を備えている。したがって、例えばマサ土のように黒雲母を多く含む土壌がセシウムに汚染された場合、この土壌から黒雲母だけを抽出できれば、極めて効率よくセシウムを抽出することができる。換言すれば、極めて効率よく再生可能土壌を取り出すことができる。
【0008】
ところが、特許文献1のようにダイオキシン類、PCB、アスベスト等の有害物質を化学的あるいは物理的に土壌から除去する手法は種々提案されているものの、磁性鉱物に結合しやすいという特徴に着目して、放射性物質を回収するという技術についてこれまで提案されることはなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1は、ダイオキシン類、PCB、アスベスト、各種重金属等の有害物質を土壌から取り除く浄化処理であり、化学的処理と物理的処理を併用した手法である。具体的には、まず有害物質を含む土壌に無機電解凝集剤等を投与し、遠心分離機によって汚液と固体(第1次再生物)に分離する。次に、分離されて霧状となった汚液に付着した有害物質をドライマグネットで分離し、分離された一方の液体は清澄液(第2次再生物)として回収される。
【0011】
このように特許文献1は、磁石に付着(以下、「磁着」という。)しやすい有害物質を、ドライマグネットで直接磁着させて分離する手法である。すなわち特許文献1の手法では、その目的が異なることもあって、磁着しない、あるいは磁着しにくい放射性物質を分離し回収することはできない。
【0012】
本願発明の課題は、放射性物質によって汚染された土壌から、効率よく放射性物資を除き、つまり効率よく再生可能土壌を回収するとともに処理すべき土壌の減容化を図ることができる放射性物質回収方法と放射性物質回収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は、セシウム等の放射性物質が黒雲母をはじめとする磁性鉱物と結合しやすいという特徴に着目し、磁性鉱物を回収することで放射性物質を取り除くというものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0014】
本願発明の放射性物質回収方法は、選別工程、第一次回収工程、溶解工程、土壌沈降工程、吸着工程、凝集工程、及び第二次回収工程を備えた方法である。
選別工程では、土壌懸濁液に電磁石による磁力を加えて磁性鉱物を磁着させ、磁着しない非磁着の土壌懸濁液を得る。
第一次回収工程では、電磁石の磁力を解除することによって、放射性物質が結合した磁性鉱物が回収される。
溶解工程では、非磁着の土壌懸濁液に脱着剤(土壌から放射性物質を分離させる)を投入し、攪拌・超音波分散して放射性物質を溶解させる。
土壌沈降工程では、溶解工程を経た非磁着の土壌懸濁液を静置して土壌を沈降させ、沈降土壌を取り出すことによって非沈降の土壌懸濁液が得られる。
吸着工程では、非沈降の土壌懸濁液に吸着剤(放射性物質を吸着する)が投入されて攪拌される。
凝集工程では、吸着工程を経た非沈降の土壌懸濁液に凝集剤が投入されて攪拌される。
第二次回収工程では、凝集工程を経た非沈降の土壌懸濁液を静置して凝集物を沈降させ、上澄水を排水し、放射性物質を含む沈降凝集物が回収される。
【0015】
本願発明の放射性物質回収方法は、まず溶解工程と土壌沈降工程を行い、その後、選別工程と第一次回収工程を行うこともできる。
この場合、溶解工程では、土壌が混入した土壌懸濁液に脱着剤(土壌から放射性物質を分離させる)を投入し、攪拌・超音波分散して放射性物質を溶解させる。
土壌沈降工程では、溶解工程を経た非磁着の土壌懸濁液を静置して土壌を沈降させ、沈降土壌を取り出し、かつ非沈降の土壌懸濁液が得られる。
