【0007】
本発明をさらに詳細に説明する。
<定義>
本明細書で使用される「葉酸受容体β」又は「FRβ」という用語は、被験者のがん関連マクロファージの細胞表面に発現される受容体蛋白質を意味する。本発明では、このマクロファージは、浸潤性膵臓癌の周囲に分布し局在するM1及び/又はM2マクロファージである。
本明細書で使用される「被験者」という用語には、ヒトを含む霊長類、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどの家畜動物、イヌ、ネコなどのペット動物などの哺乳動物が含まれる。好ましい被験者はヒトである。
本明細書で使用される「FRβ蛋白質と免疫学的に特異的に結合する抗体」という用語は、抗体がFRβ蛋白質又はその天然変異体以外の蛋白質と結合しないか、又は、実質的に結合しないことを意味する。
本明細書で使用する「転移」という用語は、膵臓癌が浸潤性となり、リンパ管内や血管内に浸潤し、リンパ節や膵臓以外の臓器若しくは器官に定着し腫瘍を生じさせることを意味する。
<FRβ抗体>
本発明で使用される「浸潤先進部の膵臓癌細胞周囲に存在する葉酸リセプターβ(FRβ)(+)マクロファージの細胞表面FRβ蛋白質と免疫学的に特異的に結合する抗体」は、FRβ蛋白質を認識して該蛋白質に結合することができる抗体又はそのフラグメントであり、以下に述べるように、抗体の種類や形態は問わないものとする。これらの抗体は、浸潤先進部の膵臓癌細胞周囲に存在するFRβ(+)マクロファージの細胞表面FRβ蛋白質と特異的に結合することを可能にする。
本発明において、上記抗体は、上記マクロファージのFRβと免疫学的反応により結合するが、FRβ又はそれと90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性をもつその変異蛋白質以外の蛋白質とは実質的に結合しない。この点で、上記抗体は、FRのアイソフォームの1つであるFRα(例えばヒトFRαはヒトFRβとの間に約70%のアミノ酸配列同一性がある(特表2008−500025))と結合しない。
本発明の抗体は、いずれの免疫グロブリン(Ig)クラス(IgA,IgG,IgE,IgD,IgM,IgYなど)及びサブクラス(IgG1,IgG2,IgG3,IgG4,IgA1,IgA2など)のものであってもよい。また、免疫グロブリンの軽鎖は、κ鎖又はλ鎖のいずれであってもよい。
具体的には、本発明の抗体は、例えば、上記クラス又はサブクラスの完全構造を有する抗体又は、それらのフラグメント、例えば組換え抗体、単鎖抗体(scFv)、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体、ダイアボディ、トリアボディ、ScDb(single chain diabody),dsFv−dsFvなど)、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体などの抗体、或いは、それらのフラグメントである。
本発明で使用可能な抗体のフラグメントは、7以上、より好ましくは8〜12若しくはそれ以上の連続アミノ酸を有するFRβ蛋白質抗原エピトープと結合可能である。
抗体フラグメントは、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)
2、Fv、Fd、Fabcなどを含む。このようなフラグメントの作製方法は当技術分野で公知であり、例えばパパイン、ペプシン等のプロテアーゼによる抗体分子の消化、或いは公知の遺伝子工学的手法により得ることができる。
以下、本発明において使用するための抗体の作製方法について詳述する。
本発明において使用可能な抗体を作製するにあたり、最初に免疫原(抗原)として使用するFRβ蛋白質又はその断片を調製する。
ここで断片は、7〜10又はそれ以上、例えば11〜25、の連続アミノ酸からなる配列を有するものである。免疫原として使用することができるFRβ蛋白質の由来は、標的とするFRβと特異的に結合することができる抗体を誘導できるものであるものであれば特に限定されない。
FRβと特異的に結合することができる抗体を誘導するために、FRα(FRβと蛋白質レベルで約70%の配列同一性を有する。)とFRβとのアラインメントをとり、連続する約7〜20アミノ酸からなる配列部分で互いに同一性の低いFRβ蛋白質の部分配列からなる(ポリ)ペプチドを免疫原として選択することができる。この場合さらに、FRβ蛋白質の表面構造を、例えばKyte−Doolittleの親水性−疎水性予測やChou−Fasmanのアミノ酸配列からの二次構造予測(Biochemistry 1974,13:222−244)を利用して予測し、該蛋白質の表面に露出する上記(ポリ)ペプチド配列を免疫原として選択することが好ましい。
FRβとFRαのアラインメント図、FRβのKyte−Doolittleの親水性−疎水性予測図を、それぞれ
図1、
図2に示した。FRβは、GPIアンカー型蛋白質である(M.N.Prioleau et al.,EMBO J 1999,18:4035−4048)。そのシグナル配列は、C末端側の約30アミノ酸残基からなる疎水性領域からなる。すなわち、この領域は、
図1のC末端側のHVNAG・・QLWLLGの配列からなり、また、
図2から、このC末端側の配列が疎水性に富む領域であることがわかる。一般にGPIアンカー型蛋白質は、GPIアンカーを介して膜に結合しており、膜貫通ドメイン及び細胞内領域をもたないが、
図2から、FRβは全体的に親水性に富む蛋白質であり、蛋白質部分は細胞外に露出して存在している。
図1のFRβ(配列番号1)とFRα(配列番号3)のアミノ酸配列のアラインメントから、互いに配列同一性の低い部分、例えば配列番号1のアミノ酸配列の27位〜65位の領域、130位〜166位の領域、及び206位〜233位の領域からなる群から選択される領域の少なくとも8〜12個の連続するアミノ酸残基、例えば約10〜約20個の連続するアミノ酸残基、からなる配列からなるペプチドを選択し、該ペプチドと特異的に結合する抗体、すなわち該ペプチドと結合しFRαなどの他の蛋白質と実質的に結合しない抗体、を作製することができる。
本発明の抗体を作製するためのFRβ蛋白質又はその断片に関するヒトを含む哺乳動物FRβのアミノ酸又は塩基配列情報は、例えばヒトFRβのアミノ酸又は塩基配列(それぞれ配列番号1、配列番号2)に基づき、当該技術分野で公知の蛋白質及び遺伝子等のデータバンクである、例えばGenBank(NCBI、米国)、EMBL(EBI、欧州)などから入手可能である。GenBankに登録されたFRβのアミノ酸配列及び塩基配列のアクセッション番号は、いくつかの公知のバリアント(variant)からなり、例えばNM_000803(transcript variant 1)、NM_001113534(transcript variant 2)、NM_001113535(transcript variant 3)などである。該FRβ蛋白質又はその断片は、上記の配列情報に基づいて公知のペプチド合成技術や遺伝子組換え技術を利用して製造することができる。
同種又は異種動物におけるFRβの変異体又はオーソログの検索は、例えばカーリン(Karlin)及びアルトシュル(Altschul)(1993)(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877)に記載されたアルゴリズムや、その改良法であるカーリン及びアルトシュル(1990)(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264)のアルゴリズムを用いて行うことができる。この種のアルゴリズムは、アルトシュルら(1990)J.Mol.Biol.215:403のNBLAST及びXBLASTプログラムに組み込まれている。また、ギャップが導入されたアライメントを得るためには、アルトシュルら(1997)Nucleic Acids Res.25:3389に記載されたGapped BLASTを用いることができる。
ペプチド合成技術には、液相法と固相法が含まれる。これらの方法は、固相を使用するか否かの違いだけであるが、固相法の方が生成物の回収が容易であるという利点を有する。そのため、固相法を有利に使用できる。いずれの方法でも、蛋白質を構成する約5〜10個の(保護)アミノ酸からなる多数のペプチドを合成し、それらを段階的に伸長してポリペプチドを合成し、最後に保護基を除去して目的の蛋白質を生成し、精製することを含む。ペプチド合成法は、例えば日本生化学編、生化学実験講座1巻、タンパク質の化学IV−化学修飾とペプチド合成−東京化学同人に記載されている。
