【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明による昇降装置は、それぞれ自動車を持ち上げるための少なくとも1つの流体圧シリンダユニットを有する少なくとも第1と第2の昇降機構を備え、
前記第1の昇降機構が有する第1の流体圧シリンダユニット
および前記第2の昇降機構が有する第2の流体圧シリンダユニットは自動車を持ち上げる際にそれぞれ圧力媒体を供給するための流入ポートと圧力媒体を排出するための流出ポートとを有し、前記第1の流体圧シリンダユニットは、当該
第1の流体圧シリンダユニットが有する前記流出ポートが、スレーブユニットとして形成された前記第2の流体圧シリンダユニット
が有する前記流入ポートと液体流通接続していることにより、マスタユニットとして形成されており、さらに、前記
第1および第2の流体圧シリンダユニットの
うち少なくとも1つの
前記流体圧シリンダユニットはオーバーフロー流路を有し、前記オーバーフロー流路は、自動車が最大限に持ち上げられた
終端位置領域または最大限に引き下げられた終端位置領域においてのみ
、当該
流体圧シリンダユニットの前記流入ポートが前記オーバーフロー流路と液体流通接続するように構成さ
れ、前記オーバーフロー流路は、シリンダの内側面に設けられた窪み付きで形成されており、当該窪みは自動車が少なくとも最大限に持ち上げられた場合にピストンが位置する終端位置領域または最大限に引き下げられた場合にピストンが位置する終端位置領域に配置されている、または前記流体圧シリンダユニットの前記オーバーフロー流路は、バイパス路として形成され、かつ第一の孔と第二の孔を有し、前記第一の孔と前記第二の孔は、シリンダ壁に、ピストンの変位方向に互いに離間して配置され、かつ前記第一の孔と前記第二の孔は前記シリンダ壁内部で互いに液体流通接続されることを特徴とする。
【0008】
つまり、本発明による昇降装置は、それぞれ自動車を持ち上げるための少なくとも1つの油圧シリンダユニットを有する少なくとも第1と第2の昇降機構を備えている。各々の
第1と第2の昇降機構が有する第1と第2の流体圧シリンダユニットは自動車を持ち上げる際にそれぞれ圧力媒体を供給するための流入ポートと圧力媒体を排出するための流出ポートとを有している。さらに、上記の
第1と第2の流体圧シリンダユニットはマスタ−スレーブシステムとして形成されている。すなわち、第1の流体圧シリンダユニットは、該
流体圧シリンダユニットの流出ポートが、スレーブユニットとして形成された第2の流体圧シリンダユニットの流入ポートと液体流通接続していることにより、マスタユニットとして形成されている。
【0009】
本発明の重要な点は、
第1と第2の流体圧シリンダユニットの少なくとも1つの
流体圧シリンダユニットはオーバーフロー流路を有していることである。このオーバーフロー流路は、自動車が最大限に持ち上げられたまたは最大限に引き下げられた終端位置領域においてのみ、当該
流体圧シリンダユニットの流入ポートが該オーバーフロー流路と液体流通接続するように構成されている。
【0010】
従来の流体圧シリンダユニットにおいて、ピストンが上記の終端位置にある場合には、流入ポートを経てさらにそれ以上の圧力媒体を供給することはできない。他方、本発明による昇降装置の場合には、上記終端位置において流入ポートとオーバーフロー流路との液体流通接続が生じ、これによって、利点を得ることができる。たとえば、圧力媒体はオーバーフロー流路によって排出可能であるために、終端位置においても流入ポートを経て当該
流体圧シリンダユニットにさらに圧力媒体を供給することが可能である。これによって、圧力スパイクとくにいわゆる「昇圧」を回避することができる。またさらに、終端位置への
流体圧シリンダユニットのスライド変位、圧力媒体の追加供給、そして、上述したような、オーバーフロー流路を介した圧力媒体の排出によって、
流体圧シリンダユニットへの容易な供給または排出あるいはその両方が可能である。さらに、流入ポートを経て圧力媒体が連続的に供給されることによって
