特許第5881134号(P5881134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5881134
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】圧力容器の蓋締結装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 13/10 20060101AFI20160225BHJP
【FI】
   F16J13/10 A
【請求項の数】6
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2015-191124(P2015-191124)
(22)【出願日】2015年9月29日
【審査請求日】2015年9月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515270769
【氏名又は名称】株式会社不動工業
(74)【代理人】
【識別番号】100085224
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 重隆
(72)【発明者】
【氏名】上田 健
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5649054(JP,B2)
【文献】 実開平07−010617(JP,U)
【文献】 実開昭64−043266(JP,U)
【文献】 実開昭55−104155(JP,U)
【文献】 米国特許第03522901(US,A)
【文献】 米国特許第02203364(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01731818(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 13/00 − 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理物を加圧処理する圧力容器の容器本体の開口部と蓋体とをOリングを介してフランジ接合する際、互いを密封状態で締結する圧力容器の蓋締結装置において、
前記開口部と前記蓋体とのうちの何れか一方のフランジに、該一方のフランジの全周にわたって所定間隔毎に取り付けられ、かつ外周へ膨出した頭部を有する複数の蓋締結用突起と、
前記開口部と前記蓋体とのうちの他方のフランジに、該他方のフランジの全周にわたって前記所定間隔毎に形成され、かつ対応する蓋締結用突起が挿通される複数の突起挿通穴と、
前記開口部と前記蓋体とフランジ接合した状態で、対応する突起挿通穴から前記複数の蓋締結用突起の頭部が突出しており、この突出した蓋締結用突起の頭部と前記他方のフランジとの隙間に抜き差し自在に構成されてなる複数のスペーサと、
該複数のスペーサが前記所定間隔毎に固定され、かつ手動操作によって前記複数のスペーサを対応する隙間に一括して抜き差しするスペーサ操作部材とを備え、
前記複数の蓋締結用突起の長さは、前記フランジ接合時、前記蓋締結用突起の頭部と前記他方のフランジとのあいだに隙間が形成される長さで、
前記複数のスペーサの厚さは、これらのスペーサが挿入される前記隙間の長さより短く、かつ前記処理物の加圧処理時、容器内圧により前記蓋体が開蓋方向へ移動する距離を、前記Oリングの自封性が保たれる距離に止める厚さとしたことを特徴とする圧力容器の蓋締結装置。
【請求項2】
前記スペーサ操作部材は、スライドガイド支脚を介して、前記一方のフランジまたは前記他方のフランジに、フランジ周方向へスライド自在に取り付けられたことを特徴とする請求項1に記載の圧力容器の蓋締結装置。
【請求項3】
前記蓋体の締結前およびその締結解除前に、前記一方のフランジと前記他方のフランジとを、接合面同士を当接した状態で仮締結するフランジ仮締結材を有したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧力容器の蓋締結装置。
【請求項4】
前記複数の蓋締結用突起は、前記一方のフランジの外周部からその半径方向外側へ延出した複数の突起取付用部材に取り付けられ、
前記複数の突起挿通穴は、前記他方のフランジの外周部からその半径方向外側へ延出した複数の挿通穴形成用部材に形成されたことを特徴とする請求項1〜請求項3のうち、何れか1項に記載の圧力容器の蓋締結装置。
【請求項5】
前記スペーサ操作部材は、全ての前記スペーサが固定された1本の環状体、または、一部の前記スペーサがそれぞれ固定された複数の部分操作部材からなる請求項1〜請求項4のうち、何れか1項に記載の圧力容器の蓋締結装置。
【請求項6】
前記圧力容器の蓋開閉方式は、前記容器本体の開口部にヒンジを介して前記蓋体が連結されたヒンジ開閉方式、または、蓋吊り下げ移動手段によって吊下された前記蓋体を移動することで、前記容器本体の開口部に前記蓋体を着脱する吊下開閉方式である請求項1〜請求項5のうち、何れか1項に記載の圧力容器の蓋締結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器の容器本体の開口部に装着された蓋体を、密封状態で締結する圧力容器の蓋締結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
処理物を加圧処理する圧力容器は、一般的に高耐圧の容器本体と、フランジの環状溝に挿入されたOリングを介して、この容器本体の開口部を、多数本の締結ボルト(蓋締結用突起)により密封する蓋体とを備えている(例えば、特許文献1)。各締結ボルトは、容器本体の周方向に所定間隔毎に配置され、かつ高い容器内圧に耐える強度が必要であることから、ねじ部が大径で使用本数も多い。
そのため、蓋体を開閉する頻度が高い加硫用の圧力容器等では、毎回の締結ボルトの着脱に要する時間が長くなり、レンチにより締結ボルトを回す作業者の労力の負担が大きかった。
そこで、これを解消する従来技術として、例えば、モータ駆動の動力伝達部を利用し、全締結ボルトを一括してねじ込みまたはねじ戻すものが開発されている(例えば、特許文献2)。その他、油圧シリンダのロッドの出し入れにより、容器本体の開口部に蓋体を押し付けてクランプ、または、開蓋時にクランプ解除するもの(例えば、特許文献3)なども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−291862号公報