遺伝子組換え技術による方法は、例えば、FRβ蛋白質をコードするDNAを適当なベクターに連結し、該ベクターを適当な宿主細胞に導入し形質転換し、適当な培地で宿主細胞を培養し、FRβ蛋白質を生産することができる。この手法は当業者に周知であり、使用するベクター、宿主細胞、形質転換法、培養法、蛋白質の精製法などの技術は、例えば、Sambrookら,Molecular Cloning A Laboratory Manual,2版,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1998)などに詳しく記載されている。
抗体産生細胞には、例えばSpodoptera frugiperda細胞などの昆虫細胞、例えばSaccharomyces cerevisiaeおよびSchizosaccharomyces pombeなどの酵母細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)由来細胞、胎仔ハムスター腎細胞、ヒト胎児腎臓株293、正常イヌ腎臓細胞株、正常ネコ腎臓細胞株、サル腎細胞、アフリカミドリザル腎細胞、COS細胞、非腫瘍化マウス筋芽細胞G8細胞、線維芽細胞株、骨髄腫細胞株、マウスNIH/3T3細胞、LMTK細胞、マウスsertoli細胞、ヒト子宮頸癌細胞、バッファローラット肝細胞、ヒト肺細胞、ヒト肝細胞、マウス乳癌細胞、TRI細胞、MRC5細胞、およびFS4細胞などの哺乳類細胞が包含される。
上記のようにして製造したFRβ蛋白質又はその断片を免疫原として非ヒト動物を免疫し、以下に記載する方法によって本発明に係る抗体を製造することができる。或いは、該抗体をコードする重鎖及び軽鎖の可変領域をコードするDNAを、免疫した非ヒト動物の脾臓細胞、リンパ系細胞等のmRNAから作製し、このDNAを使用してキメラ抗体等の種々の形態の合成抗体をコードするDNAを合成することができる。
本発明で使用しうる抗体類には、非限定的に、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体(例えば、キメラ抗体、単鎖抗体、多重特異性抗体、ヒト化抗体など)、ヒト抗体などが含まれる。
ポリクローナル抗体は、上記のようにして作製した免疫原を、哺乳動物、例えばウサギ、ラット、マウスなどに免疫して、抗血清を得ることによって製造することができる。具体的には、上記免疫原を、必要に応じて免疫原性を高めるためのアジュバントと共に、哺乳動物に静脈内、皮下又は腹腔内投与する。アジュバントとしては、市販の完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム塩(Alum)、ムラミルペプチド(細菌細胞壁関連ペプチドの一種)等を使用することができる。その後、数日から数週間の間隔で、1〜7回の免疫を行い、最後の免疫日から1〜7日後に、ELISA等の酵素免疫測定法などによって抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血して抗血清を得ることができる。このようにして取得した抗血清は、そのまま使用してもよいし、或いは、FRβ蛋白質又はその断片ペプチドを固定化した親和性カラム(例えばアガロースゲルカラム使用)に抗血清をアプライし、カラムに結合する抗体を回収することを含む精製処理を行った後に使用してもよい。
モノクローナル抗体は、以下のようにして作製することができる。すなわち、上記のようにして免疫感作した非ヒト哺乳動物から得た抗体産生細胞(例えば脾臓細胞、リンパ系細胞など)と不死化ミエローマ細胞(「骨髄腫細胞」ともいう。)から融合法によってハイブリドーマを調製し、ハイブリドーマをクローン化し、免疫に用いたFRβ蛋白質又はその断片ペプチド抗原に対して特異的親和性を示すモノクローナル抗体を産生するクローンをヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培地(「HAT培地」)を用いて選択することによって製造することができる。ハイブリドーマの製造方法は、例えばKohler及びMilsteinら(Nature(1975)256:495−96)の方法に準じて行うことができる。非ヒト哺乳動物の例は、マウス、ラットなどのげっ歯類である。また、ミエローマ細胞としては、免疫感作した動物と同じ動物由来の細胞が好ましく使用され、例えばマウスミエローマ細胞、ラットミエローマ細胞などが挙げられる。特に、マウスミエローマ細胞株には、例えば、P3−NS1/1−Ag4−1株、P3−x63−Ag8.653株、Sp2/O−Ag14株などが含まれる。抗体産生細胞とミエローマ細胞の融合は、平均分子量約1,500のポリエチレングリコール(PEG)を使用するか、或いは電気的融合法を用いて行うことができる。
キメラ抗体、組換え抗体、単鎖抗体、ヒト化抗体などは、FRβ蛋白質又はその断片で免疫感作した非ヒト動物の脾臓細胞とミエローマ細胞から作製された特定のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ由来の該抗体をコードするDNAから製造することができる。
具体的には、上記ハイブリドーマ細胞から全RNAを抽出し、オリゴdTカラムと親和的に結合するmRNAを全RNAから回収し、cDNAを合成し、特定のモノクローナル抗体をコードするDNAをクローニングするか、或いは、公知のイムノグロブリン遺伝子配列に基づいてPCR法で増幅的に、抗体をコードするDNAを合成し、該DNA配列を決定する。ヒト、マウス等の動物の抗体の重鎖(H鎖)と軽鎖(L鎖)における、可変領域並びに相補性決定領域(CDRs)及びフレームワーク領域(FRs)の配列及び位置を、例えばKabatのEUナンバリングインデックス(Kabat EA et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.Vol.1,Bethesda(MD):NIH,1991)に従って決定することができる。
遺伝子組換え技術を用いて組換え抗体の作製法をさらに具体的に説明する。
作製したハイブリドーマからモノクローナル抗体をコードする遺伝子をクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等の哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞といった宿主に導入して、宿主において組換え抗体を生産させることができる(P.J.Delves.,ANTIBODY PRODUCTION ESSENTIAL TECHNIQUES.,1997 WILEY、P.Shepherd and C.Dean.,Monoclonal Antibodies.,2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS,J.W.Goding.,Monoclonal Antibodies:principles and practice.,1993 ACADEMIC PRESS)。或いは、トランスジェニック動物作製技術を用いて目的抗体の遺伝子座が内在性遺伝子座の領域に置換的に組み込まれたトランスジェニックなマウス、ウシ、ヤギ、ヒツジ又はブタを作製し、FRβ蛋白質又はその断片ペプチドを抗原として免疫したのち、そのトランスジェニック動物の血液や乳汁などからその抗体遺伝子に由来する抗体を取得することも可能である。また、上記トランスジェニック動物のなかには、内因性抗体遺伝子を欠失したかつヒト抗体遺伝子を保有するマウスやウシなどのヒト抗体産生動物も知られているので、このような動物を利用する場合には、ヒトFRβに結合する完全ヒト抗体を得ることができる(例えばWO 96/9634096、WO 96/33735、WO98/24893など)。さらにまた、該動物の抗体産生細胞(例えばB細胞)とミエローマ細胞から作製したハイブリドーマをin vitroで培養する場合には、上記のような手法で、モノクローナル抗体を産生することもできる。
作製されたモノクローナル抗体は、当技術分野において公知の方法、例えばプロテインAあるいはプロテインGカラムによるクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、硫安塩析法、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより精製することができる。
キメラ抗体は、H鎖及びL鎖における可変領域と定常領域がそれぞれ異なる動物由来のものである抗体を指す。例えば、H鎖及びL鎖における可変領域がマウス抗体由来である一方、定常領域がヒト抗体由来であるような抗体がキメラ抗体であり、この抗体をコードするDNAは、マウス抗体をコードするDNA配列中の定常領域をコードするDNA配列を、ヒト定常領域をコードするDNA配列で置換した塩基配列を有する。キメラ抗体は、例えばMorrison et al.,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.,81:6851−6855;Neuberger et al.,1984,Nature,312:604−608;Takeda et al.,1985,Nature,314:452−454に記載される技術を用いて製造することができる。
