特許第5881144号(P5881144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881144
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】昇降装置
(51)【国際特許分類】
   B66F 7/20 20060101AFI20160225BHJP
   F15B 11/22 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   B66F7/20 D
   F15B11/22
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-200735(P2011-200735)
(22)【出願日】2011年9月14日
(65)【公開番号】特開2012-62199(P2012-62199A)
(43)【公開日】2012年3月29日
【審査請求日】2014年7月30日
(31)【優先権主張番号】10 2010 045 287.4
(32)【優先日】2010年9月14日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591126677
【氏名又は名称】オットー・ヌスバウム・ゲー・エム・ベー・ハー・ウント・コー・カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】OTTO NUSSBAUM GESELLSCHAFT MIT BESCHRANKTER HAFTUNG & COMPAGNIE KOMMANDIT GESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126930
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100137590
【弁理士】
【氏名又は名称】音野 太陽
(72)【発明者】
【氏名】ハンス・ヌスバウム
【審査官】 葛原 怜士郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開平01−111694(JP,U)
【文献】 特表平07−505211(JP,A)
【文献】 特開2000−053388(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第00724273(GB,A)
【文献】 実開昭49−019193(JP,U)
【文献】 特開平05−032397(JP,A)
【文献】 特開平10−017285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 7/16− 7/20
F15B 11/00−11/22
F15B 15/00−15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ自動車を持ち上げるための少なくとも1つの流体圧シリンダユニットを有する少なくとも第1と第2の昇降機構を備え、
前記第1の昇降機構が有する第1の流体圧シリンダユニットおよび前記第2の昇降機構が有する第2の流体圧シリンダユニットは自動車を持ち上げる際にそれぞれ圧力媒体を供給するための流入ポートと圧力媒体を排出するための流出ポートとを有し、
前記第1の流体圧シリンダユニットは、当該第1の流体圧シリンダユニットが有する前記流出ポートが、スレーブユニットとして形成された前記第2の流体圧シリンダユニットが有する前記流入ポートと液体流通接続していることにより、マスタユニットとして形成されている昇降装置であって、
前記第1および第2の流体圧シリンダユニットのうち少なくとも1つの前記流体圧シリンダユニットはオーバーフロー流路を有し、
前記オーバーフロー流路は、自動車が最大限に持ち上げられた終端位置領域または最大限に引き下げられた終端位置領域においてのみ当該流体圧シリンダユニットの前記流入ポートが前記オーバーフロー流路と液体流通接続するように構成され、
前記オーバーフロー流路は、シリンダの内側面に設けられた窪み付きで形成されており、当該窪みは自動車が少なくとも最大限に持ち上げられた場合にピストンが位置する終端位置領域または最大限に引き下げられた場合にピストンが位置する終端位置領域に配置されている、または
前記流体圧シリンダユニットの前記オーバーフロー流路は、バイパス路として形成され、かつ第一の孔と第二の孔を有し、前記第一の孔と前記第二の孔は、シリンダ壁に、ピストンの変位方向に互いに離間して配置され、かつ前記第一の孔と前記第二の孔は前記シリンダ壁内部で互いに液体流通接続されることを特徴とする昇降装置。
【請求項2】
前記オーバーフロー流路は、自動車が最大限に持ち上げられた終端位置領域においてのみ前記流体圧シリンダユニットの前記流入ポートと前記オーバーフロー流路とが液体流通接続するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の昇降装置。
【請求項3】
前記スレーブユニットは、圧力媒体タンクと、またはスレーブユニットとして形成されたさらに別の流体圧シリンダユニットの流入ポートと、あるいはその両方と液体流通接続したオーバーフロー流路を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の昇降装置。
【請求項4】
前記マスタユニットは、前記スレーブユニットの流入ポートと液体流通接続したオーバーフロー流路を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の昇降装置。
【請求項5】
流体圧シリンダユニットの前記オーバーフロー流路は少なくとも前記終端位置領域において流体圧シリンダユニットの流出ポートと液体流通接続していることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の昇降装置。