【特許文献2】実開昭48−716号公報
【特許文献3】特許第5649054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2および特許文献3の従来技術では、容器本体の開口部に装着された蓋体を自動で締結または締結解除するアクチュエータ付きの自動蓋締結装置が必要となり、設備コストが高騰していた。
また、このような自動蓋締結装置にあっては、メンテナンス時、高価なアクチュエータや制御機器等の修理または交換を余儀なくされる場合があった。
さらに、特許文献3の場合には、油圧シリンダのクランプ力を利用して閉蓋するため、フランジの周方向に所定間隔毎に配置された多数本の締結ボルトを利用するものに比べて、蓋体を容器本体の開口部の全周にわたって略均等圧で押し付けることは難しいという別の問題も発生していた。
【0005】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、容器本体の開口部を全周にわたり略均等圧で密封することができ、かつ蓋体の開口部への締結および締結解除を、レンチを使用せず手動操作可能で、これにより、開口部の蓋開閉にかかる作業時間を短縮することができるとともに、アクチュエータを有する従来の自動装置に比べて、設備コストおよびメンテナンスコストの低減も図れる圧力容器の蓋締結装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明は、処理物を加圧処理する圧力容器の容器本体の開口部と蓋体とをOリングを介してフランジ接合する際、互いを密封状態で締結する圧力容器の蓋締結装置において、前記開口部と前記蓋体とのうちの何れか一方のフランジに、該一方のフランジの全周にわたって所定間隔毎に取り付けられ、かつ外周へ膨出した頭部を有する複数の蓋締結用突起と、前記開口部と前記蓋体とのうちの他方のフランジに、該他方のフランジの全周にわたって前記所定間隔毎に形成され、かつ対応する蓋締結用突起が挿通される複数の突起挿通穴と、前記開口部と前記蓋体とのフランジ接合時、対応する突起挿通穴から突出した前記複数の蓋締結用突起の頭部と前記他方のフランジとの隙間に抜き差し自在に挿入される複数のスペーサと、該複数のスペーサが前記所定間隔毎に固定され、かつ手動操作によって前記複数のスペーサを対応する隙間に一括して抜き差しするスペーサ操作部材とを備え、前記複数の蓋締結用突起の長さは、前記フランジ接合時、前記蓋締結用突起の頭部と前記他方のフランジとのあいだに隙間が形成される長さで、前記複数のスペーサの厚さは、これらのスペーサが挿入される前記隙間の長さより短く、かつ前記処理物の加圧処理時、容器内圧により前記蓋体が開蓋方向へ移動する距離を、前記Oリングの自封性が保たれる距離に止める厚さとしたことを特徴とする圧力容器の蓋締結装置である。
【0007】
請求項2に記載の本発明は、前記スペーサ操作部材を、前記一方のフランジまたは前記他方のフランジに、スライドガイド支脚を介して、その選出されたフランジの周方向へスライド自在に取り付けたものである。
【0008】
請求項3に記載の本発明は、蓋体の締結前およびその締結解除前に、前記一方のフランジと前記他方のフランジとを、接合面同士を当接した状態で仮締結するフランジ仮締結材を有したものである。
【0009】
請求項4に記載の本発明は、前記複数の蓋締結用突起は、前記一方のフランジの外周部からその半径方向外側へ延出した複数の突起取付用部材に取り付けられ、前記複数の突起挿通穴は、前記他方のフランジの外周部からその半径方向外側へ延出した複数の挿通穴形成用部材に形成されたものである。
【0010】
請求項5に記載の本発明は、前記スペーサ操作部材を、全ての前記スペーサが固定された1本の環状体、または、一部の前記スペーサをそれぞれ固定した複数の部分操作部材から構成したものである。
【0011】
請求項6に記載の本発明は、前記圧力容器の蓋開閉方式として、前記容器本体の開口部にヒンジを介して前記蓋体が連結されたヒンジ開閉方式、または、蓋吊り下げ移動手段によって吊下された前記蓋体を移動することで、前記容器本体の開口部に前記蓋体を着脱する吊下開閉方式を採用したものである。
【0012】
圧力容器は、処理物を加圧処理または加熱・加圧処理等するものであって、容器本体と、その開口部をフランジ接合により塞ぐ蓋体(鏡板)とを有している。
圧力容器の蓋開閉方式は任意である。例えば、容器本体の開口部にヒンジを介して蓋体が連結されたヒンジ開閉方式を採用することができる。その他、チェーンブロックやホイストなどの蓋吊り下げ移動手段により吊り下げられた蓋体を、水平移動または旋回移動し、容器本体の開口部に蓋体を着脱する吊下開閉方式でもよい。
圧力容器の種類としては、例えば、簡易圧力容器、第一種圧力容器、第二種圧力容器等が挙げられる。
容器本体の形状は任意であるものの、一般的には円筒である。
処理物としては、例えば、生ゴム、各種の熱硬化性合成樹脂などを採用することができる。
蓋体の形状およびサイズは、容器本体の開口部の形状およびサイズに応じて適宜変更される。
【0013】
Oリングは、弾性体の反発力により自封性を現出する断面円形の環状成型品で、環状溝にはめ込んで使用するものであれば、その種類は任意である。
Oリングの素材としては、例えば、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴムなどが挙げられる。
Oリングの使用本数は、1本でも複数本でもよい。複数使用の場合、同一種類のOリングを使用しても、異なる種類のものを使用してもよい。
Oリングの形成位置は、容器本体の開口部の端面、開口部側のフランジの接合面、蓋体の端面、蓋体のフランジの接合面の何れでもよい。
【0014】
蓋締結用突起が取り付けられる一方のフランジは、容器本体の開口部に周設されたフランジでも、蓋体の外周部に周設されたフランジの何れでもよい。
蓋締結用突起としては、例えば締結ボルト、ピン等の各種の突起物を採用することができる。
蓋締結用突起の断面形状は、円形、楕円形、多角形等を採用することができる。
蓋締結用突起の太さは、圧力容器のサイズ、その内圧等に応じて適宜変更される。
蓋締結用突起の頭部の形状は任意である。例えば、円形、楕円形、多角形などである。
蓋締結用突起の頭部の外周への膨出幅は任意である。例えば、3〜30mm、好ましくは5〜20mmである。要は、頭部の内面と他方のフランジの外面との隙間に差し込まれたスペーサが、蓋締結用突起の先方へ外れないように掛止できる膨出幅であればよい。