ヒト化抗体は、H鎖及びL鎖における、CDR領域が非ヒト動物由来のものである一方、定常領域及びフレームワーク領域がヒト由来のものである抗体を指す。例えば、H鎖及びL鎖におけるCDR領域(CDR1,CDR2及びCDR3)がマウス抗体由来である一方、定常(C)領域及びフレームワーク領域(FR1,FR2,FR3及びFR4)がヒト抗体由来であるような抗体がヒト化抗体であり、この抗体をコードするDNAは、マウス抗体をコードするDNA配列中の定常領域及びフレームワーク領域をコードするDNA配列を、ヒト定常領域及びフレームワーク領域をコードするDNA配列で置換した塩基配列を有する。ヒト化抗体を作製するための手法は、所謂、CDR移植法と呼ばれるものであり、本発明で使用される抗体のうち特にヒトに投与可能な抗体は、CDR移植法で作製されうるし(Jones et al.,Nature,321:522−525,1986;Reichmann et al.,Nature,332:323−329,1988;Presta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593−596,1992;Verhoeyen et al.,Science,239:1534−1536,1988)、或いは、後述するように、ヒト抗体産生非ヒト動物(例えばマウス)の使用(上記)やファージディスプレイ法などを利用して完全ヒト抗体を作製することができる。
ファージディスプレイ法は、繊維状ファージM13、T7ファージなどのファージを利用して、ファージコート蛋白質と外来ポリペプチド(例えば、組換えFRβ抗体)を融合した形で発現させることでファージ表面に提示させる方法である(C.Barbas et al.,Phage Display:Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001など)。ファージコート蛋白質としては、M13ファージではg3pやg8pを外来ポリペプチドの提示のために利用しうるし、また、T7ファージではg10pを利用しうる。組換えFRβ抗体として、H鎖可変領域(VH)とL鎖可変領域(VL)とをリンカー(例えば(GGGGS)
3)で結合した単鎖抗体(scFv)、多重特異性抗体(2以上の異なるVHと2以上の異なるVLとの組み合わせを含む抗体)などの合成抗体、(ヒト)抗体の(組換え)H鎖(VHとCH)、L鎖(VLとCL)又はそれらの組み合わせなどが含まれる。
上記の方法で製造可能な本発明で使用されうる抗体の具体例として、以下のものが挙げられるが、それらに限定されない。また、以下の抗体類に加えて、該抗体類の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のそれぞれの相補性決定領域を含む、キメラ抗体、単鎖抗体、多重特異性抗体などの組換え抗体も本発明の組成物、キット、診断剤に有効成分として含めることができる。
配列番号1のアミノ酸配列の27位〜65位の領域、130位〜166位の領域、及び206位〜233位の領域からなる群から選択される領域の少なくとも8〜12個の連続するアミノ酸残基、例えば約10〜約20個の連続するアミノ酸残基、からなる配列からなるペプチドと特異的に結合する抗体又はそのフラグメント。
抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体36b由来の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列(配列番号4、対応する塩基配列:配列番号5)、並びに重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列(配列番号6、対応する塩基配列:配列番号7)を含む抗体又はそのフラグメント。
抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体36b由来の軽鎖可変領域(VL)のCDRL1,CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号8、配列番号9、配列番号10)、並びに重鎖可変領域(VH)のCDRH1,CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号11、配列番号12、配列番号13)を含む抗体又はそのフラグメント。
抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体94b由来の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列(配列番号14、対応する塩基配列:配列番号15)、並びに重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列(配列番号16、対応する塩基配列:配列番号17)を含む抗体又はそのフラグメント。
抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体94b由来の軽鎖可変領域(VL)のCDRL1,CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号18、配列番号19、配列番号20)、並びに重鎖可変領域(VH)のCDRH1,CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号21、配列番号22、配列番号23)を含む抗体又はそのフラグメント。
抗マウスFRβラットモノクローナル抗体CL5由来の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列(配列番号24、対応する塩基配列:配列番号25)、並びに重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列(配列番号26、対応する塩基配列:配列番号27)を含む抗体又はそのフラグメント。
抗マウスFRβラットモノクローナル抗体CL5由来の軽鎖可変領域(VL)のCDRL1,CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号28、配列番号29、配列番号30)、並びに重鎖可変領域(VH)のCDRH1,CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号31、配列番号32、配列番号33)を含む抗体又はそのフラグメント。
抗マウスFRβラットモノクローナル抗体CL10由来の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列(配列番号34、対応する塩基配列:配列番号35)、並びに重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列(配列番号36、対応する塩基配列:配列番号37)を含む抗体又はそのフラグメント。
抗マウスFRβラットモノクローナル抗体CL10由来の軽鎖可変領域(VL)のCDRL1,CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号38、配列番号39、配列番号40)、並びに重鎖可変領域(VH)のCDRH1,CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号41、配列番号42、配列番号43)を含む抗体又はそのフラグメント。
上記抗体は、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域、或いはフレームワーク領域又は定常領域に、1〜3個、好ましくは1又は2個のアミノ酸残基の置換、欠失又は付加(もしくは挿入)の変異を含むことができる。そのような具体例は、以下のとおりである。
抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体94b由来の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列(配列番号14、対応する塩基配列:配列番号15)、並びに重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列(配列番号16、対応する塩基配列:配列番号17)において配列番号16の63位のグリシン(塩基配列ggc)をシステイン(Cys;塩基配列tgt)に変異させた配列を含む抗体又はそのフラグメント。
抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体94b由来の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列(配列番号14、対応する塩基配列:配列番号15)において配列番号14の125位のグリシン(塩基配列gga)をシステイン(Cys;塩基配列tgt)に変異させた配列、並びに重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列(配列番号16、対応する塩基配列:配列番号17)を含む抗体又はそのフラグメント。
