(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881087
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】半導体印字検査方法及びプログラム並びにその装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/956 20060101AFI20160225BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
G01N21/956 A
G06T1/00 305D
G06T1/00 305A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-517703(P2013-517703)
(86)(22)【出願日】2011年6月3日
(86)【国際出願番号】JP2011003162
(87)【国際公開番号】WO2012164631
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2014年5月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】591048070
【氏名又は名称】上野精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘平
(72)【発明者】
【氏名】白石 一成
【審査官】
小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−167639(JP,A)
【文献】
特開2010−091360(JP,A)
【文献】
特開2005−265661(JP,A)
【文献】
特開平05−340733(JP,A)
【文献】
特開平11−096337(JP,A)
【文献】
特開平10−040380(JP,A)
【文献】
特開2008−089379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84 − G01N 21/958
G06T 1/00 − G06T 9/40
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子の表面に刻印された印字を検査する半導体印字検査方法において、
印字検査の実施前に、
良、不良問わず複数の半導体素子から前記印字の画像を取得する印字画像取得ステップと、
前記印字画像取得ステップにて取得した複数の印字画像の平均化処理又は標準偏差処理を行って複数の印字画像から仮想的な印字であるモデル印字を作成するモデル印字作成ステップと、
前記モデル印字作成ステップにて作成した前記モデル印字を原本画像として登録するモデル印字登録ステップと、を行い、
印字検査時において、
印字画像取得ステップにて取得した印字の画像データとモデル印字登録ステップにて登録された前記モデル印字の画像データとを比較することにより検査対象となる各検査印字の判定用データを算出する判定用データ算出ステップと、
各検査印字における判定用データに基づいて当該検査印字の良・不良を判定する印字判定ステップ、を含むことを特徴とする半導体印字検査方法。
【請求項2】
前記印字画像取得ステップでは、半導体素子を保持するターンテーブル一周分の印字画像を取得することを特徴とする請求項1に記載の半導体印字検査方法。
【請求項3】
前記印字画像取得ステップにて取得した印字画像について、予め決められた位置に印字位置を揃える印字位置補正ステップを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体印字検査方法。
【請求項4】
前記判定用データ算出ステップでは、判定用データとして、前記モデル印字と前記検査印字との同一位置における画素輝度の類似度得点、前記モデル印字に対する前記検査印字の差分面積、前記モデル印字の印字範囲の外部に位置する変色部分の面積、及び前記モデル印字に対する前記検査印字の位置ズレ量のうち、すくなくとも1つを算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体印字検査方法。
【請求項5】
前記印字画像取得ステップからモデル印字登録ステップが完了するまでは、搬送ラインから不良品である半導体素子の排出を禁止し、実際の印字検査の開始した後に搬送ラインからの不良品である半導体素子の排出を再開する不良品排出制御ステップを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体印字検査方法。
【請求項6】
前記印字の画像を保存する印字画像保存ステップを含み、