【0015】
蓋締結用突起の使用本数は、例えば4本以上である。この使用本数によって、蓋締結用突起を一方のフランジの全周にわたり、その周方向に取り付ける間隔(ピッチ)が決まる。一方のフランジの周方向における間隔は、等間隔でもそうでなくてもよい。ただし、等間隔の方が、容器本体の開口部を全周にわたり均等圧で密封することができる。
蓋締結用突起の長さは、フランジ接合(両フランジを重ね合わせただけの状態、フランジ当接)時、突起挿通穴から蓋締結用突起の先部が突出し、かつ蓋締結用突起の頭部と他方のフランジとのあいだに隙間が形成される長さである。この隙間の長さは、スペーサの厚さを考慮して、適宜設定してもよい。すなわち、スペーサの厚さを規定するのではなく、蓋締結用突起の長さを、スペーサを支障なく挿入可能な隙間が得られ、かつ閉蓋状態で処理物を加圧処理する際に、容器内圧により蓋体が開蓋方向へ移動する距離を、Oリングの自封性が保たれる距離に止められる長さに規定してもよい。
突起挿通穴が形成される他方のフランジは、蓋締結用突起を有しない容器本体の開口部側のフランジまたは、蓋体側のフランジである。
突起挿通穴の形状およびサイズは、対応する蓋締結用突起が挿通可能であればそれぞれ任意である。
また、突起挿通穴の他方のフランジの周方向における形成間隔(形成数)は、一方のフランジに配設された蓋締結用突起の周方向への形成間隔に対応する。
【0016】
これらの蓋締結用突起は、一方のフランジの外周部からその半径方向外側へ延出した複数の突起取付用部材に取り付けることで、これらの突起を間接的に一方のフランジに配設するように構成してもよい。また、複数の突起挿通穴も同様に、他方のフランジの外周部からその半径方向外側へ延出した複数の挿通穴形成用部材に形成することで、これらの挿通穴を間接的に他方のフランジに形成してもよい。突起取付用部材および挿通穴形成用部材としては、例えば、所定形状のラグを採用することができる。
また、蓋体の締結前およびその締結解除前には、各蓋締結用突起の頭部と他方のフランジとのあいだに、各スペーサを円滑に挿入する隙間を確保するため、フランジ仮締結材によって一方のフランジと他方のフランジとを、接合面同士を当接した状態で仮締結することが望ましい。
ここでいう「蓋体の締結前およびその締結解除前」とは、本発明の圧力容器の蓋締結装置による両フランジの締結作業を行う前(直前)と、こうして締結された両フランジの締結の解除作業を行う前(直前)を意味する。
フランジ仮締結材としては、例えば、締結ボルトナット構造体などを採用することができる。
【0017】
スペーサの素材は限定されない。例えば、耐摩耗性が高い炭素鋼(S45Cを含むSC等)を採用することができる。その他、ステンレス、SSなどでもよい。
スペーサの形状は任意であるが、頭部と他方のフランジとの隙間に差し込まれた際、蓋締結用突突起にスペーサを掛止できるように、コの字形またはU字形が好ましい。
また、スペーサの大きさは、差し込まれた頭部と他方のフランジとの隙間から容易に離脱しないサイズであれば任意である。
スペーサの前記隙間への差し込み方向は任意である。例えば、圧力容器(フランジ)の周方向でも、その半径方向でもよい。
【0018】
スペーサ操作部材の素材としては、例えば、鉄、鋼(炭素鋼を含む)、アルミ合金等の各種の金属を採用することができる。
スペーサ操作部材としては、全てのスペーサが固定された1本の環状体(棒材、管材、板材など)、または、一部のスペーサをそれぞれ固定した複数の部分操作部材から構成したものなどを採用することができる。各部分操作部材によるスペーサ操作部材の分割数は2つでも、3つ以上でもよい。また、各部分操作部材は、スペーサ操作部材を等分割するのが一般的であるものの、不均等に分割してもよい。
スペーサ操作部材に固定されるスペーサの数は、蓋締結用突起の使用数に応じて適宜変更される。
スペーサ操作部材には、作業者が操作し易いように操作レバーを取り付けた方が好ましい。
スペーサ操作部材は、容器本体(開口部側のフランジを含む)に取り付けても、蓋体(蓋体側のフランジを含む)に取り付けてもよい。また、圧力容器から分離した独立部材としてもよい。
【0019】
スペーサ操作部材は、スライドガイド支脚を介して、一方のフランジまたは他方のフランジに、その選出されたフランジの周方向へスライド自在に取り付けることができる。なお、このスペーサ操作部材は、何れのフランジも介さず、容器本体または蓋体に取り付けるようにしてもよい。
スライドガイド支脚の形状、サイズは、スペーサ操作部材を他方のフランジの周方向へスライド自在に支持できれば任意である。
スライドガイド支脚の使用数は、一般的に複数であるが、これを横長な長尺物とすることで1つとしてもよい。
スライドガイド支脚は、フランジを含む容器本体またはフランジを含む蓋体に、締結ボルト等により着脱自在に連結する方が望ましい。仮に、溶接等によりこれらに分離不能に固定した場合、メンテナンスに際して圧力容器に溶接された部品は、圧力容器の法的適用を受けなければならず、その認可を得るために時間と費用とがかかってしまう。
その他、スペーサ操作部材は、リンク機構を介して、それぞれフランジを含む容器本体や蓋体に取り付けてもよい。
【0020】
ここでいう「複数のスペーサの厚さが、これらのスペーサが挿入される隙間の長さより短い」について説明する。各蓋締結用突起は、容器本体側のフランジと蓋体のフランジとが面接触されるフランジ接合時、蓋締結用突起の頭部と他方のスペーサとのあいだに隙間が現出する長さを有している。そのため、フランジ接合時、Oリングを押し潰してその接触面同士を押し当てると、頭部と他方のスペーサとのあいだに、この隙間が形成される。各スペーサの厚さは、この隙間の長さ(幅、広さ)より短く設計されている。これにより、蓋締結時および蓋締結解除時において、各スペーサを、対応する隙間に円滑に抜き差しすることができる。
【0021】
また、ここでいう「複数のスペーサの厚さを、処理物の加圧処理時、容器内圧により蓋体が開蓋方向へ移動する距離を、Oリングの自封性が保たれる距離に止める厚さとした」という点について、詳しく説明する。
ここでの「Oリングの自封性」とは、Oリングが、自己の反発力によってフランジ付きの容器本体の開口部と、フランジ付きの蓋体との隙間を、容器内流体が漏出しないようにシール(密封)する機能である。
