特許第5881083号(P5881083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5881083矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881083
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/013 20060101AFI20160225BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   A61F9/013 100
   G02C7/04
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-168689(P2013-168689)
(22)【出願日】2013年8月14日
(65)【公開番号】特開2015-36080(P2015-36080A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2015年2月2日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500516702
【氏名又は名称】三井 石根
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(72)【発明者】
【氏名】三井 石根
【審査官】 胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−144479(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/052511(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/090763(WO,A1)
【文献】 特表2013−518672(JP,A)
【文献】 特開2006−043150(JP,A)
【文献】 特表2012−502668(JP,A)
【文献】 特表平07−500267(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0318017(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/013
G02C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の角膜に接触する側に、凹部からなるリリーフ領域と凸部からなる押圧領域とが形成されていて、これらリリーフ領域と押圧領域とを角膜に押し付けて角膜の形状を変えることにより、裸眼視力及び円錐角膜の少なくとも一方を矯正するためのコンタクトレンズであって、
前記押圧領域は、角膜に装着されたときに、角膜ドームの中央を押圧する位置で曲率RS凸湾曲面状に突出されていて、角膜に凹湾曲面を形成するようにされ、
前記リリーフ領域は、前記押圧領域の外周を囲む位置に形成された、断面が凹円弧形状の環状凹部からなり、
前記リリーフ領域の外周を囲む位置に設けられ、角膜に装着されたときに、角膜の輪郭に沿うような形状のアンカー領域と、
このアンカー領域の外周を囲む周縁部と、
を有してなり、
角膜に装着した状態で角膜に紫外線照射可能で、角膜に形成しようとする前記凹湾曲面の曲率をR0としたとき、前記曲率RS、RS=R0+5.0D〜R0+10.0Dとなるようにしたことを特徴とする矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズ。
【請求項2】
請求項1において、
前記凸湾曲面状の押圧領域により患者の角膜を押圧した後に、この押圧を、クロスリンキング後に解除した際の、角膜ドーム中央部の、眼球の弾性復元力によるスプリングバック量をΔRとしたとき、前記曲率RSは、RS=R0+ΔRであることを特徴とする矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズ。
【請求項3】
患者の角膜に接触する側に、凹部からなるリリーフ領域と凸部からなる押圧領域とが形成されていて、これらリリーフ領域と押圧領域とを角膜に押し付けて角膜の形状を変えることにより、裸眼視力及び円錐角膜の少なくとも一方を矯正するためのコンタクトレンズであって、
前記リリーフ領域は、角膜に装着されたときに、角膜ドームの中央に接触する位置で曲率rS凹湾曲面状に形成されていて、角膜に凸湾曲面を形成するようにされ、
前記押圧領域は、前記リリーフ領域の外周を囲む位置に形成された、断面が凸円弧形状の環状凸部からなり、
前記押圧領域の外周を囲む位置に設けられ、角膜に装着されたときに、角膜の輪郭に沿うような形状のアンカー領域と、
このアンカー領域の外周を囲む周縁部と、
を有してなり、
角膜に装着した状態で角膜に紫外線照射可能で、角膜に形成しようとする前記凸湾曲面の曲率をr0としたとき、前記曲率rS、rS=r0−6.5D〜r0−11.5Dとなるようにしたことを特徴とする矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズ。