【請求項6】
前記オーバーフロー流路は、終端位置の前方から終端位置まで2cm未満のストロークにおいて、流体圧シリンダユニットの前記流入ポートが前記オーバーフロー流路と液体流通接続されるように構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の昇降装置。
【請求項7】
前記バイパス路は前記終端位置において、前記オーバーフロー流路を貫流する圧力媒体がピストンのピストンシールに接触することなく、流体圧シリンダユニットの流入ポートと流出ポートの間の液体流通接続が生ずることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の昇降装置。
【請求項8】
前記オーバーフロー流路はその両端においてシリンダ壁に設けられた開口または孔を通じてシリンダ室と液体流通接続することを特徴とする請求項7に記載の昇降装置。
【請求項9】
記オーバーフロー流路は前記シリンダの前記内側面に設けられた溝を含むことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の昇降装置。
【請求項10】
前記オーバーフロー流路は流体圧シリンダユニットのシリンダ底領域にも形成されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の昇降装置。
【請求項11】
前記流体圧シリンダユニットのオーバーフロー流路は少なくとも一部が当該流体圧シリンダユニットの前記シリンダのシリンダヘッドに形成され、前記シリンダヘッドに1個の流出ポートが形成され、前記オーバーフロー流路はこの流出ポートに合流することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の昇降装置。
【請求項12】
前記流体圧シリンダユニットは入れ子式流体圧シリンダユニットとして形成されていることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の昇降装置。
【請求項13】
前記入れ子式流体圧シリンダユニットの各々の流体圧シリンダユニットはそれぞれ少なくとも1つのオーバーフロー流路を有していることを特徴とする請求項12に記載の昇降装置。
【請求項14】
前記昇降機構は昇降支柱として形成されていることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の昇降装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれ自動車を持ち上げるための少なくとも1つの流体圧シリンダユニットを有する少なくとも第1と第2の昇降機構を備え、前記第1の昇降機構が有する第1の流体圧シリンダユニットおよび前記第2の昇降機構が有する第2の流体圧シリンダユニットは自動車を持ち上げる際にそれぞれ圧力媒体を供給するための流入ポートと圧力媒体を排出するための流出ポートとを有し、前記第1の流体圧シリンダユニットは、当該第1の流体圧シリンダユニットが有する前記流出ポートが、スレーブユニットとして形成された前記第2の流体圧シリンダユニットが有する前記流入ポートと液体流通接続していることにより、マスタユニットとして形成されている昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特に保守または修理のために自動車を持ち上げるため、あるいは駐車ガレージのリフトシステム用に、それぞれ自動車を持ち上げるための1つの流体圧シリンダユニットを有する少なくとも第1と第2の昇降機構を含んでなる昇降装置は公知に属する。自動車を持ち上げるため、それぞれの流体圧シリンダユニットには流入ポートを経て圧力媒体たとえば圧媒油が供給され、ピストンによって排除された圧力媒体は流出ポートを経て排出される。この場合、上記の流体圧シリンダユニットを指令−追従システムとして形成することは公知に属する。その際、第1の流体圧シリンダユニットは、その流出ポートが、スレーブユニットとして形成された第2の流体圧シリンダユニットの流入ポートと液体流通接続されることによって、マスタユニットとして形成されている。
【0003】
この種の昇降装置は数多くの実施形態によって知られている。たとえば、昇降機構を、一般に、持ち上げられるべき自動車の下側に配置されたジャッキとして構成することが知られている。同じく、昇降機構を昇降支柱として形成し、少なくとも一方の昇降支柱を自動車の一方の側に配置し、第2の昇降支柱を自動車の他方の側に配置することも公知に属する。また同じく、昇降装置を、昇降機構がそれぞれ二又リフトとして形成された二又式昇降装置として形成することも知られている。この種の昇降装置は自動車重量および自動車サイズに応じて2個またはそれ以上の昇降機構を有している。
【0004】
なお、公知の昇降装置の上述した全ての適用形態に本発明の昇降装置も適用される。
【0005】
マスタ−スレーブシステム中に少なくとも2機の流体圧シリンダユニットを使用することは、熱膨張または作動油等の圧力媒体への空気混入あるいはその両方に起因して、マスタユニットとスレーブユニットの間の同期作動が妨げられるというトラブルが生じやすく、またそのために、特に持ち上げられた状態において昇降装置が傾斜してしまうこと、油圧系の一部に圧力スパイクが発生することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、公知の昇降装置を、特に、たとえば流体圧システム、一般には流体圧システムの不均一な熱ストレスまたは空気混入あるいはその両方に起因して生ずる、伸張状態における昇降装置のレベリング・エラーならびに流体圧系内での圧力スパイクの発生を改善することである。