これを踏まえて、各蓋締結用突起は、フランジ接合時における頭部と他方のフランジとに形成される隙間の長さを、(1)“対応するスペーサの厚さ”に、(2)“Oリングの自封性が保たれる距離”を加算した長さとしている。すなわち、蓋締結時および蓋締結解除時において、あらかじめフランジ仮締結材等を用いて(手動でもよい)、Oリングを押し潰して両フランジを密接しておけば、スペーサの厚さより幅が長い“隙間”には、Oリングの自封性が保たれる距離分だけ、この隙間の幅方向にゆとりが生じる。そのため、スペーサ挿入時、作業者はさほど大きな力を加えなくても、全てのスペーサを対応する隙間に容易く出し入れすることができる。
【0022】
Oリングの自封性が保たれる距離は、Oリングの種類、素材、断面形状、断面積、等によって適宜変更される。例えば、一般的なOリングの場合、潰し圧が作用していない(無負荷状態の)Oリングが、環状溝から突出した部分(内周部)の突出長さ(Oリングの長さ方向に直交する断面上での長さ)を基準値として、その0%を超えて100%以下となる長さである。また、Oリングの自封性が保たれる好ましい距離は、その基準長さの8〜40%となる長さである。8%未満ではOリングの潰し率が小さすぎて、容器内流体の漏れが生じるおそれがある。また、40%を超えればOリングに圧縮割れが生じるおそれがある。また、Oリングの自封性が保たれるさらに好ましい距離は、その基準長さの15〜30%となる長さである。この範囲であれば設計基準域を逸脱せず、耐久性と密封性がともに保たれる。さらには、Oリングの自封性が保たれる特に好ましい範囲は、その基準長さの19〜30%となる長さである。この範囲であればOリングの耐久性が最良に保たれる。
このように、各隙間に各スペーサを差し込むことで、フランジ接合時(容器内圧が作用する閉蓋時を含む)の蓋体の移動距離を、最大でもOリングの自封性が保たれる距離に止めることができる。その結果、従来のように両フランジを堅固にボルト締結しなくても、このフランジ接合時、圧力容器の内部流体が外部に漏出することはない。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載の発明によれば、処理物を収納した容器本体の開口部を蓋体により閉蓋する際、まず各蓋締結用突起を、対応する突起挿通穴に挿通し、一方のフランジと他方のフランジとを重ね合わせる。これにより、Oリングは押し潰され、各蓋締結用突起では、頭部と他方のフランジとのあいだに隙間が形成される。
次に、スペーサ操作部材を手動操作し、各スペーサを、対応する隙間に一括して挿入する。このとき、各隙間の幅(長さ)はスペーサの厚さより(最大で)Oリングの自封性が保たれる長さ分だけ長いため、作業者はさほど大きな力を加えなくても、各スペーサを対応する隙間に差し込むことができる。
その後、圧力容器の内圧を高めて処理物の加圧処理を行う。その際、容器内圧に押されて、蓋体は各蓋締結用突起をガイドに開蓋方向へ移動するが、この移動は各スペーサを介して、各蓋締結用突起の頭部により阻止される。その結果、容器本体の開口部は、フランジ周方向に所定間隔毎に配置された複数本の蓋締結用突起をフランジ接合材として、蓋体により堅固に閉蓋される。
【0024】
しかも、この蓋体の閉蓋方向への移動は、スペーサによってOリングの自封性が保たれる範囲に止められる。その結果、容器本体の開口部から容器内流体(気体、水蒸気、液体など)が外部へ漏出することはない。
このように構成したため、容器本体の開口部を全周にわたり略均等圧で密封することができ、また蓋体の開口部への締結および締結解除を、レンチを使用せず手動で一括することができる。これにより、開口部の蓋開閉にかかる作業時間を短縮できるとともに、アクチュエータを有する従来の自動装置に比べて、設備コストおよびメンテナンスコストの低減も図ることができる。
【0025】
請求項2に記載の発明によれば、スペーサ操作部材を、スライドガイド支脚を介して、一方のフランジまたは他方のフランジにフランジ周方向へスライド自在に取り付けている。これにより、圧力容器の蓋締結装置のコンパクト化が図れ、設置スペースが小さい圧力容器にも適用することができる。また、各蓋締結用突起の頭部と他方のフランジとの隙間へのスペーサの出し入れ操作も、スペーサ操作部材の例えば長さ方向への単純な押し引きでよいため、その作業性が高まる。
【0026】
請求項3に記載の発明によれば、蓋締結前およびその締結解除前には、フランジ仮締結材を用いて、接合面同士を当接した状態で、一方のフランジと他方のフランジとを仮締結する。これにより、各フランジを各隙間に抜き差しする際の両フランジの位置ずれを防止できるとともに、各蓋締結用突起の頭部と他方のフランジとのあいだに、対応するスペーサを円滑に出し入れ可能な設定された通りの長さ、すなわち“前記スペーサの厚さにOリングの自封性が保たれる長さ(距離)を加算した長さ”を有した隙間を確保することができる。
【0027】
請求項4に記載の発明によれば、複数の蓋締結用突起を、複数の突起取付用部材を介して、一方のフランジに間接的に配設し、また複数の突起挿通穴を、複数の挿通穴形成用部材を介して、間接的に他方のフランジに形成するように構成した。これにより、既存のフランジ接合方式の圧力容器にも本発明の蓋締結装置を適用することができる。
【0028】
請求項5に記載の発明によれば、スペーサ操作部材を、全てのスペーサが固定された1本の環状体とした場合には、1回の手動操作により、全てのスペーサを各蓋締結用突起の頭部と他方のフランジとの隙間に抜き差しすることができる。
また、スペーサ操作部材を複数の部分操作部材によって分割構成した場合には、蓋締結装置の製造が容易になるとともに、メンテナンス時、スペーサ操作部材に損傷等が発見された場合、該当する部分操作部材のみ修理または交換を行えばよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置を搭載した圧力容器の正面図である。
図2】本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置を搭載した圧力容器の前部の一部断面図を含む側面図である。
図3】本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置を搭載した圧力容器の容器本体の開口部の正面図である。
図4】本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置を搭載した圧力容器の容器本体の開口部の一部断面図を含む側面図である。