抗マウスFRβラットモノクローナル抗体CL10由来の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列(配列番号34、対応する塩基配列:配列番号35)、並びに重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列(配列番号36、対応する塩基配列:配列番号37)において配列番号36の63位のグリシン(塩基配列ggc)をシステイン(Cys;塩基配列tgt)に変異させた配列を含む抗体又はそのフラグメント。
抗マウスFRβラットモノクローナル抗体CL10由来の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列(配列番号34、対応する塩基配列:配列番号35))において配列番号34の126位のセリン(塩基配列tct)をシステイン(Cys;塩基配列tgt)に変異させた配列、並びに重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列(配列番号36、対応する塩基配列:配列番号37)を含む抗体又はそのフラグメント。
ヒト化抗体は、例えば上記抗体のH鎖及びL鎖の各CDR1〜CDR3、並びに、ヒト由来のH鎖及びL鎖の各フレームワーク及び定常領域の配列を含む。該フレームワーク領域及び定常領域のそれぞれのアミノ酸配列は、FRβ蛋白質との結合特異性を変更することなく、1〜3個、好ましくは1又は2個のアミノ酸残基の置換、欠失又は付加(もしくは挿入)の変異を含むことができる。具体的なヒト化抗体の例を以下に記載する。
軽鎖可変領域(VL)のCDRL1,CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号8、配列番号9、配列番号10)、並びに重鎖可変領域(VH)のCDRH1,CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号11、配列番号12、配列番号13)を含むヒト化抗体又はそのフラグメント。
軽鎖可変領域(VL)のCDRL1,CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号18、配列番号19、配列番号20)、並びに重鎖可変領域(VH)のCDRH1,CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号21、配列番号22、配列番号23)を含むヒト化抗体又はそのフラグメント。
軽鎖可変領域(VL)のCDRL1,CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号28、配列番号29、配列番号30)、並びに重鎖可変領域(VH)のCDRH1,CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号31、配列番号32、配列番号33)を含むヒト化抗体又はそのフラグメント。
軽鎖可変領域(VL)のCDRL1,CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号38、配列番号39、配列番号40)、並びに重鎖可変領域(VH)のCDRH1,CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号41、配列番号42、配列番号43)を含むヒト化抗体又はそのフラグメント。
後述の実施例に記載されるように、上記の抗体94bVH又は94bVL或いは抗体CL10VH又はCL10VLにCys置換変異を導入して変異型VH及び変異型VLを作製し、これらの変異型VHにトキシンポリペプチド(例えば緑膿菌由来外毒素(Pseudomonas Exotoxin(PE))を融合させてイムノトキシンVHを作製し、さらにこれらに、それぞれ変異型VLを結合して、イムノトキシンを作製することができる。例えば、抗ヒトFRβイムノトキシンVHPEのアミノ酸配列が配列番号44であり、変異型VLのアミノ酸配列が配列番号45であるイムノトキシン、或いは、抗マウスFRβイムノトキシンVHPEのアミノ酸配列が配列番号46であり、変異型VLのアミノ酸配列が配列番号47であるイムノトキシンである。
本発明の抗体類は、浸潤先進部の膵臓癌細胞周囲に存在するFRβマクロファージの細胞表面FRβ蛋白質と免疫学的に特異的に結合するものであり、解離定数(K
d)が、例えば1×10
−7M以下、1×10
−8M以下、1×10
−9M以下、1×10
−10M以下、1×10
−11M以下、1×10
−12M以下、1×10
−13M以下、1×10
−14M以下、又は1×10
−15M以下である。
<抗癌性分子標的薬>
本発明では、上記の抗体類に、トキシン(「毒素」とも称する。)もしくは細胞障害剤を結合してなる抗癌性分子標的薬が、浸潤性膵臓癌の治療薬の有効成分として、或いは該治療薬の製造のために、使用される。
トキシンもしくは細胞障害剤が、浸潤先進部の膵臓癌細胞周囲に存在するFRβマクロファージを死滅させるか又は障害する能力をもつ。これによって、膵臓癌の増殖及び/又は転移を抑制することが可能になる。
トキシンには、非限定的に細菌由来毒素、植物由来毒素などの毒素を含み、また内毒素、外毒素などの毒素を含み、例えばジフテリア毒素、シュードモナス毒素、緑膿菌外毒素(Pseudomonas aeruginosa exotoxin)リシンA鎖(ricin A chain)又は脱糖鎖リシンA鎖(deglycosylated ricin A chain)、緑膿菌外毒素PE38、リボゾーム不活性化蛋白質(ribosome inactivating protein)、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファサルシン(alpha−sarcin)、ゲロニン(gelonin)、アスペルギリン(aspergillin)、リストリクトシン(restrictocin)、リボヌクレアーゼ(ribonuclease)、エポドフィロトキシン(epidophyllotoxin)、ジフテリアトキシン(diphtheria toxin)、ジフテリアA鎖、ブドウ球菌エンテロトキシンなどの細菌由来の毒素が含まれる。
腫瘍細胞に対する細胞障害剤には、抗腫瘍剤、腫瘍増殖抑制剤、細胞周期停止誘導剤、DNA合成阻害剤、転写阻害剤、翻訳・蛋白質合成阻害剤、細胞分裂阻害剤、腫瘍細胞アポトーシス誘導剤、放射性核種などが含まれる。
細胞障害剤には、非限定的に、例えばヤマゴボウ抗ウイルス性蛋白質、アブリン、リシン及びそのA鎖、アルトレタミン、アクチノマイシンD、プリカマイシン、プロマイシン、グラミシジンD、ドキソルビシン、コルヒチン、サイトカラシンB、シクロホスファミド、エメチン、マイタンシン、アムサクリン、シスプラチン、エトポシド、エトポシドオルトキノン、テニポシド、ダウノルビシン、ゲムシタビン、ドキソルビシン、ミトキサントラオン(mitoxantraone)、ビサントレン、ブレオマイシン、メトトレキセート、ビンデシン、ビノレルビン、ポドフィロトキシン、アドリアマイシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、BCNU、タキソール、タルセバ、アバスチン、マイトマイシン、修飾シュードモナスエンテロトキシンA、カリチェアミシン、5−フルオロウラシル、シクロホスファミド、並びに、TNF−αやNF−βなどのサイトカインなどが含まれる。
放射性核種には、非限定的に、例えば鉛−212、ビスマス−212、アスタチン−211、ヨウ素−131、スカンジウム−47、レニウム−186、レニウム−188、サマリウム−153、イットリウム−90、ヨウ素−123、ヨウ素−125、ヨウ素−131、臭素−77、インジウム−111、リン−32、およびホウ素−10またはアクチニドなどの核分裂性核種を含む放射性同位元素である。ラベル化は、例えばタンパク質のシステイン残基、リジン残基などのアミノ酸残基を介して行うことができる。ラベル化の手法については、例えばMonoclonal Antibodies in Immunoscintigraphy(Chatal,CRC Press 1989)に記載されている。