本発明のさらにもう一つの目的は、昇降装置油圧系への圧力媒体の供給または排出あるいはその両方を容易化することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明による昇降装置は、それぞれ自動車を持ち上げるための少なくとも1つの流体圧シリンダユニットを有する少なくとも第1と第2の昇降機構を備え、前記第1の昇降機構が有する第1の流体圧シリンダユニットおよび前記第2の昇降機構が有する第2の流体圧シリンダユニットは自動車を持ち上げる際にそれぞれ圧力媒体を供給するための流入ポートと圧力媒体を排出するための流出ポートとを有し、前記第1の流体圧シリンダユニットは、当該第1の流体圧シリンダユニットが有する前記流出ポートが、スレーブユニットとして形成された前記第2の流体圧シリンダユニットが有する前記流入ポートと液体流通接続していることにより、マスタユニットとして形成されており、さらに、前記第1および第2の流体圧シリンダユニットのうち少なくとも1つの前記流体圧シリンダユニットはオーバーフロー流路を有し、前記オーバーフロー流路は、自動車が最大限に持ち上げられた終端位置領域または最大限に引き下げられた終端位置領域においてのみ当該流体圧シリンダユニットの前記流入ポートが前記オーバーフロー流路と液体流通接続するように構成され、前記オーバーフロー流路は、シリンダの内側面に設けられた窪み付きで形成されており、当該窪みは自動車が少なくとも最大限に持ち上げられた場合にピストンが位置する終端位置領域または最大限に引き下げられた場合にピストンが位置する終端位置領域に配置されている、または前記流体圧シリンダユニットの前記オーバーフロー流路は、バイパス路として形成され、かつ第一の孔と第二の孔を有し、前記第一の孔と前記第二の孔は、シリンダ壁に、ピストンの変位方向に互いに離間して配置され、かつ前記第一の孔と前記第二の孔は前記シリンダ壁内部で互いに液体流通接続されることを特徴とする。
【0008】
つまり、本発明による昇降装置は、それぞれ自動車を持ち上げるための少なくとも1つの油圧シリンダユニットを有する少なくとも第1と第2の昇降機構を備えている。各々の第1と第2の昇降機構が有する第1と第2の流体圧シリンダユニットは自動車を持ち上げる際にそれぞれ圧力媒体を供給するための流入ポートと圧力媒体を排出するための流出ポートとを有している。さらに、上記の第1と第2の流体圧シリンダユニットはマスタ−スレーブシステムとして形成されている。すなわち、第1の流体圧シリンダユニットは、該流体圧シリンダユニットの流出ポートが、スレーブユニットとして形成された第2の流体圧シリンダユニットの流入ポートと液体流通接続していることにより、マスタユニットとして形成されている。
【0009】
本発明の重要な点は、第1と第2の流体圧シリンダユニットの少なくとも1つの流体圧シリンダユニットはオーバーフロー流路を有していることである。このオーバーフロー流路は、自動車が最大限に持ち上げられたまたは最大限に引き下げられた終端位置領域においてのみ、当該流体圧シリンダユニットの流入ポートが該オーバーフロー流路と液体流通接続するように構成されている。
【0010】
従来の流体圧シリンダユニットにおいて、ピストンが上記の終端位置にある場合には、流入ポートを経てさらにそれ以上の圧力媒体を供給することはできない。他方、本発明による昇降装置の場合には、上記終端位置において流入ポートとオーバーフロー流路との液体流通接続が生じ、これによって、利点を得ることができる。たとえば、圧力媒体はオーバーフロー流路によって排出可能であるために、終端位置においても流入ポートを経て当該流体圧シリンダユニットにさらに圧力媒体を供給することが可能である。これによって、圧力スパイクとくにいわゆる「昇圧」を回避することができる。またさらに、終端位置への流体圧シリンダユニットのスライド変位、圧力媒体の追加供給、そして、上述したような、オーバーフロー流路を介した圧力媒体の排出によって、流体圧シリンダユニットへの容易な供給または排出あるいはその両方が可能である。さらに、流入ポートを経て圧力媒体が連続的に供給されることによって流体圧シリンダユニットが終端位置に位置することが保証され、これによって昇降装置のレベリングが簡単に行われるようになる。
【0011】
自動車が最大限に持ち上げられた場合の終端位置に上記のように構成されたオーバーフロー流路が設けられていると共に、自動車が最大限に引き下げられた場合の終端位置にもオーバーフロー流路が設けられることも本発明の好適な実施形態である。ただし、双方の終端位置のうちの一方にのみオーバーフロー流路を設けても効果的である。特に、自動車が最大限に持ち上げられた場合の終端位置領域にオーバーフロー流路を設けることは有利である。その場合には、この終端位置において自動車が最大限に持ち上げられた状態でレベリングが行われる。このレベリングが行われていることによって、特に、自動車が最大限に持ち上げられた状態での測定が高い精度で実施可能となる。
【0012】
本発明の好適な実施形態において、昇降装置に設けられた上記流体圧シリンダユニットのうち1つの流体圧シリンダユニットのみがオーバーフロー流路を有するもしくは複数の流体圧シリンダユニットがオーバーフロー流路を有する、または昇降装置のすべての流体圧シリンダユニットがオーバーフロー流路を有する。
【0013】
好ましくは、少なくともスレーブユニットは、圧力媒体タンクと、またはスレーブユニットとして形成されたさらに別の流体圧シリンダユニットの流入ポートと、あるいはその両方と液体流通接続したオーバーフロー流路を有している。
【0014】
これにより、上述した昇圧が回避される。
【0015】
たとえば熱膨張によってマスタユニットとスレーブユニットの間に調整不良が生じ、マスタユニットがまだ終端位置に位置していないにもかかわらず、スレーブユニットがすでに終端位置に位置していれば、従来の昇降装置では、マスタユニットが終端位置にスライド変位する際に、マスタユニットの流出ポートとスレーブユニットの流入ポートの間の油圧流路に圧力スパイクが生ずるが、本発明の上述した好ましい実施形態では、スレーブユニットにおいて、流入ポートはオーバーフロー流路と液体流通接続しているために、圧力媒体はオーバーフロー流路を経て上記のタンクまたはさらに別のスレーブユニットあるいはその両方に流入することが可能であり、その結果、圧力スパイクは生じない。