前記モデル印字作成ステップでは、前記印字画像保存ステップにて保存した印字画像を用いてモデル印字を作成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体印字検査方法。
【請求項7】
半導体素子の表面に刻印された印字の検査をコンピュータに実現させる半導体印字検査用プログラムにおいて、
コンピュータを利用することにより、
良、不良問わず複数の半導体素子から前記印字の画像を取得する印字画像取得機能と、
前記印字画像取得機能にて取得した複数の印字画像の平均化処理又は標準偏差処理を行って複数の印字画像から仮想的な印字であるモデル印字を作成するモデル印字作成機能と、
前記モデル印字作成機能にて作成した前記モデル印字を原本画像として登録するモデル印字登録機能と、
印字画像取得機能にて取得した印字の画像データとモデル印字登録機能にて登録された前記モデル印字の画像データとを比較することにより検査対象である検査印字の判定用データを算出する判定用データ算出機能と、
各検査印字における判定用データに基づいて当該検査印字の良・不良を判定する印字判定機能、をコンピュータに実現させることを特徴とする半導体印字検査用プログラム。
【請求項8】
半導体素子の表面に刻印された印字を検査する半導体印字検査装置において、
良、不良問わず複数の半導体素子から前記印字の画像を取得する印字画像取得手段と、
前記印字画像取得手段の取得した複数の印字画像の平均化処理又は標準偏差処理を行って複数の印字画像から仮想的な印字であるモデル印字を作成するモデル印字作成手段と、
前記モデル印字作成手段の作成した前記モデル印字を原本画像として登録するモデル印字登録手段と、
印字画像取得手段が取得した印字の画像データとモデル印字登録手段が登録した前記モデル印字の画像データとを比較することにより検査対象となる各検査印字の判定用データを算出する判定用データ算出手段と、
各検査印字における判定用データに基づいて当該検査印字の良・不良を判定する印字判定手段、を備えたことを特徴とする半導体印字検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の表面にレーザー等により刻印された印字の良・不良を判定する半導体印字検査方法及びプログラム並びにその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体製造装置には、半導体素子表面に印字を刻印する処理部として、マーキングユニットが設けられている。マーキングユニットではレーザー等によって型式や製品番号等の印字を刻印するので、半導体素子の姿勢やレーザーの出射角度にバラツキがあると、それに応じて、印字の形状や位置がずれてしまう。そのため従来から、印字の形状や位置など印字の外観を検査して、刻印された印字の良又は不良を判定する印字検査が実施されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
半導体素子の小形化が進む近年では、刻印される印字のサイズも微小化している。印字のサイズが小さい場合、印字の外観は半導体素子の姿勢やレーザーの出射角度のバラツキによる影響を受け易い。したがって、印字検査技術は困難度を増す状況にある。このため、検査の精度や効率に優れた印字検査技術が求められている。
【0004】
ここで、従来の半導体印字検査装置について、
図3及び
図4を参照して具体的に説明する。
図3は半導体製造装置の模式的な平面図、
図4は半導体印字検査装置を説明するための概念図である。半導体パッケージ上に刻印される印字は通常、複数の文字列からなるが、
図4では簡略化して「A」一文字だけで表すことにする。
【0005】
[半導体製造装置の概要]
まず、半導体製造装置の概要について
図3を用いて説明する。
図3に示すように、半導体製造装置には半導体パッケージ1を円周方向に搬送するターンテーブル11が設けられている。ターンテーブル11の外周に近接して、レーザーにより半導体パッケージ1上に印字を刻印するマーキングユニット2が配置されている。
【0006】
また、ターンテーブル11の外周にはマーキングユニット2に隣接して、印字検査ユニット3が配置されている。この印字検査ユニット3は、マーキングユニット2にて半導体パッケージ1上に刻印された印字の良又は不良を判定する半導体印字検査装置である。ターンテーブル11の外周には、これらのユニット2、3の他にも、通電性能の検査処理部等、半導体パッケージ1に対する処理ユニットが複数配置されるが、ここでは図示を省略する。
【0007】
[印字検査ユニットの構成]
図4に示すように、印字検査ユニット3には、印字画像取得部30と、原本画像登録部31とが設けられている。印字画像取得部30は、カメラ等を介して各半導体パッケージ1上の印字画像を取得する部分である。また、原本画像登録部31は、マーキングユニット2の刻印した印字の中から検査担当者が選んだ印字の画像を、原本画像として所定の記憶領域に登録する部分である。以下では、検査対象となる印字を検査印字と呼び、検査印字の画像を検査画像と呼ぶ。また、原本画像及び検査画像における画像データには、印字の面積や範囲、半導体パッケージ1上での印字位置などの情報が含まれる。