選別工程では、土壌沈降工程を経た沈降土壌を用いて沈降土壌懸濁液を生成し、この沈降土壌懸濁液に電磁石による磁力を加えて磁性鉱物を磁着させ、磁着しない非磁着の土壌懸濁液を得る。
第一次回収工程では、電磁石の磁力を解除することによって、放射性物質が結合した磁性鉱物が回収される。
【0016】
本願発明の放射性物質回収方法は、土壌沈降工程で取り出された沈降土壌に水を加えて攪拌し、さらに静置して土壌を沈殿させる水洗浄工程を備える方法とすることもできる。この水洗浄工程で得られた非沈殿の上澄水は、土壌沈降工程で得られた非沈降の土壌懸濁液に加えられ、そのうえで吸着工程の処理が行われる。
【0017】
本願発明の放射性物質回収方法は、吸着工程又は凝集工程を経た非沈降の土壌懸濁液に、中和剤を加えて静置する中和工程を経たうえで、第二次回収工程を行うこともできる。
【0018】
本願発明の放射性物質回収方法は、土壌から放射性物質を分離させる脱着剤として、酸性水溶液又はアルカリ性水溶液を用いることもできる。
【0019】
本願発明の放射性物質回収装置は、土壌懸濁液が投入される選別槽、選別槽内の土壌懸濁液を排出する第一排出管、選別槽内の磁性鉱物を排出する第二排出管、第一排出管と第二排出管のいずれかに選択排出させる切替え手段、そして選別槽の両脇に配置される2極の電磁石を備えたものである。選別槽には付着体が格納されるとともに底部には付着体が通過しない程度の小孔が設けられた底板が設けられ、この付着体は電磁石の磁力によって磁性を帯びるものである。
切替え手段によって第一排出管から排出させる状態であってしかも電磁石の磁力を与えることによって付着体が磁性を帯びた状態で、選別槽内に土壌懸濁液が投入されると、磁性鉱物が付着体に磁着するとともに付着体に磁着しない土壌懸濁液は底板を通過して第一排出管から排出される。
切替え手段によって第二排出管から排出させる状態で電磁石の磁力を解除すると、付着体に磁着した磁性鉱物が底板を通過して第二排出管から排出される。排出された磁性鉱物を回収することによって放射性物質が回収される。
【0020】
本願発明の放射性物質回収装置は、さらに第一排出管から排出された土壌懸濁液を収容する処理槽、処理槽内の土壌懸濁液を攪拌する攪拌手段、処理槽内の土壌懸濁液を超音波分散させる分散手段、処理槽内の土壌懸濁液を直接排出する排出管、処理槽内の土壌懸濁液を脱水して排出する脱水処理手段、土壌懸濁液を排出管と脱水処理手段のいずれかに案内する脱水切替え手段を備えたものとすることもできる。
【発明の効果】
【0021】
本願発明の放射性物質回収方法及び放射性物質回収装置には、次のような効果がある。
(1)電磁石によって、放射性物質が結合した磁性鉱物を磁着させることから、極めて効率的に放射性物質を回収することができる。
(2)効率的に放射性物質を回収できることから、無駄なく再生可能土壌を取得することができる。
(3)効率よく放射性物資を除くことができるので、処理すべき土壌の減容化を図ることができる。
(4)脱着剤や凝集剤を用い、磁性鉱物を取り除いた土壌懸濁液からも放射性物質を回収するので、極めて安全な再生可能土壌を得ることができる。
(5)各工程で生成されるものが、それぞれ放射性物質を含むか否か明確にわかるので、放射線対策を講じやすく、すなわち安全に作業を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(放射性物質回収方法の第1の実施形態)
本願発明の放射性物質回収方法の第1の実施形態を、
図1に基づいて説明する。
【0024】
1.全体概要