本発明の抗癌性分子標的薬が上記抗体とトキシンからなる、すなわちイムノトキシンであるとき、これらの成分は融合蛋白質の形態をとることができる。この場合、トキシンは、抗体蛋白質の、例えば、可変領域のフレームワーク領域もしくはC末端領域、あるいは、定常領域のCH3領域もしくはC末端領域に、必要に応じてリンカー(例えばペプチド)を介して、結合することができる。一方、本発明の抗癌性分子標的薬が上記抗体と細胞障害剤からなるとき、これらの成分は、結合のための官能基を介して共有結合又は非共有結合によって結合することができる。例えば、抗体分子中の反応性基、例えばアミノ基、カルボキシル基、水酸基、メルカプト基、等の官能基を利用し、反応性基を有するトキシン又は細胞障害剤と反応させることによって分子標的薬を製造しうる。例えばN−スクシンイミジルエステル基、N−スルホスクシンイミジルエステル基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、ジスルフィド基などが含まれる。結合には、二官能性カップリング剤、活性エステル、アルデヒド類、ビスアジド、イソシアネートなどのカップリング剤を利用しうる。
<医薬組成物>
本発明はまた、上記の抗癌性分子標的薬を、薬学的に許容可能な担体とともに含む、被験者において浸潤性膵臓癌の増殖及び/又は転移を抑制するための医薬組成物を提供する。
本発明の抗癌性分子標的薬は、増殖を抑制するのみならず、転移、特にリンパ節転移又は血行性転移を抑制することが可能である。これらの転移を抑制することで、膵臓以外の臓器への腫瘍転移を抑制することができる。本発明の分子標的薬は、浸潤性膵臓癌の浸潤先進部に存在するFRβ(+)マクロファージを特異的に結合するため、その周囲の膵臓癌を選択的に攻撃し、正常細胞に及ぼす影響を最小に抑えることができる。
薬学的に許容される担体(又は賦形剤)は、液体及び固体のいずれをも含み、経口製剤又は非経口製剤の種類に応じて適宜選択可能であり、例えば滅菌水、PBSなどの緩衝液、生理食塩水、リンゲル液、エタノール、グリセロール、植物油、ゼラチン、スクロース、ラクトース、アミロール、デンプン、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロースなどを含む。このような担体の他に、上記医薬組成物にはさらに、必要に応じて、滑沢剤、保存料、安定剤、湿潤剤、乳化剤、崩壊剤、可溶化剤、等張化剤、結合剤、緩衝剤、着色剤などの助剤を混合することができる。
本発明の医薬組成物は、経口投与、静脈内投与、動脈内投与、粘膜投与、筋肉内投与、皮下投与、頬投与、腹腔内投与、関節内投与、滑膜内投与、胸骨内投与、鼻腔内投与、ボーラス注射、連続注入、患部への直接投与など投与経路で投与しうる。
該医薬組成物は、上記投与経路に応じて製剤化する。製剤には、非限定的に例えば、注射剤、溶液剤、懸濁剤、錠剤、顆粒剤、粉末剤、噴霧剤、カプセル剤、腸溶製剤、徐放製剤、多層製剤などの種々の剤型に処方しうる。
本発明の医薬組成物中の有効成分である抗癌性分子標的薬は、治療上有効量で単位剤型中に含有される。投与用量は、被験者の性別、年齢、体重、重篤度、投与経路、副作用などの様々な要因に応じて変化させうるが、有効成分量は、1日当たり約1μg以上、例えば50〜100μg又はそれ以上であるが、これらに限定されない。投与回数は、単回又は複数回のいずれでもよい。
本発明の医薬組成物は、膵臓癌の従来の治療剤を併用投与することも可能である。従来の治療剤には、例えばゲムシタビン、5−FU、シスプラチン、ジェムザール、TS−1などの医薬品が含まれる。これらの治療剤は、本発明の医薬組成物の投与の前、同時又は後に被験者に投与しうる。
<膵臓癌の悪性度又は浸潤性膵臓癌の存在の測定法、並びに、該測定のための診断剤及びキット>
本発明はさらに、別の態様において、被験者からの膵臓癌組織サンプルを、FRβ(+)マクロファージの細胞表面FRβ蛋白質と特異的に結合する抗体(放射性同位元素、発蛍光団、色素などのラベルで標識された抗体、或いは、非標識抗体)と接触させて、FRβ(+)マクロファージが該組織中の先進部の膵臓癌細胞周囲に存在するかどうかを調べ、FRβ(+)マクロファージが該先進部の膵臓癌細胞周囲に分布するとき、該組織が浸潤性でありかつ転移性であると判定することを特徴とする、膵臓癌の悪性度又は浸潤性膵臓癌の存在を検査する方法を提供する。
本明細書で使用する「判定する」という用語は、医師の判断、すなわち医療行為を意図したものではなく、医師に検査結果の情報又はデータを提示し、医師の判断を助けるための手段を意味する。したがって、「判定する」という用語は、「測定する」、「検査する」、「決定する」又は「評価する」などの用語で置き換えることができる。
本発明はさらに、上記検査方法に使用するための、上記抗体又はそのフラグメントを含む膵臓癌の悪性度又は浸潤性膵臓癌の存在を診断(画像診断を包含する。)するための診断剤又はキットも提供する。
画像診断の場合、診断剤又はキットに、上記抗体又はそのフラグメントと標識とを結合した複合体を含めることができる。標識には、上で例示したような発蛍光団、色素、放射性同位元素などが含まれる。
膵臓組織サンプルは、膵臓癌であると疑われる被験者から外科手術によって得られた患部の膵臓組織サンプルである。
本明細書で使用される「浸潤」は、腫瘍の運動性の亢進に伴い、病巣組織の深部、そして組織を超えて原発巣からの離脱を意味する。腫瘍の浸潤性は、腫瘍が転移性となり悪性化したことを示す。
本発明の方法は、癌の先進部が浸潤性となることと、FRβ(+)マクロファージが集積することとが相関することに基づいている。FRβ(+)マクロファージの存在を上記抗体又はそのフラグメントを使用して検出することによって、膵臓癌が浸潤性及び転移性であると判定(決定又は同定又は分類又は評価)する。
抗体によるFRβマクロファージ(+)の検出は、ELISA、蛍光抗体法、放射免疫法、サンドイッチ法、組織染色法などによって行うことができる。二次抗体に、例えば酵素(例えばペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなど)、発蛍光団(例えばFITC、テトラメチルローダミン、テキサスレッドなど)、色素、放射性同位元素などのラベル(標識)を結合したものを使用して、マクロファージに結合した抗体の複合体を検出する。ラベルの結合には、化学的結合法、ビオチン−(ストレプト)アビジン系を利用する結合法などが含まれる。
画像診断の場合には、薬学的に許容可能な放射性核種や発光体を抗体にラベルし、被験者に該抗体を投与し、PET/CTなどの画像診断技術を使用して画像をとり、膵臓癌の存在を判定又は検査することができる。
本発明のキットには、上記(標識された、又は標識されない)抗体又はそのフラグメント、或いはそれらを含む造影剤、のほかに、測定に使用するためのバッファ、ラベル化二次抗体などの試薬、測定手順を記載した使用説明書などを含めることができる。試薬は、別々の容器に密封される。
【実施例】
【0008】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕
抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体及び抗マウスFRβラットモノクローナル抗体の製造
[抗原であるFRβ発現細胞の調製]
関節リウマチ滑膜またはBalb/cマウス肝臓からTrizol(GibcoBRL)、cDNA synthesis kit(Invitrogen)にて添付説明書に従って全RNAを抽出後、SuperScript plasmid System(Invitrogen)にて添付説明書に従ってcDNAを合成した。次に、1μlのリウマチ滑膜、またはBalb/cマウス肝臓cDNAをそれぞれ別個にBioneer PCR premix(Bioneer)に加え、10ピコモル量に調整したセンス(ヒトリウマチ滑膜:agaaagacatgggtctggaaatggatg(配列番号48);マウス肝臓:tctagaaagacatggcctggaaacag(配列番号49))およびアンチセンスプライマー(ヒトリウマチ滑膜:gactgaactcagccaaggagccagagtt(配列番号50);マウス肝臓:cccaacatggatcaggaact(配列番号51))を加え、94℃20秒、58℃30秒、72℃60秒で30サイクルPCRを行い、その後72℃5分で反応させることにより、ヒトあるいはマウスFRβを増幅した。増幅したFRβ遺伝子のPCR産物をプラスミドPCR2.1−TOPO(Invitrogen)にライゲーションを行った。すなわちPCR産物2.5μlにNaCl溶液を1μL、滅菌蒸留水1.5μl、ベクタープラスミド(PCR2.1−TOPO)1μLを加えて室温で5分間インキュベートし、その内の2μLを大腸菌(TOP10F’)に加えて氷中で30分反応後、42℃30秒の熱処理し、氷中で2分間静置し、250μLのSOC培地を加えた後、37℃で1時間シェーカー内で培養した。培養終了後、LB培地に捲き、37℃で一晩培養した。