【0008】
印字画像取得部30及び原本画像登録部31には、判定用データ算出部32が接続され、さらに判定用データ算出部32には印字判定部33が接続されている。判定用データ算出部32は、検査印字についての判定用データ(具体例は後述する)を算出する部分である。判定用データとは、検査印字の判定材料となるデータであって、印字画像取得部30の取得した印字の画像データと、原本画像登録部31に登録された原本画像の画像データとを比較することにより算出される。印字判定部33は、前記判定用データに対して判定基準となる閾値を持ち、この閾値に、各検査印字における判定用データを照らし合わせて、当該検査印字の良・不良を判定する部分である。
【0009】
[印字検査の前処理]
実際の印字検査作業を開始する前に、次のような前処理を実施する。まず、検査担当者は、マーキングユニット2の刻印した印字の中から、原本画像となる印字を1つ選び出す。原本画像となる印字とは、良・不良の基準となる印字として適切であると検査担当者が考えた印字である。原本画像登録部31は、実際の印字検査の前に、検査担当者の選んだ原本画像を登録する。
【0010】
また、判定用データ算出部32は、判定用データの算出は実際の印字検査作業時に行うが、その準備として、原本画像登録部31に登録した原本画像の画像データを所定の作業領域に読み込んでおく。さらに、印字判定部33には、判定用データ算出部32の算出した判定用データに対応する閾値を、予め設定しておく。なお、原本画像登録部31が検査担当者の選んだ原本画像を登録し、判定用データ算出部32が原本画像の画像データを所定の作業領域に読み込んだ後は、印字画像取得部30は、取得した印字画像を、原本画像登録部31を経由することなく、判定用データ算出部32に送付する。
【0011】
[印字検査]
実際の印字検査では、まず、半導体パッケージ1上に刻印された各検査印字の画像を、印字画像取得部30が取得する。続いて、判定用データ算出部32が、印字画像取得部30の取得した検査印字の画像データを取り込み、この画像データと、予め読み込んである原本画像の画像データとを用いて、各検査印字における判定用データを算出する。
【0012】
具体的な判定用データとしては、原本画像に対する検査画像の差分面積や、原本画像に対する検査画像の位置のズレ量(X軸方向、Y軸方向、回転角度θ)等がある。また、相関マッチング(濃淡マッチング)という手法では、原本画像及び検査画像における同一位置での画素輝度の類似度が得点化して判定用データとしている。つまり、類似度得点とは、原本画像の画素輝度に対する検査画像の画素輝度の類似性を0〜100(%)に得点化したものである。
【0013】
印字判定部33は、前記判定用データに対応する閾値を有しているので、これに検査印字の判定用データを照らし合わせて、当該検査印字の良・不良を判定する。例えば、類似度得点の閾値を50(%)とした場合、印字判定部32は、類似度得点が50(%)を上回っていれば検査印字を良品印字と判定し、類似度得点が50(%)を下回った場合は検査印字を不良印字と判定する。
【0014】
以上のような印字判定部33では、原本画像となった印字に似た検査印字を良品印字として判定することができる。このため、良品印字と判定された印字の形状や位置は、原本画像との相違点が少なく、良品印字は均一化している。したがって、安定した印字検査精度を確保することができる。
【0015】
図4では、印字判定部33にて、不良印字と判定された例を4つ、良品印字と判定された例を3つ示している。
図4に示した印字不良の例では、左側から順番に、「印字がかすれて差分面積が大きい」、「同一位置の各画素の輝度に関する類似度得点が低い」、「印字位置がずれている」、「印字を構成する線が細い」といった理由で、検査印字が印字不良と判定されている。印字判定部33によって印字不良であると判定された半導体パッケージ1は、不良品としてターンテーブル11の搬送ラインから排出され、自動的に破棄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許公開2007−184658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
既に述べたように、半導体素子の姿勢等にバラツキがあるので、半導体素子に刻印される印字にバラツキが出ることは止むを得ない。従来の印字検査技術では、バラツキのある印字の中から、検査担当者が原本画像として1つの印字を選択するので、検査担当者が選択した原本画像のバラツキが、印字の良・不良判定を大きく左右することは否めない。つまり、あくまでも検査担当者の選択した印字が、良・不良判定の基礎となるため、検査担当者の選ぶ原本画像によって、良・不良の判定率が変化することになり、歩留まりが変動する可能性があった。