放射性物質によって汚染された土壌(以下、「汚染土壌」という。)は、水などの液体に投入され土壌懸濁液の状態で処理され、はじめに汚染土壌に含まれていた磁性鉱物が磁力によって分離されて回収される。セシウムは黒雲母と結合しやすいという特性を有することから、磁性鉱物である黒雲母を回収することで多くのセシウムが取り除かれる。これが第一次回収である。
【0025】
次に、磁性鉱物が除かれた土壌懸濁液から、まだ残留しているセシウムを回収する。土壌懸濁液に脱着剤を投入し、残留土壌(磁性鉱物が除かれた土壌)に付着しているセシウムを土壌懸濁液に溶解させる。磁性鉱物を含まない(あるいはほとんど含まない)残留土壌とセシウムとの結合力は比較的弱いので、脱着剤によって土壌懸濁液中に溶け出すわけである。その後、吸着剤、凝集剤を投じてセシウムを沈殿させ、これを放射性廃棄物として回収する。これが第二次回収である。
【0026】
以下、各工程に分けて詳細に説明する。なお便宜上、ここでは放射性物質の例としてセシウムの場合で説明している。さらに、磁性鉱物の例として黒雲母、汚染土壌の例としてマサ土の場合で説明している。これらはあくまで一例であって、本願発明の放射性物質回収方法が、これらの場合に限定されるものではなく、種々の放射性物質、あるいは磁性鉱物に適用できることはいうまでもない。
【0027】
2.土壌懸濁液の生成工程A
本工程は、汚染されたマサ土を懸濁液にする工程である。したがって、はじめからマサ土が土壌懸濁液となっている場合には、必ずしも実施する必要がない。
【0028】
図1のうち、Aの符合で示すのが「土壌懸濁液の生成工程」である。この図に示すように、処理槽1a内に注水し、その中にマサ土2を加える。このマサ土2は黒雲母を含み、セシウムによって汚染されている。処理槽1a内の水とマサ土2は、攪拌機3aによって十分に攪拌され、この結果土壌懸濁液が生成される。なお、マサ土2中には、木根や石などが混入している場合もあるので、土壌懸濁液をふるい4にかけてごみ処理を行うこともできる。
【0029】
3.選別工程B
本工程は、土壌懸濁液から磁性鉱物である黒雲母を抽出する工程であり、
図1のうちBの符合で示される。
【0030】
磁選機5は、電磁石によって磁力を発生させ、またこれを解除することができるものであり、土壌懸濁液を直接処理することができる湿式のものである。ごみ処理された土壌懸濁液は、磁選機5の処理槽内に投入され、電磁石の磁力が与えられる。そうすると、電磁石に磁着(磁力によって磁石に付着すること)するものと、非磁着のものに分けられる。このとき磁着するものは、主にマサ土に含まれる黒雲母等の磁性鉱物であり、黒雲母等を除く土壌懸濁液(ここでは便宜上、「非磁着の土壌懸濁液6」という。)が非磁着となる。
【0031】
電磁石によって磁力が発生している状態では、黒雲母等は電磁石に磁着した状態を維持し、非磁着の土壌懸濁液6は、例えば処理槽に連結された排出管などによって排出されて次工程に送られる。非磁着の土壌懸濁液6が排出されると、電磁石による磁力を解除して黒雲母等を電磁石から離脱させ回収する。ここで回収された黒雲母にはセシウムが結合しており、つまり黒雲母を回収することによってマサ土2中に含まれていた多くのセシウムを回収することができるわけである。ここでセシウムを回収するのが、第一次回収工程である。回収された黒雲母(セシウム)は、放射性廃棄物として適切に処理される。
【0032】
4.溶解工程C
本工程は、非磁着の土壌懸濁液6に含まれる土壌からセシウムを離脱させて、これを懸濁液中に溶解させる工程であり、
図1のうちCの符合で示される。前工程(選別工程B)で黒雲母に付着したセシウムは除去することができるが、磁性鉱物以外の土壌に付着したセシウムはまだ非磁着の土壌懸濁液6に残留している。このセシウムを回収するのが、本工程以降の目的である。
【0033】