流体圧シリンダユニットが終端位置に位置することが保証され、これによって昇降装置のレベリングが簡単に行われるようになる。
【0011】
自動車が最大限に持ち上げられた場合の終端位置に上記のように構成されたオーバーフロー流路が設けられていると共に、自動車が最大限に引き下げられた場合の終端位置にもオーバーフロー流路が設けられることも本発明の好適な実施形態である。ただし、双方の終端位置のうちの一方にのみオーバーフロー流路を設けても効果的である。特に、自動車が最大限に持ち上げられた場合の終端位置領域にオーバーフロー流路を設けることは有利である。その場合には、この終端位置において自動車が最大限に持ち上げられた状態でレベリングが行われる。このレベリングが行われていることによって、特に、自動車が最大限に持ち上げられた状態での測定が高い精度で実施可能となる。
【0012】
本発明の好適な実施形態において、昇降装置に設けられた上記
流体圧シリンダユニットのうち1つの
流体圧シリンダユニットのみがオーバーフロー流路を有するもしくは複数の
流体圧シリンダユニットがオーバーフロー流路を有する、または昇降装置のすべての
流体圧シリンダユニットがオーバーフロー流路を有する。
【0013】
好ましくは、少なくともスレーブユニットは、圧力媒体タンク
と、またはスレーブユニッ
トとして形成されたさらに別の流体圧シリンダユニットの流入ポートと
、あるいはその両方
と液体流通接続したオーバーフロー流路を有している。
【0014】
これにより、上述した昇圧が回避される。
【0015】
たとえば熱膨張によってマスタユニットとスレーブユニットの間に調整不良が生じ、マスタユニットがまだ終端位置に位置していないにもかかわらず、スレーブユニットがすでに終端位置に位置していれば、従来の昇降装置では、マスタユニットが終端位置にスライド変位する際に、マスタユニットの流出ポートとスレーブユニットの流入ポートの間の油圧流路に圧力スパイクが生ずるが、本発明の上述した好ましい実施形態では、スレーブユニットにおいて、流入ポートはオーバーフロー流路と液体流通接続しているために、圧力媒体はオーバーフロー流路を経て上記のタンクまたはさらに別のスレーブユニットあるいはその両方に流入することが可能であり、その結果、圧力スパイクは生じない。
【0016】
特に、この好ましい実施形態にあっては、少なくともマスタユニットは常に終端位置までスライド変位し得ることが保証されている。
【0017】
さらに別の好ましい実施形態において、マスタユニットは、スレーブユニットの流入ポートと液体流通接続したオーバーフロー流路を有している。もしも、たとえば上述したように、熱膨張に起因した調整不良によって、スレーブユニットがまだ終端位置に位置していないにもかかわらず、マスタユニットがすでに終端位置に位置していれば、従来の技術から公知の昇降装置において、スレーブユニットは終端位置にスライド変位し得ないために、傾斜姿勢が生ずる。他方、本発明による昇降装置の上述した好適な実施形態では、マスタユニットの終端位置において、圧力媒体はマスタユニットの流入ポートから出発して、マスタユニットのオーバーフロー流路を経て、スレーブユニットの流入ポートに達することができるため、上述した調整不良が生じても、スレーブユニットは終端位置に達することができる。これによって、上述した昇降装置の傾斜姿勢が回避される。
【0018】
特に、マスタユニットならびにスレーブユニットのいずれもがそれぞれオーバーフロー流路を有しており、マスタユニットのオーバーフロー流路はスレーブユニットの流入ポートと液体流通接続し、スレーブユニットのオーバーフロー流路はタンクまたはさらに別のスレーブユニットの流入ポートあるいはその両方と液体流通接続しているのが好ましい。
【0019】
これによって、一方で、それぞれ上記の好ましい実施形態について述べたあらゆる利点が得られる。さらに、この好ましい実施形態において、流体圧系への流体媒体の供給・排出が容易に実現することができる。
【0020】