大腸菌培養の為、プレート上より採取した白いコロニーを、アンピシリン(50μg/mL)含有LB液体培地に加えて37℃一晩培養した。大腸菌内のプラスミドの精製はQiagenプラスミド精製キット(Qiagen)にて行った。組み込まれたFRβ遺伝子は、制限酵素EcoRIによる処理後、アガロース電気泳動に展開し、約0.8kb(782bp)のFRβ遺伝子産物を確認後、その部位を切り出し、遺伝子産物の抽出をQuiagen PCR purification kit(Quiagen)にて精製した。次にあらかじめEcoRI処理を行った哺乳細胞発現用ベクターpER−BOS(Mizushima et al.pEF−BOS,a powerful mammalian expression vector.Nucleic Acid Res.1990;18(17):5322)と混和し、T4 ligase(Roche)を用いてライゲーションを行った。ライゲーション産物の大腸菌(TOP10F’)への遺伝子導入ならびに、FRβ遺伝子の確認は上記と同様の手法で行った。
pEF−BOSに組み込まれたFRβ遺伝子を確認後、ヒトFRβを含むベクターはマウスB300−19細胞に、マウスFRβを含むベクターはラットRBL2H3細胞にそれぞれ遺伝子導入を行った。すなわち、あらかじめ1×10
5個に調整した各細胞に、20μLのリポフェクタミン(GibcoBRL)と混和したFRβベクター1μgを加え、細胞に添加した。遺伝子導入されたB300−19マウス細胞およびラットRBL2H3細胞は抗生物質G418耐性を獲得するため、1mg/mLの濃度のG418を含む培地にて遺伝子導入された細胞を選択培養した。遺伝子導入された細胞のFRβ遺伝子導入の確認はPCR法にて行った。すなわち、1×10
7個に調整した各細胞をcDNA synthesis kit(Invitrogen)にてcDNAを合成し、10ピコモル量に調整したセンス(ヒトリウマチ滑膜:agaaagacatgggtctggaaatggatg(配列番号48);マウス肝臓:tctagaaagacatggcctggaaacag(配列番号49))およびアンチセンスプライマー(ヒトリウマチ滑膜:gactgaactcagccaaggagccagagtt(配列番号50);マウス肝臓:cccaacatggatcaggaact(配列番号51))をBioneer PCR premix(Bioneer)に加え、94℃20秒、58℃30秒、72℃60秒で30サイクルPCRを行い、その後72℃5分で反応させることにより、ヒトあるいはマウスFRβを増幅した。増幅後アガロース電気泳動を行い、FRβが示すバンド0.8kbを確認した。
[抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体及び抗マウスFRβラットモノクローナル抗体の作製]
FRβ発現マウスB300−19細胞あるいはラットRBL2H3細胞を1×10
7個に調整し、フロインド完全アジュバンドと混合し、Balb/cマウス(抗ヒトFRβモノクローナル抗体用)あるいはWhister Kyotoラット(抗マウスFRβモノクローナル抗体用)の尾根部あるいは腹腔内に免疫した。この操作を一週間ごとに2〜4回繰り返した。
モノクローナル抗体の作製は、Kolerの方法(Kohler & Milstein,Nature(1975)256:495−96)に従って行った。すなわち、脾臓あるいは腸骨リンパ節を取りだして単一細胞に解離させ、骨髄腫由来の細胞(NS−1)と細胞融合させてハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマはHAT選択培地にて培養し、培養上清中に分泌された抗体を、先のFRβ発現細胞との反応性で選別した。
抗体産生が認められたハイブリドーマのクローン化は、96穴プレートの各穴あたり1細胞となるように調整した限界希釈培養にて行った。
クローン化したハイブリドーマを用いた抗体の採取は、マウス腹水から行った。まず細胞数を1×10
7個に調整してヌードマウス腹腔内に投与し、腹腔の膨張が認められるまで飼育した。腹腔の膨張が認められた個体から腹水を調整し、Protein Gカラム(GEバイオサイエンス)にてモノクローナル抗体を精製した。精製したマウスおよびラットモノクローナル抗体のアイソタイプは、アイソタイピングELISAキット(Pharmingen)を用いて決定した。その結果、抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体はIgG2aタイプのクローン36bとIgG1タイプの94bの2つが得られ、抗マウスFRβラットモノクローナル抗体は、IgG2aタイプのCL5とCL10の2つが得られた。これら各抗体の抗原に対する反応性はフローサイトメトリーにて解析した。
[抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体及び抗マウスFRβラットモノクローナル抗体の重鎖遺伝子可変領域(VH)および軽鎖遺伝子可変領域(VL)、ならびにVH配列及びVL配列の決定]
マウスハイブリドーマクローン36b、94bを1×10
7個にそれぞれ調整し、cDNA synthesis kit(Invitrogen)にてcDNAを合成した。36bおよび94bはIg−Prime Kitを用いてVHおよびVLの遺伝子をPCRにて決定した。PCR条件は添付の説明書に従って行った。すなわち、94℃60秒、50℃60秒、72℃120秒で30サイクルPCRを行い、その後72℃5分で反応させ、VHおよびVLの遺伝子を増幅した。増幅したVHおよびVLのPCR産物をプラスミドPCR2.1−TOPO(Invitrogen)にライゲーションし、大腸菌(TOP10F’)に遺伝子導入した。遺伝子導入した大腸菌よりプラスミドを精製し、36b、94bのVHおよびVLの塩基配列を決定した。塩基配列の決定はBigDye Terminaor V3.1 cycle sequencing kit(ABI)を用いてPCRを行い、ABI 310 DNA sequencerにて解析した(36bのVL(配列番号5)、36bのVH(配列番号7)、94bのVL(配列番号15)、94bのVH(配列番号17))。
ラットハイブリドーマクローンCL5、CL10を1×10
7個にそれぞれ調整し、cDNA synthesis kit(Invitrogen)にてcDNAを合成した。次に、Ig−Prime KitおよびラットVH増幅用にデザインしたプライマー(caccatggagttacttttgag(配列番号52))を用い、VHおよびVLの遺伝子をPCRに増幅させた。増幅したVHおよびVLのPCR産物をプラスミドPCR2.1−TOPO(Invitrogen)にライゲーションし、大腸菌(TOP10F’)に遺伝子導入した。次に、大腸菌よりプラスミドを精製し、VHおよびVLの塩基配列を決定した。塩基配列の決定はBigDye Terminaor V3.1 cycle sequencing kit(ABI)を用いてPCRを行い、ABI 310 DNA sequencerにて解析した(CL5のVL(配列番号25)、CL5のVH(配列番号27)、CL10のVL(配列番号35)、CL10のVH(配列番号37))。
〔実施例2〕
組換えイムノトキシン(分子標的薬)の作製
[免疫グロブリン重鎖遺伝子可変領域(VH)にシステインの変異を導入]
抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体94bの免疫グロブリン重鎖遺伝子可変領域(VH、配列番号16)の63番目のアミノ酸グリシン(塩基配列ggc)をシステイン(塩基配列tgt)に変異させるようにデザインしたプライマーを作製し(センス:cagaggcctgaacattgtctggagtggattggaag(配列番号53)、アンチセンス:cttccaatccactccagacactgttcaggcctctg(配列番号54))、Quick change site−directed mutagenesis kit(Stratagene)を用いて実施例1で得た94bのVHを含むプラスミドpCR2.1−TOPO 94bVHに変異誘発処理を行った。このPCR反応は、反応液を95℃30秒、55℃60秒、68℃4分のサイクルを12回連続して行った。抗マウスFRβラットモノクローナル抗体CL10の免疫グロブリン重鎖遺伝子可変領域(VH、配列番号36)へのシステインコドンの導入も上記と同様の方法にてプライマーをデザインして行った(センス:gtccgccaggctccaacgaagtgtctggagtgg gtcgc(配列番号55)、アンチセンス:gcgacccactccagacacttcgttggagcctggcggac(配列番号56))。
次に、反応後のDNAを大腸菌XL1−Blueに遺伝子導入し、0.1mg/mLのアンピシリンを含むLB培地で選択培養した。選択した形質転換体のプラスミドをQIAprep spin Miniprep KIT(Qiagen)により精製した。さらに塩基配列をBig Dye Terminator v3.1 cycle sequencing kit(ABI)とABI310シーケンサーにて決定し、63番目のグリシンがシステイン(塩基配列tgt)に変異したことを確認した。