【0016】
特に、この好ましい実施形態にあっては、少なくともマスタユニットは常に終端位置までスライド変位し得ることが保証されている。
【0017】
さらに別の好ましい実施形態において、マスタユニットは、スレーブユニットの流入ポートと液体流通接続したオーバーフロー流路を有している。もしも、たとえば上述したように、熱膨張に起因した調整不良によって、スレーブユニットがまだ終端位置に位置していないにもかかわらず、マスタユニットがすでに終端位置に位置していれば、従来の技術から公知の昇降装置において、スレーブユニットは終端位置にスライド変位し得ないために、傾斜姿勢が生ずる。他方、本発明による昇降装置の上述した好適な実施形態では、マスタユニットの終端位置において、圧力媒体はマスタユニットの流入ポートから出発して、マスタユニットのオーバーフロー流路を経て、スレーブユニットの流入ポートに達することができるため、上述した調整不良が生じても、スレーブユニットは終端位置に達することができる。これによって、上述した昇降装置の傾斜姿勢が回避される。
【0018】
特に、マスタユニットならびにスレーブユニットのいずれもがそれぞれオーバーフロー流路を有しており、マスタユニットのオーバーフロー流路はスレーブユニットの流入ポートと液体流通接続し、スレーブユニットのオーバーフロー流路はタンクまたはさらに別のスレーブユニットの流入ポートあるいはその両方と液体流通接続しているのが好ましい。
【0019】
これによって、一方で、それぞれ上記の好ましい実施形態について述べたあらゆる利点が得られる。さらに、この好ましい実施形態において、流体圧系への流体媒体の供給・排出が容易に実現することができる。
【0020】
そのためには、圧力媒体がマスタユニットの流入ポートを経て供給されさえすればよい。マスタユニットが終端位置に位置するやいなや、圧力媒体はマスタユニットのオーバーフロー流路を経てスレーブユニットの流入ポートに流れ込む。さらに、スレーブユニットが終端位置に達するやいなや、圧力媒体はスレーブユニットのオーバーフロー流路を経て圧力媒体タンクまたはさらに別のスレーブユニットに流入する。したがって、マスタユニットの流入ポートへの圧力媒体の連続的供給によって、容易に、指令−追従システムへの供給ならびに排出が行われる。
【0021】
好ましくは、上記のオーバーフロー流路は、終端位置の前方において終端位置まで2cm未満、好ましくは終端位置の前方において終端位置まで1cm未満、好適には終端位置の前方において終端位置まで0.5cm未満のストロークから、上記の流体圧ユニットの流入ポートがオーバーフロー流路と液体流通接続されるように構成されている。これによって、持ち上げストロークにおいて基本的に、公知の流体圧シリンダユニットを有した公知の昇降装置の場合と同様な圧力・力の分布が生じ、単に終端位置に達する直前において圧力媒体はオーバーフロー流路を経て排出されるようにすることが保証される。
【0022】
自動車が最大限に持ち上げられた場合に流入ポートがオーバーフロー流路と液体流通接続されるようにオーバーフロー流路が配置されている限り、自動車が最大限に持ち上げられている際に基本的にピストンの「浮動ポジション」が可能であるため、オーバーフロー流路と流体圧シリンダユニットのシリンダないしピストンの間の寸法設計には基本的に特別な要件は生じない。ただし、オーバーフロー流路の流れ断面積をストローク面に対して垂直なピストンの断面積の少なくとも1つの/5以下、特に少なくとも1つの/10以下、好ましくは1/20以下に形成するのが有利である。
【0023】
自動車が最大限に引き下げられた場合に、流体圧シリンダユニットの流入ポートがオーバーフロー流路と流体導通連結されるようにオーバーフロー流路が構成されている場合には、自動車を持ち上げる際に最初の僅かなストローク範囲において圧力媒体の一部がシリンダのピストンの脇を通過し、オーバーフロー流路を経て、シリンダの流出ポートに流れ込む。このことは、ポンプとシリンダは、自動車を持ち上げる際に流体圧シリンダユニットの流入ポートに圧力媒体を供給するためのポンプの送出量がオーバーフロー流路を貫流する量よりも大であるように形成されていなければならないことを意味している。ピストンがオーバーフロー流路を越えるやいなや、流入ポートとオーバーフロー流路の間の液体流通接続はもはや存在しないため、流入ポートを経て供給される圧力媒体の全量は自動車を持ち上げるために作用する。したがって、自動車が最大限に引き下げられた際の終端位置に配置されたオーバーフロー流路は、補助的に、始動制御の役割を果たすこととなり、つまり、流体圧シリンダユニットの流入ポートを経て連続的に送出が行われる場合、先ず圧力媒体がオーバーフロー流路を経て流れるために、リフト速度は緩慢であり、続いて、オーバーフロー流路を介してピストンを迂回することがなくなるために、高いリフト速度が達成されることになる。
【0024】
オーバーフロー流路は好ましくは、シリンダのピストンと連携することを別として、可動部品なしで形成されている。これによって、安価かつ堅牢な構成がもたらされる。特に、オーバーフロー流路は好ましくは、中間配置された弁なしで、とりわけ機械式作動弁なしで、形成されている。
【0025】
構造的に単純かつ堅牢な構成は、オーバーフロー流路がシリンダの内側面に設けられた窪みを含んで形成されている好ましい実施形態において達成され、その際、この窪みは自動車が最大限に持ち上げられた場合にピストンが位置する終端位置領域に配置されている。したがって、シリンダの内側面に上記の窪みをたとえばフライス切削するという軽度な対策によって、本発明による昇降装置用のオーバーフロー流路を実現することが可能である。特に構造的に単純な構成は、オーバーフロー流路がシリンダの内側面に設けられた溝を含んでなることによって得られる。