図1に示すように、非磁着の土壌懸濁液6が処理槽1cに投入される。さらに脱着剤7が添加されて、攪拌機3cによって十分に攪拌される。ここで添加される脱着剤7とは、土壌に付着したセシウムを土壌から離脱させるためのものである。具体的には、アルカリ性水溶液あるいは酸性水溶液が脱着剤7として用いられ、より好ましくは強アルカリ性(pH11以上)の水溶液あるいは強酸性(pH3以下)の水溶液を用いるとよい。例えば脱着剤7としては、HCL水溶液、HNO
3水溶液、H
2O
2水溶液、NaOH水溶液、KOH水溶液、水酸化セシウムCsOHなどを例示することができる。
【0034】
非磁着の土壌懸濁液6に脱着剤7を添加して攪拌すると、セシウムが土壌から離脱していく。さらに超音波分散機8によってセシウムを分散させ、懸濁液中に十分溶解させる。
【0035】
5.土壌沈降工程D
本工程は、前工程(溶解工程C)においてセシウムが離脱した土壌を沈降させる工程であり、
図1のうちDの符合で示される。非磁着の土壌懸濁液6にセシウムを十分溶解させると、所定時間だけ静置する。静置する所定時間は、非磁着の土壌懸濁液6の容量等によって適宜設定することができるが、例えば土壌懸濁液が60L(リットル)程度であれば30分前後の静置時間を例示することができる。
【0036】
所定時間の静置を経ると、
図1に示すように、セシウムが離脱した土壌が沈降する。便宜上、この沈降した土壌を「沈降土壌9」といい、沈降土壌9が分離した残りの土壌懸濁液を「非沈降の土壌懸濁液10」という。沈降土壌9は処理槽1cから引き抜かれ(取り出され)、沈降土壌9と非沈降の土壌懸濁液10はそれぞれ別の次工程へ移される。
【0037】
6.吸着工程E
本工程は、前工程(溶解工程D)で得られた非沈降の土壌懸濁液10に溶解しているセシウムを吸着剤11に吸着させる工程であり、
図1のうちEの符合で示される。前工程ではセシウムの全部(あるいは大部分)が離脱した土壌(沈降土壌9)が回収され、以降の工程では非沈降の土壌懸濁液10からセシウムを除去していく。後に述べるように最終的にはセシウムを沈殿させて除去するが、ここではセシウムが容易かつ効率的に沈殿することを目的として、吸着剤11に吸着させる。
【0038】
図1に示すように、非沈降の土壌懸濁液10に吸着剤11が添加され、攪拌機3eによって十分に攪拌される。ここで吸着剤11とは、非沈降の土壌懸濁液10に溶解したセシウムを吸着するためのもので、多孔質あるいは空隙構造のものが望ましく、例えば、ゼオライト、プルシアンブルー、活性炭などを使用したもの等が挙げられる。
【0039】
7.凝集工程F
本工程は、セシウムを凝集させる工程であり、
図1のうちFの符合で示される。前工程(吸着工程E)で吸着剤11に吸着されたセシウムに凝集剤12を加え、セシウムをさらに大きな粒子とすることで容易に沈殿させる。
【0040】
図1に示すように、前工程(吸着工程E)を経た非沈降の土壌懸濁液10に、吸着剤11が添加され、攪拌機3eによって十分に攪拌される。ここで添加する凝集剤12は、従来から用いられているものを使用することができる。例えば、無機凝結剤に分類されるポリ塩化アルミ(PAC)や硫酸バンド、塩化第二鉄など、あるいは高分子凝集剤に分類されるカルボン酸系やスルホン酸系のものなど、そのほか有機凝結剤に分類されるものなど種々のものを凝集剤12として選択することができる。
【0041】
8.第二次回収工程G
本工程は、吸着剤11と凝集剤12が添加された非沈降の土壌懸濁液10から、最終的にセシウムを除去する工程であり、
図1のうちGの符合で示される。
【0042】