[pRK79PE38ベクターに変異を導入したVHを挿入]
次に、PE38遺伝子を含むpRK79ベクターpRK79PE38に、94bVHおよびCL10VHの変異を導入したVHの挿入を以下の方法にて行った。
変異を導入した94bの5’末端部と3’末端部のアニーリングプライマーとしてtaagaaggagatatacatatggaggttcagctgcagcagtc(配列番号57)とgccctcgggacctccggaagcttttgaggagactgtgagagtgg(配列番号58)を、CL10の5’末端部と3’末端部のアニーリングプライマーとしてatacatatggaggtgcagctggtggagtctggg(配列番号59)とtccggaagcttttgaggagacagtgactgaagc(配列番号60)をそれぞれデザインした。アニーリングプライマーにはそれぞれ制限酵素であるNdeIがあり、この部位でのクローニングにより、atgを開始コドンとしたタンパク質の発現が可能である。また、もう片方のアニーリングプライマーにはHindIII部位が挿入されており、この部位でのクローニングにより、VHとPE遺伝子が結合した融合タンパク質の発現が可能である。
これらのプライマーの組み合わせとpfu DNA polymerase(Stratagene)を使って変異を導入したpCR2.1−TOPO−94bVHおよびpCR2.1−TOPO−CL10VHプラスミドのPCRを行った。この反応は94℃20秒、55℃30秒、72℃60秒で30サイクルPCRを行い、その後72℃5分で反応させた。次に、PCR産物を精製し、精製産物に制限酵素NdeI(New England Biolabs)とHindIII(New England Biolabs)を加えて反応後、電気泳動に展開し、QIAquick gel extraction kit(Qiagen)を用いてゲルから目的の大きさのDNAを回収した。回収したDNAに、制限酵素処理した変異導入VHと同様の制限酵素で処理したpRK79PE38を添加し、さらにLigation High(Toyobo)を用いてVHとpRK79PE38のライゲーション反応を行った。ライゲーション反応終了、大腸菌TOP10F’(Invitrogen)に遺伝子導入し、0.1mg/mLのアンピシリンを含むLB培地にて形質転換体を選択した。選択した形質転換体のプラスミドpRK79−VHPEをQIAprep spin Miniprep KIT(Qiagen)により精製した。さらに塩基配列をBig Dye Terminator v3.1 cycle sequencing kit(ABI)とABI310シーケンサーにて塩基配列を決定した(抗ヒトFRβイムノトキシンVHPE(配列番号44)、抗マウスFRβイムノトキシンVHPE(配列番号46))。
[免疫グロブリン軽鎖遺伝子可変領域にシステイン変異を導入]
抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体94bの免疫グロブリン軽鎖遺伝子可変領域(VL、配列番号15)の125番目のアミノ酸をシステイン(塩基配列tgt)に変異させるようにデザインしたプライマーを作製した(センス:taagaaggagatatacatatggacattgtgatgtcacaatc(配列番号61)(このプライマーには制限酵素NdeI切断可能な塩基catatgを含むため、この部位でクローニングすることにより、atgを開始コドンとしたタンパク質の発現が可能である)アンチセンス:gctttgttagcagccgaattcctatttgatttccagcttggtgccacaaccgaacgt(配列番号62)(このプライマーは125番目のアミノ酸をシステイン(tgt)に変異させ、終始コドンtagに続いて制限酵素EcoRI切断可能な塩基gaattcが来るようにデザインしてある)。同様に抗マウスFRβラットモノクローナル抗体CL10の免疫グロブリン軽鎖遺伝子可変領域(VL、配列番号34)に相当する126番目のアミノ酸をシステイン(塩基配列tgt)に変異させるようにデザインしたプライマーを作製した(atacatatggacattgtgatgcccaatctccatcc(配列番号63)およびgctttgttagcagccgaattcctatttgatttccagcttggtgccacaaccgaacgt(配列番号62))。
これらのプライマーの組み合わせとpfu DNA polymerase(Stratagene)を使ってpCR2.1−TOPO−94bVLプラスミドのPCRを行った。この反応は94℃20秒、55℃30秒、72℃60秒で30サイクルPCRを行い、その後72℃5分で反応させた。次に、PCR産物を精製し、精製産物に制限酵素NdeI(New England Biolabs)とEcoRI(New England Biolabs)を加えて反応後、電気泳動に展開し、QIAquick gel extraction kit(Qiagen)を用いてゲルから目的の大きさのDNAを回収した。回収したDNAに、制限酵素処理した変異導入VLと同様の制限酵素で処理したpRK79PE38を添加し、さらにLigation High(Toyobo)を用いてVHとpRK79PE38のライゲーション反応を行った。ライゲーション反応終了、大腸菌TOP10F’(Invitrogen)に遺伝子導入し、0.1mg/mLのアンピシリンを含むLB培地にて形質転換体を選択した。選択した形質転換体のプラスミドpRK79−VLPEをQIAprep spin Miniprep KIT(Qiagen)により精製した。さらに塩基配列をBig Dye Terminator v3.1 cycle sequencing kit(ABI)とABI310シーケンサーにて決定し、変異導入VLの126アミノ酸がシステインに変異していることや、終始コドンtagが配置されていることを確認した(抗ヒトFRβイムノトキシンVL(配列番号45)、抗マウスFRβイムノトキシンVL(配列番号47))。
[リコンビナントタンパク質封入体の調製]
上記の変異導入VHを組み込んだプラスミドpRK79−94bVHPE、pRK79−CL10VHPE、変異導入VLを組み込んだプラスミドpRK79−VL94b、pRK79−VLCL10を50ng調製し、タンパク質発現用大腸菌BL21(DE3)に遺伝子導入した。遺伝子が導入された大腸菌の選抜は0.1mg/mLのアンピシリンを含むLB培地にて37℃15〜18時間の培養で行った。
選択終了後の大腸菌は1000mLのスーパーブロース培地で37℃の条件で培養し、可視吸光度600nmで1.0〜1.5に到達するまで培養した。培養後、IPTG(isopropyl−beta−D−thio−galactopyranoside)を終濃度1mMになるように培地に添加し、さらに90分間37℃で培養した。培養終了後、遠心分離にて大腸菌を回収後、50mM トリス緩衝液(pH7.4、20mM EDTAを含む)を用いて200mLとなるまで懸濁した。懸濁後、卵白リゾチームを最終濃度0.2mg/mLとなるように加え、室温で1時間反応させて大腸菌の破壊を行った。破壊後、20,000×gで遠心分離を行い、沈殿を回収した。沈殿物はさらに50mM トリス緩衝液(pH7.4、2.5%のTritonX−100、0.5M NaCl、20mM EDTAを含む)で200mLとなるまで懸濁し、卵白リゾチームを最終濃度0.2mg/mLとなるように加え、室温で1時間反応させた。反応終了後、20,000×gで遠心分離を行い、沈殿を回収した。沈殿はさらに50mM トリス緩衝液(pH7.4、2.5%のTritonX−100、0.5M NaCl、20mM EDTAを含む)で200mLとなるまで懸濁し、十分混和させた後、20,000×gで遠心分離を行い、沈殿を回収した。この操作を5回繰り返した後の沈殿物をリコンビナントイムノトキシン封入体とし、さらに0.1M トリス緩衝液(pH8.0、6M グアニジン塩酸塩、1mM EDTAを含む)で溶解させ、最終濃度10mg/mLとなるように調節した。
[可溶化したVHPEとVLのカップリングとリフォールディング、精製]
上記で調製した94b−VHPEと94b−VL、CL10−VHPEとCL10−VLを混和し、リコンビナント二重鎖Fv抗FRβイムノトキシンを作製した。
まず、0.5mLのVHPE、0.25mLのVLを混和し、ジチオトレイトール(DTT)を最終濃度10mg/mLとなるように加え、室温で4時間の還元処理を行った。処理後、75mLの0.1M トリス緩衝液(pH8.0、0.5M アルギニン、0.9mM 酸化型グルタチオン、2mM EDTAを含む)に溶解させた。この溶液を10℃で40時間放置することによって、VHとVLを結合させた。結合終了後、分子量10,000カットの遠心濃縮器(Centricon 10、Amicon)で5mLまで濃縮し、さらに50mLのトリス緩衝液(pH7.4、0.1M 尿素、1mM EDTAを含む)で希釈した。この希釈液をリコンビナントイムノトキシン精製の出発物質とした。