【0026】
さらに、構造的に単純な構成は、オーバーフロー流路の少なくとも一部が流体圧シリンダユニットのシリンダ底部に形成されている好ましい実施形態によっても達成される。
【0027】
一般的な油圧シリンダはピストンの終端位置領域にシリンダヘッドを有している。好ましくは、流体圧シリンダユニットのオーバーフロー流路は少なくとも一部がこの流体圧シリンダユニットのシリンダのシリンダヘッド底にも形成されている。これによっても、オーバーフロー流路を形成するために別個の流路が必要とされないために、特に堅牢な実施形態が得られる。特に、シリンダヘッドに吐出し路を形成し、かつ、シリンダヘッド内でこの吐出し路に合流するようにオーバーフロー流路を形成するのが有利である。
【0028】
好ましくは、オーバーフロー流路は、上述したように、シリンダ内側面に設けられた溝ならびにシリンダヘッド底部に設けられた、好ましくは吐出し路に合流する溝を含んでなる。ただし、油圧シリンダは、ピストンロッドがピストンから突き出ているために、終端位置においてピストンがシリンダヘッド底に面一をなして密接するようには形成されていないことが多い。こうした場合には、シリンダ底に設けられる上記の溝はオーバーフロー流路を形成するために必ずしも必要ではない。
【0029】
本発明による昇降装置において、流体圧シリンダユニットのオーバーフロー流路はバイパス路として形成され、終端位置において流入ポートとこの流体圧シリンダユニットの流出ポートの間に液体流通接続が生ずるが、ただし、オーバーフロー流路を貫流する圧力媒体とピストンのピストンシールの間には流れ接触が生じないように配置されている。この好ましい実施形態は、圧力媒体がオーバーフロー流路を貫流する際にピストンシールに沿って摩耗作用を及ぼしながら流れると、ピストンのピストンシールが損傷しあるいは少なくともシール効果が損なわれるリスクがあるとの本願出願人の知見に基づいている。これは、特に、部分的に高い圧力と高い流れ速度が生じ、これがピストンシールの材料に不適な作用を及ぼすとの理由に基づいている。したがって、オーバーフロー流路をバイパス路の形で形成し、流体圧シリンダユニットの流入ポートと流出ポートとはバイパス路によって液体流通接続されるが、ただし圧力媒体はこの迂回路を貫流する際にピストンシールと接触することはなく、該シールを迂回して流れるようにするのが有利である。
【0030】
この場合、オーバーフロー流路はそれぞれ端部側が、シリンダ壁に設けられた開口、好ましくは孔を経てシリンダ室と液体流通接続されている。この場合、特に構造的に単純な構成は、ピストンのスライド変位方向に互いに離間した2個の孔がシリンダ壁に設けられ、これらの孔が、シリンダ壁内部で、バイパス路を形成するために互いに液体流通接続されていることによって達成される。
【0031】
上述したように、本発明による昇降装置において、終端位置へのスライド変位は大幅な利点をもたらす。好ましくは、昇降装置の上昇・下降は制御装置によって制御され、該制御装置は好ましくは、所定の時間範囲でおよび/または所定の外部温度差の超過または外部圧力変動あるいはその両方に応じ終端位置が到達されなかった限りで、プリセット可能な一定の時間間隔で、または、外部温度センサまたは圧力センサあるいはその両方の測定値に応じ、ユーザに対して終端位置へのスライド変位が勧告されるように形成されている。これにより、昇降装置の調整不良を結果し得る一定の時間の経過後に、または外部条件たとえば調整不良を結果し得る周囲温度や周囲圧力の変化に基づき、表示装置によってユーザに対して終端位置へのスライド変位が報知される。これにより、自動レベリングが行われるようにすることが可能となる。
【0032】
本発明による昇降装置は、特に、自動車の修理時および/または保守時の使用に適している。同じく、本発明による昇降装置は、有利には、駐車システム、特に、自動車が積み重ねて収納される二重または多重駐車システムに使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明による昇降装置の実施形態の1つを示す斜視図である。
図2図1に示した昇降装置の油圧回路図である。
図3図1に示した流体圧シリンダユニットのピストン終端位置における終端領域の一部の縦断面図である。
図4図1に示した昇降装置用流体圧シリンダユニットのさらに別の実施形態の縦断面図であり、図中には、シリンダの上下端の一部が示されている。
図5図1に示した昇降装置用流体圧シリンダユニットのさらに別の実施形態を示す図であり、この場合、オーバーフロー流路はバイパス路として形成されている。
図6図1に示した昇降装置用流体圧シリンダユニットのさらに別の実施形態を示す図であり、この場合、オーバーフロー流路はバイパス路として形成されている。
図7流体圧シリンダユニットが同期入れ子式シリンダとして形成された、図1に示した昇降装置用流体圧シリンダユニットのさらに別の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図示した実施形態の昇降装置は昇降支柱型昇降装置1として形成されており、昇降支柱1aおよび1bとして形成された2個の昇降機構を有している。各々の昇降支柱は上下に可動する二又サポートアーム2a、2bを有し、該サポートアームは作動時に昇降支柱1a、1bの間に配置された自動車を下側から支えるため、これらの二又サポートアーム2a、2bの上昇によって自動車を持ち上げることができる。
【0035】
制御は、ユーザによって操作される図中不図示の操作パネルを含んだ装置3によって行われる。また、この実施形態では流体圧として油圧が用いられている。
【0036】