前工程(凝集工程F)を経た非沈降の土壌懸濁液10を、所定時間だけ静置する。静置する所定時間は、非沈降の土壌懸濁液10の容量等によって適宜設定することができるが、例えば土壌懸濁液が60L(リットル)程度であれば30分前後の静置時間を例示することができる。
【0043】
所定時間の静置を経ると、
図1に示すように凝集剤12によって凝集したセシウムが沈殿する。便宜上、この沈殿した土壌を「最終沈殿土壌13」といい、最終沈殿土壌13が分離したあとの土壌懸濁液を「上澄水14」という。最終沈殿土壌13は、処理槽1cから引き抜かれ(取り出され)、放射性廃棄物として適切に処理される。一方の上澄水14は、セシウムが残留していない(あるいは、ほとんど残留していない)ため、再利用もしくは排水される。
【0044】
第二次回収工程を行う前、すなわち吸着工程Eと凝集工程Fの間、あるいは凝集工程Fと第二次回収工程の間に、土壌懸濁液を中和する中和工程を行うこともできる。溶解工程Cで脱着剤7が添加されるが、この脱着剤7はアルカリ性水溶液か酸性水溶液であるため、本工程における非沈降の土壌懸濁液10もやはりアルカリ性水溶液か酸性水溶液である。特に、脱着剤7として強アルカリ性や強酸性のものを使用した場合、非沈降の土壌懸濁液10も強アルカリ性水溶液か強酸性水溶液となる。前記したように上澄水14を再利用もしくは排水することを考えれば、この上澄水14は中性であることが望ましい。そこで本工程において、非沈降の土壌懸濁液10に中和剤を加えて攪拌し、それから静置して最終沈殿土壌13を沈殿させれば、中和された上澄水14が得られるわけである。ここで加える中和剤は、溶解工程Cで添加された脱着剤7がアルカリ性水溶液であれば酸性水溶液、酸性水溶液であればアルカリ性水溶液である。もちろん中和剤のpHは、脱着剤7のpHに対応したものとなる。
【0045】
9.水洗浄工程H
土壌沈降工程Dで引き抜かれた沈降土壌9は、大部分のセシウムが除去されている。したがって、ある程度のセシウム含有率であれば許容されるなど、条件によっては再利用することもできる。しかしながら、安全に再利用するためには、もしくは自然環境に還元するためには、さらにセシウムを取り除くことが望ましい。本工程は、沈降土壌9を水洗浄(リンス)することで残留するセシウムを洗い流す工程であり、
図1のうちHの符合で示される。
【0046】
図1に示すように、沈降土壌9が処理槽1hに投入され、さらに注水される。この状態で、攪拌機3hによって十分に攪拌され、沈降土壌9に含まれるセシウムが洗い流される。その後、所定時間だけ静置すると沈降土壌9が再び沈殿する(以下、再沈殿したものを「沈降土壌9´」とする。)。静置する所定時間は、注入する水量等によって適宜設定することができるが、例えば注水量が60L(リットル)程度であれば30分前後の静置時間を例示することができる。
【0047】
再沈殿した沈降土壌9´は、処理槽1hから引き抜かれ(取り出され)た後に脱水処理が施されて、再利用あるいは自然環境に還元される。一方、沈降土壌9´が引き抜かれた上澄水15にはセシウムが溶け出しているため、これを除去する必要がある。したがって、上澄水15は吸着工程Eへ送られ、非沈降の土壌懸濁液10と合わせて以降の処理が行われる。なお、水洗浄工程Hは、1回だけの処理とすることもできるし、複数回繰り返し行うこともできる。この場合、水洗浄工程Hで引き抜かれた沈降土壌9´は、処理槽1hとは異なる処理槽へ投入されて水洗浄が行われる。
【0048】
(放射性物質回収方法の第2の実施形態)
本願発明の放射性物質回収方法の第2の実施形態を、
図2に基づいて説明する。なお、「放射性物質回収方法の第1の実施形態(以下、単に「実施形態1」という。)の説明と重複する内容については、ここでの説明を省略する。
【0049】
1.全体概要