【請求項4】
請求項3において、
前記凹湾曲面状のリリーフ域により患者の角膜を押圧した後に、この押圧を、クロスリンキング後に解除した際の、角膜ドーム中央部の、眼球の弾性復元力によるスプリングバック量をΔrとしたとき、前記曲率rSは、rS=r0−Δrであることを特徴とする矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記周縁部の外径Dは、人間の角膜の外周縁の平均的外径D0よりも3.0〜5.0mm大きくされ、且つ、該周縁部における直径がD0−3.0mm〜D0−5.0mmの位置から最も外周までの環状領域での角膜に接触する側に、紫外線を遮蔽するUV遮蔽膜を設けたことを特徴とする矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定時間装着して、患者の角膜の形状を変えて、近視、遠視、乱視あるいは円錐角膜が矯正された状態で、これを固定するための矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、本発明者は特許文献1において、睡眠中等に装着して、患者の角膜の形状を変えることにより、取外した状態での近視及び/又は乱視を矯正するためのコンタクトレンズを提案している。本発明者は、その後、遠視を矯正するための同様のコンタクトレンズも開発した。
【0003】
図4に示されるように、上記のような近視矯正用のコンタクトレンズ1Aは、患者の角膜2に接触する側に、凹部からなるリリーフ領域3と凸部からなる押圧領域4とが形成されていて、これらリリーフ領域3と押圧領域4とを角膜2に押し付けて角膜の一部を押圧領域4が押し込むとともに、その反作用として、リリーフ領域3に角膜2の一部を突出させることにより、角膜2の形状を所望の裸眼視力を得ることができる形状あるいは円錐角膜を滑らかに押さえ込む形状に矯正するものである。
【0004】
図5に示されるように、遠視矯正用のコンタクトレンズ1Bのリリーフ領域5と押圧領域6は、近視矯正の場合と反対になる。
【0005】
近視矯正用のコンタクトレンズ1Aでは、押圧領域4は角膜2に装着されたときに、角膜ドームの中央を押圧する位置で凸湾曲面状に突出して形成されている。これに対してリリーフ領域3は、押圧領域4の外周を囲むようにして、断面が凹円弧形状の環状凹部からなり、押圧領域4によって押し込められた角膜2の反作用として、角膜2の一部が環状凹部内に入り込むようにしている。また、リリーフ領域3の外周を囲む位置には、角膜2が装着されたときに、角膜2の輪郭に沿うような形状のアンカー領域7と、更にそのアンカー領域7の外周を囲む周縁部8とを有している。
【0006】
上記のコンタクトレンズ1A、1Bは、長期間装着しないと角膜の復元力によって、元の近視や遠視の状態に戻ってしまうので、矯正状態に固定することが望まれている。
【0007】
他方、角膜組織へ、リボフラビン(ビタミンB2)を浸透させた状態で紫外線を照射して、角膜を構成するコラーゲン同士を架橋(クロスリンキング)させ、角膜の強度を増大して、角膜を固定する屈折矯正手術もある。
【0008】
このクロスリンキング方法と、上記コンタクトレンズを組み合わせれば、コンタクトレンズによって矯正された状態で、角膜の形状をある程度固定することができると考えられる(非公知)。
【0009】
しかしながら、上記クロスリンキングは患者の円錐角膜の進行を抑えることができるが、クロスリンキング後の視力は様々であり、正常の視力に矯正することは困難であり、ここに上記のような矯正用コンタクトレンズを用いたとしても、目標どおりに視力を回復できない確率が高いと予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3881221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、クロスリンキングによって強度が増大した角膜の挙動を解析して、視力又は乱視矯正用コンタクトレンズによって正確に角膜を矯正し、且つ、その状態を固定することができる矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意研究の結果、クロスリンキングにより強度が向上された角膜が眼球の弾性復元力によって前方に突出するということを見出し、この復元力を考慮して、目標の裸眼視力を得られるようにした矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズを発明した。
【0013】
即ち、以下の実施例により上記課題を解決するものである。