昇降支柱1aは二又サポートアーム2aを上昇・下降させるための第1の流体圧シリンダユニットを含み、同様に、昇降支柱1bは二又サポートアーム2bを上昇・下降させるための第2の流体圧シリンダユニットを含んでいる。昇降支柱1aの第1の流体圧シリンダユニットは、第1の流体圧シリンダユニットの流出ポートが、第1の排出管4によって、スレーブユニットとして形成された第2の流体圧シリンダユニットの流入ポートと液体流通接続されていることにより、マスタユニットとして形成されている。双方の流体圧シリンダユニットは、ピストンの終端位置で二又サポートアームが最大限に持ち上げられた位置にあるように形成されている。
【0037】
重要な点は、上記2台の流体圧シリンダユニットはそれぞれがオーバーフロー流路を有し、それぞれのオーバーフロー流路はそれぞれの流体圧シリンダユニットの排出管と液体流通接続されており、それぞれの流体圧シリンダユニットの流入ポートは、自動車が最大限に持ち上げられた終端位置領域においてのみ、それぞれのオーバーフロー流路と液体流通接続されるように構成されていることである。以下、この点につき、図2に示した油圧回路図によって説明する。
【0038】
図2は、図1に示した昇降装置1の油圧回路を回路図によって示したものである。圧媒油は、二又サポートアームを上昇させるため、圧媒油の満たされたタンク5から出発して、ポンプ6により吸引フィルタ7を経て吸引され、第1の流入管8を経て、マスタユニットとして形成された第1の流体圧シリンダユニット9の第1の流入ポート9aに供給される。これにより、図2において、第1の流体圧シリンダユニット9のピストン9bの上方へのスライド変位が行われる。ピストン9bの上方で流体圧シリンダユニット9から排除された圧媒油は、第1の排出管4を経て、第2の流体圧シリンダユニット10の流入ポート10aに供給されるため、同じく図2において、第2の流体圧シリンダユニット10のピストン10bも上方にスライド変位する。双方の流体圧シリンダユニット9および10の寸法設計は、ピストン9bと10bとが同速度で上昇するように選択されている。この場合、第2の流体圧シリンダユニット10によって排除された圧力媒体は第2の排出管11を経て再びタンク5に供給される。
【0039】
流体圧シリンダユニット9および10は昇降支柱1aおよび1bにおいてそれぞれ上部区域に配置されており、それらのピストンはそれぞれの二又サポートアーム2aおよび2bと結合されているため、ピストン9bおよび10bの上昇は二又サポートアーム2aおよび2bの上昇をもたらす。
【0040】
二又サポートアーム2aおよび2bを下降させるため、圧媒油は、2−2複路弁12の切換えによって、返送管13を経てタンク5に供給されるが、その際、下降速度は下降制動器によって制御可能である。
【0041】
安全上の理由から、第1の流入管8と返送管13の間には、中間に圧力制限弁15の介装された管が配置されている。
【0042】
第1の流体圧シリンダユニットはオーバーフロー流路9cを有し、第2の流体圧シリンダユニット10はオーバーフロー流路10cを有している。これらのオーバーフロー流路はそれぞれ、二又サポートアーム2aおよび2bが最大限に持ち上げられた場合にピストン9bおよび10bが位置するシリンダ終端領域に配置されている。オーバーフロー流路9cは第1の排出管4と液体流通接続され、オーバーフロー流路10cは第2の排出管11と液体流通接続されている。
【0043】
ピストン9bが終端位置にある場合、流入ポート9aはオーバーフロー流路9cを経て第1の排出管4と液体流通接続されている。同様に、流入ポート10aも、ピストン10bが終端位置にある限り、オーバーフロー流路10cを経て第2の排出管11と液体流通接続されている。
【0044】
これにより、従来の技術から公知の昇降装置に比較して、以下のような重要な利点が生ずる。
【0045】
一方において、昇降装置1への圧媒油の注入ならびに息抜きを容易に行うことが可能である。それには、ポンプ6によって圧媒油をタンク5から第1の流体圧シリンダユニット9の流入ポート9aに供給する必要があるだけにすぎない。ピストン9bが終端位置に位置するようになるやいなや、圧媒油はオーバーフロー流路9cと第1の排出管4とを経て流入ポート10a、したがって第2の流体圧シリンダユニット10に流入する。第2の流体圧シリンダユニット10のピストン10bが終端位置に位置するようになるやいなや、圧媒油は、オーバーフロー流路10cと第2の排出管11とを経て、タンク5に還流する。これにより、容易な方法で、油圧系への圧力媒体の注入および息抜きが行われる。
【0046】
もしも、外的要因たとえば熱膨張に起因して調整不良が生じ、第1の流体圧シリンダユニット9のピストン9bがまだ終端位置に位置していないにもかかわらず、第2の流体圧シリンダユニット10のピストン10bが終端位置に位置してしまっても、なお、流入ポート9aにさらに圧媒油を供給し続けることによりピストン9bを終端位置にもたらすことが可能であり、その際、これによって排除された圧媒油は第1の排出管4、流入ポート10a、オーバーフロー流路10cおよび第2の排出管11を経てタンク5に戻され、その際に、圧力スパイク(上述した昇圧)が防止される。
【0047】
もしも、上記とは反対に、第1の流体圧シリンダユニット9のピストン9bが終端位置にあるにもかかわらず、第2の流体圧シリンダユニット10のピストン10bがまだ終端位置に位置していない場合には、流入ポート9aを経てさらに圧媒油を供給することができ、この圧媒油はオーバーフロー流路9cと第1の排出管4とを経て第2の流体圧シリンダユニットの流入ポート10aに供給されるため、第2の流体圧シリンダユニット10も終端位置にもたらされることができる。したがって、調整不良が生じた場合にもそれとはかかわりなく、双方のピストン9bおよび10bには、オーバーフロー流路9cおよび10cが設けられているために、終端位置にもたらされることになる。これにより、上述した調整不良とはかかわりなく終端位置への双方のピストンのスライド変位が保証されているために、終端位置におけるレベリングは担保されていることになる。
【0048】
したがって、終端位置へのピストンのスライド変位、すなわち、二又サポートアーム2aおよび2bの最大限の持ち上げが行われる場合には、常に、自動的なレベリングが行われる。