図2は、本実施形態の処理の流れを示す処理フロー図である。この図に示すように、本実施形態が実施形態1と異なるのは、上流工程における処理順序の相違である。実施形態1では、選別工程Bと第一次回収工程溶解工程を行い、次いで溶解工程Cと土壌沈降工程Dを行う。これに対して本実施形態では、まず溶解工程Cと土壌沈降工程Dを行い、その後、選別工程Bと第一次回収工程を行う。
図1のうちAの符合で示す「土壌懸濁液の生成工程」については、両実施形態とも同様である。また、土壌沈降工程Dによって得られる非沈降の土壌懸濁液10に対して行われる、吸着工程E、凝集工程F、及び第二次回収工程Gについても、両実施形態に違いはない。したがってここでの説明は省略する。
【0050】
2.溶解工程C
本工程は、非磁着の土壌懸濁液6に含まれる土壌からセシウムを離脱させて、これを懸濁液中に溶解させる工程である。黒雲母に付着したセシウムは後に行われる選別工程Bで除去することができるが、磁性鉱物以外の土壌に付着したセシウムは除去できない。そのため、あらかじめ磁性鉱物以外の土壌に付着したセシウムを回収するのが、本工程及び次工程(土壌沈降工程D)の目的である。
【0051】
本工程で行われる処理内容について説明する。土壌懸濁液の生成工程Aで生成された土壌懸濁液が処理槽に投入され、さらに脱着剤7が添加され、その後、攪拌機によって十分に攪拌される。脱着剤7に関しては、実施形態1で既述したとおりである。土壌懸濁液に脱着剤7を添加して攪拌すると、セシウムが土壌から離脱していく。さらに超音波分散機8によってセシウムを分散させ、懸濁液中に十分溶解させる。その後、実施形態1と同様の処理によって土壌沈降工程Dが行われ、沈降土壌9と非沈降の土壌懸濁液10が得られる。非沈降の土壌懸濁液10は実施形態1と同様吸着工程Eに移されるが、沈降土壌9は実施形態1と異なり選別工程Bに移される。
【0052】
3.選別工程B
本工程は、沈降土壌9から磁性鉱物である黒雲母を抽出する工程である。本工程で行われる処理内容について説明する。まず、処理槽内に注水し、その中に土壌沈降工程Dで得られた沈降土壌9加えて攪拌し、土壌懸濁液を得る。なお、土壌懸濁液の生成工程Aで得られる土壌懸濁液と区別するため、便宜上ここで得られたものは「沈降土壌懸濁液」という。次に、沈降土壌懸濁液は、磁選機5の処理槽内に投入され、電磁石の磁力が与えられる。そうすると、電磁石に磁着するものと、非磁着のものに分けられる。このとき磁着するものは、主にマサ土に含まれる黒雲母等の磁性鉱物であり、黒雲母等を除く非磁着の土壌懸濁液6となる。
【0053】
4.第一次回収工程
電磁石によって磁力が発生している状態では、黒雲母等は電磁石に磁着した状態を維持し、非磁着の土壌懸濁液6は、例えば処理槽に連結された排出管などによって排出される。非磁着の土壌懸濁液6が排出されると、電磁石による磁力を解除して黒雲母等を電磁石から離脱させ回収する。ここで回収された黒雲母(セシウム)は、放射性廃棄物として適切に処理される。また、非磁着の土壌懸濁液6は土壌と上澄水とに分離され、土壌については再利用あるいは自然環境に還元される。
【0054】
5.水洗浄工程H
本工程における水洗浄工程Hも、その処理内容は実施形態1と同様である。異なるのは、水洗浄工程Hによって得られる沈降土壌9´が、選別工程Bに移される点である。すなわち、土壌沈降工程Dで得られた沈降土壌9に含まれるセシウムが洗い流され、その後、沈殿した沈降土壌9´は、処理槽から引き抜かれて選別工程Bに移される。沈降土壌9´が引き抜かれた上澄水15が、吸着工程Eへ送られ、非沈降の土壌懸濁液10と合わせて以降の処理が行われるのは、実施形態1と同様である。また、水洗浄工程Hが1回だけの処理とすることも、複数回繰り返し行うこともできる点も同様である。