(1)患者の角膜に接触する側に、凹部からなるリリーフ領域と凸部からなる押圧領域とが形成されていて、これらリリーフ領域と押圧領域とを角膜に押し付けて角膜の形状を変えることにより、裸眼視力及び円錐角膜の少なくとも一方を矯正するためのコンタクトレンズであって、前記押圧領域は、角膜に装着されたときに、角膜ドームの中央を押圧する位置で曲率RS凸湾曲面状に突出されていて、角膜に凹湾曲面を形成するようにされ、前記リリーフ領域は、前記押圧領域の外周を囲む位置に形成された、断面が凹円弧形状の環状凹部からなり、前記リリーフ領域の外周を囲む位置に設けられ、角膜に装着されたときに、角膜の輪郭に沿うような形状のアンカー領域と、このアンカー領域の外周を囲む周縁部と、を有してなり、角膜に装着した状態で角膜に紫外線照射可能で、角膜に形成しようとする前記凹湾曲面の曲率をR0としたとき、前記曲率RS、RS=R0+5.0D〜R0+10.0Dとなるようにしたことを特徴とする矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズ。
(2)(1)において、前記凸湾曲面状の押圧領域により患者の角膜を押圧した後に、この押圧を、クロスリンキング後に解除した際の、角膜ドーム中央部の、眼球の弾性復元力によるスプリングバック量をΔRとしたとき、前記曲率RSは、RS=R0+ΔRであることを特徴とする矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズ。
(3)患者の角膜に接触する側に、凹部からなるリリーフ領域と凸部からなる押圧領域とが形成されていて、これらリリーフ領域と押圧領域とを角膜に押し付けて角膜の形状を変えることにより、裸眼視力及び円錐角膜の少なくとも一方を矯正するためのコンタクトレンズであって、前記リリーフ領域は、角膜に装着されたときに、角膜ドームの中央に接触する位置で曲率rS凹湾曲面状に形成されていて、角膜に凸湾曲面を形成するようにされ、前記押圧領域は、前記リリーフ領域の外周を囲む位置に形成された、断面が凸円弧形状の環状凸部からなり、前記押圧領域の外周を囲む位置に設けられ、角膜に装着されたときに、角膜の輪郭に沿うような形状のアンカー領域と、このアンカー領域の外周を囲む周縁部と、を有してなり、角膜に装着した状態で角膜に紫外線照射可能で、角膜に形成しようとする前記凸湾曲面の曲率をr0としたとき、前記曲率rS、rS=r0−6.5D〜r0−11.5Dとなるようにしたことを特徴とする矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズ。
(4)(3)において、前記凹湾曲面状のリリーフ域により患者の角膜を押圧した後に、この押圧を、クロスリンキング後に解除した際の、角膜ドーム中央部の、眼球の弾性復元力によるスプリングバック量をΔrとしたとき、前記曲率rSは、rS=r0−Δrであることを特徴とする矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズ。
(5)(1)乃至(4)のいずれかにおいて、前記周縁部の外径Dは、人間の角膜の外周縁の平均的外径D0よりも3.0〜5.0mm大きくされ、且つ、該周縁部における直径がD0−3.0mm〜D0−5.0mmの位置から最も外周までの環状領域での角膜に接触する側に、紫外線を遮蔽するUV遮蔽膜を設けたことを特徴とする矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズ。
(6)角膜組織へリボフラビン溶液を浸透させる過程と、前記リボフラビンの浸透後に、(1)乃至(5)のいずれかに記載の矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズを前記角膜に装着して、前記押圧領域により角膜を押圧して、押圧された角膜の変形により押された角膜の一部が、前記リリーフ領域に入り込むようにする過程と、前記矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズを角膜に装着した状態で、前記矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズを介して、前記角膜に紫外線を照射して、角膜を構成するコラーゲン繊維を架橋させる過程と、を有してなる矯正角膜のクロスリンキング方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズによれば、角膜を変形させるためのコンタクトレンズの凹凸を、予め眼球の弾性復元力に基く、クロスリンキング後の角膜の変形(スプリングバック)を考慮して設定することによって、クロスリンキング後の角膜の形状を、目標の視力を回復できるように正確に設定することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1に係る矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズを模式的に示す断面図
図2図1のII−II線に沿うコンタクトレンズの背面図
図3】本発明の実施例2に係る矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズを模式的に示す断面図
図4】従来の近視矯正用のコンタクトレンズを角膜及び眼球の一部と共に模式的に示す断面図