【0049】
図3には、図2の符号Aに対応する流体圧シリンダユニット9の一部が表されており、この場合、ピストン9bは、図2とは異なり、終端位置に位置している。図3は、流体圧シリンダユニット9のピストン9bならびにシリンダ9dの中心軸と平行な断面を表しており、同図において、この断面は中心軸を通っている。
【0050】
シリンダ9dは、流出ポート9fの形成されたシリンダヘッド9eを有している。この流出ポートは第1の排出管4と液体流通接続されている。
【0051】
重要な点は、シリンダ9dがオーバーフロー流路9cを有していることである。このオーバーフロー流路9cはシリンダ9d内のB領域に形成された、一定のストローク長さにわたって延びてほぼシリンダ終端部にまで達している溝9gを含んでいる。
【0052】
ピストン9bはOリングとして形成されたシール9hを有しており、このシールは、終端位置を除き、ピストン9bをシリンダ9dの内壁に対して封止している。ピストン9bの終端位置において、シリンダ9dの内部空間は、図3に示した鎖線による矢印が示しているように、溝9gと液体流通接続されている。溝9gはシリンダヘッド9eに配された(図中不図示の)窪みに合流し、この窪みはまた、流出ポート9fに合流している。
【0053】
したがって、図3に示したピストン9の終端位置では、シリンダ9dの内部空間と流出ポート9fの間に、溝9gを介した、液体流通接続が生ずるため、流体圧シリンダユニット9の流入ポートは流出ポート9fと液体流通接続され、したがって、第1の排出管4と液体流通接続されている。他方、ピストン9bが終端位置以外に位置している場合には、シール9hは全周にわたってシリンダ9dの内壁に密接しているため、流体圧シリンダユニット9の流入ポートと流出ポートの間の液体流通接続は生じない。
【0054】
図4は、同じく、図1に示した昇降装置に使用するための、別の実施形態の流体圧シリンダユニット90のさらに一部を示している。ピストン90bはこの選択図において下側終端位置、つまり、自動車が最大限に引き下げられた位置にある。図4も、同じく、流体圧シリンダユニット90の中心軸を通る縦断面図を表している。
【0055】
シリンダ90dは、流出ポート90fの形成されたシリンダヘッド90eを有している。この流出ポートは、図1に示した昇降装置にこの流体圧シリンダユニットが使用される場合、排出管4と連結されている。
【0056】
重要な点は、シリンダ90dは第1のオーバーフロー流路90cを有しており、このオーバーフロー流路は図3に示したオーバーフロー流路9cと同様に形成されて、シリンダ90dの内壁に形成された同様な溝90g1を含んでいることである。さらに、この実施形態の流体圧シリンダユニット90は、第2の溝90g2を含んだ第2のオーバーフロー流路を有している。この溝90g2も同じくシリンダ90dの内側面に形成されており、図4の右下に示したように、少なくともピストン90bの高さ全体にわたって延び、ピストン90bが下側終端位置に位置している場合に流入ポート90aが溝90g2を経てピストンの上方にあるシリンダ90dの内部空間と液体流通接続されるように、したがって、流出ポート90fとも液体流通接続されるように配置されている。溝90g2は流入ポート90aから出発して、ピストンのシールが下側終端位置に位置している領域を越えて延びているために、圧媒油は流入ポート90aから出発して溝90g2を経て、つまり、シールの側方を通過して、流入することができる。
【0057】
したがって、この好ましい実施形態の流体圧シリンダユニット90において、ピストン
90bが下側終端位置、つまり、自動車が最大限に引き下げられた位置にあっても、圧力媒体は流入ポート90aから出発して、溝90g2を経て、ピストン90bの周囲を通過
し、流出ポート90fに向かって流入することができるため、たとえば油圧系への注入が可能であり、したがってこうして、油圧系への注入および/または息抜きを行うことができる。さらに、スレーブユニットが形成される場合、図4に示したように常に終端位置までの下降が行なわれ、こうして、引き下げられた状態にあってもレベリングが行なわれ、もしも熱膨張に起因する調整不良が生じても補償が行われるように担保されている。
【0058】
図5および6には、さらに別の実施形態の流体圧シリンダユニット900が図示されている。この場合、図5(a)は中心軸を通る縦断面図を、図5(b)は図5(a)に示したZ領域の拡大図を、図5(c)はまた図5(b)に示したY領域の拡大図をそれぞれ表している。
【0059】
図6はシリンダ900dの一部を示しており、そのシリンダ壁には複数の孔により、バイパス路900cとして形成されたオーバーフロー流路が表されている。この場合、部分図6bは部分図6aのイパス路900cの領域を拡大して示している。
【0060】
流体圧シリンダユニット900は基本的に図3および4に示した流体圧シリンダユニット9および流体圧シリンダユニット90と同等な構造を有している。ただし、オーバーフロー流路がバイパス路900cとして形成されている点に重大な相違がある。
【0061】
特に図5aおよび5bから看取されるように、バイパス路900cは、ピストンが最大限に繰り出された場合の終端位置において流入ポート900aが流体圧シリンダユニット900の流出ポート900fと液体流通接続されるように配置されている。このバイパス路は、圧力媒体がピストンシール900hを迂回して、つまり、シール900hに接触することなく、流入ポート900aと流出ポート900fの間を流れるように形成されている。
【0062】
そのため、シリンダ900dのシリンダ壁には、第1の孔16aと第2の孔16bとが設けられている。孔16aと16bとはそれぞれ、第1と第2の孔に比較してより大きな直径を有する第3の孔16cに合流している。
【0063】