【0055】
(放射性物質回収装置の実施形態)
本願発明の放射性物質回収装置の実施形態を、図に基づいて説明する。本願発明の放射性物質回収装置は、前述した放射性物質回収方法を実施することのできる装置であり、「放射性物質回収方法の実施形態」の説明と重複する内容については、ここでの説明を省略する。
【0056】
1.全体概要
本願発明の放射性物質回収装置は、大きく磁選機5と懸濁液処理機16によって構成される。磁選機5では放射性物質回収方法のうち主に選別工程Bが行われ、懸濁液処理機16では主に溶解工程C〜第二次回収工程Gが行われる。以下、磁選機5と懸濁液処理機16それぞれについて説明する。
【0057】
2.磁選機
図3は、磁選機5を説明するブロック図である。この図に示すように磁選機5は、電磁石17aと電磁石17bの2極の電磁石を備えており、その間に選別槽18が配置されている。この選別槽18は、ホッパ18aと選別室18bと排出管18cで構成されており、排出管18cの先端(図では下端)にはさらに第一排出管19と第二排出管20が連結されている。
図3に示すように、第一排出管19と第二排出管20は、排出管18cの先端で分岐するように配置されており、この分岐点には切替え手段が設けられている。
【0058】
選別室18b内には、付着体18dが格納されている。この付着体18dは磁力が加えられると磁性を帯びやすいもので、例えば鉄球などを例示することができる。なお、付着体18dが鉄球の場合、選別室18b内には多数の付着体18d(鉄球)が格納される。また、選別室18bの底部には底板(図示しない)が設けられている。この底板には、土壌懸濁液を通過させるための通過孔が多数設けられているが、この通過孔は付着体18dを通過(落下)させない程度の小孔となっている。底板は、例えば金網のようなメッシュ状のものを利用することができる。
【0059】
電磁石17aと電磁石17bは、図示しない操作盤によってon/offの操作が行われ、onの状態にするとコイルに電流が流れて磁場が発生し、offの状態にするとコイルには電流が流れず磁場が解除される。電磁石17aと電磁石17bに磁場が発生すると、その間に配置された選別槽18、特に選別室18b内にもこの磁場が及ぶ(磁力が加えられる)。この結果、選別室18b内の付着体18dも磁性を帯びる。逆に電磁石17aと電磁石17bの磁場が解除されると、付着体18dも磁性を帯びない状態に戻る。
【0060】
排出管18cの先端に設けられる切替え手段は、例えばレバーコックのようなもので、排出管18c内を落下してくる土壌懸濁液を、第一排出管19又は第二排出管20に選択的に排出させることができる。
【0061】
図3に示す磁選機5を使用した選別工程Bの例を、以下に説明する。
はじめに、切替え手段によって土壌懸濁液が第一排出管19から排出される状態としておく。
次に操作盤を操作して、電磁石17aと電磁石17bに磁力を発生させた状態とし、ごみ処理された土壌懸濁液をホッパ18aから投入する。投入された土壌懸濁液は、選別室18b内に移動(落下)し、選別室18b内の付着体18dと接触する。このとき付着体18dはすでに磁性を帯びた状態にあるので、土壌懸濁液中の磁性鉱物(黒雲母等)は付着体18dに磁着する。一方、磁着しなかった土壌懸濁液(非磁着の土壌懸濁液6)は、底板の通過孔を通過して排出管18c内を落下していく。
排出管18cの先端まで到達した非磁着の土壌懸濁液6は、切替え手段の案内に従って第一排出管19へ移動し、その先端から排出される。
非磁着の土壌懸濁液6の排出が終わると、切替え手段によって磁性鉱物が第二排出管20から排出される状態とする。