【0018】
そこで従来では、所望の歩留まりを確保するために、検査担当者による原本画像の選択作業や判定基準となる閾値の設定作業などが重要であり、前記の作業を含めた印字検査の調整作業が不可欠となっている。しかし、印字検査の調整作業の過程では、調整不十分による不良判定という理由で、数十〜数百個の半導体素子を破棄せざるを得ない。したがって、歩留まりの低下を招いていた。しかも、印字検査の調整作業は検査担当者が行うため、検査担当者が変われば選択する印字が異なることがあり、検査担当者の主観的な判断が歩留まりに大きな影響を与えていた。
【0019】
本発明は、上記の課題を解消するために提案されたものであり、その目的は、複数の印字画像からバラツキの中央に位置するような原本画像を作成することにより、高品質な印字検査を安定して行うことができ、歩留まりの向上に寄与する半導体印字検査方法及びプログラム並びにその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するために、本発明は、半導体素子の表面に刻印された印字を検査する半導体印字検査方法において、印字検査の実施前に、
良、不良問わず複数の半導体素子から前記印字の画像を取得する印字画像取得ステップと、前記印字画像取得ステップにて取得した複数の印字画像の平均化処理又は標準偏差処理を行って複数の印字画像から仮想的な印字であるモデル印字を作成するモデル印字作成ステップと、前記モデル印字作成ステップにて作成した前記モデル印字を原本画像として登録するモデル印字登録ステップ、を行い、印字検査時において、印字画像取得ステップにて取得した印字の画像データとモデル印字登録ステップにて登録された前記モデル印字の画像データとを比較することにより検査対象となる各検査印字の判定用データを算出する判定用データ算出ステップと、各検査印字における判定用データに基づいて当該検査印字の良・不良を判定する印字判定ステップ、を含むことを特徴とするものである。なお、本発明は、前記の印字検査方法を実現する半導体印字検査装置あるいは半導体印字検査用プログラムとしても捉えることが可能である。
【0021】
以上のような本発明では、複数の印字画像に対し平均化処理又は標準偏差処理を行うことで、各印字画像の持つバラツキを打ち消したモデル印字を作成し、これを原本画像としている。バラツキの少ないモデル印字に対しては、これと近似する検査印字が多数存在することになり、不良品が減って歩留まりが向上する。
【0022】
また、本発明においては、歩留まりが高いため、モデル印字の画像を原本画像とするだけで調整作業は不要となる。したがって、調整不十分による不良判定という理由で半導体素子を破棄することがなく、これにより、さらに歩留まりが向上する。しかも、原本画像の決定に際して、検査担当者の主観が入り込む余地がない。したがって、検査担当者ごとに歩留まりが変動するといった不具合も抑止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る半導体印字検査方法及びプログラム並びにその装置によれば、平均化処理又は標準偏差処理を行ったモデル印字を原本画像として印字の良又は不良を判定することで、印字検査時の歩留まりを大幅に向上させ、且つ歩留まりの安定化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(1)代表的な実施形態
以下、本発明に係る代表的な実施形態について、
図1、
図2を参照して具体的に説明する。
図1は本実施形態の概念図、
図2は本実施形態のフローチャートである。また、
図3、
図4に示した従来例と同一の部材に関しては同一符号を付して説明は省略する。
【0026】
[構成]
図1に示すように、本実施形態に係る印字検査ユニット3は、印字画像取得部30と、位置補正部34と、モデル印字作成部35と、モデル印字登録部36と、判定用データ算出部37と、印字判定部38と、不良品排出制御部39とから構成されている。このうち、印字画像取得部30は、実際の印字検査作業を開始する前に、ターンテーブル11一周分(十数から数十個)の印字画像を取得して、位置補正部34に画像データを送るようになっている。
【0027】
位置補正部34は、実際の印字検査作業を開始する前に、印字画像取得部30の取得した各印字画像について、印字位置を位置補正して印字位置を揃える処理を行う部分である。位置補正部34により印字位置を揃えることで、モデル印字作成部35による画像の平均化処理あるいは標準偏差処理をスムーズに実施することが可能となる。
【0028】