図5】従来の遠視矯正用のコンタクトレンズを模式的に示す図4と同様の断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態に係るコンタクトレンズは、患者の角膜に接触する側に、凹部からなるリリーフ領域と凸部からなる押圧領域とが形成されていて、これらリリーフ領域と押圧領域とを角膜に押し付けて角膜の一部を押圧領域が押し込むとともに、その反作用として、リリーフ領域に角膜の一部を突出させることにより、角膜の形状を所望の裸眼視力を得ることができる形状あるいは円錐角膜を滑らかに押さえ込む形状に矯正するものであり、この状態で、クロスリンキングにより角膜の変形を固定してから、コンタクトレンズを取外したときの眼球の弾性復元力に基づく角膜のスプリングバックによる変形の戻りを予め見込んで凸部又は凹部の湾曲の曲率を設定しておくものである。
【0017】
本発明の特徴は、近視矯正の場合、角膜に形成しようとする凹湾曲面の曲率をR0とし、押圧領域の凸湾曲面の曲率をRSとしたとき、RS=R0+5.0D〜R0+10.0Dとなるようにしたものである。
【0018】
ここで、上記の+5.0D〜+10.0Dの数値は、眼球の弾性復元力に基く、クロスリンキング後の角膜の変形(スプリングバック)を考慮した補正量であり、本発明者による多くの治療例から導かれたものである。
【0019】
これは、曲率R0の押圧領域で患者の角膜を押圧した後に、この押圧を解除した際の、角膜ドーム中央部の、眼球の弾性復元力によるスプリングバック量をΔRとしたとき、曲率RSが、RS=R0+ΔRであることから決定される。
【0020】
また、本発明の特徴は、遠視矯正の場合、押圧領域とリリーフ領域は、近視矯正の場合と反対になり、その特徴は、角膜に形成しようとする凸湾曲面の曲率をr0とし、リリーフ領域の凹湾曲面の曲率をrSとしたとき、rS=r0−6.5D〜r0−11.5Dとなるようにする。ここでも、上記−6.5D〜−11.5Dの数値は、治療例から導き出したものである。
【0021】
上記遠視矯正の場合も、角膜ドーム中央部の、眼球の弾性復元力によるスプリングバック量をΔrとしたとき、曲率rSが、rS=r0−Δrとなることに基くものである。
【0022】
また、矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズにおいて、周縁部の外径Dは、人間の角膜の外周縁の平均的外径D0よりも3.0〜5.0mm大きくされ、且つ、該周縁部における直径がD0−3.0mm〜D0−5.0mmの位置から最も外周までの環状の領域での角膜に接触する側に、紫外線を遮蔽するUV遮蔽膜を設けるとよい。
【0023】
これは、クロスリンキングの際の紫外線照射によって、万能細胞が存在する角膜の外周縁(角膜輪部)までクロスリンキングされてしまうと、角膜の再生が困難となるのでこれを防止するためのものである。
【0024】
紫外線を遮蔽するUV遮蔽膜の材料は、角膜に対して無害の材料、例えば金薄膜、チタン薄膜、銀薄膜等を用いるとよい。
【0025】
UV遮蔽膜をコンタクトレンズの外側に設けると、コンタクトレンズの中央部から入射した紫外線が内部で反射・回折して、角膜の外周縁に到達してしまうことがあるので、UV遮蔽膜は角膜に接触する側に設ける。
【実施例1】
【0026】
図1に示されるように、本発明の実施例1に係る近視矯正用コンタクトレンズ10は、角膜12に装着して用いられる。図1において、符号14は水晶体を示す。
【0027】
近視矯正用コンタクトレンズ10は、角膜ドーム(角膜の前端面の最も隆起している所)の中央を押圧する位置で凸湾曲面状に突出して形成された押圧領域18と、この押圧領域18の外周を囲む位置に形成された、断面が凹円弧形状の環状凹部からなるリリーフ領域20と、押圧領域18の外周を囲む位置に設けられ、角膜12に装着されたときに、角膜の輪郭22(図2参照)に沿うような形状のアンカー領域24と、このアンカー領域24の外周を囲む周縁部26とを有して構成されている。
【0028】
図1において、二点鎖線により、図4に示される従来の近視矯正用コンタクトレンズ(以下、従来レンズ)1Aを示す。
【0029】
実施例1に係る近視矯正用コンタクトレンズ10において、図1に実線で示されるように、押圧領域18は従来レンズ1Aに対して角膜12方向に突出し、逆に、リリーフ領域20は従来レンズ1Aのリリーフ領域3よりも深い環状凹部となっている。更に、周縁部26は周縁部8よりも大きく、角膜12の輪郭に沿って延在されている。
【0030】
ここで、実施例1における押圧領域18の凸湾曲面の曲率をRS、従来レンズ1Aの凸湾曲面の曲率をR0としたとき、RS=R0+5.0D〜R0+10.0Dとなるようにされている。
【0031】
前記曲率R0は、患者の裸眼視力及び円錐角膜の少なくとも一方を矯正する際の、角膜12に形成しようとする凹湾曲面の曲率である。RS>R0となるようにしているのは、凸湾曲面の曲率R0の押圧領域で患者の角膜を押圧した後に、この押圧を解除した場合、角膜ドーム中央部の、眼球の弾性復元力(スプリングバック)により凹湾曲面の曲率が小さくなるように変形するので、このスプリングバック量を予め見込んだものであり、このスプリングバック量をΔRとしたとき、曲率RSは、RS=R0+ΔRとなるようにする。