図5】本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置を搭載した圧力容器の蓋開閉軌跡を示す平面図である。
図6】本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置を搭載した圧力容器の蓋体の正面図である。
図7】本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置を搭載した圧力容器の蓋体の一部断面図を含む側面図である。
図8】本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置の一部を構成するスペーサ付きのスペーサ操作部材の正面図である。
図9】本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置の蓋締結状態および蓋締結解除状態を示す要部拡大正面図である。
図10】本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置において、蓋締結作業の直前の状態を示す要部拡大断面図である。
図11】本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置において、蓋締結用突起の頭部と他方のフランジとの隙間にスペーサを差し込んだ状態を示す要部拡大断面図である。
図12】本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置において、容器内圧により蓋体が開蓋方向に移動した状態を示す要部拡大断面図である。
図13】(a)本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置において、フランジ接合前のOリングの状態を示す要部拡大断面図である。(b)本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置において、フランジ接合時のOリングの状態を示要部拡大断面図である。(c)本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置において、容器内圧により蓋体が開蓋方向に移動した時のOリングの状態を示す要部拡大断面図である。
図14】本発明の実施例2に係る圧力容器の蓋締結装置を搭載した圧力容器の正面図である。
図15】本発明の実施例2に係る圧力容器の蓋締結装置を搭載した圧力容器の前部の一部断面図を含む側面図である。
図16】本発明の実施例2に係る圧力容器の蓋締結装置を搭載した圧力容器の容器本体の開口部の正面図である。
図17】本発明の実施例2に係る圧力容器の蓋締結装置を搭載した圧力容器の容器本体の開口部の一部断面図を含む側面図である。
図18】本発明の実施例2に係る圧力容器の蓋締結装置を搭載した圧力容器の蓋開閉軌跡を示す平面図である。
図19】本発明の実施例2に係る圧力容器の蓋締結装置を搭載した圧力容器の蓋体の正面図である。
図20】本発明の実施例2に係る圧力容器の蓋締結装置を搭載した圧力容器の蓋体の一部を省略した側面図である。
図21】本発明の実施例2に係る圧力容器の蓋締結装置の一部を構成する他のスペーサ付きのスペーサ操作部材の正面図である。
図22】本発明の実施例2に係る圧力容器の蓋締結装置において、蓋締結用突起の頭部と他方のフランジとの隙間にスペーサを差し込んだ状態を示す要部拡大断面図である。
図23】本発明の実施例2に係る圧力容器の蓋締結装置において、蓋締結用突起の頭部と他方のフランジとの隙間にスペーサを差し込んだ状態を示す要部拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。ここでは、生ゴムの加硫を行う圧力容器の蓋締結装置を例とする。
【実施例】
【0031】
図1および図2において、10は本発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置(以下、蓋締結装置)で、生ゴム(処理物)を加硫する圧力容器11の容器本体12の開口部12aと蓋体(鏡板)13とを、Oリング14を介してフランジ接合する際、互いを密封状態で締結するものである。
図1図8に示すように、この蓋締結装置10は、容器本体12の開口部12aに周設された幅広の一方のフランジ15に、一方のフランジ15の全周にわたって所定間隔毎に取り付けられ、かつ外周へ膨出した頭部を有する複数の締結ボルト(蓋締結用突起)16と、蓋体13の外周部に周設された他方のフランジ17に、他方のフランジ17の全周にわたって所定間隔毎に形成され、かつ対応する締結ボルト16が挿通される複数のボルト挿通穴(突起挿通穴)18と、開口部12aと蓋体13とのフランジ接合時、対応するボルト挿通穴18から突出した各締結ボルト16の頭部16aと他方のフランジ17との隙間に抜き差し自在に挿入される複数のスペーサ19と、各スペーサ19が所定間隔毎に固定され、かつ手動操作によって各スペーサ19を、対応する隙間に一括して抜き差しするスペーサ操作部材20とを備えている。
【0032】
以下、これらの構成体を具体的に説明する。
図1図4に示すように、この圧力容器11は、生ゴム(内容物)の加硫を行うP(MPaゲージ)×V(内容積)値が0.02を超える蓋吊下開閉方式の第一種圧力容器である。
容器本体12は、一端面に開口部12aを有する直径1200mmの横置き円筒形のものである。容器本体12は、横方向に所定間隔毎に対配置された支脚21aを有する架台21に搭載されている。
また、容器本体12の開口部12aには、幅広な一方のフランジ15が周設されている(図3および図4)。一方のフランジ15には、その周方向に30°ピッチで12個の締結ボルト孔22が形成されている。各締結ボルト孔22には、対応する締結ボルト16のねじ部16bが挿通される。締結ボルト16は大径な座金一体型の六角締結ボルトである。ただし、座金が別体のものでもよい。各ねじ部16bの先端部にはダブルナット23が螺合されている。また、一方のフランジ15には、その右端部と左端部とに、一対の小ボルト孔24が形成されている。
【0033】
一方のフランジ15の接合面の内周部には、断面台形状の環状溝25が周設されている(図13)。環状溝25には直径10mmのシリコーン樹脂製のOリング14が嵌入されている。このとき、Oリング14の長さ方向に直交する断面において、環状溝25の開口から突出するOリング14の内周部分の長さは、3mmである。