モデル印字作成部35は、本実施形態の主要部であって、位置補正部34が印字位置を揃えた複数の印字画像に対し、画像の平均化処理あるいは標準偏差処理を行うことによって、実際に刻印された印字ではなく、仮想的な印字であるモデル印字を作成する部分である。
【0029】
画像の平均化処理とは、画像における同一位置の画素の輝度を全て足しこんで平均化する処理である。また、標準偏差処理とは、標準偏差により画像の中心領域のみを強調する処理である。モデル印字作成部35によるモデル印字の作成は、印字検査の実施前に行う。
【0030】
モデル印字登録部36は、モデル印字作成部35が作成したモデル印字を原本画像として登録する部分である。モデル印字登録部36において登録された原本画像のデータには、モデル印字の印字面積や印字範囲、半導体パッケージ1上でのモデル印字の印字位置などの情報が含まれる。モデル印字登録部36による登録についても印字検査の実施前に行う。
【0031】
つまり、本実施形態では、実際の印字検査を実施する前に、印字画像取得部30による印字画像取得ステップと、位置補正部34による位置補正ステップと、モデル印字作成部35によるモデル印字作成ステップと、モデル印字登録部36によるモデル印字登録ステップを行っている。
【0032】
判定用データ算出部37は、従来と同じく、検査印字についての判定用データを算出する部分である。判定用データ算出部37は、判定用データの算出は実際の印字検査作業時に行うが、その準備としてモデル印字登録部36に登録されたモデル印字の画像データを所定の作業領域に読み込んでおく。なお、モデル印字登録部36がモデル印字作成部35の作成したモデル印字を原本画像として登録し、判定用データ算出部37がモデル印字の画像データを所定の作業領域に読み込んだ後は、印字画像取得部30は、取得した印字画像を、位置補正部34及びモデル印字作成部35を経由することなく、判定用データ算出部37に送付する。
【0033】
そして、判定用データ算出部37は、実際の印字検査を実施する際、印字画像取得部30の取得した検査印字の画像データと、モデル印字登録部36に登録されたモデル印字の画像データとを比較することにより、1つの検査印字につき、次の4つの判定用データを算出する。判定用データとしては、相関マッチング(濃淡マッチング)手法における類似度得点、モデル印字及び検査印字間の差分面積や、モデル印字に対する検査印字の位置のズレ量(X軸方向、Y軸方向)、モデル印字の範囲外領域での変色部分の有無を、算出する。なお、変色部分の有無に関しては、変色部分の面積を計測するようにしても良い。
【0034】
印字判定部38では、前記判定用データに対して判定基準となる閾値を持ち、この閾値に、各検査印字における判定用データを照らし合わせて、当該検査印字の良・不良を判定する部分である。より詳しくは、印字判定部38は、前記4つの判定用データについて順次検査印字の良・不良判定を行い、全ての判定用データにわたって、それに対応する閾値を満たしている場合にのみ、その検査印字を良品印字として判定するようになっている。
【0035】
印字判定部38において、上記判定用データにおける判定基準となる閾値は、類似度得点では50(%)、モデル印字と検査印字との差分面積では±30%、検査印字の位置のズレ量ではX軸方向、Y軸方向について±100μm以内、変色部分の有無とする。なお、判定用データ算出部37にて変色部分の面積を計測した場合は、印字判定部38に基準となる変色面積を設定する。ただし、これらの値は検査担当者が適宜調整可能であることは言うまでもない。
【0036】
前述したように、本実施形態では、モデル印字を作成するための印字画像を、ターンテーブル11一周分(十数から数十個)取得している。したがって、画像取得過程で、不良品となった半導体パッケージ1を搬送ラインから排出してしまうと、歩留まりに対する影響が大きい。そこで、本実施形態においては、不良品排出制御部39が、前記印字画像取得からモデル印字の登録が完了するまでは、搬送ラインからの不良品排出を禁止し、実際の印字検査の開始後に搬送ラインからの不良品排出を再開するようになっている。
【0037】
[作用]
続いて、本実施形態による印字検査処理の一例について、
図2のフローチャートを用いて具体的に説明する。
(A)実際の印字検査処理開始前
本実施形態では、実際の印字検査処理を開始する前に、モデル印字の不良品排出制御部39は、搬送ラインを制御して不良品の非排出となり、搬送ラインからの不良品排出を禁止する(不良品排出制御による不良品の非排出ステップ、ST101)。
【0038】
したがって、ターンテーブル11は半導体パッケージ1を保持したまま、これを排出すること無く搬送する。この状態で印字画像取得部33が、ターンテーブル11の保持する1周分全ての半導体パッケージ1の印字画像を取得する(印字画像取得ステップ、ST102)。
【0039】