【0032】
具体的には、スプリングバック量は患者毎に異なり、試行錯誤によりΔRを求めることになるが、治療例から、概ねRS=R0+5.0D〜R0+10.0Dとなるようにすれば対応できることがわかった。
【0033】
図1及び図2に示されるように、近視矯正用コンタクトレンズ10の周縁部26の外径Dは、人間の角膜の外周縁の平均的外径D0よりも3.0〜5.0mm大きくされ、且つ、該周縁部26における直径がD0−3.0mm〜D0−5.0mmの位置から最も外周までの環状領域での角膜12に接触する側に、紫外線を遮蔽するUV遮蔽膜28が設けられている。このUV遮蔽膜28は、角膜12に接触しても無害な材料、例えば、金、チタン、銀等の薄膜がよい。
【0034】
図2に示されるように、UV遮蔽膜28を形成すると、角膜12の周縁部26は、クロスリンキングの際の紫外線照射によっても障害を受けることがなく、角膜再生のための万能細胞を温存することができる。
【0035】
次に、前記近視矯正用コンタクトレンズ10を用いて矯正した角膜12をクロスリンキングによって固定する過程について説明する。
【0036】
まず、角膜12へ、リボフラビン(ビタミンB2)溶液を点眼により浸透させる。
【0037】
次に、リボフラビンの浸透後に、実施例1の近視矯正用コンタクトレンズ10を角膜12に装着して、中央の押圧領域18により角膜12を押圧して、押圧された角膜12の変形により押された角膜の一部が、リリーフ領域20に入り込むようにする。
【0038】
この状態で、近視矯正用コンタクトレンズ10を介して、角膜12に紫外線を照射して、角膜を構成するコラーゲン繊維を架橋させる。
【0039】
紫外線は、近視矯正用コンタクトレンズ10の角膜12に接触する側で、周縁部26を覆うようにしてUV遮蔽膜28が形成されているために、角膜12に到達することがなく、従って周縁部26の内側にある角膜12における万能細胞が損傷することがない。
【0040】
また、紫外線照射終了後に、近視矯正用コンタクトレンズ10を取り外しても、角膜12は押圧領域18及びリリーフ領域20によって付加された形状のままで固定される。
【0041】
近視矯正用コンタクトレンズ10の取り外し後に、眼球の弾性復元力によって角膜12の中央部が突出するが、これは予めスプリングバック量を見込んで押圧領域18の凸湾曲面の曲率RSが設定されているので、スプリングバック後における、角膜12に形成された凹湾曲面の曲率はR0となる。
【実施例2】
【0042】
次に、図3に示される実施例2に係る遠視矯正用コンタクトレンズ110について説明する。図3において、図5に示される従来の遠視矯正用コンタクトレンズ1Bが二点鎖線で示される。
【0043】
実施例2の遠視矯正用コンタクトレンズ110は、上記図1に示される近視矯正用コンタクトレンズ10に対して、押圧領域とリリーフ領域の凹凸が入れ替わった構成となっている。
【0044】
この遠視矯正用コンタクトレンズ110におけるリリーフ領域120は、角膜12に装着されるときに、角膜ドームの中央部に接触する位置で凹湾曲面状に形成されていて、また、押圧領域118は、リリーフ領域120の領域の外周を囲む位置に形成された、断面が凸円弧形状の環状凸部からなる。
【0045】
また、アンカー領域124は、押圧領域118の外周を囲む位置に設けられ、角膜12に装着されたときに、角膜の輪郭に沿うような形状とされ、周縁部126は、アンカー領域124の外周を囲むようにされている。図3の符号128はUV遮蔽膜を示す。
【0046】
更に、実施例2に係る遠視矯正用コンタクトレンズ110は、視力矯正の際の、角膜12に形成しようとする凸湾曲面の曲率をr0とし、リリーフ領域120の凹湾曲面における曲率をrSとしたとき、rS=r0−6.5D〜r0−11.5Dとなるようにしたものである。
【0047】
この数値は、遠視矯正用コンタクトレンズ110の押圧を解除した際の、角膜ドーム中央部の、眼球の弾性復元力によるスプリングバック量Δrを考慮した補正量であり、本発明者による多くの治療例から導かれたものであり、曲率rSは、rS=r0−Δrである。
【0048】
この遠視矯正用コンタクトレンズ110を用いて、矯正角膜をクロスリンキングする場合は、前記実施例1に係る近視矯正用コンタクトレンズ10と同様の過程を経てクロスリンキングを行う。
【産業上の利用可能性】
【0049】
コンタクトレンズにより形状を矯正した状態で、角膜をクロスリンキングにより固定する際の矯正角膜クロスリンキング用コンタクトレンズとして利用可能性がある。
【符号の説明】
【0050】
1A、1B…従来レンズ
10…近視矯正用コンタクトレンズ
12…角膜
14…水晶体
18、118…押圧領域
20、120…リリーフ領域
22…輪郭
24、124…アンカー領域
26、126…周縁部
28、128…UV遮蔽膜
110…遠視矯正用コンタクトレンズ
図1
図2
図3
図4
図5