容器本体12の開口部12aの図1上の右側付近には、蓋吊下具(蓋吊り下げ移動手段)26が立設されている(図1図2および図5)。蓋吊下具26は、円筒状の旋回ガイド支柱27と、旋回ガイド支柱27に下部が回動自在に挿入された回動ポール28と、回動ポール28の上端部に片持ち支持された水平な旋回アーム29と、旋回アーム29の先端部に固定されたチェーンブロック30とを有している。蓋開閉時、チェーンブロック30により蓋体13を吊り上げ、その後、回動ポール28を中心にして、旋回アーム29と一体的に蓋体13を水平旋回させる(図5)。
【0034】
次に、図6および図7を参照して蓋体13を説明する。
蓋体13は中央部が外方に突出した鏡板である。その外周部の上端部には、チェーンブロック30のチェーン30aが掛止される逆U字状の掛止リング13aが固定されている。また、蓋体13の外周部には、一方のフランジ15と同一形状、同一サイズの他方のフランジ17が一体的に周設されている。
他方のフランジ17には、その周方向に30°ピッチで12個のボルト挿通穴18が形成されている。各ボルト挿通穴18は、各締結ボルト16の頭部16aの対角距離より大径な円形穴である。また、他方のフランジ17の右端部と左端部とには、フランジ接合時、各小ボルト孔24と連通する他方の小ボルト孔24が形成されている。蓋体13の締結前およびその締結解除前において、合致した2対の小ボルト孔24に、締結ボルト16より小径で、かつ両フランジ15,17を仮締結する仮止め用締結ボルト(フランジ仮締結材)Bを挿通し、ナット31を介して両フランジ15,17をボルト締結する(図1および図5)。
また、他方のフランジ17の上端部および下端部には、内外一対のビス孔17aが、他方のフランジ17の周方向に離間した状態で2対ずつ形成されている。
【0035】
次に、図1図2図8および図9を参照して、前記スペーサ19と前記スペーサ操作部材20とを説明する。
図8および図9に示すように、各スペーサ19は、正面視してコの字形の厚肉な炭素鋼(S45C)製の板材である。コの字の溝部19aの幅は、締結ボルト16のねじ部16bの直径より若干大きい。
スペーサ操作部材20は、鋼管を他方のフランジ17より大径な円環状に湾曲させたものである。スペーサ操作部材20の図1左側の外周部には、ハンドレバー32が突設されている。
スペーサ操作部材20の内周部には、その周方向に30°ピッチで12個のスペーサ19が、各コの字の開口方向をスペーサ操作部材20の閉蓋方向(反時計回り)に向けて、それぞれ固着されている。
【0036】
また、他方のフランジ17の各内外一対のビス孔17aには、合計4つのスライドガイド支脚33がビス止めされている(図1および図2)。各スライドガイド支脚33は、ビス止めされる厚肉で細長い脚板34と、脚板34の先端部に固定され、かつ他方のフランジ17の外周面より外方に配置されて、スペーサ操作部材20をその周方向へスライド自在に掛止する、断面C字形のC字ガイド35とを有している。
したがって、大型の円環状のスペーサ操作部材20は、他方のフランジ17に4つのC字ガイド35を介して、その周方向へ向かってスライド自在に掛止されている。開蓋時、各スペーサ19は、対応する締結ボルト16を基準位置とし、それより時計回りの方向へ若干離間した待機位置に配置される(図1および図9)。また、閉蓋時、各スペーサ19は、対応する締結ボルト16に溝部19aが挿入される閉蓋位置に配置される。
この蓋締結装置10では、各締結ボルト16の長さを、フランジ接合時、締結ボルト16の頭部16aと他方のフランジ17とのあいだに36.5mmの隙間Gが形成される長さ(首下長さ:248mm)としている(図10)。
また、各スペーサ19の厚さを、これらのスペーサ19が挿入される隙間Gの長さより短く、かつ生ゴムの加圧処理時、容器内圧により蓋体13が開蓋方向へ移動する距離を、使用されたOリング14の自封性が保たれる距離d(0.5mm)に止める厚さの36mmとしている(図11および図13(c))。なお、このOリング14の自封性が保たれる距離d(長さ)は、開蓋時(無負荷時)に前記Oリング14の内周部が環状溝25の開口から突出する長さd0(3mm)を基準とし、その基準値の17%である(図13(a))。
【0037】
次に、図1図2図5図9図13を参照して、この発明の実施例1に係る圧力容器の蓋締結装置10の作動を説明する。
図1図2および図5に示すように、圧力容器11により生ゴムを加硫する際には、まず所定量の硫黄を添加した生ゴムを容器本体12に挿入し、その開口部12aを閉蓋する。具体的には、チェーンブロック30のチェーン30aの下端部を蓋体13の掛止リング13aに掛止し、蓋体13の吊下後、その状態のまま、回動ポール28を旋回中心として、旋回アーム29と一体的に蓋体13を閉蓋方向へ水平旋回させる(図5)。これにより、各締結ボルト16が対応するボルト挿通穴18に挿通され(図10)、最終的にOリング14は押し潰されて両フランジ15,17が重なり、互いの接合面が当接する(図9および図13(b))。このとき、各締結ボルト16では、頭部16aと他方のフランジ17とのあいだに隙間Gが形成される。
その後、合致した2対の小ボルト孔24に2本の仮止め用締結ボルトBを挿通し、これらのねじ部にナット31をねじ込み、両フランジ15,17を堅固にボルト締結して仮止めする(図1)。これにより、各締結ボルト16の頭部16aと他方のフランジ17とのあいだの隙間Gが、設定された通りの長さ、具体的には“スペーサ19の厚さに前記Oリング14の自封性が保たれる距離d(0.5mm)を加算した長さ”である、36.5mmとなる(図10)。
【0038】
次に、作業者がハンドレバー32を握り、それを閉蓋方向(反時計回り)に引く。これにより、4つのスライドガイド支脚33を介して、スペーサ操作部材20が各スペーサ19と一体的に閉蓋方向へ所定角度(所定距離)だけスライドする。よって、各スペーサ19の溝部19aに各締結ボルト16を差し込んだ状態で、全てのスペーサ19が対応する隙間Gに一括して差し込まれる(図11)。
その際、各隙間Gの幅(長さ)は、スペーサ19の厚さより(最大で)Oリング14の自封性が保たれる長さ分だけ長く設定されている。これにより、作業者はさほど大きな力を加えなくても、各スペーサ19を、対応する隙間Gに一括して差し込むことができる。