さらに、操作盤を操作して、電磁石17aと電磁石17bの磁力が解除された状態とする。このとき付着体18dは磁性を帯びていない状態となるので、付着体18dに磁着していた磁性鉱物(黒雲母等)は付着体18dから離脱する。その後、磁性鉱物(黒雲母等)は排出管18cを通過して第二排出管20へ移動し、その先端から排出される。第二排出管20から排出される磁性鉱物(黒雲母等)は、セシウムを大量に含んでいるので、鉛製の容器21に収容するとよい。
【0062】
3.懸濁液処理機
図4は、懸濁液処理機16を説明するブロック図である。この図に示すように懸濁液処理機16は、処理槽1、排水管22、脱水管23、脱水処理機24を備えている。処理槽1は、上部が開口しており、攪拌機3と超音波分散機8を具備している。
【0063】
排水管22は処理槽1の下方に連結していて、その途中からは脱水管23が枝分かれするように連結されている。脱水管23の先端には脱水処理機24が配置され、この脱水処理機24内にある脱水管23には落下口が複数設けられている。また、脱水処理機24内には多数の微小孔が設けられたスクリーン24aが設けられている。脱水処理機24は、送られてきた土壌懸濁液を脱水するもので、土壌懸濁液を落下口からスクリーン24a上に落下させ、水分のみを通過させることによって脱水処理を行う。
【0064】
排水管22には脱水切替え手段(図示しない)が設けられており、この脱水切替え手段は例えばレバーコックのようなもので、排水管22内を落下してくる土壌懸濁液を、そのまま排水管22の先端で排出させるか、あるいは脱水管23を通じて脱水処理機24まで移動させるか、選択的に案内することができるものである。
【0065】
図4に示す懸濁液処理機16は、放射性物質回収方法の各工程で使用することができる。処理槽1は、土壌懸濁液の生成工程Aの処理槽、選別工程B〜第二次回収工程Gの処理槽、水洗浄工程Hの処理槽として使用できる。また、超音波分散機8は溶解工程Cの超音波分散で、攪拌機3は土壌懸濁液の生成工程A、溶解工程C、吸着工程E、凝集工程F、及び水洗浄工程Hの攪拌操作に、それぞれ使用することができる。さらに脱水管23及び脱水処理機24は、土壌沈降工程D及び水洗浄工程Hで沈降土壌9(沈降土壌9´)を引き抜く際、第二次回収工程Gで最終沈殿土壌13を引き抜く際にそれぞれ使用することができる。加えて、排水管22は、第二次回収工程Gで最終沈殿土壌13を引き抜いた後に上澄水14を排水する際、水洗浄工程Hで沈降土壌9´を引き抜いた後に上澄水15を排水する際にそれぞれ使用することができる。
【0066】
懸濁液処理機16は、連続処装置とすることもバッチ処理装置とすることもできる。連続処理装置とする場合、工程ごとの処理槽を用意しこれらを連結する。処理槽1は、土壌懸濁液の生成工程Aでは土壌懸濁液生成槽となり、溶解工程C及び土壌沈降工程Dでは溶解沈降槽、吸着工程Eでは吸着槽、凝集工程F及び第二次回収工程Gでは第二次回収槽、中和工程では中和槽、洗浄工程Hでは洗浄槽をそれぞれ用意し、上流工程から下流工程の順で連結する。つまり、同一の土壌懸濁液が各処理槽を移動して、一連の処理が行われるわけである。一方、バッチ処理装置とする場合、一つの処理槽が用意される。つまり、同じ処理槽を使って異なる処理が行われるわけであり、同一の土壌懸濁液は同一の処理槽内で繰り返し処理される。
【0067】
4.磁選機と懸濁液処理機の連動
図3及び
図4では、磁選機5と懸濁液処理機16をそれぞれ別体としているが、これに限らず一連のものとして製作することもできる。この場合、
図3に示す磁選機5の第一排出管19の先端(下方)に、懸濁液処理機16の処理槽1を配置し、第一排出管19から排出される非磁着の土壌懸濁液6を、直接処理槽1に投入させる。