次に、位置補正部34が、印字画像取得部30の取得した印字画像について、印字位置を揃え(印字位置補正ステップ、ST103)、印字位置を揃えた複数の印字画像に対し、モデル印字作成部35が画像の平均化処理あるいは標準偏差処理を施してモデル印字を作成する(モデル印字作成ステップ、ST104)。さらに、モデル印字登録部36がモデル印字を原本画像として登録する(モデル印字登録ステップ、ST105)。
【0040】
(B)実際の印字検査
以上のようにして、印字画像取得部30による印字画像取得ステップと、位置補正部34による位置補正ステップと、モデル印字作成部35によるモデル印字作成ステップと、モデル印字登録部36によるモデル印字登録ステップを行った後、実際の印字検査処理を開始する。このとき、不良品排出制御部39は、搬送ラインからの不良品排出を再開し、ターンテーブル11は通常搬送となる(不良品排出制御による通常搬送ステップ、ST106)。
【0041】
続いて、判定用データ算出部37が、1つ1つの検査印字について、それぞれ、モデル印字に対する類似度得点、差分面積、変色部分、位置ズレ量を順次計算し(判定用データ算出ステップ、ST107)、印字判定部38は、それぞれの判定用データについて、検査印字の良又は不良を判定する(印字判定ステップ、ST108〜ST113)。
【0042】
印字判定ステップでは、まず、印字判定部38は、モデル印字に対する検査印字の類似度得点が50%以上であれば(ST108のYes)、ステップST109に移行する。一方、モデル印字に対する検査印字の類似度得点が50%以上に達することがなければ(ST108のNo)、印字判定部38は当該検査印字を不良印字と判定する(ステップST113)。
【0043】
ステップST109では、印字判定部38は、個々の検査印字における差分面積を判定し、モデル印字に対する差分面積が±30%以内であれば(ST109のYes)、ステップST110に移行する。また、モデル印字との差分面積が±30%を超えた場合には(ST109のNo)、印字判定部38は、検査印字に、かすれやはみ出しがある、あるいは、線の太さに違いがあるとして、当該検査印字を不良印字と判定する(ステップST113)。
【0044】
次にステップST110において、印字判定部38は、モデル印字の範囲外領域での変色部分が存在しないと判定すれば(ST110のYes)、ステップST111に移る。一方、印字判定部38は、モデル印字の範囲外領域での変色部分が存在すると判定すれば(ST110のNo)、検査印字を刻印した半導体パッケージ1の表面に汚れや傷があるとして、当該検査印字を不良印字と判定する(ST113)。
【0045】
ステップST111では、印字判定部38は、モデル印字に対する個々の検査印字の位置ズレ量(X、Y)が±100μm以内であると判定すれば(ST111のYes)、当該検査印字を良品印字と判定する(ST112)。また、印字判定部38がモデル印字に対する検査印字の位置ズレ量(X、Y)が±100μmを超えると判定すれば(ST111のNo)、当該検査印字を不良印字と判定する(ST113)。
【0046】
以上述べたように、印字判定部38は、個々の検査印字について、類似度得点、差分面積、変色面積、位置ズレ量の判定用データが、所定の閾値を全てクリアして初めて、良品印字として判定する。また、印字判定部38が印字不良であると判定した半導体パッケージ1については、通常搬送になったターンテーブル11が搬送ラインからこれを排出する(不良品排出制御による不良品排出ステップ、ST114)。
【0047】
[効果]
上述した本実施形態によれば、複数の印字画像からモデル印字を作成し、これを印字検査時の基準となる原本画像として用いている。モデル印字は、平均化処理又は標準偏差処理を行っている。そのため、マーキングされた印字ごとのバラツキ部分を打ち消した画像データとなる。したがって、多数の検査印字がモデル印字と類似することができ、個々の検査担当者がそれぞれ任意に選択した単一の印字を原本画像とした場合と比べて、良品印字として判定される半導体パッケージ1が増大して、歩留まりが向上する。
【0048】
例えば、
図1では2つの印字不良の例を示している。これらの印字が不良と判定された理由については、左端部の印字から順番に、印字がかすれている、印字位置がずれているという点である。これらの印字が不良印字であるという判定は、どのような検査担当者であっても十分に納得できるものである。
【0049】
これに対し、
図4の従来例では印字不良とされていた他の2つの印字、すなわち「類似度得点が低い」印字や、「印字を構成する線が細い」印字については、別の検査担当者が別の印字を原本画像として選択していれば、印字不良にはならない可能性もあった。
【0050】
つまり、従来技術において、「類似度得点が低い」印字や、「線が細い」印字が印字不良として判定されたケースは、これらの印字の画像データが、たまたま原本画像の画像データと異なったからであって、良品印字として判定しても問題がないことがある。