そのためには、圧力媒体がマスタユニットの流入ポートを経て供給されさえすればよい。マスタユニットが終端位置に位置するやいなや、圧力媒体はマスタユニットのオーバーフロー流路を経てスレーブユニットの流入ポートに流れ込む。さらに、スレーブユニットが終端位置に達するやいなや、圧力媒体はスレーブユニットのオーバーフロー流路を経て圧力媒体タンクまたはさらに別のスレーブユニットに流入する。したがって、マスタユニットの流入ポートへの圧力媒体の連続的供給によって、容易に、指令−追従システムへの供給ならびに排出が行われる。
【0021】
好ましくは、上記のオーバーフロー流路は、終端位置の前方において終端位置まで2cm未満、好ましくは終端位置の前方において終端位置まで1cm未満、好適には終端位置の前方において終端位置まで0.5cm未満のストロークから、上記の
流体圧ユニットの流入ポートがオーバーフロー流路と液体流通接続されるように構成されている。これによって、持ち上げストロークにおいて基本的に、公知の
流体圧シリンダユニットを有した公知の昇降装置の場合と同様な圧力・力の分布が生じ、単に終端位置に達する直前において圧力媒体はオーバーフロー流路を経て排出されるようにすることが保証される。
【0022】
自動車が最大限に持ち上げられた場合に流入ポートがオーバーフロー流路と液体流通接続されるようにオーバーフロー流路が配置されている限り、自動車が最大限に持ち上げられている際に基本的にピストンの「浮動ポジション」が可能であるため、オーバーフロー流路と
流体圧シリンダユニットのシリンダないしピストンの間の寸法設計には基本的に特別な要件は生じない。ただし、オーバーフロー流路の流れ断面積をストローク面に対して垂直なピストンの断面積の少なくとも1つの/5以下、特に少なくとも1つの/10以下、好ましくは1/20以下に形成するのが有利である。
【0023】
自動車が最大限に引き下げられた場合に、
流体圧シリンダユニットの流入ポートがオーバーフロー流路と流体導通連結されるようにオーバーフロー流路が構成されている場合には、自動車を持ち上げる際に最初の僅かなストローク範囲において圧力媒体の一部がシリンダのピストンの脇を通過し、オーバーフロー流路を経て、シリンダの流出ポートに流れ込む。このことは、ポンプとシリンダは、自動車を持ち上げる際に
流体圧シリンダユニットの流入ポートに圧力媒体を供給するためのポンプの送出量がオーバーフロー流路を貫流する量よりも大であるように形成されていなければならないことを意味している。ピストンがオーバーフロー流路を越えるやいなや、流入ポートとオーバーフロー流路の間の液体流通接続はもはや存在しないため、流入ポートを経て供給される圧力媒体の全量は自動車を持ち上げるために作用する。したがって、自動車が最大限に引き下げられた際の終端位置に配置されたオーバーフロー流路は、補助的に、始動制御の役割を果たすこととなり、つまり、
流体圧シリンダユニットの流入ポートを経て連続的に送出が行われる場合、先ず圧力媒体がオーバーフロー流路を経て流れるために、リフト速度は緩慢であり、続いて、オーバーフロー流路を介してピストンを迂回することがなくなるために、高いリフト速度が達成されることになる。
【0024】
オーバーフロー流路は好ましくは、シリンダのピストンと連携することを別として、可動部品なしで形成されている。これによって、安価かつ堅牢な構成がもたらされる。特に、オーバーフロー流路は好ましくは、中間配置された弁なしで、とりわけ機械式作動弁なしで、形成されている。
【0025】
構造的に単純かつ堅牢な構成は、オーバーフロー流路がシリンダの内側面に設けられた窪みを含んで形成されている好ましい実施形態において達成され、その際、この窪みは自動車が最大限に持ち上げられた場合にピストンが位置する終端位置領域に配置されている。したがって、シリンダの内側面に上記の窪みをたとえばフライス切削するという軽度な対策によって、本発明による昇降装置用のオーバーフロー流路を実現することが可能である。特に構造的に単純な構成は、オーバーフロー流路がシリンダの内側面に設けられた溝を含んでなることによって得られる。