次に、トリス緩衝液(pH7.4、1mM EDTAを含む)で平衡化したイオン交換カラムHi−Trap Q(GE)に、30mL/時間の流速で、上記出発物質を吸着させた後、トリス緩衝液(pH7.4、1mM EDTAを含む)で洗浄した。洗浄後、吸着したリコンビナントタイプイムノトキシンの溶出をトリス緩衝液(pH7.4、0.3M NaCl、1mM EDTAを含む)で行った。溶出サンプルはトリス緩衝液(pH7.4、1mM EDTAを含む)で透析した後、イオン交換カラムPOROS HQ(POROS)でさらに精製した。すなわち、透析した精製物質を10mL/分の流速で吸着させ、トリス緩衝液(pH7.4、1mM EDTAを含む)で洗浄後、上記緩衝液に0Mから1.0MのNaCl勾配を設定することにより、リコンビナントタイプイムノトキシンの溶出を行った。精製リコンビナントタイプイムノトキシンの最終調製はTSK300SW(Tosoh)ゲル濾過クロマトグラフィーにて行った。まず、75%の消毒用エタノールで48時間洗浄することによってTSK300SWカラム中のエンドトキシン除去を行った。次に日本薬局方注射用蒸留水で洗浄し、その後日本薬局方生理食塩水でTSK300SWカラムの平衡化を行った。平衡化終了後、リコンビナントタイプイムノトキシンを投与し、流速0.25mL/分でカラムからの溶出液を採取した。採取後、0.22μmの濾過滅菌機で処理し、純度をSDS−PAGEにて確認後、−80℃で保存した。
[SDS−PAGEによる純度検定]
SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムを含むポリアクリルアミドゲル電気泳動)は0.1%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む12%ポリアクリルアミドの平板ゲルを用い、移動相には終濃度0.1%のSDS、130mM グリシン、25mM トリスを含む水溶液を用いた。各サンプルは終濃度0.1%のSDSを含む100mM トリス緩衝液pH6.5で調整し、5分間の煮沸処理を行った。煮沸終了後、平板ゲルにサンプルを投与し、30mAの定電流で電気泳動を展開させた。展開後、0.05%のクマシーブリリアントブルーR溶液(ナカライテスク)でリコンビナントタイプイムノトキシンの染色を行った。
〔実施例3〕
ヒト膵臓癌組織における各種マクロファージの発現
CD68発現マクロファージ(浸潤性マクロファージ)は膵臓癌内部ならびに先進部全体に認められるが、CD163発現マクロファージは比較的腫瘍先進部にFRβマクロファージは腫瘍先進部に一致して発現し(
図3)、FRβ(+)マクロファージはCD68も共発現していることが明らかになった(
図4)。しかしながら、膵癌に浸潤しているFRβ陽性マクロファージの数はCD68陽性マクロファージの数より有意に少ないことが判明した(
図5)。
〔実施例4〕
抗マウスFRβラットモノクローナル抗体による膵臓癌先進部でのFRβマクロファージの検出
ヒト膵癌細胞(Capan−1株)のヌードマウス移植腫瘍をマウスFRβ抗体で染色し比較検討した。移植腫瘍の中心部(
図6A,6C)と辺縁部(
図6B,6D)の比較から、FRβ(+)マクロファージはヌードマウスでも発現しており、腫瘍先進部に分布していることが判明した。
〔実施例5〕
ヒト膵臓癌におけるFRβ(+)マクロファージの検出と転移との関連性
ヒト膵臓癌の手術症例(n=76)によるFRβ(+)マクロファージの発現とリンパ行性転移および血行性転移について検討した結果、FRβ(+)マクロファージのFRβ発現はリンパ行性ならびに血行性転移と強い相関を示した(表1)。その理由として、FRβ(+)マクロファージは腫瘍先進部の腫瘍新生血管の周囲に分布していることが明らかとなった(
図7A,B,C)。また、FRβ(+)マクロファージのFRβ高発現と腫瘍新生血管の高密度との関連性が認められた(
図8)。さらに、FRβ(+)マクロファージのFRβ高発現グループでは血行性転移が高率に起こることが明らかとなった(
図9)。
【表1】
〔実施例6〕
ヒト膵臓癌におけるFRβ(+)マクロファージの発現と生存期間との関連性
ヒト膵臓癌の手術症例(n=76)を用いてFRβ(+)マクロファージの発現と生存期間について検討した。CD68陽性マクロファージでは両者間に有意の差は認めなかったが(
図10A)、FRβ(+)マクロファージの発現では生存期間が有意に低下した(
図10B)。すなわち、FRβ(+)マクロファージの発現症例では転移・再発が高率であること、FRβ(+)マクロファージの発現は血行性転移との関連性が高いこと(実施例5)からも膵臓癌の進展(浸潤及び転移)を促進する役割を担っていることが強く示唆された。
〔実施例7〕
組換えイムノトキシンの浸潤性膵臓癌の増殖抑制
ヌードマウス移植ヒト膵臓癌(Capan−1 M9株)に対する組換えイムノトキシンの増殖抑制を検討した。実験デザインは
図11に示す。10μgの組換えイムノトキシンdsFv anti−FRβ−PE38を毎日マウスの腫瘍内に注射し、膵臓腺癌M9の増殖に対するdsFv anti−FRβ−PE38の効果を観察した。値は、各グループの腫瘍体積の平均±SEMである。VH−PE38グループとの比較にける危険率pは0.003であった。
その結果、組換えイムノトキシン(dsFv anti−FRβ−PE38)グループの腫瘍増殖が、コントロール(saline,VH−PE38)グループに比較して有意に抑制された(p=0.003)(
図12)。しかしながら、マウスの体重変化はこれら3つのグループで差が見られなかった(
図13)。すなわち、組換えイムノトキシンの毒性(副作用)が見られなかったことは、本薬剤がマウスFRβ(+)マクロファージのみを選択的に抑制したことを意味する。
〔実施例8〕
ヒト正常膵組織におけるCD68発現マクロファージとFRβ発現マクロファージの検出を試みた結果、CD68発現マクロファージの発現は認められたが(
図14A)、FRβ発現マクロファージは有意な差をもってほとんど認められなかった(
図14B,14C)。
〔実施例9〕
蛍光免疫染色でヒト膵癌組織におけるCD68(+)マクロファージとFRβ(+)マクロファージとの分布を検索した。CD68(+)マクロファージは癌先進部(border line)より癌組織の中心部に向けて広く分布しているが(
図15A,赤色がCD68(+)マクロファージ)、FRβ(+)マクロファージは癌先進部周辺にのみ分布が見られた(
図15A,緑色がFRβ(+)マクロファージ)。さらに、ヒト膵癌組織におけるCD68(+)マクロファージとFRβ(+)マクロファージとの分布を、膵癌の先進部と中心部とで比較検討した。CD68マクロファージは癌先進部と中心部にほぼ同等に分布しているが、FRβ(+)マクロファージは癌先進部周辺にのみ有意に多い分布が認められた(
図15B,15C)。
〔実施例10〕
ヒト膵癌組織におけるCD68(+)マクロファージとFRβ(+)マクロファージにおけるCD68及びFRβの発現の高低と、腫瘍微小血管の数量および膵癌患者での血行性転移との比較を解析した。CD68(+)マクロファージのCD68発現が低いグループと高いグループとの比較では、腫瘍微小血管の数量及び血行性転移で有意の差が見られなかった。一方、FRβ(+)マクロファージでは、腫瘍微小血管の数量及び血行性転移で有意の差が認められた(
図16)。
〔実施例11〕
ヒト膵癌組織におけるCD68(+)マクロファージとFRβ(+)マクロファージの血管新生因子(VEGF)の発現を解析した。FRβ(+)マクロファージはVEGFを高発現しているが(
図17A)、CD68マクロファージは低発現を示した(
図17B)。数量化した結果、FRβ(+)マクロファージが有意に高いVEGF発現を示した(
図17C)。すなわち、FRβ(+)マクロファージは血管新生因子(VEGF)を高発現することで、腫瘍微小血管の高い数量、高率の血行性転移に強く関連している。
〔実施例12〕
タイプ別浸潤性マクロファージの数量の比較と、各種マクロファージ別にみた膵癌患者の生存曲線を検討した。タイプ別では、CD68(+)マクロファージ,CD163(+)マクロファージ,FRβ(+)マクロファージの順に数が少ないことが判明した(
図18A)。膵癌患者の生存曲線の比較では、CD68(+)マクロファージでは有意差が無く(
図18B(この図は
図10Aと同じである。)),CD163(+)マクロファージで有意の差が見られたが(
図18C),FRβマクロファージで最も有意な差が認められ、膵癌患者でFRβ(+)マクロファージが多くみられると予後不良であることを示している(
図18D(この図は
図10Bと同じである。))。これらの結果は、FRβ(+)マクロファージが血管新生因子の高発現などを示すことで膵癌の進展(浸潤・転移)に寄与していることを示している。