第3の孔16cは封止カバー17によって周囲に対して液密式に形成されている。図6aおよび6bでは、わかり易くするために、封止カバー17は不図示である。
【0064】
封止カバー17はそのピストン対向面にリング状の窪み17aを有している。したがって、シリンダ室への第1の孔16aの合流点から出発して、封止カバー17のリング状の窪み17aへの第1の孔16aの合流を経て液体流通接続が生じている。リング状の窪み17aはまた、対向する第2の孔16bの開口と液体流通接続されているため、この第2の孔16bもまたシリンダ室に合流する。
【0065】
したがって、図5a、bおよびcに示した終端位置において、圧力媒体は流入ポート900aから出発してバイパス路900cすなわち、先ず第1の孔16、続いて、封止カバー17のリング状の窪み17a、続いて再び第1の孔16aを貫流し、こうして、ピストンシール900を迂回して再びシリンダ室に流入する。
【0066】
孔16aおよび16bはおおよそ1mmの直径を有している。孔16cは約9mmの直径を有している。孔16aと16bの中心点は約6mmだけ互いに離間している。
【0067】
封止カバー17は固定手段17bによってシリンダ900dのシリンダ壁に配置されている。
【0068】
したがって、流体圧シリンダユニット900は、ピストンシール900hを越える流れがバイパス路900cを経て行われることにより、ピストンシール900hの摩耗または損傷あるいはその両方が生じないという利点を有している。
【0069】
ピストンシール900hの垂直方向上方には溝切りされたガイドリング22が配置されており、このガイドリングに設けられた溝によってピストンとシリンダ室の間の垂直方向のオイル流れが可能とされる。
【0070】
図7は、それ自体公知の同期入れ子式流体圧シリンダユニットとして形成された、さらに別の実施形態の流体圧シリンダユニット9000を示している。したがって、この流体圧シリンダユニット9000は、同心配置された2個のピストン9000b1と9000b2ならびに同心配置された2個のシリンダ9000d1と9000d2を有している。したがって、ピストン9000b1のピストンロッドは第2の流体圧シリンダユニットのシリンダ9000d2を形成している。
【0071】
重要な点は、シリンダ9000d1およびシリンダ9000d2のシリンダ壁にそれぞれオーバーフロー流路9000c1および9000c2が形成されていることである。
【0072】
したがって、これによって、入れ子式流体圧シリンダユニットの利点がオーバーフロー流路の使用による上述した利点と組み合わされることになる。
【0073】
以下に本発明による昇降装置の実施形態を列挙する。
(1)オーバーフロー流路(9c、10c)は、自動車が最大限に持ち上げられた終端位置領域においてのみ前記油圧シリンダユニット(9、90、10)の前記流入ポート(9a、90a、10a)と前記オーバーフロー流路(9c、10c)とが液体流通接続するように構成されている。
(2)スレーブユニット(10)は、圧力媒体タンク(5)と、またはスレーブユニットとして形成されたさらに別の流体圧シリンダユニットの流入ポートと、あるいはその両方と液体流通接続したオーバーフロー流路(10c)を有している。
(3)マスタユニット(9、90)は、スレーブユニットの流入ポート(10a)と液体流通接続したオーバーフロー流路(9c)を有している。
(4)流体圧シリンダユニットのオーバーフロー流路(9c、10c)は少なくとも終端位置領域において流体圧シリンダユニットの流出ポートと液体流通接続している。
(5)オーバーフロー流路(9c、10c)は、終端位置の前方から終端位置まで2cm未満、好ましくは終端位置の前方において終端位置まで1cm未満、好適には終端位置の前方において終端位置まで0.5cm未満のストロークにおいて、流体圧シリンダユニットの流入ポート(9a、90a、10a)がオーバーフロー流路(9c、10c)と液体流通接続されるように構成されている。
(6)流体圧シリンダユニットのオーバーフロー流路はバイパス路として形成され、終端位置において、オーバーフロー流路を貫流する圧力媒体がピストンのピストンシールに接触することなく、流体圧シリンダユニットの流入ポートと流出ポートの間の液体流通接続が生ずる。
(7)オーバーフロー流路はその両端においてシリンダ壁に設けられた開口、好ましくは孔を通じてシリンダ室と液体流通接続する。
(8)オーバーフロー流路(9c、10c)はシリンダ(9d、90d)の内側面に設けられた窪み付きで形成されており、この窪みは自動車が最大限に持ち上げられたまたは最大限に引き下げられた場合にピストン(9b、90b)が位置する終端位置領域に配置されており、好ましくは、オーバーフロー流路(9c、10c)はシリンダ(9d、90d)の内側面に設けられた溝(9g、90g1、90g2)を形成している。
(9)オーバーフロー流路(9c、10c)は流体圧シリンダユニット(9、90、10)のシリンダ底領域にも形成されている。
(10)流体圧シリンダユニット(9、90、10)のオーバーフロー流路(9c、10c)は少なくとも一部が当該流体圧シリンダユニットのシリンダ(9d)のシリンダヘッド(9e)に形成され、好ましくは、シリンダヘッド(9e、90e)に1個の流出ポートが形成され、オーバーフロー流路(9c、10c)はこの流出ポートに合流する。
(11)流体圧シリンダユニットは入れ子式流体圧シリンダユニットとして、特に同期入れ子式流体圧シリンダユニットとして形成されている。
(12)入れ子式流体圧シリンダユニットの各々の流体圧シリンダユニットはそれぞれ少なくとも1つのオーバーフロー流路を有している。
(13)前記昇降機構は昇降支柱(1a、1b)として形成されている。
【符号の説明】
【0074】
9、90、10 :流体圧シリンダユニット
9a、90a、10a:流入ポート
9c、10c :オーバーフロー流路
5 :圧力媒体タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7