【0026】
さらに、構造的に単純な構成は、オーバーフロー流路の少なくとも一部が
流体圧シリンダユニットのシリンダ底部に形成されている好ましい実施形態によっても達成される。
【0027】
一般的な油圧シリンダはピストンの終端位置領域にシリンダヘッドを有している。好ましくは、
流体圧シリンダユニットのオーバーフロー流路は少なくとも一部がこの
流体圧シリンダユニットのシリンダのシリンダヘッド底にも形成されている。これによっても、オーバーフロー流路を形成するために別個の流路が必要とされないために、特に堅牢な実施形態が得られる。特に、シリンダヘッドに吐出し路を形成し、かつ、シリンダヘッド内でこの吐出し路に合流するようにオーバーフロー流路を形成するのが有利である。
【0028】
好ましくは、オーバーフロー流路は、上述したように、シリンダ内側面に設けられた溝ならびにシリンダヘッド底部に設けられた、好ましくは吐出し路に合流する溝を含んでなる。ただし、油圧シリンダは、ピストンロッドがピストンから突き出ているために、終端位置においてピストンがシリンダヘッド底に面一をなして密接するようには形成されていないことが多い。こうした場合には、シリンダ底に設けられる上記の溝はオーバーフロー流路を形成するために必ずしも必要ではない。
【0029】
本発明による昇降装
置において、
流体圧シリンダユニットのオーバーフロー流路はバイパス路として形成され、終端位置において流入ポートとこの
流体圧シリンダユニットの流出ポートの間に液体流通接続が生ずるが、ただし、オーバーフロー流路を貫流する圧力媒体とピストンのピストンシールの間には流れ接触が生じないように配置されている。この好ましい実施形態は、圧力媒体がオーバーフロー流路を貫流する際にピストンシールに沿って摩耗作用を及ぼしながら流れると、ピストンのピストンシールが損傷しあるいは少なくともシール効果が損なわれるリスクがあるとの本願出願人の知見に基づいている。これは、特に、部分的に高い圧力と高い流れ速度が生じ、これがピストンシールの材料に不適な作用を及ぼすとの理由に基づいている。したがって、オーバーフロー流路をバイパス路の形で形成し、
流体圧シリンダユニットの流入ポートと流出ポートとはバイパス路によって液体流通接続されるが、ただし圧力媒体はこの迂回路を貫流する際にピストンシールと接触することはなく、該シールを迂回して流れるようにするのが有利である。
【0030】
この場合
、オーバーフロー流路はそれぞれ端部側が、シリンダ壁に設けられた開口、好ましくは孔を経てシリンダ室と液体流通接続されている。この場合、特に構造的に単純な構成は、ピストンのスライド変位方向に互いに離間した2個の孔がシリンダ壁に設けられ、これらの孔が
、シリンダ壁内部で、バイパス路を形成するために互いに液体流通接続されていることによって達成される。
【0031】
上述したように、本発明による昇降装置において、終端位置へのスライド変位は大幅な利点をもたらす。好ましくは、昇降装置の上昇・下降は制御装置によって制御され、該制御装置は好ましくは、所定の時間範囲でおよび/または所定の外部温度差の超過または外部圧力変動あるいはその両方に応じ終端位置が到達されなかった限りで、プリセット可能な一定の時間間隔で、または、外部温度センサまたは圧力センサあるいはその両方の測定値に応じ、ユーザに対して終端位置へのスライド変位が勧告されるように形成されている。これにより、昇降装置の調整不良を結果し得る一定の時間の経過後に、または外部条件たとえば調整不良を結果し得る周囲温度や周囲圧力の変化に基づき、表示装置によってユーザに対して終端位置へのスライド変位が報知される。これにより、自動レベリングが行われるようにすることが可能となる。
【0032】
本発明による昇降装置は、特に、自動車の修理時および/または保守時の使用に適している。同じく、本発明による昇降装置は、有利には、駐車システム、特に、自動車が積み重ねて収納される二重または多重駐車システムに使用することも可能である。