次に、2本の仮止め用締結ボルトBを外し、両フランジ15,17に対する挟持力を解除する。この状態で、圧力容器11の内圧を設定値まで高め、所定時間だけ生ゴムを加圧・加熱して加硫処理する。
その際、蓋体13は容器内圧に押され、各締結ボルト16をガイドにして開蓋方向へ移動する(図12)。しかしながら、蓋体13の移動は、各スペーサ19を介して各締結ボルト16の頭部16aにより、Oリング14の自封性が保たれる距離dまでに止められる(図13(c))。その結果、容器内流体は、容器本体12の開口部12aから外部へ漏出せず、かつフランジ周方向に所定間隔毎に配置された12本の締結ボルト16を介して、容器本体12の開口部12aは蓋体13により密封状態で堅固に閉蓋される。
【0039】
生ゴムの加硫処理後、圧力容器11の内圧を低下させ、圧力容器11から加硫処理された生ゴムを取り出す。具体的には、再び2本の仮止め用締結ボルトBにより両フランジ15,17を堅固に仮止めし、各隙間Gを設定値の36.5mmとする(図9)。次いで、作業者がハンドレバー32を握り、それを開蓋方向(時計回り)に引く。これにより、各スライドガイド支脚33を介して、スペーサ操作部材20が各スペーサ19と一体的に開蓋方向へ所定角度(所定距離)だけスライドする。その結果、各締結ボルト16から各スペーサ19の溝部19aが外れた状態で、全てのスペーサ19が、対応する隙間Gから、一括して円滑に引き抜かれる。
【0040】
実施例1の蓋締結装置10は、このように構成したため、容器本体12の開口部12aをその全周にわたり略均等圧で密封することができる。また、容器本体12の開口部12aへの締結および締結解除を、レンチを使用せず手動で一括操作することができる。これにより、開口部12aの蓋開閉にかかる作業時間を短縮できるとともに、アクチュエータを有する従来の自動装置に比べて、設備コストおよびメンテナンスコストの低減を図ることができる。
また、スペーサ操作部材20を、他方のフランジ17に、スライドガイド支脚33を介して、その周方向へスライド自在に取り付けたため、蓋締結装置10のコンパクト化が図れ、設置スペースが小さい圧力容器11にも蓋締結装置10を適用することができる。また、各締結ボルト16の頭部16aと他方のフランジ17との隙間Gへのスペーサ19の出し入れ操作も、スペーサ操作部材20の例えば長さ方向への単純な押し引きでよいため、その作業性が高まる。
【0041】
さらに、蓋体13の締結前およびその締結解除前には、2本の仮止め用締結ボルトBを使用し、両フランジ15,17を堅固にボルト締結して、これらを仮止めする。これにより、各スペーサ19を対応する隙間Gに抜き差しする際、両フランジ15,17の位置ずれを防止できるとともに、各締結ボルト16の頭部16aと他方のフランジ17とのあいだに、対応するスペーサ19を円滑に出し入れ可能な設定長さの隙間Gを確保することができる。
さらにまた、スペーサ操作部材20を、全てのスペーサ19が固定された1本の環状体としたため、1回の手動操作により、全てのスペーサ19を、各締結ボルト16の頭部16aと他方のフランジ17との隙間Gに抜き差し自在とすることができる。
【0042】
次に、図14図23を参照して、本発明の実施例2に係る圧力容器の蓋締結装置を説明する。
図14および図15に示すように、第2実施例の蓋締結装置10Aの特徴は、圧力容器11Aの蓋開閉方式が、容器本体12Aの開口部12aにヒンジ36を介して蓋体13Aが連結されたヒンジ開閉方式であり、また各締結ボルト16が、一方のフランジ15の外周部からその半径方向外側へ延出した上下4対のボルト取付用ラグ(突起取付用部材)37に取り付けられ、さらに各ボルト挿通穴18が、他方のフランジ17の外周部からその半径方向外側へ延出した上下4対の挿通穴形成用ラグ(挿通穴形成用部材)38に形成され、また実施例1のスペーサ操作部材20が、一部のスペーサ19が固定された上下一対の部分操作部材39からなる点である。
【0043】
以下、これらの点について具体的に説明する。
図14図20に示すように、ヒンジ開閉方式の圧力容器11Aは、容器本体12Aの開口部12aの図14上の右端部と、蓋体13Aの図16上の右端部とを、軸支するヒンジ36を介して連結したものである。
ヒンジ36は、容器本体12Aの開口部12aの右端部に突設された上下に離間する一対の本体側軸受40と、蓋体13Aの右端部に突設された上下に離間する一対の蓋側軸受41とを、垂直方向に延びる大径な回動ピン42により連結したものである。蓋体13Aは、回動ピン42を中心にして水平回動することで、容器本体12Aの開口部12aを開閉する(図18)。
【0044】
また、図15図17に示すように、ボルト取付用ラグ37は、容器本体12Aの開口部12aに周設された一方のフランジ15の上側部分に4つと、一方のフランジ15の下側部分に4つとの合計8つが、一方のフランジ15の外周縁上に、それぞれ所定間隔をあけて固定(溶接)されている。各ボルト取付用ラグ37は、一方のフランジ15の外周縁に固定され、かつ中央部に締結ボルト孔22が形成された横長矩形状の厚肉な上板43と、上板43の両側部に一体的に連結された左右一対の補強用の側板44とからなる。
さらに、図14図15図19および図20に示すように、各挿通穴形成用ラグ38は厚肉な矩形板で、蓋体13Aの外周部に周設された他方のフランジ17の上側部分と下側部分との各外周縁において、それぞれボルト取付用ラグ37と対峙する位置に、所定間隔をあけて固定(溶接)されている。各挿通穴形成用ラグ38には、その中央部一帯に正面視して逆U字形状のボルト挿通穴18がそれぞれ形成されている。
【0045】
また、他方のフランジ17の外周縁のうち、隣接する挿通穴形成用ラグ38の間には、アングル鋼からなる合計6つの支脚取付用ブラケット45が固定(溶接)されている。これらには、各スライドガイド支脚33がビス止めされている。
他方のフランジ17のうち、図14上の左端部の外周縁上には、仮止め用ラグ46が固定(溶接)されている。仮止め用ラグ46の中央部には、大径で長尺な仮止め用締結ボルト(フランジ仮締結材)B1が螺合されるナット部47が埋め込まれている。仮止め用締結ボルトB1の先端部には、一方のフランジ15の左端部を他方のフランジ17に押し付けるクランプ爪48の基端部が周方向へ回動可能に装着されている(図18)。