【0051】
このような従来技術に対し、本実施形態では、平均化処理又は標準偏差処理を施したモデル印字を作成し、それを原本画像としたことで、モデル印字は、多くの検査印字に近似することが可能となる。すなわち、画像データの全体的な分布から見て、原本画像であるモデル印字に近似する印字が多数存在することになる。その結果、検査印字は良品印字として判定され易くなり、不良品が低減して、歩留まりが向上する。
【0052】
さらに、個々の検査担当者の主観的な判断で、印字検査の判定基準となる原本画像を決めていないので、検査担当者による印字選択の個人差を解消することができる。したがって、検査担当者ごとに歩留まりが変動することがなく、歩留まりの安定化を図ることができた。
【0053】
また、従来では、印字検査調整中の検査印字に関しては、全て印字検査調整が不十分であるという理由で不良印字の判定がなされていたので、相当数の半導体パッケージが破棄されており、歩留まりを低下させる要因となっていた。そこで本実施形態では、印字画像取得部33による印字画像取得から、モデル印字作成部35によるモデル印字の作成完了までは、不良品排出制御部39が不良品の排出を禁止している。
【0054】
これにより、印字検査における判定の準備が十分に整うまでは、ターンテーブル11が半導体パッケージ1を搬送ラインから排出することがない。つまり、全ての半導体パッケージ1について、均一な印字検査を実施することができ、歩留まりの低下を防ぐことが可能である。
【0055】
(2)他の実施形態
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、判定用データ算出部にて算出される判定用データの種類や、印字判定部にて判定基準となる閾値等は適宜変更可能である。また、本実施形態は、半導体印字検査装置及びその方法に加えて、印字検査用プログラム、さらには、そのプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体としても把握可能である。他の実施形態としては例えば、次のような検査方法も包含する。
【0056】
(a)印字画像取得部にて取得した複数の印字画像を記憶手段に保存しておき、モデル印字作成部が、保存した複数の印字画像を用いてモデル印字を作成するようにしても良い。このとき、良品印字として判定されたものだけを利用して、モデル印字を作成すれば、モデル印字のバラツキ部分をいっそう小さくすることが可能であり、印字検査の精度をより高めることができる。なお、印字画像取得部による印字画像の取得枚数は任意に設定可能である。モデル印字作成部は通常10枚程度の印字画像があれば、印字画像の平均化処理又は標準偏差処理を問題なく実施することができる。
【0057】
(b)モデル印字を作成する際の印字画像の取得枚数は、ターンテーブルの搬送1周分の半導体パッケージ数に限定されるものではなく、任意の枚数に設定可能である。印字画像の取得枚数を少なくすることで、ターンテーブル11にて半導体パッケージ1が1周分周り終わるまでモデル印字作成を待つ必要が無くなり、迅速且つ効率的なモデル印字作成が可能となる。
【0058】
(c)上記の実施形態においては、搬送ラインからの不良品排出を、印字画像の取得開始前とモデル印字の作成完了後に限定したが、このような制約を無くして、印字画像を取得しながら半導体パッケージを搬送ラインから排出してもよいし、モデル印字を作成しながら半導体パッケージを搬送ラインから排出するようにしてもよい。
【0059】
(d)
図1では印字は「A」一文字だけであるが、刻印された印字が複数であっても、印字された区域を1枚の画像として取り扱うことで、文字の個数にかかわらず、判定処理は同じとなる。また、印字の文字ごとに画像を分割して、各文字の画像ごとに判定用データを算出するようにしても良い。この場合、全ての文字の判定用データが判定基準である閾値を超えた時に、良品印字と判定し、印字の文字列中の1文字でも前記閾値を満たさなければ、不良印字と判定するようにしてもよい。さらに、検査印字の判定用データとして、検査印字の回転角度を加えるようにしてもよい。この場合は、判定用データ算出部37が検査印字の回転角度θ(°)を算出し、印字判定部38が、予め設定された角度を判定基準として、算出された回転角度θ(°)を判定することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…半導体パッケージ
2…マーキングユニット
3…印字検査ユニット
11…ターンテーブル
30…印字画像取得部
31…原本画像登録部
32、37…判定用データ算出部
33、38…印字判定部
34…位置補正部
35…モデル印字作成部
36…モデル印字登録部
39…不良品排出制御部