蓋体13Aの締結前およびその締結解除前、ナット部47に螺合された仮止め用締結ボルトB1をねじ戻し方向に回転させて行くことで、クランプ爪48の先端部と他方のフランジ17とにより、一方のフランジ15の左端部がクランプされる。こうして、両フランジ15,17が強固に仮止めされる。
【0046】
さらに、図14図15および図21図23に示すように、各部分操作部材39は、鋼管を円弧状に湾曲させたもので、その円弧を形成する扇形の角度は約120°である。
各部分操作部材39の内周部には、その長さ方向に向かって各ボルト取付用ラグ37の形成間隔で4つのスペーサ19が固定されている。また、図14上の各部分操作部材39の左端部には、それぞれハンドレバー32が取り付けられている。
【0047】
次に、図14図15図18図22および図23を参照して、この発明の実施例2に係る圧力容器の蓋締結装置10Aの作動を説明する。
図14図15および図18に示すように、容器本体12Aの開口部12aの閉蓋時、ヒンジ36の回動軸を中心にして蓋体13Aを閉蓋方向に水平回動し、両フランジ15,17を面接触させて、この開口部12aを閉蓋する。これにより、各締結ボルト16が対応するボルト挿通穴18に挿通され(図15および図22)、最終的にOリング14は押し潰されて両フランジ15,17が重なり、互いの接合面が当接する。
その後、クランプ爪48の先端部を一方のフランジ15の左端部の裏側に配置し、ナット部47に螺合された仮止め用締結ボルトB1をねじ戻し方向に回転させて行くことで、クランプ爪48の先端部と他方のフランジ17とのあいだで、一方のフランジ15の左端部がクランプされ、両フランジ15,17が強固に仮止めされる(図18)。これにより、各締結ボルト16の頭部16aと他方のフランジ17とのあいだの隙間Gが、設定された通りの、スペーサ19の厚さに前記Oリング14の自封性が保たれる距離dを加算した長さとなる。
【0048】
次に、上下の部分操作部材39において、作業者が各ハンドレバー32を握り、それを閉蓋方向(上側の部分操作部材39は反時計回り、下側の部分操作部材39は時計回り)に引く(図14)。これにより、各3つのスライドガイド支脚33を介して、両部分操作部材39が各スペーサ19と一体的に閉蓋方向へ所定角度だけスライドする。よって、各スペーサ19の溝部19aに各締結ボルト16を差し込んだ状態で、全てのスペーサ19が対応する隙間Gにまとめて差し込まれる(図14および図23)。
その後、仮止め用締結ボルトB1をねじ込む方向に回転させ、クランプ爪48の先端部と他方のフランジ17とによる一方のフランジ15の左端部のクランプを解除し、一方のフランジ15の裏側からクランプ爪48を外す。
この状態で、圧力容器11Aの内圧を高め、生ゴムの加硫を行う。その際、蓋体13Aは容器内圧に押され、8本の締結ボルト16をガイドにして開蓋方向へ移動するものの、蓋体13Aの移動は、各スペーサ19を介して各締結ボルト16の頭部16aにより、Oリング14の自封性が保たれる距離dまでに止められる(図13(c))。その結果、容器内流体は、容器本体12Aの開口部12aから外部へ漏出せず、かつフランジ周方向に所定間隔毎に配置された8本の締結ボルト16を介して、容器本体12Aの開口部12aは蓋体13Aにより密封状態で堅固に閉じられる。
【0049】
生ゴムの加硫後、圧力容器11Aから処理済みの生ゴムを取り出す際には、圧力容器11Aの内圧を低下させるとともに、再び仮止め用締結ボルトB1により両フランジ15,17を堅固に仮止めする(図18)。
その後、上下の部分操作部材39において、作業者がハンドレバー32を握り、それを開蓋方向(上側のものは時計回り、下側のものは反時計回り)に引く。これにより、各スライドガイド支脚33を介して、各部分操作部材39が各スペーサ19と一体的に開蓋方向へ所定角度だけスライドする。その結果、全てのスペーサ19が、対応する隙間Gから円滑に引き抜かれる。
【0050】
このように、実施例2では、各ボルト取付用ラグ37を介して、各締結ボルト16を一方のフランジ15に間接的に配設し、また各挿通穴形成用ラグ38を介して、各ボルト挿通穴18を他方のフランジ17に間接的に形成するようにした。これにより、既存のフランジ接合方式の圧力容器にも本発明の蓋締結装置を適用することができる。
また、スペーサ操作部材20を、上下一対の部分操作部材39から分割構成したため、蓋締結装置10Aの製造・組み立てが容易となり、かつメンテナンス時、スペーサ操作部材20に損傷等が発見された場合、該当する部分操作部材39のみの修理、交換を行えば足りるものとなった。
その他の構成、作用および効果は、実施例1から推測可能な範囲であるため、説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、圧力容器の容器本体の開口部に装着された蓋体を密封状態で締結する技術として有用である。
【符号の説明】
【0052】
10,10A 圧力容器の蓋締結装置
11,11A 圧力容器
12、12A 容器本体
12a 開口部
13,13A 蓋体
14 Oリング
15 一方のフランジ
16 締結ボルト(蓋締結用突起)
16a 頭部
17 他方のフランジ
18 ボルト挿通穴(突起挿通穴)
19 スペーサ
20 スペーサ操作部材
26 蓋吊下具(蓋吊り下げ移動手段)
33 スライドガイド支脚
36 ヒンジ
37 ボルト取付用ラグ(突起取付用部材)
38 挿通穴形成用ラグ(挿通穴形成用部材)
39 部分操作部材
B,B1 仮止め用締結ボルト(フランジ仮締結材)
G 隙間
d Oリングの自封性が保たれる距離
【要約】
【課題】容器本体の開口部を全周にわたり略均等圧で密封でき、かつ蓋体の開口部への締結および締結解除を、レンチを使用せず手動操作可能で、蓋開閉時間を短縮し、従来の自動装置に比べて、設備コストおよびメンテナンスコストも低減可能な圧力容器の蓋締結装置を提供する。
【解決手段】一方のフランジに、全周にわたって所定間隔毎に複数の蓋締結用突起を突設し、他方のフランジに、全周にわたって所定間隔毎に複数の突起挿通穴を形成する。各蓋締結用突起の長さは、フランジ接合時、蓋締結用突起の頭部と他方のフランジとに隙間ができる長さとし、各隙間にスペーサ操作部材を手動操作してスペーサを抜き差し自在に挿入する。このとき、スペーサの厚さを、隙間の長さより短く、かつ加圧処理時、容器内圧により蓋体が開蓋方向へ移動する距離を、Oリングの自封性が保たれる距離に止める厚さとした。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23